オリジナル作品を始めました。ジャンルとしてはラブコメ? になるのかな。年上のお姉さんに小さな男の子が料理を作るおねショタものです。
良かったら暇つぶしにでも読んでみて下さい。
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【イタリア人の前でパスタを圧し折るとぶちギレるらしい。】
https://syosetu.org/novel/387120/
藤色の髪の毛がサラリと揺れる。
Dクラスに突如現れた少女の名前を知っている者は、果たしてこの教室の中にどれだけ居ただろうか。
「Aクラスの神室っていうんですけど。ちょっとDクラスに用事があるから入ってもいい?」
『Aクラス』。
その言葉が鬱々とした空気に満ちていた教室中に響いた結果、幾人ものクラスメイトがざわつきを見せた。
それもその筈。歴代最悪の不良品と称されたオレ達Dクラスの人間とは対象的に学校側から最も優れた生徒の一人として篩分けされた本当のエリート集団に属している証。
進路の保証がAクラスのみと種明かしされた今、突如現れた乱入者に心穏でいられない者は数多く居るだろう。
現に先ほどまで素早く昼食を食べ終えた後は周囲の雑踏から隔離されたようにして読書に没頭していた筈の堀北が、何やら鋭い視線を向けていた。
プライドの高い隣人の事だ。Aクラスに対して並々ならぬ思いがあるのは察するに余りある。
「か、神室さん。一体どうしたの?」
客人に対して幾人ものクラスメイトが不躾な視線をぶつけている現状に危機感を覚えたのだろう。真っ先に神室の下に駆け寄ったのは櫛田だった。
「ああ、櫛田さん。丁度良かった。あいつの席、何処か教えてくれない?」
「えーっと……神室さんが言う、あいつって。もしかして?」
「あいつは『あいつ』よ。……佐城以外に誰がいるのよ」
「だ、だよねっ。変な聞き方しちゃってごめんなさい。佐城くんの席は窓際の最前列だよ」
「そ。ありがとう」
明るい笑顔を振りまく櫛田とは対象的に神室は無愛想な態度で端的なやり取りを返したかと思うと、とっとと佐城が座っている筈の席に向かった。
攻撃的な態度や侮辱するような言葉を吐いたわけでも無いのだが、どこまでも冷たく他者との関わりを最低限にしようとする態度が透けて見える仕草は何処となく堀北に重なって見えた。
神室とは精々、一言二言の会話を交わした事は無いのだが、その時にオレが抱いた印象に間違いは無いらしい。
尤も、彼女と同じクラスの橋本からの話を聞くに堀北の様に周囲から煙たがられているわけでは無いようだが。
「ね、ねぇ櫛田さん。あのAクラスの人って知り合い?」
「っていうか何で佐城くんの席に用があるわけ? どういう繋がり」
「えーっと……神室さんは、ほら。前にちょっと佐城くんが噂になった時の話。あの当事者と言うか、その……」
見慣れぬ女子とのやり取りに加え、ある意味ではDクラス内で時の人扱いされている佐城の名前が出てきた事に興味を引かれたのだろう。
軽井沢や篠原といった幾人もの活発的な女子達があっという間に櫛田を囲い込み、見知らぬ客人の情報を引き出そうとしていた。
一方神室は櫛田やその周囲の女子達の声が聞こえているだろうにも関わらず、そんな事など興味も無い。とばかりに佐城の机の中に手を伸ばし、何やらガサゴソと漁っている。
探し物か。それとも忘れ物でも彼氏に変わって取りに来たというところだろうか。
「えっ!? 嘘っ!? じゃあ、あの娘が佐城くんの恋人!!」
「うええぇぇ!? 超意外なんですけど!!」
「貞子くんとは随分と雰囲気違うよね……本当に恋人なの?」
「う、うん。ちょっと前に話す機会があったから聞いてみたの。そしたら付き合ってる。って神室さん本人から、直接」
「マジで……うっわ。趣味悪っ」
「結構綺麗な顔してるのに、何かもったい無い」
「山内くんの話じゃないけどさー、貞子のやつマジで何か弱みとか握ってるんじゃないの?」
ヒソヒソと。なんてかわいい物では無い。いや、もしかしたら女子達はあれで声を潜めているつもりなのかも知れないが、少なくとも最後尾の席に座るオレに聞こえてしまう程度には大きい声量で、初めて見る佐城の恋人について好き勝手言い始めた。
まだ本人が近くに居るというのに、何と言うか。女子はこういう時に強くて怖いと思う。
「は? あの美人が貞子の恋人とか嘘だろ?」
「あり得ねえ……幾ら払ったら根暗のチビがあんな可愛い娘ちゃんと付き合えるんだよ」
「糞っ! あんな陰キャを彼氏にするなら俺でもいいじゃねえか!!」
軽井沢を始めとしたクラスの一軍女子達のリアクションに神室の正体を悟ったのであろう。
先程まで、おっかなびっくりと言った様子で神室と櫛田の会話から始まった一連のやり取りを眺めていた男子達も口々に騒ぎ始めた。それも案の定、好き放題に言っている。
神室本人に聞かれたらどう思うかなんて考えていない、他者への配慮が一切見られない身勝手さがどうにも目立つ。
やはりこれがDクラスたる所以というやつだろうか。
「神室も来るタイミングが悪かったな」
「綾小路くん。あなたは彼女を知っているのよね?」
せめて人がいない放課後にでも来てくれれば良かったのに。そんな考えが口から出てしまったようで堀北がオレのボヤキに反応した。
「まあな。と言っても本当に会話とも言えないような、ちょっとしたやり取りをしただけだからな。櫛田の方はまだちゃんと会話になってたと思うが」
「つまり貴重な敵陣の情報を何も得られなかったと。呆れたわ」
「敵陣って。お前なあ、クラスが違うってだけでそこまで敵対視する必要は無いだろう」
「この学校ではAクラス以外は無価値よ。ならば最終的に他クラスの人間は蹴落とすべき敵でしか無い。尤も、私はDクラスに配属された事に納得はしていないわ。でも、もしも何かの間違いで学校側のミスが認められなかったその時は……」
何やら決意を秘めたような言葉を言い残して堀北は沈黙した。それでも視線だけで神室を。いや、Aクラスの人間を鋭く見つめている様子を見るに何やら決意を固めているようだ。
どうやら堀北が神室を気にしている理由はあくまでAクラスに所属している事が気に障っているだけであり、佐城の恋人云々は興味が無いらしい。
まあ、こいつが色恋沙汰やゴシップなんかに興味を持つとは思えないので当然なのかも知れないが。
「他クラスは敵、か。そう考えると別クラス同士である佐城と神室の関係は複雑になりそうだな」
「他人がどんな人間とどんな関係を築こうが興味は無かったけれど、Sシステムの裏側を知ってしまった今なら話は大きく変わるわ。佐城くんには彼女……神室さんだったかしら? 彼女との関係も含めて色々と話を聞き出さなければいけないわね」
堀北の物騒な言葉にオレは眉をしかめた。
いや、発言自体は別にそこまで過激というわけでは無いのだが、Aクラスに対して明確な敵対心を顕にしている今の堀北が佐城に対して『色々と』話を聞き出そうとしている。と聞けば穏やかな内容では済まないだろう。
「おい。まさか佐城に神室は敵対しているAクラスの人間だから別れるように脅迫するつもりじゃないだろうな」
「説得するだけよ」
それ、絶対に説得だけじゃ済まないだろう。
オレの脳裏に堀北にガン詰めされ、恐怖のあまり縮こまって震えている佐城の姿が浮かんだ。
「オレがどうこう言う話じゃないから深くは聞かないが、説得する時にコンパス構えるのは止めておけよ」
「あなた、そんなに死にたいの?」
「生きたいです」
オレの軽いジョークにも律義に殺気を飛ばしてくる今の堀北には余裕が無い。
いつも以上に隣人の取り扱いには注意が必要なようだ。
「なあ、あの娘ってAクラスなんだよな? て事はポイントも9万以上は振り込まれてるんだろ?」
「不公平にも程があるだろうよ。絶対に佐枝ちゃん先生、嘘ついてるよな。何で同じ一年生なのにこんなに差が出るんだよ」
「それもこれも佐城のせいだろ。なんかあんなクソ野郎の彼女って考えると腹立って来たぜ」
どうやら堀北以外にもAクラスに対して思うところがある生徒は多いらしい。
尤も、彼らの大半は自分達がお小遣いを支給されなかったのに対して、10万ポイント満額とは言わなくてもそれなりの大金を支給されたている現状を勝手に逆恨みしているだけだろうが。
それにしても、この場に山内が居なくて本当に良かったと思う。
あいつがこの場にいたら大声で騒ぎ立てては神室の気分を害するであろう未来が安易に想像できる。
以前、神室に遭遇した時の話を真に受けるならば告白をしたのは佐城では無く神室の方かららしい。その事から考えて神室が佐城に対する恋慕の情を持っている事は明白だ。
堀北にも負けずとも劣らずの気の強さに冷徹さを兼ね備えているだろう彼女が、自身の惚れた相手を禄に口のきいた事も無い相手から手酷く侮辱されたらどうなる事やら。
想像するだけでその恐ろしさに、背筋に霜が張るような感覚がしてブルりと震えが走った。
山内よ。頼むからお前は暫く食堂から帰って来ないでくれ。
「用事は済んだから、もう帰るわ。急にお邪魔して悪かったわね」
オレがそんな下らなくも真剣な祈りを捧げている間に、神室は用事を済ませたらしい。
佐城の机から抜き取ったのだろう。黒いボールペンと思わしき物を暫く眺めたかと思うと、徐ろにそれをブレザーの胸ポケットにしまい込んだ。
そして最早こんな所に用は無いとばかりに、踵を返して足早に歩みを進める。
「あ、うん。私は大丈夫だけど……ねえ神室さん。佐城くんはどうして今日学校を休んでるのか知ってたりしないかな?」
「さあ? 知らない。ただの風邪じゃないの?」
「えぇ〜。なんか彼氏に対して随分と冷たい態度じゃない? 本当にあんな男と付き合ってるわけ?」
素っ気ない態度で櫛田の疑問を受け流す神室に横から噛み付いたのは軽井沢だった。
幾人もの女子達を背後に引き連れ、Dクラスの女王様が見知らぬ客人との会話にエントリーする。
「誰あんた?」
「私? 軽井沢っていうの。平田くんの彼女よ。ってか、クラス違くても平田くんの事ぐらい知ってるでしょ」
「さぁ。名前は聞いた事あったかもね。興味が無いから覚えて無いけど」
彼氏自慢からマウントを取ろうとしたのだろう。胸を張って得意気に己の恋人について語る軽井沢。
だが、そんな彼女とは違い、神室の反応はどこまでも素っ気ないものだった。
「興味が無い」という言葉に嘘偽りは一切無いのだろう。
恐らくオレ以外のクラスメイトでも察する事が出来る程に、彼女の言葉には微塵も軽井沢に対する関心を感じられなかった。
だが、それに気分を害したのは軽井沢を頂点としたDクラスの女子達である。
「はぁ? 何その態度。あんたさぁ……Aクラス様だからって私達を馬鹿にしてるわけ?」
「なんか感じ悪いよねー。あ、男の趣味も悪かったっけ?」
「ちょっと佐藤さん、いくら本当の事だからって言い過ぎよー」
「アハハ、ごめんごめん」
どうにも面倒そうな態度。まるで羽虫でも見るような視線。
そして自分達を格下だとすら認識していない、眼中に無い事を隠そうともしない台詞。
その全てが軽井沢達の気に触ったのだろう。
露骨に佐城の存在を当て擦り、その恋人である神室を馬鹿にしたような声をあげた。
暴言とまでは言えないが嘲りの色がべっとりと含まれた少女達の声には、最底辺である自分達よりも遥かに恵まれた環境にいるAクラスへの嫉妬の念もあるのだろう。
少なくとも昨日まではクラス間の格差は無かった筈なのだ。
厳密に言えば入学当初のクラス分けの時点でオレ達Dクラスは不良品として分別されていたわけだが、オレ達にそれを知る由も術は無かった(佐城は違ったみたいだが)し、配布されるポイントの差も無く、表面上だけは平等に見えていた。
「ねえねえ神室さんだっけ? なんで佐城くんみたいな男と付き合ってるの? もしかしてB専ってやつ?」
「それとも金目当てだったりして。なんか学校から大金巻き上げたんでしょ? 貢ぐ君には丁度いいもんね」
「うわぁ。お金目当てってちょっと引くわー。やっぱ自分だけ大金掠め取るような性格の悪い男と付き合うのは、似たような性格の女なんだねー」
正に言いたい放題だ。何と言うか、女子の恐ろしさと陰湿さを煮詰めたような現場である。
物珍しさで軽井沢とのやり取りを眺めていた一部の男子も顔を引き攣らせているのだから、相当なものだ。
そんな状況に流石にこれ以上、軽井沢達に言いたい放題させるのは不味いと思ったのだろう。ついにあの男が動いた。
「軽井沢さん、言い過ぎだよ。それに他のみんなも」
「ひ、平田くん」
我らがDクラスのリーダーにして博愛の人。軽井沢の恋人である平田がインサートするように軽井沢達女子軍団と神室の間に立った。
「神室さん。だったよね? 不快な思いをさせてしまって本当に申し訳無い」
「ちょ、ちょっと平田くん!?」
背筋を90度に折り曲げた最敬礼。名目上、仕方なく頭を下げただけではそこまでしないだろう。どう見ても完璧な謝罪だ。
この平田の行動に慌てたのは軽井沢を含んだ女子達である。半ば言い掛かりに過ぎない自分達の八つ当たり。という言い訳のしようがない不手際を彼一人に押し付ける形となってしまったからだ。
平田が軽井沢と付き合う様になってからそれなりの月日が経つが、平田の人気が衰えた事は無い。
むしろ元々影響力が強かった軽井沢と個人的な結びつきが強くなった結果、名実ともにDクラスの顔役としてクラスメイトが認める形となっている。
何だかんだと平田を嫌っているオレの友人である三馬鹿も、内心では平田がクラスのリーダーである事は渋々認めている筈だ。
「今朝、学校側の真意を聞いたばかりだったから軽井沢さん達も気が立っていたんだ。だからと言って、関係の無い神室さんに当たり散らすなんて以ての他の事だとは思う。Dクラスを代表して、謝罪させて頂きたい。本当に申し訳無い」
「神室さんっ。私も止めてあげられなくてごめんなさいっ。ポイントの事とか、佐城くんの事とかでクラス中が混乱してて……軽井沢さん達も普段は優しい人達なのっ!」
平田に釣られるようにして櫛田までもが頭を下げた事によって、流石に軽井沢達も分が悪い事に気付いたのだろう。
顔を顰めて嫌々な気配を隠さずに「ごめんなさい」とボソボソ呟くような言葉を発した。
平田や櫛田とは違い明らかに形だけの謝罪ではあるが、軽井沢達もこれ以上は神室に攻撃的な態度を取ることは無いだろう。
「別にいいわよ。気にしていないし」
対する神室は教室に入って来た時と同じように、まるで詰まらないものを見るような温度の感じない視線のままに、そう言った。
「櫛田さんに、平田くんだっけ? 頭上げていいわよ。正直な話、外野がギャアギャア喚いたところで羽虫が耳元で集ってるようなものだもの。鬱陶しいけど、まあ。実害は無いし」
「なっ……!? あんた調子に」
「軽井沢さん!」
白けた表情のまま神室の零れ出た挑発的な言葉にカチンと来た軽井沢が噛み付かんとばかり一歩踏み出すも、それを察した平田が咄嗟に右腕を伸ばして抑えつけた。
散々に嘲笑された事による仕返しと考えるならば、確かにこの程度の嫌味でチクリと刺すくらいは許容範囲だろう。
もっとも、完全なアウェー環境の中。たった一人で乗り込んで来た身にしては非常に肝が据わっている発言とも言える。
今の神室の発言に神経を逆撫でされたのは軽井沢だけでは無い。聴きようによってはDクラス全体を羽虫と称したようにも聴こえなくは無いのだから。
遠巻きに自体を観察していた殆どの生徒が顔を顰めては不愉快そうに神室を睨み付けた。
「言ってくれるわね……!」
そしての中の一人には隣人である堀北の存在もあった。
プライドの高いこいつの事だ。ますますAクラスへの敵対心を募らせていく事だろう。
「それに、軽井沢さん。だっけ? それから後ろで取り巻きやってるその他の女子も。あんた達の言ってる事。全部が全部、間違っているってわけでも無いしね」
「はぁ? 何が言いたいわけ?」
「お金目当てで付き合っている。云々は見当外れも甚だしいからどうでもいいとして。それ以外は大体あんた達の言う通りって事。あいつって、本当に性格悪いのよ」
ここで神室の様子が変わる。
今まではまるで興味の無い授業を無心で聞き流すかのように色の無い表情をしていた。
だが、恋人である佐城の事を語る時だけ、ほんの少し笑顔を見せ始める。
「何考えてるか分からない。突拍子の無いむちゃくちゃな行動ばかり。こっちの事情なんかガン無視して人の事を振り回して。倫理道徳何のその。無駄に外面だけは気色悪い程に良いクセして裏では遵法精神なんか唾吐きながら踏み潰すような。腹の底から真っ黒に腐り果てている性格最悪の男が私の恋人よ」
「え、えぇ……?」
そこまで言うか? 恐らくそれが神室の告白を聴いたDクラスの面々の感想であった。
あの軽井沢ですら若干引いているのだから、その言葉のインパクトはもの凄い。
何故、神室は仮にも自分の恋人をそこまで貶すのだろうか。
「だからこそ、不思議なのよ。ええ、本当に」
「……不思議って。どういう意味なのかなっ。神室さん」
そして何故、神室は見ているものの背筋に百足が這い回るような不快感を与える程に。
仄暗い愉悦を孕んだような黒い笑みを浮かべているのだろうか。
「そんな性格の悪いあいつに。むちゃくちゃキレる頭を持っている癖に、その能力を金儲けと他人への嫌がらせにしか使わないような頭のおかしいイカれた男に」
カチリ。何かのスイッチが入った音が神室の右手から響いた。
『ふざけんなよ佐城のやつ!! あいつのせいで小遣い貰えなくなったじゃねえか!!』『あのクソッタレの根暗野郎が!! 自分だけ大金稼いどいて、何で俺達がポイント貰えねーんだよ!? ズルだろ!? ズル!?』『何なのよあの貞子!! 絶対に許さないんだから!!』『あいつの持ってるポイント貰っちまおうぜ!? 元はと言えばアイツが悪いんだから!!』『絶対にボコボコにして土下座させてやる!!』
カチリ。また何かのスイッチが切り替わる音がしたかと思えば唐突に罵詈雑言の洪水が止まった。
「えっ……何、今の」
「俺達の声だよな。録音?」
「はっ!? 佐城のやつ盗聴でもしてた。っていうのかよ!?」
神室が握っていたのはペン型のボイスレコーダーだったのだろう。恐らくは佐城の机から先ほど取り出した忘れ物……否。
『そういう設定で佐城の指示に従って神室が演技をしていた』だけで、元々制服の袖の中にでも仕込んでいたのだろう。
「そんな性格の悪いやつに、わざわざ喧嘩を売るような真似するなんて不思議で仕方ないわ。……あぁ、櫛田さん。本当に、本当に残念だわ」
「ど、どういう意味かな神室さんっ? そ、それにその録音って。一体……?」
まさかの録音の存在にクラス中が混乱している中、神室が櫛田に向かって呟いた。
その顔には、もはや心の内を隠そうともしない真っ黒な笑みが張り付いている。
そう。恋人である佐城を誹謗中傷しているオレ達Dクラスへの殺意すら孕んでいる狂気的な敵意を。
「私の忠告。守られなかったわね」
神室のその言葉に、オレは数日前に神室から聴いた意味深な忠告を思い出した。
『私が今まで生きてきた中で、あいつ程に頭が良くて、あいつ程に性格が悪くて、あいつ程に頭のイカれた人間は見たことが無い』
そしてオレは。否。
オレ達Dクラスの人間は。神室の言葉の真意を間もなく体感する事となった。
佐城が登校拒否を始めた事。
それに影響されるようにして何人もの人間が遅刻欠席を繰り返すようになった事。
平田や櫛田が主催する勉強会にも櫛が欠けるようにして欠席者が多くなった事。
そして隣人たる堀北 鈴音の心が折れてしまった事。
Dクラスの腐敗と崩壊は。既にこの時から始まっていたのだった。
感想、一言コメント、高評価、お気に入り登録。ありがとうございます。
特に感想に関しては全て目を通しております。励みになります。
今後もなるべく7〜10日に一度の更新を心がけていきますので、もし良かったら読んでやって下さい。
今後の展開について
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オッサン視点でストーリー重視
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他者視点重視。イベントの裏側を解説