飲まなきゃやってられんわ、こんな教室。   作:薔薇尻浩作

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佐倉の学力について誤解していましたが初期評価はC。つまり長谷部や三宅と対して変わらない上なんですね。赤点候補のドベかと勘違いしてました。


ボクはクラスメイトを見捨てない!!※なお利用価値が無い場合は除く

 

「では過去問を調達したのは櫛田さんなのですね。流石の人脈と言うべきでしょうか」

 

『部活に入ってるわけでも無いのに先輩の知り合いも結構多いみたいだしね。同性の私から見てもきょーちゃんは可愛いし明るいし、何より話しやすいからね。ああいうタイプの娘って、女子からは妬まれやすいんだけど、きょーちゃんの場合はそういう感じも無いし』

 

「ボクも四月の時点では幾度となくお声がけ頂いた事もありました。察するに櫛田さんはコミュニケーション能力に大変優れているお方なのでしょうね」

 

 

 堀北との示談を終えて暫くが経った。

 相変わらず不登校を続けながらも勉強したり酒を密造したり神室と晩酌したりしている間に時は過ぎ、あっという間に中間テスト前日の木曜日。

 俺は珍しく一滴も酒を飲むこと無く、Dクラス内にて最も親交が深いであろう友人にあたる長谷部と電話をしていた。

 

 単純に可愛い女友達とお喋りに興じている。なんて巫山戯た理由なわけでは当然無い。

 原作通りに綾小路が過去問を先輩から購入して櫛田経由でクラスメイトに配布しているかどうかの確認をしたかったので俺から電話をかけた形だ。

 

 

『いやぁ、きょーちゃんは確かに何でDクラスに振り分けられたのか不思議なぐらいに凄い娘だけどさー。それを言ったらハリリンの方がだいぶヤバいでしょ』

 

「ボクが、ですか?」

 

『自覚無いわけ? 過去問だって二週間前には用意してたじゃん。ぶっちゃけ最初に中間テストのからくりを聴いた時は半信半疑だったけど茶柱先生からテスト範囲の変更を聴いた時は、ちょっと笑いそうになっちゃったもん。勉強会でハリリンの言っていた事がドンピシャに当たってたし』

 

 

 電話越しでケラケラと笑っている長谷部の声色はご機嫌で、退学のかかった命懸けのテストに臨む気負いなどは一切匂わせない。

 

 それもその筈で勉強会に参加している三人の友人。つまりは長谷部、佐倉、三宅にはかなり早い段階で不自然な小テストの真意や試験範囲が近い内に変更になる事。更には中間テストの必勝法である過去問一式を共有していたのだから、彼女達が退学に怯える理由は無くなったようなものである。

 尤も、何度も勉強を教えてる内に長谷部も三宅もそれなりに学力が上がってきた手応えを感じていたようなので、仮に過去問が無くても赤点には引っ掛かる心配は無かっただろうが。

 

 ちなみに佐倉に関して言えば元々の学力はDクラスの平均以下。小テストでは赤点は免れたものの、割と油断出来ない学力だった。仮に勉強会に出席しなければ万が一の事態もあり得たかも知れない。

 今回は過去問という裏技があるので心配は要らないだろうが期末テストが不安になって来る。ケアレスミスも多く、ただでさえ上がり症なのだから、少しでも学力は上げて欲しいところだ。

 まあ何度か行った勉強会を通して随分と俺にも懐いてくれたようなので、特に負担に感じるわけでは無い。将来的には彼女を利用して稼がせて貰う算段なので、今後もちょくちょく面倒をみる事にする。

 

 

「以前の勉強会でもお話したように生徒会に所属する事が内定した関係で優秀な先輩方と知己を得る機会に恵まれただけですよ。ボクはそんな先輩方から頂いた情報を友人の皆様に共有させて頂いただけ。ボク自身はそこまで大した人間では御座いませんよ」

 

『うっわーそういう事言っちゃうんだ。小テスト満点の天才児の癖にー。下手な謙遜ばっかだと、またクラスのヘイトを集める事になるかもよー』

 

「それは困ってしまいますね」

 

 

 ぶーぶーと文句を言う長谷部の顔が目に浮かび思わず苦笑いしてしまう。

 確かにハリソン少年の頭脳のスペックは極めて優秀だし、それに加えて原作知識というチート能力に近いものを持ち合わせている現状、客観的に見れば佐城ハリソンと言う人間はズバ抜けた実力を持つ麒麟児に見えるかも知れない。

 

 だが肝心要の中身のオッサンはどちらかと言うと無能な上にただのヘタレである。

 だからこそ、こうしてテスト前日にも関わらず原作ストーリーとの大きなズレが無いか、イベントのフラグが折れて無いかを確認する為に長谷部に情報を貰っているのだから。

 

 

「何時まであの女と話してるのよ。ったく、ちょっと私より胸が大きいからってデレデレしちゃって……」

 

 

 だから、あの。決して巨乳美少女とのテレフォンタイムに鼻の下伸ばして楽しんでるわけじゃないんです。必要だからやってるだけなんです。はい。

 クッションに座った神室からくり出されるガラル産ファイヤーもびっくりの『にらみつける』にグサグサと刺されたせいか、ガンガンと下がっていく己の防御力に俺は内心で冷や汗かきながら。誰に聞かせるでも無い釈明を必死で垂れ流しているのは内緒の話である。

 

 割と今更な話なのだが、我が恋人の神室 真澄という少女はそのクールな見た目とは裏腹に非常に嫉妬深いところがあるのだ。

 以前に『癇癪』を起こして俺が彼女に(性的な意味で)喰われかけた時も嫉妬絡みだったし。

 いや、まあ。そういうところも可愛いと思ってる俺としては別にいいんだけどね。

 偶にヤンデレの兆候の如く彼女が誇る紫色の瞳からハイライトが消えるのには結構な恐怖を感じる時もあるけど。

 

 

「ん、んん!! さて、話は変わりますがその後の堀北さんの様子は如何でしょうか?」

 

『え? 堀北さん? うーん、まあ私も愛里も直接本人と喋ったわけじゃないから詳しくは分からないけど。強いて言うなら相変わらずの嫌われっぷり? やっぱりあの人って無駄に口が悪いし。ああ、でも改めて思い返してみると普段の覇気? みたいなものが無くなってるかも』

 

「ほう。それは詳しくお聴きしたい情報ですね」

 

 

 背中からグサグサ刺さってる愛しの恋人からの視線を誤魔化す為にも強引に話題を変更。

 少し前に顔を合わせた示談の場では紆余曲折有りつつも、何故か最終的に膝から崩れ落ちた挙げ句にこの世の全てに絶望したような表情でプルプルと震えていた堀北の話だ。

 

 何でそんな闇落ち寸前の魔法少女みたいな反応をしていたのかは未だに分からないが、長谷部情報によれば彼女は未だに本調子では無い様子らしい。

 

 

『まあ、大した話でも無いけどさ。きょーちゃんとかは気を使って堀北さんに何度も声を掛けて、相変わらず堀北さんがそれを冷たく拒絶するまではいつもの事なんだけど。明らかに声色が暗いっていうか、いつもの凛として自信満々みたいな雰囲気がすっかり消え失せちゃってたわね』

 

「ふむ」

 

『例えるとそうだなぁ……あ、言い方は悪いかも知れないけど、それこそ髪を整える前のハリリンみたいな暗ーい雰囲気を纏ってる感じ?』

 

「おやおや。それはそれは」

 

『今では堀北さんに引っ付いてる男子の綾……綾、綾瀬? くんぐらいしか彼女とまともに話をしてる人なんか見かけないわね』

 

 

 サラッと名前を忘れらているきよぽんはさておいて、堀北の現状について考えてみる。

 うーん。予想通りと言えばそうなんだが、どうやら堀北は相当にメンタルにダメージを負っているらしい。だけど一体全体、何故そこまで凹んでるんだろうか?

 

 そりゃ示談の話合いの時に多少は揉めた。

 詳しい事は割愛するが、示談の条件を提示した際に堀北の方からああだこうだと言い訳をしてきたし。

 なのでちょっとした意趣返しとして俺の方から多少の嫌味や皮肉を飛ばしてやった覚えはある。今考えれば年頃の女の子に対しては中々にキツい口調だったかも知れない。

 

 

『なんとなーくの想像はつくけどさ。ハリリン、堀北さんに何かやらかしたでしょう?』

 

「さてさて。何のことやら……」

 

『そういう誤魔化しはいいってば。私だけじゃなくて、みやっちだってハリリンがだいぶ腹黒いキャラだって察してるんだから。愛里はちょっと……純粋過ぎてアレだけどさ』

 

 

 とは言え、相手は堀北 鈴音である。

 原作では須藤に胸倉を掴まれメンチを切られながら怒鳴りつけられたにも関わらず、一切怯むことなく理路整然と反論を繰り広げた気の強さと冷静さを持ち合わせているのが堀北 鈴音という少女なのだ。

 こんな迫力皆無のなんちゃって男の娘にちょっと責められた程度でそこまでダメージを抱えるとは考え辛い。

 

 

「人聞きの悪い。ボクはただ自分の欲求に素直なだけですよ」

 

『なるほどー。つまり自分の欲求に素直になった結果、堀北さんのメンタルをボッコボコにしちゃったってわけね。いやー、やっぱハリリンって綺麗な顔してヤる事はエグいよね』

 

 

 のらりくらりと長谷部からの追及を躱しつつも、示談を終えた後のDクラスの現状について詳しく聞き出した結果についてまとめると。

 

 神室が生徒会に訴えたDクラス所属の佐城と堀北から受けた暴行と名誉毀損の訴えは各教師陣の口から生徒達に伝えられた時点で相当にホットな話題として学年中で持て囃された。それこそ、目前に迫った中間テストの存在を薄らせる程に。

 特に当事者であるAクラスとDクラスの反応は相当に大きかったようで、被告人扱いされた堀北は当然として、Dクラスの人間はAクラスの人達から相当に厳しい視線を浴びせられたらしい。

 人によっては面と向かって「不良品の分際で俺達に迷惑をかけるな」と罵られた者もいたのだとか。

 

 まあ、不登校の俺には一切関係が無いので、「ふーん、大変だね」という感想しか出て来ないのだが。

 

 

『ま。結論から言っちゃえば堀北さんは今まで以上に嫌われたね。それこそ、きょーちゃんや平田くんが止めなかったら即イジメが始まっちゃうレベルには』

 

 

 んでもって、話はちょっと戻って。

 やっぱり現在進行系で堀北は女子を中心にクラス中の人間から今回の騒動の元凶としてボロクソに言われているらしい。

 

 

「ですが結局今回の騒動は示談によって解決したわけですし、その旨は先生方から伝えられたわけですよね? でしたらそこまで堀北さんの肩身が狭くなるような要因は無いと思うのですが」

 

『いやいや、女子の界隈って怖いんだから。先生から解決しました。って言われただけで大人しくなるわけが無いじゃん。特に軽井沢さんとか篠原さんとかのグループがそりゃーもう鬼の首でも取ったかのように責め立ててさあ』

 

「堀北さんは弁明していなかったのですか?」

 

『してたけど、あれじゃ逆効果だよね。「貴女達には関係無いことよ」とか「終わった事を蒸し返さないで頂戴」って、前みたいな覇気は無くても相変わらずの上から目線は健在なわけだし』

 

「なるほど」

 

『傍から聞いてて私までイラッとしたもん。もう軽井沢さんのグループも篠原さんの周りの娘もカンカンよ』

 

 

 示談で方がついた時点で訴えを取り下げられた今回のパレット茶会事件については一応の解決を見せている。

 とは言え生徒会を通して学校側から箝口令が敷かれているらしいので、仮に堀北がクラスメイトに事件の経緯を事細かく説明したくても話す事は出来ない筈だ。そんな裏事情があるとは言え、堀北の反応は確かに頂けない。

 喋れば喋る程に周囲からの反感を買い、苛つきを煽り、怒りを募らせている現状が目に浮かぶようだ。

 

 

『苦労しながらフォローしようとしている、きょーちゃんにも相変わらず酷い態度なわけだし。彼女を慕っている王さんや井の頭さんみたいな大人しい娘までアンチ堀北についちゃってるからね、現状。もちろん私や愛里も巻き込まれたくないから、わざわざ味方しようとも思わない』

 

「な、なるほど。」

 

『堀北さんはもう本格的に駄目かもね。いっそ本格的にハブられる前に自主退学した方が本人も幸せなんじゃない?』

 

「Oh……」

 

 

 ……これ、本当に大丈夫か? 原作破綻してない?

 果たして堀北が無事に未来のリーダーとなれるかどうかが若干不安になる俺であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Aクラスの反応? まあ、橋本が露骨に探りを入れてきてウザいぐらいかしら」

 

 

 長谷部との電話終了後。不機嫌モードの神室を宥めすかして、媚を売って、必死にヨイショして。紆余曲折あって結局ベッドの上に押し倒されて、噛まれたり舐められたり吸われたりして、俺の首筋から上半身にかけて色とりどりの紫陽花が咲き誇ったりしてから暫くが経ち。

 シングルベッドで二人して寝転びながら話を振った際の神室の反応がコレである。

 

 チャラ男が嫌いなのは知ってはいたが、そこまで橋本が嫌いか。これ、生徒会経由で南雲と知り合ったら相性最悪かもな。

 そんな事を考えつつも俺は更に詳しい話を掘り下げてみる事にした。

 

 

「橋本が接触してきたって事は坂柳派が動いて来たってわけか」

 

「示談で訴えを取り下げる前にも坂柳さんからは何度か直接の接触があったわよ。まあ、これは葛城くんの方からもだけど」

 

 

 坂柳も葛城も「困った事があるなら力になる」と、何とも聞こえの良い優しい言葉をかけながら、何となく事件の全貌と裏事情を探っている雰囲気があったそうだ。

 とは言え両者の思惑は完全に一致しているわけでは無いらしい。

 その証拠に示談によって問題が解決したとの通達が教師からなされた後は、葛城派からの接触はすっかり無くなり、未だに根掘り葉掘り聞き出そうとして来るのは坂柳派の人間だけなのだとか。

 

 

「坂柳はともかく葛城は意外……でもないか。クラスの仲間が他クラスと揉めたと聞けば確かに放ってはおかなそうだし」

 

「今回の問題はクラスを跨いだ結構な大事に発展したしね。どっちの派閥も興味津々って感じだったわよ」

 

 

 

 察するに葛城はクラスメイトが問題に巻き込まれた事に対しての純粋な心配。

 対する坂柳は今回の事件をきっかけにクラス間闘争に利用できないかという仄暗い興味。そんな感情が透けて見える。

 

 

「あ、話は変わるけど坂柳さんがあんたに会いたいって言ってたわよ」

 

「えぇ? 一体全体何のようで?」

 

「さぁ? 親交を深めたい。とかそれっぽい事を言ってたけど何を考えているのやら。自称天才様の考えている事なんて私に分かるわけ無いじゃない」

 

「うーん坂柳が、ねぇ」

 

 

『坂柳 有栖』

 

 自他ともに認める天才児である将来のAクラスのリーダーだ。

 先天性の心疾患を患っている為に歩行の際は杖が必要な程に身体が弱く、身体能力という点では在学生の中でも一際に虚弱な少女。

 だがそんな致命的とも言える欠点を凌駕する程の抜群に優れた頭脳を持つ文字通りの天才児であり、『ようこそ実力至上主義の教室へ』一年生編におけるボスキャラに近い存在と言っても過言では無い重要なキャラクターだ。

 

 坂柳は幼少の頃に教育の一環として父である現在の理事長『坂柳 成守』に連れられ、本作で最も謎に包まれている非合法な教育施設『ホワイトルーム』を見学。

 その際にガラス越しに見た無機質な表情の少年がチェスを行っているシーンが強く印象に残り、それが切っ掛けでチェスを始める。

 

 結論から言ってしまえば、その時に目撃した死んだ目をした少年と言うのが当時幼かった主人公『綾小路 清隆』であり、坂柳自体は公言していないものの実質的には彼に初恋を奪われた形となる。

偽りの天才を葬るのは本物の天才。つまり自分自身だと何やら硬い決意を秘めており、綾小路に異常に執着している。

 

 ずっと会えなかった幼馴染のようなもの。と綾小路への関係を語っているシーンがあるが読者目線から見れば、どう見ても綾小路に惚れている。

 つまり坂柳 有栖というキャラクターはAクラスのボスとして君臨するライバルキャラでもありながら、ヒロイン候補でもあるという超重要な少女なのだ。

 

 なのだ、が。

 

 

「面倒くせぇ。普通に関わりたく無え」

 

「なら断っとく?」

 

「いや、真澄くんと交際を続けていくにあたってAクラスとの関係は慎重に取り扱うべきだ。つまりリーダー候補である坂柳の機嫌を損ねるのはマズイ。テスト明けにでも時間を作るとしよう。嫌だけど。めちゃくちゃ嫌だけど」

 

「どんだけ坂柳に会うのが嫌なのよ、あんた」

 

 

 

 坂柳 有栖という少女は美しい。

 華奢な身体に白い肌。パステルピンクが透けて見える雪のような白髪にラベンダー色の大きな瞳。と、その名に相応しい容姿を持ったまるで童話から飛び出してきたようなメルヘンチックな魅力に富んだ美少女である。

 右手に握った一本杖とちょこんと頭に乗せたベレー帽をトレードマークに、幼い容姿のニンフェットはセクシーなガーターベルトを装着してどこか倒錯的な魅力まで醸し出している。

 

 まさにヒロイン候補。否、今後の原作の展開によってはメインヒロインとなってもおかしくない程の素晴らしい美少女なのだ。

 

 美少女。なのだが……

 

 

「いやだって性格悪そうじゃん。陰湿そうだし陰険そうだし加虐癖ありそうだし。何て言うか弱い者虐め大好きーみたいな。虫の脚をもぎ取って蟻に喰われる様子を微笑みながら観察してそうなイメージ」

 

「いくら何でも言い過ぎでしょう。って言うか性格云々は人のこと言えないと思うけど」

 

「失礼な。少なくとも俺は弱い者虐めはしないぞ」

 

「堀北のことをボロクソに言ってボコボコに凹ませていたでしょうが」

 

 

 性格が悪い。坂柳 有栖を一言で言い表すならこれに尽きるのだ。

 

 一応ヒロイン候補でもあるので主人公である綾小路に対してのみは、儚げな見た目に反してちょっとだけ強気な天才美少女。という態度なのだが、その他に対する畜生っぷりが割と洒落にならない。

 ナチュラルにお友達=駒と意訳出来る程に彼女の人間関係は基本的に自分を上位とした主従関係に等しいものである。割と躊躇なく配下をこき使っては用済みになればポイ捨てする。謀略や暗躍を好み、最悪な事にその性癖はサディスト。

 

 原作では特別試験の林間学校前後に裏で南雲と手を組み、一之瀬に対して徹底的に陰湿な嫌がらせを行い、悪意を持って犯罪者扱いする噂をばら撒いた。

 勝手に龍園の名前を使って偽の告発文まででっち上げ、ついには大天使ホナミエルを登校拒否にまで追い込んでいる。

 

 やってる事が普通に虐めである。外部から隔離され、逃げ場の無い刑務所のような学園での陰湿かつ冷酷で非情な攻撃。

 一歩間違えれば普通に一之瀬が自殺しかねない事まで平気でやらかす、人の心がまともに分からない腸の腐ったような鬼畜ロリが坂柳の正体なのだ。

 

 

「会いたくねーなー。何だかんだで過去問の存在を葛城にまでバラした事とか根に持ってそうだし」

 

「まあ、確かに坂柳さんは中間テストのからくりや過去問の存在には気づいていそうだったけど」

 

 

 話は少し前に遡る。わざわざ神室にお願いして実現したAクラスのメインキャラクター達との会合の話だ。

 俺はその場に集まった坂柳、葛城、それからそれぞれの付き添いの二、三名の人間の前で中間テストの仕組みを暴露。更にお土産として二年分の過去問を手渡したのである。

 

 

「葛城とそのお供の人達は過去問の存在に割と露骨に驚いてくれたから中間テストの裏技について気付いてなかったのは確定だろうけど、坂柳派の人達は反応が薄かったからな。まず間違いなく坂柳は自分の派閥にだけ過去問を渡していたんだろうよ」

 

「ふーん。もしもあんたの推測通りなら、確かに坂柳さんは中々にいい性格をしてそうね」

 

 

 

 ちなみにAクラスとの話合いで過去問まで渡して得た対価としては、Dクラスの俺とAクラスの神室との交際関係に口を出さない事だ。

 どうせ坂柳辺りが文句をつけてくると思ったので何だったらプライベートポイントも100万や200万程度までなら支払う覚悟だったのだが、割とあっさり承諾してくれたのが肩透かしだった。とは言え終始、意味有りげな微笑を浮かべていた鬼畜ロリのことなので何かしら企んでいるのだろうが。

 

 

「そう言えば坂柳派と葛城派が中間テストの平均点で勝負する。みたいな話も持ち上がっていたわね」

 

「えっ? マジで?」

 

「一応ね。とは言え話に乗り気だったのは勝負を吹っかけた坂柳さんとその派閥の幹部だけだったし、葛城くんは露骨に嫌そうな反応してたわよ。まあ、あんたが過去問を渡した事でその話も有耶無耶になったけどね」

 

「うっわマジかよ。それ絶対に坂柳内心でピキッてるじゃん。やっぱ会いたくねー」

 

 

 とは言え、いつまでも避け続けて余計なヘイトを買ってしまうのは宜しく無い。

 諦めてテスト明けにでも時間を作るとしよう。どうせ要件はスパイになれだとか、チェスを打たないかとか、そんなところだろうし。

 二次創作でよく見た展開だ。俺は詳しいんだ。

 

 

「あ、そうだ。真嶋先生にはしっかりあの質問をしておいてくれたかい、真澄くん」

 

「あのテストの点数をプライベートポイントで買えるかどうか、っていうワケの分からない質問でしょ。あんたの言った通りにちゃんと帰りのホームルームで質問しといたわよ。クラスメイトの前で、ね」

 

「それは重畳」

 

 

 明日に迫った中間テストだが原作通りに進めば赤点を取る人間が出る。必勝法である過去問を以てしても英語の点数が1点足りずに退学の危機に陥るのはDクラス一のヤンキー少年『須藤 健』だ。

 最後の科目である英語だけ前日の勉強を寝落ちしてしまい点数が伸びず、おまけに赤点のボーダーラインを勘違いしたせいで学年で唯一の赤点獲得者となってしまう。

 Dクラスはまさかの退学者の出現に一気にお通夜モード。絶望にくれる中、クラスメイトの一人を喪ってしまうのか……。

 

 

「あんたの予想通りにテストの点数自体は買えるみたいよ。ただ値段がバカ高い。1点10万ポイントですって」

 

 

 だがしかし、ここで動いたのが我らが主人公である綾小路だ。

 入学初日に茶柱先生から言われた「この学校においてポイントで買えないものは無い」という言葉を引き合いに出して交渉。

 その結果、綾小路と堀北がポイントを出し合う形で須藤の足りない点数1点をなんと10万ポイントという大金で購入。

 二人の発想と活躍により須藤は救われましたとさ。めでたしめでたし。となるわけだが。

 

 

「ほほーう。10万とは中々の大金だねぇ」

 

「私やあんたみたいな金持ちならともかく、普通の生徒は中々手が出せない金額でしょ」

 

「だねぇ。毎月9万ポイント以上のAクラスでも間違いなく躊躇する値段設定。もしも我がDクラスに赤点取得者が出てしまったら最早絶望的だ」

 

 

 だがしかしこの世界線ではそうは上手くはいかない事となるだろう。主に俺の言動が原因だが。

 

 

「あんたがやけに念を押すから真嶋先生にクラスや学年によって値段は変わらないか。または値引き交渉は可能か。とまで聞いてみたけど、一律で10万ポイント。これは学校上層部が設定した値段だから担任に変更する権利は無い。ってハッキリ断言されたわ」

 

「なーるほどなるほどね。ふふふっ、わざわざ質問してくれてありがとうねー真澄くん」

 

 

 神室はこの質問に果たして何の意味があるのか理解っていないようだ。と言うか、俺も原作知識が無かったらこんな内容の質問なんかしようとも思わなかっただろう。

 だが事がDクラスの話になると。もとい、茶柱 佐枝というヤバい女が担任しているクラスに所属しているとなると話が変わる。

 

 Dクラス担任の茶柱はパッと見は不良品共を見下した冷血な教師だが、そんな表の顔とは裏腹に内心ではドス黒い執念を孕んでおり、例えどんな手を使ってでもAクラスの昇格を願っているヤバい女だ。

 このまま原作通りにストーリーが進めばに近い将来に。具体的には夏休みの無人島試験が始まる直前に原作主人公である綾小路を脅迫する事となる。

 

 

「こんな妙な内容をやけに気にするって事は、あんたは今回の中間テストで退学者が出ると思ってるわけ?」

 

「うーん、まあねぇ。可能性としては十分に有り得るかな」

 

 

 話は少しズレるのだが、結論から言うと俺は今回の中間テストで退学者を出すつもりは無い。

 もっと詳しく言えば『現時点では』須藤を退学させる気は一切無い。という事だ。

 これが山内や池あたりだったら退学しようがしまいが別にどっちでもいいのだが、須藤が消えれば今後のストーリー展開が大きく変わってしまう。具体的に言えば六月末から七月にかけて起きる『須藤暴行事件」のフラグが立たない。

 

 なので原作通りに綾小路と堀北に彼を救済して欲しいのだが、先日のパレット茶会事件の示談の結果がここで効いてくる。

 詳しい経緯は省くが、結論からいって俺は堀北の全財産である約8万ポイントを掻っ払ってしまったのだから。

 

 

「いや、流石に無いでしょ。さっきの電話の話を横から聴いてたけど過去問は櫛田さんが配ったんでしょ? それこそどんな馬鹿でも死ぬ気で暗記するでしょう」

 

「まあ、普通に考えたらそうなんだがねえ」

 

 

 つまり原作のように綾小路が足りない分のポイントを堀北が支払うという事が出来ない。だからこそ須藤救済の際には俺がポイントを支払うつもりでいる。

 

 そしてここで話は戻って真嶋先生への質問と茶柱の存在について。

 もしも一担任教師にテストの点数の値段設定をある程度コントロール出来る権限があると非常に厄介だ。

 茶柱が今後とも俺をクラス間闘争に強引に巻き込む為に、もしくは単なる嫌がらせで俺の財布の金を減らそうとして、1点につき50万やら100万やら請求されても困ってしまう。

 

 そう言った不安要素を潰す為に、あえてAクラスの担任である真嶋先生に神室の方から質問して貰ったというわけである。

 

 

「なあ真澄くん。ウチのクラスの須藤って男子を知ってる? 背が高くて髪が赤いやつなんだけど」

 

「須藤? ああ、知ってるわよ。Dクラスの中でも結構な有名人だし」

 

 

 ここで俺は他クラスから見て須藤はどの程度の知名度があるのか気になったので、神室に聞いてみる。

 何かを思い出すように蟀谷を抑える動作を見せたのも一瞬、彼女は何時も通りの表情で。つまり何事にも興味無さげな仏頂面のまま答えた。

 

 

「有名人? 平田や櫛田よりも?」

 

「そうよ。まあ、悪い意味でだけど」

 

 

 Aクラスから見たDクラスは犯罪者予備軍のような扱いらしく、とにかく評判が悪い。

 ただでさえ四月の時点でCPを全て吐き出した稀代の不良品として有名だったにも関わらず、俺の頼み事が切っ掛けで神室とDクラスの主要メンバーが軽い口論を起こしている。

 おまけに少し前に起こったパレット茶会事件の加害者がDクラス所属の堀北(厳密に言えば俺もなのだが忘れられているらしい)である事もあり、Aクラスの中ではDクラス=悪の巣窟のようなイメージなのだとか。

 

 そんな悪逆非道なDクラスの面子でも件のレッドヘアーボーイは相当に有名らしい。

 

 

「誰だったかは忘れたけど、ウチのクラスの男子生徒が肩がぶつかったとかで因縁つけられて胸倉を掴まれたり。ちょっとからかっただけで怒鳴り散らしながら脅迫されたり……そんな話はよく聞くわね」

 

「ありゃりゃ。やっぱやらかしてるなーあいつは」

 

「まあ、露骨にDクラスを見下してわざわざちょっかい掛けにいってる馬鹿もいるから一部は自業自得なんでしょうけど。それでも須藤って男は直ぐに手を出しかねない危険人物って扱いよ」

 

 

 まあ、その考え無しの短気さと粗暴さ故に龍園に目を付けられて、やがてそれが須藤暴行事件に発展していくのだが。

 あ、あとはそれに関連して佐倉のストーカー事件か。ぶっちゃけこっちに関しては既に解決の見通しも立ててるし、有能な協力者を脅迫……もといお願いして得ているので問題は無い筈だ。

 

 

 閑話休題。

 恐らく須藤は原作通りに赤点を取るだろう。ここで俺は須藤の救済を条件に『平田と櫛田、おまけに軽井沢とある契約』を結ぶ予定なのだ。

 

 

「くひひひ。今から中間テストが愉しみになってきたぜ」

 

「悪どい顔して全く。どうせまた悪巧みでしよ?」

 

「まっさかー。これは退学の恐怖に怯えるクラスメイトを救済してあげようという善意の謀を練っている笑顔なのだよ、真澄くぅん」

 

「謀って言ってる時点で自白してるようなものでしょうに」

 

 

 たった10万ポイント支払うだけで破格の利益が得られると思えば思わず愉悦の笑みが溢れるのは仕方無い。

 

 呆れたような溜息を吐く神室の声を聞き流しつつ、俺は中間テストに備えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして月日は流れ、中間テスト終了後。

 

 

 

 

 

「須藤。山内。赤点を取ったお前ら二人は退学だ」

 

 

 ……うん。

 山内は別に救わなくてもいいかなぁ?

 

 さてさて、どうしようかなぁ?

 

 




感想、高評価、誤字訂正、一言コメントありがとうございます。
感想は全て目を通しております。

今後の展開について

  • オッサン視点でストーリー重視
  • 他者視点重視。イベントの裏側を解説
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