救世の魔女フリーレン   作:Assassss

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感想、誤字報告、高評価ありがとうございます。
前回の最後をちょっとだけ変えました。


人殺しって普通覚悟が要るものだよね?

さらに約一年が経過した。その間、教団に関しての調査と、フリーレンの世界へ戻る方法の調査が進められた。残念ながら後者に関しては全く手掛かりはつかめていない。一般開放されている図書館には一通り当たってみたのだが、この世界の外から来た何かという話は、少なくとも確証が取れる範囲には何もなかった。一応、シャドウガーデンの皆の調べによると、御伽噺にある魔神ディアボロスは、ある日突然この世界に現れたとされているので別の世界から来たということも疑える。だが結局のところ、疑いの域を出ないだろう。

しかし教団に関しては、フリーレンは一つの結論を得た。

 

(教団は……この世界における魔王だ。)

 

結局、教団の情報はガーデンの皆で共有され、調査が開始されることとなった。その結果、出るわ出るわの教団の悪行の疑いの数々。政界を裏から操っているだの、悪魔憑きは発見次第連れ去って実験台にされているだの、チルドレンと呼ばれる教団の先兵は洗脳や薬物投与をされているだの、千年もの間世界を裏から操っている疑いなど、その他口にすることも憚れるような疑いばかりが出てくるのである。しかしそれらはでっち上げなどではなく、あくまで調査に基づく推測なのだから否定することはできない。

ちなみに、教団の正式名称は「ディアボロス教団」であることも判明した。ディアボロスという名は、この世界では御伽噺の中で有名である。それは、教典にある3人の英雄が、魔人ディアボロスを打倒し、世界を救ったというものだ。……しかし、この教典の内容も、アルファたちの調査によるとおかしな部分があるらしく、ディアボロス教団の関与が疑われるとのことだ。

教団の最終目的はまだ不明だ。もしかしたら目的などなく、単に世界に影響力を持つことで甘い汁を啜ろうとしているだけなのかもしれない。がしかし、確かに判明していることは、「倫理が無く、巨大で、悪魔憑きを攫う、長い年月この世に蔓延ってきた組織」であることだ。

これらの調査事実を聞いて、シャドウガーデンの面々はさすがにこれほど巨大な組織に対抗する気は起きない……などということは全くなく、むしろ最近は「教団絶対皆殺し!」ムードが出てきている。フリーレンは、そのうちガーデンの皆が殺しに手を出すのではと戦々恐々としている。

ガーデンの皆が憎悪を膨らませるのは、ある疑惑が判明して以降だ。どうもこの「悪魔憑き」という名称も、教団が意図的に作り出したものらしいのだ。そもそも悪魔憑きの発症者は教典にある英雄オリヴィエの子孫に限られ、悪魔憑きの治療法がまともに研究されていれば、蔑まれるどころか敬われる可能性もあったということなのである。今のこの悪魔憑きの環境は、ディアボロス教団が意図的に作り出した可能性が高く、要するに自分たちがあのような思いをしたのは全部ディアボロス教団のせいなのでは、となっているのである。

そのせいなのか、とりあえず自衛のためという名目で始めた戦闘訓練も熱を帯び始めている。

戦闘訓練は、始めてから10か月ほど経過しているが、各々でかなり成果に差が出ている。一番強いのは例によってアルファだ。剣の腕前はブシン祭に出ても普通に優勝できそうなほどに熟練している。しかしそれに加え、戦いの最中に普通に魔法を打てるようになっているのである。アルファはフリーレンに、杖の機能を持ち剣としても使える武器を作ってもらった。それにより、剣で撃ち合いながらその合間に一般攻撃魔法を撃つという、攻防一体で長距離近距離も隙が無い程のものに仕上がっている。

フリーレンの世界ではそういったことをした者はほとんどいない。大抵、前衛の戦士や剣士と、後衛の魔法使いや僧侶で役割分担をするパーティで戦うのが一般的だ。各々の役職だけ極めただけでは弱点がある。たとえば魔法使いであるフリーレンでは、戦士に対してスピードで後れを取ることもままあった。そういった弱点を放っておく気はなくいくらかの対策はしてあるが、基本的に実戦の際は前衛に任せようと考えている。単純に、複数の役職を兼任しようというのは効率が悪いというのが、フリーレンのいた世界の一般論だ。人には得意不得意というものがあるのである。もちろん複数の役職を実戦で通用するレベルにまでこなせれば当然強いが、『それができたら苦労しない』なのだ。……がしかし、アルファはできてしまった。戦闘能力だけで言うならば、3年もしないうちに自分に届くのではとフリーレンはビクビクしている。

流石に他の面々が皆そこまでできるわけではないが、それでもこの世界の兵士と比較すると恐ろしい程強い者が多い。

ベータは、アルファのように同時に魔法と剣を扱うことはできないが、剣も魔法もそれぞれ普通に上手い。いわゆる器用万能である。悪い言い方をするとアルファの劣化コピーのような能力であるが、そもそもアルファが有能すぎるのであり、ガーデン全体で見ても十分強い方である。

ガンマは、残念ながら戦闘能力が皆無だ。運動神経と魔力コントロール能力が悪すぎるのである。話を聞く限りは、フリーレンの魔法の仕組みは理解できているようだ。だが、いざ剣を握らせると静止した物体に狙いを定めても全く当てられず、杖を握らせても暴発しかしない。

デルタは、そもそも魔法に向いていない。運動センスや、それに用いる魔力のコントロールに関する才能はあるようだが、いかんせん頭が悪いためにフリーレンの教えをよく理解できない。デルタの戦闘スタイルは、殴る蹴るオンリーのフィジカルスタイルが一番向いているだろうと、フリーレンは結論付けている。

イプシロンも、ベータのような器用万能タイプだが、特に魔力コントロールに長ける。ベータとはライバル関係のようで、よく模擬戦闘をしているところを見かける。イプシロンの戦闘能力は、ベータの能力を少し魔力コントロールに寄らせたようなもので、トータルの実力では拮抗しているようだ。

ゼータも全体的にできるタイプだが、獣人の特性なのか何なのか、習得するのは早く飽きるのも早い。特に何ができないというわけでもないが、最近魔法による遠距離攻撃を覚えたらしく、デルタと喧嘩する際に、リーチにおいてデルタに多少有利になったらしい。ちなみにデルタはそれに対し今後筋肉で対抗することを宣言している。

イータはそもそも動かない。体を動かすこと自体を面倒くさがるので、戦闘能力皆無……でもなく、実際は自身で作った道具を使って戦う。やり方が違うので他の面々との単純な比較はできないが、少なくとも他のメンバーからその能力は認められている。

ちなみにイータは、最近スライム装備というものを発明した。スライムの死体を元に作られるものだ。使用者がこれに魔力を通すことで、形状が変化し、体にフィットするようになるというものである。この装備の強力な点は、使用者の熟練を前提とするが、魔力により部分的に硬化させることで鎧のようにもなる、体型にフィットするので動きやすい、軽い、音が出ない、形状を変化させられるので自在に武器に出来る、元が流体なので欠損という概念が無い、というものである。これのお陰でシャドウガーデンの戦闘能力は飛躍的に向上した。

そしてクレアだが、彼女も戦闘訓練に張り切って参加している。彼女自身もガーデンに貢献したいという気持ちはあるようだが、それとは別に社会的地位によるものも大きい。彼女が将来通うこととなっているミドガル魔剣士学園には特待生制度というものがある。ブシン祭優勝候補程度の実力があると推薦が通るらしく、そうなれば将来安泰、学園生活でも寮に入れるなどの待遇が約束される。社会的地位が上の下から上の上に上がれる程度にはメリットがあるのだ。というわけで、クレアはもうすでにブシン祭でも優勝できそうなほどに強いアルファに、剣の訓練をつけてもらっている。

このように、シャドウガーデンの訓練に対する士気は一部を除いて非常に高い状態であり、戦闘用魔法を教えるフリーレンの方が疲れてしまうほどに、彼女は訓練に付き合わされるのだった。

 

……だが、ガンマやイータを除いた面々が全員が戦闘において無問題であるかと言うと、さすがにそうではなかった。

 

 

その日は、ディアボロス教団が悪魔憑きを隠れて運び出そうという情報を得て、フリーレンと、アルファ、ベータ、イプシロン、デルタ、ゼータで、ディアボロス教団にこちらから初めて襲撃を掛けようとしている日だった。予想地点の廃教会で待ち伏せをしていると、黒いフードを付けた見るからに怪しい連中が、馬車を護送しながらやってきた。

その連中が廃教会で休憩を始めたところで、アルファが口を開く。

 

「さて……作戦は覚えているわよね?フリーレン様の意思により、危なくならない限り殺しは無し。まずはフリーレン様が奴らを拘束するから、それができたら悪魔憑きを保護しつつ、念のために周囲に他の人員がいないか警戒する。いいわね?」

 

一同が同意したところで、フリーレンは魔法を発動する。推定教団員は、何か抵抗することもなく拘束された。

 

「……!?て、敵襲!なんだこの光の輪は!?」

「大人しくしていれば命は取らないわ。フリーレン様の慈悲に感謝することね。」

「は、はあ!?なんだ貴様ら!?」

「我々はシャドウガーデン。生きて帰ったら、お前たちのボスにこう伝えておくことね。『お前たちは地獄の底まで追いかけてでも、全滅させる』と。」

「……我々のことを知っているのか、貴様ら!?」

 

そうして教団員が喚いている間、イプシロンはおそらく悪魔憑きがいるであろう馬車の中を覗く。しかし、イプシロンはその檻を開ける様子はなかった。

 

「……フリーレン様、中の子はもう……」

 

中には、温かみすら亡くした悪魔憑きの成れの果て、ただただ醜い肉の塊と化した骸があった。

 

「……わかった。」

「うっ……すみません、もう少し奴らの動向を早くキャッチ出来ていたら……」

「イプシロンのせいじゃない、決して。」

 

すすり泣くイプシロンの背中をフリーレンは優しくさすった。

それを聞いた教団員は、仲間同士で何やら話し出す。

 

有益なことを漏らすかもしれないとガーデンのメンバーは耳を傾けたが、ここでは先に連中の口を塞ぐべきだったとフリーレンは後で後悔することとなる。

 

「……お、おい。悪魔憑きが死んでるみたいだぞ?」

「馬車の質が悪すぎたせいだろ?ひでえ揺れだったぜ。ああもったいねえ……」

「……おい?もったいないってどういう意味?」

「はあ?……そうか、悪魔憑きは普通は肉の塊だからか。普通に生きてりゃ知らなくて当然だが、悪魔憑きは生きていた方がいろいろ便利だからな。」

「……は?」

「おい、迂闊にしゃべるなよ!」

「まあ聞いてくれ。殺す気はないってんなら……取引をしないか?」

「はぁ?取引?馬鹿馬鹿しい……」

「まあそう言うなって。いい儲け話があるんだよ。詳しい製造方法は言えんが、悪魔憑きの病変部位はとあるプロセスを経ることにより魔力的変異を起こすことができる。それを抽出して加工すると、とある薬ができるんだ。無法都市で『麻薬』って呼ばれてるのを聞いたことは無いか?アレだよ。コイツはいい商売でね、一度でも飲ませることに成功できればその後くたばるまで金を搾り取ることが出来るようになるんだぜ。しかもそいつが適性のある女なら悪魔憑きになることもままある。お前たちに頼みたいのはそういう奴を捕まえることだ。捕まえるのに手を焼いている奴がいてな。これはどんなアーティファクトか知らんが、お前たちの武力を見込んでのはな」

 

言い終わらないうちに、その教団員の首は飛んだ。

 

「許さない……お前らだけは絶対に根絶やしにしてやる!!!うわああああああ!!!!!」

 

そうしてガーデンの皆は、近くにいた教団員を殺し始めた。フリーレンは「ちょ、ちょっと待って!」と一瞬遅れたのちに慌てて呼びかけるが、憤怒する彼女たちには届かない。拘束された教団員がまともな抵抗もできるわけも無く、瞬く間にその場は血の海と化してしまった。

 

「このっ!このっ!お前たちが、お前らさえいなければ!!!」

「ゼ、セータ!止まって止まって!」

 

死体を執拗に蹴りつけるゼータをフリーレンは何とか止める。そうしてやっと、その場に落ち着きが戻ってきた。

 

「…………はー、はー。……ごめん主。勝手に殺すなって言われてたけど、その……」

「……いや、もうそれはいい。……とりあえずゼータ、大丈夫?」

 

フリーレンが人殺しを禁じていたのは、主にガーデンの皆を案じてのことである。

フリーレンとしては、悪人相手でも問答無用で殺すのはどうかと思わないでもないが、もうその点をどうこう言う気はない。

しかしそれとは別に、15にも満たない少女たちがそんなことをしてしまったら、一種のトラウマになるのではと心配しているのだ。フリーレンは、彼女たちが殺しの重みを軽んじているのではと思っている。殺しという行いは、想像以上に重いのだ、と。元いた世界で、戦争に出た兵士が初めて人を殺めたときにショックでしばらく動けなくなってしまうという話を聞いている。なので今回、衝動的に人を殺めてしまい、彼女たちは冷静さを取り戻したときに大丈夫かと心配しているのだ。

しかし実際のところは。

 

「はー、はー……いや、もうなんか、ここに来る前よりも力が湧いている気分だよ。」

 

ゼータはピンピンしていた。横を見れば、アルファやイプシロンも不愉快そうな顔をしているが深刻な顔ではない。デルタもむしろ元気になっている(ただしデルタは怒っている様子はない。おそらく教団員の言うことを理解できていないのだろう)。

 

「……もう今日は帰ろうか。」

 

そう言うと、フリーレンは自身の声が予想より暗かったことに少しびっくりした。何故なのかと少し思い出してみれば、あの教団員の言ったことがあまりにも酷すぎたからだと気が付いた。思い返しただけでひどい気分になってしまい、フリーレンはこの中で最も心がデリケートなのは自分かもしれない……と思いつつ歩き出した。本当は死体などの片づけをするべきなのだが、もうやる気が起きない程度には気が滅入ってしまっていた。幸いここは山奥なので、明日に再びここへ戻れば誰にも気づかれないだろう。

しかし、歩き出さない者がいた。

 

「……ん?あれ、ベータは?」

「う、ううぅ、おえっ、ゲホッ、ゲホッ……」

「ベータ!?大丈夫!?」

 

ベータは吐き気が止まらないようで、ずっと胸を押さえてうずくまっていた。近くに頭を射抜かれた死体があるのを見る限り、どうも衝動的に殺してしまったようであるが、今になって耐えられなくなってしまったようだった。

思えば、ベータは気が弱いタイプだった。ここに来てしばらくは泣くことが多かったもので、能力があってもおどおどしているようなタイプなのだ。

 

「ベータ。深呼吸よ。大丈夫、ここにはフリーレン様もいるし、ね?」

「は、はい……うっ、うっ……」

「……私がおぶっていくよ。みんな、もう今日は休もう。」

「フリーレン様、しかし……」

「いいからいいから。私も、いきなり教団員に接触させるなんてちょっと気が抜けてたよ。ほら、行こう?」

 

なんとなく監督責任のようなものを感じたフリーレンは、ベータをおぶってその場を後にした。始めの頃はよくこうやっておぶっていたなと、フリーレンは少し懐かしさを覚えた。

 

その後しばらくは、ベータは顔色が悪かった。拠点で普通に暮らしている分にはまだ平気なのだが、ディアボロス教団がかかわる任務が話が出ると、ベータはいつも気分が悪くなってしまい、そして留守番となってしまう。

ベータに対するガーデンの皆の反応は様々だ。アルファやイプシロン、ガンマは普通に心配しており、ベータが留守番状態でも特に責めたりはしない。その襲撃には参加していなかった。時間帯が夜であり、両親を心配させたくなかったのだ。クレアも、話を聞いてベータのことを気にかけている。しかしゼータは、口では心配しているようなことを言うが、ディアボロス教団の任務に出ていけないことに対し少しだけ苛立ちを見せるときがある。デルタなどは「怪我したわけでもないのに、情けないのです!」と堂々と言うが、そもそもデルタはベータの不調の理由を理解できていないのだろう。

そして、この不調をベータはとても申しわけなく思っているようだった。ガーデンに貢献できないことをとても申し訳なく思っているようで、時々「情けなくてすみません……みんな……フリーレン様……」などと漏らす。フリーレンとしては、そもそも悪の教団の調査などまったくもってガーデンの皆にやってもらいたいなど思っていないので、一切謝ってもらう必要性は感じていない。

……だが、彼女達の若さでは説明できないアグレッシブさは今更である。それを踏まえ、フリーレンはどうすれば彼女が立ち直れるのかと頭をひねり続けた。

 

 

「あの……フリーレン様。これは一体?」

「うーん……慰労パーティ?」

 

フリーレンは、いろいろと奮発したようなかなり手の込んでいる料理をテーブルに並べていた。部屋の隅では、イノシシの肉の蒸し焼きなどにデルタが目を離せないでおり、涎がひどいことになっている。その場に鉢合わせたベータは何かの記念日なのかと思ったが、特に思い至る節はなかった。

 

「それと……最近いろいろあったし、気分転換的な感じ……かな?」

 

前回の襲撃以降、シャドウガーデン内の空気が悪くなってしまった。ベータの件もあるが、教団員の言ったことがメンバーに知れ渡り、「ディアボロス教団絶対皆殺し」ムードが出て来たのである。フリーレンは、許せないのは当然だがそれ以上に息苦しくなってしまったのだ。まだまだ未来があるであろう少女たちの会話が「教団め……奴らの首を100個手に入れるまでは絶対に死ねない……」だの「捕まえたら半殺しにして人のいないところに捨ててやる……」と、割とガチの憎しみの籠った声となっているコミュニティが良いわけがない。

 

「わざわざ私たちの為に……本当にありがとうございます!他の皆にも知らせてきますね!」

「ん、お願い。」

 

そうしてクレア含むガーデンの皆が集まり、食事の時間となる。

フリーレンは、前口上のような何かをしゃべり始めた。

 

「えーと……今日は、皆の特別な日……だと思います。みんな毎日とても頑張っていて……うーん、あの境遇からこんな素敵な料理を作れるほどに組織を大きくして……えー、とてもすごいと思っています。というわけで、今日は私からのねぎらいをしようと思います。」

「「「……?」」」

 

ガーデンの皆は「私、最近何か頑張ったっけ……?」という顔をしている。

 

「ま、まあ頑張って作ったから、じゃんじゃん食べてよ。楽しんでね。……ほんとに楽しんでね!」

 

内容が微妙なのは、フリーレンとしても今日を何かしらの記念日にしようとしたが、こじつけすらも思いつかなかったからである。「皆の教団への憎悪が怖いので和やかにするためにパーティをしたいと思います」を正面切って言うわけにもいかないので、何かの記念日ということにしたかったのだ。しかし今日は少なくともミドガル王国の暦においては何の記念日でも、休日でもなく、またガーデンの誰かの誕生日でもない。

ガーデンの皆が頑張っているというのは掛値無しで本心だが、皆がどのようにすごいのかを唐突に細やかに言うのも恥ずかしかったので、このような変な挨拶になってしまった。

 

「これ……イノシシの肉ですよね?でもこんな風に細かくなっているのは初めて見ました。」

「これはハンバーグと言ってね。私のいた世界の一部地域では、戦士……えーと、近接戦闘を生業とする人々がお祝いの日とかに食べる物なんだ。肉を挽く……つまり細かくしてそれを練って、焼いたものがこのハンバーグ。」

「こ、こちらの食べ物は何でしょう?上品な黒さとほのかな甘い香りが特徴の、こちらは?」

「ああ、それはチョコレートといって、カカオ豆と砂糖を特定の手順で煎ったり煮たりするとできるお菓子だよ。上流階級の人々の間でよく食べられていてね。」

「興味深いです……!今度、作り方を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」

「うん、もちろん。」

「うう~~~!!!この『はんばーぐ』、お肉以外にもいろいろな味付けがあってとてもおいしいのです!もっと食べたいのです!」

「デルタ、ステイ!」

「ひゃい!?」

「こういうお祝い……いえ、パーティの時には皆で乾杯をしてから食べるのが作法なの。だから、まだ食べちゃダメ。」

「ううう……わ、分かったのです。」

「なにこれ……料理自体に魔法がかけられている……!保存して、あとで解析……」

「イ、イータ。後で教えてあげるから、ここでは普通に食べて欲しいかな?」

「うん……約束だよ、マスター。」

「まさによりどりみどりだね……。外に言っている間はご飯は適当に済ませていることが多いから、ちょっと感慨深いな。」

「私の家でも見たことが無い料理ばっかりね。そしてどれも美味しそう!フリーレンさん、ありがとうございます!後で私にも作り方を教えてもらえますか?」

「フリーレン様、私達の為にこんなに豪華な料理を……本当にありがとうございます!やはりフリーレン様は私たちの慈悲深き女神です!」

「どういたしまして。……一応言っておくけど、私神様じゃないよ?」

「さあみんな。色々言いたいことはあるでしょうけれど……グラスを持って。乾杯するわよ?」

 

ガーデンの皆は楽しみな顔でグラスを掲げる。しかし、ベータは少しだけ浮かない顔だった。

 

「……あ、あの、フリーレン様?ベータの顔には多分何もついていないと思いますよ?」

「……やっぱり、マシにはなってるけど浮かない顔だ。」

「あはは……すみません、こんな時に迷惑かけてしまうようで。」

 

ベータは、表面上は取り繕った顔をしていたが、それでも多少の影は入ってしまっていた。

 

「……ずっと、夢に出てくるんです。殺したときの教団員の顔。あの時は頭に血が上っちゃって、それにみんなが殺してたからやってしまいましたけれど、多分私一人だったら殺すには至らなかったと思います。向いてないんでしょうね、私はそういうのは。今でも時々、罪悪感が胸を締め付けます。たとえ相手がどんな悪人だったとしても……地獄で、この罪が裁かれるのだろうと思うと、怖くなります。でも、それ以上に、任務に参加できない今のこの私が嫌なんです。私、アルファ様のように才能がある訳じゃないし、目立った特技もありませんし……。何もしてない、とまでは言いませんけれど、現状一番役に立ててないのではと思うと、つい……」

「ベータ……」

 

ベータの思いを聞いた一同は、心配そうな面持ちでベータを見た。皆は前の件のせいで落ち込んでいたことは察知していたが、それに自分のふがいなさも含まれていたことは気づいていなかったのだ。

誰かが慰めを言い出そうとする前に、フリーレンが口を開いた。

 

「ベータ。このパーティが開けてるの、実はベータのお陰なんだ。」

「へ?……私には心当たりがありませんよ?」

「ベータは、前に私が伝えた物語をノートに脚色して書いていたことがあったでしょ?」

「……ああ、ありましたね。『フリーレン聖典』を書くための息抜き、というか練習のようなもので。」

「うっ……」

 

フリーレンはノート5冊分を超えたその恥ずかしくなる名前の書物を出されて、不意打ちでダメージを食らった。

 

「……で、でね。私、あれを一通り読んでみたけど、普通に出来が良くて、面白いと思ったんだよ。それで……あれさ、『別にどう扱っても構いませんよ』って、この前聞いた時に言ってたじゃん?」

「ええ、はい。」

 

ベータのこの言葉に深い意味はない。本当に思い入れが無いので、そう言っただけである。

 

フリーレンは、ベータに数枚の書類を差し出した。

 

「……ベータ。やっぱり君はシャドウガーデンに無くてはならない存在だ。ベータの力は、今後も大いに必要になるだろう。」

「これは、ええと…………え?『よみにち新聞会』からの連載小説執筆依頼!?」

 

フリーレンは、ベータの小説を聖地リンドブルムにある新聞社に見せたのだ。外部に見せても問題無いよう若干の内容改変はあるが、ほぼベータが書いたものそのままである。その内容を新聞社の人間に見せたところ「すぐにこれを書いた人と連絡を取ってほしいです!いや、なるべく早く契約させていただきたい!」と言われるほどに高評価を受けたのだ。

 

「ま、まさか私の書いた文章がこんな評価を受けるなんて……フリーレン様はこのことを見抜いて行動されていたのですね!」

「あ、あはは……」

 

ベータの推測は半分ほど間違いである。フリーレンはベータには間違いなく文才があると思っているが、それを新聞社に持っていこうというアイデアはアルファから出たものである。

 

「ベータ。あなたがもしよみにち新聞の連載作家になれば、原稿料が入ってくることもあるけれど……その内部に侵入することがたやすくなると予想できるわ。」

「よみにち新聞会は、情報が沢山集まるからね。私も潜入や情報集めは得意だと自負してるけど、あそこは結構厳重に守られた部分があって、入り込みづらい部分もある。でもベータがよみにち新聞の作家になれば、そういうところの会合に出入りできると思うし。ディアボロス教団の情報も手に入れられるかもしれない。……あと、私も読んでみたけれど普通に面白かったよ、ベータの書いたやつ。」

「アルファ、ゼータ……」

 

ここまで話を聞いてきて、フリーレンは少し不安になってきた。どう扱ってもいいと言われたとはいえ、書いたものを勝手に他人に見せてしまったからだ。こういうものは、他人に見せることを恥ずかしがる者が多かったので、もしかしたら無神経な行動だったかとすこし反省した。

だが実際、それは杞憂だった。ベータはしばらくその書類を読んだ後、眼に涙を浮かべ始めた。

 

「……う、うっ、うっ……!フリーレン様、みんな、ありがとうございます……!」

「べ、ベータ、大丈夫!?」

「私、せ゛ったい、か゛んは゛ります゛ぅ!!!」

 

突然大きく少し太い声でそう言い切るベータ。フリーレンは驚いたが、ベータの目にはもう影はなかった。

 

「じゃあ、ベータも元気になったところで……乾杯!」

「「「乾杯~!」」」

 

 

 

 

シャドウガーデンの空気は、フリーレンの計画したパーティにより相応に明るいものとなった。

ディアボロス教団の話をする際は憎しみをのぞかせることもあるが、それ以外の時は普通に少女らしいお喋りをしている。

最近はガーデン以外にもいいことがあった。例えばクレアが特待生として認められたのだ。アルファに頼んで剣の稽古をつけてもらっているのをフリーレンは時々目撃していた。本人曰く、「きっと偉くなって、将来はシャドウガーデンを裏からサポートするからね!」と意気込んでおり、なかなかに頼もしい話だとフリーレンは感心している。ちなみに、クレアの両親にはディアボロス教団の話はしていない。フリーレンとしては話を通すだけ通しておいた方が良いとは思っていたのだが、クレアに強く止められたのだ。クレア曰く、「危ないことしてるって思われて、ここに来ることを止められるかもしれないわ!」とのことである。

またフリーレン自身も、楽しいことがあった。一ヵ月ほど、この世界を旅行してみたのだ。この世界の平均と比較して過剰なレベルにまで武力を付けたシャドウガーデンの皆を見て、少しの間自分の時間を取ってもいいかと思ったのだ。旅の途中でゼータなどが連絡を取りに来たことはあったが、それ以外は完全にガーデンの皆に自活させた形となる。(ちなみにこの連絡は、前ヒンメルと数十年会わずにいたところ、いつの間にか老いてしまったという苦い思い出からくる自分への縛りも兼ねている。)

この旅を通じて、フリーレンは確かめたいことが一つあったのだ。この世界に生きる人々は、本当に邪悪な者ばかりなのかということだ。というのも、ディアボロス教団のやることがあまりにも外道なことばかりであり、実はこの世界の人々がそもそもそういう人間ばかりなのではと不安だったのだ。しかし結果は、「悪い人は悪いが、良い人もちゃんといる」というものだった。この世界には魔族や魔物がいないので、人間の悪い部分が悪目立ちしているのだろうというのが、フリーレンの結論だ。ディアボロス教団のやることは明らかに度が過ぎているが、教団員でなければフリーレンのいた世界の人々と(多少攻撃的な傾向はあるが)あまり変わらないという印象である。

なお、帰ってきた後のクレア含めシャドウガーデンのメンバーは、ディアボロス教団員を何の躊躇もなくバッタバッタと殺すようになっており、やっぱり自分がついていた方が良かったのではと少し後悔したという話もあるが、フリーレンは『まあこの世界はそういうもの』だということにして自分を強引に納得させた。

 

だが帰ってきた直後、旅行で楽しかった気持ちを吹き飛ばしてしまう事件があった。

 

クレアが攫われた。




・スライムボディスーツ
フリーレン「なるほど……これは優秀な防具だ。これを服の中に仕込めば、物理攻撃のみならず魔法攻撃への耐性も期待できる。体にフィットするから動きやすい。……え?これ自体を服にする?いやいや、そんなことするわけないでしょ。これは服の中に仕込む防具だよ。服を全部これにしたら体のラインがでてちょっとエッチだし、そもそも何かの拍子に魔力制御をミスったときは裸になっちゃうじゃん。」

教団員君、こんなに機密情報ポンポン喋るの正直違和感あるけど、まあ話を進めるうえで必要ということでご容赦を……

次からはついに原作イベント開始だぜ
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