ACVD ヴェニデの剣豪 REvolution   作:D-delta

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最終話 ヴェニデの剣豪

 最後の戦いが終わってから数時間後。

 

「調子はどうだ?」

「良好だ」

「ホントかぁ、晴陽?」

「もちろん」

 

 第23支部司令部の医務室にて。

 あちこちを包帯に巻かれ、治療を終えた霧山のところへとフレイドが面会にやってきた。

 

「アルスは?」

「姐さんは報酬を取りに行ってる。無事だよ」

「良かった、みんな生きているんだね」

 

 全員生きている。質問した霧山は安堵して笑みを浮かべる。

 

「変わったな」

 

 全てを思い出した霧山の変化をフレイドは口に出した。

 

「そう?」

「そうだよ。まるで、お前の本当の姿を見ているようだ」

「おかしいかな?」

「おかしくなんかねぇよ。前よりも人間らしくて俺は好きだぜ」

「ありがとう」

 

 霧山に変化があろうとも二人の間にある友情は変わらない。

 それを示すように拳と拳を軽く打ち付け合って、互いの気持ちを交わす。

 

「霧山! フレイド!」

 

 二人が気持ちを交わしているところに医務室に飛び込んでくる声。

 アルスが金塊の詰まったアタッシュケースを両手に持ちながら医務室に入ってきた。

 

「あ、姐さん」

「霧山は……って、なんか大丈夫っぽい感じだね」

「うん。アルスも無事で良かったよ」

 

 霧山の目がアルスの目と合い、互いが無事なことに安心する。

 

「なんか、霧山ってば雰囲気変わった?」

「全部思い出したんだってさ。で、この変わり様ってこと」

「え、マジ!?」

 

 霧山の変化感じたアルスの質問と変化の元を知った驚き。

 目をキラキラさせて「どんなこと思い出したの!?」と霧山へ質問する。

 

「全部だよ、アルス。ずっと忘れてた昔の思い出を全部」

「聞かせて聞かせて!」

「姐さん、落ち着いて。晴陽は治療したばかりなんだから……」

「ん? 晴陽?」

 

 興奮するアルスを落ち着かせようとしてフレイドの口から出た、晴陽の名。

 興味は疑問へと変わり、アルスは続けて「晴陽って霧山の機体の?」と告げる。

 

「俺の名前、本当は霧山晴陽なんだ」

「機体名が本当の名前ってこと?」

「うん。たぶん、俺の母親がこの名を機体に残してくれたんだと思う」

 

 記憶の中で乗っていたACには名前などなかった。

 でも、冷凍カプセルから目覚めた後には機体名が登録されていた。

 

 晴陽。

 

 この名を付ける人は一人しかいない。

 霧山を封印した母親だ。

 

「機体に子供の本当の名を付けるなんて、中々ロマンティックじゃん。じゃあ一刀はどういう意味なの?」

 

 アルスの質問は続き、霧山の思い出話は続く。

 そうして生き残った今日という日は過ぎていく。

 

  ※

 

 翌日。太陽が昇る早朝の時間帯。

 第23支部司令部の医務室にて。

 

「これで大丈夫だろう。もう安静にしなくてはいいが、一応気を付けるように。分かったね、剣豪君?」

「うん? うん」

「さぁ行った行った。次がいるんだ、早く外へ行きたまえ」

 

 年老いた軍医によって二度目の治療と包帯の交換を終えた霧山。

 剣豪という呼び名に疑問を抱きながら、年老いた軍医に追い出されるように医務室を出る。

 

「晴陽」

「フレイド」

「こっち、行こう」

 

 待っていたフレイドと合流。

 一緒に通路を進んで、建物の外へと出た。

 その先で待つのは兵士たちの視線。

 待機中の兵士も作業中の兵士も、霧山の姿に視線を送る。

 

「みんなの目、こっちに来てる。なんか変なことした?」

「いや、変なことはしてないはず。なんでこんなに注目されてるんだ……?」

 

 周りからの異様な注目。

 二人は警戒心と疑問を抱きつつ、アルスが待つ場所へ足を進めていく。

 

「あの、剣豪さん」

 

 その時、霧山と同じくらい若い少年兵に呼び止められる。しかもまた霧山に対して剣豪という呼び名である。

 

「死神部隊を倒したって基地中で噂なんですが、本当ですか?」

 

 少年兵からの質問は噂の確認。

 霧山たちが死神部隊を倒したことが噂になっていた。

 これが周りからの異様な注目の正体。

 それを二人は理解し、霧山が「そうだよ」と手短に質問に答えた。

 

「す、すごい! 噂、本当だったんですね!」

 

 霧山に向けられる尊敬の目。

 しかし全てが自分一人だけで出来たことじゃない。

 

「死神を倒せたのは俺の力だけじゃない」

「え?」

「共に戦ってくれる仲間がいたから、倒せたんだ」

 

 隣にいるフレイド、アルス、死んでしまったユキムラ。

 三人がいたから死神を倒すことが出来た。

 

「で、でも、剣豪さんが一番強いと聞いてます! 死神部隊を倒せたのはあなたの力があってこそでしょう?」

「そうかもね。じゃあ……」

 

 少年兵との会話を切り上げる。

 仲間がいたから出来たことを説明しても、バーンズのように個人の力に憧れを抱いているのだから会話にならない。

 

「フレイド、これがヴェニデなんだね」

「そうだな。力ある者が全てを統べる。三人いれば、その中でひと際強い者に注目が集まるってことさ」

 

 力ある者が常に先を行き、力なき者は置いていかれる。

 それがヴェニデという組織。

 

「別に俺は、力はどうでもいい。フレイドとアルスの方が大事だから」

「嬉しいことを言ってくれるな」

 

 軽く打ち付け合う拳。

 ヴェニデなど興味はなく、二人は互いの友情を感じながらアルスのところへ再び足を進めていく。

 

 そこから歩いて数分。

 

 二人はアルスの下へと来た。

 そこでは自分たちのACが並べられており、その内の霧山機とアルス機はスクラップも同然の状態で置いてあった。

 

「あ、来た来た! こっち!」

 

 そんなスクラップ同然の霧山機から顔を出すアルス。

 二人は駆け寄る。

 

「もしかして姐さん、晴陽の機体を直そうとか思ってる?」

「物は試し。直そうとは思ってた」

「ダメだった?」

「流石にねぇ……コックピット内も全部ダメになってるもん。これだと機体の特殊システムも引き出すのは無理だし、復元も不可能だわ」

 

 霧山機はアルス機と同様に徹底的に破壊されている。

 もうAMSによる人機一体の操縦は出来ない。

 

「別にいいよ、直らなくても」

「親が残した特別な機体だよ?」

「もうなくてもいい。それより大切なものがあるから」

 

 それでも霧山は機体にこだわらない。フレイドとアルスの方が大事であるから。

 

「分かったよ、晴陽」

 

 アルスは霧山を理解し、修復を諦めたように霧山機から降りた。

 

「じゃあアタシと晴陽の機体はスクラップとして売り飛ばすね」

「それでお願い」

 

 見切りを付けての廃棄と売却。

 親の形見を、今の世では比類なき圧倒的な力を手放すことを決める。

 

「晴陽と姐さんの機体壊れてるけど、機体はどうする?」

「うーん、UNACのOSを抜いて晴陽の機体にする感じかなぁ? アタシがフレイドの機体に二人乗りするから。晴陽はどう思う?」

「それで大丈夫。異論はない」

 

 誰がどの機体にするか、乗り換えも決まった。

 

「よし、それじゃあ早速売ってくるか! 二人共、ACに乗って手伝って」

「はーいよ!」

「うん!」

 

 三人は新しい一歩を踏みに行く。

 

  ※

 

 スクラップとなった自機を売り払ってから数時間後。

 三人は第23支部司令部から離れ、自分たちの家である基地に戻って来ていた。

 

「やること終わったね」

「そうだな。これからどうする?」

 

 霧山とフレイド。

 夕暮れの空を見ながらの会話。

 夜になりきれない暗くなり始めの空に星が流れる。

 

「また傭兵でもやる?」

「まぁAC持ってるしな、食べ続けるのに傭兵を続けるのもいいかも」

 

 遠くでは日常的な戦闘音が響く。

 

「二人共!」

 

 遠くの戦闘音を掻き消すアルスの声。

 見れば、基地から荷物を引っ張り出して来ているアルスの姿が目に映る。

 

「どうしたの?」

「引っ越しの準備に見えるけど、姐さん?」

「そう! 引っ越し!」

 

 突然の引っ越し。

 

「え?」

「え!?」

 

 霧山とフレイドは驚く。

 

「どこに引っ越すの?」

「いやぁ、アタシの故郷にねぇ。今の今までいつ連れて帰ろうか悩んでてさぁー」

「ん? 姐さん、連れて帰るって?」

 

 連れて帰るという言葉。

 アルス一人の引っ越しじゃない。

 

「実は、実はね? アタシの故郷って相手となる異性を連れて帰らないといけない決まりがあるんだよねぇ……それでずーっと二人を連れて帰るタイミングを待っててさ、それが丁度やりたいことがない今なんだよねぇ」

「ふーん、つまりアルスは自分の結婚相手を連れて帰るってこと?」

「ダァァーッ! そういうことなんだけども!」

 

 意味を探って霧山が簡潔に言葉にすれば、アルスは頬を赤くした。

 ついでに引っ越しする意味を理解出来たフレイドも顔を赤くする。

 

「姐さん、あの……」

「聞かないで。分かるから。今燃えるように熱いから」

「ま、まぁ、そうだね」

 

 フレイドとアルスは目を合わさずに顔を赤くして固まっている。

 そういった二人の姿を霧山は面白がって微笑んだ。

 

「引っ越そう。善は急げだよ」

「そ、そうね、晴陽。パパッと済ませて行こう。フレイドも手伝ってね」

「お、おう、姐さん」

 

 そうして行くべき場所へと、三人は引っ越しの準備を進ませる。

 

  ※

 

 あれからまた時間が経つ。星々が輝く夜空の時間帯。

 ACにたくさんの荷物を載せ、それなりに長い道のりを進んだ先に目的地に辿り着く。

 

「ここ?」

 

 辺り一面は荒野と砂漠。どこを見渡しても故郷と呼べるような人の住処はない。

 

「ここで合ってる。呼び出すから待ってて」

 

 アルスはフレイド機から降りる。

 地面に足を付くと、なにもなさげな場所へと歩いて砂の中に手を突っ込む。

 

「あった、これ!」

 

 そして砂の中から現れるのは開閉装置と通信機器。

 

「二人共、ちょっと待っててねー!」

 

 通信機器を使ってアルスはなにかを話す。

 その話している様子は楽し気であった。

 故郷に帰ってきた。アルスの今の様子はまさにそれで言い表せた。

 

「よーし、開くよー! 機体の足元に気を付けてー!」

 

 そう言った直後に開く地下への道。大地の下に巧妙に隠された地下都市の出入り口が現れる。

 

「こんなところにこんなものが……」

「すっげー! 姐さん、こんなところに住んでたのかよ」

「さぁ入って入って!」

 

 地下に降りるための斜向エレベーターに乗り込み、三人は降りていく。

 金属に覆われた地下に繋がるエレベーター。次第に見えてくるのは地下世界。

 斜向エレベーターが終着点に付けば、まさに地下都市と呼べる光景が広がっていた。

 

「お帰りなさい、アルス」

「ただいま! お姉ちゃん!」

 

 出迎えに出てきたのはアルスの姉。

 金髪で綺麗な美少女といった姿。アルスよりも身長が小さく、物静かな雰囲気を持っている。

 

「そちらのお二方、初めまして。私はこの地下都市を統治するノイン家の者、アベリア・ノインと申します」

「俺はフレイド・イーダー。こっちは霧山晴陽だ」

「初めまして」

 

 初めましてのご挨拶。

 

「ふーむ」

 

 互いに自己紹介をすると、品定めか、もしくは一人取っていこうとしているのか、アベリアの怪しい視線が霧山とフレイドに向けられる。

 

「随分若い……しかも二人も……」

「ちょっとなにしてるの?」

「あ、なんでもないわ。さぁ早速結婚の支度を始めましょ!」

 

 アルスの疑問に対してアベリアは誤魔化すようにそそくさと支度を向かって行った。

 

「あ……」

「どうした?」

 

 霧山に突然の気付きが訪れる。

 

「ねぇフレイド、結婚って誰と誰がするの?」

「そりゃあ姐さんと俺じゃないのか……ん?」

 

 フレイドも気付く。

 それまで浮かれていて気付かなかったが、ここには三人いる。

 そして霧山とフレイドの中にある結婚という概念は男女一人ずつのもの。

 では三人の中で誰と誰が結婚するのか。アルスの口から確定的なことが言われていない以上、疑問が生まれる。

 

「アルスー?」

「姐さーん?」

 

 その疑問を解消するためにアルスを呼ぶ。

 

「ご、ごめん、ちょっとアタシも支度手伝わないといけないからー!」

 

 だが、二人の話を聞いていたアルスは逃げてしまった。

 

「まさか、姐さん!」

「一妻多夫ってこと?」

「晴陽行くぞ! 姐さんを問いただす!」

「分かった」

 

 次第に結婚の内容を察せてくれると、二人は逃げたアルスを追いかけていった。

 三人の新しい生活は波乱から始まるのであった。

 

  ※

 

 こうしてヴェニデから剣豪と呼ばれた霧山は表舞台から姿を消した。

 死神を倒したという剣豪の噂は一人歩きして、力を欲する者たちの憧れとなる。

 

 そして戦いは新しい局面を迎える。

 

 VERDICT WAR

 

 タワーを巡った三大勢力による新しい戦争。

 新しい戦場に霧山が現れた時、一人歩きしていた噂は一人の剣豪に収まり、ヴェニデの剣豪という異名が戦場に轟くだろう。




これで実質的に完結です。
ここまで読んでくださってありがとうございます。

作者としてリメイク前のモヤッとした部分を解消出来たと思っています。
速筆の練習の方は芳しくなかったですが、色々と発見も出来ました。
結果は総じて悪くなかったです。

最後に設定資料集を出して完結としますのでよろしくお願いします。
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