フリーレンはフェルンと出会う直前です。
注: シド君不在です。フリーレン側からはフリーレン以外登場しないと思います。
「……どこだここ。」
人間を知る旅を始め、アイゼンと別れたフリーレンは歩いていた……のだが、その途中で突如として体に衝撃が走った。痛みなどは感じなかったが、フリーレンは一瞬意識が持っていかれた。気が付くと、見知らぬ森の中にいた。
(……本当にどこだここ。道ではあるみたいだけれど……この木、全く見覚えの無い種類の木だ。)
フリーレンはそんなことを考えながらしばらく周囲を見渡していたが、やがて歩き出す。
(まあ、しばらく歩いてればどこか人が居る所へ着くよね。そこで話を聞けばいいか。)
そう考え、しばらくフリーレンは歩いた。その予想通り、しばらくすると廃村のようなところで火を焚いているのが見えた。笑い声も聞こえるので、宴会でもしているのかもしれない。そう考えフリーレンは近づいて行ったが、やがて歓迎できない事態に気付く。
(……血の匂いがする。)
フリーレンは、物陰に隠れ様子をうかがう。すると、なんとも下品な会話が聞こえてきた。
「今日の襲撃は大成功だあ!ギャハハハ!www」
「不用心な商隊もいたもんだぜ!」
「あのババアの最期の顔を見やしたか!?」
「ああ、『息子だけは殺さないで~』って、バカミテェだったな!」
(う、うわあ……)
彼らは、あまりにも典型的な『悪い奴ら』だった。自分たちの方が実力が上であることを誇示して、弱い者から奪い取ることを正当化する。フリーレンが別のところに目をやれば、犠牲となった護衛の人間が殺されたまま野ざらしになっていたのが見えた。
一通り状況を把握して、フリーレンはとりあえずこの場にいる人間を全員拘束することにした。話を聞くという目的もあるが、それ以上にこの光景が不愉快だったからである。そのために、フリーレンはこの野盗の装備を観察した。
(剣は全員持っている……あれ、魔法使いが0人だ。ならまあ大丈夫か。魔力は感じるけれど、十分対処できる範囲内だ。初手で拘束魔法で全員拘束しても大丈夫かな。)
◇
野盗たちは、襲撃が上手くいったことを祝して奪った酒で宴を開いていた。
「ああ、『息子だけは殺さないで~』って、バカミテェだったな!だから言ってやったんだ。『命惜しくば金目のモノを』……」
「それ以上口を開くな。大人しくしてもらおう。」
「ん?んな!?」
どこからともなく声が響くと、そこにいる全員が、突然現れた金色の輪で拘束された。
「な、なんだこれ!?」
「く、くそ、身動きが取れない!」
「なんだこれ、すげえ魔力が込められている!?」
「い、一体どんなアーティファクトだ!?」
初めて遭遇する事象に慌てふためく野盗たち。すると、一人の野盗が気付く。
「おい、あそこだ!」
そこには、夜の月をバックに浮かぶシルエットがあった。少女体型の何かが、装飾の施された杖のようなものを持って浮かんでいた。白く長い髪がフワフワ浮かんでいることも相まって、神秘的な姿に見える。
しばらくすると、それは顔が視認できるところまで接近してきた。耳が長いのでエルフだということを野盗たちは理解した。その顔は、野盗達の所業を見たせいか冷え切った表情を浮かべている。
「く、クソ!なんだお前は!」
「……命惜しくば、質問に答えろ、かな。質問に答えれば命までは取らない。」
「は、はぁ?質問?」
「ここはどの国のどの地方?」
「はあ?なんだよそれ。なんだ、迷子のガキなのかおめえは?」
「……余計なことは言わずに質問に答えて欲しいんだけど。」
「いでででで!わ、分かった。ここはミドガル王国北部のカゲノー領の森だ。これでいいか?」
フリーレンには全く聞き覚えのない地名だったが、目の前の男がウソをついているようにも見えない。そもそも嘘をつく理由もないはずだった。
「……シュトラールにはどう行けばいい?」
「いや、なんだよシュトラールって。知らねえよ。」
シュトラールは、大陸でも有名な都市だ。それを知らないと答えたことで、フリーレンは嫌な予感がし始める。
フリーレンは、目の前の男に大陸の地図を見せた。
「この地図は大陸の全体図だ。この中で、この場所はどの辺?」
「……なんだよその地図。見たことねえ。」
「……」
フリーレンは、ひとまず自分が知らない程に遥か遠い土地へ飛ばされてしまったということを理解した。次にどういう質問をしようかと考えていた矢先、隠れていたらしき男が現れ、フリーレンに斬りかかったので、フリーレンは防御魔法を展開した。
「んな!?なんだそれ!?その光の輪といい、一体どんなアーティファクトを使ってやがる!?」
「……魔力は込められるのに一般防御魔法は見たこと無いの?」
「イッパンボーギョ魔法……?」
「……だがな、これでも俺は、ブシン流の皆伝なんだよ!」
そういって、奇襲をかけた男はさらに魔力を込め、フリーレンに斬りかかる。しかしそれも、フリーレンはたやすく防御した。
「……威勢はいいね。」
「お、おれの全力の斬撃が!?」
「マジかよ……ミドガル王国の近衛兵すら切り殺せた剣だぞ!?」
「ねえ……今までそんな感じで人を殺して生きてきたの?」
人を殺した事を誇るように言う野盗に、フリーレンは嫌悪感が押さえきれない。
「はあ?見りゃ分かんだろ。何をいまさら……」
当然の行為だと言わんばかりのその答えに、フリーレンの目はさらに冷たいものとなった。そして、情報を得るよりも、この人間たちとはさっさと離れたいという思いの方が強くなる。
「……もういいよ。お前たちは全員牢屋に入ってもらう。」
「な!?ま、待ってくれ、見逃してくれ!俺達の持っている金は全部やる。だから!」
「それはもともとは人様の物でしょ。」
「そ、そんな!?グッ!」
不愉快になったフリーレンは、魔法で野盗を強制的に眠らせた。その後、付近にあったロープで縛りつけ、一か所にまとめて拘束した。
(はあ、幸先悪いなあ。まあ、この辺は商隊が通るみたいだし、どこかの道に放っておけば通りかかった誰かが町の衛兵に通報してくれるでしょ。)
そして、フリーレンは不愉快な野盗のことは頭から追い出して、この場所のことを調べることにした。
(うわ、改めて見ると結構な人数が殺されているな。彼らは災難だったな、お墓くらいは作ってあげないと……。あとこれは、運搬物らしき金貨か。……やっぱり見たこと無い金貨だな。でも多分、かなりの金額だよね、これ。……ん?)
しばらく調べていると、荷物の隅から物音がすることに気が付いた。
(ん、あそこからも魔力を感じる……。なんだこれ?檻?魔物かな?)
そう言って、フリーレンは檻にかけられた布を取る。しかし中にあったのは、醜いスライム状の肉体に、目や口などの顔のパーツがついている何かだった。
(これは……魔力過活性型多臓器不全病だ。)
魔力過活性型多臓器不全病は、人類が魔法を扱い始めてから時々発生した病気だ。体の魔力が上手く肉体に馴染めず、新陳代謝が異常に速まることにより、老廃物の過度な蓄積などを引き起こしてしまう病気だ。発生当初は人間が魔力を扱うことに対して神様がバチを与えた、などの不吉な憶測とともに恐れられた病だが、その後しばらくすると原因は解明された。現代では、ある程度腕のある魔法使いや僧侶がいれば十分治る病気である。
(しかも末期状態……もうすぐ死んじゃうよ、これ。うーん、近くに魔法使いがいない地域なのかな?……でもこの商隊、まあまあ身なりがよく見えるけれど。……それに、なんでわざわざ檻に入れられてるんだろう?)
少し考えていたフリーレンだったが、
(とりあえず檻から出して、治してあげるか。)
そう言って、この病人を廃屋の中へ運び、布の上に置く。フリーレンは杖を向け、暴走した魔力を調整し始める。
(本当に魔力の流れがグチャグチャだな。ゆっくりやろう……)
そうして10分ほど経過すると、病気が完全に治癒し、元々の姿に戻った。金髪のエルフの子供だった。フリーレンは魔法で出した簡易な服を着せてやり、彼女が目覚めるのを待った。
少し時間が経過すると、彼女は目を覚ました。
「……?っ!私の体……嘘!?」
そう言って、目の前の少女は自分をぺたぺた触る。
「目が覚めた?とりあえず、君の病気は治しておいたよ。」
「あなたが、私を?病気って……」
「魔力過活性型多臓器不全病って言って……まあ簡単に言うと、体の魔力が乱れていたから治しておいたんだ。」
「!?あ、悪魔憑きを治したの?」
「悪魔憑き?そう呼ばれているの?大仰な名前だね……」
「……いや、悪魔憑きは、不治のはず。大仰なんかじゃない。」
「うーん……?」
魔力過活性型多臓器不全病が不治扱いされるとは、よほど魔法に縁がない田舎なのかとフリーレンは不思議に思った。
「……私の名前はフリーレン。見ての通りエルフだ。」
「フリーレン……助けてくれて本当にありがとうございます。なんとお礼を言えばいいのか……」
「あー、お礼なら、ちょっといろいろ聞きたいことがあるんだよね。」
そうしてフリーレンは、これまでの経緯を簡単に説明した。自分がオイサーストから来たこと、気が付いたらここにいたこと、この場所に見覚えが無いことなどだ。
「……というわけなんだけど、改めて、ここはミドガル王国北部のカゲノー領……なのか、わかる?」
「私は今目が覚めたから本当にその場所に今いるかは分からないけれど、少なくとも実在する地名です。そして、オイサーストという都市は聞いたことが無い。」
このエルフの少女は、先ほどの質問の中で10歳だと自称していた。年齢の割に妙にハキハキ喋るなと、フリーレンは感じた。
「そう……。本当に全然知らない土地へ来てしまったんだね、私……。」
「……元の場所に戻りたいのですか?」
「まあね。」
フリーレンとしては、あの大陸では自分がやらなければいけないことが沢山あるためだ。特にクヴァ―ルの封印に関しては、自分が対処しなければ被害が大きくなる可能性がある。
「……帰る目星はついていますか?」
「いや、さっぱり原因不明だ。何年か、いや何十年かはこの土地に滞在することになるだろうね。」
「それなら……私にその調査を手伝わせてくれませんか?」
「え?嬉しい話だけど……どうしたの?」
「あなたは私の命の恩人。だからその恩を少しでも返したい。それともう一つお願いが。……もし他の悪魔付きを見つけたら、今の私のように治してほしいのです。……迷惑でしょうか?」
「それは全然いいけれど。」
「本当に!?正直、過度なお願いをしてしまっているつもりで……引き受けてくれるなんて、あなたはとても優しい人なのですね。」
「い、いや。治療はそんなに大変なことじゃないんだよ。」
「あ、悪魔憑きを治すのが大変じゃない!?フリーレンさん、あなたは一体……!?」
この治療に関しては本当に私自身がすごいのではないということが伝わっていないと、フリーレンは軽く頭を抱えた。
「……私はただの魔法使いのエルフだよ。」
「魔法使い……あながち間違ってもいないわね。」
「……何年か修行を重ねれば、才能がある程度あるうえでだけど、誰でもできるようになるはずなんだけどな。治し方、教えてあげようか?」
「悪魔憑きの治療法を教えてくれるなんて……あなたにとって、本当に簡単なことなのですね。」
「そ、そうだよ。だからそんなに驚くようなことじゃないんだ。」
「でも、あなたは魔力に関する何かとてつもない技術を保有している。そうなのでしょう?悪魔憑きを治すのがそんなに簡単だというなら、私はとっくに治療されているはず。」
「うん、うんん?」
フリーレンは、先ほどから何か妙な勘違いをされている気がしてならなかった。
「……まあとにかく……。ちなみに、一人で故郷に帰れる?私はそのミドガル王国というところに行ってみようかと思っているけれど。」
「ここがカゲノー領ならば物理的には帰れますが……でも私……もう故郷には帰れません。」
「……え、なんで?病気が治ったんだからこれからは幸せに元通り暮らせる……じゃないの?」
「多分……私の事は、もう表向きは存在しなかったことになってると思います。」
「なんで!?」
そこから、この少女は悪魔憑きを発症するとどのような扱いになるのを語りだした。悪魔憑きは不治の病であり、発症したが最後、所属しているコミュニティからは忌み嫌われ捨てられる、というのが普通だという。その他、教会に浄化という名目で送られる場合もあるが、帰ってきた者はいない。
罪を犯したわけでもないのに、それほど悲惨な扱いになることに、フリーレンは少し動揺した。
「……い、いや、いくら何でも扱いがひどすぎない?」
「……発症した私の姿を見ましたよね?あの醜い姿なら、そんな反応になるのも当然だとは思います。それに悪魔憑きは、発症しやすさが子に遺伝すると言われているのです。だから身内が発症した場合、その事実を隠蔽しようとして追放される……というのも理由の一つですね。」
「……わかった。悪魔付きになった子は私が治すし、治療法も私がどこかの学術機関に公開しておくよ。」
「…………いえ、治療法の公開は、入念に準備してからした方が良いと思います。」
「というと?」
「今までの悪魔憑き発症者との対立が予想されます。悪魔憑きになったからと捨てられた子が、治療されて生き延びたら……その子はその家やコミュニティに対してどう思うか?ということですね。」
「…………それでも、家族が帰ってきたら嬉しいものじゃないの?」
「もちろん個々のケースで差はあるでしょう。でもフリーレンさん……あなたは遠い所から来たというから実際に見ていないのでしょうけれど、大体は誇張無しで豹変というレベルで扱いが変わるのです。かくいう私も……周囲のあの変わりようは本当にショックだった。私はもう、故郷には帰りたくない。」
10歳の子供にそこまで言わせるとは、本当にこの地域の悪魔憑きの問題は酷いのだなとフリーレンは思った。
「……これからどうするつもりなの?」
「私は、悪魔憑きとなった人を助けたい。そのための組織を作りたいと考えています。」
「……一人じゃ難しいよ。せめて信頼できる大人の手が必要だ。」
あの惨い扱いの悪魔憑きを助ける組織を作るなど、明らかに10歳の子供ができる範囲を逸脱しており、フリーレンは子供特有の見識の狭さからくる無謀からそう言っているのだと思った。ただ、この少女の真っすぐな目に押され、あまり強く否定する気にもなれなかった。
「……他の悪魔憑きの子を見つけ出して、保護する必要がありますね。」
「ま、まあ私もある程度は手伝うけど、そういうの私は経験ないよ?」
「組織の拡張と並行して、拠点を整備しないと。」
「ちょ、ちょっと?」
「そのための資金集めも。」
「…………ほどほどにね?」
眼光鋭く矢継ぎ早に繰り出される今後の具体的な計画に、フリーレンはこの地域のエルフは早熟なのかと思うのだった。
「あ……そうだ、名前。」
「名前?」
「……もともといたコミュニティに属していたころの名前は使えません。新しい名乗りが必要です。」
「名前は今までの人生でのつながりを表す最も重要なものだ。そう簡単に変えていいものじゃない。」
「私の今までの人生がある場所に、私の居場所はもうありません。そうだ、フリーレンさん。あなたが名付けてくれませんか?」
「いや、私はそんな役割を担うような人じゃないよ。せめてあったばかりの私じゃなくて、誰か親しい人に頼むべきだ。」
「あなたは私の命の恩人です。つまり今の私の命は、あなたが与えて呉れたも同然。なら、あなたに名前を付ける権利もあります。」
「いやいやそんな……」
その後しばらくの問答ののち、結局フリーレンは根負けして、アルファという、フリーレンのいた地域で先導者や上に立つといった意味を持つ名前を与えた。この少女はなんとなくリーダーとなる気質だとフリーレンは感じたからだ。
その名前を嬉しそうに繰り返す目の前の少女を見て、フリーレンは少し胃が痛くなった気がした。
元々フリーレン世界にシド君が転生する話を書いていたのですが、(キャラ的にしょうがないとはいえ)シド君が突出して強くてパワーバランス悪いなぁ~とは思っていました。
しかし、「あ、逆にフリーレンを陰実の世界にぶっこんで活躍させればバランスが取れるんじゃ!?」などという妥当なのかよくわからないアイデアが浮かんだので、投稿してみました。
内容としては、まともに悪魔憑きを助けてまともにディアブロス教団に立ち向かうような流れになると思います。フリーレンはシド君ほどの実力はありませんが、魔力の扱いに関しては(陰実の世界、魔力が世界に現れたのが割と最近そうだったので)知識チート状態になる感じです。
クレアは一人っ子、ユキメとローズは特殊イベントを発生させて生存させる予定です。
・突如として体に衝撃が
異世界トラックの魔物かもしれない。
・野盗
フリーレン世界: 命惜しくば荷物置いてけ!
陰実世界: 命も荷物もいただくぜぇ~!!!
という感じで、陰実世界は魔族がいない代わりに悪い人間が多いイメージです。
・アルファ
フリーレン世界ではまともな名前ということで……。そのほか、シャドウガーデンとか明らかにシドじゃないと名付けないだろみたいな名前がそのままになってますが、ここをいちいち変えても頭がこんがらがるだろうということで、このままにさせていただきます。