透き通った青春に背を向けた灰色   作:らんだ

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前回の投稿ですごい勢いでお気に入りと評価が増えて感動しました。
こいつ毎回感動してんな、となるかもしれませんが感動の更新ですね!

さて、今回もみんな大好きなのキャラが登場…というか、本編入った時点でみんな大好きなキャラしか出ないね…

二人の社長の物語が始まる。


社長とは何たるか

《01》

 

15:00

 

便利屋68への訪問予定まで後少し。

 

ツカサは本社最上階の社長専用階にてシャワーを浴び終え、服と持っていく小道具を選別している最中だった。

 

シャワーから続くこの一連の流れは商談前のある種儀式的な行為であり、深い意味はない。

無論、聞かれたら意味が有りそうに解答するのがツカサであるが。

 

ふと鏡に写る自分を見る。

 

小食のわりに背が高くなったのはいいことだ。

物理的に他人を見下ろせる。

 

しかし、久しぶりに会う人となるとわからない。

もしかしたら自分を抜いている可能性もある。

その場合はハイヒールで誤魔化す。

 

故に今日もハイヒールを選び、お気に入りの色のスーツにしようとしたがやめた。

 

(わからない格好をしておく必要があったな。なら白のスーツはダメか。黒か? いや、それでは無難だし…青だな)

 

普通に制服で行けばいいのだ。

しかしツカサが制服に袖を通した事は殆どない。

1年生の初期くらいである。

 

以降はずっとスーツだ。

暑かろうが寒かろうが、シャツは必ず長袖、ベストもセット、そしてスカートでは無くズボン。

どんな時でも基本的に革の手袋を着ける。

 

オシャレに興味がないわけではない。

むしろ、スーツへのこだわりが強く全てがオーダーメイド。

スーツ着こなし選手権があれば優勝候補筆頭である事は間違いがない。

 

諸事情でスカートなどが嫌いなだけだ。

 

いつもそう言い聞かせている。

まあ、実際着れないの方が正しいのだが…

右腕に時計をつけ、『実弾』を詰め込んだアタッシュケースとサングラスも用意した。

 

日傘も持っておけば誰かまでは把握できないはずだ。

 

あくまで今日は万理ツカサ、個人としての依頼のつもりだ。

しかしそれでも、黄金の獅子を模したバッジだけは必ず付けていく。

 

「ふむ。まあ、こんなものか。我ながらスーツは様になるな、それ以外は悲惨になるだけだが」

 

と、ジャケットまで着ようとした時にふと思い出す。

 

(銃撃戦になればルカが居るが…念の為持っていく方がいいか。交渉相手が丸腰で来たとなれば相手を侮辱しているかの様に取られても困るしな)

 

ショルダーホルスターを装着し、幾つかの予備弾薬と銃を収納する。

 

15:05

 

鏡で確認。

 

(何とも面倒なものだ。態々、銃を持ち歩くなど)

 

スパイ映画の人と言えば大勢が想像できる様な見た目になるのが嫌いだと一人愚痴る。

 

スーツに拘っているならば仕方のない事だ。

以外な事に自分の武器はかなり気に入っている。

子会社化したケフェウスアームズ社が製作した最高級の逸品。

威力は勿論のこと、シンプルながらも荘厳さを感じさせるデザインはツカサが持つものに相応しく、更には回す事で暇つぶしも出来てしまう。

 

だが、それは荒野のガンマン気取りがすべき事で社長である自分がするべき事なのか。

 

(まあ、文句を言っても仕方がない)

 

机の上の資料『カタカタヘルメット団の調書』『傭兵の証言』を机の引き出しに入れ鍵を閉める。

 

電気を消し、下に降りるとしよう。

 

 

15:08分

 

本社前にて、通常なら追い払いたいレベルの奇抜な生徒が待っていた。

 

赤い髪に改造を施しすぎて原型のない制服、そしてスリルが増えると言う理由で着用している眼帯…

ツカサに言わせればセンスの欠片もない、珍走団のファッションではあるが優秀故に放置している存在。

 

「お前は見つけやすくていい」

 

「そうだろ? こんなセンスの塊、そうそう居ねえ」

 

肯定も否定もするものか。

 

停まっている白いリムジンのドアを開け、アタッシュケースを先に詰めつつ、乗り込もうとするツカサをルカが止めた。

 

「正気か? 真っ白のリムジンで走る奴なんて誰かわかりやすいすぎるだろ!」

 

「なら、どうしろと」

 

「徒歩だ。安心しなよ、そんな遠くない。いい運動になるぜ」

 

今日一番のため息がツカサから漏れた。

 

(仕方ないか…はぁ、この時期に徒歩とは…)

 

そう思いながらも、歩き始める。

もし疲れたら、ルカに跨って行けばいいか。

そんな事を考えながら。

 

15:25

 

無事到着。

結局、途中までリムジンを使い降りて歩くと言う選択をとった。

 

距離的にはそこまで遠くはなかった。

殆ど車だが…

 

美しいものだ。

5分前には現場に着き、残り5分の間でいつ入るかはこちらが選べるのだ。

ギリギリで入ってもいいし、今すぐ入ってもいい。

 

(さてどうしたものか)

 

決まっている答えを悩む素振りを見せるツカサを尻目にルカは堂々と事務所に入っていく。

 

「大将目立つんだからさ、とっとと入ろうぜ!」

 

郷に行っては郷に従え。

こういう場はルカの方が正しいのだろう。

 

やけに立派な事務所に些か疑問を持ちながらもルカに続いてツカサも階段を登っていた。

 

『時計の針は確実に進む』

 

 

《02》

 

 

ドンドン! 

 

(これでは借金の取り立てではないか。こいつにマナーを教えることを諦めた私が悪いのか?)

 

知り合いの家に入るにしては横暴なやり方だ。

むしろ、とっとと開けろと言うようなものだ。

 

「おい、アタシだ! 大地様がきたぞー!」

 

もはや騒音の領域に達するレベルのドア叩きにツカサが苛立ちを募らせているとようやくドアが開いた。

 

ドアから見える姿は見知らぬ存在。

事前に見ていた報告書によれば、伊草ハルカ。

我らが母校の一年生、確か『爆弾の扱いに長ける』との記載もあったか。

 

「すいませんすいません…」

 

「気にすんなっていつもこうしてるからいいって!」

 

謝りながら何かを言おうとするハルカをルカは遮り、中へと入っていく。

 

(随分と卑屈な少女だな。そんなに謝る事でもないだろうに)

 

そう思い、日傘を畳みツカサも中へと入っていった。

 

事務所の中は思った以上に綺麗に整えられていた。

予想では事務所と言うより荒地だろうと踏んでいたツカサは少し感心しつつ、ルカの後ろに回った。

 

「ようこそ、便利屋68へ。大地さん、今日は紹介したい人がいるとの事だけど?」

 

「よお、アル! そうだ、今日はアタシが紹介できる中で最大のやべーやつを連れてきてやったぜ!」

 

(やべーやつ…まるで人を危険人物かのように…)

 

サングラス越しにルカを睨むツカサだが、実際のところ彼女はゲヘナでも、トリニティでも危険な人物として区分されている。

 

今の所は敵対的な行動をしないが、それはそれとして一手に権力を握る存在。

そんなもの、当然に危険な存在だろう。

 

怒らせたり、不快な気分にさせたら? 

 

当然持てる権力で潰しにくるだろうと皆が予想するのだ。

まあ、間違いではないが。

 

「へぇー、この背の高い人が?」

 

一際小柄な少女─もしツカサと並べば身長の差はかなりのものになるだろう─がツカサをジロジロと見ている。

 

(浅黄ムツキ、陸八魔の幼馴染。趣味は爆弾集めだったか。この組織、無駄に爆弾好きが多いな)

 

爆弾や爆発には、何処ぞの馬鹿のおかげで一家言あるツカサだが本人はそんな武器は、はしたないと考えている。

 

『爆弾を使って消すくらいならミサイルやロケットを撃ち込むべきだ』

 

態々設置するなど面倒だろう、ボタン一つで撃ち込んで終わりの方が楽でいい。

だが、一番は相手が這いつくばって許しを乞う様を見たいのでそんな大規模な手段はそうそうとらない。

 

(無論、アレが完成すれば使うことにはなるが…)

 

そう爆弾少女を見て考え巡らせていたら、どうも見知った顔を見つけた。

 

「まさか、紹介したい人って…」

 

「そうそう、そのまさかってわけ! カヨコパイセンは久しぶりに顔を見るよな?」

 

鬼方カヨコ。

ゲヘナ3年生、マコトと同じ18歳。

ツカサやルカにとっては1歳年上の相手だ。

 

それに少なくとも、他のメンバーよりは昔に少しだけ因縁がある。

だから念の為、武器を持ってきたのだ。

お互い大人な振る舞いが出来るとは考えているが。

 

「それで、その人はサングラスをかけて一言も発さないのだけれど。緊張しているのかしら?」

 

「緊張? んな、タマじゃないね。アタシが紹介するのを待ってるのさ」

 

そう言うとルカは無駄に大きな動作でツカサを強調して続けた。

 

「アタシの雇い主にして、ゲヘナの影の支配者、キヴォトス有数の大企業を率いる女、偉大なる万理ツカサだ!」

 

ゲヘナの影の支配者

と言う部分には少し引っかかる部分がある。

むしろあまり隠れていないだろうと。

 

それでもルカなりの派手な紹介が終わったのでツカサはサングラスを外し、いつもの如く堂々と続けた。

 

「ごきげんよう、便利屋68の諸君。そして、久しぶりだな陸八魔、カヨコ」

 

無駄に派手に紹介されたが、最高のタイミングではあった。

重要なのは大物であるという認識を固める事だ。

 

『貴様らと交渉しているのは万理ツカサなのだ』

 

ときちんとわからせてやる。

 

その効果はどうだ。

カヨコは面倒な事に巻き込まれたと言いたげに頭を抱えていた。

ハルカは先ほどと変わらずオドオドと。

ムツキはおーっと声を出してはいるが社交辞令、警戒されている事くらいは理解できる。

 

(ここまでは想定通りの反応だな)

 

問題のアルはどうか。

固まっている。

驚き過ぎたか、それともなんとも普通な挨拶だったと見たのか。

 

「さて、さっそく話をしたいのだが座っても?」

 

ツカサからのトスは終わり。

ここからは便利屋のターンだ。

だが、肝心のアルが固まったままなので席に座ろうにも座れない。

流石のツカサも困惑した顔を浮かべ、ルカを見るが彼女も知らないという表情だ。

 

当のアルはというと。

 

(ば、万理、万理ツカサですってえええええ!!)

 

普通に驚いていた。

 

(え、本物? 本物よね。あの目、あの態度、正しく本物よ! 万理ツカサがウチに依頼を!? ついに業界最大手の大物からの依頼が来るまで……お、落ち着くのよ動揺しては相手の思うつぼよ!)

 

「コホン、ではそちらの椅子に掛けて頂戴」

 

虚空の彼方から帰還したかのように対応を進めるアルに今だ困惑の気が抜けないツカサだが、促されるまま席についた。

 

(これは勝ったと思ったが思わぬ奇襲があったな)

 

9対1で勝ちと見ていたが、7対3くらいには後退してしまった。

妥協すること自体は構わないが最初から妥協目的でくるものではない。

 

「にしても、あの陸八魔が社長になるとはな。今でも覚えている、インタビュー記事を見たことを伝えに来た時のあの目を」

 

「…覚えていたのね。てっきり忘れられてると思っていたわ」

 

「忘れるものか。他の者はゴマすりの為に真新しい状態の物を持っていたが、お前は随分と読み込んでいた…蛍光ペンか何かで線も引いていただろう? なんとも熱心な生徒が居たものだと…私に声をかけてきた生徒たちの中で唯一覚えていると言ってもいい」

 

これは決して煽てているわけではない。

ツカサにとってはどうでもいいインタビューでも、アルはしっかり読み込んでいた。

もし、話す時間があれば質問をしようと考えていた為、気になる部分をマークしていたのだ。

当時のツカサはアルを取るに足らない熱心なファン程度に認識した為、質問タイムなどは一切なく名前を聞くだけにとどまったが。

 

「〝大人物の心を小人が理解できるはずがない〟傲慢に聞こえるけど、結局は自分が信じなくては誰が自分を信じてくれるのかって言う事なんじゃないかって解釈したわ」

 

「……??」

 

(いや、それはそのままの意味で言ったのだが?)

 

いくら何でも深読みしすぎだろう。

間抜けには賢い者の考えなど理解できないとそのままの意味だったのだ。

それがいつのまにか、人生の哲学の様に思われてしまうとは当時のツカサは考えてもいない。

 

「…昔のインタビューがお役に立ったようで何よりだ。何気ない発言が深い意味を持つと言うのはよくあると言うが自分の立場になると感慨深いものだ…」

 

「あら、あなたクラスになるとよくあることじゃないかしら?」

 

「私の場合は、そのまま取られる事が多い。何事も簡潔にわかりやすくだ」

 

想定外の方向に動いたアイスブレイクから一呼吸置くため、出された茶を飲むため手を伸ばそうとするが、ルカの視線が「熱いからやめとけ」と訴えかけていたのでその手を引っ込めた。

 

「さて感動的な再会は終わりだ、ここからは依頼について話をしよう。まず確認だが〝金さえ貰えばなんでもする〟との評判は嘘ではないな?」

 

「もちろん便利屋68は評判通り仕事を行うわ、どんな荒事でもね」

 

「荒事を頼みに来たわけではない。私は買い物に来たのだ、便利屋68。無論、今回の結果如何では荒事を依頼する関係になるかもしれんがな」

 

荒事なら他人を雇うまでもない、警備部か不良集団を送り込み二度と万理ツカサに逆らわない様にするだけだ。

もし、役に立ちそうなら人材なら金で買い叩くまで。

 

つまりは信頼の出来ないかつ用済みになればいつでも消せない相手には頼まないと言う事だ。

 

 

「なら、何をお求めかしら」

 

「アビドスで何が起きているか」

 

「…!」

 

瞬時に部屋に緊張が走る。

便利屋のメンバーからすれば当然だ。

今日、1年ぶりに会いに来た相手が自分たちの仕事先の情報を求めてやってきた。

 

相手は大企業の社長。

カイザーコーポレーションには及ばないにせよ、二番手は何処かと聞かれた場合は万理製薬と答える者も多い。

そんな存在がわざわざ情報を便利屋68に足を運んでまで買いにくる必要があるのか。

 

(自分たちの持っている情報と同じ内容を言うかどうか…私達を試しているのね。嘘をつくかつかないか)

 

アルはそう考えるが、それは深読みで実際の所はただ知りたいだけだ。

ツカサはアビドスに関する情報はそもそも積極的に取ってはいない。

進出困難だからでは無い。

砂漠の中にあるものを知った時に殆ど興味は失せていたからだ。

 

〝皇帝の砂遊び場〟

 

必死になって砂遊びをしている理由がよりにもよってツカサにとっては『どうでもいいもの』とは。

しかし、時計の針は進み始めた。

 

〝搾取される側〟に先生という不確定要素が接触し、〝搾取する側〟に反抗しようとしている。

 

そして搾取する側はツカサによって玉座を追われるべき存在。

 

場合によっては、『アレ』との協定を破ってでも介入する可能性があるのだ。

よってあらゆる情報に価値がある。

ガセかどうかは全てが終わってから方をつける。

 

夜半が来るまでに、玉座より引き摺り下ろす。

 

「私の商売敵と仕事をした事について、お前達をわざわざ締め上げに来たわけではない。正直な所、お前達が誰と仕事をしていようがどうでもいい。私の欲しい物さえ提供すればな」

 

仕事なのだ時には相反することもあるだろう。

万理製薬に危害を加えない限りは好きにさせてやる。

 

と言うのがツカサの考えだ。

 

それは相手が後輩だからなのではない。

どの企業に対してもスタンスは同じ。

ツカサの要求にさえ従えばどうでもいいのだ。

 

「クライアントの情報を話すわけにはいかないわ」

 

「ふん、私との取引は初めてだな。だから、見逃そう。さて、アビドスで何が起きているか、その情報を、渡せ」

 

ツカサは鼻で笑いながら、先ほどよりゆっくりと力強く再び要求した。

 

もし対万理ツカサ会話マニュアルがあるのならば、この行動をした次の返答はきちんと望む答えを出すことだと記載されるだろう。

殆どの場合、ツカサは苛ついているので次の選択を間違えた場合は『後悔だらけの一生』とやらを渡すだけだ。

 

だが、アルとてアウトローを憧れ目指す者。

例え相手が大物であろうと、底知れぬ圧力を見せてこようとも譲れるものがある。

それに相手はあの万理ツカサだ。

不足はない。

 

「聞こえなかった様だからもう一度言うわ。クライアントの情報を売ったりはしない」

 

「……随分と挑戦的だな。だが、相手は選ぶ事だ。お前が話しているのは珍走団のリーダーでも、カイザーの理事でもない。万理ツカサだ」

 

「3回も言わないとわからないのかしら、万理社長は」

 

そう言い切ったアルの目を、ツカサは見ていた。

煽ってきた事に激怒するわけでも、銃を突きつけるわけでもない。

 

ただ見つめるのみ。

 

(勢いで言ってみたけど、もしかして本気で怒らせちゃったのかしら…)

 

そんな相手の行動のせいでアルの心の中は穏やかではない。

もし戦いになったら? 

 

数の上では自分たちの方が有利だが、ツカサの背後に立つルカはかなり強いと聞く。

もちろん、風紀委員長程ではないが元ヘルメット団のメンバーであり少数の一派を率いていた過去を持つ。

更には『龍の炎』とも形容される威力を誇るフルオートショットガンは室内では脅威そのもの。

 

だが、何よりも脅威なのは部下を一人だけ連れてここまで堂々と脅迫じみた商談を行っているツカサ本人。

誰も彼女が戦った姿を見たことがないため、どのような武器を使いそしてどういった戦法を好むのか。

ハンドガンを使う事くらいは想定できるが、そんな武器でここまでのし上がってきた人物。

 

もしかしたら、本当はかなり強いのでは? 

 

そう思わせるには十分だ。

 

考えるアルと同様にツカサもまた考えていた。

 

(私を知っていながらここまで強情とはな。その気概は認めてやる。だが…)

 

ツカサは己の足元に置いたアタッシュケースに目をやる。

 

(報奨を出すと言えば、お前も鞍替えするのだろう?)

 

「いくらだ?」

 

「へ?」

 

「その縫い合わされた口を開く鍵はいくらで買えるのか、と聞いている」

 

正直、暴力で勝てるかと聞かれるとルカ任せになるだろう。

できるなら、まだ銃の威力は伏せておきたい。

 

そうなれば当然、徒手格闘になるが今日は補助器具がない。

『手荒い』左手を使うしかないがこれもまた避けたい。

となれば一つ。

ツカサはもう一つの『武器』を切る事にした。

 

『金で手に入らないものはない』

 

己のポリシーに従おう。

 

「え、えーっと…」

 

「それとも別の報奨がいいのか、ん? ゲヘナに戻りたいなら戻れるようにしてやるし、風紀委員会に罰されないように万魔殿に話を通す。凍結された口座を戻してやってもいいぞ? 無論、お前次第だがな」

 

「口座の凍結を解除できるの!?」

 

「私を誰だと思っている、そんなもの電話一本で済む話だ」

 

少し自慢げにポケットから携帯を取り出したツカサはさっそく電話をかけようとする。

実際電話で済む話なのだ。

とっとと済ませて口を開くようにした方がいい。

 

「ちょっと待って頂戴! その条件で話すとは一言も言っていないわ」

 

電話を止めようとするアルをツカサは理解できないという顔で眺めた。

 

「何が不満なのだ? 誰も無償でやれとは一言も言ってない。口を開くための何かを先に提示しなかったのがそんなに不満か?」

 

「そうじゃないわ」

 

「あーなるほど。金額を提示していない事か。言い値で買ってやろうと思ったが、それではこちらの方が特になる可能性があるからな」

 

「お金の問題じゃなくて!! クライアントの情報を話したら、私たちの『信用』が落ちるでしょ!」

 

「……既に一度しくじって後がない奴を『信用』する間抜けが何処にいる」

 

「ど、どうしてそれを?」

 

「まず、この道の先輩からのアドバイスだ。自ら手を汚すのもいいが、雑魚の掃除は下請けに投げろ。そして、下請けの口を固くする為に金はしっかりと支払え、無理ならその下請けの口を封じる事だ」

 

「まさか、あの子達話したの!?」

 

「むしろどうして話さないと思うのだ……珍走団や傭兵など金でいくらでも転ぶ連中だ。まさか、義理や人情を傭兵が持ち合わせているとでも?」

 

アルはそれくらい多少はあるだろうと言いたげな顔をツカサに向けていた。

そんな視線から逃れる為に顔を逸らしツカサはゆっくりと緩くなったお茶を口に含めた。

 

(こいつまさか本当に理想を追いかけるタイプの経営者か?)

 

調査報告書には〝アウトロー〟や〝ハードボイルド〟などが並んでいた。

 

今どき誰が本気でそんな事を思ってやると言うのだ。

俳優になるから必要だと言うならわかる。

だが、会社を経営するのには不向きすぎる。

 

多少なりとも妥協しなければ、経営など出来ない。

ほとんどの経営者など創業時の心の中の理念と今の理念は違うはずだ。

そんな中で変わらない奴などツカサくらいだと本人は思っていた。

 

あの日、あの場所で

必ず成し遂げると誓った

片方は何も掴めず、もう片方は箱を握りしてる手で。

キヴォトスを睥睨すると決めた。

 

本来はもう無い時間で、夜半までに必ず

 

『万理の名に全てを跪かせてやる! もう二度と誰もこの私に、万理に、逆らわせない!』

 

それほどの覚悟があるからこそ妥協せずにきたのだ。

 

だからこそ、認めたく無い。

憧れる心などいとも簡単に妥協するのだと、示したい。

己の覚悟がこんな憧れ程度と同じはずがない。

 

「一つお前に質問がある、陸八魔。仕事に関係はないかも知れんが、私の疑問を解決するのには役立つ」

 

「何かしら?」

 

「便利屋68、いやお前の信念は何だ」

 

(舐めるなよ小娘。私がどれだけの人を見てきたと思う。お前が嘘をつけば見抜けるのだから)

 

「そんなの決まってるわ! 真のアウトローになる事よ!!」

 

(抜かせ)

 

そう思いアルを見続けるが、何とも誇らしげな顔か。

憑き物ひとつない、純白のごとき笑顔ではないか。

 

(本心だと? ……まさか、そんなただの子供じみたごっこ遊びが?)

 

『真のアウトローになる』

 

そんな子供心にも近しい考えで起業しここまでやってきたなど認めていいはずがない。

 

他の誰かなら『そうなんだ』で済ませられる問題かも知れない。

しかし、ツカサには無理だ。

 

子供心など進んで放り捨てた。

不必要だからだ。

そんなものが何になるのか。

第一、それに付き添う連中も大概だろうと。

一人の存在に、真のアウトローになりたいなどと言うわけのわからない思いのために学園生活を投げうったのだ。

 

一つの想いの為に、平凡を捨てたのだ。

 

「あぁ〜」

 

己の内にある感情を理解することができない。

興味か、侮蔑か、それとも己には無いモノへの恐怖か。

どちらにせよ、『未知』だ。

そんな事があるのかと。

 

だからこそ。

認めようではないか。

コイツはやり手だと。

 

「アッハハハハ! 本当に!? それがお前の信念だと? ハッハッハッハ…あぁ〜、気に入った…大いに気に入ったぞ!」

 

事務所の外にまで漏れそうな程の大きな声で笑いながら、ツカサはアタッシュケースを机の上に乗せた。

 

「なら、私もお前の礼儀に応じてやる。感謝しろ? この万理ツカサがわざわざ相手の土俵に乗ってやるのだから」

 

「へ?」

 

何をしたいのかわからないアルとは対照的にツカサは大喜びで大量の『実弾』を込めたアタッシュケースを開いた。

 

「陸八魔、いやアルよ。私はお前を気に入った、心の底からな。一億円、くれてやる! ただし、使っていいのはアウトローな事だけ、それ以外は認めん」

 

ツカサには真のアウトローが何なのかは正直なところよくわからない。

だが、認めた相手にはそれだけの礼儀を払うのが流儀だ。

 

なら、ツカサができる最もアウトローな行動は何か。

金をばら撒く事だ。

それも盛大に。

嫌味なく、美しく。

 

「じょ、情報料って事かしら?」

 

「情報はあれば嬉しい、だがそれよりも得難いモノを私は得た。それに対する私の礼儀だ。要らなければ捨てるなり燃やすなり好きにしろ、それもまた面白いだろうしな」

 

「も、燃やす!?」

 

「実にアウトローじゃないか。金を叩きつける奴に対してするに相応しい行動だ。無論、受け取ってカイザーを裏切ると言うのもいいな? 報酬次第で相手を裏切る、少し傭兵じみてはいるがアウトローだ。アル、お前がどんな行動をしようが私は満足できるのだ、なんて素晴らしいんだろうな」

 

心の底から満足げなツカサと違い。

いくら払うのかわからない話から突然、一億円を叩き付けた事から始まった混乱は事務所全体を包み込んでいた。

 

アルやハルカは事態を理解できておらず、ツカサをある程度は知っているカヨコは当然、面倒な事になったと言う顔を。

 

しかし、ムツキとルカだけは笑っていた。

 

「やったじゃん、アルちゃん! 一億円だよ? 何でもできるよ〜?」

 

「一億、燃やすか? 使うか? それか、その金でカイザー殴ってみるか? アビドスの学園を吹っ飛ばすのもできるぜ? アタシも混ぜてくれりゃ、最高のスリルっての見せてやるぜ!!」

 

一億あればこのキヴォトスで困ることはほとんどないだろう。

その金が何にでも使えるならば。

 

問題は使えないのだ。

アウトローな事だけにしか。

 

それ以外に使えば恐らく一億円ですら端金の様に使うこの頭のおかしな客から報復されるだろう。

 

しかし、この場にいる誰もが理解している事がある。

 

これはツカサからの挑戦状だ。

 

『アウトローなら、私を満足されるアウトロー的な行動をできるよな?』

 

と。

 

ならば。

相手からの挑戦を避けるのがアウトローだろうか、便利屋68だろうか。

いや違う。

 

アルは意を決した様にツカサを見る。

その顔にはこれまでの様な面白い表情など何処にも無かった。

 

「なら一つ、あなたに質問してもいいかしら」

 

「ああ、構わんぞ? 一億円を見るのは初めてだろうからな、混乱しているだろう」

 

「組織を導くリーダーに何よりも必要なもの、それは何だと思う?」

 

その質問を聞いた瞬間、ツカサの顔から笑みが消えた。

それと同時に混乱で満たされていたその場の空気も再び…いや、商談中で最も緊迫した空気となった。

 

「私を誰だと?」

 

「万理ツカサよ」

 

「それをわかって、その問いを投げるのか。よりにもよって、この私に」

 

「私に一億円を渡すに相応しい人物かどうか、試させてもらう。その権利はあなたから貰ったはずよ?」

 

一億円を渡すと豪語する相手に向かって、その権利があるのか試す。

そんな事をできる人物はキヴォトスを探してもいないだろう。

だが、陸八魔アルは違った。

 

相手が勝手にこちらを気に入って金を渡すと言うのだ、ならばこちら側にだって相手を気に入れるかどうかを試す必要がある。

 

それが例え、万理ツカサだろうと。

あの日の疑問を解決する為でもある。

やり残しは精算しなければ。

便利屋68の新たな門出のために。

 

(清算か、それとも…だが、覚悟はあるのか…ならば、いいだろう)

 

「ならば、銃を持て。気に入らん答えなら私を撃つがいい」

 

そう言われたアルは躊躇いなく己の武器-ワインレッド・アドマイヤーを構える。

覚悟無く問うなどと言う真似はしない。

ツカサの対応すら織り込み済みだ。

 

ルカが流石にと己の武器に手をかけようとするが、ツカサがそれを止めた。

 

「凡人は『カリスマ性』、賢い者は『説得の技術』と答える。なるほど、あったらいいかも知れんが無くても困らん。何故なら、それらは全て『金』で解決できるからだ。弱点を補うものがあるならば不要とも言えるな」

 

「……」

 

「では、真に必要なものは何か」

 

「それは?」

 

「『現状に満足しない』事だ」

 

「それはどうしてかしら」

 

「人や組織は現状に満足した時、終わりを迎える。そこからは枯れて腐るのみ。『井の中の蛙大海を知らず』と言うだろう。あれは自らの狭い知識に囚われている事を指す言葉だが、私に言わせれば、蛙は井の中で満足しているのだ。満足とは妥協だ。そして、そうやって得た現状が最高と曰うなど反吐が出る。いいか? 最高の瞬間は一度だけじゃない。上り続ける限り、その最高は更新され続ける、例えその道が苦難の連続であろうとも」

 

ツカサにとっての信念の一つだ。

幾つかあげろと言われたら幾らでも湧いてくるが、どれか一つというならばこれを言うほかない。

満足も妥協もするな、足掻き続けろ。

そして、上り続けなければならない。

 

「それがあなたの答え」

 

「そうだ。そしてこれこそがお前があの日私に聞きたかった質問の答えでもある。例え今のお前にわからずとも、必ず私の言葉が正しいと知るだろう。その時、お前が最後まで貫いた側か妥協した側かで捉え方は違うだろうがな」

 

ひとしきり言い終えたツカサは静かにアルの目を見た。

 

『後はお前が選べ』

 

ツカサを撃てば、ツカサから見たらその程度の人間だったと言う事。

そんな相手に一億円をくれてやると言った自分も鈍ったものだと思うだろう。

 

二人の視線は決してブレる事なく互いを見つめていた。

この場だけは二人だけの戦場だ。

同じ『社長』という肩書を持つもの。

 

一方は『真のアウトロー』を目指すもの

もう片方は全てを己が名に跪かせようとするもの

 

どちらが上かではない。

どちらも対等であり、最大の敵として。

 

片方の覚悟にはもう片方も覚悟で応じるのみ。

 

その答えに満足したのか、アルは銃を下ろし手を差し伸べた。

それをみたツカサも立ち上がり、その手を握る。

 

「改めてよろしくね、万理社長?」

 

「私は本物なら幾ら払っても惜しくはないが、ラベルだけの粗悪品には一銭たりとも払いたくないのだ。アル、私にあの質問をしたのだ。期待には応えてもらうぞ」

 

「もちろんよ。便利屋68は期待に必ず応えるものなの」

 

固い握手を結ぶ二人の間にあるのは満足そうな顔だ。

 

(私は最後まで貫いて見せる、どれだけ大変でもね)

 

(この私にここまでさせたのだ。結果で示してもらうとするか)

 

儀式的な握手を終えようとアルは手を放そうとする。

しかし、その手が離れる事はない。

むしろ、ツカサの握る力が徐々に強まっていることに気が付いた。

 

驚いてツカサを見ると、恐ろしい微笑みのまま更に力を強めていく。

 

「…離さないのかしら?」

 

「まさか、知らんのか? ビジネスでは握手で相手を評価する。先に離したほうが常に服従するものだ」

 

(え…初めて聞いたんだけど!? というか、握力強すぎない!?)

 

こうなっては我慢だ。

ツカサに先に離させるしかない。

 

だが、忘れるなかれ。

その意味を知らずにワニの口の中に入ったものが、生きて帰る事ができるだろうか? 

そんな事はない。

 

「お前は今や私のビジネスパートナーだが…さて、私の『お願い』を聞いてもらえるかな?」

 

「ど、どんな内容かしら?」

 

「アビドスで何が起きているか、もちろん話してくれるよな?」

 

そうこれは手法を変えたに過ぎない。

最初の目的をツカサが忘れるはずがない。

目的の物を手に入れるための過程で妥協があったとしても、最後には必ずもらう。

 

「カイザーを裏切って話すのかって事でしょ? あなたの覚悟を見せてもらって、それに乗った以上話すわよ」

 

「いや、今は裏切るな。2回目も好きに襲撃するといい。奴らにお前たちは『使い物にならない無能な集団』とでも思わせておけ。腹が立つかもしれないが、我慢だ。そう、まるで今汗をかきながら我慢しているようにな?」

 

更に力を強める。

 

『どこにも逃げ場はないぞ?」

 

(ば、バレてる!)

 

流石に隠せないレベルで汗をかいているのだ。

当然と言えば当然。

もはや拷問の領域で握りつけてくるのだ。

 

「なら、あなた側から何かないの? まさか、カイザーのように遠くから見ているつもりかしら?」

 

「現場に社長が居なくても、仕事に支障はないだろう?」

 

「お金だけ渡して後は知らんぷりって言うのは、慈善活動を大切にしてる万理製薬らしくないんじゃない?」

 

「アウトローが慈善活動に興味があるのかね?」

 

「あなたの会社が掲げている理念とは違うじゃない!」

 

より強く。

 

「なら、我が社に入るか? そうすれば初めから助けてやるぞ」

 

「それは、お断りよ!」

 

「だったらくれてやった金でどうにかしろ。それにどうだ。『使い物にならない無能な集団』がまさか裏でライバル企業と手を組んで、裏切っていたなどと分かった時の顔、見てみたくないか? きっと最高だぞ、実にアウトローらしいじゃないか」

 

「それは…そうね…」

 

「要は演技だ。私とて動き始めたが手を出すには少し早い気がするのだ。無論、〝大切なビジネスパートナー〟が巻き込まれたならば手を出すが…どこかに居ればいいのにな、そんな〝便利な〟グループが」

 

(これ、一億円でアウトロー的な行動をしろっていいながら脚本は用意されてるやつじゃないの!?)

 

間違いない。

好きにしろといったが、脚本を用意しないとは言っていない。

ツカサにも手を出す口実を用意しておいてほしいので、当然準備はする。

報酬…と言うよりもツカサの覚悟を認めてビジネスパートナーになったのが悪いのだ。

 

「なら、情報はいつ渡せばいいのよ」

 

「後日、資料で提出しろ。嘘を書いたらどうなるかくらいわかるだろう?」

 

「情報についてはわかったわ。他に何か要望は?」

 

「今はない」

 

そう言ってツカサはあれほど強く握っていた手を緩めた。

結果、なんとか離れようと陰ながら努力していたアルの手はスルりと抜けてしまったのだ。

 

「あ…」

 

「私の勝ちだな」

 

悔しそうな顔をするアルとは対照的にツカサは子供の様な笑顔で喜んだ。

当然だ。

また、勝ったのだから。

 

「さて、敗者は従わねばならんな」

 

そう言いながら、服装を整え便利屋全員をじろりと並べて言った。

 

「では、可愛い後輩と同期で飯に行くか。もちろん私の奢りでな」

 

どんな酷い命令が飛んでくるのかと思えば、「ご飯を食べに行こう!」という提案だった事に便利屋68のメンバー全員が転びかけたのはここだけの話。

 

 

《03》

 

 

ひとたび介入することを検討したなら、もう逃れない。

後にツカサは後悔することになる。

よりにもよって、柴関ラーメンに脚を運ぶことになりそこで騒ぎに巻き込まれる事になるとは…と

 

時は刻み始めた

 




多機能フォームの使い方が分かり始めましたので早速使用。

アルという子は無意識に多くに人の脳を焼く存在です。

今回はアルちゃんとツカサを主軸にした相談ですので、他のメンバーとの会話が薄いです。
次回からは会話ばっかりになるだろうし許してください…

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