異界冒険譚シリーズ【ミラ編】-少女たちの冒険譚-   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第1話『私は私の夢を叶える為に、冒険者になります!!』

歴史とは、人が歩んできた足跡であり、多くの叡智が積み重なって出来た記録である。

 

だというのに、世界のどこにもその歴史を記した書が無いのだ。

 

いや、無いというのはちょっと乱暴な言い方だったと思う。

 

一応あるにはある。それぞれの国に……それぞれの国が中心であったり、有利であったりする様な書き方をされている歴史書が。

 

それに何の意味があるのか!!

 

あ、いや、国に対する愛着を付けるとか帰属意識を付けるとか。そういう面では意味があるな……。

 

何の意味があるのかは言い過ぎだ。反省。

 

いや、それでも、それでも言いたい。

 

この世界に生きる一人の人間として、長い歴史を歩んできた人類の一員として!

 

世界の歴史を正しく記した歴史書が必要であると!

 

そう考え、私は行動する事にした。

 

しかし各国の歴史書を集め、それを照らし合わせていく内に、いくつかの謎に当たる事となった。

 

この世界に多く残された謎……!

 

例えば、多くの逸話を残した伝説の聖女セシルは本当に実在した人物だったのかとか!

 

意図的に隠されたとしか思えない勇者ルークの存在とか!!

 

世界の始まりとも言えるアルマ様の奇跡よりも前の時代の話だとか!

 

資料が紛失していたり、そもそも記載がほぼなかったりする謎を、私は知りたい。みんなだって知りたいはずなのだ。

 

……まぁ。そういう意味で言うと、始まりの聖女と呼ばれるアメリア様については資料が多すぎて、逆に謎になっているという稀有な人物なのだけれど。

 

この人も知りたいと言えば知りたい。

 

何せ『べべリア聖国』とか謎の多い聖女オリヴィア様辺りの書籍を参考にすると、歩くだけで世界に光が溢れたとか。

 

手を振りかざすだけで国中の人間から怪我や病気が消え去り、その後も百年以上生きたとか、意味不明な話ばかり載ってるから……。

 

まぁ、聖国さんの歴史書は基本的に話半分くらいで見てた方が良いのは確かだけど、でも……アメリア様の次の世代の聖女様が書いてる書籍にも書いてあるし……うぅむ。謎だ。

 

とにかく!

 

謎を全て解き明かし、世界の全てを記した歴史書を作る必要がある。

 

そう私は考えたのである。

 

という訳で、思い立ったが吉日。私は早速行動する事にした。

 

「冒険者になりたいのですが、受付はこちらでよろしいでしょうか」

 

夢の第一歩。それは冒険者になる事である。

 

 

 

私は冒険者組合の受付で、お姉さんに元気よく登録の依頼をしたのだが、お姉さんは私を見て固まっている。

 

ん……? おかしいな。

 

私はお姉さんが何か困っている様な気配を感じて、受付に置いてあった案内板を見た。

 

『冒険者組合への依頼及び、冒険者登録はこちら』

 

うん。受付先は間違えていない。

 

んんー?

 

私は首を傾げながら、ハッと一つの答えに辿り着いた。

 

そうか。声が小さかったのか。なるほど。

 

「あの! 冒険者になりたいのですが!」

 

「っ!? あっ、申し訳ございません。ミラ様。反応が遅れまして」

 

「いえいえ。問題ありませんよ。受付の業務は大変ですものね」

 

私は大勢の人で賑わう組合のロビーを見渡しながら、焦る受付のお姉さんに微笑んだ。

 

多くの人を相手にするというのはそれだけで大変だし、中には我儘を言う人も居るだろう。

 

そうなれば、私も無理を言う事は出来ないというものだ。

 

等と考えていたら、少し離れた受付で叫んでいる人を見つけてしまった。

 

しかも、よく知っている人だ。

 

まったくもう! 人の上に立つ貴族だというのなら、その誇りを持って欲しいものですね!

 

「失礼。少々外します」

 

「え? あっ、お待ちください! ミラ様! 我々で対処出来ますので! ミラ様!?」

 

私は受付で騒いでいる方の所まで歩いてゆき、その肩を軽く叩いた。

 

「お取込中失礼。少々よろしいでしょうか?」

 

「はぁ!? 私は今、忙しい……! って、ミラ! ミラじゃないか! どうしたんだ? こんな所で」

 

「『こんな所』ではございません。殿下。ここはヴェルクモント王国の民が、日々の糧を」

 

「まぁまぁ、そういう固い話は良いじゃないか。ここで会えたのも何かの縁だ。どこかの店でゆっくりと話でもしよう。私たちの未来についてとかな」

 

「殿下。前にもお伝えしましたが、私は殿下とご結婚をする事は」

 

「殿下だなんて他人行儀な呼び方は止めて…… 私の事はセオと呼んでくれ! ミラ!」

 

「セオドラー王太子殿下。その様に、家族でない異性に対して軽率に振舞うのはよろしくないと、私は具申いたします」

 

「なんだ? 嫉妬しているのか? 気にしなくても私の目にはミラしか見えていない。安心してくれ」

 

「その様な話を私はしていません」

 

私は頭が痛くなってくるのを感じながら、殿下の手をやんわりと私の手から外した。

 

まったく。王族がこんなところで何をやっているのか。

 

高位貴族がここに来るだけで、皆さんは緊張されてしまうというのに!

 

「ふふ。つれないな。そんな所も可愛いが」

 

「殿下。長いお話になる様でしたら、別の機会にお願いします。御覧の通り、現在冒険者組合は大変混雑しております。我々が業務を妨げては、民の心証もよくありません」

 

「ふむ。確かにな。ミラの言う通りだ。では早めに撤退し、茶でも飲みに行こうではないか。王都に最近良い店が出来たと聞いてな。是非ミラと共に行きたいと思っていたのだ」

 

「……承知いたしました。お供させていただきます」

 

「うむ! では早めに用を済ませるとしよう。君、この書類の処理を頼む」

 

「お、王太子殿下……ですが、この件は慎重に検討を重ねさせていただいて」

 

「なんだ貴様! 考案者の欄が見えないのか? ミラが間違った事を言うとでも思っているのか!? ミラを侮辱するつもりか!! 貴様!!」

 

「いえ! その様な事は!!」

 

「殿下!」

 

私は再び受付の肩を脅し始めた殿下の腕を掴み、引っ張る。

 

とは言っても同じ年代の中でも飛びぬけて力のない私は、殿下を動かす事すら出来ない……が暴走を止める事は出来た様だった。

 

殿下は、いつものだらしがない顔をしながら私の名を呼ぶ。

 

「どうした? ミラ。あぁ、なるほど。君の素晴らしい考えがどうなるのか気になるのだな。任せてくれ。私が必ずやこの意見を通して見せようではないか」

 

「私の意見書……?」

 

何の話だ? まったく分からない。

 

どういう事だろうと、受付の男性から書類を受け取ろうとして……何故か殿下が私の前に割り込み、受付の男性から書類を奪い取り、その後、私に手渡す。

 

何でそんな面倒を……まぁ良いか。今は内容が大事だし。

 

「えー。『歴史研究の重要性と失われた多くの魔術を発見する必要性』について……考案者、ミラ・ジェリン・メイラー伯爵令嬢!? 私、この様な書類を書いた覚えが無いのですが!?」

 

「あぁ、当然だ。これはハリソンと私が作り上げたものだからな」

 

「お兄様が!?」

 

「あぁ。ハリソンがミラの日記帳を持ってきてな。そこに書かれた内容からこの素晴らしい案を見つけたのだ。そして是非ともこの考えを実行するべきだと考え、書類に記し、こうして冒険者組合へ持ってきたという訳だな」

 

「な、なんて事を……」

 

恥ずかしい。

 

私の日記を勝手に持ち出すだけでなく、その中を見て! 私の夢を! この様な形で!!

 

くっ、顔が熱くなっていた。

 

「という訳だ。早く処理し、最優先事項として行え」

 

「殿下! その様な暴挙はお止め下さい!」

 

「何が暴挙だ。ミラ。君は誰よりもこの事業の重要性を理解している筈だ」

 

「それは、そうですが……それでも、冒険者組合にこの事業を行っていただく事は出来ません。殿下にだってお分りでしょう? 冒険者組合は世界国家連合議会の実行組織として存在します。確かに、日々の依頼と実行はそれぞれの組合で管理運営される物ですが、依頼主の存在しない特定依頼を発行する際には、世界国家連合議会の可決が必要だと。だからこそ、受付で殿下の依頼をお受けする事は出来ないんです」

 

「それは理解している。だからこそ、まずはヴェルクモント王国冒険者組合で実行し、その有用性を示してから、国連議会に案の提出を行うつもりなのだ」

 

「では、その費用はどこから支払われる予定なのですか? 陛下が私の様な小娘の案に予算を使う筈がありません」

 

「それは、その通りだ。だから……その、だな」

 

「……受付の方。殿下は依頼料に関してどの様に仰っていましたか?」

 

「おい!」

 

「っ!」

 

「殿下! その様に民を脅すのはお止め下さい。それはいずれ王となる御方がとってはならぬ行動です」

 

「……分かった。すまぬ」

 

私は改めて、受付の方に意見を伺うべく一歩前に踏み出した。

 

殿下と受付の方の間に。

 

「では改めて、お願いします。大丈夫。何を話しても罰則などはありません。私がさせません」

 

「は、はい。その……費用は組合で負担するか、依頼料無しにして強制的に受けさせる様にと」

 

「殿下!!」

 

私は勢いよく振り向いて、ばつの悪そうな顔をしている殿下にその怒りをぶつけた。

 

なんという事を言っているのだろうか。この人は!

 

「仕方ないだろう。他に方法が無いのだ」

 

「ならばこの様な依頼を出さなければ良いのです! 『歴史研究と失われた魔術の発見の依頼』等という、短慮で、子供じみた夢が書かれた依頼は!」

 

怒りのままに叫んだせいか涙が滲んでしまう。

 

「その様に言うな。今回の件は私が悪かった。だから、そんな風に自分の夢を否定しないでくれ。ミラ。君の辛そうな顔を見ていると私まで辛くなってくる」

 

「申し訳ございません。この様な姿を晒してしまい」

 

「いや、すまないな。私も少々暴走し過ぎたようだ」

 

私は涙をハンカチで拭いながら、熱くなりすぎた心を落ち着かせるべく息を吐いた。

 

そして、依頼を取り消し、今日はこのまま殿下を連れて帰ろうと考えていた……のだが。

 

「お話中、申し訳ございません!」

 

「なんだ貴様は」

 

「俺……あ、いや、私はヴェルクモント王国冒険者組合に所属している冒険者アランです! わ、私にミラ様の依頼を受けさせてください!」

 

「え?」

 

「あ! 私も受けます!」

 

「私も!!」

 

「俺もやりますぜ! ミラ様!」

 

「な、何故……皆さん。話を聞いていなかったのですか!? 依頼料が無いのですよ!?」

 

私は驚きながら私と殿下の前に出てきた、青年に話しかけるが、彼はやや緊張したまま笑い、頷いた。

 

なん……? どういう? 何が起きてるんだ?

 

「俺の両親は、魔物に殺されました。でも、そんな奴は世界にいっぱい居て、俺の悲しみも妹の絶望も、その辺に転がる石ころみたいなモンだったんです。でも! でも、ミラ様が怪我をした俺や妹を希少な光の魔術で癒してくれて、食べ物をくれて、寄り添ってくれて! こうして働いて、妹を養える様にしてくれたんです! だから、ミラ様の夢なら、俺も協力したい。恩返しがしたいんです!」

 

「私だって同じです! ミラ様! 母の病気を癒して下さった事は、一日だって忘れた事はありません!」

 

「この国でミラ様の名前を知らない人は居ませんよ! 光聖教の連中が邪魔しなければ、聖女様と呼ばれていた筈です!」

 

多くの人の声が私に向けられていた。

 

夢を、叶える手伝いをしてくれると。

 

でも、駄目だ。

 

「皆さんのご厚意は大変嬉しく思います。しかし、皆さんに私の夢をお願いする事は出来ません」

 

「そんな!」

 

「ミラ様!」

 

だって、そう! その夢は!!

 

「何故なら、私の夢は私自身が叶えるべきだと思うからです!」

 

私のものなのだから!!

 

「ん? どういう意味だ? ミラ」

 

「殿下。皆さん。私は私の夢を叶える為に、冒険者になります!!」

 

「は」

 

「「「はぁあああああ!!?」」」

 

今日一番であろう叫び声が、ヴェルクモント王国王都の南門近くに位置する冒険者組合にて起こるのだった。

 

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