シャングリラ・フロンティア〜死にゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜   作:マンデラカタログ

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刹那に思いを込めて 其の十三

 

 ガシャン、と膝をつく音が響く。サンラクは半裸なので音は出ない。VITの高そうな装備であるカッツォとペンシルゴン、俺も膝と腰のみではあるが中々にVITの高い装備ではある。しかし、ここまで重い金属音がすることはない。

 であるならば騏驎が膝をついたのか? それならばもっと地面を揺らすだろう。即ちこの場において膝をついた者とは。

 

「………」

 

「倒したって雰囲気じゃあ……ねぇよな」

 

「だろうな」

 

「……うん」

 

 ペンシルゴンがウィンドウを開き、時間を確認する。

 

「第2段階フェイズ、10分経過…ここからが本番、第3段階フェイズだ」

 

 膝をついて動かなくなった墓守のウェザエモン。一見すればチャンスタイムにも見えるが……どう考えてもアレは距離を離して様子を見なければならない類のモーションだろう。

 俺の仮説を裏付けるように、天秤をインベントリへとしまったペンシルゴンが警戒するように立ち上がる。

 

「来るよ3人とも……こっからがヤバい」

 

 墓守のウェザエモンの動きに連動するようにピタリと動きを止めた騏驎の上、何をトチ狂ったのか自分自身を騏驎の首に縛り付けているカッツォも戸惑っているのが遠目でも見える。というか絵面で笑わせるのやめろよ……緊張が抜けちゃうじゃねーか。

 

「まだメンバーがマシだった頃の阿修羅会でもここまで来たのは一度だけ。この第3段階まで来たことがある。その時は初手(・・)で全滅、鎧に亀裂が入った墓守のウェザエモンが咆哮(・・)と同時にフィールド全体に放つ衝撃波によってね」

 

「だからお前でも最初に何をしてくるかしか知らない、と」

 

 だが逆に言えば、何を最初に仕掛けてくるのかは俺達4人は知っている。

 第1段階ではウェザエモン単体との10分間の戦闘。

 第2段階は騏驎が参戦し、ウェザエモンと騏驎を同時に相手する複数戦闘。

 そして一度だけペンシルゴンが辿り着いた第3段階、墓守のウェザエモンが「自壊」をトリガーに発動する全体攻撃。

 

「聞いてる限りお手上げ情報なんだが……秘策ありって顔だな」

 

「さぁ、どうかな。コレがもしダメだったら自分で何とかしてね」

 

 そう言うとペンシルゴンはウィンドウのアイテム内からゴージャスな瓶を取り出す。

 

「シャンフロは世界観や設定が攻略の鍵になるんだ。私はずっと墓守のウェザエモンを「神代の技術で身体を機械化させたサイボーグ」だと思ってた」

 

 確かに見た目は完全にパワードスーツのロボットであるウェザエモンの正体を推測したなら、セツナの話やシャンフロにおける「神代」というSFな設定からしてまずサイボーグと考えるのは別におかしくはない。

 

「だけど、サンラク君とアラジオ君が聞いた死に損ない・・・・・・って単語、それで大体裏が取れた。奴の分類はアンデットモンスター!死者には聖水!!」

 

  直後、ウェザエモンの口周りのアーマーがガパッ!っと、開くと同時に液体入りの瓶を投げつける。

 

「それもただの聖水じゃない……「慈愛の聖女イリステラ」が丹精込めて作った「聖女ちゃんの聖水」……!!」

 

 パリンと小気味の良い音を立てて墓守のウェザエモンに瓶が命中し、ヒビが入れどその頑強さは遜色ない鎧との衝突に耐え切れなかった瓶が割れて中身のうっすらと青く発光する水を墓守のウェザエモンは浴びることになる。

 

「ガ……!?オォォォォォォオォォォオオオオ………!!!!!!」

 

 咆哮が放たれる。「全体攻撃か!?」と俺とサンラクは身構えるが、ペンシルゴンの様子から別のモーションだと分かった。つまり……

 

「ビンゴ…!!全体攻撃をキャンセルできた!!」

 

 そう言ったのも束の間、ウェザエモンの全身の亀裂から血が噴き出すように青い炎状のエネルギーが噴出する。

 先程までのサイバーな印象を強く感じさせる機械の姿はあっという間に変わり果て、全身に亀裂を広げてゆらりと立ち上がる姿は蒼炎を纏う幽鬼、まさしく過去の亡霊という言葉が相応しい状態だ。

 

「あーあ、聖女ちゃんだかの聖水(意味深)なんかかけるから怒っちゃったんじゃない?」

 

「だから発光してたのかあの液体」

 

「ちょっと、変な意味でとらえないでよ。「シャンフロ」のアイドルなんだよ聖女ちゃんは」

 

「「いや知らんわ」」

 

 つかアイドルなんかいたんだこのゲーム……

 

「うわぁ……ウェザエモン、どーなって……わぁわわ!?」

 

「カッツォ君!?」

 

 麒麟に緊縛ロデオをというプレイ(どちらの意味でも)を行なっていたカッツォだが、其の麒麟が突如音を立てて変型し、ロープが千切れてオイカッツォが振り落とされる。

 巨大な馬の体型が、巨大な四肢を持ちながらも、胴体と頭が無い中途半端な甲冑へと姿を変え、腰にはウェザエモンのバネ状の脚がスッポリ嵌まりそうな穴が二つ開いている。

 

「な、何か変形しちゃったんですけど……!?」

 

「ちょっと何あれ!?」

 

「明らかヤバい奴ってことはわかる」

 

「知らんけど、アレもウェザエモンと合体するんだとしたら不味いな」

 

 サンラクの言う通りだ。甲冑形態と成った麒麟がウェザエモンに合流しようものなら、自分達の敗北は間違いなく確定する。

 

「ペンシルゴン、お前はカッツォのアシストに回ってやれよ」

 

「俺もその意見に賛成だ」

 

 即ち、俺ら4人の役割分担は残り何分とも知れない耐久の中で奴らを合体させないことにある。騏驎甲冑とウェザエモン本体、どのように人数を割り振るのか、ウェザエモンに誰をぶつけるのか……ペンシルゴンならすぐに答えが出せるだろう。

 

「ウェザエモンの身体が少しずつだが崩壊し始めている。第1、第2段階フェイズは10分間耐えしのぎ、第3段階は奴が完全に自壊するまで耐えるってところか」

 

「勝利条件は時間経過なのはほぼ確定と見ていいと思う。ここまでの流れから考えれば、また10分……恐らくこれが最後のタイムリミット」

 

「任せろ。しっかり10分耐え抜いてやる」

 

「ここまで来れたんだ、もう10分の耐久なんて余裕よ余裕」

 

 俺もサンラクもこれは強がりではない。こっちもこっちで大体の検証は終わっているし、何より予想が当たっていた事で俄然勝ちの目が見えてきた。

 

「分かったよ。でも……無茶なことはしないでね、ほとんどサポートに入れない以上、どちらかが死んだら終わりかねない。任せたよ(・・・・)2人共」

 

「あぁ」

 

「任された」

 

 ペンシルゴンがカッツォの支援へと向かうのを確認した俺とサンラクは炎を纏う幽鬼へと歩みを進めつつ、向こうが答えることはないと分かっていても口を開いてしまう。いい感じにゲームにのめり込んできたぞ、こういう時はパフォーマンスが上がるからな。

 

「……ペンシルゴンからお前の戦闘パターンを聞いた時から、ずっと疑問に思っていたんだ。「それつまらなくね?」ってな」

 

「まぁ、ストーリーとしては悪くない。「ここは俺に任せてお前たちは先に行け」にも通じる見せ場だ。物語としてつまらなくはない、面白い部類に入るだろうな」

 

 だがこれは小説でも漫画でもアニメでもない、「ゲーム」なのだ。脅威と戦うのも、耐え忍ぶのも登場人物という他人ではなく自分自身なのだ。であるならば、「30分間ひたすら耐え続ける」だけのボスは果たしてゲームとして面白いのだろうか?

 断言する、死ぬほどつまらない。

 

 5分や場合により10分ならともかく、30分間ひたすら逃げて避けて耐えるだけのボスとかゲームデザインからしてクソだ。イベント戦闘でもクソだ。仮にユニークモンスターがゲーム性よりもストーリー性を優先していたのならそれまでだが、俺とサンラクは信頼している。

 

「「神ゲーならそんなことしないってな」」

 

 世界観とゲーム性の両立、数多のゲームがその調整に失敗し「ゲーム性優先でストーリーがクソ」「ストーリーに忠実すぎてゲーム性がクソ」「どっちもクソじゃねえか畜生!」……とクソゲーの烙印を押されてきたゲームがいくつもある。もちろん死にゲーにもそういったゲームがある。

 

 だがシャングリラ・フロンティアなら、必ずその両方を及第点のそれ以上で纏めていると信じている。 例えエンドコンテンツとして設計されたユニークモンスターであっても30分間もプレイヤーに耐えさせたのならば、必ず憂さ晴らしが出来るプレイヤーのターンが回ってくると。

 だからこそ、ペンシルゴンから「耐久優先で装備を整えて」というオーダーを受けても俺はもしもの可能性を信じて「これ」を作った。必ず墓守のウェザエモンを「ちゃんと殴れるターンが来る」と信じて。

 

 蒼炎を全身から噴き出し、刀にすら纏ってみせた墓守のウェザエモンの攻撃をサンラクがコーカサスオオカブトのような兜でパリィする。何だあの兜……っと、どうやらヘイトがこっちに向いたみたいだな。

 

「断…風」

 

 迫り来る神速の居合。蒼い刀身に更に蒼い炎を纏ったその即死の一撃を俺はパリングプロテクトを起動し、左腕で弾く(・・・・)

 

「…………!」

 

「驚いたか?俺もパリィするのは久々でな……思い出すのに苦労したんだぜ?」

 

 蒼炎纏いし刀を弾いた今の俺の何もつけていない腕ではない。というかあれで同じことやったらそのまま頭が真っ二つになる。ビィラックによって素材本来の色である真紅の輝きを得た「バックラー」には、特徴的なトゲトゲが生えている。流石は装甲おばけロブスター、ウェザエモンの攻撃を受けてもヒビ一つ入らないとは。まぁそう何度もぶつかっていては砕けてしまいそうだが。

 

命潮蝲蛄の円盾(デストロブスシールド)。ライブスタイド・デストロブスターの素材から出来たこいつはそんじょそこらの盾とは違う特性があってな」

 

 シールドに取り付けられたデストロブスターの装甲のトゲトゲには当たり判定があり、片腕を振り払うことでガードによるパリィだけでなくダメージを与えることができる。

 

そして

 

「このシールドの最大の特徴が…………武器の両手持ちが可能なこと!」

 

 デストロブスターの重装甲から作られたこのバックラーは当然装備重量がそこそこ大きく、回避耐久戦たる第1、第2形態では使い道がなかった。だが俺が予想した通り、第3形態はアーマーの自壊という形で墓守のウェザエモンの無敵性が失われた。

 

「喰らえ!致命ヴォーパル剣術【半月断ち】!!」

 

 プリズムのようなエフェクトを纏った兎鳥【鷹】で振り下ろされた刀の軌道をなぞるかの様に振り上げる。

 

「…………ッ!?」

 

 全く同じ軌道の斬り上げは確かにウェザエモンを揺らした。

 

「よっしゃい!5万マーニ以上の仕事ができそうで安心したぜ!!」

 

 致命剣術【半月断ち】というものは非常に有用なスキルだ。しかし、その扱いに若干のクセがある。

 このスキルは直前の攻撃とは逆の軌道で放った場合ダメージボーナスが発生する……今回の場合で言うならば、斬り下ろしからの斬り上げを行った場合だ。そして、更に直前の攻撃とより近い軌道になればなるほどダメージボーナスが上昇するというオマケ付きだ。

 この腕で止めてから【半月断ち】を完璧に決めるコンボの練習台に一体どれだけの鰻とロブスターが捌かれたのやら……

 

「………断…風」

 

「あ、やば……!?」

 

 調子に乗って間合い完全にミスった!?てかダメージ本当に入ってるのかテメェ!?

 回避スキルを発動しようとした瞬間、不意にウェザエモンの背後が揺らぐ(・・・)、なんだこれはと考えた瞬間ウェザエモンの神速居合がそちらへと一気に振りおろされる。その隙を見逃さず、バックステップで一気に距離を稼いだ俺はドヤ顔をキメているサンラクに問い掛ける。

 

「後方注意、ってな」

 

「今のは?」

 

「致命ヴォーパル刃術【水鏡の月】ってスキルの効果だ。発動したら攻撃の当たり判定を敵の後ろに移動させるスキルだ。どうやらクリティカル発生させるとヘイトをずらすことが出来るらしくてな」

 

「あの8万もした秘伝書か……おかげで助かった。ありがとよ」

 

「いいって事よ。さぁて、背中の傷は恥だったらごめんな!存分に恥じてくれ!」

 

 サンラクが一気に肉薄し、敵Mobに気づかれていない、またはヘイトを向けられていないという条件を達成した事で威力を増したスキル、アサシンピアスを発動させる。エフェクトを纏った刃が墓守のウェザエモンの無防備な背中、そこに走るエネルギーが吹き出す亀裂に突き刺さりポリゴンを撒き散らしながらゴリゴリと削っていく。

 すると、ヘイトがサンラクへと向けられ、後ろを振り向くために身体を回そうとするウェザエモンに対し「ドリルピアッサー!」と叫びながらアーマーの亀裂に再び刃が直撃した。

 

「さぁ、補正に急所にクリティカル……今のお前に怯み無効状態(スーパーアーマー)は残ってるか?」

 

 螺旋のエフェクトが自壊によって生まれた弱点傷口で弾け、墓守のウェザエモンは遂にここまでの戦闘で初めての仰け反りモーションを行う。

 

「「憂さ晴らしさせてもらうぜ!」」

 

 ここから先は俺達のターンだ、攻撃しても小揺るぎもしなかった第1、第2形態とは違う。20分かけてようやく回ってきた俺達のターン……覚悟しろ墓守のウェザエモン、袋叩きにしてやるぜ!

 

「ふはははははははははははは!!合わせろアラジオォォォォ!!」

 

「任せなァァ!!」

 

 テンションは最高潮、グラついた墓守のウェザエモンに2人同時にオプレッションキックを膝に叩き込みながら俺達は高らかに笑うのだった。





命潮蝲蛄の円盾(デストロブスシールド)

涙光の地底湖のヌシ、ライブスタイド・デストロブスターの素材からできたバックラー。
ライブスタイド・レイクサーペントや同族の攻撃を防ぐその甲殻は攻撃を防ぐ頑丈な盾であり、その者を傷付ける強力な矛にもなる。

Q.何故盾があるのに両手持ちができるの?
A.そもそも持ち手に当たる部分が籠手の様になって固定しているから。
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