「なあ、綾小路ー。お前、貞子の名前って知ってる?」
「はぁ?」
廊下の壁にへばりつくようにもたれ掛かる池の言葉に思わず首を傾げた時。
あの瞬間こそが、オレが始めてあの男をはっきりと意識した瞬間だったのだろう。
「悪い。誰の事を言ってるのか、さっぱりだ」
池の言葉に簡潔に返したオレは内心で考える。貞子。察するに人名、恐らくは女性の名前だろうか。
「ほら、アレだよ。お前が座っている席で、列の一番前に座ってる奴だよ。いるだろ? 見るからに暗そうなやつ」
「言われてみれば確かに貞子みたいな髪型してるよな、アイツ。こう、見るからに陰キャーって感じでさ。迂闊に近付いたら呪われそうな感じ」
池の言葉に乗っかるように同意する山内は廊下に直に座り込みながらオレを見上げている。須藤が部活に行ってしまい、特に予定があるわけでも無く。さりとて直ぐに帰るには物足りない。そんな理由で自販機近くの廊下でオレ達三人はこうして雑談に興じていた。
つい先程までは、やれ櫛田が可愛いだとか、櫛田を恋人にしたいだとか、櫛田にどんなコスプレをさせたいだとか。思春期真っ盛りかつ、何の生産性の無い会話をぐだぐだと垂れ流していたのだが、ここに来て話題が急に変わった。
「一番前に座っている生徒か」
池と山内の言葉に、オレはふと記憶を漁ってみる。俺の席から見て最前列に座っている生徒。確か、小柄で線が細い男子生徒だった筈だ。サダコと言う名前は、何となく響きが合わない気がする。少なくとも一般的な感性では男につける名前とは思えなかった。
つまり、貞子という呼び方は件の男子生徒の名前とは別のあだ名か何かだろうか。
「ほら、あの髪の毛のお化けみたいな奴だって。貞子そっくりだろ?」
「腰もひん曲がってるせいで不気味さマシマシだよな。知り合いの爺さんだって、もうちょいマシな姿勢をしてたぜ」
だがそれにしては、池や山内の声にはやけに嘲笑めいた色がある。ならば単純なあだ名では無く、どちらかと言えば賤称の類だろうか。
彼らの言う貞子。なるものの元ネタが何なのか分からず手早く携帯端末を操作して調べてみると、元は小説に登場した創作キャラクターのようで、映画化をきっかけにホラー界隈で有名な存在となっているらしい。
半ばネットの玩具のような扱いをされている貞子という女性? は、おどろおどろしい長髪で顔面の一切を隠しては白装束に身を包む、一言で言うと不気味な死霊の類であった。
「嗚呼、やっぱりアイツか」
池の言いたいことにようやく合点がいった。確かにここまで髪は長くはなかったが、オレの席順の最前列に座る彼にその雰囲気が重なる部分があったのだ。
勿論、彼は生きている人間なので間違ってもネットミームとなりつつある面白幽霊の類では無い事は確かなのだが。
「いや、まともに喋った事どころか顔を合わせた事も無い。名前も知らないな」
とは言え、オレも彼について知っている事など殆ど無い。
異様に長い前髪を口元まで伸ばし、あからさまに顔を隠している事。
酷い猫背であり腰の曲がった老人の如く背筋を丸め、可視化するのでは無いかと言う程に濃厚な厭世感を漂わせている事。
休み時間はいつも黒革のブックカバーに包まれた文庫本を黙々と読み耽り、放課後になれば誰とも口をきかずに、のそのそとした足取りで教室から消えて行く事。
「そっかー。やっぱ綾小路も知らねーか。菊池や本堂も知らないって言ってたし、男友達は全滅だぜ。やっぱ見るからに不気味な奴に好き好んで関わろうとはしないよなー」
「貞子……は言い過ぎだとは思うが。まあ、池や山内の言う通り、やけに近づき難い雰囲気があるよな」
根暗。陰キャ。影の者。
そんなネガティブな言葉が真っ先に浮かぶような。例えるなら『暗澹』という言葉をそっくりそのまま擬人化した存在こそが、最前列に座る彼への印象であった。
「って言うか、どうしていきなり貞子の事なんか話題に出したんだよ? 池」
「いやー、それがさ。俺、見ちゃったんだよ。此処だけの話だぜ?」
山内の疑問に池はやけに勿体ぶるような台詞を吐くと、しゃがみ込みながらグッと顔を近付ける。
そのまま片手で口元を隠すようにコソコソとした小声になると、正に内緒話でもするようなポーズを取った。
「貞子の奴がさ、女の子と二人っきりで仲良さげに歩いているところを!」
クワッと目を見開きながら緊迫の表情を作った池はまるで重大な秘密を告白するような勢いで言い切った。と言うか、勿体ぶって表情まで作った割とは心底どうでもいい内容だ。
それがオレの抱いた素直な感想だったのだが、一緒に話を聴いていた山内は全くそうでは無かったらしい。
「ま、マジかよそれー!? 見間違いとかじゃねーの!?」
ギョッとした表情でのけぞり返っては大声で叫ぶ山内の様子はどうにもオーバーリアクションに感じたが、話を続ける池からすると狙っていた反応らしい。ますます持って勢い付いた様子で池は話し込み始めた。
「あんな変な髪型してる人間を見間違えるわけ無いだろうが! あれは間違い無く貞子だった! それに並んで女子と歩いていた時のあの距離感……かなり仲良さげと俺は見たね」
「手、手とか繋いでいたのか!? まさか平田と軽井沢みたいに、もう付き合ってたり!?」
「いや、手は繋いでなかったな。でも、こう何て言うか肩の触れ合う距離感? ただの友達にしては二人の距離がめちゃくちゃ近かったんだよ」
「いやいや、手を繋いでないなら唯の知り合いや友人の可能性もあるだろっ。それに池、俺はまだ肝心な事を聞いてないぞ!?」
顔も名前も知らないクラスメイトの恋愛? 事情に、どうしてそこまで一喜一憂できるのか。山内は池の言葉に驚いたり落ち着いたりと一挙一動が騒々しい。
山内は鼻息を荒くして目をこれでもかと見開くと、叫ぶようにして池に問いかけた。
「貞子と一緒にいたその女子は、可愛かったのか!?」
……そんな必死の形相をしてまで態々問いただすような事なのだろうか? オレは訝しんだ。
「それが偶然コンビニ帰りに後ろから見かけただけだからさー、角度の関係で女の子の顔は見れなかったんだよなぁ。髪の毛は長くて、横の方で結んでいたのは判ったんだけど」
「何だよ!? お前、そ、そこが一番肝心なところだろうが!!」
「お、落ち着けよ山内っ!? ちょ、あんま揺らすな〜!?」
池の言葉に思わずといった様子で縋り付くポーズを取った山内はそのまま池の肩をガクガクと揺らした。
男子にしては背の低い池との身長差のせいか、これでもかと山内に身体を揺さぶられている様子に流石に危機感を覚える。このままだと池が鞭打ちにでもなりそうだ。
「お、おい山内。落ち着けって」
「綾小路いいぃ!! お前は気にならないのかよおぉ!! もしかしたら、万が一、何かの間違いかも知れないとは言え!! あんな根暗野郎が俺達よりも先に彼女を作っているかも知れないんだぞおおおぉ!?」
「そんな事よりもオレは池の身体の方が心配だ。首を不安定に揺するのは危ないから一旦手を離せ」
錯乱している山内をなんとか宥めて取り敢えず池から引き離してやるも、その目は未だに血走っており鼻息も荒い興奮状態だ。
ちょっと。いや、かなり必死過ぎて普通に怖い。
「さ、サンキュー綾小路、助かったぜ。……ま、まあ。後姿だけとは言え、雰囲気は美人っぽかったぞ? でもやっぱり顔は見えなかったし、誰だかはハッキリ分からなかったんだよなー。多分、ウチのクラスの女子では無かったと思うんだけど」
「だから池はその貞子? の事が気になった。って訳か」
「そうそう。だからこの際、貞子本人に聞いてみよーかなって思ったんだけど。改めて考えりゃ絡みなんかあるわけ無いし、しかも勝手にあだ名はつけてるけど、本名すら知らない訳じゃん? 」
貞子はもはや唯の悪口であって、決してあだ名では無いと思うのが個人的な印象なのだが、Dクラス内では一部の女子もそう呼んでいるのが現状とは池の談だ。
本名は誰も知らないというのに賤称だけがミームの如く広まっている名も知らぬ男子生徒にオレは思わず同情した。
「だから綾小路は知らねーかなって聞いてみたんだよ。ま、宮本も博士も知らないって言ってたから望み薄だったけどな。念の為、部活に行く直前に須藤にも聞いてみたんだけど知らないって言ってたし」
「まあ、見た感じでは運動も得意では無さそうし、明らかに気も弱そうだろ。体育会系かつ威圧感のある須藤みたいなタイプとは見るからに関わり合いになりそうもないだろ」
「そうそう。これでめぼしい知り合いには全員聞き回ったし。やっぱりもっと顔の広い奴に聞いた方が早いかなー」
結局、その日の話はそこで終わった。
「壁際で一番前の席に座っている男の子? もしかして
時は飛んで翌日。
顔の広い人間というフレーズで真っ先に浮かんだ大天使『櫛田 桔梗』に貞子こと、名も知らぬ彼の事を三人で尋ねてみると、拍子抜けする程にあっさりとその本名が判明した。
「おお! 流石は櫛田ちゃん!! やっぱりクラス中の名前全部覚えちゃってるのか!?」
「池君ったら大袈裟だよ〜。せっかく同じクラスになれたんだから、早く皆と友達になりたいって思ってるだけだよ」
「いやいや、流石は櫛田ちゃんだよ!! 本当に頼りになる!!」
やに下がった顔ですっかり櫛田にデレデレしている池と山内の醜態はともかくとして、流石は入学初日に「クラス全員と友達になりたい」と豪語した櫛田だ。その顔の広さには思わず感嘆してしまう。
櫛田曰く、件の暗澹とした少年の名前は『佐城 ハリソン』。
サジョウでは無くサショウと読む姓に、外国の血を思わせる名の響き。こうして改めて聞いていると、存外にインパクトがあるネーミングである。
「ハリソンって確か海外の俳優に同じ名前の奴がいたよな? あんな暗そうな奴には似合わねー名前だぜ。どっかのハーフなのか?」
「そりゃ、海外と言ったら……アメリカとかじゃね? 櫛田ちゃんは知ってる?」
「うーん。ごめんね。実は佐城君とはまだ、そこまで仲良くなれてないんだ」
人様の名前に勝手に文句をつける山内の悪態や、海外=アメリカと何故か決めつける池の視野の狭さはともかくとして。
野郎二人からの質問攻めに櫛田は困った様なあざとい表情になると、両手を合わせて拝むようなポーズを取ってペコリと頭を下げた。言うまでも無いが、とても可愛い。
「一応連絡先も交換したし、挨拶程度は返してくれるんだけど……佐城君って、やっぱり見た目通り他人とのコミュニケーション取るのが苦手みたいで。実はクラスの中では未だに仲良くなれてない唯一の男の子なんだよね」
その言葉にオレは驚いた。クラス中の男子の視線を独り占めする理想のヒロインのような大天使クシダエルですら安々と近寄らせないとは。
佐城なる男の、人嫌いのレベルは想像以上らしい。下手したらあの堀北並みの孤独体質なのではないだろうか。
もしもオレが櫛田に笑顔で声を掛けられたら普通にテンションが上がって、喜んで会話を楽しむだろう。と言うか、現在でも時たま櫛田から会話を振られる度にオレは内心で歓喜に浸りながら美少女との会話を楽しんでいる。
まあ、オレの隣には大天使との癒やしの空間でさえ凍りつかせる氷の女である堀北が近くにいるせいもあってか、毎度のこと櫛田との幸せコミュタイムも短く切り上げられてしまうのが残念ではあるが。
そこでオレはふと気になった。
「佐城が唯一って事は他のクラスメイトとは、すっかり仲良くなったのか?」
「うん! 高円寺君や幸村君とも仲良くなれたよ」
「あの高円寺まで……素直に凄いな」
「綾小路君は大袈裟だよっ。確かに高円寺君はちょっとキャラは濃いけど、悪い人じゃ無かったよ」
「アレはちょっとキャラが濃いで片付けていいレベルでは無いと思うんだが」
入学して一月も経っていないと言うのにあの唯我独尊自由人や、見るからにガリ勉で他者との壁を作っている気難しそうな幸村とまで交友を広げているとは。
この調子なら櫛田が本当にクラス全員どころか、学校中の人間と友人になる日も近いのかも知れない。
「女の子だと……やっぱり堀北さんにはまだ壁を作られているから仲良くなれたら良いんだけど。あとは大人し目な佐倉さんとかからは残念だけど、ちょっと避けられ気味なんだよね。それから最近になって少しずつだけど長谷部さんとも……あっ」
やはり堀北が鬼門か。そんな感想を抱きながら櫛田の話を聞いていたその時、櫛田が一人の女子生徒の名前を出したと同時に「思い出した」と言わんばかりに顔色を変えた。
「どうしたの櫛田ちゃん?」
「あのね、又聞きの情報だから本当かどうかは分からないんだけど。佐城くんと長谷部さんが仲良くお話ししていたところを見た。って言う娘がいたのっ!」
「は、はああぁ!? な、なんで貞子なんかが長谷部と仲良くなってるんだよ!?」
相も変わらず、あだ名という体の賤称で佐城を呼びつつ、恐らくは無意識の内に見下したまま叫び声をあげる山内の畜生ぶりはともかくとして。
確かにここで意外な繋がりが出てきたものだとオレも内心では驚いていた。
「繋がりが意外っつーか、そもそも長谷部が男子と絡んでるのなんて見たことねーんだけど。なあ? 綾小路?」
「そうだな。オレもあまりイメージがわかない」
例え話だが、もしも『Dクラスの中で一番人気のある女の子は? もしくは彼女にしたい女の子は?』 等という質問を男子諸君に聞いて回ったら、ほぼ間違い無く誰も彼もが櫛田の名前を挙げるだろう。
だがそれは単純に彼女の抜群のルックスだけが理由では無い。
女子に避けられ気味の三バカ連中や、オレのような自己紹介で事故紹介してしまったコミュニケーション能力が欠如している男にも。それこそ先程名前が挙がった堅物らしい幸村や個性的な高円寺にも。
誰にでも分け隔てなく、明るい笑顔で話し掛けてくれる天使のような優しさが多くの男子を虜にしているからだ。
「あの、不気味な根暗の分際で長谷部のようなハイスペックおっぱい美女と仲良くイチャイチャしていただとぉ……許すまじ貞子おぉぉ!!」
「おい声がデカいし、まず山内は落ち着け。櫛田が引いてるぞ」
「あ、あはは……ちょっと反応に困っちゃうな……」
だが、ほんの少しだけ視点を変えて『Dクラスの中で一番美人だと思う女の子は誰? もしくは魅力的なスタイルをしているのは誰?』という質問をしたと仮定すると事情は変わる。
顔面偏差値や体付き、単純なルックスだけで評価した時、いの一番に挙がるであろう女子生徒の名前が長谷部と言う女の子なのだ。
ちなみにオレは下の名前は知らない。
「そ、それに長谷部さんも普段から男の子とお喋りしたりはしてるよ。隣の席の三宅君とは結構仲が良いみたいだし」
「三宅って……誰だ?」
「もうっ、クラスメイトにその扱いは酷いよ綾小路君。『三宅 明人』君だよ!」
「あっ。あの目付きの悪い奴か。ほら、綾小路。水泳で須藤の次に速かったやつだ」
「……嗚呼、アイツか」
池の言葉のおかげでようやくクラスメイトの輪郭が浮かび上がった。
小豆色の短髪に鋭い三白眼が特徴的な三宅という男子は、佐城や幸村程では無いにしてもどちらかと言えばクラスから浮いている存在だ。
男子一同が盛り上がった女子のバストサイズを対象とした賭け事にも誘われては素っ気なく断り、熱気に溢れる男子達をどこか呆れたような表情で眺めつつも物理的に距離を置いていた。
「三宅君と長谷部さんは、そうだなぁ。例えるなら綾小路君と堀北さんみたいな関係かな? 大勢でワイワイ過ごすよりも二人っきりの方が落ち着く、仲良しの関係。って感じの」
まともに会話をした事のないオレからの印象でしかないが、大勢で集まるのが苦手な人間なのだろう。そういう面では長谷部と似た気質を持っているのかも知れない。
長谷部も女子グループからは意図的に距離を取っているような態度がしばしば見られる。そう考えると確かに相性の良さそうな二人組だ。
「いや、そもそもオレと堀北は決して仲良しとかでは無いんだが」
そしてまかり間違ってもオレと堀北のような関係では無いと思う。
少なくとも長谷部は他人の心を圧し折るような罵詈雑言を普段から吐き捨てたりしないだろうと確信できるし。
「でも、堀北さんが唯一お話してるのは綾小路君だけだよね? 私や平田君が声をかけても冷たい態度を取られるか、素っ気なく避けられるだけだもん」
「堀北はオレにも基本的にはそんな扱いだぞ?」
櫛田のこの勘違いに関しては度々訂正しているのだが、どうにも誤解を解いてくれない。と言うか山内や池の視線が怖いから、こいつらの前でオレと堀北の話題を出さないで欲しい。
最近になって須藤を含む三バカから実は堀北と付き合ってるのではないか? といった、見当違いも甚だしい疑いを掛けられている身なのだ。
「綾小路も三宅って奴もどーでも良いんだよ! あの貞子めぇ……一体どんな非道な手を使って女子達に近付いたんだ」
「山内、いい加減に落ち着けよ、話が進まねーじゃん。取り敢えず、佐城? と長谷部が仲が良い。っていうのはガチなの? 櫛田ちゃん」
「うん。女子のグループラインで水泳の授業中に二人っきりでお話していたのを結構な人が目撃してたみたいなんだけど……そもそも、どうして急に佐城君の話になったの?」
「そうそう! 聞いてくれよ櫛田ちゃん! 俺、この前とんでもない現場を目撃しちゃったんだよ!! 実はあの佐城と……」
コテリと小首を傾げて疑問を呈する櫛田に池が先日と同様のテンションで佐城と逢引していたらしい女子の話をした。
「そ、それ本当に? いや、池君が嘘ついてるとなんて疑ってないんだけど。あまりにも意外過ぎてっ」
「その気持ち判るぜ櫛田ちゃん!! 俺も昨日池から聞いた時は、あんな貞子に近づく女の子なんか居るわけ無い! って思ったもん!」
「俺がこんな意味の無い嘘なんか吐くわけねーだろ。山内じゃあるまいし」
「はっ、はぁ!? 俺は嘘なんか吐いた事ねーよ!!」
「いや、お前結構あるだろ。前の佐倉の話だって結局は嘘だったしさ」
「アレは!! だから、ちょっとした勘違いだったんだよっ」
「あの佐城君が。わ、私が何度声をかけても目も合わせてくれなかったのに。いや、そもそも顔も見せてくれなかったけど……」
まあ、慌てて誤魔化そうとしている山内の態度はともかくとして。
櫛田も見るからに人付き合いの苦手な佐城が女子と仲良くしていたという事実は、かなりの衝撃があったらしい。いつもの明るい笑顔が引っ込み何やら恐れ慄いているのがその証拠だろうか。
「池君っ。その隣を歩いていた女の子は長谷部さんでは無かったんだよね?」
「髪型的に長谷部じゃないな。って言うか、多分なんだけどウチのクラスじゃないっぽいんだよね。少なくとも見た目で合致する女子が思い浮かばないし」
「えっと、どんな人だったか聞いてもいいかなっ? 私、他のクラスにも友達結構いるから、もしかしたら判るかも」
「えっと、思い出すからちょっと待ってくれ。えー髪は長くて、サイドテール? って形で結んでいて。それから髪色は確か……」
櫛田にお願いされたから気合が入ったのだろうか。池は昨日よりも描写に気合を入れて件の女子生徒の姿形を思い出している。
髪型、髪色、アクセサリー、制服の着こなし、雰囲気、声色、話し方。
そこまで話が及んだその時、ポソリと櫛田が零れ落とすかのような声色で呟いた。
「もしかしてだけど……その女の子って、私が知ってる人かも知れない」
感想、お気に入り、高評価、一言コメント、誤字訂正。いつもありがとうございます!!
今後の展開について
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オッサン視点でストーリー重視
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他者視点重視。イベントの裏側を解説