2話を投稿するか、ツカサの過去を投稿するか迷いましたが、今回は万理ツカサの過去編、みんな大好き委員長との出会い、そして今後も出る予定のオリキャラとの出会いを描けたら良いなと思ってます!
酷く友好的な商談(1)
私がツカサと知り合ったのは、入学して半年くらい経った頃。
ヘルメット団のはぐれ者達が彼女を拉致したと通報があって、私が対応する事になった。
当時の委員長は慌てていた。
VIPが拉致された。
万が一、ケガなどしていたらまずい。
そんな事を言われたかしら。
だから、どうやって解放させようか悩んでいたから本人が傷一つなく満足そうに出てきた時は流石に驚いたわ。
どうやってって聞くとツカサはこう言った。
「考えを改めさせた」
って。
万理ツカサとの出会い-空崎ヒナの場合
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(私を誘拐したのだから計画的犯行かと思ったが……まさか行き当たりばったりで、私じゃなくても拉致する予定だったとは……)
ツカサは酷く落胆した様な表情で誘拐犯-とりわけそのリーダーらしき少女-を見つめていた。
(よりにもよってこの私を誘拐し名前を調べもせず、『哀れなゲヘナ生』として身代金を要求したがその額なんと10万円。私が誰だか知らないのだろうが……なんとも……)
ツカサにとって不快なの誘拐された事では無い。
時間を無駄にさせられている事と己の値段が10万円である事だ。
もし数億円要求していたら彼女は満足しむしろ褒めていただろう。
だが、彼女から見れば財布に入っている額を要求されているのはあまりにも屈辱的だ。
する事もなく、時間を浪費する事を毛嫌いするツカサは暇つぶしにと彼女達の服を見た。
皺と汚れが目立つ、更には誘拐された際に少し鼻につく臭いだった事を思い出した。
(貧困層が今日を生き抜く為の金を稼ぐ為……だろうな)
多くのゲヘナ生は万理ツカサは金持ち層の人間だと思っている。
それは彼女が身に着ける物を見れば一目瞭然だ。
実際に、彼女は金に困っておらず貧困に起因する苦しみとは無縁の生活を送っている。
だが、ツカサは誰よりも貧困層の……弱者の惨めさを理解している。
誰も救ってはくれない。
貧困から抜け出そうと足掻けば足掻くほど、より貧しくなる『貧困のスパイラル』によって沈んでいくのだ。
そしていつしか他人を妬み、憎悪する。
それが人だけに留まらず拡散し世界そのものを憎むだろう。
あの金持ちと自分の違いは何なのか。
命とは同じ価値では無いのか。
と。
だからこそ、ツカサはこの哀れな『食い物された存在』達が嫌いだ。
不平不満を言うだけで大した行動もせず、端金に目が眩み、愚かにも舗装されていない道を自ら舗装しながら深みへと突き進んでいく。
そして同じ事ばかりを繰り返して最期には皆同じ言葉を吐く。
『私の人生って何だったんだろう』
と。
馬鹿馬鹿しい。
そして実に腹立たしい。
目の前で繰り広げられる
「今晩はご馳走だ」
「やっと服を洗える」
「風呂にも入れそうだ」
「温かいベットでねれるかも」
などと言う無価値な会話は耳障りにも程がある。
だから、お前たちは『負け犬』なのだと。
苛立ちに我慢が出来なくなったツカサは彼女の最大の武器を使う事にした。
「お前、そうお前だ。ヘルメットを被っていない赤毛のお前」
4人の中で唯一ヘルメットを被っていない少女は突然口を開いた人質に驚きながらも返事をした。
「なんだよ」
「名前は?」
「……大地ルカ。それがお前に何の関係があんだよ」
赤毛の少女ールカは人質の割にはとても偉そうなツカサにイラつきながらも名前を名乗った。
「大地ルカ……確かお前は1年生だな。停学処分になったクラスメイトと同じ名前だな」
「1年だったらなんだってんだ」
「同期の桜が半年でこのざまとは……実に嘆かわしい」
大きなため息をつきながら、見下した態度をとるこの人質にルカは当然の怒りを覚えた。
「……何がわかんだよ……」
「聞こえんな」
「お前みたいな金持ち野郎に何が分かるんだって言ってんだ!」
「負け犬の気持ちなどわかるものか」
怒りの叫びをピシャりと叩き落す冷酷な発言。
例えそれがどんな場面であろうとも、誰であれ我慢の限界を超える行為ではあるだろう。
「……自分の立場ってもんがわかってねぇみたいだな」
銃口を向ける彼女の目はツカサには正しく負け犬の目だった。
「立場をわかっていないのはお前だ」
「アタシは自分の立場くらいわかってる!」
「わかった上でその様なのか。なら、真に己の立場を理解していない証拠だ」
ツカサはルカの銃に視線を移し続ける。
「その銃で誰かを撃って端金を集める生活を何回繰り返した? それでお前達の人生は何か改善したのか? 温かいベットや食事には常にありつけたか? 金には困らなくなったか? 学校に戻ることはできたのか?」
ツカサの『正論』は鋭く研ぎ澄まされたナイフかの様に的確にルカ達の心を切り刻んでいく。
『正論とはどんな刃物よりも確実に相手の心に届く』
ルカにはその『暴言』を黙らせる事が出来た。
引き金を引いて頭に撃ち込めばこの無礼極まりない女に痛い目を味合わせる事が簡単に出来るはずだったのだ。
しかし、目の前の濁った紫色の目をした女には、『得体の知れないナニか』があった。
もしここで彼女を撃ったなら、おそらく彼女は笑って言うのだろう。
『これで、また負け犬だな』
と。
「……続けろよ。全部聞いてから、その顔が見れなくなるまで撃ってやる」
だからこそ、先を促す。
この女なら『負け犬を辞める選択肢』って奴を与えてくれるのかも知れないと。
僅かな希望に縋った彼女を
「お前の態度が気に食わんからやめだ」
と、ツカサは拒絶した。
「……は?? 何でだよ、撃たれたくないだろ!? 普通、言うだろ!」
「私に期待したんだろう? そこまで言うなら負け犬にならないナニかがあるかも知れないと。ならお前は乞う側で、私は与える側。これだけは無償で教えてやろう。『タダで手に入るものなどない』、誠意を見せてもらおうか?」
「お前なんでほんとそんな偉そうなんだよ……」
「それでどうする。誠意を見せるか、それとも負け犬のままか」
(何でこんな頭のおかしい奴を誘拐したんだ)
ルカは後悔していた。
命や怪我したくないからと必死に弁明や許しを乞う奴は見てきた。
けど、こいつは煽ってきて我慢して聞いてやろうとしたらお前らの態度は何だと怒る。
(もしかして、大物だったのか? それにしては簡単に捕まえる事が出来たけど……)
「はぁ……何したらいいんだ?」
「まず、私の拘束を解く事だ」
「ちょっと待ってな」
いつの間にか腹を立てつつもこの女のペースだった。
(無礼な態度も貫けば大物感を出すって事か?)
そう思いながら残りの3人を集め相談を開始する。
「で、どうする?」
「開放して暴れたら、どうしましょう……」
「そん時は撃っちまうさ」
「……団長が決めてるなら、従うけどさぁ」
「右に同じく」
「よし。んじゃ、話て来るわ。詐欺師っぽい奴と」
(藁にも縋るってか? あーあ、いっつもアタシらは甘いんだ)
ルカ達の集まりは詰めが甘いというよりは誰が見ても泥船としか言わない船で結構な距離を航海する力技をつづける事で今日まで生き延びてきた。
よく言えばアドリブ力と言った所だろうか。
アドリブで解決するというのは良い点もある。
応用力があると拡大解釈してもいい。
だが、もし己の理解の範疇を超える相手の場合は?
答えは不可能だ。
不本意だが、相手の土俵に上がってみるしかない。
だからこそルカは解き放った。
万理ツカサを。
キヴォトス最大の『時間泥棒』を。
「ほら、これで動けるだろ」
拘束を解かれたツカサはゆっくりと立ち上がり、服の誇りや汚れを払いつつごねた。
「……これはシミか? 最悪だ…このスーツはもう着れない。なんともまぁ、短い一生だった」
「おい。誠意って奴を示したんだから教えろよ」
「よかろう。その前に、私のカバンをとれ」
「なんで?」
「メモを取るためだ。頭で覚えてもいいが、無価値だった時忘れるのがしんどいだろう? 紙なら捨てるだけで済む」
(いちいち癪に障るなこいつ……)
そうは言っても、ここは大人しく言うことを聞くべきだった。
メモを取るということは本当にナニかをしてくれるかもしれない。
乱暴に彼女のカバンを取るとまた小言が飛んできた。
「丁寧に扱え。そのカバンはお前の今にも壊れそうな銃より高い」
「はいはい。これでいいか? 全くお前なんなんだよ」
カバンを開き中から、皮の手帳と高そうなペンを取り出した彼女は優雅に椅子に座り直しそして口を開いた。
「で、何を聞きたいんだ?」
「……さっきの続き」
「聞いてどうする。まだ罵倒され足りないか? もっと他に聞きたいことがあるんだろう? それを言うんだ。あー、楽して金を稼ぐ方法などと抜かしたらこのペンでお前を刺してやるからな」
自分の口から言わせたいのだ。
「負け犬」と。
立場を理解しろと。
もうどうにでもなれとそう思いながらルカは続ける。
「……負け犬から抜け出す方法を教えてくれ」
「言えたな。では、ルカ。お前は何故、この不良集団を率いているんだ?」
「元々スリルのある事が好きで、喧嘩もそうだった。んで、こいつらが別の不良に虐められてるところに出くわして暴れて以来アタシが面倒を見てる」
「スリルが好き……喧嘩も多少の心得あり。どれだけ強い?」
「今だ負けなしだ!」
「負けた事はない……と。ではなぜ、停学処分に?」
「アタシは売られた喧嘩だけを買ってたんだ。けど、暴れると派手だからいつもアタシが悪いみたいになって止められた。それ以降はあんまり手段を選んでねえ」
「本人なりの美学有りか。よしもういい」
「んで、何がわかんだよこれで」
「まず、お前は小規模な集団を率いる事ができるという事。更に面倒見がいいので、今日までみっともないながらも生き抜いた。計画性が皆無かと思ったが、それは手荒い事をする時で誰かの面倒を見るときは計画性は多少なりともある」
「それで?」
「喧嘩もそれなりに強い、ゲヘナ上位とはいかなくてもな」
「だから、どうやって負け犬を抜け出せるんだよ」
「黙って聞け。だが、最大の評価点は沸点が低いように見えて冷静に物事を見れるという事だ」
「なんでそう思ったんだ?」
「私にさんざん馬鹿にされて、頭にきて銃を向けた。あの状況なら撃っても罪悪感などはない、つまり引き金は軽い。だがお前は撃たなかった。私は何かを知っているのかもと考える事ができて、なおかつ話を聞いてみるという決断ができた。これはとても素晴らしい才能だぞ?」
「そう……なのか?」
「だからこそルカ。好き勝手にグレるのも良いが、それでは時間と才能を無駄にするだけだぞ」
正直な所、ルカにはわからなかった。
あれほど罵倒したかと思えば突然褒め始める。
しかも、この言い方では才能があると言っているようなものだ。
煽てているのかと当初は思ったが、どうも本心らしい。
目の前の女は満足そうな顔をしている。
そして、次にその顔を真剣な顔に変えてルカの待ち望んでいた言葉を発した。
「負け犬から抜け出したいか?」
開始時点では3年生のツカサが1年生の時に経験した過去の小話。
1年生の時点で既に『万理ツカサ』は完成されていたのかもしれません。
彼女の価値観が少しでも分かればいいなと思います。
長くなったので2話に分けますね。