枯れない花   作:風祭 伽羅

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【枯れない花】《2/10㌻》

ピチャン……

 

「水汲んできたよ…ヘンリーは?」

 

シャラは水が入ったツボを受け取ると溢さない様に慎重に床に置いた。無言で首を振るその姿を見てリュカは青冷めながら苦しそうなヘンリーとツボに手を差し入れる妹を見ていた。水は汲んで来れるのだが濡らせられる布が無い。だから水で自らの冷やしてそれをヘンリーの額に当てるしかない。それを何度も何度も繰り返している。

 

「ヘンリー…」

 

どれだけ意識が無く辛そうにしていてもそんな事しか出来ない事が凄く不安でシャラの瞳には涙が浮かんでいる。なので例え手の感覚が無くなっても止める事はない。ただ『どうか良くなって』と、その思いだけで疲れてクタクタな身体でも頑張れるのだ。

 

そしてそんなシャラの切実な祈りが届いたのか、ヘンリーがうっすらと目を開ける。

 

「!…ヘンリー、大丈夫?お水飲む?」

 

「ん…みず…」

 

水を飲んだヘンリーがゆっくり手を伸ばしてそっとシャラの頬に触れる。

 

「…なに、泣いてんだよ……大丈夫、大丈夫だから。こんな…ので…くたばったり…しない」

 

へらっと力無く、それでも笑うヘンリー。頬に触れた手はとても熱くてシャラはそれを掌で押さえる。

 

「うん…早く、良くなって」

 

「お前の手…冷たい…オレ…平気、だから…」

 

「早く…休め…」そう言ったのは消え入りそうな声でシャラは首を横に振る。

 

「やだっ大丈夫だもん!大丈夫だから…」

 

シャラはヘンリーの手を両手でぎゅっと握って必死にそう訴えていた。そんな二人のやり取りを見ていたリュカが肩に優しく手を乗せる。

 

「そろそろ交代、ね?」

 

「リュカ…」

 

「僕は休んだからシャラも少しでも休みな」

 

無理矢理にシャラを抱上げてその場を奪う兄に妹は「ありがとう…」と小さく呟いた。

 

 

「そうだ…リュカ…」

 

「ん?なに?」

 

ヘンリーの視線は横の土壁。彼が石で付けている傷が沢山刻まれている。

 

「…やっぱり…なぁ、二人共…ちょっと来て」

 

おいでおいでと手招くヘンリーに二人が近付くと自分の敷いているムシロの下からゴソゴソと何かを取り出して目の前に差し出した。

 

シャラとリュカの視線の先にあるのは二つのツルリとした石。まだ大きくない掌に狭そうに並んでいて、でこぼこが何かの形に見える綺麗な物。

 

「…こっちがリュカで…こっちがシャラのな」

 

「はい」と渡されれば両手で受け取る二人。

 

「ヘンリー?これなに?」

 

リュカが訪ねるとシャラも不思議な顔で首を傾げた。それを見て笑い出すヘンリー。

 

「はは、…兄妹揃って気付いてないのか…?」

 

「なに?」

 

「わたしも分かんない」

 

渡された石をじっと見つめればその石は『花の形をしてる』とシャラは思った。

 

「誕生日……おめでと…」

 

「あ!」「あ!」

 

ヘンリーの祝いの言葉に同時に顔を見合わせる双子達。そして二人でヘンリーに抱き付いた。

 

「ヘンリー!ありがとうっ」「ヘンリー!」

 

「うわっちょっ…おまえら!…風邪移るぞ…」

 

その言葉にハッとしてこれまた同時に離れればヘンリーは無くなった暖かさに寂しさを覚える。だけど心配そうな顔で二人に覗き込まれるのを見てまた笑う。

 

それはとても穏やかな時間で『このまま時間が止まってしまえば良い』と誰からともなく呟いた。それでも時間は平等に残酷過ぎるくらいに刻まれるのだ。リュカは余韻の残る幸せを噛み締めて目を閉じた。

 

「ほら二人共、休んだ休んだ」

 

そう言ってリュカはヘンリーを横に倒してから、先程の石を指でなぞる。

 

それはネコの様な形をしていた。

 

「ありがとな、ヘンリー。おまえがいるから僕達は笑えるんだ」

 

「…そんなのお互い様だろ」

 

「頑張ろうな…」

 

「当たり前…だろ…」

 

 

 

───その頃、横になったシャラは手の中にある花が嬉しくて嬉しくていくら瞳を閉じても眠る事など出来なかった。

 

 

~age.10~

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