シャングリラ・フロンティア〜死にゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:マンデラカタログ
大変なミスをしてしまった時、精神的に心折れそうになった時、どうやって精神の均衡を保ちますか?
個人的に一番簡単な手段は、「思考停止して作業に没頭する」だ。問題からの逃走である上に事態が何も解決しない、というどちらかというと悪手寄りの手段ではあるが、今の俺やサンラクにとってはこれが最善だ。
だから、釣った。釣って釣って釣って釣って釣りまくって、餌に釣られた鰻を狩って狩って狩って狩って狩って狩りつくし……数度死にかけ、数度死にかけた鳥と鰹野郎を救出し、いつしかライブスタイド・レイクサーペントとのレベル差が縮まり、その挙動を俺もサンラクもカッツォも把握し始めて……そして夜。
「……おお…レベル42と43と40…この短期間でそこまで頑張るとはね、何かあった?」
「それが実はさ2人がチュートリアル飛ばして…」
鰹野郎がペンシルゴンに何か言う前に、俺とサンラクの2人で肩をガッ!と掴んで睨みつける。
「「……」」
「わかったわかった、言わない言わない」
「?」
ペンシルゴンが首を傾げるがこのことは絶対に言わないし言わせない。
「いやぁ…蓋を開けてみたらエムルちゃんとダブリュアちゃんの攻撃力が半端ないっていうね」
「うちのエムルさん、実はレベル56なんで」
「疲れましたわぁ」
「うちのダブリュアさんはレベル49でもかなり強いんで」
「えっへん!であります!」
終盤は経験値が分散して旨味が減るから、という理由で俺とサンラク、カッツォの3人で戦っていたが、それでもエムルとダブリュアがいなければどちらかは死んでいただろう。
「しかし便利だなこのテント。簡易的とはいえセーブポイント作れるのかよ」
ペンシルゴンが出した直方体の布によって面が構成された所謂レジャーで使用するようなテントをサンラクが見渡す。
「馬鹿みたいに高値なくせに回数制限付きの畜生アイテムなんだけどね。こんなに時間が押してなければそう気軽に使うものじゃないんだから」
ペンシルゴンが「はぁ…」と少し大きなため息を吐く。どうやら本当に時間が押しているらしい。
「ホラホラいつまでものんびりしてないで行くよ。満月の今日じゃないと「セッちゃん」には会えないんだ」
「セッちゃん?」
初めて聞く名前……いや愛称か…?
「そう、「墓守のウェザエモン」と戦う為には……ユニークNPC「遠き日のセツナ」と話をする必要があるの」
というわけで「遠き日のセツナ」というNPCに会う為、俺たちはペンシルゴンの案内で千紫万紅の樹海窟へやって来た。
「満月の夜、千紫万紅の樹海窟の壁に生えた蛍光苔の中で極一部だけ光らなくなる苔がある。そこを調べれば……」
ペンシルゴンがぺたりと触れた、周囲の苔の光で見えづらいように隠されている光を放たない苔がボロボロと崩れ落ち、その先に苔の生えていないかろうじて頭がぶつからない程度の高さは確保された暗い道が現れた。
「まさか攻略した樹海窟に隠し通路があったとは……なんか悔しい」
「よく気づいたよねこんなの」
「時間指定タイプの隠しエリアだから運ゲーだよ、私も必要なアイテムを獲りに来た時に偶然見つけたんだよね」
「へー…「運ゲー」ねぇ……」
どうやらサンラクも同じことを考えていたらしく、2人でニンマァァ…とした表情をカッツォに向ける。
「まぁ〜つまり、ユニークを発見できる奴はリアルに幸運も持ってるってことだな」
「そういうことだねぇ」
「その目、ムカつくからやめて貰えますぅ?」
「地べたを這う愚民共の鳴き声を天より憐れみと慈悲の表情で眺める帝王の眼差しに対して何たる言い草であろうかこの無礼者」
「少しは分をわきまえたまえこの戯け風情が」
「ぶっ飛ばすよぅ?」
「ほら漫才やってないで着いたよ」
おふざけもこのくらいにして、前を向くと淡い光差す出口が見えた。そして出口の先には、一面を赤い花に覆われた空間が広がっていた。
見上げればそこに洞窟の天井はなく、現実のそれよりも巨大な丸い満月がその光を夜風と共にこの赤い花畑へと注いでいる。
地面が浮いているわけでも、物理的にあり得ない光景であるわけでもない。少し頑張れば現実でも再現できそうな景色だが、何故だかこれまでに見た何よりも幻想的に見えた。
「真っ赤なお花が沢山であります!」
「綺麗なお花ですわ!」
「ユニーク抜きにしても私はこのエリアが好きなんだよねぇ」
「………綺麗だけどさ…なんか不気味じゃない?」
「彼岸花か…あんまり縁起のいい花じゃなかったよな?」
「確か彼岸花の花言葉は「悲しい思い出」「想うはあなた一人」……だったか?」
母からの教えのせいで脳に染みついた花言葉を言っていると歌声が聞こえてきた。
聞こえる方向に顔を向けると、そこには一本の枯れ木とその下に座っている女性……女性?が見えてきた。
「透けてますわ!?」
「不思議であります!?」
「バグか?」
「第一候補が仕様じゃなくてバグなのね」
「亡r…「それ以上は言わせないよ^ ^」……サーセン」
死ゲーだと透けてる奴の大半が亡霊とかだったんだから仕方ないだろ……とはいえ、ペンシルゴンの様子からしてあの半透明の女性が目当てのNPC「遠き日のセツナ」で間違いないだろう。
「気を取り直して……やぁセッちゃん、1か月ぶり」
「あら……アーサー、久し振りね」
幽霊だからもっとかすれるような、吹けば消えてしまうような儚いものかと思ったが、意外にもハキハキとした喋りと笑みで、後ろの光景が透けて見える程に希薄ながらも、ショートボブの髪を揺らしたNPC「遠き日のセツナ」はペンシルゴンに微笑みかけた。だが、それよりも地味に気になることがある。
「………ダブリュア」
「なんでありますか?」
「あの人が着てる服に似たものって見たことある?」
「うーむ……吾輩にはちょっと思い当たりが無いであります……」
把握。あの幽霊の女性が着ている服、どうもファンタジーらしさが著しく欠けている。植物性、動物性の繊維から作られた服や、生物の皮や甲殻から作られたものとも違う。画一的な大量生産品に近く、高級感を仄かに感じさせる……そう、現代人である俺が既視感を覚えるそれはどちらかと言えば、サイエンスファンタジーに属するものだ。
「神代…」
シャングリラ・フロンティアという世界観において重要な意味合いを持つ「神代」。言ってしまえば旧文明とも言えるそれに類するキャラクターが絡むユニークシナリオ……作戦会議で話した馬がミサイルだのレーザーだの妙な単語が出た時点で分かってはいたが、なんだか俄然やる気が湧いて来たな。
「今日は……いつもと違う人達なのね」
「ああ、紹介するよ」
「オホンッ、どうもペンシルゴンの愉快な仲間たち技の1号サンラk…「馬鹿の1号2号3号とマスコットの2人だよ」…待てェ!雑に紹介すんな!決めポーズまで考えてきたのに!」
おいコラ。誰が馬鹿じゃ、馬鹿はサンラクとカッツォだけだろ。
「この3人があいつ、ウェザエモンに引導を渡すための切り札」
目線だけで俺とサンラクとカッツォがペンシルゴンにガンをつけていると、言い方は悪いがゼロとイチのデータがする目ではない眼差しで俺達を見るNPC「遠き日のセツナ」。
「ヴァイスアッシュの娘のエムルですわ!」
「同じくヴァイスアッシュの娘のダブリュアであります!」
「コラッ!抜け駆けするな」
「オイカッツォだよ〜」
「アラジオですぞ〜」
「お前らもな!」
エムルとダブリュア、俺とカッツォが自己紹介をしたあと、セツナはそれぞれを見た後に口を開く。
「アーサー……凄いのを集めたわね」
「心配しないで、今は雑魚だけど決戦までには仕上げるつもり」
「そうじゃないわ」
セツナは俺とサンラクへと視線を向けると、自分の胸を指差して……ああ、この場合は俺らの「呪い」を指し示しているのか。
「クロちゃんの強い気配を2つもつけてる人なんて初めて見たわ。それに私は会ったことは無いけれど、あの人がつけていた子供の強い気配を2つもつけてる人、しかも灰被りちゃんの子供2人と一緒だなんて……ふふ、懐かしい人達を思い出しちゃった」
「ええと……?」
「あの人……?」
「ああ気にしないで、ただの郷愁……ずっとずっと、昔のね……」
ペンシルゴンの様子からして、どうやら普段とは違うフラグが現在進行形で建設中らしい……待てカッツォ、ステイ。
「もう彼女はとっくに死んでいるのでしょうけど、あなた達のお陰で懐かしい記憶を思い出したわ、ありがとう」
「どう…いたしまして……」
「それは…何よりです……」
はっきり言って、判断材料が少なすぎてどう返答すればいいか分からない。そうこうしているうちにタイミングを逃したのか、セツナは俺とサンラクから視線を外してしまった。無理に聞こうとして好感度が下がるのもあまりよろしくない。どうやらサンラクも同様だったらしい。サンラクはペンシルゴンにアイコンタクトを送り、話の先を促す。
「セッちゃん、3人にもあいつの事を話してあげて欲しいかな」
「……分かった」
『ユニークシナリオEX「此岸より彼岸へ愛を込めて」を開始しますか?はい・いいえ』