【SAO】 †ネトゲの姫が開幕爆死した件†    作:数門(かずと)

15 / 22
第十五話 しかし石碑は事実を告げる

メッセージが届かない。

何故。

何故だ。

何度やっても。

何度やってもだ!

 

何度も送る。

ログからコピーして送る。

手打ちで送る。

大文字と小文字を変えて送る。調整して送る。

半角と全角を変える。

記号を変える。

†を両端に追加してみる。

 

だが、全てダメだ。全く送れない。

返ってくるのは全部同じ。「メッセージの送信に失敗しました」だ。

 

……名前が変わったとか!?

 

そうだ、あいつにはリネームカードを渡していた。

あのアイテムが、何らかのVerUpによって、プレイヤーネームも変更できるようになったとか……。

街中にいる奴らのほうが、情報力があるのは確かだろうし。

俺の把握してない何かに関連づけたのかも。

そうだよ、パワーアップしたリネームカードによるプレイヤー名変更だ。

 

 

……いや、それも変だ。漆黒なら、連絡よこす気がする。いや、絶対によこす。

 

 

そもそもだ。寝ぼけていたが、なんでフレンドリストからメッセージが送れないんだ?

フレンドリストは、連絡不可状態を示す灰色……。

 

 

 

「……あッ!!!」

 

 

 

思い出した。そういや、別ダンジョンに入ってる間はメッセージ送信ができないんだっけ。

 

俺も本当に寝ぼけてたな。漆黒とメッセージでのやりとりができない環境にいること自体が久々だから。

すっかり忘れていたぜ。

 

しかし恥ずかしい。

 

あーもう、バカか俺は。

 

ここまで真剣に悩んでいたのが馬鹿みたいだ。

思わせぶりなシステムメッセージに振り回されすぎたわ!

 

いや俺が悪いんだけど……。

 

とりあえず、近くの木を、ていていと殴って憂さ晴らしする。

 

 

ふう。落ち着いた。

 

 

しかし、朝からダンジョンに潜るかね。他の奴らは俺と違って朝起きて昼戦って夜寝るみたいな生活してると思ったが。

意外に廃生活でもしてんのか。

 

まあいい。漆黒のLVならそこらのダンジョンで何かあることがありえん。

ましてや、戻るPTは攻略組でもなんでもない低中層のPTだ。

意外に漆黒の強さに頼り切って、ダンジョンに長くいるだけかもしれんしな。

 

さて、俺の方は久々の完全なソロだ。

自由気侭に狩りを楽しむとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

    第十五話 「しかし石碑は事実を告げる」

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

……おかしい。

 

次の日の朝、何事もなく前日の狩りを終えた俺は、一人考えていた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

昨日の早朝、朝、昼、昼過ぎ、夕方、夜、深夜、そして今。一度も送れていない。

確かにダンジョンで夜を明けることはある。

 

だが、それはかなり廃人の話だし……既に2日目なんだぞ?

俺みたいな外こもりでもあるまいし……。

あいつらのLVは聞いた話、かなり低いようだった。勿論俺たち最前線LVからみてということだが。

彼らが挑むようなダンジョンで、そう長くかかるだろうか。漆黒もいるのに。

 

 

胸騒ぎがする。

 

 

まさか……。

 

いや、ありえん。漆黒はソロでもやっていける腕がある。

あるとすればトラップ?凶悪なトラップとか。

しかし、あいつは戦闘スキル重視の俺と違い、鍵開けスキルは俺以上にあげていたはず。

それに危険管理の鉄則は何度も教えている。

よほど高難度ダンジョンじゃないとそれもありえん。

あいつは馬鹿だがゲームの腕はヘタじゃない。自滅するような真似はしない。

 

いや、まさか高難度ダンジョンにいったのか?

漆黒の腕の強さを過信して。

だが今の最前線は51層。おりしも廃ギルドの主力が凄まじいダメージを受けたあとだと新聞で読んだ。

今の空気としては攻略はかなり慎重になっているはず……。

 

 

 

……念のためだ。念のため。気のせいだろう。

 

 

 

 

だが、俺は思う。『ここにいくこと』……それ自体が、不安の証。

何かの予兆を感じてる証拠なんだろうと。

 

 

不安に思ってない奴が、此処に来るはずがないんだ。

 

 

湧き上がる不安や警鐘を無視して、俺はその場所に足を運んでいた。

 

 

   あの、絶望が刻まれる場所に。

 

 

足取りは、重い。敏捷パラメータが最低値に落ちたかのような錯覚だ。

筋力パラメータもだ。体が重い。武器や装備が重い。

顔が重い。その場所に、たどり着いても、顔を上げるのに凄く力が必要になった。

 

 

 

 

まさかだ。

 

 

いや、そんな馬鹿な。

 

 

ありえないし……あってはいけない。

 

 

 

 

ありえないでくれ。頼む。

 

 

 

そして、始まりの街、その中央に立つ、石碑の前で……

 

 

 

死者の名前が刻まれる”それ”を、ゆっくりと見上げた。

 

 

 

 

 

 

そして、それをみた。

 

 

 

 

 

 

そこに記されている文字は、

 

 

 

たった1つの、

 

 

 

 

動かせない真実を俺に突きつけた。

 

 

 

 

 

 

漆黒は

 

 

 

 

 

 

 

漆黒の名前に横線が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無かった。

 

 

 

 

 

 

奴は、

 

 

 

 

 

 

 

無事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふう」

 

 

どっと疲れた。……考えすぎたか。

とすると、本当に未だにダンジョンにいるのか。

 

念のため、昨日漆黒に聞いた<<チャレンジャー>>ギルド全員の名前を確認する。

えーっと……。

 

ほっとした。良かったぜ。こちらも全員無事なようだ。

てことは、全員で夜通しダンジョンか。2夜連続で。

意図的にこもってんのか……。

 

ま、どれであろうと高難度ダンジョンなら、漆黒はともかく他に犠牲者が出るだろうし。

閉じ込めるゆーても、5,6人いて脱出アイテム誰一人ないなんてないだろ。

低層でこもってる線が一番高いかな。やれやれ。

疑心暗鬼になりすぎだったか……。

 

なんかもう最近、テンションの上下が無駄に激しくて困る。

裏切ったと思ったら裏切ってないし、死んだと思って死んでないし。

 

つうか、このオチはなんだよ。無駄にハラハラさせやがって。

俺の一人相撲伝説がまた一つ追加されてしまったし。

 

全く、マジで疲れた。

 

付き合う方の身にもなれといいたい。

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうしようかな……」

 

せっかく久々に始まりの街にきたんだ。

 

長居なんて死んでもしたくはないが、掲示板見るのと新聞だけ買って帰るか。

 

下層の情報もちょっとは知っておいていいだろうしな。

やれやれ……。

 

フードを深くかぶって顔を隠し、新聞を買うと人気のない適当なベンチに座って読み始める。

 

『今日の最前線情報!』

『街をでてみよう!初心者でも倒せる雑魚10傑』

『アイングラッドちょっといい話』

『今週の非マナープレイヤー!』

『定期情報:確認済みのオレンジギルド一覧』

『今週の注目プレイヤー』

 

……相変わらず怖い記事が並んでるな。非マナープレイヤーとかは低層荒らしか。

漆黒とかのってないといいけど……。

 

注目キャラクターとか。やめてほしい。こういうのがあるから、万一を考えて街にいれないんだ。

ネカマ特集とかあったら死ぬぞ。とりあえず、記事作った奴を殺してから。

まあ、基本的にポジティブな内容のようだが……。

ゴシップ新聞だってあるんだからな。

 

 

そう思いながら読んでいると、ある一つの記事にぶち当たった。

 

 

『注目のオークション!今回の目玉は?』

 

 

オークションか……。当然のように名前必須だから俺には全く縁がないが、

こういうところで実用アイテムや有名アイテムの情報を得るのは大事だね。

 

 

『今回の注目オークションは、なんと一品物!?

 今まで誰の目にも出たことがないアイテムでーす!

 もしかすると二度とは出ないこのアイテム、高いと言ってもお金で買えるうちが花かもよ?』

 

へーこんだけやってて、一度も出たことのないアイテムね……。

 

一体なんだろ……う……

 

 

「な、なんだと!!!!」

 

 

人気のないところでよかった。

それでも、その叫びは想像以上に響き、遠くにいた人がこちらをチラ見する。

だが俺はそれどころではない。

なぜなら、その記事に書かれたアイテム、それは……。

 

 

         【リネームカード】

 

だったからだ。

 

 

『なんと!このカード、名前の通り、名前を変更できるんです!

 最も、変えれるのは装備品のみ。

 ですが、これがあれば、本当の意味での「あなただけのオンリーワン」が作れてしまいます!

 装備品一式をまるごと自分色に染め上げれちゃう!

 カッコイイ名前でもいいし、恋人の名前でも、自分の名前だっていいんです!

 記者もとっても欲しい!愛着ある装備には是非これを!

 そんなアイテムを幸運にも入手できたのは【チャレンジャー】さん。

 先日の兎狩イベントで、偶然入手できたそうです!

 あの低確率の中でゲットって、どんだけレアな確率なんでしょう!羨ましい!

 みなさんもこの幸運にあやかってはいかがでしょう?

 気になるオークション掲示板のナンバーはこちら!』

 

 

「馬鹿な……!」

 

 

あのアイテムが【チャレンジャー】のドロップだと!?

 

ふざけるな!!

 

あのアイテムは間違いなくオンリーワン!

俺たちの入手と共に他の兎は掻き消えたし、イベントは終了した!

俺たち……いや、漆黒以外に、アレを持っている奴がいるはずがない!

 

そして……

 (それはお前が持っておけ)

 (そうだな、信頼の証とでも思っとけ)

あいつが、売るはずがない!絶対にだ!

 

何故彼らがこのカードを持っている?

何故こんな掲示板に出品されている?

何故漆黒の名前が一言もない?

何故こいつらが倒したことになっている?

何故漆黒から連絡がない?

何故こいつらは、ダンジョンからもどってきている?漆黒が帰ってないのに!

 

 

「くっ……」

 

 

何があった……。確実に何かがあった!

俺はベンチを破壊せんばかりの勢いで、片手を振り下ろす。

一体何だ?

このたった2日の間に、何が起こった?

 

オークション掲示板をチェック。

流石オンリーワンアイテムだ。取引額が凄まじく高騰している。

あの馬鹿高い回廊結晶二個分はあるか……?終了までには3,4個分かそれ以上ぐらいになってるかもな。

取引終了日は一週間後か。

だがそんなことはどうでもいい。

 

出品者は……やはり、漆黒ではない。確か【チャレンジャー】のギルドリーダーか。

出品時刻は今日の朝。

他には……。

 

「……!これは……ッ!」

 

馬鹿な……。

チャレンジャーのメンバー……リーダーではないが……は、他にもアイテムを出品していた。

特に装備……中には結構なレアものもある。

だが、俺にはそれはレアでもなんでもない、見慣れたものだった。

 

それもそのはず。

 

なぜなら、それは【漆黒の装備品】だったから。

奴の兜、奴の鎧、奴の具足、全てが揃っている。

 

「嘘だろ……!」

 

事ここにいたり、俺も、出来るだけ考えないようにしていた可能性を考えなければいけなくなった。

漆黒の身に、何かあった。

漆黒がチャレンジャーにプレゼントしたなんてことを考えるほど、俺はお花畑ではない。

 

考えたくはない。考えたくはない。

だが、俺の理性が感情とは無関係に、与えられた情報から勝手にそう結論を出す。

俺の理性が恨めしい。気付きたくなかった。

そう、漆黒が。

 

「死……?」

 

あの殺しても死なないような奴が?

あの糞馬鹿脳天気で、最も死とは無縁そうな奴が?

あのいつでも笑ってるような奴が?

もう笑わない?

くだらない言い回しも、もう二度と口開くことはないのか?

 

……いや、落ち着け。石碑にはない。だから死んではいない。

だが、だからといって全く楽観などはしていなかった。

それに近い状況が起こってるはずなのだ。じゃなければこの状況はありえない。

 

 

()()()()()()()()()()

 

     

そして、()()()()()()()()()

 

異常。何もかもが異常だ。

 

……いや、シンプルかもしれない。考えたくないだけで……。

 

今度も、そうあって欲しくはないという感情と裏腹に、やはり理性は冷徹に結論を出す。

【チャレンジャー】……すべての鍵は、奴らが握っている。

まずは、情報だ。より正確な、多くの情報を。

 

熱くなる心と反比例するように、頭は冷えていく。

 

……これをやるとすると、踏み越えなければいけない。

1年以上も回避した、あの一線を。

どうする……?心の天秤が揺らぐ。

 

片方の天秤には漆黒の情報……片方の天秤には1年守り通した羞恥心。

 

 

 

だが、結局のところ……躊躇は一瞬だった。

 

 

 

 

 

俺の決断は早く、そして行動はそれ以上に速かった。

 

俺は、静かに掲示板に、装備品のほうのオークションに【即落札金額】を入力した。

おそらくは相場より圧倒的に上。多分、だした方も売れたらOK。売れなきゃ自分で使うぐらいの気持ちだろう。

だが俺は躊躇せず買った。家用にためた、ここしばらくで貯金した金の大半が吹き飛ぶが、買えるだけまあいい。

 

 

 

実に……俺の名前が、1年と3ヶ月ぶりに、公の場にでた瞬間だった。

 

 

 

もっとも、それが劇的なことだと知ってるのは、誰もいないだろうけど。

 

……もし、これで。もしもだ。

 

         

真実がもしも、()()()()()()……。

 

         

俺は、決して、()()()()ぞ……。

 

 

俺の心を、黒き情念が埋め尽くしだした。それはまるで漆黒の闇のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空から、雨が降り始めた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

第十五話 「しかし石碑は事実を告げる」  終わり

第十六話 「そして彼も罠にかかった」    へ続く




気軽な感想・評価、歓迎しますし喜びます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。