枯れない花   作:風祭 伽羅

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【枯れない花】《1/10㌻》

シャラは夢を見ていた。とてもリアルに展開される事なのに現実感がないから『あぁこれは夢だな』ってどこかで分かってる夢。

 

それは凄く優しくて暖かくて、もう自分には感じる事の出来ないものなんだと、空想にすらそう感じてしまう事が悲しくて、そんな夢を見た日は泣きながら目覚めるのだ。

 

しっかりと眠る事は出来ずに起き上がると辺りはまだ薄暗い。起床と定められている時刻にはまだほんの少し余裕があった。毎日シャラを挟んでまるで守るかの様に眠っているのは彼女の双子の兄のリュカとラインハットの王子だったヘンリー。薄汚れてしまっているその頬に指を伸ばせば彼等はちゃんと温かかった。それを確認して二人が今日も存在する事に心からほっとして『少しだけ』と寝ているリュカに抱き付く。

 

────これが一日の始まりだった。

 

 

 

「おらガキどもっ!!さっさとやれ!!」

 

力一杯怒鳴る声とバシンッバシンッと鞭のしなる音が辺り一帯に大きく響いている。それにビクッと怯える人もいるが、大抵の人は無気力にただ鞭打たれて、黙々と言われた作業をこなす。

 

 

あの日──パパスが魔物に敗れ、意識を失っていたシャラとリュカ、ヘンリーの3人は何処とも知れない場所に連れて来られた。大きな洞穴の様に切り立った山、の様だと空気や時折吹く風から漠然と感じたのがもう3年前の事だった。

 

風は唯一の癒しであり、何も分からない自分達に沢山の情報を与えてくれる。山の上なので冷たい風なのには変わりないが、その中に若干の変化が感じられる様になってからは季節の移り変わりなどが分かる様になり、3人を支える安らぎの瞬間になっていた。

 

 

辺りが暗くなると灯りを付ける事などは殆と無いので、日が昇るまでは奴隷達の作業も一休みになる。そして『今日も疲れた』と言葉にならない呟きが誰の顔にも浮かぶ時間。僅かな休息の時間を傍受する為に暗い洞窟の中に人々が吸い込まれて行く。ただムシロを敷いただけの土の上に『横になれるだけで幸せだ』とばかりに沢山の虚ろな目をした大人達がひしめき合っている狭い空間。

 

そんな中で小さなシャラ達に許されたのは極僅かなスペースだった。ヘンリーが機転を利かせたお陰で壁際にいられるのは小さな幸せだ。周りは大人ばかりで同じ年頃の子供は自分達だけ。3年の間には子供も結構送られて来る事もあったが大概はどの子もいつの間にかいなくなっている。その度にシャラは泣いていたがこんな過酷な状況で何とか生き延びていて成長をしている彼等は非常に珍しい存在だった。

 

まだ『力仕事は出来ない』と見なされて男女関係なく子供に割り当てられる労働は比較的軽いものだ。リュカとシャラは幼い頃から父親と旅をしていた事もあり、子供と言えど体力も力もあったがそれはヘンリーの為に隠して過ごしていた。

 

ヘンリーは生まれた時から今までずっと紛れもない王子様だ。いくらヤンチャで活発な子供だったとしてもそんな二人と比べものにはならないし、明らかに普通の一般家庭の子供よりも運動量は少なく済んでいて身体的にはかなり甘やかされて優しい環境で過ごしていたのだろう。

 

そんな彼はこの様な苛酷な環境の中で何度も死にかけて、何度も熱を出していた。だが薬も貰えずに、食事もほんの少しで決して満足に与えられないこの状況にリュカとシャラはどのくらい歯を食い縛りながら涙を流した事か分からない。時には逆らって必死で訴えたがそれらは全て無意味な行為ででただ傷が増えるだけだった。なのでそんな時にもただヘンリーのその手を握る事しか出来ない自分にシャラは無力感を感じていた。ひたすらに恐怖と戦い、希望を願いながら。

 

そして、今も──今まさに高熱を出したヘンリーが苦しみもがき、堪え忍んでいた。

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