いや、絶対本編した方が良かったなと反省しております。
過去編はストーリーの要所要所で小出しする感じにしていく予定です。
さ、では再び本編時空のツカサの一歩をお楽しみください。
少女にとって両親は『凄い人』でした。
頭が良くて、更に優しい人。
父親の作る発明品は彼女に未来への希望を。
母親が見せる医者としての姿は彼女に人を救う意味を。
それぞれ与えてくれました。
だからこそ、少女は許せなかったのかも知れません。
貧しいままの現状を。
────
「それで万理製薬の社長がどういったご用件でしょう」
会談が始まって3分ほどの沈黙を破ったのは七神リン会長代行であった。
それも少しイライラしている雰囲気を漂わせながら。
当然と言えば当然である。
要件があるから会談を設けてほしいと言ったのは相手側なのに席につくなり一言も発さずただじっとリンの方を見ているだけ。
その目はまるで獲物を品定めしている獅子の様な…
(万理ツカサ…連邦生徒会にも多額の寄付をしている事前活動家にして、ゲヘナ有数の企業の社長……無碍にするわけにもいきませんが…)
「会長は席に着くなり話を始める方だった。その点、代行は沈黙の重要性をご存じの様で」
「正直に言うと困惑してましたよ、話をしたいと仰ったのはあなたでしょう。なのに来るなり黙ったままでは…」
「新たなビジネスパートナーとして、相応しいかどうか。それは何よりも重要な事だ、他の何よりもな」
今キヴォトスを騒がせている問題の大半にまるで興味がないかの様に振舞うツカサにリンは少し眉を顰めた。
だがそれは予想通りの反応だったらしい。
「会長なき今、その地位を引き継ぎ私や業務提携をしている会社の良きビジネスパートナーになれるかという問題は大きな問題だろう? それこそ、キヴォトスの明日に関わる話でもある」
「で、具体的にどのような要望ですか?」
噂通りの女…
リンは以前、連邦生徒会長から彼女ー万理ツカサの人となりを聞いたときに言われた言葉を今でも覚えている。
『絶対に無駄な会話はしたがらない人です。価値のある会話ならいくらでも話しますが興味がない話題には本当に、機械みたいな顔をします。けど、筋を通せばわかってくれる人ですよ。会社のロゴと違ってライオンみたいな子です!』
と。
まぁ確かに、『蛇』のロゴを持つ万理製薬と違ってその堂々とした態度は本人のスーツの襟に輝く黄金の『獅子』に近いだろう。
無駄話をしないで済むというなら願ってもないこと。
リンにとっても時間は大切だ。
「ああぁ、単刀直入か。気に入った」
ツカサは微笑みながら、出されたお茶を飲む。
その所作からはこの会話における絶対の自信を漂わせていた。
「私の好きな温度、適度なヌルさで出すとは随分と気が利くじゃないか」
「普通は暖かいのか、冷たいのかそのどちらかで出しますよ」
「世の中、両極端にならないだろう? だから、ヌルめが一番だ」
なんとも嬉しい事かの様に、コップを置いたツカサには先ほどまでの暖かい表情はなく、
鋭い表情になっていた。
例え好みの温度で茶を提供しようが別にそこまで商談に響くものではないらしい。
今度は熱いお茶にしてやろうか。
少しだけリンはそう思った。
「1つ、私の事業には不介入。これは依然と変わらんな。2つ、治安の悪さをなんとしても改善する。会長が去る前レベルに収めてもらいたいものだ。あぁ、ゲヘナについては気にするな。3つ、シャーレとやらがその権力を私に向けない事。以上だ」
指で一つ一つを丁寧に説明するツカサに対して、リンは出された案に一番無難な返答は何かを考えた。
1つ目は会長がいた時から変わらない。
万理ツカサの事業が健全である限り、一つの企業として公正に扱い不介入。
2つ目についても…おそらくこれは万理製薬がと言うよりもその他の会社が頼んだ形だろう。
人材不足で苦しんでいても、解決しなければならない問題ではあった。
しかし、3つ目については難しい内容だ。
あらゆる規約や法律による規制や罰則を免れる超法規的機関に制限を付けろというのだ。
そんな特例を認めようものなら、機関の意味を無くすだけではない他の者たちも特例を認めるように言いに来るだろう。
「2つ目までは同意できます。治安については言われるまでもなく解決しなければならない問題です。しかし、3つ目は難しいでしょう」
「ほう。まさか、連邦生徒会長の権限で付与されたから代行もその意志を変えたくないと?」
「それもそうですが、何より1つの特例はその他にも認めるよう求められてしまいますから」
「くだらない理屈だな。謎の一個人の言うことを聞かされる身にもなってみろ。あの
「随分と拒絶されるのですね。何かやましい事でも?」
「我が社にやましい部分があるかどうか、それくらいの情報は首席行政官の君が知らない筈がない。私が言いたいのは我が社は今、更なる成長をしようとしている。そんな中で無価値で無意味な詮索をされたくないということだ」
確かに万理製薬には黒い噂が少ない。
というよりは、万理ツカサを含め極端に情報が少ない。
不自然ではあったが掘り起こして探すまでもない…と言うよりできない。
多くの将来有望な生徒に目をかけ働き口を斡旋し、衣食住を提供する。
そして、功績があれば生徒の名前と共に表彰し更に大きなプロジェクトを任せる。
そうやって人材を育成していく会社として人気がある。
噂によれば「役が人を作る」を社訓の一つにしているとか。
もし、不正などがありそれを捜査・公表すれば多くの生徒が路頭に迷う可能性がある。
彼女はそれを知っていて言っている。
『人質は多い方がいい』
とはよく言ったものだ。
やはり『蛇』ではないか。
狡猾な手口でこちらの行動を塞いでくる。
「それを呑めば、何を見返りにするのです?」
溜息交じりにそう聞いたリンとは対照的に、ツカサは身を乗り出した。
「我が社は変わらず連邦生徒会を支援しよう。そして、その額は以前よりも増額し寄付する際はカメラの前で君に渡す。治安維持についてはヴァルキューレに医療キット等を寄付する。この4つだ」
「あなたと一緒に写真を撮る理由は?」
「君は賢いから分かっているはずだ。会長は納得の人選だったが、代行は? 優秀な二番手だから代行に? 君が優秀だとわかる者ならそれでいいが、そうでない馬鹿にはどうする気だ? 決断が必要な時かその後でまず間違いなく後ろから刺すだろう。だが、我が社とビジネスパートナー達が君を支持しているとなればどうだ? より大きな権力がないと後ろから刺そうとはしない。そして、そんな存在などキヴォトスでは2つしかない」
2つとはカイザーコーポレーションとシャーレの事を言いたいのだろう。
シャーレが敵に回る事がないと考えればカイザーコーポレーションだが…
それ自体はツカサの望む所と見える。
(なるほど、漸くその牙を向ける決心がついたと。だからこそ、背後から攻撃を受けたくない…言わば、相互不可侵と独立保証。こちらが撃たれれば喜んで手を貸すと)
その高圧的な性格に反してツカサは他の企業に表立って敵対することはなかった。
若手実業家、慈善活動家、投資家…
そういった称号で満足するかのように明確な敵対行動をとらず、ゆっくりとその影響力を広げていたのだ。
だが、リンから見ればその程度で満足する器ではない。
上を見て、自分の力でのし上がり、必要とあらば引きずり下ろす。
そうやって、己の地位を上げていき最後には自分だけの帝国を築き上げる。
それがリンから見た万理ツカサと言う人物だ。
(双方が癒着と批判されない配慮までして。今回は珍しくこちらの方が利がありますね)
リンとしても不安定な政局を乗り切るにはまたとない後ろ盾ではある。
彼女の会社と協力関係の会社は小さな町工場や古くからある会社である場合が多い。
いくつかの団体も共同で運営している。
特に有名なのは『キヴォトスの治安を皆で考える会』と呼ばれるもので、率先して生徒のバイト先になる事で働けずに不良になるケースを減らしたり、ゴミ掃除などを行う事で地域貢献を行うというものだ。
実際『キヴォトスの治安を皆で考える会』は連邦生徒会とも協力してボランティアを行った実績もあり、信頼に足る面々である。
万理製薬の独裁状態ではなく、いくつかの企業が合同で運営しているというのも高評価できるポイントだ。
彼らとの連携はリンの立場に『正当性』を与えると同時に、もしその立場が脅かされた場合には一斉ストライキ等を起こす可能性を示唆させるため強力な後ろ盾になる。
悪い話ではない。
ツカサの提案も別に、万理製薬に融通を効かせて案件を寄越せというものではない。
あくまで、学生が経営しているがそのほかの企業と同じような扱いをするように求めているだけだ。
ならば、乗った所で連邦生徒会が実害を被ることは殆どないだろう。
「……シャーレに関しては経営には口を挟まないという形でどうでしょう」
「今回は私が頼む側だからな…よし、その条件で手を打とうか」
案外すんなりと引き下がった事に驚きつつも、彼女にはこれが一番欲しい回答だったようだ。
恐らくだが、自分が手を借りたい時が来た際にはある程度の協力の余地を残しておきたいのだろう。
だからあえて無理難題をこちらに提示することでリンの口から現状可能な手を述べさせた。
しかし、一点だけリンには不可解な点があった。
治安の早急な回復を望むなら防衛室長である不知火カヤに話を通した方が良かったのではないか。
カヤを飛び越えて、交渉するというのは万理製薬にとって彼女は交渉相手ではないと言っているようなものだ。
だからこそ、満足げに用件は済んだと帰り支度をした彼女の背に疑問を投げかけた。
「一つ質問をしても?」
「一つならな」
「なぜ治安回復の話をわざわざ私に? ヴァルキューレに出向くなり、防衛室長と話をした方がよかったのでは?」
その問いにツカサは鼻で笑い答えた。
「現状で解決できていないヴァルキューレや、既に何度か陳情を受けていながら何もしない
彼女はリンに振り返り、最後に言った。
「そして何より、何故この私が態々組織の中間層と話をしなければならない?」
なるほど。
こちらの利が多くなるようにしたわけではない。
カヤとリンの関係に一定の不和を生じさせて、リンがツカサを裏切らないようにしたかったのだ。
リンは思った。
万理ツカサは『蛇』ではないし、まして誇り高い『獅子』などでもない。
『獅子』と『蛇』の要素を持つナニかだ。
しかし、シャーレの先生と万理ツカサから協力を得られたならばリンにとっても数多くの問題と対峙する時間は稼げる。
今日の所はこれでいいのだ。
心強い仲間が連邦生徒会のパーティに加わった!
ふと思いました。
外見イメージや使う予定の武器、プロフィールなどはあった方がいいんですかね?