異界冒険譚シリーズ【ミラ編】-少女たちの冒険譚-   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第20話『……天斬り』(第三者視点)

(第三者視点)

 

ソレがヴェルクモント王国に現れた時、一度目は撃退され、二度目は封印された。

 

しかし、三度目は二度の失敗を取り戻すかの様に、今までよりも遥かに巨大な姿で現われたのだった。

 

その巨体は山よりも高く、空を覆いつくす様に大きく、それが動くだけで人の住まう場所は崩れ去り、放つ攻撃は国を消滅させて荒野に変えてしまう程であろう。

 

未だ、攻撃は放たれていないが、既に被害は出始めている。

 

その報告を聞いたヴェルクモント王国王太子セオドラーは、側近たちや騎士たちと共に急ぎ現地へ向かい、その大きさに思わず体を震わせていた。

 

「こ、これは、どういう事だ。何故ドラゴンが現れる。国連議会の目的は、ミラを連れ去る事だろう!?」

 

「……国連議会も把握していない何かが起こっている可能性があります」

 

「厄介だな! とにかく急ぐぞ! このまま放置すれば世界が滅ぶ!」

 

「「「承知いたしました!!」」」

 

騎士たちを率いて、雪道を走っていたセオドラーは元々、国連議会が送り込んでくるであろう刺客と戦う為にヘイムブル領に居たという事もあり、驚異的な速さで現地に到着した。

 

しかし、全ては手遅れである。

 

現地にはミラを護ってきた男たちの姿はなく、雪の上には涙を流しながら意識を失っているミラと、周囲に立つ見知らぬ男たち。

 

何があったのか等考えるまでもない。

 

男の一人が握っている刀と、おそらくはその刀で切り裂かれたのであろうミラの服が、この場に居た全員の怒りに火を付けた。

 

「お前……! ミラに何をやった!!!」

 

「あの者たちを捕らえよ!!」

 

セオドラーの言葉よりも早く、腰の細剣を抜いて飛び出したミラの姉フレヤは、疾風の様に剣を持った男へ向かい、ミラの兄であるハリソンは多くの兵と共に、もう一人とその男が何処からか呼び出した魔物の群れへ走った。

 

そして、セオドラーは雪の上に倒れていたミラを抱き起し、呼びかける。

 

「ミラ! ミラ!! 無事か! 目を開けてくれ! ミラ!!」

 

「……でん、か?」

 

「ミラ!! 良かった! 遅れてすまない!!」

 

「でんか……お願いが、あります」

 

「なんだ? 何でも言え。私が全て叶えてやる」

 

必死にミラへ言葉を掛けるセオドラーにミラは力なく笑うと、小さく呟いた。

 

おそらくはミラを愛する者たち全員が絶句するであろう言葉を。

 

「ありが、とう。ございます。でんか。では、私の、いのちを、うばってください」

 

「っ! な、何を言っているんだ! ミラ!」

 

「あの、ドラゴン、は。私の力によって、生み出されたもの。今も、繋がっております。であれば、わたしの命をうばう事で、消し去る、ことができる」

 

「バカな!! そんなバカな話があるか!! 君を、私の手で殺めろだと……? 出来るはずが無いだろう!!」

 

「出来ますよ。殿下なら。あのドラゴンを止めねば民の命が失われます。国も、世界も。であれば、どうする事が正しい事か。殿下にもおわかり、でしょう?」

 

「……っ! 出来ぬ! 私には、出来ぬ!!」

 

「でんか」

 

「例え、それが為政者として間違えているとしても、愚かな人間だと罵られたとしても、それでも、私には……」

 

セオドラーがミラの訴えに首を振りながら叫んでいる時、セオドラーの言葉を遮る様に、雪が舞い上がった。

 

そして中から黒い鎧に包まれた男が、怒りの眼差しで飛び出してくる。

 

「どけ……俺がやる」

 

「オーロさん」

 

オーロは抵抗するセオドラーを投げ飛ばしミラを奪うと、そのままミラを雪の上に寝かせる。

 

「っ! や、止めろ! ミラは!」

 

「ちょっと痛いかもしれねぇが、我慢出来るか?」

 

「はい……お願いします」

 

オーロは懐から一本の小さなナイフを取り出すと、振りかぶる。

 

その動きは迷いが無く、フレヤもハリソンも騎士たちも止める事は出来ず、またフレヤ達に阻まれていた天霧宗謙やアダラードもまた目を見開きながら、叫ぶばかりであった。

 

そして、オーロは小さな子供の命を奪うのに十分な威力を秘めたナイフを、真っすぐにミラへ突き立てた。

 

「ミラ!!!!」

 

「……っ、あ、アレ? いたく、ない?」

 

セオドラーの叫びにミラは目をキュッと閉じて、痛みを耐える様に身を固くしていたが、想像していた痛みが来ない事に驚き、自分の体へ目を向ける。

 

「これは」

 

「話は雪の中で聞いていた。このペンダントが全ての原因なんだろう?」

 

オーロはニヤリと笑うと、ナイフが突き刺さり、どす黒い魔力の漏れるペンダントを握り締めた。

 

そして遥か上空で苦しみながら、ギロリと地面にいるオーロとミラを睨みつけるドラゴンを見て、笑う。

 

「ずっとな。この旅の間。思ってたんだよ」

 

咆哮を上げながら少しずつ小さくなってゆく体で、突っ込んでくるドラゴンへ、そしてミラへ、オーロは語り掛ける。

 

「コイツをぶっ壊してやりてぇってな!!!」

 

右手を強く握りしめて、ペンダントを砕き、ひび割れてゆくチェーンを我慢が出来ないとばかりに無理矢理引きちぎる。

 

無残に壊されてゆく、ペンダントと重なる様にドラゴンの苦しそうな咆哮が空へと響き渡り、オーロはそれを見て、へッと笑った。

 

そして、ミラを近くで呆然としているセオドラーに向かって投げると、両手を広げて、ミラへ向かって地面すれすれに飛び込んでくるドラゴンに向かう。

 

「ミラ!! 次は、ソイツにもっと良い奴を買って貰うと良い! こんな悪趣味な奴じゃなくてな!!」

 

叫び声と共にオーロはドラゴンの突撃を受け止め、僅かに雪の上で後退するだけでその動きを完全に止めてしまった。

 

「シュン!!!」

 

「あぁ!!」

 

そして、オーロの声に応える様に、雪の中から一筋の光が空に向かって解き放たれた。

 

「……あれは」

 

「天斬りだと!? 瞬! まさか貴様!!」

 

天霧宗謙は怒りを滲ませた声で叫び、斬り合っていたフレヤから大きく離れ、雪から飛び出してきた瞬の元へと向かう。

 

「あぁ。天霧宗謙。そうだ。お前が追い求めた。本物の天斬りだ」

 

「抜かせ!! アダラード! ドラゴンを!」

 

「あぁ!」

 

「貴様らさえ消えれば計画は続行出来る!! 消えろ!!」

 

天霧宗謙はドラゴンの上に乗り、叫びながら空中から瞬を目掛けて、舞い降りる。

 

そして、ドラゴンの上で腰を下ろし、居合の型通りに腰に差した島風に手を掛けた。

 

それと同様に、雪の上に立つ瞬もまた、同じ様に居合の型を体でつくり、二人はほぼ同時に刀を神速で抜く。

 

「天斬り!!」

 

「……天斬り」

 

地面に向かって高速で舞い降りるドラゴンよりも早く瞬へ届いた斬撃は、瞬の体を深く傷つけて、多くの血を流した。

 

しかし、それを見て勝ちを確信した天霧宗謙は、何かがおかしいという事に気づく。

 

そう。とどめを刺そうと腰に差した鞘を掴もうとした腕が無いのだ。

 

そして、瞬が放った一撃は、その技の名通り、ドラゴンを両断し、青空を更に斬り裂いて、大気を歪ませる。

 

「バカ、な」

 

「くっ、ここまでか!」

 

アダラードは天霧宗謙の敗北を察すると、すぐさま転移を使い、ドラゴンの上にとんで、そのまま天霧宗謙を連れて何処かへ消えた。

 

残されたドラゴンも、緩やかな風と共に塵となって消えてゆく。

 

まるで初めから存在していなかったかの様に。

 

ミラはそれを確認して、雪の上に赤い痕を残しながら倒れる瞬の元へ走り、その体を癒すのだった。

 

アダラードと天霧宗謙の野望は潰え、ヴェルクモント王国は今回の事件の功労者である天霧瞬とオーロを王城へと招いて、盛大なパーティーを開いていた。

 

しかし、パーティーだというのに、服を着替えもせずそのまま来たオーロと瞬に、会場の貴族はどう接したら良いか分からず、パーティーの食事を食べる二人を遠巻きに眺めているのだった。

 

「もう! 二人とも! 少しは周りを気遣う事も覚えて下さい」

 

「ん?」

 

「あぁ、ミラか」

 

「あぁ、ミラか。ではありません。なんですか。その恰好は! オーロさんもシュンさんも武器持ち込んでますし。服も旅で汚れてますし。お洋服は用意したでしょう?」

 

「あぁ、あれか」

 

「悪いな。着る気が無かった」

 

「もう! まったくもう!」

 

プンプンと怒るミラに二人は肉を食べながら、その肉を酒で流し込んで笑う。

 

正直な所、マナーは最悪の中の最悪であり、周囲は敬愛するミラ様が野蛮な者たちに何かされないかと心配し、オロオロとしているのであった。

 

そしてそんな貴族たちの願いを叶える様に、一人の男が三人の所へ来た。

 

そう。ヴェルクモント王国王太子セオドラーである。

 

「ハハハ。そう怒るな。ミラ。彼らは事件の功労者だ。格好くらい好きにさせてやれ」

 

「そうは言いますが殿下!」

 

「ほら。そんなに怒ってばかりいると、可愛いドレスが悲しんでしまうぞ。折角そんなに似合っているというのに」

 

「っ! そ、それは、その、ありがとうございます」

 

「うむ」

 

セオドラーは頬を赤らめて動揺するミラを見て満足げに笑うと、瞬とオーロに向き直り、友人と語らう様に話しかけた。

 

「オーロ殿。シュン殿。此度の件、非常に感謝している」

 

「気にするな」

 

「まぁ、偶然利害が一致しただけだ」

 

「そうか。ちなみに聞いておきたいのだが、二人はこのまま彼らを追うという事で良いのかな」

 

「そうなるな。どうなろうが放置は出来ん」

 

「ふむ。そうか。二人旅というのは中々苦労する事も多いだろう。道案内出来る者や各国の常識……いや、『世界の歴史』について詳しい者が居れば、君たちの旅も実に順調な物になると考えるが、どう思う?」

 

「……殿下?」

 

突然妙な話を始めたセオドラーに、ミラは首を傾げながら不思議そうな顔をするが、セオドラーは止まらない。

 

「しかも癒しの力を持っているとなれば、いざという時にも助かるだろう」

 

「……アンタはそれで良いのか? 王子」

 

「良くはない。良くはないが。私にとって、彼女の幸せこそが全てだ。今、目の前に夢を叶える機会があるのならば、それを逃したくはない」

 

「殿下、まさか! お待ちください! 私は」

 

「ミラ。君はまだ十四だ。仮に私と結ばれるにしてもまだ四年の猶予がある。夢を追え。世界中を旅して、そこで見た物、知ったもの。それを帰ってきた時、私に教えてくれ。世界にはまだまだ謎がいっぱいあるのだろう?」

 

「ですが、私には責務があります。それに陛下も許しはしないでしょう」

 

「なんだ。そんな事か。その程度の事ならば、もう解決しているぞ」

 

「え?」

 

「フン。人使いの荒い王子様だ」

 

オーロはミラを抱き上げると、そのまま後ろに跳んで、ベランダから外へと向かう。

 

会場の混乱も、叫び声も、全て背中の向こうへ捨てて、瞬と共に月明りに照らされた夜の空へと飛び出した。

 

「やっ!? え!? お、オーロさん!?」

 

「悪いな。ミラ。どうやら俺たちの旅にはお前が必要みたいだ」

 

「っ」

 

「という訳だ。すまんが諦めてくれ」

 

ミラは唇を噛み締めてベランダから空を見上げている王子を見る。

 

そして、オーロと瞬に視線を戻して、涙を浮かべたまま笑った。

 

「それなら、仕方ありません! オーロさん! シュンさん! 私とチームを組んで、伝わっていない世界の歴史、そして失われた魔術を一緒に調べましょう!」

 

「あぁ」

 

「そうだな」

 

直後、オーロが使った転移魔術によってオーロと瞬、そしてミラは宵闇に消えた。

 

新たなる冒険に向かって。

 




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