救世の魔女フリーレン   作:Assassss

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本作のシャドウガーデンは、原作における剣の腕を魔法にある程度振ったみたいな感じの戦力です。


親の愛をこんな形で見たくはなかったな……

シャドウガーデンの拠点で、ベータとフリーレンはクレアがさらわれた件に関する話し合いをしていた。

 

「クレアを攫ったのはディアボロス教団の者かと思われます。それも幹部クラス。」

「はぁ……クレア、お願いだから無事でいて……」

「命までは取られていないかと。目的はおそらく、クレアに流れる英雄の血。今、アルファ様が痕跡をたどっています。」

「そう……まさかクレアの自宅で襲われるなんて……」

 

クレアがこのシャドウガーデンの拠点に来ていることは、誰にも悟られないように細心の注意を払っていた。クレアの家からここに来るまでに、誰かの目があったらまずフリーレンやアルファに連絡が入るよういろいろな魔法による対策はしていた。クレアが一番無防備になるのは、家からこのアジトに来る道中だと思っていたからだ。しかしクレアの自宅で攫われることは予想していなかった。あそこには、シャドウガーデンの面々に劣ると言えども、貴族の屋敷らしく警備兵が常駐しているからだ。

 

「幹部クラス……警備兵に気付かれなかったら、そういう話になるの?」

「はい。」

「……ついにシャドウガーデンのことが向こうにバレたのかな……」

「その可能性は一応ありますが、高くは無いかと。仮にフリーレン様の張った魔法対策に一度も引っかかることなく、クレアが最も攫いやすいと判断できるほどの探知、諜報技術があるのなら、痕跡も消しているはずです。しかし実際は、まったく消されていないわけではありませんでしたが……少し魔力に詳しい者なら見抜ける程度の痕跡が遺されていました。なのでおそらく、英雄の子孫をたどっているうちに、クレアに辿り着いた、と考えるべきかと。」

「ならいいんだけど……場所の目星はついてる?」

 

ベータは、おもむろに赤色の書き込みのある地図を広げた。

 

「ご覧ください。私達が突き止めたアジトです。しかし、このなかのどこにクレアが居るかは、まだ……」

「なるほどね……」

 

見ると、数か所ほどに候補が絞り込まれていた。

 

「うーん……でも、そのアジトって確か、全部暗号文のやり取り自体が無いんだよね?」

 

調べによると、ディアボロス教団は暗号文でやり取りする場合としない場合がある。重要度が高いメッセージは暗号を使うのだと推測されている。

 

「はい。しかし、今回発見された暗号文はこういう内容で……」

「……毎度思うけど、よくそんなちぎって捨てられた紙ぺらを見つけて集められるよね、みんな。」

「いえいえ、フリーレン様の叡智のお陰です!」

 

このような調査をする際は、フリーレンが教えた『失くした装飾品を探す魔法』に手を加えたものが使われている。この魔法自体、そう簡単に習得できるものではない……と、フリーレンのいた世界では、そういう扱いになっている。

 

「……なんというか、私と比べてほんとすごいね、君たち。」

「そんな、ご謙遜を!フリーレン様の叡智はまだまだものにできているとはいえず」

「1000年の積み重ねに20年も生きていない皆に追いつかれたらそれこそたまらないよ……。まあ、それはともかく、この印をつけられたアジトは全部単純に物資を置いておくだけの拠点だったよね?そこに暗号文を送り付けたなんておかしくない?」

「それら全部に『ターゲツトヲソチラニオクル』ですもんね……いったいどれが正しいのか……」

「これが3枚……アジト同士に何か結びつきがあるとか?うーん……?」

「結びつき……はっ!」

「……ど、どうしたの?」

「フリーレン様、フリーレン様のお言葉により天啓が降ってきました!」

「よ、よかったね?」

「この内容はただのブラフ!ポイントは、この3か所に送り付けたという事実です!地図上でこれらを通る円を描いた際の中心地点であるこのポイントは、かつての鉱脈があったために隠しアジトに適する廃れた坑道が多く存在します!さらに、以前手に入れた教団内部のやり取りから推測される、アジト建設候補地点のリストとも照合してみれば……すべて繋がります!フリーレン様、ご指摘のポイントにクレアがいるかと思われます!ありがとうございます!」

「……そ、そう、突き止められてよかった。」

 

突然自己解決したベータにフリーレンは何か言いたかったが、クレアを助け出すことが優先なのでさっさと準備を始めた。

 

 

クレアは、教団のアジトの地下、薄暗い牢にとらわれていた。武装した男が、冷たい目でクレアを見下ろしている。

 

「私には娘がいる。あまり手荒なことはしたくないのだがね、クレア・カゲノー。」

「あなたは……前に王都で見たことがあるわね。確か……オルバ子爵、だったかしら?ブシン祭決勝大会第一回戦でアイリス王女に無様に斬られていた」

 

それを聞いた瞬間、オルバはクレアの顔面を蹴りつけた。しかし、クレアは軽く頭を傾け回避。オルバの足は後ろの石壁に命中し、壁にはひびが入っていた。

 

「……魔封の鎖につながれて、これを避けるか。」

「魔力は量ではなく制御も大事だと教わったわ。」

「ふん……いい父を持ったな。」

「あのハゲじゃないわよ。私の先生よ。」

「何?あの領主がそのような腕のある魔剣士を雇ったという報告はなかったが……」

「ねえ、いつまで私をここに拘束する気?いい加減家に帰して。」

「貴様には悪魔憑きの兆候が出ていた。なのになぜ治った?」

「またその話?……知らないって言ってるでしょ。知らない内に治ってたの。」

「嘘だな。悪魔憑きが勝手に治ったという前例はない。」

「じゃあ私が最初の例よ。」

「往生際が悪いぞ。あまり私を舐めない方が良い。子供の嘘程度、たやすく見抜けるからこそこうやって問い詰めているのだ。」

「知らないわよ。老眼じゃないの?」

「まったく、カゲノーの領主は教育がなっていない。しかし、症状が出ていたこと自体は認めるのだな?」

「まあ、確かに黒いあざみたいなのはあったわよ。」

「フム……報告では、クレア・カゲノーは一見普通の子供ではあるというが、時々不自然に家を空ける時間帯があるという話も聞く。あの屋敷の周辺の森も洗ってみるか……」

「っ!!!」

 

その瞬間、クレアの右腕を繋いでいた鎖が、クレアの見た目からは想像できないほどの力で引きちぎられた。クレアはそれをオルバに振りかざすが、間一髪で避けられる。さらにクレアは、左腕の拘束も、手の肉を削ぐことで脱出してしまった。

 

「なっ……手の肉を削いで!?」

「それ以上踏み込むつもりなら、もう許さないわ!お前も、お前の家族も友人も全部殺してッ」

 

オルバはクレアの顔面を殴りつけた。さすがにこれにはたまらず、クレアは鼻血を出して気絶してしまう。

 

「小娘が……まあいい。適合者かどうかはその血を調べればわかる。」

 

その時、オルバの部下が息を切らせて向かってきた

 

「オルバ様!」

「何事だ!?」

「侵入者です!」

 

オルバは、侵入者がいるという場所に走りながら、部下からの報告を聞く。

 

「敵は!?」

「敵はおそらく7人!陰のようにどこからともなく現れて、兵たちを次々と!我々では、歯が立ちません!」

「ありえん、この場所には王都の近衛に匹敵する騎士を……!?」

 

オルバの言葉の途中、突如として、部下の首が落ちた。オルバは、何が起きたのかに気付けなかった。

その場に止まりあたりを見回すと、前方に闇に紛れる7つ人影が確認できた。足元には、オルバの部下がバラバラにされたものが転がっていた。

 

「な……なんだと?貴様ら、一体!?」

「……我らは、シャドウガーデン。」

 

中央にいる少女らしき人物がそう答えた。フードと仮面を身に着けているために姿は分からないが、声からして非常に若い印象を受けた。

だがそれ以上に、オルバを驚かせたのは、その少女から放たれる、強者の気配だった。オルバは直感した。強い、自分より。彼女たちの得物はバラバラだが、中央の少女は片方が剣、逆側には宝石のようなものがついている物を持っていた。

そして、彼女たちの口からさらに驚きの言葉が放たれる。

 

「我々は、ディアボロス教団の壊滅を目的とする者。」

 

ディアボロス教団。それは、オルバがごく最近知った組織の名だ。詳しいことはオルバにも聞かされていないが、この世界を裏から操る、とても恐ろしく、強大な存在。存在自体がトップシークレットであり、オルバも社会的地位を得て初めてディアボロス教団から接触されたのだ。

それを、20にも満たないだろうこの少女たちが何故知っているのか。

そして、彼女たちの口上は続く。

 

「我々は全てを知っている。」

「魔人ディアボロスの復活、英雄の子孫。」

「そして、悪魔憑きの真実。」

 

どれもこれも、ディアボロス教団の核心に迫るトップシークレット。彼女たちは、あまりにも知り過ぎている。ここで殺さなければ、自分が組織に始末されるほどに。

 

「ディアボロス教団……その名を、その秘密を、どこで知ったぁ!?」

 

そう言ってオルバは抜刀し、アルファに斬りかかる、しかし。

 

「……ふっ」

 

目の前の少女は、オルバの剣に苦も無く対応してしまった。オルバはこれでもブシン祭の決勝に上がれる程度の腕はある。鍛錬を怠っているわけでもない。経験でも、体格でも上回っているはずのオルバの剣が、目の前の年相応に華奢な少女にいなされ、交わされ、弾かれる。

 

「そこだあああああああ!!!!!」

 

しばらく打ち合ったのち、オルバはようやく隙らしいものを見つけ、斬りかかる。しかし。

 

「……!」

 

突然、少女の持つ武器の逆側の宝石部位から、光の線のような飛び出して、オルバの脇腹を貫いた。致命傷ではないためまだ動けるが、勝てる見込みはない。

今のは何だ?と、オルバは頭を回すが、少なくともあのようなものを打ち出すアーティファクトなど知らない。見れば、他の少女たちは黙って傍観しているだけ。つまりこの程度、介入する必要もないということ。この小娘たち相手に、オルバは力の差を認めざるを得なかった。

 

「殺しはしない。知っていることをすべて話してもらうまではね。」

 

しかし、それをオルバが飲む道理はない。ディアボロス教団において、情報漏洩は極めて重い罪の一つだ。

 

(……私のミスとなれば、娘にも危害が及ぶ。背に腹は代えられん!)

 

オルバは、胸のポケットから赤い錠剤の入った瓶を取り出す。それの中身を一つ口にすると。

 

「ううううおおおおあああああああ!!!」

 

オルバの魔力が膨れ上がり、筋肉が肥大化したような、一種の強化ととれる変貌を遂げた。しかしこの変化は、不可逆なのだ。つまりオルバは、もう普通の人間にはおそらく戻れない。しかし、それでもやらなければならないことなのだ。

 

「やああああ!!!」

 

そして、オルバは再び斬りかかる。強化された筋力により、剣を受けた少女は弾き飛ばされるが、特に慌てることもなく安定した着地を見せた。そして、こう言ってのけた。

 

「……面白い手品ね。」

 

オルバは悟った。こいつらには、勝てない。今の発言は、本当に余裕があるから言ったことだと、相応に強者であるオルバであるからこそ感じ取れた。ならば自分のやるべきことは、この者達の情報を持ち帰ること。すなわち逃走である。上からは『情けない奴』という印象を、この者達の強さが認識されるまでは持たれるだろうが、少なくとも直ちに失態と扱われることは無いはずだ。

 

「……シャアアアアアアアア!!!」

 

オルバは地面に剣を突き立て、崩壊させた。下には別の通路があるのだ。彼女たちが追ってくるかと思ったが、下に落ちる途中に上を確認すると、覗き込むだけで追ってくる様子はなかった。

 

 

オルバは痛む体に鞭打ちながら走った。しかししばらくすると、何者かの気配を感じ、立ち止まった。そして、

 

「はぁ……こういう仮面とか趣味じゃないんだよなあ。クレアの反応はこっちか。よかった、まだ生きて……あれ?」

 

という声が聞こえてきた。通路の角を曲がると、その人物の姿が見えた。先ほどの者達と同じくフードと仮面をかぶっており、その姿は見えない。ただ違いがいくつか、剣を持っておらず、アーティファクトらしき杖のみを持っていること、声からして彼女は成人しているようであることだ。

 

「先回りされていたか。……が、一人なら容易い!」

 

あの杖から先ほどのような光線が放たれることは知っている。そして剣を持っていない。つまり、懐に入り込んでしまえばこちらのもの。そう考え、オルバは目の前の女に向かって突進する。しかし。

 

「……がっ!?ぐはっ!」

 

オルバの身体に突然光の輪のようなものが現れ、拘束した。オルバはたまらず転んでしまい、身動きが取れなくなってしまう。

 

「うぐぐ……なんだこれは!?なぜここまでの魔力量の行使を即座にできる!?」

「私は殺しとか好きじゃないからね。大人しく言うことを聞いてくれれば命は取らない。」

 

光の輪からは、強力な魔力が感じられた。魔力の流れからして、おそらく彼女から持つ杖から発生したものであろう。オルバは、戦闘において非常に強力なアーティファクトだと判断した。魔力が発せられたと感じた次の瞬間には、既に拘束されていたのだ。少なくとも対人においては、相当なスピードと感知能力の持ち主でもなければ避けられない代物と言える。

 

「……というか、お前、体どうしたの?それ多分この世……普通の医者じゃもとに戻せないと思うよ?」

「フン。他人の心配をしている場合か?」

 

オルバは、拘束されていなかった手首を無理やり動かした。腹のあたりで何かを引っ張るようなしぐさをする。すると、オルバの胸に仕込まれた発砲機構が起動し、胸のあたりから弾丸らしきものがフリーレンに飛んでいく。しかし。

 

「おっと。」

 

パキン、と。

彼女の前に、魔力が発生すると同時に、六方形の白くて薄い板のようなものが生成され、弾丸をはじいてしまった。

 

「危ないな……銃とか言う武器だっけ?あれホント魔法使い殺しだから嫌でも神経使うようになっちゃったなあ」

「くそ……魔法使いだと?ふざけるのも大概に」

「まあ、そこはお前に信じてもらう必要なんてない。……クレアの居場所に目星はついているし、どうせお前は口を割らないだろうからもう眠っていてもらうかな」

「ふん……いいのか?」

「何?」

「クレア・カゲノーの居る檻には、高度なアーティファクトによって作られた爆弾がある。あと10分もすれば起爆し、奴はバラバラになるだろう。そして、解除方法を知っているのはこの私だけ。その私を、本当に眠らせていいのか?」

 

勿論時間稼ぎのハッタリだ。だが否定する材料も持っていないはず。未だこの状況の突破方法は思いついていないが、今は少しでも思考するための時間が欲しい。

 

「はいはい。そんな魔力反応ないし、どうせ時間稼ぎのハッタリで……」

 

そう言いかけて、彼女はいくつもある牢の一つに目を止めた。少しすると、冷たい声でオルバに問うた。

 

「……ねえ、あの血と器具。何をしてたの?」

 

彼女が指さした先にある牢では、かつて悪魔憑き……適合者への薬物投与実験が行われていた。そこには、それに使われていた注射器がいくつか残っている。血は、適合者の肉体が耐え切れなくなったために、死亡時に体のあらゆる『穴』から噴き出たものだ。

声からして、彼女は外道だと糾弾したいのだろうか?だがオルバは、なぜ悪魔憑きをいちいち人間扱いしなければならないのかと苛立った。

 

「フン。教団の為に貴重なデータを提供させたのだ。悪魔憑きとして腐り果てるよりはるかに役立ったと言える小娘だったよ。」

「…………」

 

彼女は、しばらくオルバに背を向けたまま黙って立っていた。……よく見ると、肩が少しだけ震えているように見受けられる。

 

「……お前たちは……なにも、何も疑問に思わなかったの……?」

「は?」

「この薬品……適量以上に投与すると、神経が解けていく猛毒なのは、分かっているはずだ。……しかも、末端神経からやられていくから、じわりじわりと痛みの中で死んでいくことになる。これを投与されていた間、その娘は多分ものすごく泣き叫んだはずだよね?それを、それを聞いて、何も思わなかったの……?本当にお前たちは人間なの……?」

 

この言葉に、オルバは無性に苛立たされた。確かに残酷なことをした自覚はあるが、役に立ったことは事実だ。あの実験から、悪魔憑きの治療法のヒントが見つかる可能性はあったのだ。それに、オルバにとって、悪魔憑きには等しく惨めな終わりを迎えて欲しい理由があった。

そして、彼女の次の言葉が、オルバを憤怒させた。

 

「その娘も、頑張れば、悪魔憑きから戻せる治療法だって見つかるかもしれないのに……」

 

何かが切れる音がした。

それは、オルバの昔の記憶。ある時娘のミリアが悪魔憑きを発症してしまい、周囲から娘を隠して治療法を必死に探し回る日々。しかし、どんなに探し回っても治療法は見つからず。そうして絶望していると、ディアボロス教団を名乗る者達が現れ、我々に従わなければ娘を殺すと脅迫してきたのだ。オルバはその強大な力に抗えず、奴らの言いなりになるという、外道に堕ちるほかなくなってしまった記憶。悪魔憑きの娘が地獄に落ちるのならば他の悪魔憑きも地獄に落ちて欲しいという浅ましい妬みをもちながら、他の悪魔憑きを探し回っては教団に運び込む日々。どうせ奴らはもうミリアを元に戻すつもりなどないということに薄々感づきながらも、せめて生きていて欲しいという願いから、身を粉にして教団に従ってきた。

 

それを、なんだ?

 

『頑張れば見つかるかも』だと?

 

「……容易くほざくなあああああああ!!!」

「ん?え、ちょっと!?」

 

オルバは、胸にある「ディアボロスの雫」の未完成品を、瓶ごとかみ砕きながら追加で飲み込んだ。途端、オルバを赤黒い魔力が包む。次の瞬間、筋肉はバケモノのように肥大化し、拘束を無理やり破壊した。そして、剣を力任せに振るう。

技術は無いが、ただひたすらに力強く、速い斬撃が彼女を襲った。さすがに防御はリスキーだと判断したのか、彼女はオルバから距離を取る。

オルバは、剣を無茶苦茶に振り回しながら彼女に迫った。

 

「速い!脆い!これが現実だ。貴様も味わえ!己の無力さをおおお!!!」

 

どんなアーティファクトなのか不明だが、ふわふわと浮遊しつつ回避しつつ下がっていく目の前の女。しかしそのままそうしていれば、その先は壁。いずれ仕留められるとオルバは踏んでいた。

しかし、彼女は途中でオルバに向かって杖を向け、なにか魔力を送り込み始めた。初めはなにをしているのか理解できなかったが、しばらくするとオルバは足を止めた。そして、信じられない変化に気付いた。

 

身体が、元に戻っていく。

 

もう二度と人の姿に戻らないと覚悟していた自分の醜くなった肉体が、人のそれへと戻っていく。体内の暴走状態の魔力は整えられ、肥大化した筋肉はしぼんでいく。オルバは唖然として、その場に立ち尽くした。

 

「……さあ、治してやるのはこれっきり。もうこれ以上は、無駄な戦いだ。もう一度言う、投降しろ。そして、知っていることを全部喋ってもらう。」

 

オルバは、剣をだらんと持ちながら目の前の女を見つめていた。一見間抜けに見える様子だが、オルバの中では様々な感情が荒れ狂っていた。

 

あれだけの啖呵を切っておきながら、あっさり無力化された悔しさ。

明らかに現代のレベルではない魔力の超技術。

どうやっても、目の前の女を出し抜けないであろうという絶望感。

 

しかし、何よりも。

 

「貴様は何故……」

「……?」

「何故もっと早く現れなかったアアアアア!?」

 

オルバは八つ当たりで目の前の女に斬りかかった。

あの魔力暴走を治せるのならば、悪魔憑きも元に戻せるであろう。つまり、目の前の女は娘のミリアを治療できる。しかし、もう手遅れだ。

 

「何故もっと早く現れ娘を治さなかったのだアアア!?」

 

人間並みの力で、オルバは剣を振り回す。冷静さを欠いた太刀筋が通じるわけもないが、オルバはそれを止められない。

 

「え、何?娘?……いや、分かったよ、娘には多分罪はないだろうから、治してあげても」

「もう遅い!教団に連れ去られた悪魔憑きがそのまま大人しく寝かせられると思っているのか?おめでたい奴め!」

「……じゃあその娘がいる場所を言って」

「知らん!そもそも娘が生きているということしかわからんのだ!お前にミリアはもう救えん!そして、悪魔憑きの連れ込まれる施設は私より遥かに強いチルドレン1stが警護しているのだ!」

「……じゃあそいつらも倒」

「まだほざくか!貴様がどれほど強くとも、世界の闇は、貴様が思っているより、はるかに深い!」

「ちょっと、少し話を、あっ」

 

後退を続けていた彼女が、ついに背に壁が付いた。

 

「思い知れええええぇ、ガッ!!!」

 

千載一遇の好機とオルバは斬りかかったが、彼女から突如として衝撃波のようなものが放たれ、オルバは吹き飛ばされた。魔力の発生は探知できたが、肉眼では何が起こったのかよくわからなかった。

 

「うぐ、くそ……そのアーティファクトにはいったい、いくつの機能が……」

「ただの魔法だ。」

「もうじき死ぬ相手に教えることなどないということか……」

 

彼女は、満身創痍のオルバに近付きながら言葉を紡ぐ。

 

「……お前はまだ生きられるよ。さっきので体はボロボロになったけど、あと1年くらいは多分生きる。……その時間で、お前の知っていることを全て話して、今まで殺してきた悪魔憑きに詫びながら死ぬといい。……それがお前に出来ることだ。」

「詫びる…………は、はは。ははははは。」

「……」

「ふざけるのも大概にしろおおお!」

 

オルバは、胸のポケットに残っていた残りの数粒を手に取った。油断しているのか、彼女はかなりオルバに接近していた。不意を突けるかもしれないとオルバは賭けたのだ。

しかし、口に入れる直前。

 

「罪から逃げるな。」

 

彼女の杖から再び光線が放たれ、ディアボロスの雫を全て消し去ってしまった。

オルバには、もはや打つ手がない。だから、叫ぶことしかできない。

 

「貴様ァ、私が今までどれだけの悪魔憑きを殺したと思っている!?今更詫びたところで、何も変わる訳が、ない……!」

 

そう叫びながら、オルバは昔のことを思い出していた。教団に入って、初めての人殺し。娘の年頃の者を襲うことへの罪悪感が止まらなかった。だがそれでも、それを続けていくうちに、いつしか「私は悪でなければならない」と、自分に言い聞かせたのだ。もう、罪を重ねることは『仕方のないこと』であると、自分を騙すために。

それを聞いて、目の前の彼女はしばらく黙っていた。仮面から表情は読み取れないが、だからこそ次の言葉に載せられた感情がよく響いた。

 

「そこまで、しなくちゃいけなかったの……?」

 

泣きそうな声だった。心の底から、悲しんでいるということが分かった。自分への非難以外の声を向けられたのは、いつぶりだっただろうか。悪を重ねた自分には投げかけられることは無いであろうと思っていた種類の声だった。

 

それを聞いて、オルバは緊張の糸が切れてしまった。次の瞬間には、その場に倒れこんだ。おそらくは疲労だろう。

 

「……ディアボロス教団は、私たちが必ず滅ぼす。」

 

ふと、彼女がそう言った。静かだが力強い声だった。

 

「……あなたの娘の名前は?」

 

それを聞いて、オルバは最後の力を振り絞り、胸からロケットを出す。

 

(貴様……あれに抗う気か。闇の前に、私は無力だった。だが、あの力があれば、あるいは……)

 

「ミリ……ア…………」

 

ロケットを何とか出したところで、オルバの意識は途絶えた。

 

 

 

 

最悪の気分だった。

ディアボロス教団に関する話はろくでもないことばかりだった。だがこの男が話した内容は特に胸糞悪い話だった。特定の集団をここまで嫌いになったことは、魔族に故郷を滅ぼされた時以来だ。

気分が悪くなった理由はもう一つある。例えば、子の敵を討つためにその親が努力し、最終的に仇の魔族を打ち滅ぼす……といった話は、一種の美談や英雄譚にあるものだ。実際にそういう場面に出くわしたこともあり、フリーレンはその魔族が討ち取られたときは少し胸のすく思いをしたものだ。しかし、今回はその仇の感情が、多少なりとも自分に向けられた気がしたのだ。

 

ディアボロス教団は、一刻も早く滅ぼさなければならない。

 

フリーレンは、この世界からディアボロス教団を消し去るまでは、帰る気が無くなった。奴らは魔族のように、人を弄び殺す。そして実際にそれを可能にする力を持っているのだから、それを実行しない理由はない。男の持っていたロケットを手に取りながら、フリーレンはそう決意した。

 

(……あっ、いけない。クレアを探さないと。)

 

少し冷静になったフリーレンは、そもそもの目的であるクレアを探すことを再開した。少し歩くと、牢に繋がれたクレアを発見できた。当然爆弾らしきものなどない。意識はないようだが、命に別状はないようだった。

 

「……クレア、起きて。助けに来た。」

「……ん、あ、フリーレンさん?」

 

クレアはのそのそと起き上がる。大した怪我も無いようだった。フリーレンの顔を見ると、険しい顔から、安心したような顔になる。

 

「来てくれると信じていました……!2度も助けられてしまいました。本当に何とお礼を言えばいいのか……」

「気にしないで。むしろ、誘拐を防げなくてごめん。歩ける?」

「はい。大丈夫です。」

「……ほんとに大丈夫?」

「大丈……あー!あのクソおっさんだわ!」

 

クレアは、フリーレンが先ほど倒した男を見るや否や、駆け寄ってその顔面をげしげしと蹴り始める。

 

「さっきは良くも私の顔をぶん殴ったわね!どうせこんなジメジメしたところにいるんだから性根も腐ってたんだわ!オラオラオラ!」

「顔面……えぇ……」

「めちゃくちゃ痛かったですよあれは!女の子の大切な顔をよくも傷物にしてくれたわね!」

 

誘拐されて殴られた割にはやたら元気なクレアを見て、フリーレンは本当に自分の周りの少女たちは元気だなあと、暗い気分が少し治った。

 

「はー、はー、フリーレンさん、こいつどうする気ですか?まだ息はあるみたいですけれど、教団員だし殺して見つからないところに死体を捨てとけばいいですよね?」

「え?あー……ちょっと待って。」

 

フリーレンはクレアを止め、男を浮かせて運び出した。

 

「一応人の親みたいだし、最後に娘の顔を見るまでは牢屋に入っておいてもらおうと思ってる。」

 

クレアは、フリーレンらしい寛大な処置だなと思いつつ、一緒に歩きだした。




オルバ、多分バックボーンはいろいろ味があるキャラなんだと思ったらすごい筆が乗った。ディアボロス教団の外道はどんなに盛っても良いから話が作りやすい。

次からは原作の本編時間軸だあ!
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