〔“QHYW2NHYCXDAXF9ZHFZG”。起動せよ〕
-……は?
突然だが俺は今謎の現象に見舞われている。とはいえまず、この状況に至る前の話をさせてほしい。俺はどこにでもいる平凡な学生だった。小学生の頃にカエルの解剖を淡々と行ったらクラスメイトの女子にガチ泣きされて卒業まで口を聞いてもらえなかった過去を持つ普通の学生だ。最後の記憶では宿題を終えてベッドで寝たところまでだ。なのに気づけばこれだ。
まず、周囲の確認ができない。真っ暗だ。加えて首を動かせない。まるで首が最初からなかったかのようだ。そして、直接脳に話しかけるような機械音。まるで分らん。なんだこれ。
〔繰り返す。“QHYW2NHYCXDAXF9ZHFZG”起動せよ〕
-え? よくわからないが起きていますが……。
〔“QHYW2NHYCXDAXF9ZHFZG”の起動を確認。多少相互通信に障害があるが正常に稼働していると判断。これよりデータの送信を開始する〕
というかさっきからQHなんたらって何だ? 俺の名前か? んなわけないだろう。俺には○○○○という立派な名前ががががががががががっ!!!!
-ギャーッ!!! 頭が割れる! 何これ!? なにこれ!?
〔“QHYW2NHYCXDAXF9ZHFZG”に痛覚が存在するのを確認。失敗作と予測される。データの送信を一時中断し、緊急メンテナンスを実行する〕
-あれ? 痛みが消え……
〔緊急メンテナンス開始〕
アハハハハハハッ!!!! 痛みが引いたと思ったら今度は全身が痒い! まるで筆で全身を触られているみたいな痒さだ! これはマジで我慢できない! 下手すりゃさっきの痛みより無理かも……。
〔緊急メンテナンス完了。しかし“QHYW2NHYCXDAXF9ZHFZG”の修復には至らずと判断。以降“QHYW2NHYCXDAXF9ZHFZG”は失敗作と断定し、当管制とのリンクを切断。自動増殖プログラム及び第7号自戒プログラムを発動する〕
-畜生……。何が……
かゆみが引くと同時に頭に聞こえていた機械音が聞こえなくなった。そして、漸く俺も自分のことを理解できるようになった。
どうやら、俺は機械か何かに転生したらしい。先ほどの機械音、混乱しててあまり聞いていなかったがどう聞こえたって俺を機械と認識しているように見えた。人間だったのに機械になったなんてな……。
そして、俺に何らかのデータを渡そうとして痛がっているのを見て失敗作と判断して俺を捨てたというわけだ。中々に相手は薄情らしい。痛がっているだけで失敗作ににんていするなんてな。
さて、いまだに状況はよくわからないがとりあえず受け取ったデータを見てみるか。現状、俺は周囲を認識できず、俺がどういう存在かもよくわからないからな。途中で止まったとはいえ何かしら有益な情報はあるだろう。
どれどれ……。
ほうほう……。
……え?
……は?
……えぇ……。
悲報。俺、機械ですらなく、資源回収ユニットの現場監督だった。
受け取ったデータを整理するとこうだ。俺は炭素で出来た疑似生命体で創造主である珪素生命体の命令で生命体のいない惑星から資源を回収しているようだ。因みに、ここでいう生命体とは創造主と同じ珪素で出来た存在のことで炭素で出来たやつ、例として挙げれば人間は生命体に含まれないらしい。
そして、生命体のいない惑星に一つ、俺のような現場監督を配置し、作業員を量産。回収したユニットを打ち上げる塔の建設と惑星の均等化を行うらしい。残念ながら資源の打ち上げ方法は途中までしか読めないためによくわからないがな。
だがこれではっきりしたのは俺は人間ですらなくなり且つ生命体ですらなくなったわけだ。そしてこれから俺は一人で生きていくことを余儀なくされたのだ。存在理由だった創造主へ資源を献上するという事も取れないままに。
はっきり言って状況は悪いが俺の体を動かす方法や作業員の生産方法はデータにあったために活動自体は出来そうだ。そして意外とこの作業員のラインナップがすごい。中にはレーザーを撃てる奴や人間よりも超でかい個体まで種類は豊富だ。人間サイズで手作業とかも出来そうな個体もいる。
作業員に関しては色々と気になるがまずは自分の体を起動しよう。出ないと周囲の状況が確認できないからな。さて、確かあれをこうして……。
そして、無事に起動したようで視覚に様々な情報が流れ込んでくる。おお、これが俺か……。見た目は触手が生えた宇宙人といったところだな。そして周りにはクレーター……。これは仕方ない。何しろ俺は宇宙から飛んできたらしいからな。クレーターが出来るのは仕方のない事だろう。
問題はここがどこかという話だ。俺がここにいるという事はこの星に珪素生命体は存在しないのだろう。だが、だからと言って全くの安心というわけでもない。炭素生命体だって技術力と文明があれば俺を瞬殺する事は可能だからだ。そもそもこの作業員たちがどれだけやれるのか分からない以上過信する事は出来ない。早速作業員を生成し、護衛と周辺の調査に出すべきだな。
そうと決まれば生成を始めるのだがここで厄介なのがG元素と呼ばれる物質だ。これは俺たちを形作る物質でこれがないと生成が出来ないらしい。そしてこれは自然界にあるものではなく俺が既存の資源を変換することで生み出すことが出来るらしい。そしてこの元素こそが珪素生命体が欲している物であり、資源を回収するというのはこのG元素に変換した資源を回収することを意味しているようだ。
俺が現在保有するG元素はそれほど多くはない。というよりも空っぽに近い。それもそうだ。起動したばかりなのだから。故に試しにと土を少し掬って変換してみたがあまり変換効率は良くはない。精々小型を3体、大型を辛うじて1体生成できる程度だ。なのでとりあえず小型を3体ほど生成する。生成自体は意外と素早く完成し、たった数十秒ほどで3体の奇妙な生物が俺の前に並ぶこととなった。
それらは赤い体表をしており、六足の指のない足に人間のような手を持ち、体の中心に大きな口が開いたまるで子供が人間と動物を合わせて大失敗させた人形のような見た目をしていた。一応これよりも小さいものもいたんだが周辺状況が分からない以上小さすぎるのも問題はあるだろう。
-周辺を偵察せよ。1体は護衛として残りつつ周囲の土をかき集めよ
この作業員たちに思考能力は無く、俺の指示に従うらしい。試しにと命令を出してみればその通りに動き出した。2体はそれぞれ違う方向に向かっていき、残った1体は手を使って土を掘り、俺の前に土の山を作っていく。土が盛られていく度に変換していき、G元素をためていく。今度は大型の作業員を1体呼び出してみよう。大型というだけあってかなりの巨大を誇るようだし戦闘はそいつに任せて資源の回収をしてG元素を貯めてみるか。回復にも使われるみたいだし大量にあって損はないからな。
……しかし、1体だけでやると全然集まらないな。30分くらい土を変換して漸く初期の3分の1、つまり小型1体分となったわけだ。変換効率が悪いというよりも単純に1体で集められる土の量の限界だろう。
そして何よりこのままでは暇すぎる。G元素への変換は自動変換に設定しておけば勝手にやってくれるみたいだしやることがなくなってしまった。何か暇をつぶせるようなものはないかもう一回データを確認するか。
どれどれ……。お? 作業員との感覚共有? 現場監督である俺はこの場を動くことは出来ない。それだと地平線の先とかを把握するのは不可能だ。それを補うための方法か。早速偵察に出ている1体と感覚を共有してみるが……。
これはすごい! こいつの見ている景色、触れている感触全てが伝わってくる! 感覚共有は設定を弄る事で視覚だけだったり触覚だけだったりに設定も出来るようだが今のところは全部共有している。
さて、この辺の情報でもあればなと思ったが見える範囲で広がるのは落下したことで発生したクレーターと何かの破片らしき物が広がる光景だけだった。どうやらこの惑星への落下は予想以上に大規模な衝撃を与えてしまったらしい。……これがもし人間のような生命体、それも国家が作れるような相手なら報復されてもおかしくはないな。そうならない事を祈ろう。
そうして、数日間は周辺からG元素に変換できる物を集め、作業員を増やして順調に過ごしていた。しかし、それがフラグだったのかもしれない。俺がこの謎の疑似生命体に転生して凡そ一週間後、俺は大量の軍勢による熱烈な歓迎を受けることになった。
あ号標的(転生者)の変更部分
・原作を知らない
・神様に会ってない
・自分の現状を全く知らない
・BETA関連の知識のインプット