活動報告を更新しました。よかったら御一読下さい。
某、有名熱血教師は言いました。
人という字は人と人が支え合って出来ている。と。
「まあ、これは真っ赤な嘘なんですけどね」
「えっ? そうなの?」
校舎の中、無人の廊下を俺と神室は二人っきりで歩いていた。
時刻は昼過ぎ。窓の外からは眩しいぐらいの昼光が差し込み、キラキラと床に反射しては所々輝いている。
用務員か、それとも専門の清掃員を雇っているかは定かでは無いが、その仕事振りは確かなようだ。
「そもそも『人』という漢字は象形文字ですので。人間が足を開いて地面に立っている姿をそのまま文字にしたものです。『山』や『田』なんかの漢字で想像すると判り易いのでは?」
「ふーん。じゃあ、あのドラマでは嘘の台詞を言ってたのね」
「結論から言ってしまえばそうなりますね」
現在の時刻は十二時を少し回ったところだ。
今日は平日であるからして、当然の如く授業は行われている。四限の真っ最中だ。
今頃生徒達は真面目に授業を受けている頃だろう。
それは辛い現実を知ったDクラスの面々も変わらない筈だ。
「とは言え、人という生き物は社会的な生物ですから他者の存在無しでは生きていけません。時と場合によりけりとは言え、支え合って生きていくのは事実ではありますし、そう言った意味では本質をついた発言かも知れませんね」
「でも結局は嘘なんじゃない。すっかり信じていたのに」
「字の成り立ちとしては、嘘ですね。まあ、前提として聞こえの良い言葉というものは誰でも記憶に残りやすいですから名言名台詞と言った類の言葉は浸透しやすいものですよ」
一応は校内ということもあり、周りに聞かれても構わない様に猫を被り、そんな下らない話をしながら二人。ゆっくりと廊下を歩いている。
いたるところに設置された大量の監視カメラの存在は相変わらずに不気味ではあるが、徐々に慣れつつあった。
何故なら我々新入生が入学してから既に一ヶ月が経ったからだ。
五月一日、運命の日。『ようこそ実力至上主義の教室へ』という物語が本当の意味でスタートする大切な一日に。
俺はこうして神室と二人、授業をサボタージュして無人の廊下を歩いていた。
「そう言えば神室さん。クラスで友達は出来ましたか?」
「何よ急に。居ないけど文句あるわけ?」
「文句はありませんが問題はありますね。最低でも同性の友人を一人は作って下さい」
「はぁ? 何でよ?」
「有用だからです」
ローファーがカツカツと床を踏み鳴らす小気味の良いスタッカートに混じり、神室の怪訝な声が響く。
言葉短くどこか不機嫌そうな声色は、一見すれば怒気が込められていると勘違いしてしまいそうだが、我が恋人であるツンツン少女はこれがデフォルトなのだ。
「今後、クラス間闘争が本格的に始まります。身を護る為にもいざという時に真澄さん自身の味方になってくれる存在は便利な護身具となります」
「道具扱い?」
「あくまで例えですよ。例えば女子トイレだとか更衣室だとかカメラの目が届かないところで何かしら『仕掛けられる』と、友人が居ない現状、対応が難しくなります」
「いや、それ犯罪じゃない?」
「真澄さん。以前にもご説明した通り、この学校は犯罪を許容している節が見受けられます。バレなきゃ犯罪じゃない、とばかりにね。用心するに越した事はありませんよ」
人は一人では生きていけない。
いや、まあ極端な事を言えば食い物と水さえあれば一人で無人島に放り出されようが独房に監禁されようが生きてはいけるだろうが、現実的では無い。
社会で生活する上で。学校というコミュニティで健全に生きる上で。
他者の存在は必要不可欠とも言える。
「特にAクラスはクラス内ですら派閥の対立が起きているのでしょう? 優生思想に染まりかけているAクラスの中で唯一、不良品集団であるDクラスのボクと交際関係にある真澄さんは、はっきり言えば悪目立ちしています。そう言った意味でも、いざと言う時に庇い、寄り添ってくれる存在は確保しておいた方が良いでしょう。今後の生活が有利になる」
ぶっちゃけた話だが、俺は別に良い。悪目立ちしようが、問題児に目をつけられようが、イジメのターゲットにされようが、やりようはある。
原作知識という素晴らしいアドバンテージは使い方によってはこれ以上は無いであろう強力な武器となるだろうし、いざとなったら退学してしまえば良い。という無敵の逃げ道がある。
故に俺は、今後の学園生活がどうなろうと、割とどうにでもなるのだ。
「言ってる事は理に適ってるし納得はするけど、言葉選びが最悪ね」
「意味が通じればいいのですよ。聞こえの良い言葉が嫌い。というわけではありませんがね」
だがしかし、神室は別だ。原作では将来のAクラスのリーダーである坂柳の側近中の側近として控えていたので、まさかイジメのターゲットや誰かにハメられて退学するような展開にはならなかっただろう。
だが、今の神室は既に原作の面影が皆無だ。
坂柳とも距離を置いているし、本来なら同じ派閥だった筈の橋本の事は嫌っている。
原作では美術部に所属していたが実際は部活動には所属しておらず、時おり麻雀部にカツアゲしに行く程度。
何より学校側が最も優秀であると判断したAクラスに所属しておいて、底辺たるDクラスに振分けられた俺と恋人関係にある事実は、かなりのウィークポイントだろう。
つい先日、クラスメイトに神室との関係を根掘り葉掘り質問責めされた事から、俺と神室の関係はある程度の人間には知れ渡っている。
まさか都合良くAクラスにだけ知られていない。なんて事は有り得ないだろうし、神室もクラスメイトからはそれなりに詮索はされている筈だ。
「まあ、あまり難しく考えずとも。普通に学園生活を楽しむ為にも是非とも友人の一人や二人は作っておいて下さい」
「そう言うあんたは居るの? 友達」
まあ、何だかんだ言って学力身体能力共に優秀でルックスも抜群のハイスペック美少女が『神室 真澄』という人間だ。
案外、ぼっちでも上手くやってけるかも知れないが、一年生編の後半に行われる混合合宿やクラス内投票でターゲットにされる可能性も無きにしも有らず。
過保護だと笑われようが、打てる手は可能な限り打っておきたい。
「……長谷部さんがいますね」
「同性の。って意味よ」
「三宅くんとは仲良くなれる気がします」
「今はいないんじゃないの」
そう言えば原作でもクラスを跨いだカップルというのは登場しなかったが、やはり現実でもそうなのだろうか?
いや、一年生編の後半で色々あった結果『禊』を済ませた一之瀬が明らかに綾小路に好意を抱いたような描写があったか。
その時点で綾小路は軽井沢と付き合ってたような、そうじゃなかったような……。
そんな事を考えているとチャイムの音が無機質な廊下に響き渡った。
四限が終了したようだ。昼休みが控えているからか、どの教室からもざわめき声が一斉に漏れ出している。
「さて、丁度いい時間になりましたし参りましょうか」
「とっとと済ませてよね。一応、私は体調不良で午前中の授業を欠席してる体になってるんだから」
「ええ、もちろん。ボクとしてもクラスメイトに鉢合わせしたくなど、ありませんから」
ガラリと音を立てて教室の前扉が開いた。
痩せぎすで眼鏡をかけた中年の男性教師は廊下側に人が立っているとは思わなかったのだろう。何やらギョッとした顔でたたらを踏むと、俺の顔を見て停止した。
「……なっ!?」
Cクラス担任の坂上先生だ。どうやらこの教室の四限は数学の授業だったらしい。
「失礼、坂上先生。こちらの教室に用があったものですから」
「えっ? あ、ああ。そ、そうなの、か?」
「では、失礼致します」
何やら金魚のように口をパクパクと開いては酷く動揺した様子の坂上先生に軽く頭を下げると、俺はそのまま教室へと入った。
机の配置も教室のデザインも普段から見慣れた物と殆ど変わらない。
学年が変わっても教室の雰囲気とは変わらないものなんだな。と言う感想を抱いた。
「御歓談中、失礼致します。一年Dクラス所属、佐城と申します。それから、こちらが一年Aクラス所属の神室。我々は堀北先輩に御要件がありまして御邪魔させて頂いたのですが……いらっしゃいますでしょうか?」
本来だったら扉をノックしてから名乗りたかったのだが、何故か坂上先生が扉の付近で固まってしまったので致し方無い。
礼を失さない程度の俺の簡潔な言葉に、三年Aクラスに所属する生徒達の視線が一斉に集まった。
「「「「……」」」」」
シン。と音を立てる勢いで。否、音を立てない勢いで。
何故かそのまま静止した。
衣擦れ一つ、物音一つ。
ランチタイムを迎えるにあたり、それなりに緩和していたであろう教室から一切の音が消え去り、全ての人間がまるで氷漬けにでもなったかのように固まっている姿は奇妙を通り越し、不気味ですらあった。
「……あの?」
あまりの気不味さに一言発してみるも、誰一人として動かない。
目線だけで目的の人物を探してみれば眼鏡をかけた長身の美青年の姿は見つかったものの、やはり彫像と化している。
レンズ越しに目を見開いて軽く口を開けた間の抜けた表情からは、歴代最高とも称された優秀な生徒会長の肩書からは想像もつかない程にギャップのあるものだった。
「はぁ……こうなると思ってたわよ」
不気味な教室の雰囲気に俺が困惑していると、俺の背後に控えるように立っていた神室が大きく溜息を吐き出した。
そのまま一声何やら呟いたかと思うと、俺を通り越してズンズンと教室の中に入り込み、丁度教卓の前辺りで止まった。
ガンッ。と大きな音が鳴る。
神室が右手を教卓に振り下ろした衝撃音だった。
「一年の神室と佐城です。堀北先輩に用があるんですけど、ちょっと時間いいですか?」
裁判官がガベルを叩きつけ判決を述べるかのような堂々としたその台詞に。
ようやく止まっていた時が流れ出したかのようにして教室内の生徒達が反応しだした。
一体全体、何が原因で先輩方は固まっていたのだろうか?
あと、何で坂上先生は前扉の近くで固まったままこっちをガン見しているのだろうか?
俗に言う、エネル顔で見つめられると普通に不気味なんですが。
「本当に、佐城……なの、か?」
「ですから、本当にボクは佐城 ハリソンですって。全く何回目なんですか、その質問は?」
「いや、だが。あまりにも……」
生徒会室は想像していた以上にシンプルな作りをしていた。
業務で使うだろうパソコンやプリンターといった一部電子機器を除けば、そこら辺の空き教室となんら代わり映えはしない。
室内に飾り気が殆ど無いのは、目の前で眼鏡を外しては掛け直しを繰り返してる目の前の青年の趣味なのだろう。
きっと南雲が生徒会長を引き継いだら、部屋の雰囲気もガラッと変わる筈だ。
「はぁ……こう言えば信じて頂けますか? Fucking son of a bitchの陰険糞眼鏡先輩」
「おまっ……!? あ、ああ。どうやら、本当に佐城本人のようだな」
初対面の時に殴られかけた俺がぶつけた挑発的な呼び方を再現すると、ようやく納得したのだろう。
堀北先輩は一瞬瞠目したかと思えば、もう一度眼鏡を外しては眉間を揉みほぐしながらようやく納得してくれた。
「流石は歴代最高と名高い生徒会長様。ようやく理解して頂けたようで何よりで御座いますなぁ」
「あまりにも、容姿が違ったので……な」
「大袈裟な。多少、髪を切って身嗜みを整えた程度じゃありませんか」
「多少というレベルでは無いだろう。明らかに……!」
やり取りのしつこさについつい嫌味が出たが仕方無い。
俺は胸元にしまっておいた黒無地の鉄扇を広げて口元を隠した。
流石に目の前で思いっきり溜息を吐き出すのは失礼に当たると思ったからだ。
なんだろう。
初対面の印象と原作知識から、感情を外に出さない鉄仮面的なクールガイを想像していたのだが、思っていたキャラとは違う。
さっきからやけに赤面してるし、視線が思いっきりバシャバシャ泳いでる。
もしかして体調でも悪かったのだろうか。あまり長い時間を取ってもらうのも悪いかも知れない。
「ふえぇ……」
おまけで着いてきた橘先輩なんて俺の顔をガン見しながら微動だにしていないし。
キャラ的に茶の一つでも入れてくれるかと思っていたんだが、椅子の上から動きもしない。そういう置物だと言われてしまえば信じるレベルで微動だにしない。なんか変な声を出すマスコットだと言われても信じてしまう。
三年Aクラスの教室から生徒会室に移動している間もブリキ人形みたいにギクシャクした動きだったし。
「……って言うか、言われるがままにあんたに着いてきたけど、そもそも生徒会長に何の用なのよ?」
室内の微妙な空気を察してか、俺の隣に座った神室から質問が飛んできた。
ぶっちゃけ上級生だったら誰でも良かったのだが、連絡先を知っている先輩が堀北先輩だけだったのだ。
『よう実』ワールドで中間テスト前に先輩に接触を図った目的。原作知識があるならば言うまでも無いだろう。
「では昼休みの時間も限られている事ですので単刀直入に。堀北先輩、貴方が今まで受けて来た定期試験の過去問。一年、二年生の分まで全て譲って頂きたいのですが?」
「過去問? 試験勉強でもする訳?」
「ある意味では正解ですが、今回の中間テストに限っては別の意味があります。如何でしょうか? 堀北先輩……堀北先輩? 聴いていらっしゃいますか?」
「あ、ああ。聴いている。少々、驚いただけだ。色々とな」
大丈夫だろうか。なんかまた眼鏡を外しては掛けてを繰り返し始めたぞ、この先輩。
橘先輩に至ってはあんぐりと大口開けて「私、ビックリ!!」と思いっきり主張しているし。
橘先輩は本当に何しに来たんだよ、もう。
「一応だが、何故わざわざ手間をかけてまで過去問を手に入れようとしている理由を聞かせて貰おう。入試でも同着とは言え総合三位を獲得した優秀なお前なら不要の品物だと思うが」
「ちょっと。何で会長がこいつの入試の結果知ってるわけ?」
「生徒会長特権だ。在校生全てのデータを閲覧できる権利がある。望むならば神室、お前の入試の結果も教えてやるぞ?」
「うわぁ、権力エグいわね。あと別に入試の件は興味無いです」
同着で総合三位って堀北と一緒じゃん。
絶対に妹の件で印象に残ってただけだろう、このシスコン眼鏡が。
まあ、そんな事はどうでもいい。
ぶっちゃけ俺や神室は過去問なんか無くとも中間テストなどは楽勝だが、今後とも良い関係を築いていきたい長谷部や佐倉、三宅に対する『餌』としては必勝法である過去問は早いところ手に入れておきたい。
それに相手の出方次第とは言え、今後確実に行われるであろう『交渉』の為にも早めに手に入れるに越した事は無い。
俺はそんな事を考えながら、電話越しに聴いた茶柱劇場を思い出しながら会長に語った。
「先月行われた小テストですら赤点ラインを七人も割ってしまったのが我がDクラスです。にも関わらず担任の茶柱先生はこう仰いました」
茶柱劇場の後半。俺という異物のせいで原作とは台詞がだいぶ変わってしまったとは言え、やはり最低限の台本があるのだろう。
茶柱は教室から退出する直前になってから思い出したように中間テストの話に再度触れたかと思えば若干語気を強めてこう言ったのだ。
「『お前達が赤点を取らずに中間テストを乗り切れる方法はあると確信している』と、ね」
「……それが何で過去問に繋がるのよ?」
神室が片眉を上げながらそう言った。
真澄は訝しんだ。というやつだ。
「最後の三問を除けば中学時代に習った基礎の基礎の問題ばかりが出題された小テストで赤点を取ってしまうレベルの学力しか無いのがDクラスなんですよ? しかも七人も。中間テストは科目別ですし、当然の話ですがこの学校で新たに習った内容が出題されます。つまり必然的に範囲、難易度共に著しく上昇することが予想されます。基礎知識すら覚束ない不良生徒達が例え今から必死に勉強したところで、普通に考えれば望ましい結果が出るとは思えません」
「まあ、それはそうでしょうね」
まあ、説明の為に大袈裟に言っているが『著しく』は言い過ぎかもな。
少なくともお馬鹿さん揃いのDクラスが裏技も無く、一人の退学者も出さずに中間テストより範囲の広いであろう期末テストを乗り越えたのは確実っぽいし。
「加えてこの学校の教師はやけに発言に含みを持たせる傾向があります。初日に十万ポイントという大金を支給しておいて、その後は支給日に関してしか言及せず、あえて毎月十万ポイント振り込まれると誤解させるような説明など、まさにその傾向が強い。よって、茶柱先生が『確信』する何かが存在する。そう推測するのは極自然な事でしょう」
「つまり茶柱先生の言っていた、その『確信』に至る方法っていうのが過去問なわけ?」
「確証はありませんが恐らくは」
これもまあ、改めて考えれば割とこじつけな気がするんだがなぁ。
原作では少なくとも綾小路が気付かなければDクラスでは誰も過去問に手を出そうなんて発想は浮かばないだろうし。
「付け加えるならば、あの小テストも妙ですね。最後の三問は少なくとも高校二年生レベルの知識が。英語の問題に至っては大学入試に出題されてもおかしくは無い難易度の問題でした。普通は解けません」
「あんたは解けたじゃない」
「それは単純に偶然と日頃の積み重ねの成果ですよ。嗚呼、ちなみにですが堀北先輩、あの小テストで満点を取った人間って何人居るかって分かりますか?」
「……調べようと思えば直ぐに判る事だから答えてやろう。三人だ。佐城以外ではAクラスとBクラスで各一名が満点を記録した筈だ。職員室でも話題になったと一部の先生が噂していたぞ」
「成る程。貴重な情報を教えて頂きありがとうございました」
Aクラスはどうせ坂柳だろうから良しとして、Bクラスは誰だ? 一之瀬か? 確か入学首席が一之瀬だった筈だし。
あれ? そう考えると坂柳って一回入試で一之瀬に負けてるのか?
天才からすれば余りにも入試が簡単過ぎてケアレスミスでも連発したんだろうか?
「と、まあ殆どの人間が解けない問題をわざわざ小テストに組み込むのはナンセンスです。習ってもいない問題を解くには事前に解答を知っていなければならない。もしくは既に習っている人間に予め聞いておくしかない。例えば……先輩方なんかに。ね?」
「だから先輩から過去問を譲ってもらうって発想……うわぁ」
「なんですか、真澄さん。その反応は」
「そこまで頭が回ると感心を通り越して、純粋に気持ち悪いわね」
「聞かれたから答えたのに理不尽!?」
いや、まあ。やってる事はドヤ顔で原作知識を垂れ流してるだけなんだから褒めてくれとは言わないけども。だからって、その反応はどうなのよ。
内心で割とショックを受けていると真正面から溜息が聞こえてきた。
何やら頭を抱えるようにして考え込んでいる堀北先輩は顔色が冴えない。見るからに苦悩している様子だ。
何万ポイントで過去問を譲るかでも考え込んでいるのだろうか。
ちなみにお団子頭のマスコット先輩は何故か白目を剥いて固まってる。本当あんたは何しに着いてきたのよ?
「佐城の言っている事は正解だ。毎年、一年時に行われる最初の中間テストは問題が使い回されている。ちなみに小テストも毎年同じ問題が出題されている」
「使い回しと言うことは事前に過去問を暗記すれば誰でも百点が取れるという事ですね。なるほど、先生方が赤点を乗り越えられると確信している訳ですね」
まあ、知ってはいたが取り敢えず初めて聞きましたという体で俺は大袈裟に一つ頷いておいた。
「問題が使い回されてるなんてテストの意味無いじゃない。期末試験以降はどうなんですか?」
「問題傾向や範囲の先取りとしては参考になるだろうが、あくまで参考止まりだ。この学校で純粋に学力を問う定期試験が始まるのは一年時の期末試験からだと覚えておけ」
「そりゃそっか。流石に毎年毎年、問題を使い回してたら誰も勉強なんかしなくなるし」
「ボク個人としては抜け道が用意されている中間テストよりも期末テストの方が不安ですね」
原作知識で退学者が出ないことは知っている。
だがDクラスで一ヶ月生活していた感想と、あの小テストの悲惨な結果を見ると不安が募ってくるのだ。
有象無象が退学するのは別に構いはしないが、ネームドキャラが退場するのは原作知識が役に立たなくなってしまうから困る。
特に赤点筆頭である須藤は龍園が仕掛けた『須藤事件』が起きるまでは何としても回避して貰いたい。
まあ、確か事件が発覚したのは中間テストが終わって暫くが経った六月の末なのでそこまで心配はしていないのだが。
「では堀北先輩、過去問一式を譲って頂けませんか? 勿論、対価としてポイントはお支払いしますので」
俺は口元に当てていた扇子を畳んでからニッコリと堀北先輩に微笑んだ。
まあ、これでもしも法外な値段を請求されたら思いっきり嫌がらせをしてやるつもりだが。
具体的に言うと大勢の生徒が集まるであろう食堂の中で、周囲に聴こえるように堀北先輩の素晴らしさを称えた後に、過去問を親切な先輩から受け取った旨を宣伝するのだ。
その結果、親切な先輩=堀北先輩だと周囲が勘違いしても別に俺の責任にはならないだろう。
過去問自体は貧乏であろう適当なDクラスの先輩から端金で購入すればいいし。
そんな事を考えていると、再び重苦しい溜息が聞こえて来た。
もはや完全にポーカーフェイスを捨て去り、苦悩している様子の堀北先輩は何やら自分に言い聞かせるようにしてブツブツと呟いている。
「野放しにするよりは……いや……致し方ない……」
やがて何やら決心がついたのか、眼鏡のブリッジを押し上げると再び俺に向き合った。
こうして相対すると中々の威圧感を感じるのだが、先程までの醜態……とは言わずとも悩み考え込んでいる様子を眺めていた俺からすると、年頃の青年が精一杯背伸びしているような微笑ましさすら感じる。
実際は俺のような無責任でぐーたらなオッサンよりも、よっぽど優秀で理想的なリーダーなのだろうけども。
「本来なら10万ポイント程を支払って貰うところだ。だが、俺の指定する条件さえ飲むならば無料で渡そう」
「成る程。余計な出費をしないで済むのはボクとしても有難いので是非ともその条件を聞かせて頂きたいですね」
さて、条件とは何だろうか?
よくある二次創作のパターンとしては生徒会に勧誘される流れだが……そもそも現時点で俺は目立つ事はやってないから、それは無し。
と、なると俺と同じDクラスにして堀北先輩の妹でもある『堀北 鈴音』関連だろうか。
この拗らせシスコンなら迂遠にして湾曲な表現でもって「妹と友達になってあげて欲しい」とか頼み込んできても不思議では無いのだが……?
「生徒会に入れ、佐城 ハリソン」
……?
……???
どうして???
入学首席が一之瀬という点は原作設定です。なんで坂柳じゃないのかはマジで不明。試験受けてなかったのかな?
感想、お気に入り、高評価、誤字訂正ありがとうございます!!
特に前々回、前回ともにたくさんの感想を頂けて感無量です!!モチベーションも上がります!!
おかげさまで総合評価も17000を超えました!!
本当にありがとうございます!!
今後の展開について
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オッサン視点でストーリー重視
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他者視点重視。イベントの裏側を解説