英雄神話 空の記録FC   作:ゲーマーN

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第8幕 翡翠の塔

 ――翡翠の塔*1

 

 翡翠の塔は、マルガ山道の途中を西に折れた先に位置する古代文明の遺跡だ。その名の通り、翡翠の如く美しく輝く高い塔で、リベール王国の古の時代に建造されたと伝えられている。

 周囲の豊かな植生とは対照的に、塔の中には魔獣が巣食っており、その危険性から多くの人々にとっては立ち入るべきではない場所とされている。

 

「翡翠の塔まで来たけど……あの子たち、もう中に入っちゃったのかな?」

 

「その可能性が高そうだね」

 

 ここに辿り着くまで、エステルたちは魔獣と遭遇しては退けながら進んでいたのだが、ルックとパットの姿を見つけることはできなかった。オーバルタブレットで位置情報を確認してみると、やはり2人は塔の内部にいるみたいだ。

 開いた扉からはくぐもった獣の鳴き声が微かに聞こえる。ハルは自らの武器である導力短機関銃(オーバルサブマシンガン)を抜くと、弟妹2人に告げる。

 

「中に入ろう。……急ぐ必要がありそうだからね」

 

「うん、そうね!」

 

 3人は互いに頷き合い、入口の扉を潜り抜けて、翡翠の塔へと足を踏み入れた。

 

「吹き抜けになってたんだ……!」

 

 塔の内部には、扇を広げたような半円状の床が広がっていた。扇状の床には壁も天井もなく、足元から十数歩先で足場が途絶えており、奈落の底へと続く穴が開いている。床を奥の方まで歩き見上げれば、高みまで遮るものは何もなかった。

 正面には短い橋があり、吹き抜けの中央に位置する一回り細い塔へと繋がっている。各階層の四隅にある扇状の踊り場と中央の塔が、短い橋で連結されているという構造だった。

 

「なんでこんな造りになってるんだろ……」

 

「それも含めて謎だね」

 

 まるで巨大な井戸のようにも思える不思議な塔だった。壁も床も翠色の石で造られており、壁沿いに設置された導力灯の光を受けて、ぼんやりと輝いている。翡翠の塔という名前は、この様相から来ているのだろう。

 エステルは持ち前の好奇心を刺激されるような感覚を覚えたが、今はそんなことを考えている場合ではない。

 

「2人はどこに――」

 

「く、暗いよ~っ……怖いよ~っ……」

 

「「「!」」」

 

「そんなに怖がるなよ~! まだ最初の階じゃないか……」

 

 その時、エステルたちが入ってきた入口とは反対側にある踊り場の方から、2つの声が聞こえてきた。この声は間違いない。ルックとパットだ。どうやら、2人はまだ魔獣に襲われたりはしていないらしい。良かった……とひとまず胸を撫で下ろす。

 

「すぅぅ~~っ……」

 

「エステル?」

 

「ルック! パット! 聞こえるなら返事しなさーい!!」

 

 エステルは胸いっぱいに息を吸い込み、階層全体に響き渡るように声を張り上げた。突然のことに驚いたヨシュアは目を丸くしたが、選択肢としては悪くない。声によって、救助対象に自分たちの存在と居場所を知らせることができるからだ。

 しばらく耳を澄ませてみるが……うんともすんとも返事はない。確かにルックとパットのものと思しき声は聞こえてきたし、何よりもこの塔にいるのは間違いないはずなのだが……。

 

「あ、あんにゃろども~! あたしを無視するつもり!?」

 

「いや、ひょっとしたら……声も遠かったし、2階に上がったのかもしれない」

 

「とにかく奥に進んでみよう。早く、あの2人を捕まえないとね」

 

 3人は足元から伸びる短い橋を渡る。そこここにわだかまる闇のどこに魔獣が潜んでいるかもわからない。中央部の細い塔を抜けて、反対側の踊り場へ警戒しながら進んでいく。

 相当に古いものなのだろう。壁の所々が剥がれ落ち、床石も幾つかが剥がれている。壁から生えるようにして付けられた導力灯も、点いていないものが多く、暗闇を照らすには心許ない。よくもまあ、ルックたちはこんなところに入ろうだなんて考えたものである。

 

「……階段だ。ここから2階へ上がったみたいだね」

 

 床に溜まったホコリには、まだ新しい小さな足跡がぽつぽつと見て取れる。ルックとパットがこの階段を昇ったのは確かだろう。3人が上へと昇る階段に足をかけた、まさにその時だった。*2

 

「うわわわわわっ!?」

 

「た、助けてぇぇっっ!」

 

 上の階から、ルックとパットの悲鳴が聞こえてきた。

 

「エステル! ヨシュア!」

 

「ええ!」

 

「了解!」

 

 この階段の先だ! 3人は顔を見合わせると、階段をひとつ飛ばしで駆け上がる。上階に辿り着いたところで、中央の塔に子供の背中が2つ見えた。恐怖に駆られた表情で断崖絶壁に追い詰められたルックとパットの姿だった。

 翼を有する猫型の魔獣――《飛び猫》に取り囲まれている。その数、五。目の前の弱く小さい命を奪おうと、今にも襲いかかろうとしていた。

 

「あ、あっち行けよ、おまえら~!!」

 

「うわわあああん。来ないでよ、バカぁあああっ!」

 

「――神秘再現。コード名『ワインレッド・アドマイアー』」

 

 導力狙撃銃。古風なデザインのスナイパーライフルに自らの銃を変化させたハルは、魔獣の1体に照準を合わせると引き金を引いた。銃口から放たれた弾丸が、吸い込まれるように魔獣の頭部を撃ち抜く。

 突然の攻撃に驚いた飛び猫たちは慌てて臨戦態勢に入る。しかし、それより先に駆け出したエステルとヨシュアの2人が、残る飛び猫のうち2体を打ち倒した。

 

「うりゃあああっ!!」

 

「はぁっ!」

 

「エステルねーちゃん!?」

 

「ヨシュア兄ちゃんだぁ!」

 

 ルックとパットを背に庇う形で、エステルとヨシュアは飛び猫たちと対峙した。2人も戦闘訓練は積んでいるので、そこらの魔獣に負けるとは思っていない。ルックとパットを守りながら戦うくらいは十分に可能だろう。

 問題は、この塔に他にも魔獣が潜んでいるかもしれないことだった。ハルは油断せずに周囲の気配を探ったが、今のところ新たな気配は感じられない。

 

「あんたたち! 危ないから下がってなさい!」

 

「すぐに片付けるからね!」

 

 エステルとヨシュアの言葉に、ルックたちは慌てて首を縦に振る。2人がかりならば飛び猫の2体程度は問題ないと判断したハルは、不意打ちを防ぐために周囲を警戒しつつ、エステルたちの戦闘を見守ることにした。

 

 ◇ ◇ ◇*3

 

「よっしゃ、片付いたわね」

 

「うん、みんな無事で良かった。それに、突入のタイミングもなかなか良かったと思うよ」

 

「えへへ、そっかな?」

 

 遊撃士としては新米の部類に入る2人だが、その実力は確かなもので、子供2人を後ろに守りながら飛び猫たちを1分もかけずに片付けてしまった。エステルとヨシュアの呼吸はまったく乱れていない。十分な余力を残しているようだ。一方で、ルックとパットの方はというと……

 

「お、終わったの……?」

 

「すっげえええっ! エステル、けっこう強いんだなぁ! オンナのくせにやるじゃんか!」

 

 腰が抜けたようにへたり込むパットに対して、魔獣をあっという間に片付けてしまったエルテルとヨシュアに、ルックは興奮を抑えきれない様子だ。目をキラキラと輝かせて、尊敬の眼差しで2人を見つめている。くるりと振り返り、エステルはルックを捕まえる。

 

「このおバカ!」

 

 ゴツン! いい音が鳴った。エステルがルックの頭に拳骨を落としたのだ。

 

「いってぇ、何すんだよー!」

 

「まったく、あんたはもう! 乗り気じゃないパットまでこんなところに連れてきたりして……」

 

 危ないことをしたルックを叱りつけるエステル。両の拳でルックの頭を挟み込み、そのままゲンコツをグリグリと押し付ける。頭の両側を圧迫される痛みに、たまらずルックは逃げ出そうとするものの、エステルにがっしりと抱き留められて動けない。

 

「反・省・し・な・さ・い!」

 

「いたた、やめろってば! 暴力オンナ! 馬鹿エステル!」

 

「おまけに命の恩人に対してその口の利きよう……きついオシオキが必要みたいね~」

 

 今度は、腕の中に抱え込み、ギリギリと締め上げる。万力のような力で締め付けてくるエステルの腕から逃れようと、ルックは懸命にもがくが……やはりビクともしない。

 

「いたたたたたたっ! エステルねーちゃん! 許して、ボクが悪かったです!」

 

「あ、あの……お姉ちゃん。そのくらいで許してあげてよ」

 

「いーのよ、この悪ガキにはこれくらいした方が身のためなんだから!」

 

 見かねたパットが助け舟を出すも、まったく取り合わず、容赦なくルックを締め上げ続ける。もちろん、手加減はしている。本気でやれば本当に泣いてしまう。ヨシュアも助け舟を出そうとしないところを見ると、ある程度はお灸を据えておくべきだと考えているのだろう。

 ……と、その時だった。耐え難い痛みに襲われるルックに、救いの手が差し伸べられたのは。

 

「――はい、そこまで」

 

 ハルだった。顔に苦笑いを浮かべながら、エステルたちのもとへ歩み寄ってくる。

 

「ここは危険地帯だよ? お説教は後回しにして、まずは街に連れ戻らないとね」

 

「むぅ……。仕方ないわね」

 

 渋々といった表情でエステルはルックを解放する。まだ痛みが残っているのだろう。ルックは側頭部を押さえながら、恨めしそうな目でエステルを睨みつけている。

 やれやれと肩をすくめるハルだが……すぐにその表情が険しいものになる。姉の表情の変化で異変を敏感に察したヨシュアも、それに続いた。最後にエステルが2人の視線の先を振り返って……ハッと息を呑む。*4

 

「まだ、こんなにたくさん……!?」

 

 いつの間にか、先ほど掃討したはずの魔獣たちが再び出現していた。しかも今度は飛び猫だけではない。真っ白い貝殻を幾つも合わせたような珊瑚の魔獣――《コーラルシェル》が群れを成して迫ってくる。

 おそらく、先ほどの戦闘音を聞きつけてやってきたのだろう。またもルックとパットを庇いながらの戦いになるので、少々厄介ではあるが、3人の表情に焦りの色はない。

 

「今度は私も一緒に戦うからね。エステル、ヨシュア。前衛の方はお願いしてもいいかな?」

 

「モチのロンよ!」

 

「了解!」

 

「ルックとパットは後ろにいてね。2人のことは私たちが守るから」

 

「わ、わかったよ。ハルねーちゃん」

 

「う、うん……」

 

 3人は各々の得物を構えて、魔獣たちの前に立ちはだかる。

 

「それじゃ、行こうか!」

 

 ブライト姉弟は、襲い来る魔獣たちに向かって、果敢に突撃していく。

 これが、エステルとヨシュアが準遊撃士になってから初めて解決した事件となった。

*1
【推奨BGM:四輪の塔】英雄伝説 空の軌跡FCより

*2
【推奨BGM:Alert】ブルーアーカイブより

*3
【推奨BGM:Romantic Smile】ブルーアーカイブより

*4
【推奨BGM:Colorful Mess】ブルーアーカイブより




TIPS:
ワインレッド・アドマイアー。
『ブルーアーカイブ』の登場人物の1人『陸八魔アル』の固有武器であるスナイパーライフル。
持っているだけでハードボイルド度合いがアップする……らしい。
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