シャングリラ・フロンティア〜死にゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:マンデラカタログ
サンラクside
「おぉ…」
「なんつーか、ゲーム内でログインし直した気分だ」
「あ、それ分かる」
ログイン時の意識が身体から離れて無重力空間に漂うようなあの感覚を、ゲーム内で味わった俺達は大まかなマップの形状こそ秘匿の花園と同じだが、目に映る光景は真逆の場所に立っていた。
あの一面に咲き誇っていた彼岸花は根の一片も残すことなく全て消失し、土なのか石なのか曖昧な平坦な地面が広がっている。
空に至っては色調反転してしまったかのごとく、
そして、「正位置」のエリアにポツンと生えていた枯れ木は、「逆位置」のこの場所……隠しフィールド「反転の墓標」においては全く別の姿を見せていた。
「枯れ木に花を咲かせましょう、ってか?」
命の気配の一切を感じられなかった枯れ木には白銀に僅かに朱色を帯びた花弁を、花弁そのものが重さに耐えきれず散ってしまうほどに咲き乱れる桜の花が。
そしてその根元には、簡素な墓標……そして何よりも。
「……あれか」
「……あれだな」
「……だろうね」
錆があるわけでもない、ひび割れ風化しているわけでもない。だと言うのにそれからひしひしと伝わる「年月」が、舞い散る花弁を押しのけ静かに立ち上がる。
成る程、ペンシルゴンの言う通り確かにロボ武者と形容するのが一番適切だろう。
「…………」
一切の肌を見せない全身を覆う白と黒の機械装甲、顔すらも覆い尽くしたそこにはヒロイックなロボ特有のツインアイカメラ。双眸に光が宿り、身体の各部が微かに駆動音を立てながらも、
立ち上がって初めて分かる全容、所々に日本の甲冑風の意匠が見えるその背丈はおおよそ二メートル半程か。
「サンラク君」
「あぁ」
ペンシルゴンの作戦通りに、俺はただ一人機械の鎧武者……NPC遠き日のセツナの恋人であり、ユニークモンスターであり、ヴァッシュ曰く「死に損ない」である
まるで西部劇の決闘だ、遠ざかるのではなく近づく辺りは真逆だがどちらが先手を打つのか、いつやるのか。モチベーションと緊張がアホみたいに高まっていくのが自覚できる。
「っ!」
そして互いの距離は一メートル、そこで
「墓守のウェザエモン、いざ尋常に……」
「
見た目とは逆に錆に錆きったような呟き、それと共に超速フレームの居合が放たれる。霞む墓守のウェザエモンの腕、線にしか見えない光の筋、だが確かに俺の目はそこに刃の輝きと、即死の気配を感じ取った。狙いは首か!!
「勝負!スキル…インファイト!」
インファイト起動、頭を屈めた瞬間頭上を青い水晶のような刃が通過し、それを確かめることなく俺は一気に墓守のウェザエモンに肉薄する。
「色々と試させてもらうぞ!ロボ武者!!」
そして俺とウェザエモンの長い長い戦いの火蓋は切って落とされた。
アラジオside
「ハハッ、本当に初見で見切っちゃったよ……」
「やるな」
「俺達はどうする?」
暴風圏ならぬ
笑みを浮かべながら墓守のウェザエモンに様々なアプローチを仕掛ける……例えば足払いは効くのか、具体的に装甲は如何程なのか、隙間は、手指は、目は、駆動部は……喰らえば即死は免れない刃の連撃を掻い潜りながら「もしや」の隙間を見出さんと試行錯誤を繰り返すサンラクの顔に浮かぶのは笑み。
だがそれが余裕のものではないと俺とカッツォは知っている、あれは半ば引きつった顔であり、言うなればあまりの難易度に「笑うしかない」ものであると感想を聞かずとも理解できる。
「私は「準備」を始めるから、カッツォ君はあらかじめ持たせたアイテム持ってスタンバってて。アラジオ君はサンラク君が殺られた時にすぐ変われるようにスタンバってて」
「任せな!」
「了解……!」
駆け出していくカッツォからさっさと視線を外しペンシルゴンがその場でアイテムをインベントリから取り出した。
「頼むよ天秤ちゃん……! この戦いは君にかかってるんだからね……!」
余裕のない、されど勝利を諦めてはいない笑みを浮かべながら、ペンシルゴンが話しかけた先、そこには黄金色の天秤がキラリと輝きを放っている。
「俺は俺のお仕事を……っと、まあまあ時間稼いだな。正直もっと見ておきたかったんだが……」
視線をペンシルゴンの持っている天秤からサンラクに戻した瞬間、サンラクが致命的な一太刀ダメージを受けてポリゴンと化し爆散した……生存時間約2分ってところか。
「さて、やることやりますか…!」
全速力でウェザエモンに向かって走り、インベントリから泥鮫の牙剣を取り出しつつカッツォに蘇生されたサンラクに声をかける。
「スイッチだサンラク!あと情報くれ!」
「無理ゲーだから避けろ!」
「なるほど、大変分かりやすい情報ありがとよ!」
つまりあれだ、今のコイツには有効打を与えることは出来ないってわけだ……!
というか今俺が身をもって体感したわ。恐らくレベリングで遭遇したロブスター野郎の甲殻ならヒビが入るくらいの助走をつけて泥鮫の牙剣を振るったっていうのにこいつの装甲には傷の1つも付かない。
「断…風」
「舐めんな…!パリングプロテクト!」
パリィ技術には多少の自信があるが、今のパリィはサンラクが先にしていなかったら確実に失敗していた。
ていうか……今ので泥鮫の牙剣の耐久値がレッドゾーンに入ったぞ!なんちゅう装甲してやがる!!
「んじゃま、ストライクシュート!!」
武器がなんぼのもんじゃいと言わんばかりに泥鮫の牙剣をウェザエモン目掛け投げつける。
するとやはり、ウェザエモンはその攻撃をガードする。泥鮫の牙剣は完全に破損したがその隙に俺は武器「
「おら!できるだけマシな情報出しやがれ!!」
ジャガーレッグ起動。キャットウォークの進化なだけあって竣敏の上がり幅が格段にデカい。おかげで必殺の刀から逃れられ、少しだけ距離を取ることができた。
だが、スタミナ管理を少しでもトチっれば、一瞬で一刀両断されてもおかしくない……っ!?
「断…風」
「あっぶねぇぇぇぇぇぇえ!!?」
待て待て待て待て!!何だその移動速度!?
さっきの距離から6、7メートル離れてたのに一瞬で来たぞ!!?
どんなからくりを使ったのかは定かではないが、高速移動をして俺に肉薄してくる墓守のウェザエモン、再び抜かれた神速の居合は間違いなく俺の首を今度こそ刎ねようと振り抜かれていた。
「しゃがみぃぃぃぃぃい!!!」
落ち着け俺!見ろ!覚えろ!挙動を、モーションを読め!
目を見開き、太刀筋を読む。相手の動きを焦らずに先読みしろ!
「うぉぉぉぉぉお!!」
後方に勢いよく跳び回避、次にやってくる行動に対してできるだけ早く反応する為に最小限の動作で体勢を立て直す。
「サンラク!スタミナは全快したか!」
「おう!」
「なら交代してくれ!!やっぱり無理ィ!!」
内心情けないと思いながらサンラクとスイッチ、安全圏まで退避しスタミナ回復に努める。
流石に俺のミスで復活アイテムを消費するわけにはいかないからな。
「生存時間は?」
「大体1分……まさか武器を投げつけるなんて思わなかったよ」
ダメージが入らないかつ、隙が少ない敵の前で武器変えを行うためには、ガードという名の隙を利用すればいい。これが長年死にゲーをやってきた教訓だ。
「アラジオ、ウェザエモンの情報は何かある?」
「大体ペンシルゴンが言ってた通りだな。強いて言えば断風は上半身をよく狙うふしがあるってことくらいだ」
「なるほど……緊急時はしゃがみか伏せをしたら避けれ………いや無理か」
俺もそう思う。さてと、全員の合計デス数は一体どれだけになるのやら、大体10……いや、せめて20以下で済めばいいんだが……
目の前で再びサンラクが胴体を真っ二つにされる光景を見ながら俺はそう思った。
そして7分が経過した。
「
「来るよ!」
「これが落雷攻撃か!」
「サンラクお前意地でも死ぬなよ!」
「おうよ!」
1秒で5発の即死ダメージ確実の落雷、それが五秒間。あまりにも狂った秒間火力DPSを叩き出しながら降り注ぐ落雷の豪雨を文字通り滑走を可能とする回避スキル、スケートフットで回避しきる。DPSが高すぎるからこそ全力で走れば避けることはできる、他の3人も死んではいないようだ。
「舐めんな!」
武器を背に隠すように構えてショルダータックル、サンラクが避けたところを狙う腰のひねりを入れての袈裟斬り。身体を回転させるようにして肩から右腕を斬り落とす軌道のそれを回避し、刃を裏返しての斬り上げをバック転で跳び越える。
はっきり言って曲芸じみた動きだが、余裕があってのことではないだろう。普通にジャンプしたのでは着地狩りされるからな、コンマ一秒でも地面に足が付く速度の速いバック転に……それが例えスタミナを削る動きであってもやらざるを得ないだろう。
「機関銃を避ける方がまだイージーだ……っ!」
「スイッチは!」
「頼んだ!」
今度はサンラクとカッツォが交代し、超速居合「断風」で首が飛んだカッツォに再誕の涙珠をぶん投げる。そしてサンラクが間違ってもヘイトがこちらに向かないよう後方で準備を続けているペンシルゴンと俺がいる位置まで下がる。
「まだ10分も経過していないのか……」
「誰も脱落していない、という点では歴代最高記録だよ」
「もしこれが1時間耐久とかだったら流石に無理ゲーだぞ」
「それを踏まえて20分……多く見積もって30分間がリミットなんじゃないかと思ってるんだけど……」
これをあと2セット、さらに言えば難易度が段階的に上昇する残り20分か……
「サンラク、これはクソゲーでは?」
「あぁ、検討の余地ありかな……」
「4人とかいう舐めプじみたことしてるしダメじゃない?」
それもそうか。というか、ペンシルゴンは一体何をしているんだ? さっきから天秤とウィンドウを交互に見て何かしているようだが。視線に気づいたのか、ペンシルゴンはニヤリと笑みを浮かべる。
「これは「対価の天秤」っていうユニークアイテムでね、そろそろ出番になるかな………10分経過だ」
「ようやくか……!!」
「カッツォ時間だ!俺と代われ!」
「あいよ!」
ダメージが通らないことは百も承知、ヘイトを奪うことが目的だ。カッツォを追うウェザエモンの背中に刺突スキルである無明突きを叩き込みヘイトを奪う。そしてカッツォの離脱を確認して墓守のウェザエモンへと視線を向ける。
「10分経った、第2段階フェイズだ」
「……エ、……
あまり聞き続けたいものでもない錆び付いた声がそう唱えると同時に、5人しかいないフィールドの空白に幾何学模様が展開される。
それは足元から3Dプリンターで物質を形成するかの如く、巨大質量をこの場へと転送召喚する。
「馬……?」
「形状的にはそうとしか言いようがないし」
「足の生えたダンプカーだろどう見ても!」
「私それ言ったよねぇ!?」
召喚を終えると同時に墓守のウェザエモンが攻撃を再開した為にその姿をちらりと見ることしかできなかったが、それだけでも「足の生えたダンプカー」の例えが決して誇張ではないと理解できた。
なんだありゃ、5メートルは軽く越してるぞ。
カッツォの奴、本当に大丈夫か……?
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