飲まなきゃやってられんわ、こんな教室。   作:薔薇尻浩作

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梯子から落ちたり階段から落ちたり仕事クビになりかけたりしたけど生きてます。


おっぱいはふわふわ。噂話もふわふわ。

 

 

 

 諸君、私はおっぱいが好きだ。

 

 諸君、私はおっぱいが好きだ。

 

 諸君、私はおっぱいが大好きだ!!

 

 

美乳が好きだ。

巨乳が好きだ。

爆乳が好きだ。

貧乳が好きだ。

ナイチチが好きだ。

垂れ乳が好きだ。

 

 

……。

 

……。

 

 

 ごめん。嘘ついた。

 某少佐の演説のようなノリで声高々に宣言したはいいモノの、基本的に俺ってば巨乳好きなのよね。だからぶっちゃけ貧乳はあんまり好きじゃない。いや、別に貧乳差別って訳じゃないよ? ただ、まあ大きい方が個人的には嬉しいよなぁ。って話で。

 あとゴメン、流石にナイチチと垂れ乳はノーサンキュー。一般ドスケベ中年男性の(さが)として、自分の性癖に嘘は吐きたくないのだ。

 

 

 おっぱいは大きい方がイイ。

 異論は認める。

 

 

 おっぱい。それは究極の母性。

 おっぱい。それは魅惑の果実。

 おっぱい。それは全男子の大好物。

 

 OPPAI。母音をくぐもらせ、パの発音で舌を弾けさせる。嗚呼、おっぱい。愛しのおっぱい。

 最早、その音の響きにすら慈愛と救済すら感じさせる、女性の乳房を指す魅惑の言の葉。幼稚園児から老人まで皆が大好きなボインでタユンなおっぱいは、とても偉大な存在である。

 

 大きさ。形。色。

 上級者になると味や香りすらも評価の対象になるらしいが、一概に言える事は男はみんな女性の双丘に興味津々という事だろう。もちろん俺だって大好きだ。男はみんなおっぱいが好きだが、赤ん坊と高校生と四十代に差しかかったオッサン共は特におっぱいが大好きなのだ(偏見)。

 上級者になると味や香りすらも評価の対象になるらしいが、一概に言える事は男はみんな女性の双丘に興味津々という事だろう。前世でお世話になったお気に入りの風俗嬢の大半は巨乳だったし。

 出張先で利用した格安デリヘルで某ウルトラシリーズに出てくる三面怪人そっくりの大外れを引いた時も、顔の残念さを打ち消す程の爆乳だったので苦渋の決断の末にノーチェンジでお楽しみをした事だってある。

 

 前世の同僚にも、酔っ払った勢いとは言え普段なら絶対に手を出さないような個性的な顔面のお嬢さんの巨乳に釣られて、ホテルでしけ込んだ事もあったそうだ。ちなみに生でヤッちゃったらしく大当たり。目出度く彼はデキ婚した。1年と持たず浮気して慰謝料もぎ取られてたけど。

 

 どこかのふざけた深夜番組で調べた統計では美人な貧乳よりも、地味顔の巨乳の方が男性にモテるとまで報道していた。果たしてどこまで本当かは知らないが豊満なバストは男の目を惹きつけて止まないセックスアピールである事は間違い無いだろう。

 

 

 長々と何を語ってるかって?

 まあ、あれだ。巨乳は正義だよねって事さ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜ん疲れたっ! ちょっと休憩にしようよ、愛里、ハリリン」

 

 

 両腕を上にピンと伸ばして胸をグッと反る、いわゆるノビの姿勢を取りながら脱力した声を漏らす少女は『長谷部 波瑠加』だ。

 

 恋人である神室を除けば最も携帯端末でのやり取りが多い女子であり、俺の数少ない友人の一人である。

 因みに原作知識をお持ちであろう紳士諸君には言うまでも無いだろうが、気持ち良さそうに背筋を反らすそのポーズのせいで激しく強調された魅惑の母性は弾道ミサイルの如くバインでボインな豊満さを誇っている。

 

 

「はうぅ……私も少し、疲れました、です」

 

 

 長谷部の隣では、空気が抜けるような弱々しい声を漏らすピンク色の髪を二つに縛った眼鏡っ娘がシナシナと机の上に崩れ落ちた。彼女の名前は『佐倉 愛里』。

 

 原作では女子生徒が密かに行って言われると言う男子のランキング内の『死んで欲しい男子ランキング』にてDクラストップを独走していると言われる『山内』に告白した趣味の悪い女と誤解されるわ。

 学校のガバガバ安全管理のせいで安全地帯の筈である学校敷地内の中で中年男性からのストーカーに遭うわ、そこから更に婦女暴行未遂に遭うわ。絶体絶命のピンチを助けてくれた白馬の王子様(の仮面を被ったサイコパス)である綾小路に恋慕するも、当の主人公様はサクッと『軽井沢』と引っ付いてしまったせいで、あっさりと失恋してしまったりと……。

『よう実』世界のヒロイン枠の中でも屈指の不遇枠なのである。カワイソウはカワイイ。

 勿論、机の上でプレスされて搗き立ての餅の様にフニャリと形を変えたフワフワぽよぽよの愛しきパフパフ様は、お隣の長谷部にも負けずとも劣らぬ御立派な豊満である。

 

 

「では酷使した脳へ糖分補給という事で何か甘いものでも注文致しましょうか。流石に茶の一杯だけで長居するのはお店側にも迷惑でしょうしね」

 

 

 デッカイ四つの果実が生み出す脅威の万『乳』引力に必死に逆らいながら、俺は下心を一切感じさせないハリソン少年の男の娘フェイスでニッコリ笑いながらそんな提案をした。

 

 時刻は放課後。場所は以前の交渉の際にもお邪魔した和風喫茶店。そして俺達三人が何をしているかと言うと勉強会である。

 

 

「毎回奢って貰ってるけど本当にいいの?」

 

「当然ですよ。女性に財布を出させる様な真似をしたら母に叱られてしまいますし」

 

「出来る男は言う事が違うねえ。んじゃ、今日も遠慮無くゴチになりまーす。愛里は何が食べたい?」

 

「え、ええと。本当にいいんでしょうか?」

 

 

 本日で三回目となる巨乳JK達の放課後(まあ俺は不登校だからただの待ち合わせでしか無いのだが)勉強会は二日に一回のペースで行われている。

 本来ならここに最後のメンバーでもある三宅が混じっている筈なのだが、部活の関係で今日は都合がつかなかったらしいので不参加。元ヤン少年は今頃弓道に打ち込んでいる事だろう。

 

 

「佐倉さんも遠慮はなさらずに。ボクはポイントにもだいぶ余裕がありますので、大した出費にもなりませんよ」

 

「そ、そうですか。それなら、その。ええと、御馳走になります」

 

「ええ。どうぞお好きなものを好きなだけ御注文下さい」

 

「一つだけで、その。じゅ、十分ですから」

 

 

 あと全く関係無い話だが『巨乳JKとの放課後勉強会』って、まるでAVのタイトルのようなイヤラシさが香り立つのは気のせいだろうか?

 ちなみに余談だがAVのタイトルでよく使われている『女子校生』という固有名詞は『女子高生』とは全くの別物であるので紳士諸君は注意して欲しい。

 

 

「あ、これ聞いちゃっていいのか分からないけどさ。ハリリンってそもそも、今どの位のポイントを持ってるの? Sシステムの裏側を速攻で見抜いた御褒美で大金をゲットした〜……みたいな事を茶柱先生が言ってたのは覚えてるんだけどさ」

 

「は、波瑠加ちゃんっ。流石に佐城くんに失礼なんじゃ」

 

「ダイジョブダイジョブ。ハリリンはこれ位じゃ怒らないって。愛里は心配症だよね、本当」

 

 

 元々Dクラス内で唯一の友人だった長谷部。彼女には何だかんだで世話になっているし、ヘイトを集めまくっているだろう俺の関係者として色々と迷惑をかけている自覚もあった。なので、恩返しも兼ねて何か俺に出来る事は無いか? と電話をしたのが勉強会発足のきっかけである。

 

 赤点連中よりはマシとは言えども学力には自信が無い長谷部は俺に勉強を教えて欲しいと申し出て来たのだ。

 そんな彼女に付いてくる形で同じ位の学力の三宅が「もし良ければ」と参加を希望し、赤点候補で退学ルートがチラつくレベルのヤバめな学力の佐倉も便乗。

 長谷部と三宅が友人なのは原作知識から知っていたが、いつの間にやら佐倉とも交友を深めていたらしい。その証拠に長谷部も佐倉もお互いの事を下の名前で呼び合っているし。

 

 

「口止め料で結構な額を頂きましたし、その後も個人的にお小遣い稼ぎ何かをしてましたので……まあ400万はいかない位でしょうか」

 

「よっ、よんひゃくまん!?」

 

「うっわ、ガチで大金持ちじゃんヤバ。ねえ、クリーム餡蜜の他にもなんか適当に頼んでもいい?」

 

「ええ、勿論。どうぞお好きに」

 

「ラッキー」

 

 

 原作では綾小路グループが発足されるまでまともな接点が無かった筈の二人だが、この世界線では五月の時点で友人となっているようだ。軽く原作ブレイクが起きているが、特に問題は無い筈だ。多分。

 両手で口を抑えながら瞠目する佐倉とあっさりしたリアクションで軽く流しながら追加のオネダリをしてくる長谷部との対照的な様子にクスリとした笑いが込み上げてくる。巨乳美少女は目の保養という意味でも良いコンビに違いない。

 

 未だに目を白黒させて驚愕している佐倉の胸元や、すっかり慣れた様子で店員さんを呼び出している長谷部の胸部を気付かれないように眺めながら、俺はそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えばハリリンの彼女さん大丈夫なの?」

 

 

 佐倉がちまちまと恐縮した様子でワラビ餅を口に運び入れている横で、クリームたっぷりの餡蜜と宝石のような琥珀糖を平らげ、おまけに御土産として抹茶ケーキまで注文した長谷部がそう切り出した。

 ちなみに今更ではあるが『ハリリン』とは長谷部が俺につけたニックネームである。流石は原作主人公に『きよぽん』と名付けた女だ。感性がぶっ飛んでやがる。

 

 

「大丈夫? とは。お互いの仲は良好であると感じてはいますが」

 

 

 まるで永遠のセックスシンボルである某有名女優のような響きの渾名にちょっとだけ力が抜けるような気持ちになりつつも、俺は話の続きを促した。

 

 

「そりゃ二人がラブラブなのは知ってるけどさー。そうじゃなくって、堀北さんとの事よ。何か知らないけど神室さんと大揉めしたんでしょ? 喫茶店のパレットで」

 

「嗚呼、その件ですか」

 

 

 パレット茶会事件と勝手に名付けたあの一件が起きてから約一週間。どうやら二人の美少女が、おまけの男の娘と無表情主人公をお供にして白昼堂々と修羅場った事はすっかり噂になってしまったらしい。

 

 

「中間テストが控えているから只でさえクラスの雰囲気悪いのにさあ。よりによって『あの』堀北さんがAクラスに喧嘩を吹っかけたって話じゃん? もうクラスの雰囲気最悪なんだから。ねえ、愛里?」

 

「ええ? う、ううん。そう、かも? 私は波瑠加ちゃん達以外に話す人が居ないから何となくしか分からない。けど……クラスの人が堀北さんを見る目はちょっと、ううん。結構怖いかも」

 

「だよねー。これが切っ掛けでAクラスとバチバチに揉め始めるんじゃないか。って平田くんや櫛田さんが慌ててたんだよね。誰かさんが不登校を続けてる影響で、Aクラスとは少し前にちょっとした言い争いがあったみたいだし」

 

「おやおや」

 

 

 俺が『噂を流すように依頼した』金髪の蝙蝠くんからの情報でAクラスからDクラスへのヘイトが増している事は知ってはいたが、想像以上に雰囲気が悪そうだ。

 利用させて貰っている立場の俺としては有難い事だが、クラスの平和を守る為に悪戦苦闘しているであろう平田の胃痛を考えると若干の申し訳無さを感じないでも無い。櫛田? あれは幾ら美少女でも腹黒だから別にいいや。勝手にストレス溜め込んで綾小路相手にでも爆発させてくれ。

 

 

「元々ボッチ気質の私が言えた事じゃ無いんだけどさ、堀北さんって櫛田さんにもあの態度じゃん? 元々女子を中心に相当悪く思われてたんだよね。なのにダメ押しで今回の件じゃん? はっきり言ってDクラスのカースト最底辺が決まっちゃった感じだよね」

 

「えぇと、堀北さんは確かに、ちょっと怖い。ですから」

 

「櫛田さん情報だけどさ、結構ヤバいみたいよ。マジでイジメが始まる一歩手前、ギリギリらしいし」

 

「それは穏やかな話ではありませんね」

 

 

 イジメ。という言葉に流石にやり過ぎたかと一瞬ヒヤリとしたものの、俺は生温くなってしまった玉露を啜ってふと考えた。

 確か原作でも堀北をイジメのターゲットにしよう。みたいな話がグループチャットで流れるシーンがあった事を思い出したからだ。その時は『池』や『佐藤』なんかが中心となって悪巧みをしていたような気がする。綾小路の機転でその話は上手いことお流れになっていたが。

 

 

「それにしてもさあ、堀北さんも頭良い筈なのに変なところで馬鹿だよね。退学が掛かった初めての中間テストが控えてる緊張のタイミングでとんでも無い事しでかしてくれた訳じゃん。ねえねえハリリン、結局あの噂って本当な訳?」

 

 

 俺が原作知識を思い返していると長谷部は堀北へ対する不満を好奇心で押し込めた様な、ちょっと悪戯気な笑みを浮かべながらズイと身を乗り出した。

 彼女の胸元に実った二つの魅惑の果実がユサリと擬音を鳴らしたような気がするも、知ったことかとばかりに前屈みのような状態で俺に迫った長谷部はコッソリと。

 まるで悪い事を企む様な小さな声で、俺にこう尋ねて来た。

 

 

 

「『堀北さんが』ハリリンの彼女さん、『神室さんに向かって』紅茶を顔にぶち撒けた。って本当の事なの?」

 

 

 

 俺はそんな長谷部の言葉を聞くや否や、徐ろに胸元にしまっていた鉄扇を広げて口元を隠した。

 

 理由? 言うまでも無い。

 謀が計画通りに進んでいる穢らわしい愉悦の笑みを、目の前の少女達に見せない為である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……で? 何でそんな根も葉も無いような噂が流れてるわけ?」

 

「いやあ、状況的に考えて根っこはともかく葉っぱぐらいは有る程度の信憑性じゃない? 少なくとも堀北が真澄くんに喧嘩売ったのは事実だし」

 

「いや肝心要のお茶をぶち撒けたところは話が違っているじゃない」

 

 

 夜の帷がすっぽりと降りた頃。寮の自室で夕飯を済ませた俺と神室は二人で晩酌をしながら噂について語っていた。

 

 

 「にしても噂っていうのは怖いねぇ。あくまで『Dクラスの人間がAクラスの神室に紅茶をぶち撒けた』っていう話だったのにさあ。あえてDクラス側の人間の固有名詞を決して出さない様に。って念押しまでして、わざと曖昧な話を流して貰っただけだっていうのに。今じゃすっかり堀北があらゆる泥を被ってるんだからな」

 

「素知らぬ顔して他人事みたいに言ってるんじゃ無いわよ。元凶はあんたの癖に」

 

 

 最近では俺が何かしらを企む度にすっかり見慣れるようになってしまった神室のジト目を尻目に、俺は赤ワインを舌の上で転がした。

 手間暇かけて何度もアルコール発酵を促した酒精強化ワイン擬きの出来栄えは『まあまあ』と言ったところだろうか。普段飲んでいるものよりもパンチの効いたアルコールの刺激は心地良いが、味わいは粗雑で香りも心なしか薄い気がする。改善の余地有りだ。

 蒸留器さえ完成すればもっと本格的なモノが造れるのだが、まだ試行錯誤の最中なのである。六月に入るまでには形になってくれれば良いのだが。

 

 

「噂を広げたのは橋本だし、その結果クラス中からヘイトを買ったのは堀北の日頃の行いってやつだろ。やっぱり俺は悪く無いじゃない」

 

「その橋本にポイント払ってまでガンガン噂を流すように依頼したのもあんただし、そもそも『私に紅茶をぶち撒けたのは他ならぬ、あんた』でしょうが」

 

 

 愛しき恋人である筈の神室からの刺々しい言葉が思いっきりブスブスとぶっ刺さる。何処となく居心地が悪くなり、冷や汗が滲んできたのは多分気の所為じゃない。俺は誤魔化すようにしてグラスの中身をグッと飲み干した。

 

 

「いやーまあ、その件は何度も謝ったじゃないか。事実、申し訳無かったとは思うよ? でもあの時は、ああする方が一番良かったじゃん。とっとと堀北達の目の前から退散できたし、その後も絡んで来る事も無くなったし」

 

「だからって仮にも恋人にあんな事する? 普通。あんたから耳打ちされた瞬間に堀北への怒りとか憎しみとか、すっかりどうでも良くなったわよ。ドン引きして」

 

 

 先日パレットにて、堀北へ事実上の宣戦布告を言い放った俺は冷めた紅茶をぶち撒けた。

 そう、隣に座る神室に向けて。

 

 理由としては色々あったのだが、簡単に言うとあの場からとっとと帰りたかったのだ。今考えればもう少し穏便なやり方があった気もしないでも無いが、人の恋人を散々になじってくれた堀北への憂さ晴らしの面もあったが。

 

 とは言え、幾ら俺が堀北へ苛立ちを募らせようも物理で喧嘩を売ったら普通に負ける。原作でもDクラスでは背が高い方である山内を無人島でぶん投げたし。そもそもバケモノじみた反射神経と身体能力を持っているであろう綾小路に阻止、反撃されるやもしれない。

 だから俺はもっと迂遠で嫌らしく、陰湿なやり方で喧嘩を売ってやる事にした。堀北の口撃にすっかり参った様子の神室を慰める振りをして、扇子を広げながら主人公コンビの視線から口元を隠していた時に、神室にこう耳打ちしたのだ。

 

 

「今から冷めた紅茶を真澄くんにぶっ掛ける。真澄くんは黙っていてくれれば後は俺が上手くやるから任せて。あ、あと制服のクリーニング代は後日しっかり払うから」と。

 

 

 当然、いきなりのぶっかけ宣言に神室は瞠目してこっちをガン見していたし、何だったら俺のトチ狂った暴挙を止める為に声をかけようとしていた。

 まあ、俺はそんな神室に躊躇無くぶっかけたが。ぶっかけは日本の素晴らしい文化の一つである。

 

 

「でも大丈夫なの? 全部が全部、堀北に罪を押し付けるような真似をして。これ、仮に訴えられたら不味いんじゃない?」

 

「いやいや、今回に限ってはその心配は無用さ」

 

 

 テーブルの上を片しながらも神室が心配そうな顔付きでそんな事を言うもんだから、俺は気軽に笑い飛ばした。

 

 

 先ずは単純に噂の信憑性。

 すっかり尾ひれはひれが付きまくったパレット茶会事件だが、簡潔に纏めると『Dクラスの堀北がAクラスの神室に対し喧嘩を売った。衆人環境である喫茶店パレット内にて堀北は神室に罵詈雑言を浴びせた後に紅茶をぶち撒けた』と言うものである。

 割と。というか、かなり酷い内容だ。仮にこれが事実ならば堀北という女は相当ヤバい奴になる。なるのだが……。

 

 

「真澄くんも堀北と言葉を交わして分かっただろう? 典型的なコミュ障なんだよ、彼女は。おまけに主観的な正論をベースに余計な言葉を付け加える悪癖があるから、普通に嫌われてるんだよ、あの女は。と言うか、何人かは本当に『堀北ならやりかねない』と考えてるだろうね」

 

 

 日頃の行いとは本当に大切であると染み染みと実感する。これが例えば櫛田の様な人望のある生徒や、『井の頭』や『王』といった目立たないけれど穏やかなごく普通の女子生徒だったならば、仮にこんな噂が流れたところで誰だって鼻で笑って相手にしなかったであろう。

 だが噂の対象は無愛想で攻撃的。オマケにDクラス中の女子からヘイトを買っている『堀北 鈴音』なのだ。「あいつならやりかねない」と考える人も居るだろうし、仮に噂を信じていなかったとしても嫌われ者の彼女を態々庇ってやるような人間も殆ど居ない筈だ。

 

 原作二巻における『須藤事件』と似たような状況だと考えれば分かりやすいだろう。結論から言えば須藤は被害者側ではあったが、彼ならば暴力事件を起こしかねない。とDクラスの面々から冷たい目で視られている。

 

 

「それにDクラスは中間テスト対策でてんてこ舞いだからね。噂によると堀北も赤点候補の何人かに勉強を教える為に忙しいみたいだし態々、火中の栗を拾うような真似はしないだろうよ。少なくとも中間テストが終わるまでは訴えなんて起こしたくても起こせないだろうよ」

 

「あんた、そこまで考えてたのね」

 

「そもそも堀北が訴えたところで勝てるとも思わんがね。まあ、その為に一芝居打ったわけだし」

 

 

 神室にお茶をぶっかけた際にも「何をするんだ堀北さん!!」と堀北の名前を喫茶店中に響き渡る様な大声で名指しをしてやったり「幾ら相手がAクラスだからって、こんな酷い事をするなんて!?」と涙目になって叫んだお陰で周囲の人間の誰もが堀北が加害者で神室が被害者だと認識してると思う。おっさんの演技スキルは無駄に高度なのだから。

 

 ちなみに酷い事と言うのは茶をぶち撒けた事では無く、神室への度重なる口撃で半泣きにまで追い込んだ事を指す。

 まあ、俺の大声に思わず目を向けた大衆が、びしょ濡れの状態でツレである俺に介抱される弱々しい様子の神室と、推定加害者と思われる少女の名前が『堀北』である。という発言を聞いて、果たしてどんな勘違いを起こし、どんな認識をして、結果的にどんな噂になるかまでは責任を持つ気なんてサラサラ無いのだが。

 

 

「例えば喫茶店内の監視カメラの映像をポイント払って購入すれば真澄くんに茶をぶち撒けたのは堀北じゃないと証明出来るかも知れないけど、噂はすっかり広がっちゃってるしね。まあ、後の祭さ」

 

「名誉毀損とかにならないの?」

 

「例えば俺や橋本が『堀北が真澄くんに茶をぶち撒けた』と断言していれば嘘を吐いた事になるからアウトかも知れないがね、今広まっているのはあくまでも不特定多数が無責任に垂れ流しているだけの噂話さ。ここから名誉毀損で訴え出たとしても、誰を被告人にすれば良いのか? って話になる」

 

「はぁ、成る程ね」

 

 

 前にも言った気もするが俺は堀北の事が嫌いでは無いが、好きでも無い。どうでも良いモブでしか無いのだから。

 

 まあメタ視点と原作知識から考えても事件が起きて生徒達が訴えを出す先は生徒会。つまり堀北のウィークポイントである兄が出張って来る可能性が大。原作でも綾小路のフォローが無ければ緊張で固まってしまう程に兄に対する畏怖と畏敬がこびり付いている堀北が、態々訴えたりしないだろう。

 

 

 と言うか、俺の狙いはむしろ此処からが本番だったりするのだが。

 

 

「さてと。そろそろ反撃の御時間と行こうじゃないか真澄くん」

 

「はぁ? いきなり何の話よ」

 

 

 唐突な俺の言葉が理解出来なかったのであろう、甲斐甲斐しくもグラスに酌をしていた神室の表情が訝し気に歪んだ。

 パレット茶会事件のきっかけが堀北による奇襲染みたカチコミが発端だったせいも有ってか、そこから連鎖したここ最近の俺の行動はアドリブばかりだった。

 

 だが最近になって、ようやく落ち着いて来たところなので、ここらでちょっくら堀北に対して意趣返しをしてやろうと思うのだ。

 

 

 

「真澄くんは堀北から訴えられないかどうか不安がっていたからね。ここらで、ちょっくら発想を逆転させてみてはどうか。って提案さ」

 

「発想の逆転?」

 

 

 まあ、アレだ。濡れた犬は棒で叩けっていうじゃない?

 つまり早い話が嫌がらせ(いつものやつ)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『堀北 鈴音』とこの俺、『佐城 ハリソン』を名誉毀損と暴行で訴えてくれないかな? 真澄くぅん」

 

 

 よぉし!! おっさん、全力で堀北の足を引っ張っちゃうぞー!!!!

 

 

 




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今後の展開について

  • オッサン視点でストーリー重視
  • 他者視点重視。イベントの裏側を解説
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