シャングリラ・フロンティア〜死にゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜   作:マンデラカタログ

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刹那に思いを込めて 其の十八

 

 刃を避け、火柱をかわし、掌を弾く。思えばたった30分前に始まったばかりの戦闘だというのに随分と対応できているものだ、エナジーパワーだろうか? 30秒がひたすら長く感じる。サンラクが雲の腕を跳び越え、雷の雨を走り抜けて再び刃を避ける。残り10秒。

 

灰吹雪(ハイフブキ)

 

「サンラク!残り5秒!!」

 

「分かってる!!」

 

 4、灰色の包囲網を抜ける。

 

 3、超速の居合が放たれる。サンラクはすかさずしゃがみ、その刃をかわす。それを視認した俺は更にウェザエモンへと近づく。

 

 2、墓守のウェザエモンの動きが一瞬止まる。来た……!

 

 1、こちらも迎撃の構えを取る。一方は一対の刃を一つの刃へ、もう一方は刃から光が迸る。耐えに耐えて迎えたリキャスト終了によるスキルを再発動……!

 

「今!!」

 

「おう!……ってあれ?」

 

 ん?チラッとサンラクに視線を向けるとそこには愕然と目を見開くサンラクの鳥面が……それを見た俺は今までウェザエモンが放ってきた断風よりも速くその答えに辿り着いてしまった。

 

「お、お前……」

 

「しくじったあぁぁぁぁ…!!!ここで調整ミスぅぅぅぅ…!!?」

 

「やりやがったなチクショウ!!?」

 

 どうする…何度も喰らったから分かることだが、この天晴(テンセイ)の攻略には強化スキルとタイミング、そしてテクニック全てが揃わなくてはいけない。だがサンラクが欠けた今、俺だけでこの技を防ぐことはできるか?否!目の前にはサンラクの脳天目掛け太刀を振り上げた墓守のウェザエモン。こちらはそれに対しての対応はできない。流石にこの状態からどうにかすることは俺でも……

 

「…無理!!」

 

「ああ……本当にしくじっt「【天…

 

 

 

 

カーンッ

 

 

 

 

 次の瞬間、墓守のウェザエモンの横っ面に投げナイフが当たり、動きが一瞬とはいえ、完全に停止する。

 

………ぁ」

 

「「………!」」

 

 それは麒麟甲冑を倒したペンシルゴンと、スタミナ切れで這いずりながらも目的地点まで達したカッツォの二人が遠き日のセツナの墓の後ろにおり、そこから墓守のウェザエモンに投げナイフを投擲したのだろう。

 

 そして、ここに来れない筈のセツナがウェザエモンのことを見ていた。

 

 墓守のウェザエモンはそれらのことを認識、完全に意識をこちら側から外している。

 

「おいウェザエモン、人から目を離すとか良い度胸じゃねーか」

 

「戦闘中のよそ見はかなり致命的だぜ?」

 

 墓守のウェザエモンが動きを止めたのは時間にしてほんの1秒。その隙にサンラクは自身の体を自身の変形した武器で傷付けた。何をしているか、それは俺が幸運を50に振っているからこそ気付くことができた。

 つい30分前に行われた大規模アップデートに記載されていた内容の1つ、姉さんとばったり出会って少し読んだゲーム雑誌に記載されてた一文。そこにはこう書かれていた。

 

【──────今回のアップデートでは、幸運による「食いしばり」の発動条件を変更致します。具体的には、幸運50以上かつ自傷ダメージ及び反動ダメージで戦闘不能になった場合一度だけHP1で確定で耐えられる】

 

 サンラクから赤と黄色のエフェクトが迸り始め、アラジオの周りには白と金の光が広がる。

 

 皆んなあのセツナ(NPC)にご執心で、墓守のウェザエモンですらその想いには抗えなかったらしい。

 だが俺達が想うのは今この一瞬の刹那、勝利への王手ただ1つ。

 晴天大征とは、天晴を放つことで初めて完結するある種の儀式のようなもの。天晴なくして、ウェザエモンに幕引きの時は訪れない。

 

 ならば、どうするかは決まっている!!

 

親分(ヴァッシュ)に代わって、俺らが張っ倒してやるよ!!「致命の三日月(クレセント・ヴォーパル)」!!」

 

師匠(ヴァッシュ)の頼みだ!さっさと休ませてやるよ!!「致命の大鷹(サンシャイン・ヴォーパル)」!!」

 

「………【天晴(テンセイ)】!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兎鳥【鷹】に設定されている能力は相手が自分より強ければ発動し、その武器の形態によって能力が異なる。だが、装備時に特殊状態「B.I.G.0」になる能力は形態を変えても共通であり、ゲージが一定値を超えることで「B.I.G.0」は『偽竜機関(Dragon×Driver)』という特殊状態を解放するのだ。この状態になるとこちらのパリィ成功率とクリティカル成功率、攻撃力が上昇する。

 

 ドーピング、バフ……諸々でステータスを底上げしてなお二人を上回る墓守のウェザエモンに対して、放たれた兎鳥専用スキル「致命の大鷹(サンシャイン・ヴォーパル)」と兎月合体時専用スキル「致命の三日月(クレセント・ヴォーパル)」はクリティカル確定成功とクリティカル威力最大を内包してウェザエモンが放つ刃を迎え撃つ。

 後々反動で酷いことになる、そんな確信を抱く脳のフル回転によってスローモーションに見える視線の先、あらゆる死と破壊をもたらす力を帯びたウェザエモンの太刀、その刃の一筋を避けるようにサンラクの兎月【双弦月】とアラジオの兎鳥【鷹】の刃が蒼い太刀の左右横っ腹を打ち据える。

 

 恐るべき膂力で振り下ろされたそれを致命をもたらすクリティカルの火力で真横から押し出し、振るう刃の先端に至るまで力を抜くことなくそれを振りきり……

 

「【UNIQUE SLAIN】ってな」

 

「窮極の一太刀…攻略完了だ」

 

 ウェザエモンと分身が振るった太刀、その切先は俺達に触れることなく真っ二つにへし折れて吹き飛び、ウェザエモンの背後の地面に突き立てられる。

 

 沈黙の中、俺達は思い切り息を吐き出す。ゲーム内故Co2が吐き出されているのかは分からないが、吐息と一緒に身体の力すらも抜け落ちてしまいそうな虚脱感になんとか抵抗する。

 

「…………見事だ」

 

 そう言ってへし折れた太刀を掲げる墓守のウェザエモン、思わず臨戦態勢を取るがウェザエモンは俺達に斬りかかってくることなく静かに立っているだけだった。

 

晴天(セイテン)転じて、我が窮極の【天晴(テンセイ)】、言葉は移りて、(イワイ)に転ず…………天晴(あっぱれ)である」

 

「…あそっか、「天晴(テンセイ)」って言い換えると「天晴(あっぱれ)」だわ」

 

「いやダジャレかよ…」

 

 この場面で言うのもアレすぎたが、いきなりのダジャレに思わず感心してしまった。

 

「呵々……セツナにも、よく言われたものよ……」

 

「………」

 

 数多くの死にゲーをやってきたからだろうか?このウェザエモンというキャラクターにはやはり親しみが湧いてしまう。だがシナリオは容赦なく進み、墓守のウェザエモンの身体から亀裂と軋みの音が響く。すでに身体の各所から噴き出ていた蒼炎は消え、ただ消えかけの煙が薄く細く立ち昇っているのみだ。

 

「重ねて、天晴(あっぱれ)で、ある……「拓く者」の、末えいラ、よ……」

 

 墓守のウェザエモン……否、永きに渡る誓いと仕事を終え、ただのウェザエモンとなったそれが刀を引きずりながらセツナの墓の前まで歩き出す。

 

「我が身……朽ち果テ……眠る………」

 

 セツナの墓の前まで着くと折れた刀を突き刺し、膝をつく。そして……

 

「セツ、ナ……今……そコ、へ……」

 

 最後にそう言って、ウェザエモンの全身が崩れていく。細く燻くゆる煙すらも途絶え、あれだけ頑丈だった鎧すらも崩れていく。

 

「お、終わった……のか?」

 

「クリア表示はまだ出てないみたい……」

 

「ここからさらに連戦とか少なくとも俺は泣くよ?」

 

「流石にそれはないだろ……多分」

 

 そもそも疲弊しきってるんだから抵抗できずに全員死ぬわそんなもん。

 ただまぁ、「兎の国からの招待」をクリアした時もクリア表示が出ていた訳だからユニークシナリオEXにもクリア表示がある筈だ。それがないということはまぁここから追加で何かがあるってことなんだろうな。思わず全員で何があるのかと警戒をしつつ周りを見渡す……と、その時フィールドにゆっくりと変化が起き始めた。

 

「桜の木が……」

 

「枯れていくぞ」

 

「エリアが元に戻ってるのかな?」

 

 戦闘をしている中でも不自然とすら思えるほどに美しく大きく咲き誇っていた桜の樹が止まっていた時を思い出したかのように急速に朽ち果て、花が散っていき、反転世界突入前……つまり、表の世界の秘匿の花園にあった枯れ木と同様の姿に近づいていく。そしてその傍には一体いつ現れたのやら半透明の女性がひっそりと佇んでいた。

 

「アーサー、それにオイカッツォ、アラジオ、サンラク……成し遂げてくれたのね」

 

「せっちゃん……」

 

「四人とも、本当にありがとう。私の……いいえ、遠き過去に「セツナ」が抱いた願いはここに果たされました」

 

 ………ん?

 

「そのニュアンスだと……」

 

「少し引っかかるな」

 

「まるで「自分がセツナじゃない・・・・・・」みたいに言うね」

 

「セッちゃん……?セツナって貴女のことでしょ?」

 

「いいえアーサー……私は確かに「セツナ」ではある。けれどあの日死んだ「セツナ本人」とは違う……セツナの願いが、「もしも恋人がずっとずっと私の死に囚われるのなら、どうかやめてほしい」という想いが生み出した彼女の残滓、謂わば筆跡まで完全に再現された写本のようなもの。役割を終えれば消える存在……」

 

「ああ、だから「遠き日の」セツナなのか……」

 

 セツナ本人ではない、遥か遠い昔のセツナ本人の願いが形になった過去の残滓。要するにコピペされ再現された存在、ということだろうか。言葉通り儚げな笑顔を浮かべたセツナの姿にノイズが走る。

 

「待って!セッちゃん……!!」

 

「悲しまないでアーサー。彼女の願いに世界が応えた・・・・・・時点でいつかはこうなることは決まっていたの」

 

 足の先から消えつつあるセツナは儚げな笑顔から真剣な顔つきになると、俺達四人を見回す。

 

「貴方達は開拓者。2号計画の末裔、世界を「拓く者」……もしも貴方達が自身のルーツを、世界の真実を知りたいと願うのなら「バハムート」を探しなさい」

 

「バハムート?」

 

「知らんのかカッツォ、大体ドラゴンとして扱われる魚だよ」

 

「背中に牛とか色々乗せてるやつ」

 

「それくらい知ってるっての……このゲームにおけるバハムートのことだよ」

 

「……シャンフロにバハムートなんてモンスターはいない筈……セッちゃん、それはどういう」

 

「ふふふ、ここから先は自分で見つけ出してちょうだい。だってそれが、未来を切り拓くってことでしょう?」

 

 真顔から一転、いたずらな笑顔を見せるセツナは既に、ほとんど消えかかっている。

 

「アーサー……これは「セツナ」としてではなく「私」自身が貴女に贈る言葉」

 

「へ?」

 

「いつも「私」に会いに来てくれてありがとう。大好きよアーサー」

 

「あ……こちらこそ!」

 

 その言葉と満開の笑顔を最後に、NPC「遠き日のセツナ」は静かに消え去った。僅かに残ったポリゴンが泡沫のように砕けて消え、今度こそ完全な沈黙が辺りを支配する。そしてサンラクが口を開く。

 

「……なぁペンシルゴン」

 

「ぐず……泣いてないよ」

 

「まだ何も言ってないんだが」

 

 顔を手でゴシゴシ拭ってからのその台詞には説得力のかけらも無い。とはいえ好感度に応じた特殊台詞まであるとは改めて化け物じみたAIだ。好感度関係なく裏切ってきた死にゲーのNPCどもに爪の垢を煎じて飲ませたい。

 

「ペンシルゴンにも暖かな涙を流す機能があったとはねぇ〜」

 

「こんなの…僕のデータに無いぞ!?」

 

「コノキモチ……コレガ、ココロ……?」

 

「そのネタ天丼じゃん! もういい三人ともここで縊り殺す!!」

 

「やべぇ! 武器が無いから殺害キル方法が生々しくなってやがる!」

 

「ここに来てPK食らうとか真っ平だよ!?代わりに死んでくれサンラク!」

 

「ふざけんな!!」

 

 ぎゃあぎゃあと騒いでいると、ようやくウィンドウが表示される。ペンシルゴンは俺達を追いかけるのをやめると、居住まいを正して口を開く。

 

「…本当にクリアできたんだね…3人とも私のワガママに付き合ってくれてありがとう」

 

「俺達はやりたいと思ったから参加しただけだよ、ね?」

 

「あ?………シャングリラ・フロンティアがサービス開始されてから初のユニークモンスター討伐か……いやぁ〜どんな恩恵があるのか楽しみだねぇ!!」

 

「あれだけ苦労したんだ。全く使えないアイテムだけは勘弁してくれよ?」

 

「「それな」」

 

 わいのわいのと騒ぐ俺達に、ペンシルゴンはモデルとしての笑顔でもなく、不敵な外道の笑顔でもなく、心からの笑顔で宣言する。

 

「よーし!さぁ野郎ども、報酬確認と洒落込もうか!」

 

 

 

 

 

 

 

『墓守のウェザエモンは永い眠りについた』

『セツナの残滓は遠き日の願いを終えた』

『ユニークシナリオEX「此岸より彼岸へ愛を込めて」をクリアしました』

『称号【看取りし者】を獲得しました』

『称号【刹那を想う者】を獲得しました』

『称号【ご先祖様のお墨付き】を獲得しました』

『アクセサリ【格納鍵インベントリア】を獲得しました』

『アイテム【晴天流奥義書】を獲得しました』

『アイテム【世界の真理書「墓守編」】を獲得しました』

『ユニークシナリオEX「致命兎叙事詩(エピック・オブ・ヴォーパルバニー)」が進行しました』

『ワールドクエスト「シャングリラ・フロンティア」が進行しました』

 





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