ARE CLAW   作:silentr

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 2.

 「あてんしょんぷりーず。」

 

 弾丸をばらまき、カカシ車をスクラップにした、赤い天使(のつもり)のアリアが地上に舞い降りる。

 

 アリアは、スタッと鮮やかにポーズを決めようと頭の中でシミュレート。しかし、”痛そうだから、やっぱやめ”。そして、しゃがみ込むように着地すると、そのままゴロゴロと転がった。

 

 勢いが落ちたところで、もう一度ゴロリと転がりと体勢を立て直す。

 立ち上がり、鬱陶しいゴーグルをぐいと頭の上に押し上げると、ふぅと大きなため息一つ。

 

 何度かゆっくり手を開いて閉じた。肩をグルグル回し。手足の間接を細かく動かす。身体中を動かしてチェックしながら少しゆっくりと歩きだす。

 首を振って髪を流し、パンパンと服や身体についた埃とゴミを払う。

 

 「あーあー、白いシャツが、汚ちゃない…」

 

 特に怪我はなさそうだった。

 しびれたような感覚が腕に残っていたが、それは拳銃を撃ったため。

 

 辺りはいまだ薄く硝煙で霞んでいた。

 アリアはスクラップになったカカシ車を見つけると、ツカツカと近づいて――。

 ガシャン――無造作に蹴り飛ばす。

 カカシ車の残骸が飛び散り、カンカン、カラカラと音を立てて道路に散らばった。

 

 見下ろす視線の先に灰色の金属製の箱が転がっていた。

 

 アリアは見つめる。つまらない物を見るような醒めた目で。

 そして、おもむろに拳銃を向けると引き金を引き、ガンガンガン――三発弾丸を立て続けに撃ち込む。

 

 キキン・キン・キンと空薬莢が道路の上で跳ねて転がった。

 

 金属の箱が壊れて中が現れる。当然グチャグチャだったが、一部の機械は生きているのか、緑色と赤色の小さなランプがチカチカと点滅していた。

 

 アリアはその中に、まだそれが何かわかる部品を見つける。

 カメラのレンズ、スピーカー、そして多分無線装置――ほとんど予想通り。

 ふん、と鼻を鳴らすと弾丸を――ガン!――もう一発撃ち込んだ。小さなランプが息耐えるように静かに明滅を止めて機能停止。

 

 辺りに新たな硝煙と沈黙が広がる。

 

 そういえば――

 

 ようやく自転車少年を思い出し、アリアは彼が走り去った方向を見る。彼の背中どころか、姿そのものが見えない。

 

 聞き逃していないのなら、爆発音はまだ聞こえてこないし、爆煙らしきものも見えない。ということは、彼は現在進行形で一生懸命に自転車ペダルを漕いでいるはず。

 爆弾が時限式だったら意味ないが、減速してドカンのタイプ。もちろん、過去と同じケースならば。

 

 だが――わざわざ真似してるんだ、恐らく同じだろう。

 

 少年は何らかの方法でそれを知ったか、知らされたので一生懸命走らされている。

 

 教えたのは――ちらりとカカシ車だったスクラップを見る。

 

 さっき散らばった部品の中にスピーカーっぽいものがあった。たぶんあれを使って”止めると爆発する”とでも言ったのだろう。

 

 「花火…上がんないとこ見ると、がんばってんのかー、そっかー。」

 

 アリアは空をみつめて少し考える仕草。相変わらずの白い空。世界の果てまで変わらないんじゃないかと思える。

 突然、頭の中にノイズ――何かを思い出しかけた。アリアは振り払うように頭を振る。

 

 「やれやれ…」

 

 しかし――さっきの少年。なんか気になる。さっき目があった時を思い出す。なんだろう?

 不意に必死な形相で自転車を漕ぐ少年の顔がアリアの頭に浮かぶ。

 

 ふう、とため息をつく。

 

 視線だけであたりを見回し(何かないか)と探す。無けりゃないで何もしない。とりあえず合掌してナムナム、回れ右して帰るつもりだった。

 だって、カカシ車でデータ取れたしー、あとは爆発するだけだしー、巻き込まれたくないシー、死体か重傷者一名ってとこだシー。

 

 「ちっ、運のいいヤツ。」

 

 あからさまな舌打ち。

 

 少し離れたところに”何か”があった。

 アリアは見つけたモノにスタスタと歩み寄り、それに跨がる。

 黒光りする大型のオートバイ。無骨で色気のない古くさいタイプ。ネイキッドタイプとか呼ばれる代物。

 

 アリアはポケットから武偵高校謹製の解錠キットを取り出すと、バイクのキーに差し込み、カチャカチャ、グリグリと動かしはじめる。

 カチリと何かがはまる感触が手に伝わり。一気に捻るとぐるりとキーが回る。

 

 アリアはニヤリと笑って、足下を探す――が、残念、キックスターターはない。仕方なくスターターボタンを押し込む。

 エンジンが盛大に吠える。血の通った生き物のようにバイクが震え、それに跨がるアリアの全身が震えた。いい感じ。なかなか感じるバイブレーション。

 

 「借りるぞー」

 「どうぞー」

 「ありがとー」

 

 誰もいないところで自己完結すると、アクセルを何度か捻り、思い切りふかす。エンジン咆哮をあげ、タコメーターが右から左へと往復する。

 そして、一気にクラッチをつなぐ――ガスン――エンストしそうになりガクガクと上下に揺れされながら、それでも、なんとか――キキキッ!と、リアタイヤを鳴らしロケットスタートっぽく発進する。

 

 「カッコわる!!」

 

 映画みたいに行くわけ無い。慣れないことをするもんじゃない。

 右手のハンドルを捻りアクセルを開ける。バイクは流れるように加速していった。

 

 春先の冷たい空気を切り裂きながら、道路を疾走するバイク。

 冷気がアリアの頬を撫で、赤いテールをなびかせる。

 ちょっと寒いけど、すっげー気持ちいい。バイクにハマる奴の気持ちが分かる。

 

 が…おかしい。

 

 アリアは前方を見据えたままで思考する。

 ここは学校の敷地内。今日は始業式で、とっっくに始まっている。だから遅刻決定。しかも転校初日。先生様の説教率は200%。

 

 やっべぇじゃん、あたし…フケるか。

 

 いや、そうじゃない。それも問題だが、今の問題はそこじゃない。

 たしかに、パンピーなんか寄りつかない東京武偵高校だが、それだって限度がある。学生は登校済みでいないにしても、あまりにも人がいない。 

 誰にも会ってないし、道路に何も走ってない。なんでだ?

 交通規制かなにかしやがったかな…ホント念入り、ご丁寧なことだ。

 でもまあ、いいか。これはこれで都合がいい。

 

 アクセルを開けてバイクの速度を上げる。

 

 エンジンが吠えて風が顔を叩いた。風の音がひっきりなしに耳の中をかき混ぜるように鳴る。ただの騒音のはずなのに不思議と気持ちがいい。

 赤いテールがなびく。頭を後ろに引っ張られるような感覚があるが、左側にしかテールがないので、ちょっとバランスが悪い。

 

 「いえーい。ノーヘル、サイコー!ひゃっほー」

 

 なお、日本ではオートバイに乗るときはヘルメットの着用が義務づけられています。着けずオートバイを運転すると道路交通法違反になり、捕まると減点されます。罰金はありませんが、安全のためにも必ずヘルメットを着用しましょう。

 

 アリアが現状を忘れて、思わず声を上げたところで――いた――金山 九郎、その背中が見えた。

 ずいぶんと疲れているのだろう、ヨロヨロしながらペダルを漕いでいる。

 

 九郎がバイクのエンジン音に気づき振り向く。

 アリアは一気に九郎の自転車を追い越し、距離を取ってからスピードを落として自転車の右側を併走した。

 

 疲れ切った顔でアリアを見る九郎。その黒い瞳には精気が無い。乱れまくった武偵高校の制服。首もとのネクタイも疲れている。春まだ早いというのに汗だく。黒い髪が汗で頭に張り付いていた。

 

 ”もう勘弁してくれ”と、体全体で体現。

 

 アリアはパチリと可愛く(自分評価)ウィンクをして、左の指を小さく動かしてサインを送る。

 

 ”Right Now!今すぐ降りろ”

 

 九郎は驚いた顔をして「無理言わないでくれ!爆弾がある!」と大声を出す。

 アリアは犯人の監視を考えてサインを送ったわけだが、それは伝わらなかったらしい。

 お前、何のためにあたしがサイン送ったと思ってやがる。と内心イラっときたが、もういいやと面倒なので声を出す。

 

 「んなこと知ってる。あたしがチャリ運ぶから飛び降りろ。」

 

 左手で自転車のハンドルをつかもうと手を伸ばすが、届かない。

 

 ――あれ?

 

 素敵な計算違いが発覚。

 アリアの身長は低い。小学生とはいかないまでも低い。発達途上と本人は舌の上で抵抗するも、色々理由があって実はすでに成長が止まってると知っている。当然、腕も足も短く簡単には届かなかった。

 

 うんうん言いながら、左手を必死にのばしてなんとか掴む。

 九郎に向けて”どうだ”と言わんばかり、さわやかな達成感の笑顔を見せた。

 それを見た九郎は苦みばしった、渋い愛想笑い。

 

 (この子はこの状況で何を期待しているんだ?)

 

 とにかく、アリアが自転車を掴んでくれたことで一休みできた九郎。

 「降りたら…ぜい…爆発す…るって」ペダルから足を離して息を整えな がら言う。

 「へー…試したのか?」口笛でも吹きそうなほど軽やかにアリアが答える。

 「するか…。」

 

 ジトっとアリアを見る九郎。

 おーおー、お疲れだねえ。

 

 「面倒だから説明しねえぞ、さっさと降りろー、降りろー」

 「おい…聞けよ」

 「うるせえ、やなこった。」

 

 アリアは銃を向ける。驚いたことに彼女は右手をハンドルから離していた。曲芸とまではいかないが、なかなかのバランス感覚。両手離し運転状態。

 

 バイクのハンドルから右手を離す=アクセルを離すことになる。

 エンジンブレーキがかかり、スピードが一気に落ちていく。みるみる減速していくバイク。もちろん、アリアが左手でつかんでいる自転車も道連れだ。

 

 いったいどの程度の速度で爆発する仕掛けか知らないが、一度速度上げているから、制限ラインが上がってる可能性が大きい。

 あたしならそうするなあ。とアリアはのんきに思った。

 

 というわけで――

 

 「アクセルを離すなあああ!」必死の形相の九郎が叫ぶ。人間必死になればどんなに疲れていても叫べるものだと証明。

 「あ!ごめーん」ぺろりと舌を出し、悪気がないことを可愛くアピールするアリア。反省の意はまったく感じられない。

 

 「だから、降りろって――あれ?」

 

 右手をアクセルに戻したアリアが言いかけて止めた。

 九郎の表情が、何か良くないことを気づいたように青ざめていく。

 アリアも気づいた。

 

 このバイク、なんか都合良くあると思ったら――

 

 右手を戻し、アクセルをふかしているにも関わらず、バイクのスピードが出ていない。

 

 罠っすか――

 

 

 

 

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