シャングリラ・フロンティア〜死にゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜   作:マンデラカタログ

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刹那に思いを込めて 其の十五

 

 ペンシルゴン発案の作戦とは、おふざけを入れる隙間のない場合(今回の墓守のウェザエモン討伐戦のような)を除き、ほとんどの場合において「碌なものじゃない」が頭にくっつくものが殆どである。それ故に、ニマリといつもの笑顔を浮かべながら説明した「騏驎甲冑を一撃で屠る必殺の策」を聞いたオイカッツォは非常に複雑な表情を浮かべつつも、それを承諾した。

 

「ところで、昨今の格ゲーで大事なことってなんだか知ってる?」

 

「んー、本職に答えを教えてもらおうかな?」

 

「まぁ人によって色々なんだけどさ、俺としては「ゲームとリアルの区別をつける」だと思うんだよね」

 

 その言葉にペンシルゴンはうへぇ、と露骨に顔をしかめる。槍系パリィスキル「渦潮の転槍(メイル・スピアトロム)」によっていなされた騏驎甲冑の拳が大地を叩く。

 

「ここにきて倫理の話ぃ……?」

 

「違う違う、そんな旧時代的思考のPTAみたいな意味じゃなくってさ……格ゲーって要するに「人間離れした動きを実現する」ってことでしょ?」

 

「まぁ、そうだねぇ」

 

 騏驎甲冑の足に縄が巻きつく。足だけではなく腕や、腰にも。幾つもの縄が巻きつけられ、そしてその端は一点へと繋がる。

 ペンシルゴンが注意ヘイトを引きつけている間に、オイカッツォが騏驎甲冑の四肢に縄を巻きつける。即興の作戦を成功させながらも話を続ける。

 

「手が伸びる、ヤバいくらい跳ぶ、羽生えてる……場合によっては人の形ですらないキャラクターを操作するわけ」

 

「そだね、君達がやってるバグゲーは人の形すら留めないらしいね」

 

「うーん……要約するとさ、人間離れしたキャラクターを操るのはあくまでも人間なんだよね。だからさ、その操作にはどうしても違和感が出る」

 

「……話が見えないんだけど」

 

「だからプロゲーマー、それも格ゲーをメインにする奴らってのはその「ゲームキャラとプレイヤーの違和感」を突く技能が必須なわけで……だからこそ、逆に言えば人の身体がどんな風に動いてどれくらい動けるかも把握しているんだなこれが」

 

 さながら操り人形の意図を握る人形師か、それとも無謀な挑戦を試みる愚か者か。オイカッツォがパワーレベリングの副産物として得た大量のライブスタイド・レイクサーペントの素材、それを用いて作られた縄装備、蛇縄「命の手綱」。

 手を離した時点で装備品はオブジェクト化するという特性を利用し、大量の「命の手綱」によって騏驎甲冑を捕縛したオイカッツォだが、当然体高5メートルを越える騏驎甲冑のSTRは相応に高く、オイカッツォ一人でその動きを封じることは困難である。

現に、騏驎甲冑は縄を意に介することなくペンシルゴンを叩き潰すべく一歩踏み出さんと右足を上げ……

 

「例えば歩くモーション、片足を浮かせた瞬間に体を支えている方の足を引っ張ってやれば、転ぶ!」

 

 騏驎甲冑の重心が前へと傾いた瞬間、左足に巻きつけられた縄がオイカッツォによって引っ張られ、重厚な身体はいとも容易く転倒する。

 

「立ち上がる瞬間に足を引っ張ればさらに転ぶ!」

 

 両手を地面につき、立ち上がろうとした騏驎甲冑は両足を引っ張られ、さながら喜劇の道化のように再び派手に転ぶこととなる。そして2度の力みによってスタミナを使い切ったオイカッツォがスタミナ回復をしている間に、準備を終えたペンシルゴンが転倒した騏驎甲冑へと肉薄する。

 

「弱点候補その1ぃ……本体との合体部分!」

 

 ペンシルゴンが持つ槍……大型モンスターの背骨から刃を削り出したものに金属で補強と装飾を入れた「獅子の連骨槍(レグルス・トーテム)」はデザインされ、システムとして組み込まれた能力を十全に発揮して騏驎甲冑の欠けた空洞、本来であれば墓守のウェザエモン本体が収まるための言うなれば玉座へと突き出される。

 

 複数のバフを受けた槍の穂先は騏驎甲冑の接合部の奥の奥を確かに穿った……が、返ってきたのはあまり有効とは言い難いいまいち会心を外れた感触。

 

「うーん、効果薄そう。カッツォ君!次は仰向けでよろしく!」

 

「あいよおぉ!!」

 

 オイカッツォによる転倒、それによって発生するダメージはあくまでも騏驎甲冑自身によって発生した自傷ダメージ(・・・・・)である。確かに文字通りの意味でオイカッツォは騏驎甲冑の足を引っ張ったわけであるが、それ自体にはダメージは発生しておらず、そしてそれは同時にオイカッツォにヘイトが移ることはない、ということである。

 

「立ち上がって、頭……は無いけど、背中が伸びきって、慣性が残ったこのタイミングで……両腕!」

 

 ゲームのシステム上片手で扱える装備扱いである縄装備は右と左で一本ずつ、一度に2本操ることが出来る。騏驎甲冑が立ち上がった瞬間に両腕を一息に真後ろへ引っ張った結果、巨体故に立ち上がる際の慣性にオイカッツォによる牽引のエネルギーも加わって騏驎甲冑の重心は後ろに傾く。だが足りない、あと少しで転倒するという寸前で、騏驎甲冑は左足を後ろに下げて踏ん張らんと試みる。

 

「あっ、耐えた!?」

 

「倒れとけ!」

 

 よろめいた騏驎甲冑の腹に突進と跳躍によって威力を増したペンシルゴンの蹴りが命中し、首のない伽藍堂の巨人は青天井を仰ぐこととなる。

 

「腹を割って話そうか……巨人君!!」

 

 武器の耐久度を急速に消耗するというデメリットこそあれど、強力な装甲貫通効果を付与する「ブロークン・シェル」によって、奇しくも墓守のウェザエモンと同様に自壊しながら突き立てられた獅子の連骨槍が騏驎甲冑のVITと真正面から激突する。狙う部位は腹、それも最も装甲が硬い部位。

 

「分厚いってことは、その下が重要ってことだよねぇ……! カッツォ君、20秒耐えて!」

 

「無理! 15秒!」

 

「上々!」

 

 攻撃スキルを連続して発動し、ただ一点を集中的に攻撃し続ける。騏驎甲冑が起き上がろうとする、腹の上のペンシルゴンを払いのけようとする行動はオイカッツォが腕を引っ張り、強制万歳をさせる事で阻止される。

 

「動きを阻害してもダメージもデバフも与えていないからこっちにヘイトが来ないし、転倒させれば自傷ダメージも入る……もしかしなくても、これハメだよね?」

 

「だったら運営に修正される前にウェザエモンを攻略しちゃおうか……!」

 

 2度目のブロークン・シェルの行使によりビシリ、と致命的な亀裂の入った獅子の連骨槍を投げ捨て、ペンシルゴンは別の槍をインベントリから取り出す。

 

「ああもう、致し方ないとはいえ本気を出せないのはつらいなぁ……!」

 

 とある事情から、今現在ペンシルゴンは本気を出せないでいる。それは決して侮りではなく、この戦闘におけるキーアイテム、対価の天秤を借りる(・・・)為にペンシルゴンは自らの愛槍を対価として預けているのだ。

 だからこそ、ペンシルゴンは此度の戦いではアシストに回ることを選んだ。代用の槍も用意できうる最良と最上を兼ね備えたものを揃えたが、ここへきて騏驎甲冑を実際に倒す、という新たな課題の前に愛槍の不在が響いていた。

 

「それならそれでやりようは幾らでもあるけどね……! やりだ……」

 

「槍だけに?」

 

「うーわカッツォ君ダジャレつまんなーい。うーわ、うーわ」

 

「こ、この野郎……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンラクside

 

 初見喰らった感想は「何だこのクソゲー!!」だったがよくよく考えてみればそうでもないかもしれない。要するに、アラジオが大のお得意な覚えゲーなのだ。

 それに気づくまでに俺達二人は合わせて五度死んで残りあと六回は死ねるわけだが……

 

晴天大征(せいてんたいせい)中の技はランダム選出、共通するのは最後の技は天晴(・・・・・・・)ということだけ」

 

断風(タチカゼ)断風(タチカゼ)火砕龍(カサイリュウ)灰吹雪(ハイフブキ)

 

「サンラク!コイツのモーションしっかり覚えろよ!!」

 

「言われなくとも!」

 

 断風(たちかぜ)は準備モーション中に行う墓守のウェザエモンの首の動きと、踏み込んだ右足の動きでどこを狙うのかが分かる。

 火砕龍(かさいりゅう)は発生までラグがあるので今となってはさほど脅威ではない。

 灰吹雪(はいふぶき)も同様に完全にプレイヤーを包囲するまで数秒あるので不意を打たれたならともかく、備えていれば回避は容易い。

 

「天晴に関しては試行回数が少ないからなんとも言えないが、回避行動ができないことは確定している」

 

大時化(オオシケ)雷鐘(ライショウ)入道雲(ニュウドウグモ)

 

「範囲ィィィ!!」

 

「あっぶな!?」

 

 大時化(おおしけ)は断風ほどの理不尽速度ではないが、それでも驚くべき速さで接近して掴み攻撃をしてくる。だがその軌道は直線でしかなく掴まれさえしなければそれは腕を空振りするだけの動作となり明確な隙となる。

 雷鐘(らいしょう)は回避自体は容易い、全力で走ればいいだけだからだ。ただ状況とスタミナ管理次第では走るだけのスタミナがなくて着弾する、逃げ切りはしたがスタミナを使い果たして次の攻撃を避けられない、などのアクシデントが起こり得るから注意。

 入道雲(にゅうどうぐも)、こいつが厄介だ。回避方法が単純に薙ぎ払いに追いつかれないよう走る、腕そのものを飛び越える、ウェザエモンの至近距離に存在する安全地帯に逃げ込む……どの選択肢もスタミナを確実に削ってくる辺りこの技が一番厄介だと思う。

 

「ふぅ……対応は最小限、次に繋げられる体勢を維持してウェザエモンとの距離は3メートルを維持……天晴(てんせい)までのリミットはおよそ30秒…」

 

 身体の挙動と思考を切り離すんだ、これまでの技なんて慣れればそう怖いものではない。最重要を検証しろ、考察しろ、対応しろ。

 回避そのものを封じて、パリィできる装備を破壊する天晴(てんせい)の対処法、その候補を脳内でリストアップし、1つずつ精査していく。

 太刀を破壊する……実現は困難だろう、少なくとも破壊自体は可能かもしれないがこの戦闘にそれを組み込んでいるとは思えない。

 アラジオと協力して天晴(てんせい)を出される前に撃破する……可能性はなくはないが、それなら晴天大征(せいてんたいせい)のコンセプトに違和感を感じる。それに、ずっと俺のターンをガチでやっているあの技を潜り抜けて攻撃というのは難しい。

 となればやはり最有力説はあれをどうにかして受けて生き延びる・・・・・・・・ことだ。

 

「………パリィか」

 

 考えに考えた末、その結論に辿り着いた。もはやそれ以外に【天晴(てんせい)】を防ぐ手段がないのだ。

 

「問題はどうパリィを成功させるかだが……」

 

 それもクリティカルを出すレベルのベストタイミングに太刀をパリィしなければならない。断風(たちかぜ)程でないにしろ、見てから対処することが困難な速度で振り下ろされる太刀を、だ。だがそれだと別の問題が発生する。

 

「あれ……弾けるのか?」

 

 身体がなんの問題もなく動くのであれば身をひねるなりの補強を入れることは出来ただろうが、下手に身体を動かして回避認定されればクリティカルの成功率は限りなく低くなるだろう。

 つまり俺はその場で踏ん張ってあの太刀を攻撃しければならない……が、下手なスキルでは力負けしてそのままぶった斬られるし、そもそも装備破壊効果が付与されたあれを素直に受け止めればこっちの武器が破壊される。

 

「考えられる最善、必要な要素は……あと3つ。アラジオ!スイッチ!!」

 

「了解!!」

 

 アラジオと交代しつつ、俺は辺りを見回す。どう動き、どう転がり、どう跳ぶのか、頭の中で即興でチャートを作り出し、俺らは行動を開始する。

 

あと二分、この調子なら耐えきれる!!!

 

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