クレアは時々、というかほぼ毎日、シャドウガーデンの拠点に遊びに来るようになった。クレアは一人っ子であるうえに、貴族の娘という立場から同年代の子と接する機会が少なく、ずっと弟や妹のような存在が欲しかったとのことだ。シャドウガーデンの者達はクレアと年齢が近い者が多く、クレア曰く「妹が沢山出来たみたいで嬉しい!」らしい。当初アルファは、この村に何度も来ることに対し、この村がバレるリスクが高まると難色を示していたが、ガーデンの一部の者がクレアとかなり仲良くなり、アルファは皆が喜ぶなら……と渋々許可することとなった。対外的には、仲良くなった地元の村の子供たちと遊んでいるということになっている。
シャドウガーデンの中で特に仲良くなったのは、性格的に気の合うイプシロン、デルタである。ただしクレアはデルタよりも身体能力が低いため、クレアはデルタの相手に苦労している。
クレアがガーデンの拠点に遊びに来た時、大体はデルタが出迎える、というよりも襲い掛かる。
「あ、クレアー!今日もデルタと遊ぶのです!」
デルタはクレアを見つけるなり、クレアに突進する。クレアにとっては慣れてしまったが、それでも受け止めるのに非常に苦労している。
「……ンン!あー、もう!いきなりなんて卑怯よ!い、いたあ……」
今回は何とか立ったまま受け止められたが、受け止めきれずに転倒してしまうことも少なくない。
「おおー、今日は転ばなかったのです。それで、今日は何して遊ぶのです?デルタはあそこまでどっちが早く到着できるか競争したいのです!」
「ちょ、ちょっと。いつもそんなんばっかりじゃない。たまには別の遊びとかないの?」
「え?もしかして自信が無いのです?ついにデルタの方が速いとクレアが認めたのです!」
「はぁ~~~???いいじゃない、上等よ!」
そうして競争が始まるが、獣人の身体能力の壁は大きく、人間であるクレアは今のところ勝てていない。今回もそうであった。
「到着なのです!はい、デルタの勝ちー!」
「は、はぁ、はぁ……で、でも今回は、前より距離差が、マシになって……」
「おお。クレア、前より速くなってるです?じゃあ別のも試すのです!あそこの川でどっちが沢山魚を獲れるか勝負なのです!うおおおお!!!」
「は、はぁ!?ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
クレアはかなり疲れているのだが、負けん気が強いために結局競争に乗ってしまう。
そうして獣人相手に肉体勝負の競争を繰り返し、結局全敗のままクレアはシャドウガーデンに帰ってくる。クレアは当然のように満身創痍で、けがと呼べるほどではないが擦り傷や打ち傷を持って帰ってきた。
「……はぁ、はぁ、はぁ、ゲホッ、ゲホッ……」
「今日はクレアがいてくれて楽しかったのです!沢山遊んだのです!」
「わ、私、今日も勝てなかった……」
「デルタは強いから当然なのです!」
「くっ、言ってくれるわね……!」
「クレア、明日も明後日も遊ぶのです!全部デルタが勝ってやるのです!」
「……ちょ、ちょっと待って、毎日遊ぶつもりなの……?」
「当然なのです!これから毎日デルタと、きゃん!」
「デ~ル~タ~?」
デルタはアルファのげんこつにより悲鳴を上げた。
「ア、アルファ様……」
「こんなに連れまわして……獣人と人間とでは体力が違うのだから加減しなさいっていつも言っているでしょう?」
「きゃうん、で、でも、クレアと遊ぶの、楽しいのです!」
「それにまた誰にも言わずに連れまわして。見えないところで大怪我でもしたらどうするつもり?罰として、今日は夜ご飯抜き。」
「え、でもほら、あれ、今日おさかなたくさん獲ってきたのです!」
「そのこと込みでご飯抜き。」
「ひ、ひどいのです!?デルタはおなかペコペコで、」
「デ、ル、タ?もう今日は体を洗ってさっさと寝なさい。」
「ひい!?お、お休みなのです!」
そうしてデルタは水浴び場に大急ぎで向かっていった。
「クレア、デルタがごめんなさい。傷の手当は私が……いや、ごめんなさい。今日はどうしても手放せない予定があるから、後でイプシロンにやってもらうわ。」
「はぁ……ほんとデルタって体力お化けよね。獣人ってみんなあんな感じなの?」
「……私は詳しいわけじゃないけれど、デルタは特に身体能力が高い方だと思うわ。」
「そう……あーもー、ずっと勝てないのホントにムカムカするわ!ねぇ、私が来る前……ガーデンの中でデルタに勝ててたのって誰かいないの?」
「そうね……ゼータがよくケンカしていたわ。実力的には互角というところかしら。いつもエスカレートして、結局は私とフリーレン様が仲裁しないといけなくなっていたわ。」
「……あなた、仲裁役になれるくらいちゃっかり強いのね。ほんと万能すぎてズルいわ……」
「……クレア、あなたはどうしてデルタといつも楽しそうに遊んでいるの?」
「な、何よそれ。もしかしてデルタって嫌われ者?」
「そういうわけじゃないわ。私はデルタのことを大切なシャドウガーデンの一員だと思っているし……多分他の皆もそうだと思うわよ?ゼータも……犬猿の仲だけれど、腐れ縁、という感じかしら?なんだかんだよく一緒に居るのよね。ただ、デルタはガーデンの中で最も元気が有り余っているの。デルタと遊ぶとなると、一日くらいなら何とかなるけれど、連日となるとへばってしまって付き合いきれなくなる、ということが多かったわ。でもクレア……あなた、多分毎度毎度デルタと付き合っているでしょう?こう言っては悪いけれど、体力に自信があるようには見えないし。」
「言ってくれるわね……まあ、今はデルタのお陰でモリモリ体力がついている気がするけれどね。」
「それに毎日、結構ボロボロになって帰ってくるし。どうしてそれでもデルタに付き合ってくれるの?」
「だって負けっぱなしのまま付き合うのを止めたら、なんか負けたみたいじゃない。」
「……あなたが負けず嫌いということは感じ取っていたけれど、そこまでするなんてね。」
「……それに多分ガーデンの中で一番懐いているし。」
「そうね。デルタに今一番かまってあげられているのはあなただからね。でも、それが理由でそこまでしてくれるの?」
「……だって、さっきだって、『クレアと遊ぶの楽しいのです!』って……」
クレアは一人っ子で、それなのに孤独を嫌うタイプだった。貴族の娘という立場上、気軽に外にも遊びに行けないので、同年代の友達はあまり多くない。少し前までは両親に、「妹か弟ちょうだい!」などとしつこくねだり、よく困らせた。
だからこそ、クレアは同年代の多いシャドウガーデンの面々と触れ合うことを喜んでいた。中でもデルタは好意を直球で伝えてくるので、負担が大きくてもクレアはついつい一緒に遊ぶという選択をするのだった。
「……そう。クレアは、デルタと遊ぶのは楽しい?」
「まあ……家の中で一人で居るよりは全然良いわ。」
「ならよかったわ。さあ、イプシロンのところへ行って手当をしてもらって。」
そうして、クレアはイプシロンが家の中に入る。
「……イプシロン、いるー?」
「ん?クレア?……あー、またデルタね。そこに座って、ちょっと待ってて。」
イプシロンは、過去に同様のことが何度かあったので、状況を察してすぐに治療用の道具(といっても簡単なガーゼと絆創膏のようなものだが)を取ってきた。
消毒などをしながらイプシロンはクレアに話しかける。
「クレアもよくいつもいつも相手にするわよねえ。疲れないの?」
「ま……まあ、何とかなってるわ。」
「まあおかげでこっちは体力が必要以上に削られずに済むようになって楽になったわ。クレアが来る前は……よく他の子に突然馬乗りになったりしたのよね。」
「目に浮かぶわ……。あ、そうだ。私、パパとママに今日はここに泊ってもいいって言われてるのよ。あそこに家からいろいろ食材を持ってきたから、今日は良いものが作れるわよ?」
「本当!?や、やったわ!」
クレアの母親は、時々シャドウガーデンへ遊びに行くクレアに食材をもっていかせることがある。シャドウガーデンはいまだに場所を含め内情を詳しくはクレアの両親に伝えてはいないのだが、ファーストコンタクトの時点で外部の助けを(取引という形を除けば)本当に借りずにやりくりしていることは知られている。母親の方は特に彼女たちのことを心配しており、「普段はいい物食べれないだろう?これを持って行って何か作ってやんな、クレア。」と言ってクレアに食料をもって行かせることが多くあった。
「これね?クレア。どれどれ……色々入っているわね、ありがたいわ。……あ、やった!小麦粉沢山!重かったでしょう?クレア。うちはこういう穀類はまだ作れないからどうしても買わないといけなかったのよ。久しぶりにパンが食べられるわ!」
「……パンが食べられなかったら力が出ないんじゃない?大丈夫なの?」
「いつもデルタが獣と魚を獲ってくるから、おなかは膨れるわ。でもこういう穀類系は無いから……ふふふ、今日は何作ろうかしら?」
「あ、そういえば昨日ママにパン生地の中にフルーツを入れて焼くスイーツを教わったの。一緒にどう?」
「もちろん!今日も一緒に作りましょうね!」
こういう時、クレアとイプシロンは一緒に料理するのが常だ。気が合うのか、こういうことでよく一緒に作業する。
その後、用事で外に出ていたフリーレンが帰ってきた後、普段と比べ一回り豪華になった料理でシャドウガーデンの皆でちょっとしたパーティとなった。しかし、罰を受けているデルタは食べられず、人生で1、2を争うレベルで後悔した。
シャドウガーデンと話すクレアは、今までの一人の時間を埋め合わせるようにガーデンの子たちと談笑していた。フリーレンは、デルタに魔法でコッソリ少しだけ食べ物を分けてあげながら、クレアを通じてシャドウガーデンがもっと前向きになればいいな、と明るい気持ちになるのだった。
◇
「ま、待ってアルファ。ガーデンの皆に戦闘訓練って……冗談だよね?」
「冗談ではありません。驚かれるのも無理はありませんが……必要なことです。」
パーティがあった日の夜、フリーレンはアルファに、悪魔憑きの治療法が広まらない件に関する調査報告として呼ばれ話し合いを始めた。そこで開口一番に、
「フリーレン様。……結論から申し上げますと、ガーデンの皆に戦闘訓練をお願いできないでしょうか?」
などと口にしたのである。
「……とりあえず、その調査結果を教えて?」
「主、それについては私から。」
ゼータが、大量と資料を持って現れた。ゼータは最近留守にしてどこかに出かけていることが多く、久しぶりの登場にフリーレンは少し驚いた。
「ゼータ?……久しぶりだね。」
「うん、久しぶり。」
「……今までどこ行っていたの?」
「まあ、王国の……人がなかなか出入りしないところかな?」
「……ま、まさか、立ち入り禁止の場所に入ったの?」
フリーレンは、確かに以前王国の偉そうな人に文書をコッソリ届けて欲しいと、王国内でこの件を調べて欲しいとは言ったが、「警備兵が守っているような重要そうな場所に入らなきゃいけないようなら帰ってきて」とあらかじめ言っておいたのだ。わざわざそのようなことをして捕まりでもしたら非常に面倒であるし、そもそも彼女たちに危険を冒させる気などなかったのだ。そのようなリスクを冒す必要があるならば自ら行う予定だったが、主にこの件に関わっているアルファやゼータが「問題なく終わった」と言ったので、それで良しとしていたのだ。しかし、今回は口ぶりや様子からして、見つかればタダでは済まなそうな場所に入ったようだ。
「……ごめん主。でも、お説教は後にして、ひとまず私の報告を聞いてほしい。」
「私からもお願いします、フリーレン様。お叱りは後でいくらでも受けます。」
「……わ、分かったよ。とりあえず話してみて。」
「ありがとう、主。さて……まず前回から、私とアルファ様は王族しか入れない書物がある、王城の地下施設に潜入したんだ。」
「……やっぱり怒ろうかな?バレたときにどうなるか想像できないゼータじゃないよね?私、いつも危なそうになったら『たとえ何とかなりそうでも』一旦帰ってきてっていつも言ってるよね?」
「…………その、ごめん、主。」
フリーレンとしては、忍び込んだといっても例えば準備中の城内のパーティホールに入り込んだとか、そういうレベルを想定していた。しかし、ゼータの行動は明らかにそのレベルを超えていた。おそらくゼータとアルファは、入り込もうとすることをフリーレンに言うと必ず反対されるであろうことと予想したのだろう。
「……はあ。それで、どうだったの?」
「……書物の方は、まあ時間もなかったしちょっとしか見れていないけれど、特別悪魔憑きに関する物はなかった……穴があるかもしれないけれど。で、本題はそこに出入りしていた奴だ。見た目は……ミドガル城の警備兵だった。そいつ、主が送った悪魔憑きの治療法を持っていたんだ。」
「やっぱり捨てられたわけじゃなかったんだね。」
「そいつの後を追ってみると、城の中にある、隠し収納の中に入れて去っていったんだ。で、後ろからチラっと見えたんだけど、主が今までに送った治療法の書類らしきものが、その中にため込まれていたんだ。」
「それで私たちは、その兵の後をしばらくつけていました。すると、別のミドガル兵らしき人物と接触。そこでの会話が、こうでした。」
『……これで全部か?』
『報告されている限りではこれで全部。しかし、このFとかいう奴は何者なんだ?』
『知らんが、教団に楯突こうとしているのは間違いないだろう。悪魔憑きの治療法を我々に気付かれずに開発し、それを広めるなど……』
『我々の内部構造をある程度知った上での行動だな。的確にダメージを与えに来ている。……まあ、教団の恐ろしさまでは知らないようだがな。』
『全くだ。こんな方法ならば、力で揉み消せる。このFとかいう奴も、じきに歴史の闇に葬られるのだろう……』
「……以上が、盗み聞き出来た会話だ。この後そいつらは、大した話もせずに別れた。……どう思う?主。」
「…………(いや、いや、え?本当に悪魔憑きの治療法を握りつぶしている存在がいたの?教団?この世界にそんな風に呼ばれているところなんてあったっけ?それに悪魔憑きの治療法が広まるとダメージ?しかも力で揉み消せる?恐ろしい存在であると自認している?……本当に実在するの?いや、まさかそんな冗談みたいなこといるわけが、いや、そもそもその会話の人たちが間違っている可能性……でも、現に悪魔憑きの治療法が広まっていない……)」
質の悪い冗談としか思えない会話に、フリーレンは何も言えない。
「……フリーレン様。混乱されるのは当然かと思います。私も最初、聞いた時は信じがたい気持ちでした。……ですが、報告はまだ終わっていません。」
「ま、まだあるの?」
「うん……ここからが本題だよ。『力で揉み消せる』って発言があったよね?でその後、ミドガル王国をはじめとしたいろんな国の軍事施設に目を光らせるようにしていた。……するとある時、見つけちゃったんだ。王国兵だったものが、夜闇に紛れるフードを着て、悪魔憑きになった子供を檻に入れて運び出し、とある地下施設に連れ込んだのを。」
「……………………」
決定的な場面に出くわしたという事実に、フリーレンは頭を抱えるしかなかった。悪魔憑きの治療法を揉み消す組織がいることが確定してしまったからだ。
「しかも、奴らは戦闘能力に関しても異様でした。」
「……ま、待って、戦闘を仕掛けたの?」
「すみません。その、悪魔憑きが運び込まれるのを見ると感情的になってしまって……顔は見られないよう変装していたので、跡はつけられていないはずです。」
そういうことをフリーレンは言いたいのではない。死んでもおかしくない行動を次々告白する2人に、フリーレンは胃が重くなるばかりであった。
「当初私たちは、ミドガル王国の並の兵相手ならば十分勝てると踏んで、戦闘を仕掛けました。」
実際アルファやゼータは、フリーレンが教えた魔法を簡単なものならば実践できるようになっており、ミドガル王国兵と一対一ならば十分勝てる。
「……ですが、奴らは予想を超えて強かった。特に魔力量が、並の量を大きく超えていました。ミドガル王国の中でちょっとした有名人になれる程度には強かったと思いますが、私が知る限り、奴に似た容貌の該当者は洗い出せませんでした。それで、派手に戦って目立つ訳にもいかず、悔しいですがその場は撤退しました……。ちなみに後日、その地下施設を見てみたけれど、厳重にロックされて入れなかったです。」
「以上が私達の『報告』の全て。主、ここからは私達の『予想』と『提案』の話をしたいんだけど、いいかな?」
「……い、いいよ……」
フリーレンは、まったく言って欲しくなさそうな低い声で先を促した。フリーレンとしては正直、嫌な予感しかしない話ではあるが、アルファ達が予想したことはかなり当たるのだ。単純に彼女たちのスペックが高いためである。フリーレンとしては耳を傾けるしかない。
だが、その前に、フリーレンは聞かなければならないことに気が付いた。
「あ、いや待って。この話、皆にはしてないよね?」
「ええ、まだしていません。私とゼータしか知りません。」
「そう……いい?この話は私が許可を出すまで他の皆に言っちゃだめだよ?」
その「教団」とやらの目的は不明だが、悪魔憑きの子にとって不利益になる存在であることは間違いなさそうだ。そんなことをガーデンの皆が知ったら、冷静さを失い、自分たちがその教団を壊滅させるなどと言い出しかねない。デルタなど、すぐにでも王国に突撃しそうだ。
「……ひとまず、まだ不確定な部分もあるので、言わないでおきます。」
「いや、確定しても勝手に言わないでね?」
「…………それで、私達の『予想』なんだけれど、まずその……とりあえず『教団』という名前で呼ぶけど、悪魔憑きを集めて良からぬことをしている組織が実在することは間違いないと思う。」
「……うん。」
「で、『教団』は、各国にまたがるほどに巨大なネットワークを持ち、しかも独自の兵力を持っている。それも国家戦力に対抗できるほどの。」
「…………」
話を聞く前のフリーレンならば一笑に付す話ではあるが、少なくともアルファとゼータは嘘をついているようには見えず、したがって否定したくてもできない。
「その『教団』は、私達の存在自体は認知している。『F』という悪魔憑きの治療法を知る個人、という形だけれどね。そしておそらく敵認定されていて、今頃探し回っているだろう。」
「……私たちは今のところ、居場所や正体を察知されていないようですが、今後もそうなるとは言えません。そして見つけられたら……殺されるかもしれない。」
「い、いくらなんでも……」
初手で殺しには来ないだろう、そう言いかけて、フリーレンは口を止めた。会話の不穏当さや、実際に悪魔憑きを「隠れて」連れ出していたという誘拐行動から、少なくとも法律を気にする連中ではないようだからだ。アルファたちの社会不審だけだとは言い切れない話なのである。
「……それで、その『教団』から身を守るために力が欲しい……ということ?」
「そうですが、それは動機の一部です。私達は……自らその『教団』を妨害、できれば壊滅させたい。」
「な、なんで!?巨大なネットワークと兵士を持つって自分で言ってたでしょ!?」
「『教団』は悪魔憑きを回収しているからです。」
「……あー……」
「『教団』がそのような行動をしている以上……少なくとも妨害などをしなければ、私達に発見されず、犠牲になる子は増えるばかり。運ばれる悪魔憑きを見つけた際、初めは静観しようとしたのです。でも、中の子と目が合って……つい手を出してしまった。私も……運ばれたときの記憶は朦朧としているのですが、怖くて、寂しくて仕方なかった。それは覚えています。あんな思いを、他の子にさせるほどに、私は薄情ではありません。」
「それに……『生きている』悪魔憑きをわざわざ集めるなんて、中でどうせ人体実験でもしてるんだろうし?そんな奴ら、ぶちのめしたいに決まってるじゃん。」
「……はあ……」
フリーレンは、自分の経験したことのない『悪』の存在の前に、心の整理をつけられず目を手で覆いながら空を仰いだ。
(……気持ちは分かる。痛いほどわかるつもりだ。そりゃあ、自分と同じ酷い境遇の子に同情するだろうし、誘拐する者を見たら討伐したくなる。分かっているつもりだ。……でも、でも……)
「……私は、アルファたちの人生をどうこうしたいってわけじゃないけど……」
「…………フリーレン様?」
「せっかく拾った命なんだよ。なんで大事にしないの?なんでそう簡単に危険に身をさらそうと思えるの?今までもさんざん危ない橋を渡ってきて、それがたまたま上手くいっただけだから……妙な自信がついて調子づいているように見える……客観的に見れば、そういう感じに見えるのは、賢いアルファやゼータなら分かるよね?」
「……主、私たちの実力が足りないなら」
「そうじゃないよ。そういうことじゃないんだよ……君たちと同じ年頃の子たちが、この世界で何やってるか知ってる?多分、平民は親の手伝いして、職人の家の子は親の家業を学んでる。代々……この世界だと魔剣士だっけ?そういうのを生み出す家でも、今やってるのは訓練で、実戦に出されるなんて普通ない。クレアから、そういう話を聞いたでしょ?まあ、末期状態の戦争国家とかならあるかもしれないけれど……。でも、ここシャドウガーデンはそうじゃない。慎ましくても、皆平和に暮らせているじゃん。これだけでも、本当に、本当にすごいことなんだよ?」
「……いや、それはフリーレン様の魔法のお陰で……」
「私の魔法だって、そう簡単にできるものばっかりじゃない。私のいた世界でも、例えばアルファの歳で一般攻撃魔法をあの威力で打てるなんて相当な上澄みなんだよ?だから……殆ど、皆の努力の成果だ。」
その上、そういうものは大抵子供時代ずっと修行してきたような人が成すことで、アルファが魔法の修行をするようになってからまだ一年程である。さらに、この世界のブシン流という剣の技術まで身に着けているのだから、フリーレンはアルファには実は前世の記憶でもあるのではと少し疑っている。
「だから、皆、あの逆境からとても頑張って、少しづつ普通の生活ができるようになったのに……今度は巨大組織と戦うの?今度こそ……誰か死んじゃうんじゃないの?」
「…………でも、私達にはフリーレン様への恩義が」
「もう十分だよ。もともとあってないような恩だし。やり方さえわかれば、十分な魔力があれば悪魔憑きを治せるのは、もう知っているでしょ?私は何も失っていない。いつも料理を振る舞ってもらったり、なんか最近はこんな立派な椅子とか作ってもらったり……だから、もう私の為に何かしてもらうなんて必要は、無いんだ。そもそも様付けも要らないと思っている。私はただの、長く生きた魔法使いだ……」
「そんな……」
アルファとゼータは、フリーレンがこのような居心地の悪さを感じ取れていなかったことに気付かされた。今までまるで救世主のような実績があっても、その振る舞いは決して偉ぶったものではなかった。今まではそれは謙虚さによるものだと思っていたが、そもそも本人は大したことをしているつもりが無いのだと。
自らの理想像を一方的に押し付けていたことを知り、二人はどうすればよいのか分からなくなり、重い空気が流れていく。
「主。……つまり、私達と対等な関係になりたいと?」
「……二人とも、自分の年齢分かってる?私は……なんとなく里親をやってる気持ちだったんだ。里親は、慕われることはあっても、身を危険にさらしてまで返さなければならない恩を売る存在じゃない。」
「フリーレン様……」
「……どうせ、みんなそのうちその教団を倒しに行くことになるんだろうけれど、心配する身にもなって……欲しいかな……」
実際問題、そのような犯罪組織の存在への対処は、いつか誰かがやらなければならない話である。放置すれば、悪魔憑きの子の犠牲はどんどん増えていくであろう。そしてそれを阻止できるうってつけの戦力は、フリーレン、シャドウガーデンと言える。教団の悪行を見て見ぬふりをするのは、ガーデンの皆は当然として、フリーレンもそのうち耐えられなくなるだろう。
しかし、それとこれとは話が別である。少し大げさだが、戦争に行く息子を見て悲しむ母親と同じなのだ。確かに誰かが戦わなければならないが、それが身内となるのは、誰だって嫌なのである。
「……フリーレン様。その気持ち、しっかりと受け取らせていただきます。」
「……うん……でも、やっぱりアルファたちは……」
「私達は、フリーレン様が心配する必要性を感じなくなるくらい、強くなって見せます。」
「……………………ん、んん?」
「シャドウガーデンは、どの国の軍よりも強くなります。それだけではなく、経済も握って見せます。どの国よりも高い技術を持って見せます。各国への政治的影響も、教団よりも与えて見せます。」
「……ちょ、ちょっと?」
思ったよりもパワーな解決案が出てきて、フリーレンは暗い気持ちが半分ほど吹っ飛んだ。
「そうだね……。主の気持ちを汲めなかった私達だったことは、謝る。ごめん。……でも、多分教団と戦うことは、避けられないかな。……主、例えば私達が包丁を使っていても、別に心配しないでしょ?」
「……まあ、包丁くらいなら……」
「それと同じくらいの土俵に、『教団との戦い』を立たせる。立たせてみせる。……だから、これからは『協力』ということでいいかな?主。」
つまり、もう里親面を止めて、これからは対等に共に戦ってほしい、という意味だ。
「……ふふ。もう……なら、一方的に私が『協力』してあげるとは限らないよ?見返りは何?」
「主が元の世界に帰る方法を探すことに協力する。で、どうですか?フリーレン様。」
「……もう、アルファ達は賢すぎて本当に可愛げが無いなあ。」
結局、その後は教団と戦う流れになってしまったが、最後にはフリーレンは反対する気も無くなった。フリーレンは、一年程度の間柄でも子離れという概念はあるのかな、と思った。さすがにアルファが言ったことはそのまま実現できるはずはないが、シャドウガーデンの面々の実力はフリーレンも認めるところである。自信を持ったままでいれば、彼女たちは成長していくことだろう。本当に危なくなったときは自分が出ればよい、と考えることにした。フリーレンとしても、この世界に慣れてきた。
(……この世界を学ぶ側に立つのは、もういいかな。そろそろ、ガーデンの皆も自立を考える頃合いかもね。)
・強くなって見せます。
アルファに言ったことなど普通出来ないが、原作を見ると……ねえ?
・クレア
クレアの主人公属性を信じて、アレクシア誘拐イベントやシェリーイベントは全部任せるゾ!
ここでちょっとした懺悔ですが、最近書きたい小説ネタが増えるばかりです。しかしこのような執筆スピードで他小説との平行更新など始めたら、すんごい時間がかかることになってしまいそうです。
前に書いていた方と違って、こっちはまだネタ切れというわけではないので、なるべく誘惑に負けずにこちらに集中したいと思っています。それでも誘惑に負けずに新しい小説に手を出したら、その時は……許して!(はぁと)
ちなみに今後ですが、カゲマスの内容は出しません。理由は書いてる余裕ないからです。そもそも原作の学園の時間軸に行けるかさえ心配なんじゃ!