【朗報】彼女が出来ました。
お相手は紫色のサイドテールがトレードマークの神室 真澄ちゃんです!俺なんかには勿体無いほどの素敵な女の子です! やったね!!
はい。
で、だ。ここで話が終われば目出度し目出度しなのだが……
「ねえねえ貞子くん!! Aクラスの女の子と付き合ってるって本当⁉」
「どういう経緯で知り合ったワケ⁉ 軽井沢さん達に次いでまさかのカップル誕生とか!!」
「もうデートとかしたの⁉」
「おいコラ!! 貞子!! 何でお前みたいな根暗野郎がリア充になってんだよ⁉」
「弱みとか握って無理やり彼女にしたんだろ? そうなんだろ⁉」
【悲報】陰キャ男。Dクラスの面々に囲まれる。
いや、もう凄い。圧が凄い。熱意がヤバくて火傷しそうな位に凄い。
もうすぐ一月経つにも関わらず、俺が今までDクラスの面子で会話をした事あるのは櫛田、平田、長谷部の三名だけだった。
だが今朝登校するや否や、ぶっちぎりで記録更新。『軽井沢』と『篠原』を中心とした女子グループ数名に『池』や『山内』を筆頭に『菊池』や『本堂』まで。
一気に俺はクラスの人気者である。うん。全く嬉しくない。
あと貞子くんって何だ。誰が貞子だ、誰が。いや、まあ確かに貞子みたいな前髪かも知れないが、あそこまで長くは無いぞ。
窓際最前列。俺の席だけやけに人口密度が高い。初夏の足音が聞こえ始めた季節柄か、じわじわと気温は上がって来ている。それに加えてこの熱気だ。冷汗なんだか脂汗なんだかがダラダラ垂れる程に居心地が悪い。
おまけに今日は昼前に体育の授業があるのだ。人垣の隙間からチラと後方を覗けば、予想通り長谷部がニヤニヤとした笑みで俺の醜態を眺めている。
『あとでくわしく』と、口パクだけで器用に伝えて来る様子を見るに、彼女も俺の恋バナに興味津々らしい。勘弁して欲しい。割と本気で。
頭を抱えて現実逃避したくはあるが、取り敢えず囲んでいるクラスメートをどうにかしなければならない。
「あ、あの……ボクの名前は佐城なんですけど……」
「お前の名前なんかどうだって良いんだよ!! どんな手を使って女の子を手込にしたんだ! 言え⁉」
「まさか盗撮とかして『ゲヘヘ……これをバラ撒かれたくなければ……』みたいに脅してエロい事したんじゃないだろうな⁉ エロ同人みたいに!!」
「いやいや……流石にソレは無いよね?」
「でも、なんか理由が無いと不可思議じゃない? 態々、あんなのを彼氏にするなんて」
「言えてるー。絶対に何か悪い事したでしょ貞子くん」
「大体そうでも無きゃこんな根暗に女の子が寄って来るワケねーじゃん! 中学時代に告られまくった俺じゃあるまいし」
「いや、ぶっちゃけどんな男でも山内くんよりはマシだから」
「言えてるー」
「は、はぁ⁉ お、お前ら見る目無さ過ぎだろ⁉ そもそも俺には伝説の樹の下で約束を交わした初恋の娘がなぁ!!」
「あーもー!! 山内の嘘なんかどうでもいいから! 貞子くんの彼女ってどんな人⁉ 名前は⁉ 趣味は⁉ 知り合った経緯は⁉」
「う、嘘じゃ無ぇよ! 俺の中学時代は「出会いはいつ頃⁉ 告白はどっちからしたの⁉ 付き合ってから何処まで進んだ⁉」
「ヒェッ」
駄目だ。全く話を聞いてくれない。俺の恋バナで勝手に盛り上がっている癖して、俺の名前などどうでも良いとはこれ如何に?
と言うか女子よ。お前ら碌に話した事も無いのにすげー聞いてくるじゃん。根掘り葉掘り聞き回ってくるじゃん。
お前ら、アレだぞ。俺がスタンド使いの暗殺者だったら殴り殺してるね。「葉っぱ掘ったら、裏側へやぶれちまうじゃあねーか! 掘れるもんなら掘ってみやがれってんだ! チクショーーッ」ってブチ切れながら発狂して殴り殺してるよ。まあ、やらんけど。
あとちょっと黙りしている間に、いつの間にか男子を中心に俺に対して盗撮犯疑惑が浮上している件については怒っていいだろうか。
そもそも盗撮犯は外村を中心としたお前達だろうが、山内と池。まだおっぱい賭博が続いてるのを、こっちは知ってるんだからな。
あと将来的には須藤も巻き込んで女子更衣室盗撮計画立てたりとか。
「ねえねえ! 早く答えてよ! 教えて教えて!!」
「まあ、貞子くんには全然興味無いけど、君みたいなのを彼氏に選んだ、変わり者の彼女さんの名前ぐらいは知りたいよねー」
「早くしろっ!! 間にあわなくなっても知らんぞーーっ!!」
嗚呼、もう全く。果たして、どうしてこんな面倒な事になったやら。
あまりにも騒々しくも愚かしい周囲の熱狂に、俺はどこか現実逃避しながら神室と正式に付き合う事になった切っ掛けを回想した。
「『橋本』? ああ、あのロリコンのチャラ男ね」
「いや、ロリコンって」
三日前の話である。雑談の中で今日一日の話をしていると、当然ながら山菜定食を食べていた時に接触があった橋本の話にも触れる事になる。
彼は俺が神室の彼氏だと勘違いしていたようなので、否定しておきましたよ。と神室に説明していた訳だ。
「チャラ男は、まあ。雰囲気で分かるけどロリコンっていうのは何処から出てきたイメージなのよ」
「あいつ、いつも『坂柳』さんっていう見た目が幼い同級生に対して執事みたいに世話焼いてるのよ。いつもニヤついた笑みしてるし、何となく嫌な感じ」
顔を歪めてそう吐き捨てる神室の様子を見るに、女慣れしてそうな金髪のチャラ男は好みでは無いらしい。
原作では彼にアプローチをされていた事を知っている身としては、どこか不思議な違和を感じた。
「坂柳って、杖突いている娘だっけ? ベレー帽被ってる娘」
「そう。何? あんた、知ってたの?」
「まあ、目立つし。あとは名前がなあ」
「名前?」
「この学校の理事長の名前。入学式で自己紹介してたじゃないの。『坂柳 成守』って」
「坂柳……つまりあの娘は理事長の実の娘って事?」
「まあ、坂柳なんて珍しい苗字でも無いから確証は無いけど。唯、普段から杖を使わないとまともに歩けないような娘が、この実力至上主義の学校でトップのAクラスに在籍している事を考えるとなぁ……まあ、色々邪推しちゃうよね」
「つまり、坂柳さんはコネ入学でAクラスに配属された。って事?」
まあ、単純に原作知識で坂柳の事や理事長との関係を予め知っていただけなのだが。
ファンの間でも様々な憶測が飛び交っている坂柳のAクラス配属理由問題。俺としては単純に理事長の贔屓によるコネ入学を推す。
と言うか彼女はAクラスじゃないとキャラクター的に活躍出来ないからだ。
仮にBクラスならカリスマと人望で一之瀬に勝てない。あの仲良しクラスにドSの姫様の居場所は無い。
Cクラスなら多分即死。プライドの高さから龍園に逆らってボコボコにされる。仮に理事長の娘。と言う親の七光りを全面に利用して一時の権威を手に入れたとしても、理事長代理がやって来た瞬間に詰む。
Dクラスは一番成り上がりの可能性があるが、これはメタ要素として駄目だ。偽りの天才を葬るのは云々。と語っている坂柳が主人公と同じクラスではストーリーが盛り上がらない。
まあ、だから彼女がこの学校で上手く生活していく為にはAクラスじゃないと無理だよね。と言うお話だ。
「まあ、個人的には金もコネも実力の内だと思うから別に不満は無いさ。それに、あくまでこの意見は俺の邪推、妄想の域のお話。神室くんも外では口にしないでね?」
「分かってる。そもそも私だって坂柳さんに関わり合いになりたく無いし」
「え? 何で? 嫌いなの?」
まさかの神室の言葉にガラガラと原作が崩壊する音が聞こえたのも無理は無い。
半強制とは言え、あれだけ原作では甲斐甲斐しく坂柳のパシリをしていた神室の面影は一切感じられない台詞だった。
「あの娘がどうこうって言うか、ウチのクラスは今、何か割れてんのよ。派閥って言うの? 坂柳さんを担いでるのと、もう一人の男子を担いでる連中で真っ二つ」
「まあ三人集まれば派閥が出来る。みたいな言葉はあるから理屈は分かるけど」
「意識高い系って言うの? 優等生ばっかり集められたAクラスだから。っていうのが理由なんだろうけど、とにかく派閥問題でピリピリしてんのよ。ちなみに坂柳さんを持ち上げて幹部扱いされている一人がロリコンの橋本」
「幹部って……いよいよエリート染みて来た話だねぇ。ちなみに他の幹部って誰か判る?」
「橋本以外は話した事も無いわよ? 確か……『鬼頭』君っていう男子と、『山村』さんって言う女子だったと思う」
「……ふぅん。そこら辺は俺も知らないなぁ」
「まあ、幹部だ側近だ。って単語が出来て勝手に格付けが始まったのは最近の話だしね」
サラッと嘘をついてしまったのは申し訳無いが、ここで気になる情報が出て来た。
鬼頭は良い。常に着用しているらしい謎の手袋とワカメみたいな髪型、発狂した鬼婆みたいな顔付きのフィジカルモンスターは原作にも登場していた。
だが山村。そんなキャラクターは少なくとも俺の知る原作知識には存在しなかった筈……いや、居た!
確かに名前だけだったが、1年生編の最後の特別試験である『選抜種目試験』に登場していた。科目は確か数学の試験。
つまりAクラスの中でも特に学力に秀でている存在である証だ。
……まあ、そんな事を知っていたとしても山村がどんなキャラクターかは分からないので、大した情報でも無いのだが。
取り敢えず、モブとは言えども原作キャラなら転生者では無さそうなので一安心だ。いや、まあ。俺みたいに憑依者って可能性も捨てきれ無いが、そこまで疑心暗鬼になってしまったら何もアテに出来なくなってしまうし。
「と言うか神室くん。他のクラスメイトには君付け、さん付けなのに橋本だけは呼び捨てなのね」
「クラスメイトとはあんまり関わりが無いから意図的に距離感を演出したい。って言うのもあるけど、それとは別に橋本は気に食わないのよ」
「あー……ロリコン疑惑があるから?」
「そうじゃない。チャラい男って嫌いなの。軽薄で、平気な顔して女を弄ぶ人間なんて大嫌い。私は……」
そこまで口にしたところで、神室は思わせぶりに口を閉ざした。
すっかり彼女の定位置と化していたクッションから立ち上がった神室は、俺の隣へ。つまり俺が座っていたベッドの隣に腰掛けた。
「え? 急にどうしたのよ神室くん?」
「私は、ね」
肩と肩が擦れ合い、彼女の紫に染まったシルクの髪が俺の首筋を撫でる距離。
最近になって彼女との距離感が益々近くなったのは、やはり俺の勘違いなどでは無かったのだろう。
「私は、一人の女性を大事にできない男性が心底嫌いなの」
もはやお約束の如く俺の前髪を静かに、それでいて優しく掻き上げた神室の視線は、俺の瞳を真っ直ぐに射抜いていた。
「ねぇ? あんたは、そんな私をどう思う?」
真剣な。それこそ、まるで大切な何かを告白するような。
いや、事実、この台詞は彼女にとっての精一杯の告白なのだろう。
普段のささくれだった様子からは考えられない程に頬を赤く染め上げた神室は、俺の瞳をジッと見つめながらそう告げたのだった。
一瞬か、それとも長い時間だったのか。沈黙の帳が、俺の部屋を覆う。
心臓の鼓動。
遠くに響く耳鳴り。
吐息の音。
静寂が五月蝿い。
そんな矛盾した言葉が当てはまる、奇妙な時間だったのは確かだろう。
ゴクリ。と俺はすっかり渇ききった喉を鳴らして、何とか唾を飲み込んだ。
今程、顔を見られるのが恥ずかしい。そう思った事は無い。ハリソン少年自慢の白皙はきっと、完熟した桃のような色に染まっているだろうから。
「……まあ、そりゃ、うん。女の子からしたら、そうだよね」
真夏の太陽よりも眩しくて熱く、敬虔な修道女のように神聖で真摯なその菫色の瞳は、例えようも無い程に美しかった。
どこまでも純真で、果てしなく至誠。
だからこそ俺のような世俗に薄汚れたオッサンには、眩しくて。眩しくて。
余りにも眩し過ぎたものだから、どうにも心が痛くなった。
「それだけ?」
四十年近く生きて、酸いも甘いも噛み分けて来た筈なのに、少女の告白一つに真っ直ぐ向かい合う事さえ出来ない。そんな自らの存在が、どうしようも無くちっぽけで恥ずかしくて。慚愧に堪えない。という言葉はきっとこういう時に使うのだろう。
俺はもう、本当に。本当にどうしようもなくて、いっそ態とらしいくらいの速度で咄嗟に神室から視線を反らした。
「うん? いやぁ、まあ。何と言うか、アレだよ……ねぇ?」
「……」
「あーちょっと喉乾いたよ。うん、ちょっと待っててね」
堪らず、ヘッドボードの収納部分の上に置いてあった飲みかけのペットボトルを手に取り、すかさず中身のシードルを口内に流し込んだ。
喉は乾いている。でもそれ以上に、何となく、この言い表せない熱と光が満たしている、この空気を炭酸と共に洗い流したかったのだ。
だから俺はジトッとした湿度の籠もった瞳でこちらを見やる神室の視線などには当然ながら気付いて無いし、「ヘタレ」とボソリと呟かれた声も聴こえなかった。聴こえなかったって事にしといた。
取り敢えず時間を置こう。その内、きっと、互いに頭が冷える筈。
そうすれば、ほら。また神室と二人。退廃的でありながら、どこか優しい。
互いに寄り掛かりながら、気怠げに日々を過ごす。そんな日常が戻る筈だと思っていたのだ。
「ちょっと、こっち見なさいよ」
「いや、今はちょっとアレがコレでソレって言うか……」
思っていたのだが。
「ふぅん。そう言う風に誤魔化すん…………だっ!!」
「うぉっ⁉」
ドンっと音を立てて神室に突き飛ばされたと思った時には視界は急激に反転していた。ベッドマットがクッションになって頭蓋がゴム毬みたいにバウンドしたものだから、一瞬脳が揺れたみたいに錯覚する。
手に持っていた密造酒入りのペットボトルはフローリングに落ち、残った炭酸が吹き出し、飲み残した黄色い酒が床を汚していく。
そんな事に気を取られる内に、視界に影が落ちる。
気がつけば、神室は俺を押し倒す形で馬乗りになっていたのだ。
多分、俺はその時、必死に何か言葉を絞り出そうとして金魚のように口をパクパクと不様に開け閉めするのが、やっとだったのだろう。
だから急激に近づいた神室の顔を避ける事など出来る筈も無くて。
そうして視界が一層暗くなった時には、俺の唇に。
柔らかくて。
暖かくて。
優しくて。
「私、あんたの事を逃がすつもり無いから」
そんな言葉と共に。
とても。とても甘い唇が重なり合っていた。
「やっぱり付き合ってたんじゃん。隠す事なんて無かったのにー」
「いえ、あの隠すって言うか……先週の時点ではまだ付き合ってなかったですから」
「でも互いに意識はしてたんじゃないの?」
「ええと……まあ。はい」
時は経ち、四限の体育の時間。もはや定位置となりつつある見学席で、はしゃぎ回る男子達の歓声を背景音楽にして俺は長谷部と雑談していた。
まあ、雑談とは名ばかりで中身は言うまでも無く恋バナであるし、長谷部が一方的に話しかけてくるのを俺が答えたり躱したりするだけなのだが。
「まあ、私も流石にあんまりズケズケ詮索するつもりは無いけどさ。今朝のアレは流石にやり過ぎだと思ったし、佐城君ってああいうノリって苦手でしょ?」
「まあ……はい」
「だよねー。そりゃ私も女子だから恋バナは好きだよ? でもあの態度はちょっと、ねー」
結局、今朝の騒ぎは俺一人で解決する事など不可能だった。群がるクラスメートは死肉に集るハイエナのようで、卑しくも獰猛。
俺としては、そんな彼等に態々餌を与えたくはない。つまり、俺と神室の関係を親しくもないクラスメートに詮索されるのは、何と言うか。
不愉快とまでは言わなくとも、正直な話すこぶる面倒だった。
結局、陰キャがいきなり沢山の人間に囲まれてオロオロしていますよー。みたいな演技でノラリクラリと彼等彼女等の追求を何とか躱している間に、Dクラスの頼れるリーダー、平田が参戦した。
「他人の色恋沙汰に興味を引かれる気持ちは分かる。でも、こうやって無理強いして話を聞き出すのは良くないよ」彼のこの台詞に先ず女性陣が退く、その後引き摺られるようにして男子も退いた。平田様々である。
「でもさ、佐城君も周りの人間に少しは言い返せば良かったのに。あんな風に好き勝手言われて、腹が立たなかったワケ?」
「あはは……まあ、その、多少思う所はありましたけれど。でも、神室さんはともかく。ボクに関しては間違ってもいないですから」
「それにしたってさあ、彼女さんまで悪く言われてたじゃん。頭に来ないの?」
「ええと、まあ。はい。思うところは、実際にありましたよ。ですから……」
とは言え、俺の席に集っていたのは不良品の集積所ことDクラスの面々だ。
女子生徒は去り際に「あんなキモイのを彼氏にするとか金貰ってもゴメンだわ」とか「アレの彼女って相当に趣味が悪いよね」、「あんなんで妥協する位なら、ずっとフリーで居た方がマシ」等の割と酷い台詞を置いていき。
男子などは「どうせアイツの彼女なんてブスに決まってる」「根暗とブスのカップルか。お似合いだぜ」と嘲笑混じりの捨て台詞を吐き出して行った。
まあ、俺自身は知らなかったとは言え、貞子なんて渾名を付けられる程の根暗陰キャに彼女が出来た。となったら、そのお相手も似たような人種だと思うのは解らなくも無い。
神室も積極的に人付き合いをするタイプでも無いので、実際に俺と居るところを見た長谷部以外からはその容姿も知られていないのだろう。
だからこそのあの捨て台詞なのだろうが……。
どう思案して、何を想像するのは各々の自由である。
だが、それを一度口に出してしまえば其処には何人であろうと『責任』と言うものが発生するのを、彼等はまだ判っていないのだろう。
「時が来れば、しっかりと謝罪を求めるつもり……では、ありますよ」
俺はそう呟きながら自身の胸元を撫でた。制服越しに感じる小さな機械の触感が僅かに燻る怒りと不満を抑え込み、寧ろ仄暗い喜悦すら浮かばせてくれる。
意図せずとも俺に武器を与えてくれた彼等にはある意味、感謝すらしているのだから。
「うーん。でもさ、佐城君にも丸っきり原因が無いってワケでは無いと思うんだけど。やっぱりビジュアルがなぁ」
「ビ、ビジュアルですか」
俺がそんな小さな謀を練っていると、長谷部が腕を組みながら何やら唸り出した。
両腕の上に乗った重そうな巨乳から目を逸らしつつ、彼女の言葉に相槌を打つ。
「自分の顔が好きじゃないからって。そんな髪型してたら余計に悪目立ちするわよ」
「ま、まあ……そうなのでしょうけど」
長谷部の台詞はご尤もだが、そこら辺は心配要らない。
と言うのも、近い内に擬態を解く。とまで大袈裟な表現をするつもりは無いが、髪の毛を切って身形を整えるつもりだからだ。
理由としては、こんなのを彼氏にしてしまった神室の評判を少しでもマシにする為。というのもあるが、主な要因としてはどうせ来月になれば茶柱がSシステムのネタバレをするからだ。
「最初見た時はさぁ。何て言うんだっけ、ヴィジュアル系? あとはヘビメタとか、そういう音楽が好きだから敢えてそんな格好してるのかと思ってたけど、違うっぽいし」
「そ、そういうジャンルは余り聴いた事が無いですね」
「猫背も酷いし、見るからに暗そうだから違うなーって。それかキャラ付けの厨二病かと思ってたし」
「あ、あはは……」
Aクラスの執念だけで生きてるような女だ。どうせその時が来れば、彼女は俺が学校側と結んだ契約で、300万もの大金を得た事を暴露するだろう。
その後のDクラスの反応は想像するのが容易い。自分達の責任でクラスポイントを減らした事を認めたくない連中は責任を押し付ける生贄を探し求めるだろう。即ち、最も早くSシステムを解明したにも関わらず、自分だけ大金を手に入れた俺を。
そんな時にまでこのイジメられっ子の典型みたいな陰キャスタイルだと、徹底的に見下され必要以上に過剰な攻撃を受ける可能性がある。だから身形は整えなければいけないのだ。
「うーん……やっぱり気になる。ねえ、ちょっと頭下げて」
「へ? は、はい」
……まあ、陰キャが男の娘に変身した程度では焼け石に水かも知れないが。どっちみち弱そうだし。
あとついでに金稼ぎの一貫としてとある生徒と交渉をしなげればならない。無駄に整った美少女フェイスなら相手を警戒させる事も無いだろうし、少しは成功率も上がるだろう。という下心もあったりする。
と、まあ。俺はこんな感じで長谷部との会話もおざなりで、適当に返していたのだ。
恐らく、それが悪かったのだろう。
「えい」
あ。と思った時は遅かった。
思いっきり余所事を考えながら適当に彼女の話に相槌を打っていた報いだろうか。ぶっちゃけ気も漫ろだったのだ。
泣き黒子が色っぽい長谷部の美貌がグッと近付いて来た。そう思った時に彼女の右手は既に俺の顔に触れていた。
「ほら、どんな顔でも隠すよりは……ま……し……」
黒いカーテンと化している伸ばした前髪を掴まれた。と思った瞬間、ひっくり返すかのような勢いでそのまま髪の毛をめくり上げたのだ。
「いや、あの。は、長谷部さん? ちょっと、距離が、近いし、あの。恥ずかしいので離して頂きたいのですけどっ」
「え……は? マジ……うっそ……ヤバ」
「長谷部さん、あの、ちょっと、長谷部さん?」
反応が鈍い。と言うか、殆ど反応してくれ無い。
まるで初対面の神室の時のように、何故か石化してしまった長谷部の反応に、俺は内心でまたか。と嘆息する。
まあ、無理も無いだろう。非モテの陰キャ男のブサイク顔が出て来ると思っていたら、その真逆の無駄に整った美少女フェイスが出て来たのだから。それはきっと、大層驚いたのだろう。
俺は髪の毛を掴んだままだった長谷部の手をそっと掴み、彼女の膝の上に乗せる。
軽く頭を振って髪の毛を降ろし、前髪のカーテンで視界を覆い隠した。
「……さ……佐城……く、ん?」
「……何でしょうか?」
俺がそんな事をしている内に、ようやく再起動したのだろう。
長谷部はまるで搾り出すかのような掠れた声で、こう言った。
「さ……佐城……さん? って、女の子だったの……?」
「いえ、身体も心も男です」
この後、ムチャクチャ誤解を解いた。
あと何故かこの日を切っ掛けに、教室でも長谷部が話しかけて来るようになった。
感想、高評価、お気に入り、ありがとうございます!
とっても嬉しい!! 遅れても感想は必ずご返事致します! 全部読んでます!!
あと日間7位になりました!!本当にありがとうございます!!
今後の展開について
-
オッサン視点でストーリー重視
-
他者視点重視。イベントの裏側を解説