ACVD ヴェニデの剣豪 REvolution 作:D-delta
「霧……山……!!」
遠く聞こえる呼び声。
「き…………や……」
戦いの熱と衝撃。遠くなって聞こえなくなる声。
意識は現実から追い出され、霧山は夢を見る。
デタラメで不思議な夢じゃない。現実感のある夢。
それは遥か昔の記憶。まだ空に人が住まう時代の頃のもの。
※
記憶の奥底に隠れていた光景が見える。
通路と大窓。窓ガラスの向こうに飛んでいる人が住まう航空機を見ていると、自分の小さい体が温もりのある笑顔の男性に抱き上げられる。
「お前も一人で歩けるようになったな」
相手が誰か思い出せない。でも嬉しいという感情が湧いて、ずっと側にいたい気分だった。
※
心地の良い瞬間は過ぎ去り、研究室らしき一室が視界に入る。
視界にある光景。先ほどの男性が白衣を着ている姿と白衣を着た女性がなにか話している姿。
「?」
二人は構ってくれない。なんとなく興味の目はホワイトボードに向けられる。
そこには人体の図や理論について色々書いてあった。
もちろん理解は出来ない。
遊べるものはなく、あまりに退屈。
次第に眠気へと誘われて目を閉じる。
※
目を開く。
聞こえてくるのは耳の鼓膜に響く警報。
前より立てるようになった小さな足を大窓に向けて、まだまだ小さな手で窓ガラスに触れて、大人には程遠い目で炎を上げて落ちていく機体を見る。
「晴陽!」
誰かの名を叫んで近寄ってくる白衣を着た女性。
白衣を着た女性に抱き上げられ、大急ぎで運ばれていく。その最中に窓ガラスの向こう側に空を舞う人型の機体たちが見えた。
赤と黒の機体。灰色迷彩の機体。音速を超えた速度で撃ち合い、他にもたくさんの機体が戦いに参加している。
「こんなところで戦ってるなんて!」
「こっちだ、早く!」
呼び声。呼んでいるのは白衣を着た男性である。
「被害はどうなって――」
声を遮る爆発。揺れる窓ガラス。飛んでくる破片が窓ガラスを割り、割れたガラスが空に散っていった。
「クソ! 早く!」
白衣の男性に引っ張られ、電気の消えた暗い下の階層へと避難。
暗くなる視界。薄っすらと避難してきている人々が見える。
その内に悲鳴と轟音が響き、振動が伝わってきた。直後、視界の光景が傾いて自らの体が滑っていく。
二人から引き離され、まるで死の底へ引きずり込まれる感覚。
恐怖だけが身を包み、もはや現実から目を逸らすようにひたすら目を閉じた。
※
目を開ける。
視界に入るのは真っ白な天井と大きい照明。感じるのは現実でよく知る自分の体。
意識はハッキリしている。しかし寝たきりで体を動かせない。ただ天井と照明だけを見ているだけの状態。
「計画は?」
「ようやく軌道に乗ったよ。これから俺たちは晴陽と一緒に他社の研究グループに入ることになる」
「あの悲劇から数年……ここまで長かったわね」
「あぁ、長かった。もう悲劇がないように、晴陽には頑張ってもらおう」
白衣を着た男性と女性の会話。
視界に入らずとも聞き慣れた声で分かる。
「晴陽」
呼び掛けてくる声。
声を出して応じることが出来ず、寄ってくる白衣の女性を目で追った。
「頑張って」
目の前で告げられる願い。ただ黙って聞き入れる。
※
脳に走る電気信号。目を覚ます。
動けるようになった身体を起こし、ガラス張りの部屋から向こう側を見る。
「開発コード『一刀』の起動を確認」
「そのまま様子見だ。観察しろ」
「はい」
白衣やスーツを着た人たちがこちらを見ている。
「?」
その中に見慣れた二人の姿はない。
ずっと一緒にいたい二人を求めて「どこにいるの?」とガラスの壁を軽く叩いた。
「夫妻を求めているのか」
「起動は成功した。今すぐ眠らせろ。このまま生の感情が脳に焼き付くのは危険だ」
「眠らせろ」
「はい」
強制的なシャットダウン。
身体に埋め込まれた機械を介し、向こう側の操作によって本人の意思に関係なく意識を閉じられていく。
※
覚醒を促す電気信号。起動。
落ち着き過ぎるほどにボーっとする、静寂な意識。
ベッドから体を起こして部屋の中を見回す。
視界にある光景は実験動物を保管するが如き一室。身体状態、精神状態をモニターする機器類が置かれている。
「晴陽」
誰のものか分からない名前。
部屋のガラスの向こう側から呼ばれる。
「久しぶり。ずっと会えなくてごめんね、仕事が忙しかったの。寂しくなかった?」
ガラスの向こう側にいるのは白衣を着た女性ともう一人の女性。
誰か分からない。
なんの感情も出てくることなく、ただ話を聞く。
「晴陽?」
「呼び掛けても無駄です。上からの命令で処理をしてありますから」
「……そう、新しい仕様も施したのね」
「親のあなたには酷なことだと思っています。でも、命令は命令なので」
感情を押し殺して、涙を抑える白衣を着た女性。
なにか間違ったことをしたのか?
なにをどう思っても、今は二人の様子を見ているしか出来なかった。
※
目をまばたき。すると視界が暗くなった。
でも体ではどこにいるか分かる。
現実でよく知っている場所。ACのコックピットに座っていた。
「起動実験を開始します。機体から離れてください」
外側から響いてくる声。
それと同時に機体が起動。コックピット内に光が灯り、機体が目を覚ます。
――AMS作動 メインシステム 戦闘モード起動
「AMSの作動確認。正常に動作しています」
よく知っている感覚が訪れる。
落ち着いていた感情が急激に激しさを増し、殺意が引き上げられていく。
「……っ!」
コックピットモニターに敵も味方もいない。ただ周りの人間が敵味方の判定なく映っている。
殺すべき相手が誰だか分からない。
「これは見事だ。ようやく我々の完全な管理下で動ける戦力が出来たというところか」
「感情の消去は戦闘能力を低下させますからねぇ。平時では感情が薄く、戦闘時では感情を激化させる。機体システムによる制御もあるので高い戦闘能力を維持しつつ安全な管理と運用が出来るでしょう」
管理者と研究者の会話。
たまたま目に入り、じっと見つめる。
「
殺したい。
ここには敵も味方もいない。
殺意を抑える理由もない。
「
だからシステムが促す殺意のままに殺すことにした。
機体の手足で管理者の一人を殺し、研究者を殺し、作業員を殺し、機体を人間の血で染めていく。
「緊急停止! 緊急停止だ!」
慌てて止められる機体とシステム。
意識は静寂へと戻っていく。
※
また意識は激化していく。
コックピットモニターに映る敵ACの残骸。前に出てくる味方表示の車両と戦闘ヘリ。
殺意に染まる目で戦場を見つめる。
「制圧完了!」
敵となる者を斬り殺し、敵地の制圧が終わった戦場。
「目標を運び出せ。この基地にいるはずだ」
味方表示の兵士たちが基地内部に突入。
殺意に身を染め、しばらく待っていると兵士たちが目的のものを連れて出てくる。
「目標確保!」
「運び出すぞ!」
目的のもの――白衣を着た男性。
敵対組織のロゴを白衣に付けている。
「離せ! 晴陽を道具に変えた連中の言うことなど聞くものか!」
システムはそのロゴから敵味方を識別。
叫び、抵抗している白衣を着た男性を敵と認識した。
「
ただシステムに従う。人形のように。
両腕の実体ブレードで敵と認識した者を斬り殺す。周りの兵士を巻き込んで血に濡れる刃。
白衣を着た男性を真っ二つにした。
すると周りの兵士たちはこちらを見つめる。
「な、なんてことをしてくれたんだ!」
通信から飛び込んでくる兵士の怒号。
なぜ怒っているのかは分からない。
もはやどうしようもない状況で時間は過ぎていく。
※
過ぎ去る時間。歩いていく通路。
隣には前に一度会った白衣を着た女性が一緒に歩いている。
「晴陽」
知らない誰かの名前。
「久しぶりに話せる?」
「うん」
コクリと頷く。
「今までどうだった……? 苦しくはなかった?」
「なにも?」
思うことはなにもない。
ただ殺すものを殺し、斬るべき相手を斬ってきただけのこと。
その過程で抱いた感情はなにもない。
「そう、なんだ……」
「うん」
そこで会話が途切れ、ACが通れるほどの大扉の前に到着。
白衣を着た女性がカードキーで大扉を開く。
「付いてきて」
大扉の先にある一室。室内にはこれまで乗っていたACが置かれており、人が一人入れる程度の冷凍カプセルが用意されていた。
封印の場所。
白衣を着た女性の後を付いていき、室内へと入っていく。
「そこに入って」
開かれる冷凍カプセル。
無言で忠実に従い、冷凍カプセルの中へ入る。
「悲しいわね、こんなの……」
白衣を着た女性は涙を流して冷凍カプセルを閉じた。
「でも、みんながあなたを失敗作と言っても、ちゃんと私たちの子だから」
冷凍カプセルの稼働。
次第に意識が閉じられていく。
「生きていて、もし目が覚めたら……」
聞こえてくる声が遠くなる。
「幸せに……晴陽……」
その言葉、母親の言葉を最後に夢は終わる。
記憶の奥底に眠っていた思い出を脳に焼き付けて、目覚めの時が来た。
※
「霧山!」
意識に響く声。
「……!」
目を開く。見えるのは夢じゃない現実の光景。
夢から現実に引き戻された。
「良かった、生きていて……すげぇ心配したぜ?」
太陽が輝く空、涙跡のあるフレイドの安堵した顔。
地面に横になっている姿勢から上半身を起こす。
自分の身体を見れば、ボロボロで穴の空いた衣服越しに火傷が見えた。
怪我はそれだけじゃない。あちこちから血が出ており、肌には飛び散った機体や砲弾の破片が突き刺さっていた。
「……これで二度目か」
常人であれば重症で動けない怪我。
夢の中で見たものを思い出す怪我。霧山がデザインドになるきっかけ。
そしてデザインドとなったおかげで今まさに重症とならずに動ける。
「霧山?」
記憶の中で見た、白衣を着た二人。死にかけの命を繋ぐためにデザインドにしてくれた両親。ずっと呼んでくれていた自機と同じ名前。
忘れていたものが、忘れさせられていたものが、鮮やかに蘇ってくる。
「晴陽」
「え?」
「俺は霧山晴陽。思い出せたんだ、ようやく。これで……」
――ありがとうと言える
思い出せた両親への感謝を心の中でしながら、霧山晴陽は今日も生きる。
ちなみに霧山の記憶に出てきたクレイドルでの戦闘は私の二次創作『ACfA RAVEN LIFE』最終話の場面に当たります