飲まなきゃやってられんわ、こんな教室。   作:薔薇尻浩作

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話が進まないから初投稿です。
私事ですがオリジナルもハーメルンに投稿始めました。

良かったらチラ見して下さい。


シードルを飲みながら聴く茶柱劇場のアレコレ。

 

 

『評価0のクズ。というわけだ』

 

『く、クズって……』

 

『幾ら何でも、そこまで言わなくても』

 

『酷いよ先生っ』

 

『茶柱先生っ。僕らはポイントが減っていくだなんて話は聞いた覚えがありません!!』

 

 

 

 と、まあ茶柱先生からの無慈悲な宣告とDクラスの面々によるイイ感じの阿鼻叫喚を背景音楽に俺はキッチンにてグラスを用意し、自作のシードルをゆっくりと注ぎ入れていた。

 ハリソン少年の身体に憑依してからというものの、流石に朝っぱらから酒を飲むのは初めてではあるが背徳感と共に奇妙な興奮すら覚える。

 

 神室用のグラスには蜂蜜を少量溶かして混ぜ入れ、俺の方には風味付けとしてシナモンをパラパラと振り掛ける。

 毎日のように仕込んでは味わっている密造シードルはすっかり俺のお気に入りだ。だからこそ飽きが来ないようにほんの少しのアレンジを日々、試行錯誤しては楽しんでいる。

 

 

「未成年じゃなかったら、もっと本格的なカクテルも楽しめるんだけどねぇ。まあ、無いもの強請りしても仕方ない、か」

 

 

 昔飲んだカクテルでは確かカシスリキュールなんかと混ぜると甘酸っぱくて美味しかった記憶があるのだが……流石に現状の設備ではリキュールに手を出すのは難しい。

 やはり先ずは蒸留酒。つまり、必然的に蒸留器を手に入れる必要がある。中々物事は簡単に上手くいかないものだ。

 

 

「ほい、おまたせ。真澄くんの方には蜂蜜を足して甘口にしといたからね」

 

「ん。ありがとう」

 

 

 軽くグラスをキスさせて「Prosit」の一言と共に乾杯。

 新緑香る五月の風を肴に、未成年の恋人と学校サボって朝から密造酒で堂々と酒を飲む。

 我ながら不良品扱いされているDクラスがお似合いだ。そんな皮肉な考えに自嘲しながらも俺はソーダを口に含む。炭酸の爽やかな刺激とシナモン独特の香りが何とも心地良かった。

 

 

『……小中学校の九年間。お前達が義務教育を受けて来たなら習って来た筈だろう。遅刻欠席は悪であると。そのお前達が言うに事欠いて説明されなかったから納得出来ない等と馬鹿馬鹿しい。通るわけが無いだろう、そんな理屈は。全ては自業自得。当たり前の事をやらなかったお前達の自己責任だ』

 

 

 俺が酒の準備をしている間にも茶柱劇場はますます盛り上がり(なおDクラスの雰囲気はますます盛り下がり)を見せており、平田の反論を茶柱先生がボッコボコにこき下ろしているところだった。

 

 まあ、確かに正論ではある。当たり前の事を一々言われなくては出来ない人間なんて社会に出たら使い物にならないし。

 とはいえ、仮にも教職を名乗ってるならば、まともな教育環境を整備する意味で違反行為を行っている生徒に注意や叱責の一つぐらいしてやれよ。とも思うが。

 真面目に授業を聞きたかったであろう幸村や堀北が普通に気の毒である。

 

 

『な、ならばせめて! ポイント増減の詳細だけでも教えて下さい。今後の参考になるかも知れません』

 

『ふん。それは出来ない相談だな……』

 

 

 平田がクラスの為に必死こいて食い下がっている姿が普通に哀れだ。

 

 

「この、ずーっと先生に立ち向かってる男子がDクラスのリーダーなの?」

 

「うん。みんなのヒーロー『平田 洋介』君だね。Aクラスでも名前ぐらい聞いたことはないかい? イケメンだし、友達多いし、割と有名人な気がするけども」

 

「あぁ……クラスの女子が騒いでたかも。なんか性格の悪いギャルと付き合ってるとか」

 

「いや、まあ。性格云々は置いといて、確かに彼女はいるよ。同じクラスの『軽井沢 恵』と付き合ってるっぽいね」

 

 

 まあ、Dクラスが誇るビッグカップルの実情は偽装しただけの関係なのだが。

 元イジメられっ娘である軽井沢が自己保身の為に男子間のクラスカーストぶっちぎりのハイスペック平田に寄生している。というオチなわけだが、原作知識が無かったらこれは気付け無いだろう。

 いや、綾小路は気付いてたんだったか? 確か夏休みの干支試験辺りで平田と軽井沢が何時までも互いを苗字で呼び合ってたから怪しいと思ってた。みたいな描写があったような無かったような……。

 

 

「俺はまあ、基本ボッチだから周りの話には疎いけども。他クラスの情報とかって普通に話題に上ったりするもんなのかね?」

 

「私も基本的に一人だから詳しくは知らないわよ。ただ、まあ。声が大きい人ってそれなりの数がいるし。そっちのクラスの話なら、その平田君や櫛田さん辺りは名前を聞くわね。っていうか櫛田さんに関しては直接Aクラスの教室に来た事もあったし」

 

「おぉう。流石の行動力だなぁ、櫛田は」

 

 

 原作知識を振り返れば、入学直後の自己紹介でクラスのみんなと友達になりたい。という目標を打ち立てた櫛田のコミュ力はDクラスだけに留まらなかったらしい。

 入学から一週間ほど経ったある日、友人を増やしたいから。という理由でAの教室へ襲来。何人もの生徒と連絡先を交換していったのだとか。

 坂柳や龍園、神崎なんかの連絡先も既に確保しているのだろうか?

 

 そんな話をしている内に茶柱劇場は進んで行き、とうとう俺が聴きたくて仕方なかった台詞に差し掛かった。

 

 

『……別に私もお前達が憎いわけでも無い。あまりに悲惨な状況でもあるし、一つだけイイ事を教えてやろう。

 遅刻や私語を改め、仮に今月分のマイナス要素を0に抑えたとしても、ポイントは増える事は無い。つまり来月も振り込まれるポイントは0のままという事だ。裏を返せば、どれだけ遅刻や欠席をしても関係無い。という話だ……どうだ? 覚えておいて損は無いぞ?』

 

 

 ニヤリ。と思わず口角が上がった。

 この言葉が聴きたかったからこそ態々、長谷部に面倒な中継を頼んでまで茶柱劇場を聴取していたようなものなのだから。

 

 

「くっふふふ……笑いが止まりませんなぁ」

 

「急に不気味な声出してどうしたのよ?」

 

「言質が取れたのが嬉しくてねぇ。真澄くんもしっかりと聴いただろ? 茶柱先生が。そう、担任教師として責任ある立場の大人が、今、正に、大衆の目の前で。

 クラスポイントが0の状態なら『どれだけ遅刻や欠席をしてもポイントには関係無い』と、ね? これ以上も無いくらいにハッキリと宣言してくれたじゃないか。

 いやはや……全く有り難い御言葉だよぉ、皮肉で無く本気で、ね」

 

 

 恐らくはクラスポイントが0になった前例が無いからこその発言だったのだろうが、はっきり言って学校側のこの対応は大失態だ。

 少なくとも俺なら0より下がる事は無い。と断言するような迂闊な言葉は避け、これ以上の違反行為は別種のペナルティがある。と生徒側に疑心を植え付けるような台詞を選ぶだろう。

 

 

「これ以上は下がらない。そう断言してしまえば俺達Dクラスの生徒はやりたい放題できるってわけさ。つまり、俺がいくら学校を欠席したところで学校側もDクラスの生徒諸君も俺を責める大義は無い。と証明してくれたようなモノだからねぇ」

 

「……あんた、もしかして不登校になるつもり?」

 

「まあ、ちょっとばかし別件でやりたい事があるからねぇ。Time is money.貴重な時間は使い道を選ばないと損をしちまうからな」

 

 

 大前提として、俺は『ようこそ実力至上主義の教室へ』という作品が大好きだ。

 

 死んじまったであろう時期からして一年生編までしか読めなかったのは本当に心残りであるし、これからも綾小路の暗躍の行く末や坂柳との決着。

 それから成長して行くDクラスの面々の青春模様を一読者として、可能な限りずっと、ずーっと読んで行きたかった。

 

 だが、『この世界』に思い入れなど有りはしないし、なんなら一在校生の視点から見た『高度育成高等学校』は普通に嫌いだ。

 というか、こんなイカれた学校はとっとと閉校しちまえば良いと本気で思っている。

 

 

「クラス闘争だとか、これから行われる特別試験だとか、学校側の思惑やら、社会を支えるエリートの育成? そんなもの、俺からすればどうでもいい事ばかりだからな」

 

 

 佐倉のストーカー事件の際は在校生の尊厳と名誉よりも、エリート校を卒業したという幾人もの卒業生の名誉を優先させた坂柳理事長。

 そんな保身しか考えて無いトップを尊敬している真嶋先生。

 酒好きはともかく未成年と接する教職に就いているにも関わらず二日酔いで出勤するユルフワ(笑)な星ノ宮先生。

 暴力沙汰から目を逸らし、自分のボーナスの為にクラスの暴君を庇い続ける坂上先生。

 アダルトチルドレンの典型で自身の野望の為に綾小路を脅迫し、おっぱい丸出しの茶柱先生。

 

 そしてそんな碌でもない大人達ばかりを雇っている学校側の倫理観の無さや、ガバガバで幾らでも悪用できるSシステムと法律すら無視する独自のルール。

 

 前以て受験生に学校側の教育システムを周知した上での校風ならともかく、完全なる騙し討ち。

 おまけに外部との連絡が一切禁止となれば、自分達が疾しい事をやっている自覚がある筈だ。

 

 こんな犯罪者養成施設のエリート校(笑)の思惑に、捻くれたオッサンが従ってやる義理など無いのだから。

 

 

『さて、もう一つお前達に伝えなければならない残念な知らせがある』

 

 

 

 そんな事を考えている内に話はかなり進んでいたようだ。

 各クラスに振り込まれたポイントと、CPの存在。その関連性について。

 クラス分けの真意。つまり優秀な者からAクラスに振り分けされ、Dクラスは最低レベルの不良品の集積所である事が種明かしされていく。

 幸村や堀北などの一部の優等生が屈辱に打ち震え、悪態を吐き捨てながら机を蹴り飛ばした須藤を嘲笑うかのようにして、クラスのランク付け。それから下剋上が可能である事を説明していった。

 多分な嘲りを含ませた態度で淡々と語っていく茶柱先生が果たして本当にDクラスが上のクラスに昇級出来ると思っているかは、生徒達からは御察しであろうが。

 

 

 『この数字が何か、馬鹿が多いこのクラスの生徒諸君でも理解は出来るだろう?』

 

 

 そうしてついに、話題は先月末に行われた不自然な小テストに移ったようだ。

 音声だけでは見えないが、きっと今頃は小テストの点数一覧が書かれた紙を黒板に張り出している事だろう。

 

 

 

『先日やった小テストの結果だ。全く……揃いも揃って粒揃い。先生は嬉しくて涙が出そうだ。中学でお前達は一体何を学んできたんだ?』

 

『あっ、私60点だ。みやっちと一緒じゃん。ラッキー』

 

『いや、お互いにそこまで喜べる点数じゃねーからな?』

 

 

 茶柱先生の説明に混じって長谷部と三宅のどこか気の抜ける会話が聴こえる。

 この二人に佐倉を加えた三人には昨日の交渉の際に定期テストで赤点を取ったら即退学である。という情報は教えてある筈なのだが、どうやら本人達にあまり危機感が無いようだ。

 

 

「ちなみに真澄くんは小テストの手応えはどんなもんだった?」

 

「多分、八割はイケたと思うけど。っていうかそれ以上は無理。最後の方の問題は意味分からなかったし」

 

「まあ、最後の三問の難易度はちょっとレベルが違ったからねえ。俺も合っているかの確信は無いかな。特に数学」

 

 

 前世のオッサンもハリソン少年もどちらかと言えば文系が得意な点は共通していたので数学や物理に化学といった科目はちょっと自信が無いのだ。

 そういえばこの学校は文系理系の選択は有るのだろうか?

 

 

『良かったなぁ、これが唯の小テストで。もしも本番の中間テストだったら入学早々に七人は退学になっていたからなぁ』

 

『は? 何すか、退学って?』

 

『なんだ、説明していなかったか? この学校では中間テストや期末テストで一科目でも赤点を取った生徒は即退学となる。今回の小テストで例えるなら赤点ラインである34点未満の七人が対象だな。本当に愚か者が多いクラスだな、流石は不良品の寄せ集めと言ったところ、か』

 

『『『『『はあああああああああああああっ!?』』』』』

 

 

 

 阿鼻叫喚。まさにそんな言葉がピッタリの醜悪な叫び声が携帯越しにビリビリと鼓膜を揺する。

 きっと今頃、赤点ラインを割ってしまった生徒は酷く動揺している事だろう。

 

 

『ふざけんなよ佐枝ちゃん先生!! 退学とか有り得ねーだろ!?』

 

『私に言われても知ったことじゃ無いな。そもそもこれは私の独断では無く、あくまで学校が決めたルールだ。諦めて腹を括ることだな』

 

 

 まあ、赤点取ったら即退学は厳しいようにも思えるが、この点に関して言えば俺は理にかなっているルールだと思っている。

 

 お小遣いであるプライベートポイントだけに目が行きがちだが、この学校ではそれ以外でも様々な面で生徒に投資しているのだ。

 寮の生活費や管理費はもちろん。制服やジャージや教科書一式。施設内で提供している無料商品は恐らく学校側の補助金で賄っているだろうし、特別試験が行われる豪華客船の手配料や無人島の管理費など。

 ただでさえ出費が多いのだから、無能にかける金は極力減らしておくべきだろう。

 ……いや、まあ。そもそも無人島とか豪華客船の方が金の無駄だろう。という気持ちの方が強いのだが。

 

 

「赤点ラインが34点。ってやけに半端な数値ね」

 

「まあ、多分だけど学年平均かクラス平均の半分とかを基準にしてるんじゃないか? AクラスとDクラスの学力を比較すると哀しい事になっちゃいそうだから、多分クラス平均だろうけど」

 

「そう考えたら確かに半端な数字が基準になってる理由も納得いくわね。あんた、本当によく回る頭を持ってるわよね」

 

「……それほどでも」

 

 

 ぶっちゃけ原作知識のおかげなので、素直に褒められると普通に気不味いのだが。

 と言うか茶柱先生も赤点の判断基準ぐらい教えてやればいいのに。他クラスでは普通に教える事だろう、多分。

 

 

 

『ティーチャーが言うようにこのクラスには愚か者が多いようだねぇ?』

 

 

 と、先ほどの喧騒が可愛いレベルの悲鳴と怨嗟の濁音が嵐となっているDクラスに響いた声はまたしても高円寺のものだ。

 自由人からすれば愚か者がキィキィ騒いでいる現状は目障りでしか無いのだろう。

 

 

『何だと、高円寺!! どうせお前も赤点候補の癖して偉そうに!!』

 

『ふっ。どこに目がついているのかねボーイ。良く見たまえ……ああ、無駄な労力を使いたく無いなら上から見る事をお勧めするがね』

 

『あ、あれ? 高円寺の名前が無ぇぞ? っつーか、上からってどういう……きゅ、90点!?』

 

『幸村や堀北ちゃんと一緒の暫定二位だと!? あ、あいつ頭良かったのかよ!?』

 

『ぜ、絶対に健と同じバカキャラだと思ってたのにぃ』

 

『だ、誰がバカだ春樹!! テメェも大して点数変わらねぇ癖に!!』

 

『お、俺は別にっ、小テストだから手を抜いていただけだし!!』

 

 

 高円寺の実力に驚きを隠せないDクラスの面々の声を聴きつつも、俺は少しばかり気になる点があった。

 それはモブ生徒が発したであろう90点を取った高円寺が暫定二位。という台詞だ。

 確か原作では90点を取った人間がクラス一位だった筈なのだ。

 

 つまり、今回の小テストの一位は……?

 

 

『お、おい待て一位が百点満点だ!! し、しかも取ったのは……さ、佐城!?』

 

『はああああ!? あの貞子野郎!! 頭良かったのかよ!?』

 

『サジョーの癖に生意気だぞ、根暗野郎!!』

 

「っしゃあっ!!」

 

 

 何やら悪態を吐き出しているDクラスの面々の台詞を無視して俺は一人ガッツポーズを決めていた。

 最後の三問に英語の問題が混じっていた為に90点以上取れていた自信はあったが、苦手な数学も含まれていた為に満点を取ったという確信は持てなかったのだ。

 これは嬉しい。ちょっと、普通に嬉しい。

 

 常日頃から酒飲んだり麻雀打ったりと、ぐうたらな面ばかりが目立っている自覚はあった俺だが、これでも普段からめちゃくちゃ勉強しているのだ。

 おまけにハリソン少年は不登校だった時期に空いた時間を家事と自主学習にほぼ全て注ぎ込んできた。

 基本五科目は既に高校三年レベルの知識があり、そこからオッサンが憑依してからも日々の勉強は欠かさなかった。

 

 社会人あるあるの、「学生の内にもっと勉強しておけばよかった」という後悔は流石に二度もしたくは無かったので。

 

 

 

「あんた本当に頭良かったのね」

 

「ふふーん。当然だね……と言いたいところだがコレばっかりは日頃の積み重ねだからね。毎日少しずつでも勉強すれば徐々にでも結果は数字となって表れる筈さ。誰でも、ね」

 

「私も、もう少し勉強してみようかな?」

 

「英語だったらそこらの教職員よりペラペラになるまで仕込んであげるよ?」

 

「それは素直に気になるわね」

 

 

 切っ掛けはともあれ神室が勉強に関心を持った事は良いことである。

 まあ、元々Aクラスに所属されるぐらいだから基礎的な学力はかなり優秀なのだろうが、学校の評価に胡座をかいて怠けるぐらいなら出来る内に勉強はしておいた方が良いだろう。

 

 

『それからもう一つ付け加えておこう。国の管理下にあるこの学校は高い進学率と就職率を誇っている。恐らくはこのクラスにもそれが目当てで当校に進学を決めた生徒も多い筈だろうが……

 世の中そんなに美味い話はない。お前らのような低レベルな人間がどこでも進学、就職できるほどの世の中は甘くはない』

 

 

 俺が喜びに浸っている間にも話は進み、いよいよ話はAクラスの卒業特権についてに触れた。

 

 

『つまり希望の進路を確約してくれる恩恵を受けたければ僕達はCクラス以上に昇級する必要がある。という事ですか?』

 

『いいや……残念ながらそれは違うなぁ、平田。まあ、時間も時間だから結論を言ってやろう。この学校に将来の望みを叶えて貰いたければ、Aクラスに上がるしか方法は無い。それ以外の生徒には、この学校は何一つ保証することは無いだろう』

 

 

 茶柱先生の言葉にますますクラス内の喧騒が熱を帯びていく。

 「そんな話は滅茶苦茶だ!!」と幸村が騒ぎ立てれば高円寺に「醜い」と一蹴され、それでも幸村が必死に食い下がれば将来を学校側に世話して貰う気は無い。とあっさりと未来の高円寺コンツェルン統帥に一刀両断。

 ……幸村とは絡んだ事は一切無いのだが、普通に可哀想である。

 

 

「改めて聴くと、詐欺よね。普通に」

 

「まぁ一部の専門学校や高専なんかが就職率を改竄。というか、学校側に都合よく記載したりっていうのは良く有るみたいだけども。進学校でそれをヤッちゃうとねぇ……そういえば神室君はやっぱりAクラスの特権欲しいの?」

 

「……別に、今は。どっちでも」

 

 

 どうやら神室はAクラス特権には興味が無いようである。この学校に進学した生徒は坂柳や高円寺などの特殊な例を除けば皆が皆、卒業特権目当てだと思っていたから意外である。

 

 

『それにしてもお前達は本当に面白い生徒達だな。全てのCPを吐き出した歴代最低の不良品集団の中にも我が校が開校して以来の優等生が混じっている……にも関わらずこの有様なのだから。いや、職員室でも随分と話題になったものだ』

 

 

 と、ここで茶柱先生が何やら気になる事を言い出した。もはや薄れかけている俺の拙い原作知識を振り返ってみても、このような台詞は無かったのように思えるのだが。

 

 

『ちゃ、茶柱先生。それはどういう意味ですか?』

 

『嗚呼、お前らは知らないだろうな。このクラスの中に、入学してから僅か三日でこの学校のシステムを全て見抜き、教職員と交渉をした歴代でも類を見ない優秀さを示した実力者がいる事を』

 

 

 嗚呼、成る程ね。

 ある程度は覚悟していたとはいえ、ここでぶっ込んで来るのか。

 

 俺は今後の展開を予感して、静かに目を瞑った。

 

 

『クラス分けの真意理由に始まり、毎月支給されるポイントの増減。卒業後に与えられる恩恵の真意。その他諸々を含めたSシステムの根幹を見抜いた優秀な生徒がこの不良品の集団にも混じり込んでいたというだけの話だ。尤も、奴は自分が手に入れた情報をクラスメイトに共有するような殊勝な真似はしなかったようだがな。

 全く……奴さえお前達に情報を共有してさえいれば、幾分かのポイントが残っていたのかも知れないのになぁ?』

 

 

 予想通り。

 いや、予想以上の働きだ。

 

 徹底的にDクラスの人間を蔑み、貶し、陥れる。自らの野望を叶える為ならば何でもする。

 そんな女ならばきっと、このタイミングでやらかしてくれると信じていたとも。

 

 

 俺は思わず舌舐めずりしながら胸元に控えていた小さな録音機を取り出し、ジェスチャーだけで神室に声を出さないように指示した。

 

 

『ど、どういう意味だよ!! つまりさぁ、ポイントが毎月10万振り込まれるわけじゃない。って気付いてる奴が居たって事かよ!?』

 

『菊池、お前の言う通りだ……聞きたいか? その生徒の名前を。我が校が開校して以来の快挙を成し遂げておきながら、クラスメイト全員を見捨てて自分一人が甘い蜜を啜った男の名前を……?』

 

 

 あえて焦らし、あえて挑発するような茶柱先生の言葉に神室の顔色が曇っていくが、それはとんでもない。

 むしろ歓迎する事だからだ。俺は信じていた。きっと茶柱先生なら監視カメラに映されているリスクのある現場でも生徒の前でなら『やらかしてくれる』と。

 俺は、そう信じていたのだから。

 

 

 嗚呼、だからこそ。

 今後の展開を想像して、ゾクゾクとした快感を味わっている俺をどうか責めないで欲しいのだ。

 

 

『奴はSシステムの全てを見抜き、その口止め料に莫大な大金を要求した。実力至上主義を謳う我が校から見ても、圧倒的な頭の冴えと徹底的な利己主義を見せつけたその生徒の名は……』

 

 

 シードルを飲み干す。

 炭酸の爽快感。アルコールの微熱。

 

 思い描いた策謀が何の狂いも無く俺の予想通りに進んでいく現実に、思わず陰茎が膨らむような快感を覚える。

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

『佐城 ハリソン。我が校始まって以来の実力を示した、最高にして最低の不良品だ』

 

 

 

 

 嗚呼……チェック・メイト。

 

 茶柱先生の語りを聴いていた俺は思わず指をパチリと鳴らしながらも、左手に握りしめたボイスレコーダーをまんじりともせず眺めていた。

 

 

 




ようやく旧作に追いついたぜ。

今後の展開について

  • オッサン視点でストーリー重視
  • 他者視点重視。イベントの裏側を解説
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