【SAO】 †ネトゲの姫が開幕爆死した件†    作:数門(かずと)

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第十六話 そして彼も罠にかかった

俺達は――そう、調子にのっていた。

 

何もかも、とは言わないが、かなりいー感じだったからな。

 

風が吹いてるって奴よ。

楽して大儲け、一度味わったらやめられねえぜ。

クソ真面目に毎日頑張るなんてバカのすること。

賢い奴ってのは、俺たちみたいなプレイをいうのさ。

 

ほんっとSAOってのは最高のゲームだぜ。

 

 

俺達は、全てが上手くいっていた。

そう、何もかもがな……。

 

 

 

 

 

「おーう。リーダー!いるか?」

 

俺は、宿屋の一室……俺自身が副リーダーを務める、チャレンジャーの野郎どもがいる部屋の

ドアを蹴破るようにあけ、そこに駄べってるはずの仲間と、リーダーに声をかけた。

 

「あー?なんだよグリフィス」

 

仲間の一人が顔をあげて返す。

リーダーだ。相変わらずだるそうな奴だ。

ちったあ命令ばっかせずに、自分で動きやがれってんだが。

動くのはほとんどこの副リーダーの俺ばかりだ。いずれ乗っ取ってやろうか。

まー今は気分がいいから黙っててやるが。

 

「いやあそれがよー。装備一式だけど早速売れたぜぇ!

 しかも即決!これだけで回廊結晶分は余裕で黒字だろー!」

 

「おいおいマジかよ。へっ、来てんじゃん?」

「げ、あの馬鹿高い値段で売れたのかよ。クソ、賭けに負けたじゃねーかボケが」

「買った奴バカじゃねーの?(笑)」

「だからいったろ?こういうのはとりあえずだしてみろって」

「うぜー」

「あの一財産分ある回廊結晶をカバーするかよ……」

 

仲間が勝手にはやしたてる。

まー俺もあの値段で売れるとはまさか思わなかったからな。

 

「もう来まくりだろコレは。俺らの時代?   ・ ・ ・

 んでさー早速だけど取引いってくっから、あいつの装備もらってくぜー」

 

「あーいーぜ。さっさとすましてきてくれ。ちょろまかすなよ」

 

「わーってるって。しねーし、額なんて掲示板みりゃ一発だろ」

 

チッ、一々ケチ臭い奴だぜ。

だが、まー甘いな。

今回は掲示板じゃ見えねえ金があるんだよ。

 

さっき、落札直後に届いたメッセージを、俺は眺める。

それには、こう書かれていた。

 

『初めましてー。私、落札させてもらった†愛舞天使猫姫†と言いますー。

早速ですが、落札物の取引に入らせてもらってもいいでしょうかー。

あとスイマセン><

実はオネガイが一つあるのです。

落札した私の事は、出来る限り秘密にし、お一人できてください。

もし秘密にしてもらえるなら、料金は1割増しでおはらいしますので。

では取引場所についてですが……』

 

それをみて、ニヤリと笑う。

たった1割といえど、元の額が額だ。

黙ってるだけ。それだけで大金が俺だけもらえるんだからなんとも美味しい話だ。

 

それに、黙っててという理由もなんとなく想像はつく。

 

(もしかすると女かもしれねーし……)

 

それだとさらに美味しい話だ。名前は痛めだが。

SAOの中に女性キャラクターは数少ない。

勿論だからこそネカマもいるが、顔が割れてるSAOでは逆に完全にネカマプレイしてる奴はごくわずか。

 

女だとすると、黙っててくれっていうのも理由がつくし。

さらに美人ならなおいい。今後楽しめるかもしれん。

 

(これは本当に流れきてるっぽくね?最近はツキまくってんなー俺)

 

「さて、じゃあ取引場所にいってくっかね……」

 

当たり前だが、PKの可能性がある安全エリアの圏外で取引をするバカはいない。

街の中で取引するのが一般だった。

 

あっちからの連絡だと、取引場所は始まりの街の外れを指定している。

自分の拠点からも遠いエリアだし、問題はない。OKの返事を送る。

 

早速『分かりましたー。すぐいきますねー><』という返事があり、俺の心は楽しい予感でみたされた。

 

さてさて、いってきますかね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

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     第十六話 「そして彼も罠にかかった・表」

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく後、俺は指定の場所に立っていた。

相手も来たようだ。

 

街中での指定した場所に現れたのは、全身コートにフードを深くかぶった奴だった。

目まで覆うような仮面もしている。

 

そいつは、何故か声をださず、空中のホログラムキーボードでメッセージを打ち込んでくる。

……珍しい奴だ。

 

『どうもです~グリフィスさんですか?。†愛舞天使猫姫†ですー><。では早速取引でいいですか?』

 

「グリフィスだ。いいけどよ……。なんで声ださないんだ?メッセージは面倒だぜ」

 

『スイマセン……。声を出せない事情があるんです~』

 

「ふーん……、あんた、女か?」

 

『いいえいえ、男ですよおおお』

 

そう聞くと、やたら焦ったように、身振りでも激しく拒否してくる。タイプミスってるぞ。

男だと?男って思わせたいならもっと楽な方法あんだろうが。

 

「じゃあ、声を聞かせてくれよ。そしたら納得するからよー」

 

『そ、それはちょっと……。姉に声は隠せと言われてるので~。それも含めて秘匿事項です~!

 これ以上聞くようなら、1割増の件はなしにしますが』

 

姉に隠せって「言われている」って……。なんて抜けた野郎……いや、女かね。

女なら、それを隠す理由は分かる。なるほどね、だから1割増しか。

今のSAOは色々と”物騒”だしな……。ククク、俺がいうのもおかしいが。

 

「あーいやいや。そういうつもりはねーよ。じゃあ取引と行こうか」

 

だが今は取引が優先だ。こいつをつけたい気持ちはあるが、

金をもって帰還が遅いと、あいつらが何いうかわかったもんじゃねえ。

まあ、名前が分かってれば連絡はいつでもとれる。なら追跡はいつでもできるさ……。

 

 

右手を軽く振り、メニュー画面を空中に出現させ、さらにトレードウィンドウを開く。

装備品をトレード画面にいれていき、相手の金額を確認。確かに1割増しになっている。

 

『念のため繰り返しますが、私のことは誰にも秘密にしてくださいね。

 余り人に知られたくないので……。知り合いもほとんどいませんし。

もし秘密にしてくれるなら、今後ともひいきにさせてもらいますから』

 

「ああ、まかせとけって。俺はこうみえても約束は守るからよ」

 

適当にいって、相手を安心させる。

まあ、今後とも金をもらえるんなら、あえてバラす必要性はさらにない。

俺だけ1割の上乗せを独占したのを、仲間に知られても面倒くせーしな。

バラすときは、お楽しみの時だな……。

 

「そういやあ、今後ともっていうなら、どうだ?フレンドにならねえか?

 こんな物騒な時代だ。仲間は多いほうがいいだろう?」

 

「えッ?」

 

甲高い声が漏れる。……これは確定か?ククク。

 

『す、すいません。え、いいんですか!?あ、でもえーと、そうですね。今すぐはちょっと答えられないです~。

 仲間にも聞いてからにしますので……。また連絡しますってことで、いいですか?』

 

「ああ、いいぜぇ。じゃあ、連絡待ってるからよ。頼りにしてくれていいぜ」

 

『わかりましたーありがとうございます^ー^  ではではっ』

 

「おう、気をつけな」

 

仲間ね……ククク、中々いいコネができたぜ……。こいつは美味しそうだ。

 

さて、帰るか。

 

あんまり長引くと、上乗せ交渉してたんじゃねえかとか、

あいつらがいらねえ想像をしかねないからな……。

 

 

 

 

 

 

――

――――

――――――

 

 

 

 

 

「うーっす。戻ったぜえ」

 

「グリフィスか……。おう、ちょろまかしてねえだろうな」

 

俺が扉を開けると、早速リーダーが声をかけてくる。

チッ、ねぎらいもせずにいきなりいちゃもんつけかよ。いけ好かねえ奴だぜ……

ま、実際してるけどな。

 

だがそんなことは勿論悟らせない。

 

「してねーよ。落札金額があれだから……、一人あたりこれでいいだろ」

 

チッこいつら誰一人狩りにもいかずダラダラ待ってたのかよ。

よっぽど金が待ちどしかったようだな。仲間に正確に1/6ずつ金をトレードしていく。

ギルドメンバーが俺いれて5人と、残りはギルド資金だから、一人あたり1/6ってわけだ。

売り払ったのは上層レアの装備一式。全員の装備が一新されるほどの金額だしな。

 

まあこいつらが喜ぶのも分かる。

なんといっても額が額だからな。

興奮してきたのか、各々勝手にしゃべりだす。

 

「いやー、すげー実入りだな。初めてだろこの額はよ」

 

「たったあれだけでこんだけだろ。マジぱねえな」

 

「しかしちょれーもんだな。本気のオレンジってのは毎回こんなに稼いでんのかあ?

 ちまちまやってる俺らがバカみてーじゃん」

 

「そのかわりグリーンを維持できてるだろ。だから今までも楽しめたんじゃねえか」

 

「でもさー。やっぱそれだとスカッとはしても、美味しくはねえじゃん。

 それによ、オレンジだから何かされるってわけでもねーみてえじゃん。増える一方じゃん」

 

「前みたいな"黒いの”に使った手を使えばいいじゃん。

 ああすれば、始末出来る上にグリーンのままアイテム取れるっしょ」

 

前みたいな手ね。アホかこいつ。

あんなもんが何度も出来ると思ってんのか。

大体あれはそこに座ってるアギトが一回きりっていってた奴だろ。

 

「ふん。俺だってやりたいのはやまやまだけどな。

 そう簡単にできたら苦労しねーんだよ。金も手間もな。

 アイテム取れたのは、俺の作戦が良かったのと、あの”黒いの”が馬鹿だったからでそうそううまくいくか」

 

案の定、アギトが反論する。

 

「でもアギトのいう手間ってさー、逃げ帰ってきただけじゃん」

 

「はっ。てめーらだったら即死してたと思うがな」

 

「馬鹿しか掛からない作戦を何自慢してんだ」

 

「それすら思いつかない馬鹿もいるようだがな」

 

「んだとコラ……」

 

「あん……?」

 

チッ、アギトは入ってきたばかりのせいか、どうも喧嘩をよく起こすな。

 

「おいやめとけ。どのみちあれはもうできねーんだろ?仕込みもさ。

 それに、あれは”黒いの”が高LVだったから直接は避けたいって、アギトの提案があったからやったんだろ。

 ”あの方法”にこだわりたくてやったわけじゃねえ」

 

険悪な雰囲気になりそうだった場を、リーダーが納める。

頭わりいくせに一々面倒くせーやつらだって思ってんだろうな、こいつのことだから。

 

「けっ……大体よ、あの”黒いの”まだ死んだと確定してるわけでもねーんだろうが。アギトがそういうだけで」

 

「はっ、何度も言わせんな。だからこそおもしれえんだろが」

 

「そりゃ何度も聞いたけどよ、実際死んでねえじゃん」

 

「『今』はな。だがいずれは確実だね。ああいう状況に陥った奴の末路は悲惨だぜぇ?

 気が狂うか自殺するか特攻死するか……キヒヒ、目の前で見れねえのが残念なぐらいだ。

 今も、あの”黒いの”無駄に苦しんだり悩んだりしてるかと思うと、俺は楽しくてたまらねえぜ」

 

「お前の言ってる状況が本当なら、そりゃ楽しみだが……」

 

「マジだっつってんだろ。キヒヒ、あー楽しみだ!早く乗らねえかなあ、名前。早い奴はそろそろなんだがよ」

 

こいつら何度も同じ話題を……。アギトも頭悪い奴らばっかだぜ。

アギトも新入りのくせにやたら口挟んでくバカもいるしよ。

 

「へっでもアギトよー。直接やっても”黒いの”やれただろ。所詮ソロだぜ?」

 

「……ふん、あの装備ならLV低くねえよ。グリーン維持できてアイテム奪えるならってお前らが同意したんだろうが」

 

「けっ、オレンジがこんなに美味しいと知ってりゃ、同意しなかったぜ」

 

「じゃあ今度から直接奪うのか?そうすっと、グリーン捨てることになっけどよ」

 

「別にいいんじゃねえの。それに『あそこから眼をつけられてる』んだろ?

 グリーンの振りするのも限界じゃねえの」

「俺もそれでー。今更”タダ働き”とかやってられんわ」

「全くだぜ。直接奪えば、前みたいなのよりさらに取れるんだろ?むしろさっさとやっときゃ良かったぜ」

 

「まあそれは同感だけどよ。グリーンはどうすんだよ」

 

「そんなもん、オク用とトレード用に一人だけ残しときゃいいだろ」

 

「オレンジでも悪くて黒鉄だろ。所詮ゲームだし、楽しんだもん勝ちじゃん」

 

「そーそー。真面目ちゃんは他にまかせてよ、美味しいとこもってくのが、賢いやり方だろ」

 

「法律なんてねーところで、まともにやるほうがバカって感じ?

 つかこんなクソゲーで真面目プレイしてられっかよ」

 

「それにさー知ってるか?オレンジになって好き勝手いたぶれるってことはよー。

 女の手とか切り飛ばしてさ……」

 

へえ、そんな方法もあるか。なるほどな。そりゃグリーンじゃできねえな。

 

「あひっ、それマジかよ。てらやべえじゃん俺ら。もういくしかねーだろそれは」

 

「もっとも、美人なんてSAOにほとんどいねーけどな」

 

ギャハハちげーねえ、と下卑た笑い声が響く。

その後は、如何に女を見つくろうか、襲うかという話にシフトしていった。

 

しばらくして。

 

「おい、グリフィス!おめーもなんか女の情報だせよ。なんか上玉の情報ねーのかよ」

 

「あーん?つっても大概でただろ。閃光アスナだろ、軍の秘書だろ。あと鍛冶屋の奴と……」

 

「そいつらは、脇もかたいし本人も相当やべーって話だろ。そうじゃなくて、もっと手頃なのとかよ。

 隠れた奴とかいねーのかよ。いくらすくねーつっても、まだ女も1000人以上はいるはずだからよ」

 

「そーそー。あと出来れば、あの”黒いの”みたいに完ソロな。仲間いると面倒だからよ」

 

隠れた女ねえ……。あー、そういや一人いたな。ついさっき。ただソロじゃねえだろうけど。

だがソロよりもさらにいい、女ギルドかもしれねえ。女は群れたがるからな……ククク。

 

「あー……。知ってるような知らねえような……忘れた。思い出したらいうわ」

 

ククク。そうだよ、最初に俺が試せばいいんじゃねえか。

まあ、さんざ楽しんだ後なら教えてやってもいいかもな。

が、この場は黙っておくか。

 

その後、会話もグダグダになっていき、一人がせっかく金を持ったしパーッと使いにいこうぜと提案する。

 

そうだな、確かに欲しいもんはいくらでも……。ん?

 

バンッ!

 

扉にサッと近寄り、開け放つ。ここに隠れる場所はないし、俺の索敵スキルはそこそこある。

 

……誰もいない。階下に逃げたような気配もない。

 

「何やってんだグリフィス」

 

「ああ?何でもねえよ。誰かいる気がしただけだ」

 

「で、誰もいませんでしたってか?チキンは大変だな」

 

アギトが挑発してくる。このタコが……。

 

「あー俺よりLV低いひよこがなんか言ってるなあ~」

 

「てめーら面倒くせーことしてんじゃねーよ。グリフィスも気にしすぎだ。じゃあさっさとでるぞ」

 

チッしゃーねー。

本当イラつく奴ばかりだ。

 

だが、なんだかんだいって今日一番美味しい思いをしてるのはこの俺だ。

今後もせいぜい出し抜かさせてもらうぜ……。

そんでギルドリーダーの座も、いつか奪わせてもらおう。

実質的な行動は俺が全部やってんのに、いつまでも副リーダーでいられるかってんだ。

そんでリーダーになったら、うっとうしい新入りアギトもなんとかしねーとな。

あの黒いのをハメた立役者だからって、いつまでも口出ししてきやがって。

 

俺はそう考えながら、さてどんな風に金を使うか、いかに獲物を探して楽しもうかと、心踊らせていた。

 

 

 

 

だから俺は、気付かなかった。最後まで。

 

 

 

 

 

                

この時、話を聞いていた、6()()()が、本当はいたことに……。

 

 

俺が感じた、誰かいるような気配は、実は当たっていたことに……。

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

     第十六話 「そして彼も罠にかかった・裏」

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『わかりましたーありがとうございます^ー^  ではではっ』

 

「おう、気をつけな」

 

 

そういって、男は立ち去る。

 

 

 

……問題なく終わったかな。

 

 

奴は人目につかないところで、転移結晶を使って拠点エリアにいくつもりだろう。

 

俺はそれを、最初こそ黙って見送った。

 

だがグリフィスが通路の角を曲がり、視界から消えた瞬間、俺は猛然と、しかし静かに追いかける。

幸い俺の追跡スキルは高く、隠蔽していないたどった足あともはっきり見える。

 

さとられず、見失わず。その距離を維持し、俺はグリフィスを追う。

 

追いながら今回の取引を振り返る。

 

まずまず悪くなかった。いい出だしだ。名前も何も言われなかったし。

あっちがこっちを女かネカマか、どう思ったかは判断できないが、正直な話どっちでもいい。

要は『ナメられれば』いいのだ。警戒されたら次に連絡した時、会いづらくなる。

大事なのは獲物だと認識されること。勿論女と思ってもらえば最上級だ。

 

 

そのために、久しぶりにネカマごっこをするはめになったが……。

 

 

『男のふりをしている女のふりをする』という、ややこしい反面、

一旦ひっかかるとまず抜け出せないという、やや高度なネカマテク。

 

相手の自己申告を信じない、疑い深い奴にこそ効果が高い。

しかし、隠しているとは言え、素顔でやるというのはなかなかに精神ダメージが大きい……。

はわわ的に体をクネらせるのは……練習風景は誰にも見せられない……。

最悪の場合にそなえ、裏声練習もしてたりしたのは秘密だ。

 

だがまあ、万一のために今後に繋がることをほのめかしたら、あっちからフレンド要請してきたし。

上手くいったというべきか。当然却下するが、これでかなり次の連絡が取りやすくなったな。

最も、言わなかったらこっちからそういう風に持ち出したけどね。

 

 

ここまでするのは訳がある。

 

俺は、彼らをかなり警戒していた。

 

率直に言えば、善人の可能性は低いと思っていた。

 

あの状況から善人を推察するほど俺はのーみそお花畑ではない。

 

 

正面から強引にいくのはスマートではない。万一逃げられた場合相当きつい。

このSAO、一旦逃げられると本気で身を隠した奴を追うのはかなり難しい。

俺は自分自身の経験から、それをよく知っていた。

 

出来る限り意識されず、出来る限り警戒されず、出来る限り調子に乗らせ。

彼ら自身が狙われてると気づかぬ間に、全てを終わらせよう。

歴史の1ページにすら、自身を出すつもりはない。全ては闇から闇へ。それが理想だ。

 

 

 

 

そう考えてる間に、グリフィスは、ようやく路地裏にたどりついたらしい。

そして俺は、男が発する言葉を聞き取る。これが大事なんだ。

 

『転移!スラムエッジ!』

 

スラムエッジ……。低層の、ごった煮という言葉が似合うような、館というより家だらけの街だ。

人もそこそこ多い。宿屋も空室も多く、通路は入り組み、迷路の様子をかもしだしている。人を巻くにはうってつけだ。

安い穴場の宿屋があったりするので、ここを拠点にしてる奴も多いと聞く。

 

面倒な街に飛んだな、とは思わない。確かに巻くには有利だが、追跡自体を悟られにくいという点もある。

探知・追跡に自信をもつ俺にとって、むしろ好都合というべきだった。

まず、このエリアを知るのが第一段階だった。ここが最難関といってもいい。クリアできてほっとする。

 

すぐに追うべきだ。だが、やることもある。

万一見とがめられないよう、俺は装備を全て変更し、マントもフードも解除し一般人……別人のように姿を整える。

そしてグリフィスの転移から数秒後、自分も転移した。

 

 

 

街に転移した後は、素早く辺りを確認する。中央広場なのでやや人がいる。

全神経を集中、すぐに見つかる。というかのらのらとゆったり歩いていた。

せっかくゴーストで形や明るさ大きさをしっかりと脳に焼き付けたのに、残念ではある。

が、楽にこしたことはない。

2重テレポートはしなかったようだ。唯一の警戒要素。まあ普通しないものだが。

 

 

転移を行わないなら、ここがどれだけ複雑であろうと見失うことはない。

確実に、アジトを突き止める。まずはそこからだ。

 

グリフィスは後ろを一度も確認せず、長々と歩いた後、ある宿屋に入っていく。

他の家同様、周りも木造の建物に囲まれたスラムの一区画。

ここから先は、追う必要はない。

地図にマーカーをつけて場所をしっかりと把握。

その後ゴーストを使い、中身をじっくり確認する。ここは一組のグループしか泊まっていないようだ。

2階の一つの大部屋に、4人ほどが居座っている。グリフィスを足せば5人か。

事前に、漆黒に聞いた情報と一致する。

全員の形、オーラ量、色をしっかりと覚える。オーラから推定されるLVもだ。中層程度といったところか。

 

おそらく、グリフィスはあの部屋に入るのだろう。階段を登ってるのがオーラとして見える。

聞き耳スキルの出番だ。きっと、品についての会話があるはず。それと、情報が漏れてないかの確認だ。

ここから必要なのは何よりも幸運、そしてそれを待つ慎重さと忍耐深さだ。

ここまでは中々幸運だった。これからもそうだといいが……。

 

ただし、オークションの期限がある。あれは人に譲りたくはない。万一流れたら取り戻す労力は絶大だ。

そこまでには情報を掴みたいものだ。

 

 

 

              

さて、情報収集だが、()()()()()()()()()……。

 

 

俺が考えたのは一瞬。すぐに、移動を開始した。

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

 

 

 

奴らの会話が響く。聞き耳スキルにより、壁越しでもしっかりと聞こえる。

 

 

……中の会話は、中々に胸糞悪い内容で溢れている。

こいつら、全くプレイヤーキラーに罪悪感を感じてねえ。

 

……考えるのは後だ。今は聞くだけに努めよう。

 

そして会話は進み、そろそろ聞くこともなくなり立ち去ろうと思ったその時だった。

 

急に、チャレンジャーの副リーダー、グリフィスが、何かいる気配がする、とドアを開いた。

 

……無論、そこに俺はいないが。

 

 

危ない。やはり、家の中から聞くのは外れだったか。

 

だが、彼らはすぐに部屋からでてくるだろう。ここも立ち去らないとな。

聞きたいことは、充分に聞けた。ツイている。

これ以上は、普通の会話の中では出てくるまい。

 

さて、次は先回りしてあいつら全員の顔を覚えないとな。

こっちのほうはそう難しくはないだろう。

 

           

部屋の……いや、()()()()。2階の雨どいから張り付いていた俺は、ひらりと身をよじり、無音で地面に着地する。

 

そう、壁越しに会話を聞くといえど、扉越しだけとは限らない。外から聞くという方法もある。今俺がやったように。

 

周りが家という遮蔽物に囲まれたスラム街であることと、

ずっと出っ張りをつかみ続け、細い足場に立ち続ける必要性から

かなりの筋力値や敏捷値を要求することとかはあるけどな。

 

 

 

 

 

しかし、おかげで色々な情報を掴むことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奴らが漆黒を何かしらの罠にかけたこと……、もはや疑いない。

 

 

 

 

 

 

情報はたくさんあった。幸運は続いているらしい。

漆黒を罠にかけた奴は新入りらしいな。アギトという名前。それでちょっと軋轢があるっぽい。

それは、どうも、非常に金がかかり、かつ手間がかかるらしい。そしてアイテム入手はおまけとも。

 

金がかかり、アイテム回収は難しく、だが同時に人に危害を加えているにも関わらずグリーンを維持出来る方法。

 

……心当たりはある。

 

他にも色々話していたな。装備を変えるだの、家だの女だの……。

 

 

 

 

いや、一番重要な情報があった。

 

これを警戒して、正面からはいかなかったが正解だった。

 

奴らは……漆黒が”初めて”ではないようだ。そして、最後でもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ間違いない……<<チャレンジャー>>は……

 

 

 

 

 

犯罪者集団……つまり『オレンジギルド』だったのだ……!

 

いや、殺戮を躊躇しない、レッドギルドか……!

 

 

 

 

 

 

 

そして……奴らは……奴らは!

 

 

 

間違いなく!

 

 

漆黒を!

 

 

殺そうとしやがった!

 

 

いや……それどころか既に死地に……!

 

 

 

 

 

 

俺の心を、暗雲が満たし、雷鳴のように内なる声が轟く。

 

あいつら……ッ!!!!!!

 

許せん……。

 

オレンジを目の前にする恐怖よりも、怒りが体を駆け巡る。

 

 

 

殺す。

 

 

 

だが、優先順位は忘れない。今一番大事なのは、奴ら自身の処遇ではない。

 

一番大事なのは漆黒の安否。

そして、おそらく自力ではなんともできない状況に陥っている漆黒の、救出のための情報だ。

 

 

”漆黒がハマった罠”の実態はなんとなく想像がつく。

俺の想像通りなら、恐らく、救出はそう難しくないはずだ。

そう、難しくない……今の俺にいけないダンジョンはなく、倒せない敵はいない。

 

あと少しの、情報さえ有れば。

 

 

……だが、奴らが偽グリーンであり、オレンジという本質が知れた以上、正面からノコノコでかけて

「漆黒の行方を教えてください」なんて聞きに行くのはバカの極みだ。

「私を消してください」というのに等しい。勿論真実なんて教えてくれるはずがない。

 

 

勿論だからといって諦めたりは絶対しない。オレンジ相手には、オレンジなりの方法がある。

それを実行するだけだ。

 

今の俺にはツキがある。いけるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待っていろ漆黒。

 

 

 

 

俺が、必ず助ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてチャレンジャー共。

 

必ず、後悔させてやる。

 

人を呪わば穴二つ。業には報いを。罠には罠を。

 

             

お前たちは既に……()()()だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

第十六話 「そして彼も罠にかかった」 終わり

第十七話 「開かれる漆黒への道」   へ続く




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