飲まなきゃやってられんわ、こんな教室。   作:薔薇尻浩作

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サンタさんが来てくれなかったから腹が立って初投稿です。さて、年内にもう数話更新できるか否か……


勝利について語る!! by不登校の分際で偉そうにしているオッサンより愛を込めて。

 

 

「最後にオレが『勝って』さえいればそれでいい」

 

 

 『ようこそ実力至上主義の教室へ』という作品の主人公である我らがきよぽんこと『綾小路 清隆』の有名な台詞である。

 

 

 勝利。

 

 そりゃあ、まあ。負けるよりは勝った方が良いだろう。単純に気分が良いだろうし、誰しも負けられない場面と言うのは人生で一度は経験するのではなかろうか?

 身近なところで言えば受験だったり、何かの試合だったり。あるいは社会人であったなら出世を賭けた派閥争いだったり、有り金を全て賭けたギャンブルだったり。極端な例を挙げれば、仮に治安の悪い国で産まれてしまったならば、戦争を含む殺し合いに巻き込まれてしまう事だってあり得るだろう。

 

 人生において勝つ事は重要だ。

 一部の教育者なんかは『結果よりも過程が大事。努力は決して裏切らない』だなんて耳当たりの良い言葉で諭すかもしれないが、受験に落ちたらその後の人生設計は大きく狂う危険性もある。浪人するにも勉強するにも余計な時間と金がかかる。

 出世争いで負けたら生涯年収に大きく関わるだろうし、下手したら路頭に迷うハメになる。人生大一番の一世一代の大博打に負けたなら自己破産まっしぐら。

 戦争やら殺し合いで勝てなければ、その時点で人生が終了である。文字通り取り返しのつかないゲームオーバーだ。

 

 勝てば官軍、負ければ賊軍。

 正義は勝つ。それは綺麗事では無く、勝った方が正義を唱えられる立場に成り上がるからなのだ。

 

 

 勝利。

 

 それは確かに人生において最も大切な事なのかも知れない。思想、価値観、定義。人それぞれと言えども勝利無くして栄光無し。

 

 

 ……ただ、まあ。俺のような怠惰で面倒臭がりのオッサンからすれば、確かに負けるよりは勝った方が気分が良いとは言えども。

 そもそもの話、余計な勝負事になんか巻き込まれた時点で大迷惑なのだ。

 

 勝ち負けに人生賭けてまで拘るようは厄介な人種の方々には、なるべく関わりたく無いんだよなぁ。なんて嘆息してしまう訳で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日のお昼にDクラスの連中が、わざわざAクラスの教室まで乗り込んで来たわよ」

 

 

 我が恋人である神室がそんな台詞を告白したのは夕食時。

 

 ほんの少しばかり酢を入れ過ぎた手羽元のうま煮を口にしつつ、ちょっと失敗したかしら。それにしても醤油系のコッテリとした味付けをアテにするならシードルよりも、やっぱり日本産の程よく甘いウィスキーが飲みたいよなぁ。なんて叶わぬ妄想に耽りながらも頭を捻っては俺が唸り声を上げていた。

 丁度、そんなタイミングだった。

 

 

「あらら。想像していたよりもアクションが早かったなぁ。何だかんだで一週間ぐらいは様子見するかと思っていたのに。ちなみにAクラスに顔を出した面子の名前って分かる?」

 

「櫛田さんと平田くん。あと付き添いで、その彼女っぽい女。頭軽そうなギャル」

 

「金髪でポニーテールの?」

 

「そう。話してる最中、一々こっちを睨み付けてきて面倒だったわ」

 

「なら軽井沢だね。真澄くんの推測通り、あの娘は平田くんの彼女だよ」

 

 

 五月一日の運命の日。

 Sシステムの全貌が顕になり、Aクラスを目指す為の血みどろの戦いの火蓋(笑)が切って落とされたターニングポイントから四日経った現在。

 俺は結局、不登校を貫いていた。

 

 

「……平田くんって割とウチのクラスでも評判良かったんだけど、女を見る目は無かったのね」

 

「まあ軽井沢については俺も良く知らないからなぁ。単純に見た目が派手な娘が好みだったんじゃないの?」

 

「ふん。趣味悪い」

 

 

 まさか原作知識から平田や軽井沢の背景について語るわけにもいかないので、適当な台詞で彼らに関する話を煙に巻きつつ。俺はここ最近の自身の行動を振り返っていた。

 

 

 起床して朝のルーティンを軽く熟した後に自室で勉強。他の生徒達とかち合わない様に昼休みのやや後に時間を調整しつつ図書館へ。

 その後は軽いランニングをこなし、夕食の買い出し。神室が授業を終えて帰って来るまでは、また勉強に耽る。

 放課後、もはや此処が己が自室とばかりに当然のように部屋にやって来る神室を迎い入れ、夕飯の支度。今日一日の出来事を彼女から聴きながら、まったりとした時間を過ごす。

 やがて神室に酌をして貰いつつ、優雅に二人で夕食を楽しむ。そんな生活サイクルとなっている。

 

 ……何と言うか、ナチュラルに神室と同棲する流れにズルズルと引き擦られているような雰囲気になっている気がする。

 彼女の昼食の用意を俺がしている事や、夕飯を一緒に食べている事などは今さらではあるが、何だかんだで神室用の歯ブラシやら枕などのちょっとした私物がどんどん俺の部屋に増えているのだ。

 まあ、前世では大学時代の彼女と同棲の経験もあるから特に経験不足であたふたする事も無い。何より神室のようなツンデレ美少女に何だかんだで懐かれるのは男として悪い気はしないし。

 

 とは言え、憑依したこの若々しい身体はともかく、肝心の本体である俺の中身はいい歳過ぎたオッサンなのだ。未だ乙女と言っても過言では無い、瑞々しい若き蕾を本能に任せて貪り食うなど以ての外である。

 常日頃から濃密なスキンシップをサービスしてくれる我が幼き恋人に対し、オッサンの理性が保つかだけが心配事ではあるのだが。まあ、そこは頑張るしかあるまい。

 

 

「ちなみに、いきなりDクラスの面々が教室に乗り込んで来た時のAクラスの反応はどうだった?」

 

「非難轟々。とまでは言わないけど、普通に文句は出てたわよ。いくら平田くんや櫛田さんの顔が広いからってDクラスの評判は最悪だし」

 

 

 さもありなん。そもそも原作においてAクラスの一部の面々は学校側から不良品と判断されたDクラスの面々を露骨に見下し、嘲笑していた。

 そんなシーンを強調していたのが夏休み特別試験編だろう。豪華客船での三バカの面々に対する戸塚の暴言や、無人島で綾小路の手製の地図を強奪したモブ男子の行動などは印象的だ。

 だが、この世界線においては原作とはまた一味違った流れに傾きつつあるらしい。

 

 

「ちなみにリーダー候補である葛城くんと坂柳さんの反応は?」

 

「葛城くんと坂柳さんとの派閥同士はまだピリついてるけど、概ねDクラスに対しては嫌悪感があるみたいね。特に女子からのヘイトが強過ぎて、葛城くんは抑えるのに苦労してたわ。坂柳さんはむしろ遠回しに煽っていたけど」

 

「成る程成る程……概ねは計画通りだねぇ。真澄くんの地道な裏工作のお陰。ってわけだ」

 

 

 生徒会長からの勧誘があった一日の午後。

 俺は寮に戻る直前、神室に対し幾つかの命令。とまでは言うつもりは無いが、二つばかりお願い事をしていた。

 

 一つ目のお願いは、生徒会室の帰り道で俺と別れた後、予定通りにAクラスに向かって午後からの授業に復帰する……直前にDクラスに顔を出し、ちょっとした『御芝居』をして貰う事。

 

 

「はぁ? 人聞きの悪い事言わないでよね。そもそもあんたの命令通りに『真嶋先生に質問しただけ』なんだから」

 

 

 そして二つ目は、Aクラスに復帰して午後の授業を幾つか乗り越えた後、恒例である帰りのホームルームが始まるそのタイミングで、真嶋先生に対して幾つかの質問をして貰う事。その際に『とある例え』をキーワードとして含ませるようにだ。

 ついでにその内容や先生からの解答をボイスレコーダーで録音する事まで。が、お願いの全容である。

 

 

「あははは、分かってるよ。褒め言葉にしてはちょっと人聞きが悪かったね。ごめんよ、真澄くん」

 

「ふんっ。別に怒ってないわよ」

 

 

 たったこれだけの事なのだが、後日受け取ったボイスレコーダーに録音された音声には、ほぼほぼ俺の予想通りの内容がしっかりと録音されており、思わずニンマリ。

 まあ、その副作用みたいなもので、Aクラスの面々からのDクラスに対するヘイトが原作以上に大きくなった様だが……。

 ぶっちゃけ特に俺自身が困る事は特に無いのでモーマンタイだ。Dクラスの面々には取り敢えず心の中で反省ポーズを取っておいた。猿でも出来る有名なアレである。

 

 

「あー……話を戻して。そもそも平田達は真澄くんに何の御用事だったんだい?」

 

「分かってる癖に。不登校かつ音信不通のあんたをどうにか登校させたいから恋人の私に説得して欲しいって話よ。本当、気持ち悪いぐらいにあんたの予想通りの内容だったわ」

 

「まあ平田と櫛田の行動指針は『クラスの平和』だからね〜。クラス間闘争が始まってこれからクラス一同、一致団結して頑張りましょう!! って時に不登校を決め込んだ問題児がいたら、そりゃあ必死こいてどうにかしようと遮二無二動くしかないよね〜」

 

 

 原作知識様々である。

 軽井沢はともかくとして、平田と櫛田に関しては行動が非常に分かりやすい。現に俺の端末にも何度か彼らからのメッセージや着信が届いている。全部無視してるけど。

 となれば、気が気じゃなくなるのが皆のリーダー平田と理想のアイドルを演じている櫛田だ。己の思想の為に、己の好感度の為と方向性は違えどもクラスメイトから不登校児童を出す事は許されない。俺を登校させる為なら、あの二人はどんな労力も惜しまずに行動し、俺と連絡を取ろうとするだろう。

 

 

「元凶の癖して、いけしゃあしゃあと。あんたって本当に性格悪いわね」

 

「最高の褒め言葉をどうもありがとう」

 

「だから褒めてないって」

 

 

 とは言え、貞子とまで名付けられていたスーパーウルトラ陰キャぼっちである俺との繋がりがある人間など限られている。

 

 クラスにおける唯一の友人としては長谷部がいるのだが彼女には予め、平田や櫛田に俺との連絡を取るように問いただされた際は「連絡先は知っているがそこまで親しく無い」と嘘を吐くように指示をしてあった。

 定期的に勉強の面倒を見てあげる事と、中間テストの必勝法である過去問を餌にして頼み込んだ甲斐があったのだろう。長谷部はしっかりと平田達の頼みを拒絶してくれたようだ。

 

 長谷部以外の知り合いと言えば交渉の際に俺と顔を合わせた佐倉と三宅も居るのだが、二人とはあれ以降は端末上でのやり取りしか行っていないので俺との繋がりは平田達が知る由も無い。

 ついでに言えば、実はCクラスにも読書仲間が居るのだがその存在はDクラスの誰も知らないだろう。

 

 となれば頼れる道筋は自ずと一つ。佐城ハリソンの最も親しい人間であり、確実に連絡先を知っていて、百パーセント常日頃から連絡を取り合っているであろう人間。

 

 

「で、一応聞いておくけど真澄くん。ちゃんと平田達を拒絶してくれたかい? 俺が渡した『アレ』を聴かせた上で」

 

 

 つまり、交際相手として知られているAクラス所属。『神室 真澄』一択となるわけだ。

 

 

「当たり前でしょ。個人的にも腹が立ってたし、Aクラスの人達全員に聴こえるように聴かせたわよ」

 

「そいつは重畳だね」

 

 

 神室に渡しておいた『アレ』。つまり敢えて露悪的な意訳をすれば『DクラスからAクラスに対する挑発行為』とも捉えかね無い内容を録音しておいたボイスレコーダーの威力は破壊光線並みの威力があるだろう。

 ただでさえクラスのまとまりに欠けているDクラスの顔役としては、どんな理由が有ろうとも現時点で他クラスと揉めるわけには行かない筈だ。

 

 

「ついでに、いくら交際相手とは言え他クラスの揉め事に私を巻き込むな。これ以上しつこく私に関わるようならDクラスを訴える。って脅しつけておいたわよ」

 

「それはそれは。俺からしたら心強くも有り難い御言葉だけど、平田達からしたら洒落にならない脅迫に聴こえただろうね〜」

 

「はっ。あんたをボロクソに貶していた連中にどう思われようが別にどうだっていいわよ」

 

 どうやら神室は俺が想像していた以上にDクラスの面々に怒りを覚えていたらしい。

 憎々しげに眉間に皺を寄せ、吐き捨てるような態度で言い放つ様は、元が美人なだけに迫力が凄い。

 

 

「……いや、うん。その、俺の為に怒ってくれるのは嬉しいんだけど、平田や櫛田はどちらかと言えば抑えていた側の立場だったとは思うけどね?」

 

 

 まあ、彼女には前々からDクラスが接触して来た時は、全面的に協力を断固拒否するようにと指示はしていた。とは言え、この様子では態々俺がお願いせずとも徹底的に拒否していただろう。

 必要以上に神室からヘイトを買ってしまった平田と櫛田、ついでに軽井沢については御愁傷様ではあるが、結果として今回の一件を切っ掛けとして、平田や櫛田を顔役としたDクラスの面々はこれ以上、俺の不登校案件に関して神室を窓口とする事は不可能と判断する筈だ。

 

 

「あ〜、ついでに生徒会とのパイプや生徒会長との個人的な繋がりがある事も匂わせてくれたかい?」

 

「クラス間の揉め事は生徒会が仕切る裁判で白黒つける事が規則になっている。って馬鹿でも分かるように丁寧に説明してやったわよ。軽井沢? とやらが出鱈目を言うなって噛みついてきたけど、疑うなら担任に聞いてみろ。それからあんたらのクラスに生徒会長の妹がいるから確認取ってみろ。って言ったらようやく黙ったわ」

 

 

 未だツンツンモードの我が恋人に媚を売るようにして俺は酌を返しながらも考える。

 取り敢えず、現時点での情報から考えれば悪巧みの首尾は上々と言えよう。

 

 

「百点満点の対応だね。流石は真澄くんだ」

 

「別に。個人的にあいつらにムカついてただけ」

 

 

 これで俺が諭した通りにその気になった長谷部がDクラスの女子に『金策』について吹き込んでくれたら現時点で勝ち確と言っても良いのだが……まあ、恐らくは期待薄であろう。

 一匹狼気質の長谷部が俺の思惑通りに動いてくれるとも思えないし、よしんば理想通りの行動を取ってくれたところで『篠原』や『軽井沢』が乗ってなければ意味無い訳で。と言うかカースト上位勢の女子達が動こうとしても高確率で平田に止められるだろう。こっちの計画に関してはダメ元として考え、上手くいったらラッキー程度で考えておくか。

 

 ならば今は長谷部を利用した『とある生徒を退学させる』計画よりも、将来的に頭を悩ませるであろう暴力ドラゴンボーイこと龍園対策や、天災(俺からすれば誤字に非ず)少女こと坂柳の対策について考えるべきだろうか。

 

 いや、それよりも寧ろ、現時点である程度の手札を揃えつつある茶柱に対する牽制と報復について何時、札を切るかを熟考すべきか……?

 

 

「ねえ」

 

 

 ふと。神室の声に目が覚める様な気持ちで視線を合わせた俺は、酔いもあってかいつの間にか思考に耽っていたらしい。

 菫色の眼はまんじりと俺の顔を見定める怜悧な視線のせいか、薄ぼんやりとしていた俺の空気も輪郭を定めていく思いだった。

 

 

「結局、あんたは何がしたいの?」

 

「と、言うと?」

 

 

 抽象的な神室の言葉に思わず俺が聞き返せば、彼女は眉間に少々の皺を寄せたかと思うとグラスに残っていた微炭酸のシードルを飲み干した。

 再び俺を捉えた瞳は眦が釣り上がっているが、それは怒りの念を覚えている訳では無い。付き合いは一月程度とは言え、それなりに濃密な日々を二人で過ごしている俺には分かった。

 怒りよりも寧ろ、疑念の気持ちが透けて見えるのは間違いでは無い。

 

 

「何となく、担任の茶柱先生にムカついてて、それが切っ掛けでDクラスの連中にダメージを与える為に色々と動いてるのは私にも分かるわよ? でも、何て言うか……それにしては動きが地味って言うか、回りくどいって言うか。それに、何より」

 

 

 口に出しながら考えをまとめているのだろう、神室はしきりに首を傾げながらも言葉を続けた。

 

 

「基本的に自分以外はどうでもいい。って考えで生きてるあんたが態々、生徒会なんて面倒な組織に入ってまでやりたい事って、今一つ想像がつかないんだけど」

 

 

 結論から言ってしまうと、俺は堀北先輩の勧誘を受け入れた。

 まあ、その際にちょっとばかし口先三寸のペラペラの薄っぺらい口上と交渉を以てして過去問のついでとばかりに40万程のプライベートポイントも巻き上げたり、生徒会業務に参加するのは中間テスト以降からと条件をつけたりした訳なのだが。それはまあ、置いといて。

 放課後の貴重な時間をそれなりに削られるであろう生徒会役員になる事は確かにデメリットも大きい。だが学園ラノベお約束とまで言える、創作世界においての生徒会の権力は馬鹿に出来ない。

 

 

「いや、自分の事だけじゃなくて真澄くんの事も大事に思ってるよ?」

 

「誤魔化すな。そう言う事を聴きたい訳じゃない。ってあんたなら分かってるでしょ?」

 

 

 特別試験に対する介入については今のところ考えてはいないが、強大な後ろ盾があるだけで龍園やら坂柳を牽制できる筈だ。

 

 

「いや、本当に誤魔化してる訳じゃ無いんだけどもねぇ」

 

 

 それは俺だけでなく、俺との関わりが最も深い交際関係に当たる神室に関しても及ぶ事だろう。つまり彼女を護る後ろ楯にもなってくれると踏んでいるのだ。

 と言うかそうでも無ければ1000万ポイント積まれても生徒会になんか入らない。拗らせシスコン会長はともかく、南雲とか絶対に面倒臭そうだし。

 

 

「真澄くん。質問を質問で返すようで悪いんだけど、ちょっとばかし俺の質問に先に答えてくれないかな?」

 

「何よ?」

 

 

 とは言え、こんな小っ恥ずかしい話を本人にする訳にもいかないわけで。

 俺は得意の口先でちょっとばかし韜晦を吝む事にした。

 

 

「この学校における勝利の定義とは何だと思う?」

 

「はぁ? 何よいきなり」

 

 

 誤魔化しの意味をも込めたこの質問だが、決して無意味な時間稼ぎでは無い。

 俺はこの身体に憑依し、半ば強制的にこの学校に入学する事になってしまった日から真剣に考えていた事なのだ。

 

 

「まあまあ、ちょっとばかし考えてみて欲しいんだよ。真剣にね」

 

「良く分からないけど……まあ、強いて言うなら卒業時にAクラスに在籍している事が勝利じゃないの? それ以外の生徒は進路や就職先の保証っていう、この学校最大の特典が無い訳だし」

 

「その通りだ。まさにこのクラス間闘争を煽る高度育成高等学校における勝利の定義とはAクラスで卒業する事ただ一つ。たったソレだけが勝利の定義なんだ」

 

 

 理想の進路。理想の人生。それらを求めて入学してきた未熟な若葉達はただそれだけを求めて競い争い闘争を繰り広げるのだ。

 Aクラスになれば理想の進路が。理想の人生が。輝かしい栄光が手に入ると信じて。

 否、信じ込まされる事によって、人参をぶら下げられた駄馬のように無我夢中で走り回るのだ。

 

 

「では追加の質問だよ真澄くん。ならば、この俺にとっての勝利とは何だと思う?」

 

「はぁ?」

 

 

 馬鹿馬鹿しい。そもそもAクラスで卒業して理想の進路に進めたからって何になるのだろう。

 理想の進学先=理想の人生の確約とはなら無いのは、まともな社会経験のある人間ならば誰でも判る話だ。

 確かに高卒と大卒では平均収入が大きく変わるものだし、最終学歴が名門大学であれば就職先の幅は広がるだろう。

 だが逆に言ってしまえば広がるだけ。人生における責任ある社会人としてのスタート地点に漸く立てただけなのだ。その後に待ち受けている社会という名の現実の荒波は(から)くも(つら)い。余りにも理不尽に塗れたものなのだ。

 こればかりは自力で金を稼いだ経験の無い人間には想像もつかないだろう。

 

 

「真澄くんも察しているように俺はAクラスの特権にもクラス間闘争にも微塵の興味も無い人間だ。自力で理想の進路に進むつもりだし、クラスメイトと仲良しこよししてAクラスを目指す為に努力する気も協力するつもりも一切無い。

 そんな立場にある俺にとっての勝利とは。この学校における佐城 ハリソンという偏屈で臍曲がりな上に性格最悪の社会不適合者である俺にとっての勝利とは……果たしてどういう形で定義されると思う?」

 

 

 ならばAクラス特権で理想の就職先に直ぐさま就職すればいい? 論外である。

 そもそも前世でも一読者として『よう実』を読んでいた時に感じていたのだが、この特権については『完全に無駄なモノ』だと俺は確信しているのだ。

 

 

「それは……散々馬鹿にして来たDクラスへの復讐とか?」

 

 

 俺の質問に虚を突かれたように目を見開いた神室は、何とか捻り出したような淀みまくった口調でボソリと答えた。

 疑問調である事から、彼女本人にも納得のいく解答で無かったのは明らかである。

 

 

「担任の茶柱は兎も角、悪口言われた程度で大袈裟に復讐だー!! って決意する程の熱量は湧いて来ないのが実情なんだけどね。そりゃあボロクソに悪口言って来た連中に仕返しの一つや二つをしてみたら多少、俺の気は晴れるかも知れないが……勝利。って言うのとは何か違く無いかい?」

 

「もう、何なのよ。無駄に頭の回るあんたの考えてる事なんて解るわけ無いんだから、早く教えなさいよ」

 

 

 苦笑いしながら答えた俺の態度が気に食わなかったのだろう。ムッとした表情を浮かべた神室が拗ねたように言った。

 年相応の可愛らしい様子に内心でホッコリしつつ、俺はとっととネタバラシ。

 

 

「答えは……無いんだよ」

 

「は?」

 

 

 答えは単純。無いのだ。

 俺にとって、この高度育成高等学校における勝利など、最初から無い。

 何故なら俺は、この学校に何も期待していないのだから。

 

 

「俺はこの学校に対して何も望んで無いんだよ? そりゃ学校のシステム上、競い合わせる事を強制されるだろうが、付き合ってやる義理も義務も無い。あらゆる競争も初手からガン無視するか形ばかりの白旗揚げてしまえば良いだけだろ? こうなりゃ勝ちも負けも無いじゃないか。つまり、ハナから勝負という形になって無いのさ」

 

「いや、言いたい事は分かるんだけど……」

 

 

 憑依前のハリソン少年はどうだか知らないが、中身のオッサンは単純な人間だ。

 生活に困らない程度に稼げて、美味いもの食って、美味い酒飲んで、時おり風俗で女を抱く。それだけで幸せを感じる、矮小で俗物な何処にでもいる下らない人間なのだ。

 

 現時点で衣食住を保障されてるし、何だかんだと大金を稼ぎつつあるし、神室 真澄という前世ではテレビ越しでしか顔を拝めなかったような超絶美少女と恋人にすら成れたのだ。

 スキンシップは濃密とは言え、現時点では肉体関係は無いのだが……流石にこれ以上を望むのは俺みたいな薄汚い中年オヤジの立場からすれば贅沢極まり無い話だろう。

 仮に神室と言う恋人が存在せず、性に対して自由奔放に振る舞えたところでこの男の娘フェイスなら男からはともかく、女からはモテるとも思えないし。性欲を満たす為に退学して女を買いたいと思っても、そもそも未成年の内は風俗も行けないからな。

 

 

「俺という人間はそもそも勝負事は嫌いなんだから。そもそも学校側の下らない思惑に付き合うつもりは無いんだよね」

 

「そうは言ったって何時までも不登校を貫くわけにもいかないでしょ? それに結局、あんたが何をしたいのか私には良く分からないんだけど」

 

 

 俺の狙い。

 それは俺を侮辱した茶柱含むDクラスの人間に対する復讐。等でも無く。

 それはあらゆる人間に不幸を振りまく原作ブレイク。等でも無く。

 それは学校側の教育システムの粗を暴く事。等でもある訳が無い。

 

 

「なーに簡単な話さ。学校側がどうしても生徒を競争させたいと狙っているならその前提をひっくり返してやればいいのさ」

 

「前提をひっくり返す?」

 

 

 学校側からはSシステムと進路と就職先の保障というゴキブリホイホイよりも粗雑で襤褸切れのような餌を設置され、競い合うように散々に煽られている。

 おまけに巨乳のチラ見せサービスぐらいしか得が無い、考え無しの担任教師からはイジメを教唆するような台詞で以てして盛大に喧嘩は売られた。

 

 売られた喧嘩は買う。その言葉に嘘は無い。

 だから買ってやるさ。嗚呼、買ってやったとも。だがしかし、確かに買ってやったとは言え、俺のような捻くれ者の中年男性が真正面から受けて立つだなんて。

 

 

「と言うわけで真澄くぅん。色々頼んでおいて申し訳が無いのだけど、またもやちょーっとしたお願い事を聴いて頂けないかな〜?」

 

 

 そんな反吐が出る程に青臭くて、馬鹿丸出しな真面目ぶった考えをするわけが無いじゃないか。

 

 

「だ、だからその不気味なニコニコ顔を止めなさいよ!! あんたがそんな顔してる時は碌な事しないんだから」

 

「いやいや、そんな酷い事を言いながら警戒しないでおくれよ。今回は本当に。本当〜に簡単なお願いだからさ」

 

 

 何だか物凄く不気味なモノを見てしまい狼狽するような神室のリアクションに若干傷付きながらも。俺はペコペコと頭を下げながら彼女に頼み込んだ。

 何だかんだと人が良く恋人に甘い目の前の美少女は、俺の言う事を決して無碍に扱わない事を確信しているからだ。

 全く、人の弱味に。しかも未成年の無垢なる乙女の良心に付け込もうとするなど、俺と言う存在がいかに薄汚れた中年男性であるかと有り有りと証明してくれるだろう。

 

 とは言え、それはそれ。これはこれ。

 心に棚を作ることは社会の歯車たるオッサンの必須スキルなのだから。

 

 

「クラスメイトを紹介して欲しいのさ。いい機会だからこのタイミングで、ちょっとばかし『仲良く』しておきたい人が居るからねぇ。夕食にでもお誘いしておきたいのさ」

 

 

 売られた喧嘩は買ってやるさ。思いっっっきり相手の脚を引っ張りまくるような最低の形でな!!

 

 見ているが良い、高度育成高等学校。

 見ているが良い、諸悪の根源たる茶柱。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『葛城 康平』と『坂柳 有栖』……それから本命である『橋本 正義』君。と、ね?」

 

 

 小蝿のように舞い、藪蚊のように刺す。

 鬱陶しいことこの上無い。

 嫌がらせの極致というモノを見せてやろう。

 

 

 

 

 

 

 




感想、一言コメント、高評価、誠にありがとう御座います!!!!
最近仕事が忙しくて中々返事は出来てないけど全部読んでます!!
読者の皆様、大好きです!!!!



あとクリスマスは大嫌い。滅べ。

今後の展開について

  • オッサン視点でストーリー重視
  • 他者視点重視。イベントの裏側を解説
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