透き通った青春に背を向けた灰色   作:らんだ

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分割した分です。

何も暴力だけが力ではない。
万理ツカサにとっての力とは何か。




酷く友好的な商談(2)

「負け犬から抜け出したいか?」

 

もしこの世に悪魔が存在するならば、今目の前にいる女の事だろう。

ルカが望んで止まない言葉をじっくりと焦らした後に出したのだから。

 

もし対価を要求されたら?

罠だったら?

 

そんな事を考える暇はルカにはなかった。

 

「ああ」

 

「お前の才能を私が買う…つまり、私の下で働け」

 

「…あんたの下で働く?」

 

「そうだ。私はある町工場を救った。そこを私の会社として名乗りを上げるつもりだが、ゲヘナの治安の悪さは懸念点だ。そこでお前を警備主任として雇う。もちろん、お仲間3人もまとめて衣食住を保証し、報酬もやろう。学園に掛け合って停学処分を取り消すように働きかけてもみよう。」

 

「町工場を救った?あんたの名前なんだっけ」

 

「漸く聞いたな。私は、万理。万理ツカサ。お前と同じゲヘナ学園1年生」

 

後ろでメンバーの一人が

「万理ツカサ!?時の人じゃん!!」

と声を上げる。

 

(あれ、もしかしてかなりやべーのを誘拐したのか?え、マジか…)

 

やってしまった…と狼狽えるルカを見て、とても満足そうに笑いながらツカサは手を差し伸べた。

 

「では、1分やろう。選べ。巨額の報酬が約束された一生か、後悔だけの負け犬の一生か」

 

混乱する頭でもルカが最初に考えたのはこんな自分でも慕ってくれるメンバー3人だ。

彼女達も学園に戻れるだけじゃない、衣食住も、給料もくれるという。

これ以上、悩む事もないのかもしれない。

しかし万理ツカサの提案に乗れば負け犬から抜け出せるかの確証はない。

それに彼女は何かを取り返しのつかない事態を招きそうな危うさを感じる。

 

悩むルカに追い打ちがかかる。

 

「20秒経過。信用ならんとしても目の前のチャンスを掴む事すらしないものが、スリルが好きとは笑わせるな」

 

(言ってくれるじゃねぇか)

 

ルカはツカサの手を握った。

しっかりと、もう二度と負け犬にならないように。

藁にも縋る気持ちで。

 

例え悪魔と契約する事になったとしても、

自分を慕ってくれた子達が自分と一緒に落ち続ける生活などやはり嫌だ。

 

「あんたに賭ける。アタシを慕ってくれた子達ともども頼む」

 

「最高のスリルと報酬の提供を約束しよう」

 

そういうとツカサは財布を取り出し、いくつかのカードをカバンに戻した後でルカに渡した。

 

「これは?」

 

「ちょうど10万、私の身代金分だ。財布ごとくれてやるから好きに使え」

 

「…やっぱあんた頭のネジ何本か抜けてるぜ…」

 

もう要件は済んだとばかりに荷物を持って出ていこうしたツカサは、

何かを思い出したかのように振り返り

 

「これでお前は私の物だ。明日、きちんと学園に来るように。もちろん身なりを整えてな」

 

と、だけ言った。

 

 

ーーーーー

 

満足げに外に出たツカサを待っていたのは風紀委員会の腕章を付けた小さな少女だった。

その身長に見合わない大きめのヘイローと翼、背負っている機関銃…

 

噂に聞く風紀委員会のニューホープ、空崎ヒナだ。

 

同じクラスだが、互いに関わり合う事が少なかった。

こればかりはツカサの盲点でもあった。

それも一人で来ているではないか。

 

「あなたは…人質の万理ツカサ?」

 

「人質()()()人だ」

 

「どうやってケガもなく無事に解放されたの?」

 

「考えを改めさせた」

 

「誘拐したグループ、『スリルヘルメット団』はそんな優しい組織じゃないって聞くけど」

 

組織名は聞いたツカサは頭を抱えた。

今世紀最大の…いや、トップクラスにセンスがない名前だ。

新しい人材に企画名を任せるのはやめておこうと。

 

「センスの欠片もない名前だなそれは…だが、誰しも後悔は抱えて生きている。私はそこを突いただけ」

 

「後悔?」

 

「どうして自分の人生は…っていうアレだ。まぁ、まだない人も必ずいつかそう思う」

 

「……なんにせよ、無事でよかった」

 

そういいながら建物の中に入ろうとするヒナをツカサは慌てて静止した。

 

「どうか、彼女たちの事は見逃してくれないか?」

 

「どうして?」

 

「後悔しているし、私は無事だ。それに彼女たちは今後、うちの会社で雇って更生させる予定なんだ」

 

「……あなたが立て直した町工場で?」

 

「ああ」

 

「でも、彼女たちは規則に違反した」

 

「捕まえて酷く扱っても更生はしない。これまでの人生との違いを認識させてこそ、正しい道を歩めると私は思う」

 

「見逃してまた繰り返したら?」

 

「その時は、この万理ツカサが責任を取る」

 

ヒナは理解できないという風な顔をしてまじまじとツカサを見つめた。

自分を誘拐した人を口で説得し雇いましたなどと誰も信じないだろう。

弱みでも握られたのかとも考えたがそれにしてはずいぶん楽しそうな顔をして出てきていた。

 

「はぁ…なら、問題を起こしたらあなたを捕まえる」

 

「恩に着る」

 

そう言いながらツカサは懐から名刺を取り出しヒナに手渡した。

 

「これは?」

 

「私の個人用の携帯のアドレスだ。君には一つ貸しを作ったから、その分は必ず清算する」

 

(万理ツカサのアドレス……確か、学校では返信が遅めって言われてたけど分けてたのね)

 

「どんな内容でも?」

 

「今の私の力で出来る事なら」

 

「じゃあ、今度連絡する」

 

そういうとヒナは帰っていった。

その背を見ながらツカサは考えていた。

 

(空崎ヒナ……必ず大成する人材だな。私とした事が、もう少し同学年に気を配るべきだったな…)

 

この時の二人は予想していなかった。

互いに下の名前で呼び合う関係になる事も、もう一人の友人(羽沼マコト)が率いることになる万魔殿からの嫌がらせを減らすためにツカサが手を貸すことになる事も、まして彼女にピアノの才能がある事など…




人材コレクターへの第一歩。

少しづつツカサの自身の過去も描けてたらいいな。


本編でもマコトとヒナの間で仲介をさせられる事になります。
ヒナとアコの負担が減ればいいね…

次回は本編に戻って進めていきますよ!

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