ツカサは果たしてカイザー理事と対峙するのか、それとも面倒だから勝手にやってろというのか。
社長室に戻ったツカサは椅子に座り一息つく事もなくメモを取り出した。
このメモはツカサが出会った生徒の所見や情報を記入し交渉を有利に進めるために作ったのが始まりだった。
いつの間にか学園別、大人用と増えていき今ではいつ書いたのかを思い出すだけで一苦労である。
(トリニティはこれか。制服の読みは当たりだが…)
どれほど読み進めてもブラックマーケットに出向くような生徒はいない。
要注意人物欄を見ても同様だ。
(これは…ダメか。アイツに聞くか…いや、やめておこう。ただでさえティーパーティに睨まれている可能性があると言っていたのに仕事をさせるのは危険だ)
万理ツカサの懐刀とツカサが太鼓判を押す社員に頼んでも良かったが、学校が終わるなり即本社に来て門限ギリギリまで居る生活を続けさせすぎた。
「やれ」と命じたわけではなく自主的だがあまりいいことではなかったのだ。
(まぁいい。トリニティの鳥の中にも逸材がいる事が分かっただけで収穫だ。それよりも、こちらか)
典型的なゲヘナ生が覆面集団と話をしている写真に目をやる。
こちらならわかりそうだ。
わざわざメモを見なくても専門家がいるのだから。
私用携帯の方を取り出し、直接連絡をする事にした。
「よぉ、大将!スリルのある依頼か~?」
「ルカ、交友関係が広いお前に聞きたいことがある」
「んだよ、質問かよ…アタシはいい加減暴れたいんだが?最近、派手なドンパチがねぇじゃん。これじゃあ飼い殺しだぜ?」
「場合によっては今回は暴れてもらう事になる。ご自慢の力を存分に揮えるかもしれんぞ?」
「んじゃあ聞くぜ」
ツカサは件の写真を手に取り続けた。
「ある生徒を探している。ブラックマーケットに行きそうで、服装は赤いコートとシャツとスカート、目つきが悪いが…写真では随分とアホ面…いや、なんとも面白い顔」
「んなもん一人しかいない。陸八魔アルだ」
「陸八魔……あの、陸八魔か?メガネで真面目そうな顔をしていた?」
「そうその、陸八魔。イメチェンって奴だ」
「懐かしいな。私とクロノスとのインタビュー記事を読んだと態々話しかけてきた…なんとも、随分ゲヘナ的な顔になったものだが」
「今やアンタと同じ社長だぜ?そりゃ、規模は違うけどな」
「なんの企業を?」
「便利屋68、アンタも聞いたことあんじゃねぇの?」
ツカサはその名前を聞いたことがある。
言い始めたのはヒナか、あるいは天雨行政官か…少なくとも風紀委員会で聞いたのは間違いなくそれはそれは苦い顔をしていた。
当時は万理製薬に挑む馬鹿ではないと考え放置していたので記憶から消えかけていたが。
「風紀委員会ですら手を焼くアレか」
「そうそう!いやー後輩が立派に育ったよなぁ…アタシもうれしいぜ」
「あのメガネがなぁ…」
「でも、すごいぜ?4人とはいえ会社を立ち上げてやってんだから。ま、その結果校則違反だけどな。そういや、大将は大丈夫なの?」
「何が」
「校則違反」
「私の場合はそもそも一からの起業ではない。それに校則を決めるのは誰だ?」
「マコト」
「そうだ。ルールを定めるのは権力だ。だが、権力を定めるのは?富だ。つまり、金さえ出せば好きな校則を作らせる事ができる」
「って事は治外法権?」
「お前にしては学のありそうな発言だな。ま、そのようなものだ」
「汚ねぇぞ!そんな金をばら撒くやり方、便利屋68の方がガチンコでやってんぞ?」
「ルカ、これが私の力だ。お前もそれに従ったように、金で買い叩く事こそ私のやり方なのだ。便利屋68の社訓は知らんが少なくとも同じ土俵で戦っている訳ではないのだからな」
ツカサの特技、その一つ。
『金』
確かに汚いのかもしれない。
しかし何が悪いのだ。
悪事を働いた訳ではない、あくまで校則違反にならないように便宜を図らせただけ。
それ以上に慈善事業を行っているのだから。
むしろ合理的だ。
気分屋のマコトが好き勝手に校則を作るのが問題なのだ。
そこに釘を刺すことくらい当然の権利だろう。
「んで、アルに会うか?」
「そんなすぐに会えるほど、親しいのか?」
「ま、よく会うぜ。家に帰るのが面倒な時に事務所行って寝てる。飯だって奢ってるんだぜ?アタシも立派な先輩って奴だ」
「お前それは…」
「わーってるよ。アタシら一番のお気に入り後輩、イオリちゃんが困るんじゃねぇかって話だろ?安心しな、イオリちゃんにはキチンと話してるぜ?」
「あまりイオリちゃんを困らせるなよ」
「むしろ困らせてるのは大将だろうが…それで、会うんだろ?」
困らせているつもりなどない。
むしろ、目をかけているのだ。
風紀委員会の将来を担う人材として。
次のヒナ枠として。
それを困れせているとは何事かとツカサは文句を言いたかったが、少なくとも初対面のアレを今だに引きずっている様子もあるのでイオリの事で言えないのではないかと考えてやめた。
「ああ」
「アタシも行くって事だよな?」
「不満か?」
「いや、むしろドンと来い!って感じ。明日でいい?」
「明日、本社前に来い。車で行くぞ」
「りょー」
予定を決めたのだもう用はないと言いたいかのようにツカサは電話を切った。
(非ゲヘナ的な生徒がゲヘナ的になるのは悲しいものだなぁ)
ツカサの様な非ゲヘナ的な生徒は貴重である。
その頭目を自負している彼女にとっては後輩がグレたというような気分だ。
最もツカサが非ゲヘナ生でも生きやすい様に救いの手を差し伸べているのに自ら拒む者を救ってやる気もないが。
「トリニティ生からではなく、こちらから情報を仕入れるか。場合によっては仕事を依頼すればいいだろう」
そう呟いてツカサは営業本部に連絡をかける。
「私だ。便利屋68についての報告書を大至急持ってきてくれ」
夕暮れ時。
されとて仕事は乗りに乗っている。
このまま続けてもいいだろう。
なんせ、ツカサには仕事こそが趣味。
これほど楽しい物もないのだから。
一番のお気に入り後輩の座はイオリに。
良かったねイオリ!
かなり面倒だけど、権力者の先輩が目をかけてくれているよ!
実は書いててブレないかとかの心配なく書けるのはルカだったりする。