戦闘会の前に会話パートがあるんじゃよ…
書いてたらラーメンを食べたくなってしまいました。
今回も平和に進めてまいりましょ
《01》
ツカサから飯を食いに行こうと言われた便利屋68が提案したのは、柴関ラーメンと呼ばれる店だった。
その場所がよりにもよってアビドスにあり、更には大盛りのラーメンと言う話を聞いて二重の意味で嫌そうな顔をしたツカサだったが、誘われた側の行きたい店という事で心を無にしていく事にしたのだ。
(アビドス、大盛りラーメン、徒歩……あぁ〜厄日か何かかこれは)
食事は好きだが大盛りは嫌い、いや大嫌いだ。
アビドスは嫌いでは無いが、行きたい場所では無い。
陸八魔アルと言うお気に入りをせっかく見つけたと言うのに既にその心はドス黒い色に染まりつつあった…
《02》
そこまで距離は無かっただろう、ツカサを除くメンバーは和気あいあいと談笑をしながら歩いていたのだからより短く感じたはずだ。
意外な事にツカサもその談笑に参加していたのだ
やれ「普段はちゃんと食べているのか」だの、「どうしてイメチェンしたのか」だのどちらかと言えば親戚のおばさんの様な会話ではあったものの。
しかしアビドスに入るや否やその表情は厳しいものになっていた。
(〝皇帝の砂遊び場〟まさか足を運ぶ事になるとは)
何とも〝いきぐるしい〟場所である。
こんな場所で生きるなど理解に苦しむものがある。
(そして、ラーメン…よりにもよって大盛りとは…)
帰りは必ず車で帰ろうとツカサは決意した。
まず間違いなく並盛でも十分な破壊力を秘めていそうだ。
胃を労わりたいものである。
「着いたわ、ここよ!」
「おー! 美味そうな店じゃん」
ちょうどいい運動になったかの様な顔をするアルと早く食べたそうなルカとは対照的に、ツカサはここからも試練が始まる。
(大盛り……)
「甘き死よ来たれ」
あくまで強く行こう。
万が一、ラーメンで死する事になろうとも。
獅子は常に頂点故に
《03》
「いらっしゃい! おお、アビドスさんとこのお友だちとお連れさんは初めてみるが、好きに座ってくれ」
ラーメン屋と聞くとイメージされる乱雑さや汚れなどもないきれいな店にツカサは内心驚いた。
(これなら服が汚れずに済みそうだな)
そう思い奥の座席に行こうとするが、何か思う事があったようなアルが止まっていた。
「何をボサッと突っ立ているのだ。今すぐ、進め」
「!? ……ええ」
アルの違和感は背後の圧によって彼方へと消えた。
些細な違和感は忘れよう。
ごちそうと、楽しい楽しい懇親会が始まるのだから。
全員が席に着き一息つくと、ツカサがメニューを取り全員が見えるように置いた。
意外と気が利くと便利屋68のメンバーは思っただろうが、自分から食事に誘った以上それくらいの対応をするのがツカサだ。
「好きなだけ頼め、そして食え」
そうは言われても奢られる以上は遠慮するのが常識を持つ者だ。
こういった場所ではアルは真面目だ。
「柴関ラーメンでいいわ」
「……遠慮などしていないだろうな? 私が頼み、食えと言っているのだから好きなようにするのだ。まさか、私の懐を心配しているなどとは言わないよな?」
「下手だなぁ~、こうすりゃいいんだよ。餃子大盛に、柴関ラーメンの特盛と…イデッ!」
「まずは客人に頼ませろ。我々はその後だ」
「でもよ、遠慮しないようにアタシらが先に頼むのも優しさじゃねえか?」
「……焼き飯大盛を取り皿で分けるぞ」
「ほら、社長だってそうするじゃねぇかよ。つかチャーハンだろ、焼き飯って…」
「同じだろ」
「違うぜ…ピラフを焼き飯って言うのかよじゃあさ」
「ピラフと焼き飯は違う、間抜けめ」
「おかしいだろ!!」
そんな夫婦漫才の様な事を繰り広げる万理製薬陣に、便利屋68側も緊張が解け笑い始めた。
「あはっ、いつもそんな感じなの?」
「私はこいつと食事をすると毎回頭を悩まされる。マナーがなっていない、メニューを間違える、私の料理を勝手に食う…」
「料理はアンタが食えっていうからだろ!」
「許可を出す前に食べるやつがどこにいるのだ。犬ですら、少しは待つ」
「最初に負け犬って言っただろ」
「まさかほんとに犬食いする奴だとは思っていなかった」
衝撃的な事実だが、ルカと初めて食事をしたツカサは衝撃のあまり手に持っていた食器を落としたことがある。
文字通りの犬食い。
負け犬とは言ったがそこまで犬根性だと誰が思うだろうか。
本人曰く
『腹が減ってたから!』
との事だが、一応は年頃の娘。
幾ら腹が減ってもそんな事はするなという悲しい社員教育を始めた記憶がある。
「おいおい、最近はきちんと箸とか使ってるぜ?」
「それは当たり前じゃないかしら…」
「流石にそれは、カバーできないよルカちゃん?」
「あ、あの…。私も…そう思います…」
「それ見たことか。常識と言うのはある程度は必要なのだ、破るうえでもな」
まさか便利屋68の誰からも擁護してもらえないとは思ってもいなかったルカは流石に落ち込んでいた。
せめてアルは擁護してくれるだろうと。
『なんてアウトローなのかしら!!』
と。
だが、真っ先に否定された以上取り付く島もない。
「あ…アタシはいいからオマエらも頼めよ…優しいツカサさんが奢ってくれるからさ…」
ルカの体を張ったアイスブレイクのおかげか、アルたちも食べたいものを選びそれぞれが意見を出し始めた。
これでいいのだ。
(社長のためなら、泥くらいかぶってやるさ)
食事は楽しくないといけない。
親睦会と言うならそれくらいはする。
むしろ、ツカサと軽口を言い合えるくらいにまでなったのだ。
(まぁ、そろそろ2年くらい経つしある程度の軽口も許せるラインだな)
ふと、ツカサを見ると柴大将を呼び注文をしている。
曰く替え玉をくれるそうだ。
太っ腹である。
こういう人が報われる世界が本来正しいはずだ。
(そうはなってねーから、このアビドスなんだよなぁ…)
「店主。並盛の値段は払うから小盛にしてくれないか? 魅力的だが、あまり多く食えない体でな…」
「わかった。値段は引いとくよ」
「それでは職人の腕に…いや1つ借りだ、困ったことがあったらこの私を頼るといい」
「おう、覚えとくよ」
他のメンバーが大盛を頼む中で一人小盛を頼むというのは実は勇気がいる行動だ。
もちろんその程度で臆するツカサではないが相手の好意を無下にするほどの性格はしていない。
だから、一つ貸しにしたのだ。
次いつ来るかは知らないがもし大将が頼めば必ず手を貸すだろう。
そうやって信頼を手に入れてきたのだから。
「ツカサ、まだあんまり食べられないの?」
「白米やみそ汁と言った類なら問題はないが、どうもこってりとした物や油ものは苦手なままだ」
「ふーん……変わらないんだね」
「お前は変わったな、カヨコ」
「…そう?」
「詮索はしない。お互い昔は忘れよう。重要なのは今だからな」
「そうだね」
ツカサとカヨコの関係性についてその場で聞くものはいない。
互いが詮索せず、今を重視する選択をしたのだから当然ではあるが…
この場でルカだけは当事者に一人だったから知っている。
まさか当時あの二人が銃撃戦を繰り広げお互い弾切れで終わるという不完全燃焼に終わった関係であるとは誰も思わないだろう。
あれ以降、二人は学園で会うたびに睨みあう関係が続いたがもう戦う事はなかった。
とはいえ、それを話すべきでもない。
今を楽しんでる相手に水をかけるのは敵だけでいい。
ツカサにとってカヨコはもう敵ではないのだ。
(『ビジネスパートナー』ねぇ。ま、そうやってアンタは敵を上手くひっくり返すのが得意だよほんと)
そんな二人がこうして飯を食いあう関係になったのはルカにとっても感慨深い。
「先に焼き飯の大盛と取り皿だ」
なかなかの速度で出された焼き飯にツカサも満足げな顔だ。
少しサービスされて写真よりも多いそれを器用に取り分けていく。
全員に多く盛り、自分は少なく。
いつものように素早い仕事だった。
「にしても、器用ね。ツカサ社長は」
「私は椅子に座って威張り散らすだけのリーダーではない。優れた製品を自ら売り込むこともあるのだ。これくらいはするさ」
全員に配り終えた後にツカサはこれまでにない優しい微笑みを浮かべて言った。
「さ、食え」
《04》
全ての料理が届き皆が食べている中でツカサだけは早々に食べ終わった。
正直、小盛にしてもなかなかボリュームがあったため少しだけ苦しそうな顔をしていたが、味には満足していた。
「ツカサちゃんは社員の子以外とも食べたりするの?」
ふとムツキがツカサに質問をした。
それと同時に空気が少しだけピりつく。
『ツカサちゃん』と呼んでいいのはツカサのお気に入りの後輩ただ一人だが、その後輩は『ツカサ先輩』と呼ぶので誰も『ちゃん』付けで呼ばない。
『ツカサ』や『ツカサちゃん』と彼女を下の名前で呼んでいいのは本人から認められた者だけ。
流石に『ツカサ社長』とまで言えば怒らないが、それでも多くが『万理様』『万理社長』と呼ぶのが暗黙の了解だ。
態々、見えている地雷を踏むなど愚かだからだ。
しかし、ムツキに他意はない。
しいて言うなら癖だろうか。
(おいおい…ここに来るまでにイライラ溜めてそうなんだからやめてくれよ…)
とルカが内心で思っていたが以外にもツカサは不機嫌そうに対応するのではなく、いたって普通に対応を始めた。
「まぁ、気に入った奴を見つけたらな」
「なんで?」
「空腹や飢餓は精神を蝕む。その日を生きるために窃盗をすれば、その日はいいかもしれないが次の日は? 結局同じことを繰り返し根本が解決せずにより凶悪な犯罪に手を染めてしまう。衣食足りて礼節を知るではないが、才能がある者がそうやって腐っていくのは嫌いだ。酷い例だが、与えるのが残飯だとしても飢えた者はご馳走だと感謝する。なら、富める私がいくらでも与えてやる…という考えだ」
「へぇ~そうやって奢ってもらった子はどうなるの?」
「そいつの才能に見合った合法的で給料のいい働き口まで世話してやる。そこで働き始め成果を出せばそれは我が社の儲けにも繋がる。そうすれば、そいつは同じような境遇の者にこの話を広め、結果何らかの才能を持つ者たちが我が社の傘下に集う。そうやって行き場がなく、自分を認めてくれる者がいなかった者が居場所と生きる意味を得て己の才能をいかんなく発揮し始めるのだ。どうだ? 私が世話してやったのは飯と働き口くらいだが、いつの間にか巨万の富が転がり込んでくる」
思いがけない所で万理製薬が数多くの分野で結果を残し急速に成長した理由を聞きだす事が出来た。
先ほどの商談で見せたツカサとはまた違ったツカサの一面。
こうやってツカサは企業を成長させるだけではなく、慈善活動家という明るい称号まで手に入れているのだ。
(意外と優しい人なのかしら?)
そうアルが思うのも無理はない。
事実、ツカサは大勢の人生を救っている。
様々な理由があるにせよ、諦めかけていた青春が、仲間たちとの交流が、明るい未来が手に入っているのだから。
(さっきの商談での顔とそうやって人を集める顔、なるほど社長にはいくつもの顔が必要という訳ね!)
アルは頭の中にメモを残した。
今はまだ無理でも、いつの日か必ず目の前のボスを超えるほどのボス……最高のアウトロー社長になるためだ。
ここで得た学びはどこかで必ず役に立つと。
そうやって興味津々で聞くアルを見てツカサは思った。
(お前の場合、このような回りくどいやり方をせずとも人を引き付ける天性のカリスマ性があるだろうに…これは私の様な『金儲けの才能』しかない者がする『偽り』のカリスマ性、『投資』による掌握にすぎない)
商談の時にアルがした質問にカリスマ性などなくても困らないと『金』で解決できると豪語した理由は自分がそれを実践したからだ。
ツカサから見れば、アルの様に最初からカリスマ性を持っている人間は羨ましい。
もしツカサにそれがあれば、もう少し金を節約できただろう。
株投資や企業へのアドバイスなどで金策をすることもなかったかもしれない。
(富める者は自分の財を把握できない…羨ましい限りだ)
このままいけばいつかボロを出してしまうかもしれないと考えたツカサはムツキが始めた話題へと戻る。
「あとは食べ方ひとつにもその人物の家庭環境から性格まで幅広く見る事ができる。そういう観察目的もあるが…社員以外を誘うときは他意はなく奢ってやろうと思っているだけだ。そいつが食べる様を見るのは基本的に気分がいい、汚い食べ方でなければな」
そう言ってツカサは水滴を丁寧に拭き取ってから温くなった水を飲む。
こういう風になと言わんばかりに。
「あと、私をちゃん付けした事には目を瞑るが…外ではきちんと『ツカサ社長』呼べ。他に人がいない場なら許してやる」
やはり『ツカサちゃん』には思う事があった様だ。
だが、それでも随分と甘い裁定である。
本来ならその場で睨みつけるのだが…
自分が認めたアルの部下だからというのが大きい。
「なんか、アルちゃんと同じ事言ってる~」
「お前がアルの事を『アルちゃん』と呼ぼうが『社長』と呼ぼうがそれ自体は好きにすればいい。だが、お前の社長と私はビジネスパートナーだ。その相手を外でちゃん付けすると言うのは社員への教育を疑われる…つまり、お前の『アルちゃん』が不当に貶される要因にもなるかもしれないという事だ。室長ならそれくらいはしてやれ。我が警備主任ですら一応外では『社長』呼びをする事が多いのだから」
「意外! 評判なんて気にしないと思った」
「評判ではなく、事実だ。評判等好きに言わせればいいが、事実に関してはきちんとしておかねば面倒だからな」
ゲヘナでは『万理ツカサは恐ろしい』という事実がある。
もしそれが評判なら舐めてかかってくる相手もいるが事実として存在していればそうそう馬鹿な真似はされない。
例外的に恐れ知らずもいるが、それは基本的に本人がいない場面においてだ。
そういった事実の積み重ねがツカサの物を言わせぬ圧力を形成し、対面する相手が勝手に委縮していくのだ。
「私の事はちゃんと、社長って呼びなさいよ!」
とアルが割り込む。
それは諦めるべきだと呟いてツカサは再び満腹感と戦い始めた。
一瞬だけ危険な雰囲気が流れたが誤報だったようだ。
再び、和気あいあいとした雰囲気に戻った中で、ツカサの携帯が鳴る。
その宛先は『王子』と映っていた。
これは出なければならない。
「失礼、重要な電話だ。席を外すが好きに食べていろ」
そう言ってツカサは応答した。
『ツカサ君、ご機嫌様。今、忙しいかい?』
「少し移動するから待て」
『わかった』
ツカサは店を出た。
当然だろう。
聞かれるわけにはいかない。
「よし、要件は?」
『営業本部から聞いたけど、あの写真のトリニティ生が気になってるかなと思って』
「まあ、気になってはいたが…お前に調べさせるのもな。特に今そっちは忙しいだろう、色々と」
『調べるまでもないよ。同学年でああいう制服の着方をしてる子は少ないし、何よりブラックマーケットに行くなんてそうそうないからね』
「それで、誰なんだ?」
『その前に一つだけ。彼女に危害は加えないと約束してくれないか?』
「そんな気は毛頭ない。興味本位だ、約束しよう」
『…その言葉を信じるよ。彼女は阿慈谷ヒフミ君、2年生で同級生だよ』
「王子の?」
『ツカサ君は王子って言わないでよ…僕より王子っぽいじゃないか』
「お前ほど王子らしい見た目をしていない。どちらかといえば…」
『ごめん、女王だね。それでブラックマーケットに行く理由だけど』
「さぞすごい理由なんだろうな」
『ペロロって知ってる?』
「ぺ…ペロロ? なんだったか…モモフレンズだったか。それの何というか、前衛的な鶏だな」
『鶏かどうかについては同意できないけど、そうそう。その鳥さんだ』
前衛的な事は認めるようだ。
まあ、あの外見はそうとしか言いようがない。
子供が見れば泣きじゃくるレベルで前衛的だ。
目の焦点などが特に。
「その、ペロロがどうしたと言うのだ。何かの暗号か?」
『いや、そのペロロの限定グッズを買いに行く事もあるそうだよ』
「それは……本人から?」
『いや、彼女の行動力から来る分析さ。ペロロに関する事になると凄いからね…』
「まさか、ぬいぐるみかキーホルダーか知らんがそんなグッズの為にブラックマーケットまで乗り込んだと?」
『多分ね。9割確信できるよ』
「……理解が追い付かない。宗教か何かなのか、そのペロロは…」
思わず本音が漏れてしまう。
態々グッズ如きの為にブラックマーケットまで出向くなど正気の沙汰ではない。
己が強いのならまだしも。
強ければ今頃有名だろうから違うはずだ。
『熱狂的なファンって言うのは中々侮れないよ。まあ、その過程で強盗なんて事をしたのはわからないんだけどね』
「お前なら行くか?」
『僕はほら、オリジナルを大切にしてるから実家で作ってもらうよ。ツカサ君は行くだろうけどね』
「私が?」
『欲しいものがあればそれが何処だろうと出向いて手に入れる。それが君だよ』
否定できない。
もしかしたら自分も他人から見れば頭のおかしい奴だと思われているのだろうか。
(獅子は羊どもの評判など気にしないものだ)
ツカサはそう思う事にした。
ヒフミと呼ばれる人物もおそらく、ペロロに興味がない者からの評判など気にしないだろう。
なんせ、ブラックマーケットに乗り込んで強盗までする玉なのだから。
『ところでツカサ君は今どこに?』
「アビドス」
『それは…穏やかじゃない場所だね。一人で?』
「いや、警備主任と便利屋68が一緒で飯を食べていた」
『穏やかどころか、もう火薬庫なメンツだね…厄介な事になってない?』
「正直…疲れたな」
『迎えに行こうか?』
「お前、そんなに外出して大丈夫なのか?」
『今更辞めたってティーパーティーから睨まれている事に変わりは無いと思うけど』
「今は雌伏の時だ。時が来れば派手に動かすから我慢しろ」
『了解。じゃあ、また王子に戻るよ』
「そうしてくれ」
そう言って通話を終え店内に戻ろうとしたその刹那、背後で大規模な爆発が起こりツカサはその爆風を受け吹き飛ばされた。
(よりにもよって、マコト以外から爆発騒ぎに巻き込まれるとは)
恐ろしい権力者であろうと、爆風を無効化することはできない。
無論、瓦礫の下敷きになる事も…
怒りのカウントダウン
《05》
時はツカサが店を出たところまでに遡る。
「そう言えば、ルカちゃんは何であの人について行こうと思ったの?」
ムツキは思っていた事を口にした。
流石にツカサがいる前では聞き辛い。
なんせ威圧感が服を着て歩いている様な人物だ、先ほどの様に頻繁に不穏な空気が流れては困る。
大げさに言えば、全員がようやく生きた心地を味わえると言う事だ。
「あれ、言ってなかったか?」
「私はあらましだけ聞いた」
「え〜私全然聞いてないよ」
「深い事情がありそうね」
とまあ、逃げられない状態である。
「アタシが何者か知らないで誘拐した事から始まんだよ、このストーリーは」
「え、ルカちゃんあの人誘拐したの? よく大人しく着いてきたね」
「やばいくらい文句タラタラだったぜ? やれ、やり口が下手だのもっと丁寧に乗せろだの、スーツが汚れるだの…いやマジであの場で撃たなかったアタシが偉い」
しみじみと思い出してもそう思う。
我ながら大人だなーとルカは呟いた。
「んで、アジトに連れ込んで縛って座らせたんだ。口では抵抗したけど、何もしてこなかったしアタシも正直次の手を考えるの必死で財布も武器も取らなかったんだ」
「それは…流石に無警戒すぎないかしら?」
「いや、ほんとに口でしか抵抗しないんだよ。武器なんて持ちたくないですー的な。しばらくすりゃ大人しくなるだろって思うじゃん?」
「ツカサ相手にする事じゃないよ、それ」
「知ってた誘拐しないかもしれないし、しても殴って黙らせてる…それで風紀委員会に誘拐しましたー10万払えー的な事を言ってたらいきなり商談モードに入ってきたんだ」
「縛られてる状態でも商談する…まさしく社長ね」
「そうそう! いやー大物だったね今思えば。んで、命乞いでもするのかって思ったら人を見下すは、負け犬呼ばわりするわで…正直あの時は後悔した。センコーかなんかかってな」
「助けてーとかお金あげるからーじゃなくて、貶してきたの? へぇ〜あんだけ堂々としてるのはどんな時でもなんだ!」
「お前は自分の立場をわかってない、わかってる! ってキレたらわかっててそのザマかって笑うし…撃ってやろうって思ったら、ふとよぎったんだ。アタシがこいつ撃っても絶対また笑うじゃん。また負け犬だなって」
その発言に一同は「あ〜」と同意の声を出す。
脳内で簡単に再生できるのだ。
自らの持論を100%正しいと思ってる類のツカサならまず間違いなく言うのだ。
「それはちょっとムカつくし、じゃあ続きを言えって言ったら、態度が気に食わない、教えられる側なんだから誠意を見せろって。拘束外して言うことがスーツのシミだぜ?」
するとムツキは笑い出した。
「やっぱり、スーツ拘ってるんだ! 白色が多いけどたまーに赤だったり、青は初めて見たけど。命懸けの状態でシミを気にするんだ〜」
(カッコイイ!! 流石、万理ツカサね! 私も負けてられないわ!!)
アルはその堂々とした所作に思いを馳せた。
危険になると考えを改める連中が多いがツカサは違う様だ。
あくまで己こそが正しい。
絶対に曲げないその姿勢こそが、先ほどの問いへと答えを実践しているという証明。
「その後、面接みたいなことされて私の下で働け、1分やるから決めろって言われた。20秒くらい迷ったらスリル好きが笑わせるとか吐かすからアタシのプライドに賭けて働く事にした」
「その後どうなったの?」
「停学処分も取り消されて、風紀委員会に捕まる事なく無事に入社。アタシに着いてきたメンバー3人も雇われて今は楽しく仕事してるってよ。力関係やってんのアタシだけになったけど、楽しいからいいやってな」
「3人とは今でも連絡をとっているのかしら?」
「当たり前じゃん。定期的にメシ行くぜ? あいつらはあいつらの才能に相応しい場所で働いてる。曇りかけた青春が色を取り戻したみたいにな…だから、その点で社長には感謝してるんだ。あんな暴君みたいな態度でも人の才能を見抜いて投資する力を持ってる。社長はそれを『時間泥棒』とかなんとか言ってたけど、アタシらは無くしかけたもんを取り戻してるからいいんじゃねーかなって」
「「「『時間泥棒』?」」」
「魔法使いだと思うんだけどなぁ」
もしかしたら、その『時間泥棒』という言葉は先程のツカサから出た秘話にも繋がるのかもしれない。
他人の時間を些細な投資でものの見事に手中に収める。
相手は感謝し進んでその才能をツカサの為に使う、そしてツカサは投資した以上の見返りを手に入れる。
それを彼女は『時間泥棒』と言っているのだ。
他人から見ればそれは優れた才能が大量に集まり無限の富を生み出し続ける魔法なのだろう。
だがどれだけ拡大解釈しても魔法ではなく錬金術の類だ。
《無限に金を生み出す方法、錬金術の使い方ー万理ツカサ》
というタイトルで本屋に並んでいそうだが、その手法を簡潔に『時間泥棒』とツカサは呼ぶ。
だが、突然言われても何のことかわかり辛いものである。
何処が泥棒なのか全く分からない。
まだ、詐欺師と言った方が分かりやすい。
それが分かるころにはツカサと並ぶ社長になれるだろう。
その時までにツカサに潰されなければ。
幸か不幸かキヴォトスの学生たちで他人の人生を含めそこまで考えて行動する根っからの資本主義者などいない。
そもそも『経済』『資本主義』『投資』って何?
となる学生の方が多いだろう。
ミレニアム生でもない限り、一般的な学生が『投資』に触れる機会も少ない。
だから、お金を生み出す魔法を使える魔法使いなのだと皆が思う。
良い魔法使いなのだと、みんなを幸せにしてお金持ち稼ぐ。
そうやってツカサが行っている『投資』の本質を見抜けない、『資本主義の悪魔』が被る幾つもの仮面、その一つを見て満足する。
誰がどうして『善意』で人を救うのか。そんな聖人がこの世にいるのなら世界はもっと平和だ。
だが、知らない方が幸せな事もある。
今ある幸せが計算され尽くした『善意』によって強制されている道と思うより自分で選んだ道だと思う方がいい。
良くも悪くもそういった学生気分が万理製薬の躍進理由なのかもしれない。
そして、この場の面々もそれ以上小難しい話を続ける気もなかった。
どうしてルカがツカサを選んだのかを聞けたのだ。
それでいい。
残ったご飯を楽しく食べる事の方が大事だ。
「にしてもこの店、美味いな! 社長の奢りで、替え玉も無料なんだろ? アビドス生の『友達』だから」
そんな気分から出た何気ない言葉。
まさかこの発言が今から起きる悲劇の引き金になると誰が思うだろう。
同じ発言を店長…きしくも普段ルカがツカサに向けて使う『大将』と同じ呼び名をされる人物が言った時、少し感じていた違和感は隣にいた『女王』の圧力でかき消すことができたが、今は違う。
アルの中にあった違和感は
「────じゃない」
「は?」
「友だちなんかじゃないわよぉ────!!」
遂に爆発した。
「わわっ!?」
「せめて座れよ、な? アタシが言うのもなんだがせめてマナーはだなぁ…」
「わかった! 何が引っかかってたのかわかったわ! 問題はこの店、この店よっ!」
「どゆこと!?」
「私たちは普段仕事しにこの辺りに来てるの! ハードボイルドに!! アウトローっぽく!! なのに何なのよ、この店は! お腹いっぱい食べられるし! あったかくて親切で! 話しかけてくれて、和気あいあいで、ほんわかしたこの雰囲気! ここにいると、みんな仲良しになっちゃう気がするのよ!!」
「それに何か問題ある?」
「親睦会なんだから、そらそうだろ…」
「それでも!! 別に態々ここで、この店でする必要なかったじゃないの!!」
「おめーが美味しい店があるって言うから来たんだろうが!! んな事言ったら、後で歩かせた事への小言を言われんのアタシだぞ!? しかも、アビドスにまで連れて来ちまってよぉ…」
ムツキとルカは初めこそ窘めていた。
だが、来る必要がなかったとまで言われてしまうとルカにだって言いたいことはある。
マナーがなんだと言った張本人が立ち上がり大きな声で抗議した。
「それは…あなたが別の場所言えばいいんじゃない!! メチャクチャでグダグダよ! 私が一人前の悪党になるには、こんな店はいらないのよ!」
「悪党だって店の一つや二つ、気に入ってほっこりしてもいいだろ!! さっきまでの圧迫感がねぇだろ、それでいいだろ」
「私に必要なのは冷酷さと無慈悲さと非情さなの! こんなほっこり感じゃない!!」
つい先ほど『冷酷さと無慈悲さと非情さ』の権化と商談し圧迫感を出されていたのを忘れたかのようにアルは語る。
いやそんなツカサにだって一人でほっこりする時間があるだろうに、それすら否定し始めてはもうどうしようもない。
たまには肩の力を抜いてもいいんじゃないか。
「いや、それは考え過ぎなんじゃ……」
ルカがヒートアップしてしまいこのままでは収拾がつかなくなりそうなのでムツキも助太刀する。
ツカサに認められたとはいえ、誰もツカサになれとは言ってない。
アルなりのアウトローになればいいのにと。
「……それって……こんなお店はぶっ壊してしまおうってことですよね、アル様?」
「……へ?」
物騒な事を言ってハルカが何かを取り出した。
「良かった、ついにアル様のお力になれます」
「起爆装置? なんでそれを……」
「起爆装置!? おいやめろ、こら!」
「ハルカ、ちょ、ちょっと待っ……」
ルカとカヨコの静止も虚しく、ハルカは装置を押していた。
「……へ!?」
瞬間凄まじい轟音と閃光が店内を包み込む。
「なんで爆弾仕掛けてんだよ!!!」
ルカの絶叫すら呑み込まれていった。
さて、怒りのカウントダウンが始まりました。
こうなった以上、誰かを生贄にしないと収まらないかもしれません……
悪いことをしてしまった生徒は多いブルアカですが、果たしてツカサの行為は悪でしょうか。
先生とか黒服のように大人であればそれに裁定を下せるのかもしれません。