飲まなきゃやってられんわ、こんな教室。   作:薔薇尻浩作

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12000文字も書いたのに話が進まねぇ!!!!
五月一日の話はもう少しだけ続きます!

あ、初投稿です。


オッサンから見る佐枝ちゃんせんせーについての考察。

 

 女に政治をさせるな。

 

 一見すればただの性差別用語に聞こえるが、有識者曰くそれなりの理由がある言葉らしい。

 昔から言われている話ではあるが女という生き物は感情で動き、男は理屈で動く。故に政治という、時に情を排除し冷静かつ冷酷に行動しなければならないモノにおいて、感情的になりがちな女には政治をさせない方が良い。という話だとか。

 

 まあ、何と言うかあまりに主語が大き過ぎる二元論な気もするのだが、一応根拠となるデータはあるらしい。

 それが統計学に基づくものなのか、それとも脳の作りによるものなのかまでは知らないが、結論から言えば女性は男性に対して『比較的』感情的になり易く、その結果己の感情の赴くままに行動しがちなのだとか。

 

 そう言えば原作でもガリ勉でお馴染みの優等生『幸村 輝彦』が、無人島試験編で喚き立てる篠原に対して「女は感情で動くから嫌いだ」みたいなニュアンスの台詞を言っていた記憶がある。

 

 

 とは言えこれはあくまでも一説でしかないわけで、絶対の真理という話では無い。

 

 感情的に。という今一、具体性に欠ける表現だからこそ想像し難いかもしれないが、しょっちゅう部下に怒鳴りつけてる癇癪持ちのサラリーマンや、後先考えずに性犯罪を犯すバカなど。

 まさに己の感情に忠実に生きている男性なんて、ちょっと周りを見回せば腐る程に見かける。

 ……現にオレも要らんリスクを背負ってまでして、感情の赴くまま、欲望の赴くままに密造やら飲酒やらをやらかしているわけだし。

 

 そもそも女性の社会進出が当たり前となった令和の現代では女性の経営者や政治家も数多くいる。

 仕事の上では私情を排除して合理的な判断を強いられる事などはしょっちゅうだろうから、女性=感情的という表現は間違いなのだろう。

 

 

 ただ、まあ。あくまで四十数年を前世で生きてきた小市民でしかない、頼りないオッサンの経験から基づく意見を述べさせて頂くなら。

 確かに感情で動く女性は一定数いると思うし、その割合を男性と女性で比べれば、女性の方が激しやすいというか、自分の欲求に正直な人は多いように思う。

 

 

 そしてこの『ようこそ実力至上主義の教室へ』という作品の世界では、特にそういった面が強調されているキャラクターが数多く見受けられる気がする。

 

 それはもちろん未熟な未成年である生徒諸君だけでなく、そんな子供達を教え導かねばならない大人達。

 

 つまるところ、教職員も含めての話なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減に機嫌を治しておくれよー真澄くん」

 

 

 話は戻して、寮の自室にて。

 シードルを飲みながら優雅に茶柱劇場の行く末を拝聴し終わった俺が何をしているかと言うと。

 

 

「はあ? 別に機嫌悪くなんか無いけどっ?」

 

「いや、どう見ても怒っているでしょうに」

 

 

 現在進行形で思いっきり感情的になっている女の子。つまり我が恋人である神室のことを必死こいて宥めている最中だった。

 

 

 神室の心の荒れようと言えばそれは凄いもので、整えられた柳眉はハッキリと釣り上がり、艷やかな口元はキュッと結ばれてこれでもかと歯を食いしばり、カボッションカットされた紫水晶のように煌めく眼からは暗く歪んだ焔が揺れて見える程。

 

 これで機嫌が良かったら逆に怖い。いわゆる『おこ』だろう。『激おこ』かも。

 いや、もしや伝説の『激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム』かも知れない。

 

 

「……なんでっ」

 

「うん?」

 

 

 そんな阿保な妄想に浸っていた時、俺に頭を撫でられていた神室が勢いつけて俺の方を向いたかと思えば、キッと音が鳴りそうな鋭い視線を飛ばした。

 

 

「なんであんたはそんなに平然としてられるのよっ。あんな、有象無象に好き勝手言われてムカつかないわけ!?」

 

「いや、有象無象。って、真澄くんも然りげ無く酷いよね」

 

「学級崩壊引き起こしておいて、その責任をあんた一人に押し付けてる馬鹿共なんて有象無象で十分でしょ!」

 

「まあ、真澄くんの言い分も分かるんだけどね」

 

 

 茶柱劇場が幕を閉じた後。つまり朝のホームルームが終わり、茶柱先生が教室から出ていった後の話だ。

 クラス分けの真意や、進路の保証がされない現実。無収入が確定した事などエトセトラ。

 Sシステムのネタバラシによって引き起こされた数多の情報はDクラスの生徒達に怒涛の衝撃と劇的なストレスをもたらした。

 

 結果、彼ら彼女らはそのストレスの捌け口を必要としていたのだ。

 そして非常に都合の良い事に、いくらサンドバッグにしても良心が咎めない都合の良い生贄が一人居る。

 

 

『ふざけんなよ佐城のやつ!! あいつのせいで小遣い貰えなくなったじゃねえか!!』

 

『あのクソッタレの根暗野郎が!! 自分だけ大金稼いどいて、何で俺達がポイント貰えねーんだよ!? ズルだろ!? ズル!?』

 

『何なのよあの貞子!! 絶対に許さないんだから!!』

 

『あいつの持ってるポイント貰っちまおうぜ!? 元はと言えばアイツが悪いんだから!!』

 

『絶対にボコボコにして土下座させてやる!!』

 

 

 と、まあこんな感じで割と好き放題言われたわけである。

 そりゃ茶柱先生の露悪的な契約の暴露を聴かされた上に、本人が教室に不在なのだから思う存分に鬱憤を晴らす事だろう。

 

 ちなみに長谷部にはホームルームが終わってから五分程度は通話中の状態にしておいて欲しいと予め頼んでいたので、その音声は陰口の対象である俺自身にしっかりと聴こえている。

 ついでにこんな事もあろうかと用意しておいたボイスレコーダーで録音も完璧だ。

 

 

「まあ、Dクラスの生徒達の怒りのお気持ち表明もあながち間違いでは無いよ。俺に落ち度が全く無いのかと聞かれれば否定は出来ないしね」

 

 

 佐城 ハリソンという禄に友人もいない根暗の典型みたいなスクールカースト最底辺のモブ男さえ、もしも事前に情報を共有していたなら。

 きっと自分達はCPを減らす事なんて無く、今月以降も10万ポイントを貰えて進路の保証という特権があるAクラスとなっていた筈だ。と。

 

 そんな半ば妄想に近い、明るい未来が待っていた筈なのに。

 佐城さえ協力してさえいれば、と。

 

 

「俺がSシステムの本質に勘づいた瞬間に平田や櫛田あたりのリーダーさんに情報を共有すれば五月以降に貰えるポイントを減らさない為にも品行方正な学生として理想的な生活をしていた。確かに、その可能性は零では無かった」

 

「あんたそれ、本気で言ってるの?」

 

 

 それなりに真面目に答えた俺の言葉があまりにも非現実的だと感じたのだろう。

 未だに怒りが治まらない様子の神室は片眉をレ点の様に歪ませながら怪訝な声で尋ねて来た。

 その様子に思わず苦笑いが零れる。

 

 

「本気ではある。確率がどんなに低くとも。例え0.00000……1%でもあればそれは零じゃない。つまりは可能性が有る。という事の証明だからね。

 まあ、逆に言ってしまえば可能性があっただけで、その確率は宝くじで一等三億円を当てるぐらいに低いとは思うけどね」

 

「じゃあ現実的には不可能じゃない」

 

「だが事実、可能性はあった。その点は誰にも否定が出来ない。Devil's proof. 悪魔の証明ってやつだね。そして彼ら彼女らは、その僅か。というか目にも見えない程のミジンコ並みの小さな確率に縋るしか無いんだろうよ。まあ、いわゆる現実逃避ってやつさ」

 

 

 俺は利己主義者である。否定はしない。

 茶柱先生の言葉は些か露悪的な点が鼻につくが、言っている事は間違いじゃ無い。

 

 結局、俺がいくら言い訳したところでクラスメイトを見捨てて、来月から貰えるポイントが減額する事を察してた癖に。

 更には学級崩壊まで引き起こす程に民度が低下していた状況から、支給されるポイントが減額どころじゃ済まない事を悟っていたにも関わらずに、自分だけ大金を手に入れた事実は変わらない。

 

 認めよう。

 確かに俺はクラスメイトを見捨てて自分だけ甘い蜜を啜った、最低最悪の不良品である。

 

 

「いや、おかしくない? そもそもあんたが学校側の思惑に勘づいたからって、それをクラスに共有しなきゃいけない義務なんて無いじゃない。それなのに何であんたが諸悪の根源みたいに好き勝手に言われなきゃならないのよ」

 

「うん。全く持ってその通りではある」

 

 

 だけど、まあ。何と言うか。

 俺の意見としては神室の言った事そのものが全てである。

 

 

 そもそもの話。何でまともに会話したことの無い人間が殆どのクラスメイトに情報の共有だなんてボランティア行為をしなきゃならんのか? という話だ。

 

 俺は別に善人では無い。

 ましてや正義の味方でも無い。

 

 カッコいい詠唱しながら無数の剣を精製する赤い弓兵でも無ければ、お腹の空いた子供に自らの顔面を分け与える菓子パンマンでも無い。

 

 

「と言うか、別に俺はCPが減らされようが零になろうが仮に今後の支給額が卒業まで零のままだったとしても困らないし」

 

 

 アレだけ遅刻欠席やらかしまくって学級崩壊レベルで私語雑談に興じていた民度の低さから見て、普通に自業自得だと思う。

 遅刻はしない欠席はしない。授業は静かに聴く。目上の方には表面上だけでも敬意を見せて適切な言葉遣いをする。

 先程の音声で茶柱先生が言っていた通り、誰でも知ってる、それこそ小学生でも知っている、極々当たり前の事の筈だ。

 

 義務教育を九年間も受けておいて最低限の常識的な行動すら取れない問題児共がどうなろうが、こちとら知ったこっちゃ無い。

 CPは文字通りクラス単位で支給されるのだから、クラス内での結束と連帯責任の重さを一人一人が自覚してから生きていかなければスタートラインにすら立てないのだ。

 つまり今のDクラスはクラス間闘争で遅れを取っているどころか、周回遅れしている状態だ。

 

 

「むしろ個人的な事情を加味すれば、いっその事、永遠にDクラスには無収入生活を送っていて貰った方が都合が良いんだよねぇ。俺としては、さ」

 

 

 と、言うかだ。

 仮に。仮に俺が、前世で読んでいた『よう実』二次創作のよくあるパターンのオリ主のように、Sシステムの仕組みを仄めかしてはDクラスの授業態度の改善に心血を注いだ結果、見事にCP0を回避したとしよう。

 

 その結果は考えるまでも無い。

 見事にクラスポイントを守り抜いた功一等の英雄様はクラスメイトから感謝され、讃えられ、尊敬される事だろう。

 で、見事にDクラスの中心人物の仲間入りを強制されるという訳だ。

 

 テストが近づけば学力が優秀であるという理由で勉強会の度に教師役で引っ張り出され。

 原作イベントや特別試験の度に振り回されて山内や篠原と言った問題児のフォローを強制され。

 目立つ功績を挙げたせいで他クラスからも目をつけられ、龍園や坂柳のターゲットにされ。

 機械化が進んだ綾小路に使える駒として利用され、茶柱の野望の為に良いように使われる、波乱万丈の毎日の始まりだ。

 とてもじゃないが呑気に神室と二人で酒を飲みながらグダグダと退廃的な生活を送るような余裕があるとは考えられない。

 

 ただの罰ゲームじゃねえか。なんで俺がそんな面倒な事をしなきゃならんのだ。

 飲まなきゃやってられんね、マジで。

 

 

「……うん。考えれば考える程にどうでもいいな、Dクラスの連中の事は」

 

 

 冷血漢だと罵られようが、どうでもいいことはどうでもいいのだ。

 長谷部のような友人や平田や櫛田のような『訳アリ』とは言えこちらを気遣う素振りを見せてくれた数人、それから主人公である綾小路や超人である高円寺。彼ら以外がどうなろうと興味は無いのが本音なのだから。

 ……まあ、あんまり原作から崩壊して貰っても困るので、須藤辺りが退学になっても困るには困るか。

 

 

「あんたがCPに拘ってないことやクラスメイトの事がどうでもいいと思っている事なんて誰よりも私が知ってるわよっ。だからって好き勝手言われ放題されてるのを良しとするのは話が別じゃないっ!!」

 

「いや、まあそこら辺も色々と対策は考えてるから、そう荒ぶらずに……と言うか、サンドバッグになっているのは俺なのに、どうして真澄くんがそんなに怒ってるのよ?」

 

 

 ぶっちゃけ茶柱先生がやらかす事も、その後のDクラスの反応も何もかもが『計画通り』なので、俺としては怒りを抱くどころか「良くぞやってくれた!!」とばかりに万歳三唱したい気分なのだが。

 美しい顔面を歪めては真っ赤に染まった神室の様子はまさに激昂寸前。隣でそこまで怒りを顕にしている人間がいれば、こっちも却って冷静になる。

 

 

「自分の好っ……自分の恋人が悪く言われていたら腹が立つのが普通の反応でしょっ? 私、何か変なこと言ってる?」

 

「うん。まあ、そりゃそうか」

 

 

 何故か気まずげにそっぽを向きながら吐き捨てた神室の言葉は普通に理解できた。

 俺だって神室がボロクソ言われてたら普通に苛々していたと思うし。まあ、報復はするが。

 

 

「俺の代わりに怒ってくれてありがとう。でも、さっきも言ったけど色々と対策は考えてあるから大丈夫」

 

「対策がある。って、あんた、こうなるって分かってたって言うの? 茶柱先生が契約の事を暴露する事も含めて?」

 

「確信していた訳では無いし、こうなって欲しい。っていう願望込みの想像だったけどね。可能性は大きいだろうと踏んでいたし、理想通りの展開だよ」

 

 

 まあ、遅刻してホームルームを欠席するのは完璧に計算違いだったのだが。

 内心で自省している俺を、神室は何やら目を見開きながら信じられないと言った様子で見つめている。

 

 

「え、いや……意味分かんない。自分だけ大金持ってる事をバラされて、クラスを裏切ったことにされて、クラスメイトから一斉にヘイトを買った事が理想通りなの?」

 

「まあね。寝坊しないでホームルームに出席さえしていればパーフェクトだったんだがねぇ」

 

「……意味分かんないんだけど」

 

 

 困惑。否、若干の恐怖すら入り混じっているであろう驚愕の表情ですら美しい我が恋人に苦笑しつつ、俺は自分の考えを噛み砕いて神室に説明する事にした。

 

 

「先ず大前提として、Aクラスへの昇格を望んでいるのは生徒だけでは無い。間違いなく教職員も狙っている筈だ。そうじゃないと競争心を煽れないからね」

 

「進路とか就職とか既に関係ない先生達も?」

 

「生徒側だけヤル気満々でも先生達が我関せずの様子だと白けちまうだろうしね。間違い無く大人達にもAクラスの特権はある筈だ。俺達生徒とは別の、ね」

 

「何よ、その特権って?」

 

「まあ、『コレ』だろうよ」

 

 

 俺は右手でオッケーのハンドサインを作り、手を裏返して指の輪っかを上向きにした。お釈迦様のポーズと言えば分かりやすいだろうか?

 

 

「お金? 給料が上がるって事?」

 

「いや、教職は基本的に地方公務員に該当する筈だから、毎年毎年給料をポンポン上げるのは考え辛い……ん? この高校って国立だから地方公務員とは別枠か?」

 

「地方公務員?」

 

「文字通り地方公共団体に属して仕事をする公務員の総称だよ。市役所や区役所、県知事や都知事なんかが分かりやすいね。一般的には教職もここに当てはまる筈なんだが……」

 

 

 そもそも国立大学に附属していない国立の高校ってどういう扱いになるんだ? 国家公務員?

 あれ? 確か国立大学って結構前に独立法人化してたよな? それじゃ、国が運営しているこの『高度育成高等学校』も法人化してるのか?

 えーと……でも確か高育の正式名称は『東京都』高度育成高等学校だから地方公共団体扱いなのか? そこで働く教職員はやっぱり地方公務員扱い?

 

 

「あー……改めて考えてみるとちょっと分からないけど、基本的に公立の高校で働く先生は地方公務員だと思って貰っていい」

 

「高育って公立なの? 国立じゃなくて」

 

「ゴメン、そこら辺突っ込むと泥沼になるからスルーして……結論から言えば、教職員方のAクラス特権は恐らく賞与だ」

 

「賞与? 賞状でも貰えるっていうの?」

 

「うん。まあ、それも貰えるかも知れないけど、分かりやすく言えばボーナスの事だよ。一般企業とかでも出している給料とは別の報酬だね」

 

 

 ぶっちゃけ俺がこれを知っているのは原作知識のおかげなので余り深く突っ込まれるとボロがでるかも知れない。

 内心で冷や汗をかきつつも神室への説明は続く。

 

 

「四月の頭、新入生に支給されたポイントは10万×40人×4クラスで1600万。Sシステムの関係上ここから増減を繰り返すとは言え、何の実績も持たない未成年者への投資にここまで大金を支払う学校だよ? それもたった一月で」

 

「そうやって改めて聞くと確かに大金だけど」

 

「そんな生徒を教え導く(笑)偉大な先達者にも学校側は大金を支払う可能性はかなり高いと思わないか? 恐らくだがAクラス特権の特別ボーナスはかなりの額になるだろう」

 

「まあ、あんたの言ってる事が合っているとして。つまりどの先生もAクラスへの昇格を狙っているって言うのは理解できるけど……」

 

 

 原作でも星之宮がBクラスの生徒に対してAクラスの担任は特別ボーナスが出る旨を説明していた描写があった筈だ。

 その額には触れてなかったが、須藤事件の時の坂上先生の必死の弁護や、龍園の退学危機をあの手この手で阻止しようとしていた事を考えれば、社会人が本気で欲しいと思うレベルの大金なのだろう。

 少なくとも百万や二百万レベルの額では無い筈だ。

 

 

「だったら余計に意味が分からないわよ。Aクラスを先生も狙っているなら、何でDクラスの担任はあんたを槍玉に上げてヘイトを煽るような発言をしたのよ? これ、下手したら責任問題になりかねないでしょ?」

 

「確かにね。俺がノコノコと教室に顔を出したら集団リンチに遭いかねない熱狂ぶりだったね」

 

 

 男女問わず暴力をも辞さないレベルで俺を責め立てるのは想像に容易い。

 まあ、イジメ問題にまで発展しそうになったら平田が『本気で』止めるだろうから流石に私刑を執行される事は無いのだろうが。

 まあ、仮に暴力を振るわれたとしても、むしろ『願ったり叶ったり』なので、どっちに転んでも俺としては構わないのだが。

 

 そんな事を考えながら俺は隣に座る神室の眼の前に三本の指を立てた掌を突きつけた。

 

 

「流石に俺も心理学者では無いから完璧には推理出来ないけど、茶柱先生があんな発言をした理由として考えられるのは三つのパターンがある」

 

「三つ?」

 

「一つ目。学校側から交渉という名の脅迫をかましてポイントをむしり取った俺が気に食わないから嫌がらせをした」

 

「やっぱり脅迫って自覚あったんじゃないの……っていうか普通に考えてそれが理由じゃないの?」

 

「いや、個人的にこの線はかなり薄いと思っている」

 

 

 『茶柱 佐枝』というキャラクターのAクラスへの執念には理由がある。

 

 学生時代に高度育成高等学校に生徒として通っていた彼女は、自らのミスでAクラスへの昇格のチャンスを棒に振ってしまったのだ。

 故に、今年のDクラスの生徒の質。能力だけは高い堀北や高円寺。事情さえ無ければAやBクラスに配属されてもおかしくない優等生である平田や櫛田。

 

 そして何より入試で全科目50点を獲得した事により、その天才的な能力の片鱗を見せつけた(本人としては不本意だろうが)主人公『綾小路 清隆』が揃っている今年のDクラスなら本気でAクラスを狙える筈だ。と、内心で奮起している事だろう。

 

 三十路間近にもなって学生時代の思い出と挫折。それに伴う理想と夢に囚われ続けている女だ。

 四十という限られた駒の数の中の貴重な一駒を、一時の感情に流されて無下にするような真似はしないだろう。

 

 まぁ、ここら辺の事情は原作知識あり気の話なので神室には詳しく説明出来ないのだが。

 

 

「そもそも気に食わない云々を言い出したらDクラスの生徒の大多数が当てはまってしまう。真澄くんも聴いただろ? ホームルームが始まる直前の男子生徒によるセクハラ発言」

 

「確かに。あれには殺意が沸いたわ」

 

「あそこまで酷い人間はそこまで多くないにしろ、殆どの人間が授業を無視するわ、普段から友達感覚で教師に無礼な発言をするわ……。確かに俺も恨まれてるかも知れないが、茶柱先生が気に食わない生徒に嫌がらせするようなタイプだったら、俺以外にもターゲットがいないとおかしいだろ?」

 

「まあ、確かに」

 

 

 割とこじつけではあるが、神室は納得してくれたようだ。

 ぶっちゃけ茶柱は個人の野望の為なら何でもする感情で動く女性の典型みたいなものなので、本気で恨まれたら嫌がらせどころでは済まされない気もするのが実情なのだが。

 そんな事を考えつつも俺は指を一本折り曲げてから話を続けていく。

 

 

「二つ目。気に食わないを飛び越えて殺意を抱いた。もしくは今後Aクラスを目指す上での障害となる危険性を警戒してCPが0である今の内に排除にかかった」

 

「排除、って退学の事? それとCPが0であるのがどう関係するのよ?」

 

「とある先輩から小耳に挟んだ情報なんだが、退学者が出る度にCPが100ずつ減額されるらしいんだ。だが今のDクラスならペナルティを踏み倒せる」

 

「ああ、成る程。確かに減るものも無いしね。それにしても中々に重いペナルティね。うちのクラスが聞いたら絶対に退学者なんか出してたまるか。って必死になりそう」

 

「まあ優秀なAクラスなら少なくとも定期テストで退学になる事は無いだろうから現時点では心配要らないだろうけど」

 

 

 Sシステムを見抜いておいてクラスメイトに共有しなかった時点で、俺がAクラス昇格への興味が無い。もしくは限りなく薄い。と茶柱は判断している筈だ。

 おまけに交渉中に退学届けまで突きつけた事から、綾小路のように退学を持ち出しての脅迫も効かない事も。

 

 悪知恵が働くがクラス間闘争に協力する気が無い人間は茶柱にとって、非常に扱い難い駒だ。

 故にCPが0の内にクラスメイトにイジメを引き起こさせて退学に追い込もうとしている……と、言いたいが。

 

 

「だが、まあ。説明しておいて何だが、これも恐らくは無しだな。茶柱自身のダメージはともかく、下手したらDクラスが致命的に崩壊する」

 

「それってどういう事?」

 

「入学初日に担任の先生から説明があっただろう? 学校はイジメ問題には敏感だと」

 

「つまりイジメなんて引き起こしたら加害者がまとめて退学させられる。って言いたいの?」

 

「まあ、国が力を入れている高校でイジメが起きました。なんて外聞が悪いから握り潰される可能性も無きにしもあらずだが、普通は退学だろうよ。すると必然的にクラスメイトの数は減るわけだ」

 

「退学者が多いとAクラスにはなれない。って言いたいわけ?」

 

「基本的に数は力だ。個人の学力だけで乗り越えるしか無い定期テストは別としても、今後行われるであろう特別試験において人数が少ない事が不利に働くのは恐らく間違いないだろうし」

 

「あんたの言ってた学力以外を測る試験だっけ? それってどんなもの?」

 

「さて、ね。流石に今現在の情報では判断つかないが……」

 

 

 まさか夏休みに無人島でサバイバルやらされるとも言えんしな。

 

 

「まあ、例として挙げれば体育祭が試験になる可能性がある。団体競技なんてまさに人数がモノを言うだろう? 例えば綱引きで参加人数が少なかったら勝てるものも勝てない」

 

「あぁ、確かにありそう」

 

「人数の多さは可能性の多さ、選択肢の多さだ。退学という形でどんどんと人数を削られてしまえば、どんな試験でも勝率は低くなる。結果、Aクラスになる為の戦力も衰えるというわけさ」

 

 

 ぶっちゃけ原作では体育祭は厳密に言えば特別試験では無いらしいし、退学者が出たからと言って不利になるような特別試験は無かったのだが。

 強いて言うなら11巻で実施された選抜種目試験ぐらいだろう。

 

 俺はもう一本、指を折った。

 

 

「最後に本命の三つ目。さっきとは逆パターンだ。早期にSシステムを見抜いた事や教職員から交渉、脅迫を用いて大金をむしり取った俺を優秀な駒だと評価した。そんな俺に強制的にでもAクラスを目指して貰いたいが為に、あえて契約をクラスメイトに周知した」

 

「……はぁ?」

 

 

 恐らくこれが本命だろう。

 茶柱ならやる。間違いなくやってくれる。

 

 俺はそう踏んだからこそ、Sシステムに関する情報について茶柱先生と契約する時に『あえて五月以降の口止め』をしなかったのだから。

 

 

「リスクはある。非常に高いリスクだ。暴走したDクラスの生徒がイジメを起こしたら二つ目のパターンになって失敗。俺がクラスメイトに嫌気がさして自主退学しても失敗。イジメを扇動したと学校側に告発しても失敗……とは言い切れないがダメージは避けられない」

 

「いや、駄目でしょ。音声聞いてる限りではどう見ても茶柱先生がイジメを主導してるようにしか聴こえなかったんだけど。あんたは御丁寧に録音までしてるんだから証拠もあるじゃない?」

 

「うーんそこが微妙なところでなぁ。はっきりと明言は出来ないんだが……」

 

 

 確かに茶柱先生のあの露悪的な暴露は結果的に俺を槍玉に挙げてクラスメイトのヘイトを一点に集中させた。

 恐らくこの音声をSNSやら報道機関にでも流せばイジメを煽る問題教師としてボコボコに叩かれてアビ・インフェルノな炎上騒ぎでお祭りワッショイになるレベルの問題行為ではある。

 あるのだが……高育だしなぁ。

 

 

「監視カメラがある教室で暴露してる時点で茶柱先生は自分がダメージを負う覚悟はしているんだと思う。仮に俺が訴えれば謝罪や賠償金をせしめる事は出来るかも知れんが……クビを飛ばせるかと言うと……微妙だ。少なくとも茶柱本人はそう判断したからこその蛮行なんだろうし」

 

 

 原作でも現在進行系でイジメを受けていた軽井沢の一件をサラッと見て見ぬ振りをしたのが茶柱だ。

 そしてそれを咎めもしないのがこの高度育成高犯罪者養成学校……間違えた。

 高度育成高等学校なのだ。

 

 仮に訴えたとして、まさか無罪放免とはならないだろうが、三日間の謹慎だとか半年の減給などの軽い処罰で済まされる可能性も無きにしもあらず。

 学校教育という観点において事実上のトップに立つ坂柳理事長の娘が『アレ』なのだ。

 娘一人をまともに育てあげる事が出来ていない時点で、期待値は御察しである。

 

 例を挙げれば佐倉の一件では思いっきり事実を隠蔽していたし、その賠償金も雀の涙だ。

 護るべき未成年を親御さんから引き離して預かっている癖にストーカーを許すわ、未遂とは言え暴行に合わせるわ、それを目撃者数人にも口止めをさせるわ。その後のアフターケアーも特にしないわ。

 不祥事は隠したくなるのが人間とは言え、それを教育者のトップがやってる時点で、茶柱へのまともな処分には期待が出来ない。

 

 そう言えば佐倉の一件は明らかな『緊急事態』と言える状況だったのだが、親御さんにはきちんとした説明はしてあるのだろうか?

 

 

「普通の学校なら茶柱の発言は一発アウトだろうが、外部との連絡が禁止されているこの学校は事実上の監獄だよ。インターネットへの書き込みや投稿も監視、あるいは禁止されている現状、俺達は籠の鳥だ。訴えたところで握り潰されるか、形だけの処罰を与えてハイ、オシマイだなんて事も有り得る」

 

「幾らなんでも理不尽でしょ!?」

 

 

 怒りが再燃したのか、堪らずといった形相で神室が立ち上がって叫んだ。

 その気持ちは分かる。が、得てして世の中というものは弱者に厳しく強者に甘い。そんな理不尽なものなのだ。

 

 

「まあ、落ち着き給えよ真澄くん」

 

「あんたは落ち着き過ぎよ!! そもそも何であんたを悪者にする事が、あんたを強制的にでもAクラスを目指すように誘導する事に繋がるのよ!?」

 

「見方を変えてみたまえよ。今のDクラスの面々は俺への怒りで頭がいっぱいだが、時が経ち、冷静になって大人しく今後の事を考える時間がやってきたらどうなると思う?」

 

 

 俺は神室の手を優しく握ってから軽く引いてやり、再び隣に座らせた。

 ピクリと彼女の白い手が震えると、しばらく俺の手を強く握り締めていたが次第に力が抜けてきた。努めて冷静になろうと目を閉じては一つ長いブレスを吐き出す姿が妙に色っぽい。

 

 

「……あんな馬鹿共の考える事なんて知ったことじゃないけど。そうね、私がDクラスの人間だったら、取り敢えずどうにかしてCPを増やす事を考えるわ。流石にずっと無収入とか普通に無理だし、他クラスから無駄に見下されるのもムカつくし」

 

「そうなるね。すると皆考えるわけだ。どうすればCPを増やせるだろうか? 減る事は無いとしても増やす方法が分からない。学校側から最悪の不良品と判断された自分達ではどうにもならない……すると、ここで閃くんだ。居るじゃないか、と。少なくとも茶柱先生が名指しで優秀な生徒だと。頭が冴えると褒め称えた人間が居るじゃないかと」

 

「あんたを頼る? って事?」

 

「Exactly」

 

 

 希望的観測が多分にかかってるが、恐らく茶柱はこれを見据えての、あの発言だったのだろう。

 そう考えなければ態々自分の首を絞めてまであんな爆弾発言はしない筈だ。

 

 恐らく、もしも俺がホームルームに出席していたらあそこまで、あからさまに名前を挙げなかったであろう。

 Sシステムを見抜いた生徒が居た。優秀な生徒が混じっている。名前は挙げないが使える人間を仄めかす程度で収めていたかも知れない。

 ……いや、それでも茶柱ならやるかも知れないが。

 

 

「あそこまでボロクソに貶しておいて、あんたを頼る? 有り得なく無い?」

 

「頼る。というよりも責任を取らせる。と捉えれば判り易いだろう? クラスメイトを見捨てて自分だけが大金せしめた憎きあん畜生ならばどんなに使い潰しても良心が痛まないからね。ついでに贖罪としてプライベートポイントも取り上げられれば万々歳。ってとこじゃないか?」

 

「……納得出来ない。納得出来ないけど、有り得ないとも、言えないわね。Dクラスの、あの有様じゃ」

 

 

 物は言いよう。とは良く練られた言葉である。

 あくまで仮定の話でしか無い筈なのに、何故か物凄い納得感があるのだから不思議な話だ。

 神室が苦虫を百匹噛み潰しても足りないぐらいに顔を歪めているのも無理は無い。

 

 恐らく俺の予想は大きく外れている事は無いだろう。

 クラス間闘争からフェードアウトしようとしていた俺を、茶柱は強制的にでも参加させようと自爆覚悟でやらかしたのだ。

 

 ここまでされたら致し方無い。

 いやはや、茶柱先生の熱意には感服した。

 これは一本取られた。完敗だよ。これからは心を入れ替えてクラスの為に頑張ろう!!

 

 

「真澄くぅん」

 

「何よ?」

 

「どうやら茶柱先生は御存知なかったようだから、念の為に君にも説明しておきたかったんだけどね?」

 

 

 

 等と、なる訳が無い。

 

 

「俺は性格が悪いんだよぉ」

 

「知ってるけど」

 

「売られた喧嘩は買う事にしてるんだよぉ」

 

「それも、まあ。何となく想像はつくけど」

 

 

 前世で好きだったドラマの名台詞が脳内で響き渡る。「やられたらやり返す、倍返しだ!」と俺の内なる半沢直樹が叫んでいるのだ。

 

 俺は基本的に怠惰な人間だ。

 そもそも怒りという感情には精神的カロリーを盛大に消費するので、無用なトラブルや厄介事に巻き込まれるぐらいなら自分に非が無くても適当に頭を下げて、なぁなぁで済ませてしまう典型的な日本人だ。

 綾小路が入学当初に目指していた本当の事勿れ主義者の典型とも言えよう。

 

 だが、違うのだ。

 この身体は、違うのだ。

 

 自堕落で、怠惰で、消極的な俺の身体では無いのだ。

 

 折られ、穢され、凌辱され、踏み躙られ、欲望の捌け口として使い古されたこの身体には、たった一つの感情が業火の如く燃え盛っているのだ。

 

 怒っている。怒っているのだ。

 文字通り、激怒しているのだ。

 

 

「さて……ちょっとばかし、御願い事があるんだが聞いてはくれないかね? 真澄くん?」

 

「な、何よ? って言うか何でそんなニコニコしてるのよ?」

 

 

 俺は許そう。

 

 

 だがこいつ(佐城 ハリソン)が許すかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一緒に愉しい愉しい悪巧みのお時間と洒落込もうじゃないかぁ。ねぇ? 真澄くぅ〜ん?」

 

 

 

 

 




感想、高評価、誤字訂正、お気に入り。いつもありがとうございます!! 感想、全部読んでます!!

ちなみに悪巧みの内容については他者視点で詳しく語りますので、ネタバラシは暫く後になります。


↓↓↓以下、本作とは関係無い話↓↓↓


https://syosetu.org/novel/355833/

オリジナル書いてます!!
TCGものです!! よかったらついででも良いので、読んでみて下さい!!

今後の展開について

  • オッサン視点でストーリー重視
  • 他者視点重視。イベントの裏側を解説
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