「お前達、Dクラスに配属された40人の生徒は、一人残らず、全ての人間が……歴代最悪の不良品だという証明だ」
優秀な人間はAクラスへ。その逆はDクラスへ。
茶柱先生の種明かしは、オレを。否、オレ達全員がポイントを一月で全て消し飛ばした、紛れもない不良品である事を宣言するものであった。
「これはある意味では偉業だぞ? 何と言っても僅か一ヶ月でポイントを全損させたのは当校が開校して以来初めての事なのだからな。喜べ、お前達が獲得した歴代最悪のタイトルは一生物となるぞ」
皮肉めいた口調で拍手すら送る茶柱先生の口角は上がっているものの、その目だけは冷たく無機質だ。
養豚場の豚でも見るような目。山内が読んでいたコミックスの台詞を思い出すような、残酷さすら感じる視線。
「このポイントが0である限り、僕達はずっと評価0。つまり毎月のポイントの支給は行われないという事ですね?」
教室内が絶望という名の暗雲に包まれる中、それでもどうにかしてこの状況に抗おうと平田が挙手をする。
彼の小テストの点数は85点。体育の水泳授業でもタイムは上から三番目。甘いマスクとそれを鼻に掛けない穏やかな人当たりの良さを兼ね備えた、正に文武両道の優等生。
何故、彼のような優秀な人間がDクラスに配属されたのだろうか?
そんなオレの内心の疑問に誰も気がつく筈もなく、茶柱先生の説明が再開していく。
「ああ。このポイント……
「これから俺達は他の連中に馬鹿にされながら過ごせ。って事かよ、クソがっ!!」
ガンッと鋭い音を立てたのは机を蹴り飛ばしながら悪態を吐く須藤だった。
短気で喧嘩っ早い男だ。今後の学生生活の未来予想図に早くも苛立ちを見せている。
クラス随一の不良男子の怒気に周囲の人間はすっかり怯えてしまい、前の席の櫛田はさり気なく椅子を引いて距離を取り、斜め前に座っている気弱な佐倉など肩を竦めて顔を青くしている。
友人として付き合う分には根っからの悪い奴。というわけでは無いのだが、それでもDクラスに振り分けられた事を納得してしまうような人間性であるのは否定出来ない。学力も著しく低いし。
「何だ須藤? お前みたいな奴でも気にする体面があったとは意外だな。ならば精々、悪足掻きでもして上位のクラスに上がれるようにするんだな」
「あぁ? 上位のクラスだぁ?」
「このCpは毎月振り込まれるポイント……
クラスのランク。果たしてそれにどんな意味があるのだろうか。
「つまり、もしも僕達が491以上のCpを保有していたら、僕達はCクラスに昇格していた。という事ですか?」
「その通りだ平田。まあ、この有り様では昇格など夢のまた夢。有り得ない話かも知れないがな」
確かに一つ上のCクラスとの差でさえ約500Cp。金額に換算すれば一人当たり5万円。それを一クラス40人で計算すれば200万という大差だ。
最高ランクのAクラスに関しては比較する事すら馬鹿馬鹿しく思えて来る圧倒的な差がある。
金額の大きさが学校側の評価のパラメーターだとするならば、ここからの下剋上などどんな手段を使ったところで凡そ不可能にしか思えないのだが。
現に山内が「無理ゲーだろ。こんなの」と頭を抱えているし。あいつ、もう1ポイントも残って無い。って昨日言ってたからなぁ。多少は援助してやる必要もあるかも知れない。
「さて、もう一つお前達に伝えなければならない残念な知らせがある」
茶柱先生は筒の中からもう一枚別の貼り紙をホワイトボードに貼り付ける。
そこにはクラス全員の名前と数字が記載されていた。綾小路 清隆の表記の隣には50という数字が書かれていた。
「この数字が何か、馬鹿が多いこのクラスの生徒諸君でも理解は出来るだろう?」
茶柱先生は整った眉を歪めながら、カツカツと何度もヒールで床を踏み鳴らしては生徒を一瞥した。
露骨に苛立ちをアピールする美人教師の迫力に、幾人かの生徒が慌てたようにして目線を逸らしたり、机に視線を固定する。
「先日やった小テストの結果だ。全く……揃いも揃って粒揃い。先生は嬉しくて涙が出そうだ。中学でお前達は一体何を学んできたんだ?」
先週末に唐突に行われた小テストは抜き打ちではあるものの難易度は低く、入試と比べれば一段も二段も劣る難易度だった。
何故か最後の三問だけは高一レベルどころか、高二から大学入試レベルの難問が混じっていたとは言え、それでも真面目に勉強していれば80点以上は取れる。ケアレスミスがあったとしても70点以上は安泰な内容だった。
にも関わらず、我がDクラスの平均点はザッと60点前後。『目立たない様に調整した』オレが偉そうに言えた話では無いかも知れないが、それでも中々の惨状と言えるだろう。
自称天才児(もはや誰も信じてはいないが)の山内は30点。池は24点。ワースト一位の須藤は何と驚愕の14点。
と言うか、須藤に関しては小学生レベルの学力があるかすら怪しく思えて来る始末だ。ここまで来ると呆れを通り越して、憐憫すら覚えてくる。
「良かったなぁ、これが唯の小テストで。もしも本番の中間テストだったら入学早々に七人は退学になっていたからなぁ」
「は? 何すか、退学って?」
「なんだ、説明していなかったか? この学校では中間テストや期末テストで一科目でも赤点を取った生徒は即退学となる。今回の小テストで例えるなら赤点ラインである34点未満の七人が対象だな。本当に愚か者が多いクラスだな、流石は不良品の寄せ集めと言ったところ、か」
「「「「はあああああああああああああっ!?」」」」
31点の菊池の名前の上に赤マジックでボーダーラインを引きながらサラッと告げられた、茶柱先生からのまさかの即退学発言に真っ先に叫び声を上げたのは赤点ラインを下回った七人の生徒だ。男子も女子も関係なく、大口を開けて瞠目しながら叫喚している。
一般的な高校では赤点生徒には補習やら特別補講があると聞いていたのだが、どうやら日本一の名門校は厳格らしく、劣等生には慈悲を与えるつもりは無いらしい。
「ふざけんなよ佐枝ちゃん先生!! 退学とか有り得ねーだろ!?」
「私に言われても知ったことじゃ無いな。そもそもこれは私の独断では無く、あくまで学校が決めたルールだ。諦めて腹を括ることだな」
堪らず本堂が再び立ち上がって理不尽への不満を叫び散らかすが茶柱先生は澄まし顔でサラリと流してしまった。どうやら本当に救済措置は無いらしい。赤点は免れたものの、学力に不安のある生徒は顔を白くして怯えを見せている。
殆どの生徒は授業などまともに受けていなかったのだ。今からテストまでに巻き返せるか不安なのだろう。
「ティーチャーが言うようにこのクラスには愚か者が多いようだねぇ?」
ここで再び高らかなテノールが響いた。
机に脚を乗せながら何故か爪を研いでいる高円寺はクラスの阿鼻叫喚など何のその。全く気にする素振りすら見せず、相変わらずのマイペースっぷりだった。
自由人である彼からすれば赤の他人達がどんなに騒ごうが単なる雑音程度にしか感じ無いのだろう。
「何だと、高円寺!! どうせお前も赤点候補の癖して偉そうに!!」
「ふっ。どこに目がついているのかねボーイ。良く見たまえ……ああ、無駄な労力を使いたく無いなら上から見る事をお勧めするがね」
「あ、あれ? 高円寺の名前が無ぇぞ? っつーか、上からってどういう……きゅ、90点!?」
「幸村や堀北ちゃんと一緒の暫定二位だと!? あ、あいつ頭良かったのかよ!?」
一問5点で換算されている今回の小テストは最後の三問の異常な難易度のせいで実質の満点が85点と言っても過言では無い。
にも関わらず90点。つまり高円寺はあの難問の内の一つは解けたという事になる。
少なくとも現時点で高校二年生以上の学力を持っている事の証明だった。
「ぜ、絶対に健と同じバカキャラだと思ってたのにぃ」
「だ、誰がバカだ春樹!! テメェも大して点数変わらねぇ癖に!!」
「お、俺は別にっ、小テストだから手を抜いていただけだし!!」
今回の小テストで90点を獲得したのは高円寺の他にオレの隣人である堀北。それから池や山内からガリ勉と呼ばれている幸村。
彼ら三人は学力に置いてDクラス内でも頭一つ抜ける実力を持っている事になる。
だがしかし、そんな彼等を凌駕する規格外が唯一人いた。
「お、おい待て一位が百点満点だ!! し、しかも取ったのは……さ、佐城!?」
「はああああ!? あの貞子野郎!! 頭良かったのかよ!?」
「サジョーの癖に生意気だぞ、根暗野郎!!」
「おい!! この根暗!! どんなイカサマしやがった……って、居ねえし。んだよ、よりによって何で今日休んでんだよ」
オレの席から見て最前列の机の主は空白。体調でも崩したのか、それともただのサボりなのか。前髪で顔を隠した老人のような猫背の姿は見えない。
オレは話題の中心となっている佐城とは話した事も無いので、どんな人間なのかは全く知らない。
まさかの他クラスとの恋人騒動の時に彼がクラスメイトに囲まれていた事はあったが、オレは周囲の熱意についていけず傍観していただけだったし。
だが、あの小テストで満点を取れる頭脳を持っているとは。何と言うか、素直に驚いた。
ふとオレは隣の席を見てみた。そこにはシャーペンを圧し折らんとばかりに握り締める堀北が、空白の席を睨み付けているではないか。
こいつ、結構負けず嫌いだよな。水泳の授業で本職の小野寺に負けた時も口では気にしてなさそうな事を言ってたけど、根に持ってそうな素振りだったし。
「凄いな。堀北よりも頭良いんだな、アイツ」
「命が惜しいならば即刻黙りなさい」
「はい、ごめんなさい」
右手にシャーペン。更にはいつの間にか左手にコンパスを構えた堀北が凄い形相で睨みつけてきたので、オレは即座に頭を下げた。ホームルーム中で無かったら土下座していたかも知れない。
ちょっとからかっただけなのに、マジの殺気飛ばしてきやがったぞコイツ。かなり苛立っている様子からしてどうやら相当に悔しいらしい。
今度から殺されない程度にこのネタでからかってやろう。オレがそんなどうでもいい事を考えている間にも茶柱先生の語りは続いていた。
「それからもう一つ付け加えておこう。国の管理下にあるこの学校は高い進学率と就職率を誇っている。恐らくはこのクラスにもそれが目当てで当校に進学を決めた生徒も多い筈だろうが……世の中そんなに美味い話はない。お前らのような低レベルな人間がどこでも進学、就職できるほどの世の中は甘くはない」
この高度育成高等学校は進学率、就職率ともにほぼ百パーセントと呼ばれている超がつく名門校だ。
卒業さえ出切れば日本最高峰のレベルを誇る東大や京大すら推薦で入学できるという噂はかなり有名らしい。
卒業生の中には起業して名を挙げたり、政界で活躍しているエリートも多々輩出している。と、言われている。
「つまり希望の進路を確約してくれる恩恵を受けたければ僕達はCクラス以上に昇級する必要がある。という事ですか?」
「いいや……残念ながらそれは違うなぁ、平田。まあ、時間も時間だから結論を言ってやろう。この学校に将来の望みを叶えて貰いたければ、Aクラスに上がるしか方法は無い。それ以外の生徒には、この学校は何一つ保証することは無いだろう」
「Aクラスに!?」
平田が思わず身を乗り出して聞き返すのも無理は無い。
つまりこれから始まるのは希望の将来を獲得する為のクラス単位の椅子取りゲームという事だ。最も、現時点ではオレ達Dクラスに勝ち目があるとは思えないのだが。
「そ、そんな……そんな話は聞いていないですよ!? まるで詐欺じゃ無いですか!?」
机を両手で叩きつけながら叫び声を上げたのは『幸村 輝彦』だ。
椅子を弾き飛ばす勢いで立ち上がり必死の形相で訴えかける様は、普段の理知的な優等生面からは考えられない程に焦燥している。
恐らく彼はこの学校の進学率の高さを理由に入学して来たのだろう。
自分の将来設計が大きく破綻しようとしている今、平静を保っていられる程の余裕が無い様だ。
「ふぅ……醜いねぇ。男が慌てふためく姿ほどみっともないものは無い」
そんな幸村の必死の訴えを嘲笑うかのようにして高円寺はため息を漏らした。
その態度に苛立ちを更に募らせたのだろう、幸村は殺気じみた視線を茶柱先生から金髪の自由人へと移す。
「Dクラスだった事に不服は無いのかよ。高円寺」
「不服? 悪いがボーイ、私には何故不服に思う必要があるのか理解できないねぇ」
「お前だって成績は良い部類だろう!? なのに学校側からレベルの低い落ちこぼれ認定されたんだぞ!? あんな簡単な小テストで半分も取れないような低レベルの連中がうようよ居るクラスに篩分けされて挙げ句に、進学先や就職先の保証も無いって言われたんだぞ!? 納得出来るわけが無いだろう!!」
怒鳴り散らす様な幸村の攻撃的な発言に、須藤や軽井沢と言った学力の低い人間が鋭い眼差しを向けた。低レベルの連中。等と露骨に見下す様な発言をされたのだからカチンと来るのも無理は無い。
だが当の幸村本人は相当、頭に血が昇っているらしい。癇癪を起こした様に周りの事など一切目にも入らぬ様子だ。
幸村はただ学力が高いだけでは無く、堀北と同様に授業を真面目に受けて来た数少ない生徒だ。
授業中にも関わらず自由時間の様に騒ぎ立てるクラスメイト達には相当な鬱憤が溜まっていたに違いない。
「はっ。実にナンセンスだね。正に、愚の骨頂と言わざるを得ない」
だがそんな感情的な幸村とは対照的に高円寺は爪を研ぐ手を止める事なく鼻で嗤うと、平坦な口調で返した。
根本的に他人に興味が無いのか、幸村に視線すら向けようとすらしない。
「私は誰よりも高円寺 六助という存在を評価し、尊敬し、尊重し、将来は日本の……否、世界の上に立つ義務と権利を持つ偉大なる人間だと自負している」
「は、はぁ?」
あまりに傲慢。あまりに不遜。
唯我独尊と言う言葉の擬人化とも言える男が語る、あまりにもスケールの大きな自己愛に幸村は怒りすら忘れて大口を開けて呆れてしまった。
「つまり、学校側が勝手にDクラスに相応しいと判定しようとも、私にとっては何の意味もなさない。という事なのだよ。どうせ凡人共には私のポテンシャルを計る事など不可能なのだからね。仮に退学にすると言うのなら好きにすればいいさ。後で泣きついて来るのは、どうせ学校側なのだからね」
流石は高円寺。水泳で見せた驚異的な身体能力に、彫刻のように鍛え上げられた強靭な肉体。そして今回の小テストで見せた飛び抜けた学力。
優秀な者から上のクラスに選ばれると茶柱先生が語っていたが、果たしてAクラスの人間にすら彼よりスペックが高い奴がいるかは怪しいものだ。
「そもそも私は学校側に進学や就職を世話して貰うつもりなど微塵も無いのさ。高円寺コンツェルンの跡を継ぐことは父上から確約されているからねぇ。DでもAでも些細な事なのだよ。さあ、理解出来たなら席に着くといい、ボーイ。レディの話は最後まで聴くべきだ」
「……っ」
将来を既に確約されている立場の男。それも日本一とも呼ばれる大企業の跡取りが決まっている、俗に言う『勝ち組』に属する男の発言には幸村も反撃の言葉が浮かばなかったのだろう。
鼻息荒く苛立ちに顔を赤く染めたままではあるが、どうにか腰を下ろした。
「浮かれていた気分が払拭されたようで何よりだ。過酷な自分達の立場を理解出来たのなら私の長話にも意味はあったらしい……フフフッ。それにしてもお前達は本当に面白い生徒達だな」
「僕達の何が面白いというのでしょうか?」
必要な連絡事項はあらかた伝え終わったのだろうか。茶柱先生は先程までの不機嫌さとは裏腹に何やら意味深な笑みを見せた。
再び立ち上がった平田の疑問の声にも苛立ちよりも不可思議の色が透けて見える。それだけ茶柱先生の態度の変化は気になるものだった。
「ん? あぁ。何、大した話では無い。全てのCPを吐き出した歴代最低の不良品集団の中にも我が校が開校して以来の優等生が混じっている……にも関わらずこの有様なのだから。いや、職員室でも随分と話題になったものだ」
「ちゃ、茶柱先生。それはどういう意味ですか?」
ますます生徒達の不安と興味を煽る茶柱先生の台詞に先程まで項垂れていた幸村が噛み付くように立ち上がった。
確かに今の台詞には不可解なものがある。オレ達が不良品呼ばわりされるのは納得しよう。だがそんなDクラスの中にも優等生が。しかも開校してから一番と呼ばれる人間が居るとは思えない。
高円寺の事だろうか。いや、確かにあいつのスペックは規格外とは言えるが、あの自由人っぷりはとてもじゃないが優等生とは言えるものでは無い。
「嗚呼、お前らは知らないだろうな。このクラスの中に、入学してから僅か三日でこの学校のシステムを全て見抜き、教職員と交渉をした歴代でも類を見ない優秀さを示した実力者がいる事を」
だとしたら、一体誰の事なのだろうか。
オレはふと、小テストの結果が張り出された紙を。否、正しくはその中でも唯一の満点を取った男の名前を見つめた。
「クラス分けの真意理由に始まり、毎月支給されるポイントの増減。卒業後に与えられる恩恵の真意。その他諸々を含めたSシステムの根幹を見抜いた優秀な生徒がこの不良品の集団にも混じり込んでいたというだけの話だ。尤も、奴は自分が手に入れた情報をクラスメイトに共有するような殊勝な真似はしなかったようだがな。
全く……奴さえお前達に情報を共有してさえいれば、幾分かのポイントが残っていたのかも知れないのになぁ?」
ニヤリ。そんなオノマトペが鳴りそうな黒い笑みを見せる茶柱先生の瞳が光る。
興味や興奮。そんな陳腐な台詞では言い表せない飢えた獣のような野心が炯々と光って見える不気味な視線。
「ど、どういう意味だよ!! つまりさぁ、ポイントが毎月10万振り込まれるわけじゃない。って気付いてる奴が居たって事かよ!?」
果たしてそれに気付いた人間などいたのだろうか。
茶柱先生の台詞の表面上だけを聞き取った生徒達が次々と怒りと困惑を顕にし、ついに赤点候補の菊池が怒鳴りつけるような勢いで茶柱先生に質問した。
「菊池、お前の言う通りだ……聞きたいか? その生徒の名前を。我が校が開校して以来の快挙を成し遂げておきながら、クラスメイト全員を見捨てて自分一人が甘い蜜を啜った男の名前を……?」
どうにも露悪的な物言いだった。まるでクラスの惨状をその生徒一人に押し付けようとしている様に感じた。とても教師の台詞とは思えない。
仄暗い愉悦やドス黒い欲望が絡んだ声色で茶柱先生は歪んだ笑みを隠す事なく謳う様に語り続ける。
「奴はSシステムの全てを見抜き、その口止め料に莫大な大金を要求した。実力至上主義を謳う我が校から見ても、圧倒的な頭の冴えと徹底的な利己主義を見せつけたその生徒の名は……」
オレはふと。思い出した。
いつかの登校中。初対面である他クラスの女子生徒から言われた台詞を。
否、その忠告の事を。
『私が今まで生きてきた中で、あいつ程に頭が良くて、あいつ程に性格が悪くて、あいつ程に頭のイカれた人間は見たことが無い』
嗚呼、やっぱり。
「佐城 ハリソン。我が校始まって以来の実力を示した、最高にして最低の不良品だ」
成る程。
確かに頭が良くて、性格が悪いな。
暴露された衝撃の事実に爆音で騒ぎ立てるクラスメイトの喧騒を聞き流しつつ。
オレは何処か上の空な気持ちのまま、一人静かに忠告の正しさを噛み締めていた。
感想、高評価、一言コメント、誤字訂正。
いつもありがとうございます。
定期的に更新できるように頑張ります。
今後の展開について
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オッサン視点でストーリー重視
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他者視点重視。イベントの裏側を解説