透き通った青春に背を向けた灰色   作:らんだ

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長いような短いような。




プロローグ
帝国は一日にしてならず


“世界は数字によって支配されている”

 

当たり前の摂理だが、それを認識している者は少ない。

認識したとしても、何かをするわけでもなく、ただそれを認識するのみ。

 

それは何故か。

人は集団になればとかく頭を使わない生き物。

故に疑問を持とうが、集団に飲まれ、気にしなくなる。

 

そんな者たちがキヴォトスに君臨し続けた所で、良い物が無駄になるだけだ。

 

金の卵を産むダチョウを飼い殺しにしているだけに過ぎない。

 

だからこそ、ダチョウ(キヴォトス)はその価値を理解している者が手にするべきなのだ。

 

私の様な……な。

 

────

 

科学者の父と医学者の母の間に生まれた少女には、両親の持つ才能はありませんでした。

 

それでも両親は彼女を大切に育てました。

 

両親の様な『博愛』の精神を守ってくれる様にと願って。

 

『困っている人が居たら手を差し伸べてあげて』

 

その精神は美徳ですが、一家は貧しい暮らしでした。

 

だから少女は両親の精神に憤りを持っていました。

 

そんな彼女の見る夢は常に『大金持ちになる』夢でした。

 

────

 

『連邦捜査局 シャーレの先生に迫る!』

 

『連邦捜査局 シャーレ発足!』

 

似たような見出しの記事ばかりが今、キヴォトスを駆け巡っている。

 

そんな記事が彼女の机の上に整然と置かれている。

一応は目を通した彼女―万理ツカサにとっても他人事ではない。

 

他の生徒の様に期待や諦め等ではない。

 

(金にはなりそうだが……よりにもよって大人が組織のトップとは……)

 

と、彼女は考えていた。

 

今でこそ様々な異名を持つ彼女だが、ゲヘナの入学試験に現れた当時は無名だった。

試験こそ5本の指に入っていたが同期達と比べて『ゲヘナ的』ではなかった。

むしろミレニアムの方が似合いそうな雰囲気を持っていた。

故に、面接時には当初落とされる予定だったのだ。

 

だが、面接に現れた彼女は他の受験生たちのような制服姿ではなく、上等なスーツを着てまるで己の庭かの様にその敷居を跨いだ。

そして面接で『何を』話したのかは不明だが、面接官全員が

 

「ゲヘナの将来を担う素晴らしい人材」

 

と褒めたたえたのだった。

 

そんな将来を切望された彼女が入学し、最も重視したのは

 

『人との関わり』

 

であった。

 

多くの予想と勧誘に反してどの部活にも加入しなかった彼女だが、交流の幅は広くどの部活にも顔が効き困った時や頼みごとをしたいときは万理ツカサを通せば解決してくれると呼ばれるほどになった。

 

そんな彼女をいつしか人は『交渉人』と敬意をこめて呼んだ。

 

だが、彼女に驚かされたのはそのあと。

 

『倒産寸前の会社をゲヘナの1年生が救う!?』

 

というニュースがキヴォトスを駆け巡った時だ。

 

入学以前に倒産寸前の小さな製薬工場の経営権を買い取っていた彼女が、その工場を立て直し黒字化を達成したというのだ。

 

自らの私財を投げうってでも小さな会社を救った彼女を人は『救世主』と持て囃した。

その過程で成功したら彼女を追い出そうとしていた経営陣達がクビにされていた事実などどうでもいいように。

 

この工場こそ後に「万理製薬」に名を改め、キヴォトス製薬業界トップに君臨する事になる会社だったのだ。

その後も彼女は多くに『投資』しその大半が実を結び、瞬く間に「万理製薬」はゲヘナ全域へと──建設事業からホテル経営、病院も手がけながら──勢力を延ばした。

 

「まぐれだ」

「いつか失敗する」

 

と言われ続けて数年が経ったが未だ負け知らず。

なぜそのような事が可能だったのか。

 

それは万理ツカサが『時間泥棒』だからだ。

 

彼女には、同期にいるような桁外れな戦闘能力があるわけでも、未来予知能力があるわけでも、まして言葉に特別な力が宿っているわけでもない。

 

しかし、ほかの誰よりも明確に『金儲けのアイデア』だけは優れていた。

 

だからこそ彼女は己にない才能の持ち主の未来を『買った』。

優れたアイデアを持とうと金がなければ、それを認める相手がいなければ無意味。

彼女はそういった在野の面々を幅広く『買い』そしてその才能を使って数年で会社を大きくしたのだ。

 

その傍らで、慈善事業にも従事した。

工場や倉庫がゲヘナ的な攻撃を受けては損失が増えるばかり。

ならばと、彼女は『万魔殿』と『風紀委員会』に寄付を行い自らの会社を優先的に守らせるようにした。

更に『不良集団』にも働きかけ、彼女らの働き口を斡旋したり、無料で薬品を送ったりもした。

 

その結果、今や彼女はゲヘナで最も『面倒』な組織3つを自在に動かせるのだ。

ゲヘナで新たな事業を展開したい場合は『万魔殿』の議長と交渉すればいい。

万理製薬の邪魔をする企業がいるならば『風紀委員会』に働きかけて取り締まる。

そして、愚かにも『万理ツカサ』に刃向かうならば『不良集団』を嗾けて叩き潰す。

 

他校へ事業を進出させる場合も同じだ。

金になるならば、トリニティ、ミレニアム……どこでもいい。

特にトリニティの様に権力が集中していない相手などはむしろ都合がいい。

一つの足掛かりに『寄付』し、文句をつけられたらその他にも『寄付』する。

 

会社が無理なら、自らを売る。

その結果どうだ。

 

ゲヘナでは『製薬会社の社長』

トリニティでは『慈善活動家』

ミレニアムでは『投資家』

 

と呼ばれそれぞれで『利益』を上げた。

 

だが、そのどれも彼女の野望を満たすものではない。

金持ちになる事でも、大物実業家になる事でも、まして愚かな慈善活動家になる事でもない。

 

キヴォトスを支配する……いや、正確にはキヴォトスの『経済』を支配する。

そうすれば皆が『万理ツカサ(唯一の遺産)』の名前にひれ伏すのだから。

 

そのための第一段階と第二段階はすでに成功を収め、第三段階──皇帝(カイザーコーポレーション)を引きずり落とし彼女が()()として君臨する──も順調に進みつつある。

 

だからこそ、ポッとどこからか湧いて出た大人風情が邪魔をするなど認められるはずがない。

 

傍に置く炭酸水を飲み切り、面倒くさそうに受話器を上げた。

 

「万理ツカサだ。七神リン代行とお話したいのだが?」

 

問題には先手を打つのみだ。

 

────

 

これは野心を持つ少女の物語。

透き通った空の下で、濁った心を持つ彼女はどのような結末を迎えるのでしょうか。




いかかでしたか?
ツカサの過去も明かしていきつつ…



次回から少しづつ本筋に関わっていきます。
これがなかなか難しい。

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