シャングリラ・フロンティア〜死にゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:マンデラカタログ
どうやら穴は途中で滑り台のように斜めに曲がっていたらしく、いつの間にか落下から滑落、そして滑走へと切り替わって行き、最後はさほどでもない速度で穴の出口から隠しエリアへと滑り出た。
「来た来た、思ったより滑らかな斜面だったでしょ?」
「おい、俺らのことをへタレ呼ばわりしたのは知ってるからな?」
「ひゅ〜っひゅ〜っ」
このツケはいつか必ず払ってもらおう……
サンラクもイライラしていたようだが、それよりも周りの景色が目に入ったようでキョロキョロと見回している。
「おぉっ!ここがペンシルゴンの言っていた隠しエリアか!」
「確か「涙光の地底湖」だったか?」
視線の先、地底に在する深い青色の湖からは雪のような光が立ち登り、ファンタジー的な突飛さこそ少ないものの、非常に幻想的な光景だ。この場所こそがペンシルゴンが指定したパワーレベリング用の曰く「ボーナスエリア」、神代の鐵遺跡における隠しエリアそれが「涙光の地底湖」だ。
サンラクがペンシルゴンから貰った紙を見る。
「この湖で「ライクスタイド・レイクサーペント」ってモンスターが釣れるんだと。ソイツの経験値が美味いらしい」
「こんな釣り竿でモンスター釣れんの?」
「正直、半信半疑だな」
「まぁ、とりあえずやってみようぜ」
俺とカッツォが釣り竿の仕掛けを湖に向けて投げ「ボチャンッ!」と大きな音が鳴ったが、サンラクの釣り竿からは「ポチョン…」と小さな音が鳴った。何かコツがあるのか?
「よーし、どっちが多く釣れるか勝負しようか」
「いいなそれ」
「うおっ!早速掛かった!」
「「はやっ!」」
「父親によく連れて行かれてさぁ、釣りのコツは知ってんだ」
「幸運値のおかげでしょ?」
「バレた?」
「確かに幸運値もあると思うが、釣りのコツってのも関係ありそうなんだよなこのゲーム…」
「だと良いんだが…っと!釣れた釣れた」
サンラクが釣ったのは見た目が薄く発光する銀色の鮭「ライブスタイド・サーモン」だった。
「サーモン…関係ないやつだね、美味しそうだけど」
「デカイサイズだと高く売れそうだな」
「うーん……」
サンラクは不満そうな顔をして俺達の後ろにいるエムルとダブリュアにサーモンを見せに行く。エムルがサーモンを掴むと釣れたてで活きが良い為、ビチビチと動きだしダブリュアと一緒にびっくりしている。
ケモナーが見たら蒸発するんじゃねぇか?
「お!こっちも来た!」
「ナイス当たり」
「どうせサーモンだろ」
「……あー魚影少ないしそうかもねー」
「ポップする位置が違うとか?」
「場所変えてみるか」
サンラクが場所を変えようとしたその時、小さな魚影の下から大きな魚影が浮かんできた。
「サンラクサン!!」
「!」
そしてゴボゴボと湖が泡立ち始め、水柱と共にそれは現れた。
「おおおおおおおお!?」
「で、でっかい蛇でありますー!?」
こいつこそがペンシルゴンの指示によれば「いわゆる経験値タンク」……この場合はタンクは壁役という意味ではなく貯蔵を指す、これから倒し続けるモンスター。
「カッツォ!こいつだこいつ!!」
「はいよ!」
「出たなライブスタイド・レイクサーペント!」
角があり、牙を備え、鱗に包まれたそれは要素だけなら間違いなくシーサーペント……所謂シーサーペント、ドラゴンに部類されることの多い海蛇モンスターの湖版なのだが、全体的に鋭角的というよりも滑らかな流線的なフォルムは鰻に角を生やしてドラゴンっぽくしたもの……というかジークヴルムと偽竜のせいでそうとしか見えない……
「それじゃ、そろそろ俺も新武器のお披露目といくか!」
「あれ?兎月とかいう武器はレベル足りなくて装備できないんじゃなかった?」
「フフーン、作った武器が1つだけなんて誰も言ってないんだよな。その名も
「ひゅー、カッコいいですわ!」
サンラクが装備した武器は、全体的に細身の刀身……下手に振り下ろせば折れてしまいそうな右の剣はエストックタイプの剣であり、黄金と黒の意匠に針を加工したような銀の刃のコントラストは、ビジュアル面でも優秀さを発揮している。
対照的に左の剣はマン・ゴーシュと呼ばれるパリングダガーの役割を持つ短めの短剣だ。右のレイピアに比べるといささか地味な印象を抱かせるが、右剣の攻撃を際立てている。
「何だよ、別の新武器なんてあったの?」
「ビィねーちゃん作ですわ!」
「ビィ?」
「流石兎御殿の鍛冶師だな」
「ビィねぇの作る装備は世界一であります!」
まぁ、ビィラックの広島弁+世界観に基づいた説明は中々理解するのに苦労したけどな。世界観的に「Mobの抵抗力」を「モンスターの肉体の強靭」と言い直したりするのは分かるが面倒なんだよなぁ……ビィラックの言葉を翻訳する面倒臭さを思い出し、思わず口の中に苦味が広がるような感覚になる。
「というかちょっとタフすぎない?俺らレベルの攻撃じゃ、大したダメージが入んないよ」
「全く同感」
意気揚々と殴りかかったはいいものの予想外にレベルの差が響いたらしく、無駄にヘイトを集めて鰻の攻撃から逃げ回るカッツォ。
その隙に俺も「泥鮫の牙剣」を構えて鰻へと攻撃するがあまりダメージにはなってなさそうだ。
どうするべきか悩んでいたらサンラクから良い知らせが聞こえてきた。
「よしッ!鱗は剥がしたぞ2人共!!」
「ナイスだサンラク!ビーストロアァァァァァア!!」
「了解!最大火力でいく!拳気…「黒」!」
バフを入れた俺とカッツォは鱗が剥がれ弱点が露出した胴体を互いに攻撃し、大変タフなレイクサーペントが悲鳴を挙げてそりかえった。
「いいねぇ、しっかり弱点部位になってる!」
「このまま弱点を攻撃しまくるぜ!」
「ア、アタシも加勢しますわ!」
「わちょっ!エムルねぇ!?」
レイクサーペントがその長い尻尾で薙ぎ払い攻撃をしてきた。
マズイ!このままだとあのエムルって子に当たる!!
「エムル!!」
「ハッ!?」
慌ててエムルの方に駆け寄るサンラク。
しかし、レイクサーペントの尾はエムルに命中することはなく、前に飛び出したカッツォに当たった。
「カッツォ!?」
「大丈夫か!?」
「ダメージ前提のビルドだからね。これくらいなんとか耐えられる!」
「あ…ありがとうですわ!」
「まったく、急に飛び出すなんて危ないであります!!」
エムルがダブリュアに叱られているがそんなことを気にしない鰻はカッツォに噛みつこうとする。
しかし、カッツォはレペルカウンターを発動させて顎をかち上げ、ノックバックを発生させる。
「ナイス怯み!畳みかけるぞ!!」
「おう!」
「了解!」
「ですわ!」
「であります!」
全員でカッコよくスキルを決められたライブスタイド・レイクサーペントは盛大に悲鳴を挙げ、ポリゴンとなって爆散した。
「よっしゃぁぁ!」
「やりましたわぁ!」
「やったぜ!」
「お疲れ!」
「お疲れ様であります!」
それなりに大変だったが、その分リターンも大きい。俺は新たに獲得した10のステータスポイントを見て笑みを浮かべる。どうやらカッツォとサンラクの方もレベルアップしたらしい。
「おお!早速レベルアップ!確かに美味しい経験値効率だ!」
「レベルが2つ上がるとは…そこらのボスモンスターより経験値あるんじゃねぇか?」
「まぁ、そんだけしぶとかったからな…俺レベル4つも上がってるよ。あっ、新しいスキルも覚えてるや。
「ん〜?スキルを連結?」
「まぁた別ゲーの話か?多分俺らは知らないぞ」
「え?」
「「え?」」
えっ?
俺とサンラクとカッツォの間に奇妙な沈黙が降りる。
「いやいや、シャンフロはスキルゲーなんだから、自然習得したスキルを組み合わせて「合体
「「ガッタイ…?」」
「最初の街ファステイアでチュートリアルあったでしょ?」
「「ファステイア…ヨッテナイ」」
「えぇ……」
もしかしなくても……やはり俺は、致命的に大事な要素をすっぽ抜かしているのではないだろうか?
「熟練度が上がるタイプのスキル同士を「特技剪定所」って施設で連結する事ができるんだよ。そうすると新しい「合体特技」を作りだせる」
「「じゅ…熟練度!?」」
そういえば、スキルの後ろにLv.〜と表記されるタイプがあるのが気になっていたんだが、まさか連結することができるなんて…!!
「特技剪定所はスキルがあとどれくらいでレベルアップ・進化するかとか、スキル習得条件を教えてくれたりするから必須級だよ。他にも秘伝書の販売や……」
「「ああああああああ……」」
「お、お2人共大丈夫ですわ……?」
衝撃の内容に俺とサンラクはぶるぶると小刻みに震える。
「もしかしてだけど……「
「んああああああ!!街1個飛ばしただけでどれだけ見落とすんだ俺はぁあ!!」
「ふひゃぁぁぁ!?」
「…………」
「ア、アラジオ殿がまた固まったでありますぅぅぅ!!」
ここに来て特大のガバが判明した事で、色んな意味で心が折れそうな感覚に、俺は上を見上げて固まる。
今だけは空も太陽も見えない洞窟が恨めしい。