飲まなきゃやってられんわ、こんな教室。   作:薔薇尻浩作

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ここから原作一巻終盤まで綾小路視点入ります。
神室とのやり取り。会長とハリソンのやり取り。パレット茶会事件。その後の示談について。が主な内容です。


綾小路視点【奇貌 5】

「まるで夢のような生活だ」

 

 友人である池や山内がそんな事を何度か言っていたのを思い出す。

 

 毎月10万円相当の小遣いを与えられる楽園のような学園生活。

 校則も緩く、先生達もフレンドリー。遅刻をしようが欠席をしようが。居眠りをしようが私語をしようが、携帯端末を弄ろうがゲームを持ち込み遊んでいようが誰も注意する事も無い。

 オレ達未成年からしたら、まるで毎日が自由時間のような夢の生活かも知れない。

 

 だからこそオレは疑問に思っていた。

 例えば先日に行われた小テスト。最近、三馬鹿の名前で一纏めにされているオレの友人達はその名の通り勉強が苦手で、三割も解けなかったらしい。

 彼らだけでは無い。難易度から考えれば中学時代にまともに勉学に勤しんでいれば七割から八割は解けてもおかしくない簡単な問題が殆どだと言うのに、堀北のような極一部を除けば男女関係なく「難しかった」「半分ぐらいしか解けなかった」

 少し聞き耳を立てただけで、そんな声がクラス中から聴こえて来た。

 

 クラスメイト達の殆どは学力に秀でているわけでは無い。

 須藤や小野寺、高円寺を始めとしたほんの一部を除けば、特に身体能力に突出して光るものがあるわけでも無い。

 授業を放棄し教師に友人のようなタメ口をきき、10万という大金をあっさり浪費するクラスメイト達には社会常識や計画性なども見らず、はっきり言ってしまえば良識や道徳心といったモラルに欠けているようにすら思える。

 

 

『東京都高度育成高等学校』

 

 進学率、就職率ほぼ百パーセントという日本屈指の名門高校。きっと合否の基準は単純な学力やテストの点数だけではないのだろう。それはオレにも予想は出来る。

 

 だがしかし、一体どのようにしてこの学校はオレのような人間を。そして愚かにも見えるクラスメイト達の何に可能性を見て入学者を選んだのだろうか。

 

 ふと、そんなことを疑問に思っていた。

 

 

 そして、今日。

 入学から一ヶ月が経過した五月一日。

 

 この日を境にして。

 

 

 

「お前らは本当に愚かな生徒達だな」

 

 

 オレのそんな疑問は、偽りの楽園から地獄に蹴り落とされる事によって氷解したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せんせー、ひょっとして生理でも止まりましたー?」

 

 

 始業チャイムと共に入室して来た茶柱先生に対して池がまさかのセクハラ発言を繰り出した。お調子者の彼にとってはいつもの冗談のつもりだったのだろうが笑い一つ起こらない。

 それどころが茶柱先生は池の発言に一切反応する事なく、無言のまま教卓に立った。

 大きめの模造紙でも入っているのか、何やら筒の様な物を抱えた彼女の表情は今までに見た事も無いほどに険しいものである。

 池の発言に気分を害した。ただそれだけとは思えない、重苦しく冷え切った雰囲気だった。

 

 一部の生徒はその重々しい空気に何かを感じたのか、茶柱先生の体調でも悪いのか。それとも何かトラブルでも起きたのでは。と、ヒソヒソと囁きあっている。

 

 

「これより朝のホームルームを始める。が、その前に何か質問はあるか? 気になることがあるなら今聞いておいた方がいいぞ?」

 

 

 いつもとは違った台詞で始まった朝のホームルーム。やはり改めて聴くと茶柱先生の声色は常より低く、冷たくて固い印象を受けた。

 生徒からの質問がある事を確信しているであろう教師からの言葉に、数人の生徒が気怠げな様子で挙手をして質問をした。

 

 

「あの、今朝確認したらポイントが振り込まれてないんですけど。毎月1日に支給されるんじゃなかったんですか? 今朝ジュースが買えなくて焦りましたよ」

 

 

 先生から指名される事を待たずに不満げな声で質問したのは『本堂 遼太郎』である。

 山内辺りと仲が良くオレにとっては友人の友人で、挨拶や雑談程度ならするが二人きりになると途端に気まずくなる微妙な間柄だ。

 ジュースが買えなかったという発言から察するに彼もまた山内や池と同様に一月で10万ポイントをほぼ使い切ってしまったらしい。冷静になって考えると、とんでも無い話だとゾッとする。

 

 

「本堂、前に説明しただろ、その通りだ。ポイントは毎月1日に振込まれる。今月も問題なく振込まれたことは確認されている」

 

「え、いや、でも振込まれてないんですけど」

 

 

 淡々とした茶柱先生の語り口とその内容に納得がいかなかったのか、本堂は不安気な声で山内と顔を見合わせて確認し合っている。

 池や須藤に関してはそもそもポイントが振り込まれていないという事実に気づいてすらいなかったようで、今更になってようやく端末を確認して驚きの声を上げていた。

 

 茶柱先生は入学初日にポイントは毎月一日に振り込まれると明言していた。にも関わらず、今朝ポイントを確認したら残高は昨日までと全く同じ。これは確かにおかしい。

 生徒達が疑問に思い、納得がいかないのも無理はないだろう。

 

 

「やっぱ振り込まれてないじゃないですか先生ー!! ったく、しっかりしてくれよな」

 

「日付が変わった瞬間に振り込まれると思ってたのによ。学校のせいで今朝コンビニで買い物出来なかったんだぜ?」

 

「学校の怠慢だ怠慢。職務怠慢ってやつ。遅延した分の賠償金寄こせー」

 

 

 疑問の声はざわめきになり不安や怒りが募ったのか生徒達の声は次第大きくなり、やがて野次や怒号すら飛び交い始める。

 だがそれでも茶柱先生は無言だった。能面のような無表情のまま、怖いぐらいに無言を貫いていた。

 

 先生は騒ぎ立てるオレ達生徒に果たして何を思ったのだろう。

 不気味な気配を纏った茶柱先生はやがて、その白い顔にゆっくりと酷薄な笑みを浮かべていく。

 

 そして唾棄するかの様に、こう吐き捨てた。

 

 

 

「お前らは本当に愚かな生徒たちだな」

 

 

 好き勝手に騒ぎ立てていたクラスメイト達がまるで示し合わせたかのようにピタリと音を立てて静止する。

 それだけの迫力が今の茶柱先生の一言には込められていたのだ。

 

 

「は? 愚かって何すか? 急に」

 

「座れ、本堂。二度は言わん」

 

「さ、佐枝ちゃん先生?」

 

 

 

 本堂の再びの疑問も茶柱先生は鋭い眼光と共に無慈悲に切って捨てる。先月までオレ達生徒に見せていたクールな面持ちでありながらどこか親しみやすい雰囲気を見せていた美人教師の表情はすっかりと変わってしまっていた。

 恐らくこの姿こそが本来の『茶柱 佐枝」という女性の本当の顔なのだろう。そのあまりの迫力に本堂も腰が引けたらしい。

 先ほどまでの気怠い表情とは打って変わり、顔を真っ青に染めたままズルっと椅子に滑り落ちるようにして収まった。

 

 

「ポイントは振り込まれた。これは間違いない。このクラスだけ都合良く忘れられた、などという幻想、可能性は一切無い。解ったか?」

 

「いや、でも実際に振り込まれて無いし……なあ?」

 

 

 茶柱先生の断言に恐れ慄きながらも納得はいかなかったのだろう。

 周囲に助けを求めるようなか細い声で本堂が近くの友人に確認を取れば、恐る恐ると言った様子で何人かの生徒が同意する声がそこかしこで聴こえた。

 

 

「ははは、成る程。簡単な謎解きという訳だね、ティーチャー」

 

 

 と、ここで困惑するオレ達をまるで嘲笑うかにして場違いにも明るい笑い声が響いた。

 声の主はDクラス一のナルシスト兼、変人として名高い男。真夏の太陽の様に自己主張強く輝きを放つ金髪に、机に脚を乗せたふてぶてしい態度がトレードマークとなりつつある自由人『高円寺 六助』こそが声の主である。

 

 

 

「なーに簡単なことさ、私達Dクラスには1ポイントも支給されなかった。という事だよ」

 

「はあ? 何でだよ。毎月10万ポイント振り込まれる。って佐枝ちゃん先生が初日に言ってたじゃねえか?」

 

「やれやれ、どうやら凡人の諸君と私では耳の作りが違うようだね。少なくとも私はそう聴いた憶えは無いのだが。そうだろう、ティーチャー?」

 

 

 高円寺の言葉にオレは入学初日の茶柱先生の説明を思い返してみた。

 成る程、確かに。言われてみれば確かにそうだった。先生は各々の端末に既に10万ポイント振り込まれてある事と、毎月一日にポイントが振り込まれる事を説明している。

 

 つまり、逆に言えば『毎月何ポイント振り込まれるか」については一切明言していなかったではないか。

 

 

「態度には問題有りだが高円寺の言う通りだ。私は毎月一日にポイントが支給されると説明したがその支給額については一切触れてはいなかった筈だぞ? 全く……学校側はお前達に散々ヒントを与えてやったというのに自分で気が付いたのは僅か数人とは。嘆かわしい話だ」

 

 

 やはりそうだ。オレ達Dクラスには振り込まれる筈のポイントが何らかの要因で消失してしまった結果『0ポイントが振り込まれた』のだろう。

 ある種の詭弁じみた茶柱先生からの騙し討ちに再びDクラスからは嵐のような喧騒が巻き起こった。

 

 

「先生、腑に落ちない事があります。振り込まれなかった理由を教えて下さい。でなければ僕達は納得できません」

 

 

 もはや黙っていられないとばかりに立ち上がったのはDクラスのリーダーとしての立ち位置を確保しつつある『平田 洋介』だ。

 女子生徒が黄色い声をあげる柔らかな二枚目の顔を強張らせて問い正しているが、その声色からは焦燥と危機感を隠しきれていない。

 

 

「学校側としてはお前達の納得などどうでもいいのだが……まあ一応説明だけはしてやろう。遅刻欠席、合わせて98回。授業中の私語や携帯端末を触った回数391回。たった一月で随分とまあ、ここまでやらかしてくれたものだな」

 

 

 茶柱先生の言葉にオレはふと思い出した。授業を担当する先生は私語をする生徒や遅刻する生徒を目撃する度に何かメモを取っていた。

 恐らくは何らかの審査における減点対象者を逐一、明記していたのだろう。

 

 

「この学校ではクラスの成績がポイントに反映される。その結果、お前達は自らの怠惰と愚行により振り込まれる筈だった10万ポイント全てを吐き出した。それだけのことだ」

 

 

 やはりそうだ。生活態度や授業態度によって振り込まれるポイントが減額するシステムだったのだ。

 それもよりによってクラス単位の連帯責任という形で。

 

 オレは隣に座る堀北の表情を窺った。胸を張って凛とした姿で着席している様子は普段の通りだが、想像通り彼女の顔色には苛立ちが浮かんでいるのが見て分かる。

 常日頃から規則正しい生活を送り、模範的な優等生として授業を受けていた堀北からすれば無能な周囲のクラスメイトのとばっちりを受けた形だ。大迷惑にも程があるだろう。

 

 

「入学式の日に直接説明したはずだ。この学校は『実力』で生徒を測ると。つまりお前たちは……」

 

 

 

 心の底か呆れ果てたような、もはや傍観すら通り越してしまったような感情の籠もらない声色で。

 まるで厳罰を下す裁判官のような冷淡さと威圧感と共に茶柱先生はオレたち、Dクラスの面々への評価を宣告した。

 

 

「評価0のクズ。と言うわけだ」

 

 

 

 己の心臓の音すら止まってしまったのではないか。そんな勘違いを起こしてしまいそうな鉛のように重苦しい静寂がクラスを支配した。

 

 

「ク、クズって……」

 

 

 ポツリと。堰き止めようとしていたダムから一粒の雨垂れが滴り落ちるかのようにして、涙で湿った誰かの言の葉が漏れ出た。

 

 

「い、幾ら何でもそこまで言わなくても!!」

 

「酷いよ先生っ!!」

 

「評価もポイントも0とか、これからどうやって暮らしていきゃあいいんだよ!!」

 

 

 不平不満や悲嘆悲哀。溜まりまくったストレスが爆発するかのようにして生徒達の口から轟々と飛び交った。

 

 

「茶柱先生っ。僕らはポイントが減っていくだなんて話は聞いた覚えがありません!!」

 

 

 そんな中、ようやく意義のある声を張り上げたのはまたもや平田である。だがしかし彼自身もきっと気付いている筈だ。

 時既に遅し。全ては自分達の自業自得であるという変えようの無い事実に。

 

 

「当然だろう。私はそんな話など一切していないからな。逆に聞きたいがお前達はこんな事まで一々説明されなければ解らないのか?」

 

「ですが!! もしもポイントの件さえ先生から説明されていれば僕達は生活態度を改めていた筈です!! 遅刻欠席は勿論、私語や居眠りなども事前に防げていた筈なんです」

 

 

 平田の必死の訴えに一部の生徒が「そうだそうだ」と言わんばかりに同調の声をあげるが、茶柱先生は呆れたような溜息を一つ。

 路傍の石でも見るような無機質な視線を放ちながら憮然とした口調で切って捨てた。

 

 

「平田、頼むからこれ以上私に失望させてくれるな……あのなあ、わざわざこんな常識を説明なんかするわけ無いだろう?当然だろう。逆に聞きたいがお前らはこんな事すら説明されなければ理解出来ないのか?」

 

「当たり前です!! 予め説明さえされていれば僕達は遅刻や欠席も行わず授業態度だって真面目なものになっていた筈です」

 

「おいおい、いくら何でもその話は苦しくないか? なあ平田。繰り返しになるが常識的に考えろ。小中学校の九年間。お前達が義務教育を受けて来たなら習って来た筈だろう。遅刻欠席は悪であると。そのお前達が言うに事欠いて説明されなかったから納得出来ない等と馬鹿馬鹿しい。通るわけが無いだろう、そんな理屈は。全ては自業自得。当たり前の事をやらなかったお前達の自己責任だ」

 

「そ、それはっ……確かに、その通り。なの、ですが……」

 

 

 茶柱先生の言葉に平田の必死の弁舌もやがて弱々しく尻すぼみになり、悲痛に歪んだその顔もダラリと項垂れてしまう。

 無理も無い。茶柱先生の言っている事は百人が聴いたら百人が正しいと頷くような、覆しようの無い確固たる正論なのだから。

 

 

「これ以上は無駄な言い訳は止めておけ。付け加えて言うならばお前達は入学直後に10万円相当のポイントを配布されていた時、殆どの人間が驚いていたよな? 当然の話だ。まだ何者にもなっていない未熟なお前達に降って湧いたような大金が渡されたのだから。新入生達は毎年同じ様な反応をする」

 

 

 平田が脱力した様子で着席したのを横目で確認した茶柱先生は再び朗々と語りだす。

 思い返せば彼女は今までのホームルームではいつも言葉少なげだったので、ここまで長く話し続けるのは入学初日以来かも知れない。

 

 

「お前達は驚愕すると同時に疑問に思っていた筈だ。何故こんな大金を入学しただけで与えられるのかと。授業中もそうだ。お前達が好き勝手遊び呆けているにも関わらず教師陣は注意すらしなかっただろう」

 

 

 茶柱先生がクラス中に問いかけるようにグルリと教室を見渡せば幾人もの生徒が慌てて目を逸らしたり視線を机の上に落とした。きっと心当たりがあるのだろう。

 

 

「だと言うのにお前らはその理由を深く考える事すらせずに、ただ悪戯に時間を浪費しただけだ。なぁ? 何故そこで行動を起こさない。何故お前達は疑問を疑問のままに放置しておいた。有り得ないだろう、常識的に考えて。普通に考えてみれば」

 

 

 確かにそうだ。オレ自身も不思議に思った事は何度かあったが、教師陣に質問をした事は無かった。

 授業を真面目に受けていた堀北ですら、周囲のクラスメイトに迷惑そうな顔をしていたものの教師に対してどうして注意や叱責をしないのか。とは尋ねてはいない。

 

 

「つまりこの結果は、思考停止して無為な時間を過ごして来たお前達の自業自得だ。黙って受け入れろ」

 

「な、ならばせめて! ポイント増減の詳細だけでも教えて下さい。今後の参考になるかも知れません」

 

 

 それでも必死でクラスの為に情報を引き出そうとする平田の熱意には胸を打たれる思いだが、残念ながら冷酷なオーラを隠そうともしない茶柱先生には伝わらなかったようだ。

 

 

「ふん。それは出来ない相談だな。生徒の評価は人事考課、つまり詳細な査定内容は教えられないことになっている。まあ昨今は一概にも言えないが、社会に出て一般企業に勤めた時と同様の仕組みというわけだ。よってお前達にポイント増減の詳細や評価基準等を教える事は今後とも一切無い。そのつもりでいろ」

 

「そ、そんな……」

 

 

 平田の声には既に熱意が失われていた。

 茶柱先生の語りが続く度に暗澹たる絶望が彼の胸を覆っていく様が、目に浮かんでいく。

 

 

「だが、まあしかしそうだな。お前達には甚だ失望したとは言え私にも慈悲の心と言うものはある。別に私もお前達が憎いわけでも無い。あまりに悲惨な状況でもあるし、一つだけイイ事を教えてやろう」

 

 

 ここで茶柱先生は先ほどとまでは打って変わって声のトーンを少しだけ明るくし、密かに笑顔すら見せた。露骨で、不気味な笑みである。

 

 

「遅刻や私語を改め、仮に今月分のマイナス要素を0に抑えたとしても、ポイントは増える事は無い。つまり来月も振り込まれるポイントは0のままという事だ。裏を返せば、どれだけ遅刻や欠席をしても関係無い。という話だ……どうだ? 覚えておいて損は無いぞ?」

 

「先生っ、それは!!」

 

 

 フォローに見せた追い打ち。ニヤニヤとした悪どい笑みを隠そうとしない茶柱先生からは凡そ慈悲の心など読み取れない。徹底的にオレ達生徒のやる気を削ぎ落とそうとしている様にしか思えなかった。

 最早全ては手遅れだと。何をやっても無駄なのだと。そんな最後通牒を突きつけるような言葉である。

 

 平田も櫛田も、池も山内も須藤も。そして隣人の堀北さえもが沈痛な面持ちを浮かべている中、ここでホームルームの終了を告げる鐘の音が虚しく響き渡った。

 だが短い朝のショートホームルーム内では話が終わらない事を予想していたらしい。茶柱先生は教室から去る素振りすら見せずに手に抱えた筒をおもむろに開けると、その中身をホワイトボードに貼り付けた。

 

 

「さて、もう一つお前達に伝えなければならない残念な知らせがある」

 

 

 

 貼り付けられた大きめの紙には数字とアルファベット。つまり各クラスの名前と現在所有しているであろう数字が記載されている。

 つまりこれはクラスの成績と言う事なのだろうか。だが改めて視覚情報として捉えると妙な法則が見える。

 

 

「これ、おかしいわよね?」

 

「ああ。幾ら何でも並びが綺麗過ぎる」

 

 

 余程に動揺しているのだろう。珍しい事に堀北の方から声をかけて来たので、オレは彼女の言葉に簡潔に同意する。

 あの貼り紙によればDクラスは0。Cクラスは490。Bクラスは650。そしてAクラスは940。恐らくは各クラスの成績を記載したものなのだろう。

 結果的に全てのクラスがポイントを減らしている事はさておき、アルファベットが降る程にポイントの減りが大きくなっている。あまりにも規則的だった。

 

 

「お前達が一ヶ月好き放題やってきた結果がコレだ。学校側はそれを否定するつもりは一切無い。廻り廻って自分達にツケが回って来ただけの話。ポイントの使用に関してもそうだ。得たものをどう使おうとそれはお前達の自由。その証拠に私達は一切の制限を掛けていなかっただろう?」

 

「いや、幾ら何でも酷過ぎっしょ!? こんなんじゃ俺達まともに生きていけませんって!!」

 

 

 今後一切の小遣いが貰えない可能性にようやく危機感が追いついたのだろう。俺の友人でもある『池 寛治』が叫び声を上げた。

 

 

「喧しいぞ池。Dクラス以外は全クラスがポイントを振り込まれているだろうが。それも一ヶ月を過ごすのには十分なポイントがな」

 

「いや、何で俺らだけ0ポイントで他のクラスはポイント残ってるんすか!? 絶対におかしいっすよ!?」

 

「言っておくが不正などは一切していないからな。この一ヶ月、全てのクラスが同じ基準であり同じ条件で学校側に採点されている。にも関わらず、各クラスで大きく差が開きDクラスに至っては驚異の0ポイント。全く、一周回って関心してしまうぞ」

 

 

 池の必死の訴えも何のその。半分投げやりのような雑な対応で茶柱先生は叱責した。

 

 

「質問があります、茶柱先生。何故……何故ここまでクラスのポイントに差があるのでしょう? それに、余りに数字の並びが綺麗に揃い過ぎています。これは何か意味があるのではないでしょうか?」

 

「流石は平田だな、段々と気付いてきたんじゃないか? お前達一人一人が何故Dクラスに配属されたかの根本的な理由が」

 

 

 唯一ポイントを全損したDクラス。それに比べて九割以上ものポイントを保持したAクラス。そして何よりあまりにも規則的なポイントの残数。

 オレはゆっくりと目を閉じた。『綾小路 清隆』という人間が。友人の池や山内、須藤といった劣等性が。そして隣人の堀北のようなあまりにも尖った人間がこのクラスに選ばれた理由を察してしまったからだ。

 

 

「この学校では優秀な生徒達の順にクラス分けがされる仕組みになっている。大手の進学塾なんかでも良く聞く話だろう? 優秀な生徒はAクラスへ。劣等生はDクラスへ。と言った具合にな」

 

「昔の教育ドラマでも似たような台詞があっただろう? 腐った蜜柑は新鮮な蜜柑をも腐らせてしまう。ならば最初から廃棄品として一括りにしてしまう方が全体の為となる」

 

「つまりお前達、Dクラスに配属された40人の生徒は、一人残らず、全ての人間が」

 

 

 

 

 

 

 

「歴代最悪の不良品だという証明だ」

 

 

 

 

 

 




ちょっと長くなり過ぎるので切ります。

感想、高評価、一言コメント、誤字訂正。
いつもありがとうございます。

今後の展開について

  • オッサン視点でストーリー重視
  • 他者視点重視。イベントの裏側を解説
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