逆境の子
私の人生はハードモードで始まった。
痛い。痛いよ。
あーもう!毎度のことながら痛いなぁ。
痛みに耐えてうずくまる私を不快な音が追撃する。
狂ったように喚き散らす女の怒声。何を言ってるのか全然わからん。
うるさい。頭に響いてガンガンする。あー本当にうるさい。
ここでとても悲しいお知らせがあります。
今は私を怒鳴りつけているキチガイババアがなんと!
私の実母らしいのですwww
笑えよ?
まったく笑えない事実に意気消沈している間にも鈍い痛みは続き全身に広がっていく。
新しくつけられた(殴られた)顔が一番痛い。ふざけんな。
どうして?とか、なんで?とか、これでも最初は随分と悩んだものだ。
だけど、繰り返し与えられる理不尽について考えることはもう無い。
考えて考えて考えて考えた結果、全て無駄だと解ったから。
これはそういうものだと割り切ったほうが楽だから。
でも、私の感情はまだ死滅していないようだ。
だってほら、自分はちゃんと悲しんでるし怒ってもいる。
不幸な境遇に身を置く自分が惨めで可哀想で仕方がない。
自分を酷い目にあわせる筆頭のクソババア、その他諸々の畜生ども。
そんな奴らの存在を許容している世界にも怒りを覚える。
あーあー、マジで死んでくれないかなあ?
それか明日にでも世界滅びたらいいのに。
全部キレイさっぱり消えたら、さぞかし胸がスカッとするだろう。
待って、今のは訂正する。
世界滅べはいくら何でも言いすぎた、滅び去るのはババアたちだけでいい。
多少なりとも善良な人がいるのは理解してるし、
何より自分はまだ死にたくない。生きていたい。
こんなところで、こんなままで、終わるなんて絶対嫌だ。
まだちゃんと生きていないのに終われない。
終わってたまるか。
ババアと過ごす日々は、
何度も思い返しては吐き気を覚え、何度も夢に見ては気分を害する。
忘れたくても忘れられない、最低な一生の思い出だ。
ここからゲームスタートよ。どう思う?
こんな虐待児童が主人公で申し訳ないっス。
〇
「ああもうっ!お前の顔を見るとイライラする」
ババアがヒステリックに叫んでいる。
普段まともに目を合わせない奴が何か言ってるー。
私はイライラどころか殺意湧いてますけど?
「……酒」
「……」
「酒持って来いって言ってんだよ!」
あるわけねーだろ。
お前がヒス起こして叩き割った分が最後の一本だよバーカ。
床を見つめながら無言を貫く私。
下手に喋ると『うるさい!声を出すな』とまたヒスるのでババアとの会話は最低限で済ませる。
泣くのが仕事ともいえる赤ん坊のとき、殺されなマジで良かったと思う。
面倒を見てくれたのはババアではなくて、奇特な教会のシスターだったのが幸いしたな。
「……」
「なんとか言え!」
えぇー。黙ってても怒るのぉ?
なんという理不尽の権化。それがこのクソババアという恐るべき生物だ。
家に酒の在庫が無いことに気付いたババアが舌打ちして、小銭を投げて寄越した。
お使いですか?喜んで!
待ってましたとばかりに、床に散らばった小銭をかき集める。
いつもの事だが、金額が安定しないな。
日によって多かったり少なかったりする。
簡単な計算すらできない大人ってかなり恥ずかしいと思うぞ。
やった!今日はちょっと多いから食料も買えちゃう。
「さっさと行け。早く」
「……ん」
「返事はハイだろうが!」
「ん!?」
うわっ!こんどは空瓶投げて来やがった。
しかし、ババアはノーコンなので当たりはしないのである。
ババアの投擲を回避しながら私は家を飛び出した。
イテキマース!
家賃が安いことだけが長所の汚いボロアパートが私のとババアの住処だ。
部屋の中はゴミが散乱した汚部屋なので外の方が幾分ましだ。
私は小銭を握りしめトテトテと歩き出す。
やあ、どうも主人公だよ。
今日も今日とて虐待されてる主人公だよ(泣)!
名前?ほぅ~私の名前が知りたいと申すか?
あーやっぱそれ聞いちゃうかあ。
吾輩は主人公である名前はまだない。
いや、ふざけているわけじゃないのよ。
本当にマジで無いんだってば!
あのババア、どうやら私に名前付けてくれなかったみたいなのよ。
ホント信じらんないよねー。
実子の呼称が無い事に不便さを感じないない親がいる事実が怖い。
あ、最初の方に言ったと思うけど私を虐待しているクソババアが母親ね。
血は繋がっているらしいけど、私は奴を母親だと思うことはずっと前にやめた。
気の迷いで一度『お母さん』と呼んでみたら、しこたま殴られたぜww
それ以来、私は奴を心の中でババアと呼んでいる。
お好みでクソを付けるのもアリだ。
向こうも私を我が子だと認識したくないので『これ』『それ』『お前』と呼んでいる。
その昔ババアがまだ若かりし頃、水商売でそこそこ売れっ子だったらしく、どこぞの成金に口説かれて子供作ったらしい。
それが私だ!なんてこったぁ!
案の定、ただの遊びだった成金男にあっさり捨てられた哀れなババアw
そんなんが私の母親なんて…いや~ハズレでしたわ~。
因みに父親の方は顔も知らね。知りたくもねぇ。
まあ、一応ある程度の手切れ金ぐらいはババアに恵んだんじゃね?
そんな底辺の親たちから生まれた、最底辺の主人公が私だよ。
ははは……同情するなら金をくれい。
「酒は一番安いのでいいとして、廃棄予定のパンなら……ん、買えそう」
ババアの前では寡黙だが、私はコミュ症でも無口キャラでもない。
頭の中はいつも大騒ぎだし、独り言だって人一倍多いのだ。
私なんかと会話してくれる人は限られているので、誰かと話す事に飢えていると言っていい。
よろず屋のおばちゃんと教会の司祭様にシスターは、そんな私の救世主だ。
読み書き計算に一般常識だって彼女たちから教わったのだ。
幸いにも私は頭の出来が良かったらしい。
それを見抜いた司祭様は教会の私室に私を招き入れて勉学を教えてくれた。
本当にありがてぇありがてぇ。
人の優しさが沁みる・・・
司祭様の部屋は本で溢れていた。壁を埋め尽くす書棚とそこに収められた本、机と床に積まれ散らかった本、どこを見ても本、本、本だ。
汚部屋具合では我が家といい勝負である。
教育を受ける見返りとして部屋の掃除を申し出ると司祭様はとても喜んでくれた。
綺麗にしても半日で元に戻って呆れたけどね。
本を読むのは好きだ、勉強というか新たな知識が増えるのも好きた。
学んでいる最中は嫌な事を考えずにすむ。
歴史小説や空想の冒険譚には特にハマったな。
僅かな時間でも辛い現実を忘れさせてくれた事には感謝している。
ババアが男を連れ込むと自然に家を追い出されるので、私は暇な時は教会に入り浸るようになった。
他の所に行くところもなかったからね。
私の知識量が半端ないのは日々の勉学の賜物だと自負している。
少なくともババアよりは頭がいいはずだ。そうに決まっている。
はい?
言動が大人びているというか、やさぐれたおっさんみたいですって?
そいつは過酷な環境に適応したが故の結果だと思っていただきたく存じます。
だって、産みの親からしてアレだもん。
少々言葉がおかしい変な子でも目をつぶってくださいよぉ。
お願いします!
私は小汚い恰好で街の中を歩く。
服は最低限の物したか与えられていないし、新しいのをババアが買ってくれるわけもない。
洗濯はもちろん自分でやっている。
大事にしているつもりだが、ずっと同じヤツを着ているとどうにも傷みや汚れが目立ってくるものだ。
汚い子供に人々の反応は様々だ。
あからさまに嫌な顔をする人もいれば、同情の視線を向けて来る人、無関心を貫く人もいれば、指をさして笑う人だっている。
慣れはしない。
反応したら負けなので無視を決め込む。
石を投げられたり、お金を強請られたりしないだけマシだ。
「さて、早くお使いを終わらせないと。また殴られちゃうぞ」
今日はもう、朝から三発も殴られてるし。
これ以上は勘弁願いたい。
いくら非力なババア相手でも痛いものは痛いのだ。
くそぉ、いつかやり返しちゃる。
「教会に寄り道してお祈りぐらいはいいよね」
優しい司祭様たちには悪いけど、私は神様なんてこれっぽっちも信じていない。
仮に存在したとしても、手を差し伸べて助けてはくれない。
傍観しているだけの役立たずだと思っている。
それでも、私は祈るのだ。
このクソったれな世界で、足掻き、藻掻いて、何とかギリギリ踏ん張っている。
こんなにも小さくて、こんなにも無力だけど、それでも今を生きている。
私自身に祈るのだ。
「うん。今日も私は生きている。明日も、その先も、生き抜くいて……いつか…」
目標はババアより長生きしてやること。
できれば人並みに幸せになって、ババアを見返してやりたい。
私はこんなに幸せだけどお前は何なの?ウンコ製造機ババアなの?
みたいな感じに『ざまぁ』できたら最高なんだけどなー。
しょーもないと笑ってくれて構わない。
私は本気だ、大真面目なんだから。
「私は生きる。ババアは死ぬ」
頼むババアよ、出来るだけ早く死んでくれ。
教会で祈る内容としては落第だなコレww
実母の死を願いながら、今日も私は生きています。