結局、あの男(オルバという名前らしい)はシャドウガーデンの拠点にある地下牢に幽閉することになった。フリーレンの意向で、娘に会わせるまではそこに入れておき、それが叶った後はミドガル王国の治安維持機関に証拠と共に突き出す予定である。ただ、娘のミリアという子がオルバの生きている間に見つかる保証などないために、フリーレンの魔法でオルバは一種の封印状態にされた。ひとまず20年ほどは、何も手を加えなくてもそのままでいることだろう。罪状的にオルバはおそらく死刑になるだろうから、彼はその親の愛に免じて死ぬ前に一度だけ娘と会える機会を与えられた、という形になる。
さてそれから数年が経過し、クレアはミドガル魔剣士学園の2年生となった。この間、シャドウガーデンではいろいろな出来事があった。シャドウガーデンの拠点が古都アレクサンドリアに移ったり、ガンマがミツゴシ商会を設立したり。ベータは本格的に作家デビューし、イプシロンもフリーレンの魔法を少しだけ応用した芸を身に着け、それを元に社交界デビューなどをした。などなど、とにかくいろいろあった。
まあ、キャラの濃い彼女たちと一緒に居ればいろいろな出来事があるだろうと、フリーレンは当然予想していた。アレクサンドリアの古城を改装した中にある一等室から外を見ながら、ここ数年のことを思い出していた。
普通なら、こういう時は感傷に浸るものなのかもしれないが、フリーレンが思い出しているうちに湧いてくる感情は、少し違うものだった。
それは。
(……いや、いくら何でも、これはおかしいでしょ。)
戸惑いであった。
(構成人数600は……まだギリギリおかしくはない……のかなあ?でも設立から10年経たずに、もうこれこの世界の国家レベルの、いやそれ以上の武力をもってるよね……?シャドウガーデンの下っ端の戦闘員だけでも、私のいた世界の4から2級魔法使いくらいの強さがあるんだけど……それにガンマのミツゴシ商会も、なんか王国の経済を牛耳る勢いで成長してるし。いくら私が魔法を教えたからって、あそこまでなる?ベータもイプシロンも、作家や芸術家として順調に人気を獲得している。それにシャドウガーデンの構成に、最近は名のある家の元跡取りとか、かなり高い階級にいたらしい軍人とか、極めつけには聖教の聖女とか入ってきてるんだけど……)
一言でいえば、シャドウガーデン、デカくなりすぎである。規模も、質も。
(どうしよう……本格的に国が興りそうだ。……いや、どうしようも何も、別に悪いことじゃないはずなんだけれど……)
シャドウガーデンの構成員は、最初の7人(七陰と呼ばれる)や名誉構成員的な地位であるナンバーズ以外は、いつも朝早く起きるよう指導されている。しかしフリーレンはそういった義務は課せられていない。というか、そもそも何もしなくても基本文句は言われない。現在のシャドウガーデンでは、フリーレンの普段の仕事は、後に語る「聖魔女」としての仕事以外は魔法を教えることと自分の身の周りの家事や雑用程度であり、他のメンバーに比べると比較的暇である。ある時期までは、フリーレンはディアボロス教団の調査を手伝っていた。が、ある時から調査に手を貸さなくなった。これはフリーレンが嫌になったのではなく、アルファたちについていけなくなったからである。組織の拡大や調査の進展につれ、日に日に調査資料は山の如く机に積み上げられ、盗み見られてもいいようにとメッセージは暗号化され、そして徹夜上等のハードスケジュールを当然のようにこなす彼女たち。そもそもフリーレンの強さは長年の積み重ねから来るもので、魔法以外に関しては優秀と言えない部分もある。徹夜ができず目を回しながら書類を眺めていたフリーレンをアルファが見かねて、結局ディアボロス教団の調査の最前線からは引くような采配となった。フリーレンは、教団のアジトに襲撃にかけるときなど、戦力が必要になったときなどに協力するいうことになった。
そんなフリーレンが今どのような地位にいるのかと言うと、アルファ曰く「救世主の如く振る舞っていて欲しい」らしく、「聖魔女」というすごそうだがよくわからない地位を専用に作られて与えられている。「まあ、聖魔女だから何というわけではありませんが……肩書だけでもそういうことにしておけば、悪魔憑きになった者達は安心できるのです。私達には聖魔女がついている、と。」らしい。
フリーレンとしても、シャドウガーデンの皆が元気になってくれるのは喜ばしいことだ。だからその肩書を受けて欲しいとアルファに言われたとき、「まあ肩書だけなら別にいいかな……」と大して深く考えずにフリーレンは了承した。シャドウガーデンの面々は、外での活動や文書でフリーレンのことを指すときは基本的に聖魔女呼びであり、一種の偽名としての役割もある。危険と隣り合わせのシャドウガーデンの活動において、本名を出すこと自体がリスクといえるので、そういった偽名を持つことが必要であることもうなずけることであった。
実際のところ、偽名の効果なのか教団内でフリーレンの名が出回っている様子はなく、フリーレンにはシャドウガーデンの彼女たちのような重労働を課せられたわけではないが……別のところでフリーレンは少し後悔している。
ふと、フリーレンの耳に鋭い剣劇の音が小さく入ってきた。おそらく新入りが戦闘訓練しているのだろう。フリーレンは身支度をして外に出ることにした。今日は、ミドガル王国へクレアの様子を見に行く為に出かけるのだが、その行きがけに「聖魔女」としての仕事をする。そのために、今の訓練をしていた彼女たちにフリーレンは会いに行く。
訓練していた彼女たちの上官(ラムダという名で、もとはベガルタ帝国の軍人らしい)は、フリーレンの姿を見かけると、
「む、聖魔女様がいらっしゃった!お前たち、整列だ!」
「「「はい!」」」
と号令し、フリーレンの前に並ばせる。ちなみにフリーレンは、ラムダのことは嫌っていないが、(職業柄仕方ないとはいえ)部下へ怒鳴る姿が印象に残るせいで少し苦手である。
フリーレンは、口元をもぞもぞさせながら彼女たちの前に立って話し出す。
「えー……皆さん、いつも本当に頑張ってますねー」
「は!聖魔女様に救っていただいたこの命、いつでもお役に立てられるよう日々励ませていただいています!」
「……すごいですねー、皆さんはシャドウガーデンの誇りです」
「何ともったいないお言葉!しかしまだまだ彼女たちは未熟者。おい、お前たち!さっきまでの体たらくの成績で、胸を張って聖魔女様からの言葉を受け取れるのか!?」
「「「うっ……」」」
「(普通に受け取って良いからね……?)え、えーと……今は足りないところがあっても、いつか皆ならディアボロス教団を必ずや倒せるでしょー……」
「「「おおお……!」」」
彼女たちから目をそらしたい衝動に駆られるほどの喜びの目と、フリーレンにとってむずがゆいことを言われながら、半ルーティン化した演説をフリーレンは喋った。
「えー……今は何の訓練を?」
「はっ!アルファ様よりご教授いただいた、魔法と剣術を一体として攻防に用いる技術……そのための基礎として、剣を振りながら魔法を撃つという一連の動作をよどみなくできるようにする訓練であります!」
「へぇ~……すごいな……」
フリーレンは、このやり方に素直に感心していた。もちろんフリーレンの世界にもそれができる者はいたが、かなり限られた上澄みだった。魔法と体術や剣術の基本方針は、「どちらかに習熟したらもう片方もやってみよう」という感じで、基本的に分けて考えられるものだったのだ。最初から両方同時に訓練しようというのは殆ど見かけなかった。これが本当に優れたやり方なのかはまだ断言できないが、訓練された彼女たちはディアボロス教団とは十分渡り合えているようである。異世界ならではの発想なのかと、フリーレンは感じていた。
「聖魔女様!本日のご予定をうかがってもよろしいでしょうか?」
「え?ああ、今日はクレアの様子でも見にミドガルへ行こうかなって。」
「承知いたしました!それでは護衛に何名かお付けいたしましょう!」
「いや、わざわざそんなことしなくて大丈夫だよ。ディアボロス教団絡みじゃないし。それに人が集まったら目立っちゃう。」
「ご心配なく!おつけするのは変装に長けた者たちです。傍目には普通の市民としか映らないでしょう。」
「いやほんと大丈夫だから。わ、私そろそろ列車に乗らなきゃいけないから、もう行くね。えー、訓練頑張ってね。……ほどほどにね」
「はは!行ってらっしゃいませ!」
姿が見えなくなるまで敬礼するラムダに内心申し訳なく思いながら、フリーレンはその場を後にする。しばらくするとラムダの大声が聞こえてきたので、訓練をほどほどにするつもりはなさそうだった。
今の会話のように、現在のシャドウガーデンの大体のメンバーからは、フリーレンは神聖な何かのように扱われている。一応フリーレン本人はちゃんと「私は神じゃない」と明言しているので神様と見なされているほどではないが、アルファの言う通り聖魔女とやらを名乗っていたらいつの間にかこうなっていたのだ。
アルファに頼まれた当時は、メンバーが100人単位で増えてきたので、フリーレンの立場が少しあやふやになり一部のメンバーから「フリーレン様はすごそうですけれど、具体的にどういう立場なのでしょう?」と聞かれることがあった。フリーレンとしては、単に肩書の説明のつもりで
「ええと、なんか私は聖魔女……というのになったみたいなので、正直よくわからないけどよろしくね?」
と話しただけだった。しかし次の日には、朝フリーレンが
「おはよう~」
と挨拶したところ、
「おはようございます!聖魔女様!今日はどのように私達を導いてくださるのでしょうか!?」
「……………………」
などとその場にいたメンバー数人に言われてしまったのである。明らかに崇拝のまなざしで。フリーレンはその場で10秒ほど固まってしまった。
「……えーと、聖魔女?」
「はい!遠い場所より来る聖なる魔女が、悪魔憑きであった私達を救い導いてくれる……それがフリーレン様だったのですね!」
「…………あの、それは役職というか肩書で、私神様みたいな存在じゃなくてただのエルフで」
「ええ!つまり、1000年の修行を経て私達を救ってくださるという、聖なる魔法使いのエルフです!聖魔女様に従っていれば、もはや私達に恐れなどありません!」
「え、な、何それ?」
「アルファ様を始め、ガーデンの皆が口をそろえてそう言うのですから、間違いありませんよね!ところで『海を花で埋め尽くす魔法』をお使いになるとのことですが、見せていただけませんか!?」
フリーレンは心の中で頭を抱えた。もうすでにこういう話が広まっているらしい。一応神様ではないが、人智を超えた何かだと思われている。
「あ……!イ、イプシロン!」
「……ん?あ、フリーレン様。おはようございます。」
フリーレンは、その場に偶然居合わせたイプシロンに助けを求めた。
「イプシロン、な、なんか私に変な噂が立ってるみたい……」
「噂?」
「え?いや、噂などではありませんよ!フリーレン様……聖魔女様は、私達を救いディアボロス教団を打倒すべく遠い所から来られたと!」
「私聞きましたよ!昔は龍の群れを『命を半分消し去る魔法』でいともたやすく全滅させたと!」
「……ね?イプシロン、何とか言ってよ……」
勿論事実無根である。確かに龍を追い払ったことはあるが、そんな大仰なことはできない。
フリーレンは、何とかしてくれとイプシロンを見た。しかし、イプシロンは
「ええ!フリーレン様は、ここにいた龍をそれはもう見事に追い払ってしまったのです!私たちを導くために私達の前に現れたのでしょう!」
と言ってしまったのだ。龍とバトルして勝ったこと自体は事実なのだから説明には骨が折れるだろう。
「フリーレン様!」
「聖魔女様万歳!」
「救世の女神様!」
拝みながら口々に言うガーデンのメンバーたち。もはや訂正は無理だろう。しばらく黙っていた後、そこには
「あーうん……そうだね、私は聖魔女だよー……」
と、諦め顔で口にするフリーレンの姿があった。敗北感がフリーレンを満たした。
実際、アルファの言う通り、このようにしてガーデンのメンバーをおだてておくと、皆やたら元気になるのだ。その上時々メンバーが作ってくれたお菓子やアクセサリーなどを贈呈してもらったりすることがある。そういうことに甘えてはいけないと、フリーレンは基本そういうものは断っているし、安易に贈り物などしないようにと公言している。……ただし、聖魔女としてその手のことをされたときはかなり顔がニヤついていたことは付記しておく。
私の世界の創生の女神も、実態は案外こんなんなのかもなと思いつつ、フリーレンは深淵の森と呼ばれる危険地帯を抜けていった。かつてはこの森は毒の霧に覆われた危険地帯で、しかも中にドラゴンが主として居座っているといった危険地帯であったのだが、いろいろあったのちにシャドウガーデンのアジトにされてしまった。現在は、そのドラゴンに認められているので状況は落ち着いているのだが、なんとなくこのドラゴンには住処を荒らして申し訳ないような気持ちでいる。フリーレンはそそくさと抜けてしまうのだった。
◇
フリーレンは、重大な用事というわけではないが、しばらくは顔を合わせていなかったクレアの顔を見るためにミドガル王国へ来た。
イレギュラーの塊であるシャドウガーデンの外ならば、驚くような出来事には早々出くわさないとフリーレンはタカをくくっていたのだが。
「あ、フリーレンさん。3ヵ月ぶりですね。」
「……ク、クレア。隣に居るのって……」
「あ、どうも。アレクシア・ミドガルです。ええと、クレアからあなたが第二の親のような立場のフリーレンさんであると伺っています。……合っています?」
「はい、そうです。アレクシア王女。」
「クレアと違って礼儀正しいわね……。今日はまあお忍びということで……私の存在は言いふらさないでくださいな?」
「ええ、勿論……」
クレアの横にいる人物には驚かされた。横にいる銀髪の美少女はアレクシア・ミドガル。このミドガル王国の正真正銘の王女である、
「クレア……何がどうなって王女様と歩いてるの?」
「特待生ですからね。私はこの剣の腕によってミドガル王国を守ると同時に、この国の魔剣士を指導して強化する役割があるのです。というわけで、これからアレクシア王女を『私が』強くするために訓練場へ行くんですよ。」
「……う、うぐぐ……でも最近はちょっとは追いついてきたわよ……!」
「あら、今月の17敗4勝のどこがちょっとなの?」
クレアはニヤつき顔であり、アレクシア王女はものすごく不服そうだ。王女様に対しこんな態度で大丈夫なのだろうか、とフリーレンはかなり不安になった。元居た世界では、王様に不用意な口を利いたせいで仲間が処刑されかけた経験があるのだ。
「実際に一本取ったことは事実よ!……さ、最近は連続2勝したことだってあったでしょ!」
「そのあと3連敗したけどね。」
「……んの……!さ、さっさと訓練場行くわよ!」
「ええもちろん。あ、フリーレンさん。この時刻にここで良いですか?この後は見ての通り予定があるので。」
「あ、うん、分かった。先に宿に行って待ってるね。あと……王女だし、口には気を付けてね?」
「え?まあ公共の場ではともかく、プライベートでは最近ずっとこんな感じですけど、何も言われませんよ?」
「そ、そう……」
そう言ってクレアと後で落ち合う約束をして、フリーレンはクレアと別れた。自分の身の回りの人々の人脈には驚くばかりであった。
◇
今年の特待生に、特に優秀な魔剣士がいると聞いてはいたけど、正直姉さまには及ばないだろうと思っていた。でも実際は、私は初めて姉さまほどに強い魔剣士に出会うこととなった。
その名前はクレア・カゲノー。カゲノー家は代々優秀な魔剣士を排出する家系として知られているけれど、クレアは突出して優秀らしいわ。
「というわけで、お手合わせお願いするわ。クレア・カゲノーさん。」
「ええ、王女様にお相手してもらえるなんて光栄ね。」
ある日、学校のグラウンドに彼女を呼び出した。目的は当然、クレアの実力を知りたかったからよ。なんでもこの学園の最上級生と比べても勝てるだの、アイリスお姉さまにも引けを取らないだのと噂されていたの。気になるのも当然よね。
私はクレアに訓練用の模造刀と防具を渡した。それを受け取るクレアの顔は……
「……ふふん♪」
ムカつくくらい自信満々ね。割と王女の権限を振りかざして強引に呼び出した自覚はあるのだけれど、不満は見て取れない。……もしかしたらあるのかもしれないけれど、それ以上に戦えるのが嬉しいって顔をしているわ。
「……準備はいいですか?お二人とも。」
そう言う審判をはじめとして、周囲にはそこそこ人が居る。魔剣士としての志がある人間が集まってる感じね。これでも王女である手前、無様なところは見せられないわ。
「ええ。」
「大丈夫よ。」
「それでは、アレクシア・ミドガル対クレア・カゲノー、試合開始!」
「ハアァ!!!」
まずは基本的な攻撃、脚に魔力を込めて一気に加速し、上段から振り下ろし。アレクシア王女の地味な攻撃とか言われるけど、変に反撃されることもない基本に忠実な攻撃。まずは相手の剣の特徴を知るために探りを入れる。
クレアは、ブシン流の基本通りの受け方で私の剣を迎え撃ち…………!?
「かっ……るいわよ、王女様!」
「グッ!?」
つばぜり合い状態から強引に剣を振りぬかれた!?結構魔力で強化してたのに、純粋にパワーで押し切られるなんて……これだけでもブシン祭で優勝狙える水準よ!?
しかも、
「魔力をほとんど感じなかった……ゴリラみたいなパワーですね!」
「女性に対して、失礼ねッ!」
「褒め、てるん、ですよ、フッ、ウッ!」
魔力をほとんど使っている様子が無い。私は対応するのがやっとだった。今はクレアからの突き攻撃を何とか避けたけど、風を斬る音が半端じゃなかったわ。これ訓練用の防具をつけててもダメージ来るんじゃないの!?見た目そんなに筋肉があるようには見えなかったけど、着痩せという奴かしら。それとも細マッチョってやつ?
クレアの剣は、純粋に速く、重かった。特徴らしい特徴はないけど、とにかく全体的に高水準。それはもちろん、剣の技術もだった。
「崩れた!ここは2段突き……!?」
「崩れて、ないわよ!」
「なっ!?」
体勢が崩れて隙ができたと思ったらフェイントだった。今のフェイント……ブシン流のやり方を少しだけアレンジしたものだったけど、自然過ぎて気がつけなかった……。
それに思い至って、悔しさで頭に血が上る。
「……じゃあもう出し惜しみなしよ!ハアァァァァ!!!」
私は一気にクレアに接近してクレアを横から打つ。でも魔力は全開。姉さまの凄まじい量の魔力による攻撃を真似て、私流にアレンジしてみた剣。普通の生徒相手だったら怪我させるかもしれないけれど、このクレア・カゲノー相手にはそうも言ってられないわ!
「!?グッ!」
クレアは表情を真剣なものにして、私の剣を迎え撃つ。さすがにこれをさっきみたいに吹き飛ばされるなんてことは無いと思うわ。けれど、このまま拮抗状態だと私が消耗してジリ貧ね……!
「……やるわね、さすが王女様。」
クレアが、少し満足そうな顔でほほ笑んだ。
「でも、それじゃ私は倒せないわ!」
「な……この魔力!?」
クレアの魔力が膨れ上がる。姉さまに届くかもしれないと思えるほどの量。あの憎たらしい余裕そうな様子からして全力じゃないんだとは思ってたけど、まさか本当にここまで強いなんて……。
私は、そのお姉さまに勝てたことが無い。……でも。
「だからって、退いて、たまるかあああああああ!」
「!?」
私は、クレアの腹を魔力で強化した脚で思いっきり蹴って、無理やり距離を取る。相手の剣の内だったら、あの魔力はどうやっても防げなかった。だから、とにかく今は作戦を立てるためにも、時間稼ぎが必要だった。
私はこのまま、負けたくない。だって。
「ちょ、ちょっと。王女様がそんな品のない攻撃していいんですか!?」
「し、失礼ね!貴方みたいに舐めてかかかってない分誠実よ誠実!」
「……はぁ~?」
このクレア・カゲノーは、慢心している。顔のニヤつきが、完全には消え去っていない。それがとにかくムカつく。少なくとも、剣で一撃入れてやるまでは絶対に退けない。
私の言葉を聞いて、クレアは少しの間黙っていたけれど。
「……そうね。私は慢心してた。不誠実だった、謝るわ。」
クレアがそう言った瞬間、魔力が溢れ出す。
「そして、あなたはそんな私に全力で歯向かってきてくれた。とっても誠実だったわ。だからここからは私も全力。ハアアアアア!!!!!」
本当に強大な魔力。それに本当に魔力の流れが綺麗。あんなに素晴らしい制御は見たことが無いわ。この点、もしかしたら姉さま以上かも……!
でも、負けるわけにはいかない。初撃をかわすとか、足掛けでもなんでもいい。とにかくまずは隙を作らないと。でも、さっきの攻防からして、なんか基礎的な体術もマスターしてるっぽいのよね。いったいどうしたら……!
……と、クレアをどう倒すかに頭をフル回転させていた、その時。
……パキン!
「……あっ。」
クレアの模造刀が砕けてしまった。先ほどの攻防に加え、クレアの強大な魔力に耐えきれなかったんだわ……
「そこまで!器具の破損につき、この模擬戦はここで終了!」
ギャラリーの歓声が響き渡った。実質的には私の負け。でも、歓声の中には私のことを称える声も少なくなかった。……こういうのを受けるの、いつ以来かしら。
◇
「……で、どれが欲しいの?」
「じゃあ……このチョコバニラベースのトリュフチップ入りスペシャルジェラート食感アイスをLLサイズでお願いするわ。あとトッピングは金粉でお願い。」
私は負けた者として、カフェでクレアにミツゴシ製のアイスを奢っていた。……ちゃっかり一番高いやつを注文しているのがムカつくわね。
「遠慮とかないわけ……?」
「いいじゃない。金貨を気楽に持ち運べるあなたなら大したことないでしょう?」
まあ実際そうだけど……
でも、もちろんタダでおごっているわけじゃないわ。
「……で、あなたどうやってそんなに強くなったのよ。」
私はクレアに、その強さの秘密を教えてもらう約束をしたの。私だって一魔剣士並みの向上心はあるのよ?
「カゲノー家って、確かに魔剣士を代々輩出しているけど、国の中で目立つ強さかって言われると正直パッとしないわよね。」
「……突然私の家の悪口?怒るわよ?」
「わ、悪かったわよ。とにかく、その中で突然突出した強さのあなたが現れた。」
「ふふん。まあもう私はパパにも勝てるし?当然よね!」
ホントいちいちドヤ顔するわね、こいつ。
「で、どうやってそんなに強くなれたの?」
「そりゃあ、頑張って鍛えたのよ。」
「いやまあそうなんでしょうけれど……つまり、あなたの剣はまあ独学特有の変な癖が無かったから、誰かに教わって強くなったんでしょう?」
「まあ、確かに教わった……わね。」
「で、誰に教わったのよ?カゲノー家にそんなにすごい魔剣士を呼び込める力なんて無いと思うわよ?」
「別に私の家で呼んだわけじゃないわ。」
「……なおさら、いったい誰よ?クレアをそこまで強くした魔剣士は。」
「えー?それは言わなきゃダメなの?」
「とーぜんでしょ!さっき『その強さを教えてくれますか?』って言ったらOK出したじゃない!なんのためにそのクソ高いアイスおごったのよ!?」
「え、あれそういう意味だったの?てっきり私に剣を教えてください的な意味だと思ったわよ。」
「はーーー!?あ、アンタに教わったら口が悪くて集中できそうにないわ!」
そう、クレアは口が結構悪い。周りに人の目があるときは普通だったけど、二人きりになった途端にタメ口よ?まあ私は意外と庶民派の王女って見られてるけど、それでも王女よ、一応?それに試合のことを話すときは「王女様、あのフェイントはこうやって見破るんですよー」って、すんごいニヤニヤ話してくるんだから!……まあ、指摘の内容はごく真っ当だったけど。
「……鏡、」
「は?」
「はあ、なんでもないわ。でも、悪いけど当人の意向で誰なのかは本当に言えないわ。まあ、ミドガル王国の者ではないとは言ってあげれるくらいね。」
「はあ……なによもうそれ……なんか他にないの?このままだったらアイス代請求するわよ?」
「……分かったわよ。じゃあ、私からアレクシアがどうやったら上達するかをその師匠……師匠かしら?まあとにかくその人に聞いてみてあげる。それにこれからはあなたの訓練に私もできる限り付き合ってあげるわ。これでどう?」
「そう?……そこまでしてくれるならあのアイス以上の価値は全然あるわね。」
「まあ、私の鍛錬にもなるからね。」
「……ていうか、そもそもその人は私の剣を知ってるわけ?ミドガル王国の人じゃないんでしょう?」
「多分知ってるんじゃないかしら?仮に知らなくても、自前でちょちょいと調べてくれると思うわよ?」
「……本当に何者かしら?そんなちょっと調べるだけでどう直せばいいか教えてくれるなんて、相当な腕利きよね?ベアトリクス様かしら?エルフなら年齢の観点から可能性があるかしら……」
「ベアトリクス様じゃないし……そもそも私より年下で……」
「へ?年下?」
「あ……言っちゃった……ああもう、そうよ、私より年下なのよ、そいつ。なのに私より何もかもあらゆる面で強いの。あー、思い出しただけで悔しいわ!」
「えー、いやでもほら、人間どこかしら欠点があるものよ?クレアにも勝ってるところの一つか二つくらい」
「無、い、の、よ!本当に!私より剣は上手いし、魔力の扱いは上手いし、頭は良いし、話が上手いし、体力あるし、性格いいし、顔もいいし、魔ほ……と、とにかく、天が百物くらい与えてる才能の塊なのよ!アイツにだけは何やっても勝てないわ!」
「え、ええ……」
いやさすがに冗談、いや何かの間違いよね?そんなのいたら今頃とっくに有名になっていると思うけれど……
「まあまあ……とにかく、その人にお願いね?クレア?」
「はー……まあ、分かったわ。」
そうして、私とクレアは付き合うようになった。主に剣の訓練相手として。
クレアとの訓練は……正直ものすっごい疲れる。姉さまに比肩する魔剣士と全力で戦うわけだから当然よね。でも、クレアは私から一本取ったりするとこれ見よがしにドヤ顔してくるから頭にとにかく血が上ってしまう。ホント、王女相手に無礼な奴よ。
……でも、クレアとの戦いが私の実力を伸ばしているのも事実。いちいち「ここが私の方がすごい」マウントがウッッッザいけど、どうやったら私が強くなれるのか、私に足りないものは何なのかを教えてくれるということについては真実だ。自分のためというのもあるんでしょうけれど、私を強くするために惜しみなく時間を割いてくれた。そのクレアの師匠(?)からのアドバイスもまるで覗き見てるかのように的確なものが多かった。ちょっと気味が悪くなったレベルで。
ともかく……私は、クレアとの付き合いは悪く思ってない。剣のこと以外でも、特にゼノンの悪口を思いっきり言える相手に巡り合えたのは幸運だと思っている。なーんか胡散臭いのよね、あの男。私の婚約者の予定となっているけど、欠点が見当たらなくてなんか嫌なのよ。でも「欠点が無いという欠点」なんて多分普通は共感してくれない。でもクレアもゼノンに気味悪さを感じてくれたようで、放課後一緒に帰りながらゼノンの悪口で盛り上がったときはここ一年で一番楽しい時間だったわ。
……クレアには絶対言わないことだけど、こういうのが『友達』ってのかしら?
・演説
この間ずっとしょぼしょぼ顔である
・10秒ほど固まるフリーレン
フ、フリーズレン……w
・優秀なクレア
この時点でのクレアの実力は原作時より高いことを想定。原作ではシドから見て盗むだけだったが、本作ではシャドウガーデンのメンバーと訓練することにより全体的に能力が高くなり、魔力に関する知識もこの世界と比較して正確かつ高度なものをフリーレンなどから教わっているため。
実力は、
アルファ > ゼノン(?) ≒ アイリス ≧ クレア > アレクシア > 第一部の生徒
を想定(剣に限る)
追記:
申しわけありません。この小説はここでストップとさせていただきます。
私自身これ以降どうしたら面白くなるのか全く分からなくなってしまったからです。
楽しみにしていただいた方には大変申し訳ありません。