シャングリラ・フロンティア〜死にゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:マンデラカタログ
「ふぁあぁ……寝よ…」
頭痛がする、睡眠を取らねば……
「…………はぁ」
コーヒー、食パン、コーンスープ、完全に朝食である。
フルダイブゲームはエネルギーを使う。だから栄養補給をしないとパフォーマンスに悪影響が出る。
ズズズッ、とコーンスープを啜って精神力を回復させる。
「あぁー……染みる」
食事ってのは栄養だけじゃないんだよ、欲求の充填なんだよ。
手早く朝食を終えて皿を片付けた後、自室に戻りこれからの方針を考える。
「とりあえず致命魂の首輪が装備解除されたわけだが、やることが多いんだよなぁ……」
ユニークシナリオ「兎の国からの招待」をクリアした事で新たに発生したユニークシナリオ「
名前からしてヤバげなオーラを漂わせるそれは、あの時は見逃していたが推奨レベル80というほぼレベル上限を要求する怪物ユニークだ。俺の見立てでは明らかにユニークモンスターくさいヴァイスアッシュに関係するユニークシナリオだろう。
ユニークシナリオを受注してもメインの攻略は縛られない事を確認したのでとりあえず受注してみたが、シナリオが進むフラグがこれまた難解なもので曰く
「神代の魂揺らぎし時、彼の兎は叙事詩を語る」
うん、分からん。こういうタイプは個人的経験上、低レベルじゃどうしようもない条件な事が殆どだ。
神代………………あっ。
「そういやウェザエモンって神代のモンスターじゃね?」
鉛筆……いや、ペンシルゴンが言ってた情報によるとウェザエモンはサイボーグ型のモンスターらしい。
そして、シャンフロ内で機械が一番発展していたのは旧文明、つまり神代だ。
「ということは、このままログインしたら何か起こるんじゃないか?」
念の為、遅れても良いようにアイツらにメールしてっと。
「そうと決まればいざ行かん!シャングリラ・フロンティア!」
「おぅ、どうやらぐっすり休めたようだな」
「はい!」
「そんじゃ、ついてきな。歩きながらあいつのことを話させてもらう」
あいつ……? ウェザエモンの事か。世界観方面から奴の情報を得られるとしたらデカい、直接的な攻略の情報ではない会話の中にギミックを解く鍵が隠されていることはままある。
俺は気を引き締め、ヴァッシュの独り言にも思える言葉に耳をすませる。
「あいつはなぁ、不器用なやつでよぅ……下手くそな嘘のせいで女房を失っちまって、糞真面目で加減をしらねぇもんだからああして死ぬに死ねねぇ身体になってあの場所に立っているんだぁよう」
死ぬに死ねない、やっぱりアンデットか?いや、あれは死んだけど死んでない、の方が正しいか?いや、どちらの意味でも間違ってはいないしな……まぁいっか
「今となっちゃあ不器用な誓いだけで動く生きた屍……なら誰かが張り倒して寝かせてやんなきゃならねぇ」
「………」
……ううむ、こういう時考察勢の知り合いがいればなと思う。サンラクもカッツォもペンシルゴンもプレイヤーとしてのガチ勢だからなぁ。
「……着いたぜ。ここを使うのはいつぶりだったか……おうおう、ちゃあんと掃除してあるじゃあねぇか」
「そりゃあオヤジに掃除を任せちょうたら炉が埃で詰まっても放置するけぇのう」
「おうビィラック」
「ビィねぇ!」
辿り着いたのは、それはもう見事な鍛冶場だ。セカンディルで湖沼の短剣を作ってもらったオッサンの鍛冶場や、武器を修復してもらっただけだったがサードレマの鍛冶場も凄かったが、ここの雰囲気は段違いだ。
そして、ヴァッシュとダブリュアの反応からしてヴァッシュの娘でありダブリュアの姉なのだろうビィラックなる黒兎が鍛冶場で二匹と一人を出迎えた。というかビィラック、ダブリュアってもしかしなくてもAtoZで子供がいるのかヴァッシュ師匠……? 思った以上に大家族だな、ヴォーパルバニー凄い。
(というか、もしかして全員違う語尾だったり訛りだったりするのか……?)
思わず口に出そうになったのをなんとか堪えて、俺はダブリュア以上ヴァッシュ以下の大きさの黒兎と目を合わせる。
「ワリャがオヤジやダブリュアが言うとったアラジオけえ?」
「ども」
「成程、アニキに似た目をしちょるな」
やめろ! これ以上新キャラを出さないで! せめてメモさせて! もしくはウィキを作らせて! えーと、ビィの兄貴だからエーかな…?んでダブリュだから……頭痛くなってきた。
「ビィラック、真化をやる」
「! ……まさかオヤジが金槌握るんけぇ!?」
「おう、あの死に損ないに挑むって言われちゃあ、
「待っとってな!今炉に火ぃ入れるけぇな!」
なにやら作業を始めたビィラックをよそに、ヴァッシュ師匠は俺へと向き直る。
「おう、ヴォーパルの武器ぃ出しな」
「分かりました」
言われた通りに致命の鋸剣をインベントリから出すと、ヴァッシュはそれを受け取るとなにやら調べるかのように致命の鋸剣をじっと見つめる。
「おう、おう……ちゃあんと武器に認められてるじゃあねぇかい、これならイケるだぁな。おう、昨日倒した偽竜の炉心核も出しな」
「はい」
アイテム欄からを取り出して偽竜の炉心核をヴァッシュ師匠に渡す。アイテム化されたそれはボーリングの玉程の大きさで結構な重さであるはずなのだが、ヴァッシュはそれを軽々と持っていく。
「ビィラック、炉はどうでぇ?」
「ぬくうなってきたけぇ、もうちいとかかるけぇの」
「じゃあよう、先に準備だけしちまおうかい」
ノソノソと壁に吊り下げられた様々な道具を選んでいるヴァッシュをよそに、くいくいとベルトを引っ張られる感触に振り向けば、ヴァッシュによく似た不敵な笑みを浮かべた黒兎が俺に話しかけてきた。
「ワリャ、運のええ奴じゃけえの。オヤジが金槌握るんのはここ数年なかったことじゃき」
「そうなのか? えーと……ビィラック、だっけ」
「ん、さっきワリャの目と似とる言うたアニキがラビッツのこくおー?とかいうのを継いだでな、わちぁオヤジの鍛冶ぃ継いだんじゃ」
鍛治?
どうやら顔に出ていたのか、いつの間にか頭に登っていたダブリュアがペシペシと俺の額を叩きながら説明してくれた。
「そういえばアラジオ殿は知らないんでありました!おと…こほん! オカシラは鍛治師なんであります!」
「それもタダの鍛治師じゃあない、鍛治を極めたもんが名乗ることぉ許される「名匠」にして、失ぁれた神代の武器を鍛える「古匠」……そん2つを極めた「神匠」、それがわちらのオヤジじゃ」
目を輝かせるビィラックとダブリュア、そして俺が見る先、火が炎となった炉の前にいるヴァッシュが、金槌の音を響かせた。
インテリヤクザに似た目とは一体……