歓迎会を開いてもらい、ブライト家で一泊させてもらった次の日。
私のような浮浪児を保護又は住み込みで働かせてくれる場所があれば教えてほしいと尋ねてみた。
「何を言ってるの?イリスはこの家で暮らすのよ」
エステルさん、あなたこそ何を言ってますのん?
私がブライト家で暮らす事が、決定事項のように言われて困惑する
「さすがにそこまで迷惑をかけるわけには…」
「イリスがいなくなる方が迷惑よ!」
えぇぇ、なんかキレられたよ。
助けを求めてカシウスおじさまたちに視線を送るが・・・
「あの、エステルが暴走してますけど?」
「はぁ……言い出したら聞かないからなぁ」
「そうだね。身をもって知ってるよ…」
「右に同じくねw」
おい、何故誰も止めない?
長女の発言力強すぎでしょ!
この家のボスはカシウスおじさまじゃなくて、エステルだったの?
その後も話し合いを続けたのだが、他の所で暮らすつもりだった私の意見は却下された。
エステルだけでなく、最後には四人がかりでブライト家への滞在を勧められてしまう始末。
そうまで言われたら無下にはできない。
皆いい人だし、この家はとても居心地が良いので願ったり叶ったりだ。
しばらくの間、お世話になろう。
こうして私はブライト家で暮らす事になった。
ドキドキワクワクの居候生活スタートだ!
●
ブライト家の人たちは当然の如く私を家族として迎え入れてくれた。
年の離れた末っ子のように可愛がってくれるのは嬉しいけど、私の何をそんなに気に入ったのか分からない。
私を売るつもりも、肥え太らせてから食べる素振りも見受けられない。
実験動物にされたり、怪しい儀式の生贄にされることもなかった。
他に考えられる目的は、ババアにみたいに生きたサンドバックとして使うつもりだろうか?
自分でも疑い過ぎだと思う。でも、臆病な私は慎重にならざるを得ない。
最悪に胸糞なパターンは、一度持ち上げて私が油断したところで奈落の底に叩き落す計画・・・
『お前の絶望した顔が見たかったんだよw』とか言われたら、もう一生誰も信じられなくなる。
私の思考は知らぬ間に口から漏れていたらしく、全員から痛ましいものを見る目をされてしまった。
『空の女神に誓って、そんな事は絶対にしない』と、真顔で言ったエステルに抱きしめられる。
彼女の体温や心音が心地よくて、私の猜疑心は薄れていった。
疑う事よりも、信じる事の方が大変なんだな・・・
決めた!私はエステルたちを、ブライト家のみんなを信じるぞ。
誰かを信じたいと思った、今のこの気持ちを大事にしたい。
散々疑ってごめんなさい。不束者ですが、どうかよろしくお願いします。
え?土下座は不要ですか?
なら、三点倒立しましょうか?しなくていい・・・残念です。
◇
私の恩人たち、ブライト一家のメンバーを紹介しよう!
《エステル・ブライト》
長い茶髪のツインテールがトレードマーク。
年上なのに可愛らしい感じのお姉さんだ。
エステルはエステルなので、エステルとそのまま呼んじゃう。
天真爛漫な性格で、思い込んだら一直線の元気な女性。
その性格もあって周りの人間から大変慕われている。
彼女がいるだけで周りの雰囲気が明るくなること等から『太陽の娘』なんて呼ぶ人もいるらしい。
確かにエステルは眩しい、人としてのあり方がホントに眩しい…これが陽キャか…
虐待と過酷な地下暮らし送って来た私には少々目に毒な存在である。
でも、嫌いになれないんだよなあ。
彼女の優しさと明るさに私も救われたのだから、人として大事なもの思い出させてくれたから…
うん、私はエステルが大好きだ!
彼女を見習って私も『ウェーイ!』と陽気に生きてみたい。
私に対するスキンシップが過多で、事あるごとに抱きしめたり頬ずりしたりと忙しい。
尚、妹であるレン姉さまも同じぐらい被害にあっている模様。
なんと!ヨシュアさんとは姉弟であり、家族公認の恋人でもあるという!?
いいんですか?これって近親相姦…あ、はい、何でもありません。
カシウスおじさま譲りの棒術が得意で、棍をつかった縦横無尽な技の数々でバッタバッタと魔獣を叩きのめすところを見せてもらった。
ワォ!なんかメッチャ強くない?
へぇ~遊撃士なんだ・・・しかもA級だと!?
そりゃ強いはずだわ。
《ヨシュア・ブライト》
黒髪に琥珀色の瞳を持つ、中性的というよりも女性寄りに整った容姿の美青年。
お兄さんと迷ったが、ヨシュアさんと呼ぶことにした。
冷静沈着かつ穏やかな性格で、エステルのフォローに回ることが多い。
う~んイイ男だ。エステルの恋人でなかったら交際を申し込みたい。
誰に対しても礼儀正しく優しいが、どこか影のある感じがする。
過去に何かあったのかもしれないけど、それは私が詮索すべき事ではない。
ヨシュアさんも高位の遊撃士でありエステルと共に、国内外を問わずそこそこ名が知れた存在らしい。
ヨシュアさんの戦闘スタイルは双剣を使った流麗なる絶技だ。
なんというスピード!?
あれは真っ当な剣技ではなく暗殺系の技かな?
庭園でのアサシン育成コースでちょっとかじったから多少わかるぞ。
一緒にお風呂入ってほしい!
やましい意味ではなく、恩人の背中を流したいという奉仕の心がだね・・・
嘘です!イケメンと混浴するのが夢だったんや。
一緒のベッドで寝たりもしたい!
ベッドに潜り込んじゃおうかなぁ・・・えへへ(*´▽`*)
《レン・ブライト》
スミレ色の髪をした美しきお姉さま。
尊敬の念を込めてレン姉さまと呼ばせて頂く。
可憐な容姿、優雅な振る舞い、年齢にそぐわない艶っぽさを持つ少女である。
天才的な頭脳を持っており、どんな質問にも的確な回答を返してくれる生き字引。
このレベルの天才は知の庭園にすらいなかったと思う。
導力ネットにも精通していてハッキングもお手の物。
キーボードを叩く指先が早すぎて見えないよ。
いずれは検索エンジンを自作して広く一般公開してみたいと言っていた。
導力端末があればどこでも稼げそうで大変羨ましい。
頭が良いだけなく、戦闘技能にも優れ
完全無欠か?もう嫉妬する気もおきんわ!
ヤダー!
ブライト家のみんなは私に対して非常に過保護だが、レン姉さまも例に漏れず。
『他人の気がしない』とは、どういう意味なんだろう?
《カシウス・ブライト》
私を見つけて拾ってくれた大恩人であり、ブライト家の主。
カシウスおじさまだ。
私の理想を具現化したようなナイスミドルであり、気さくでお茶目なところも好ましい。
エステル曰く『不良オヤジ』であるが、男はちょい悪ぐらいがカッコイイと思う。
実はこのおじさま、とんでもない経歴の持ち主だった。
元S級遊撃士で今はリベール王国軍の重鎮なんだってさ!?
S級の遊撃士と言えば単騎で戦況をひっくり返す事も可能だとされる本物の英雄だ。
人の理から外れた『超越者』・・・
あのマクバーン君やパネ様と同等だったりするのか?
更に現役の軍属だとすれば、作戦指揮やその統率力も並大抵ではないはず。
なんじゃそりゃ?どう考えても強いなんてレベルじゃないだろ。
『不良オヤジ』改め『チートオヤジ』だよこの人。
娘のエステルと同じく棍を使った棒術を得意としており、その一撃は岩をも穿つと言う。
でも、おじさまの真価は太刀を使った剣術ではないかな?
棒術は本来の力をセーブするために学んだ技だったりして・・・何故だかそう思ってしまった。
その事をおじさまに言ったら『いい眼をしているな』と笑いながら頭を撫でてくれた。
・・・・・・・
以上が素敵に無敵なブライトファミリーの紹介でした。
何だこの家族・・・どう考えても戦闘力が異常なんだが?
誰と戦う気だよ?何と戦って来たんだよ?わけがわからないよ!!
もう笑うしかないwww
居候とはいえ今は私もブライト家の一員だ。
よーし!皆に師事して私も強くなってやるぜぃ!!
◇
リベール王国の地方都市ロレントの外れにブライト家は存在した。
ロレントはのんびりとした時間が流れる田舎町で、都市中央の時計台がランドマークとして有名らしい。
飛行船の発着場があるので各都市とも交通の便がよく、田舎と言っても程よく栄えてもいる。
主要産業は農業と七耀石の採掘で、王国の経済を支えている。
町全体が荒んでいた私の故郷と違い、とてもいい所だと思う。
なるほどね。ここでエステルたちはのびのびと成長していったのか。
私もしばらく厄介になるので、町の人たちに挨拶して回った。
ここでもやはり、髪と目の色にギョッとされてしまうが『気にしたら負けです』と懇切丁寧に説明して理解を得た。
住民たちは町と同じくのんびり屋で穏やかな気質の人が多く、細かいことは気にしない主義だ。
だから、私という珍妙な存在も簡単に受け入れてくれた。
これはブライト家の面々の信頼度が高かった影響も多分にあると思われる。
『カシウスさんの所の子』『エステルちゃんの妹』というだけで、もうチヤホヤされまくりよ。
◇
髪と目についても言及しておこう。
ブライト家に来てようやく私は自分の顔を鏡で見る事ができた。
やはりというか、なんというか・・・虹色でしたよね。
うん、知ってた!深層領域であったレインボーちゃんは私の姿だったんだね!
あはははははは!ちくしょうめっ!!
そりゃあみんな驚くよ。変だもん、目立つもん。
レン姉さまは『綺麗で素敵じゃない』と褒めてくれたけど、町の人に『キラキラしすぎてウザい』なんて思われたら嫌だな。
そういう訳で、私は髪と目の色を調整する事を始めた。
毎日何回も鏡で自分の髪と目の色をチェックして、ブライト家の皆にも逐一今の色はどんな状態かを答えてもらう。
どうやら、感情が高ぶると色のキラキラが増す傾向にあるらしい。
心を穏やかにして『鎮まれ~』と、念じると落ち着いた色合いを保てる事にも気付いた。
この修行を繰り返して一週間もする頃には、意識しなくとも目に優しい自然な色味を出したままの状態をキープできるようになった。
青っぽい銀髪がグラデーションのように変化していき、毛先にちょっと濃い虹色が集まるように調整してみたよ。
異世界で言う、アワビの貝殻"アバロンシェル"が一番近いと私は思うんだけど、エステルによると川魚に"レインボウ"というのがいて、そいつの鱗が同じように光るらしい。
マクバーン君なら遊戯王カードのシークレットレアみたいとか言いそうww
これが一番マシだと思うので多少のキラキラはこの際我慢しよう。
レン姉さまたちにも『グッジョブ!』を頂けたので今後も基本はこの色で行くことにする。
◇
私は無地の検査着しか持っていない。
この一着を擦り切れるまで着て、ボロボロになったら別の着衣を用意しようと思った。
最悪、裸でも構わない。
生まれたままの姿で過ごすのは生物として正しい姿だと、主任の戯言録にあった気がする。
なるほど、ここいらで露出プレイというの体験してみるのも一興だろう。
そんな私の呟きに、ブライト家全員が大きな声で『異議あり!』を表明した。
特に女性陣の二人は断固として反対しており、私は生まれて初めて"お洒落"なるものに挑戦することになる。
洋服店に連行されたり、エステルとレン姉さまのお古を譲ってもらえることになったのだが、これが結構大変だったのだ。
何度も着せ替え人形にされすぎて疲れた・・・
コーディネートとか超めんどい・・・
丈夫でサイズが合っていれば何でもいいのよ・・・もう裸でいいよ・・・
ボヤいたら『
レン姉さまはリボンやフリフリの飾り布が付いた、いわゆる"ゴスロリ"ファッションを推して来たけど、正直私の趣味ではない。
ああいう系の服はレン姉さまみたいな、綺麗で可愛い人の専売特許だと思うのだ。
『あなたも十分すぎるけどね』と、よくわからない事を言われた。
やっぱり動きやすく機能性とデザイン性を併せ持った服装が良いと思う。
遊撃士・・・ちょうどエステルやヨシュアさんが着ている服とか素敵だなあ。
『やっぱりそうよね!』と、エステルが目を輝かせて抱き着いて来た。
このお姉さん感情表現がいちいちダイレクトだなぁ、見習おう。
いろいろ試着した結果、小さなエステルっぽい私が完成した。
服色は青や黒といった寒色系でまとめてもらったので、活動的ながらも品があって見える。
ファッションについてはまだまだ勉強が必要だ。今後も精進しよう。
余談だが、私は下着という物にも無頓着だった。
検査着の下には何も装備しておらず『はいてない』状態だったのも懇々と説教された。
下着はちゃんと身に着ける事と、不用意に人に見せてならない事を、何度も念押しされた。
減るもんじゃないし、別に気にしないんだけどな。
短いスカートだとちょっとした動きで見えちゃうけど、どうすんの?いとも簡単に丸見えだよ?
エステルが履いてるヤツ?へぇ、インナーパンツってのがあるのか。
フーン・・・それはそれでエッチじゃんね!
『ヨシュアさんはそれで興奮しているのか?』と聞いてみた。
優雅にお茶を飲んでいたヨシュアさんが、凄い勢いで噴いたからビックリした!
ほほう。クールかと思いきやそういう反応もするのか・・・
また説教された。なんで?
◇
ブライト家で生活するにあたり、私は自らの家賃と生活費分ぐらいは働くと決めた。
『そんな事はしなくていい』とエステルたちは言ってくれたけど、一方的に養ってもらうだけでは私の気が済まない。
働かざる者食うべからず。
酒に溺れ自堕落な生活を送っていた、ババアみたいになるのは御免だ。
私はまず家の手伝いを率先して始めた。
メイドに憧れていた私はそれなりの家事はこなせるし、汚部屋職人であるドクターの研究室を片付けていた自負もある。
家の掃除を徹底的に行い、炊事と洗濯も頑張る事にした。
お茶やコーヒーを淹れるのはともかく、料理の方は最初全然ダメだった。
庭園では勉学と訓練に明け暮れていたので、本格的な料理をする機会に恵まれなかったのだ。
そんな私にエステルたちは簡単な料理から少しづつ丁寧に教えてくれた。
誰かと一緒に料理して、完成した物を皆で食べる・・・すごく楽しい嬉しい。
みんな料理上手だなぁ・・・うまっ!カシウスおじさまとヨシュアさんの男飯が美味すぎるぅ!
もちろん、エステルやレン姉さまの料理も非常に美味しい。
同じ品でもそれぞれの料理に作った人の個性が出て、これがまた面白いのだ。
美味しい物が食べたいと思っていたら自然と身につく技術らしい、なら私にもできるはずだ。
初めて作ったサンドイッチは形が悪くて味もイマイチだったけど、カシウスおじさまは『美味い』と言って完食して褒めてくれた。
それが嬉しくて、次はもっと上手く作ろうと思って、何度も練習して試行錯誤して……気付いたら、自分でも満足できる品が作れるようになっていた。
サンドイッチ以外にもいろいろ作れるようになった。食事当番を任せてもらえる日も増えた。
『料理の才能がある』と、みんなから褒められたりもした。
私の作るタマゴサンドはとにかく絶品らしい。
私を売り飛ばしたあの二人組、元気かな?
もしも再会できたのなら、あの時のお礼にご馳走してあげたい。
◇
皆にお願いして、稽古をつけてもらう事にした。
この過剰戦力一家に弟子入り志願じゃーい!
弟子入りするにあたり、カシウスおじさまに、なぜ強くなりたいのかを聞かれた。
この先も生きるためだと正直に答えた。
おじさまは『そうか…』としか言わなかったが、弟子入りは許可された。
庭園での訓練課程で培った実力を見せると、皆は難しい顔をした。
おじさまたちからすれば、私はクソ雑魚なのでガッカリさせたみたいだ。
出し惜しみせず、虹パワーを使うべきだったか?
まあ、アレは自分の正体を暴露した後にしよう・・・
私が庭園で生まれた化物だと知れば、今の関係が壊れるかもしれない、それがすごく怖い。
戦闘における基本動作はエステルから、ヨシュアさんからは双剣の使い方と足運びに気配の消し方を、アーツやオーブメントの知識と応用はレン姉さまに教えてもらう。
チートのカシウスおじさまは全体の監督だ。
小柄な私の体を考えると最初はオーソドックスな片手剣や短剣類がお勧めらしい。
庭園では一通りの武器を使ったけど、重量があるものは使いこなせなかったな。
だが待てよ、怪力を手に入れた今の私ならでかい武器も十分使えるのでは?
武器に関してはいろいろ試してみる必要があるな。
◇
私への稽古が始まってから数日後。
遊撃士の仕事に同行してみないかとエステルに誘われた。
邪魔しては悪いと思ったが、遊撃士の業務に興味があったのでついて行く。
本日の依頼内容は畑を荒らす魔獣の撃退だそうだ。
息を潜めて待っていると、つぶらな瞳にフサフサの毛を持つ可愛い魔獣が何体も現れた。
この魔獣の名前はそのまんま『畑あらし』だってさ。
こいつらが穴を掘りまくって迷惑しているらしい。
倒すの可哀想だなぁと思いながら、エステルたちの活躍を見学していた。
その途中で何を思ったのか、魔獣の一匹が私に向かって攻撃を仕掛けて来た。
それは攻撃というより、魔獣なりのおふざけであった。
ただの泥団子の投擲である。
普段なら軽く躱して済む話なのだが、その時の私はヨシュアさんのしなやかな筋肉に見惚れていたので無防備だった。
よって、私の顔面に泥団子がクリティカルヒット!
泥んこまみれのイリスちゃんが誕生してしまったとさ。
ケタケタと笑い声を上げる魔獣が憎たらしい。
久しぶりに・・・キレちまったよ・・・
恥をかかされた挙句、おニューの服を汚されたの私は激怒した。
畑あらしぃぃぃ!!貴様ら絶対に許さんぞ!!
こいつら見た目が可愛くても性根が腐った魔獣、いや害獣だ!
一番でかいボス的個体を素手て殴り飛ばし、そのモフモフ尻尾を引っ掴んで振り回す。
それに巻き込まれた通常サイズの害獣が次々にフッ飛ばされていった。
虹パワーを使ってしまったけど、そんなの今はどうでもいいわ!
畑あらしを殲滅したけど、私の心は晴れなかった。
ふぅ・・・戦いはいつも虚しいものだ。
ヨシュアさんにナデナデしてもらうまで、私は不機嫌なままだった。
・・・・・・・・
畑あらしの一件があって以来、手配魔獣の討伐にも何度か同行させてもらった。
基本私は見学だ。エステルとヨシュアさんの連携はまさに阿吽の呼吸で勉強になる。
たまに戦闘に混ぜてもらえた時は、頑張って稽古の成果を試した。
大きな魔獣を殴り飛ばすのは楽しい。胸がスカッとする。
他にも町の人たちにお願いして、いろんな仕事を手伝わせてもらった。
無償ではなく、ちゃんと給料が出たので驚いた。みんな良い人だ。
宿屋や飲食店での働きっぷりが高評判を得たらしく、私に個人に仕事を依頼できないかと、遊撃士協会に問い合わせもあったらしい。
遊撃士か・・・人に感謝してもらえる仕事っていいよね。
◇
カシウスおじさまは王国軍の偉い人だ。
当然忙しいはずなのだが、私の様子を見る為に頻繁に家に帰って来てくれる。
私を拾ってくれた時も、久しぶりの休暇だったみたい。
遊撃士のエステルとヨシュアさんも、高難易度の依頼を避けてロレント周辺の仕事ばかりを選んでいる。
長期の出張依頼は他に任せて断っているようだ。
更に、おじさまの伝手で子供の私を特別に同行させる許可も取ったらしい。
遊撃士協会、なんかゆるいぞ!
レン姉さまは可能な限り私と一緒にいてくれる。
彼女も自分のためにやるべき事があるはずなのに、私を優先してくれているのだ。
おじさまも、エステルたちもいない日はレン姉さまとずっと一緒だ。
私を1人にしないよう皆が気を遣ってくれている・・・
異物の私がやって来た事で皆の生活リズムは変更を余儀なくされた。
仕事の進捗も決して良くはないだろう。
私の存在が皆の負担になってしまっている。
恩人たちの大切な時間を、私なんかが奪ってしまっているのだ。
私が彼らに返せるモノはなんだろう?
どうやったらこの大恩に報いる事ができるのか、真剣に考えたいと思う。
●
ある日のこと、ヨシュアさんがピクニックに誘ってくれた。
しかも、二人っきりである!
エステルも、レン姉さまも、カシウスおじさまも用事があって今日は不在らしい。
これはデートですね!それも浮気デートだ!
私を愛人に選ぶとは、なんとお目が高い!
私は喜び勇んで初デートに臨んだ。
服装にもちょっとだけ気合を入れたぞ。
向かったのは私が拾われた森の奥地、滝壺のある場所だ。
手を繋いでエスコートしてくれる、ヨシュアさんに胸キュン///
忌々しい例の滝壺に到着。
あの時は景色を楽しむ余裕がなかったけど、こうして見ると絶景である。
隣にイケメンがいるので景色がいつも以上に綺麗に感じる。
滝の上を指をさしながら『あそこから落ちたんですよ』と言うと、ヨシュアさんが若干引き気味に大変だったねと労わってくれた。
滝の水しぶきを感じながら涼んでいると、ヨシュアさんの雰囲気が変わった。
ありゃりゃ?これは、ついに来ちゃいましたかな。
「イリス、今日キミを連れ出したのには理由がある」
「いいですよ。私も今日は覚悟を決めて来ました」
「そうか、なら…」
「エステルに内緒で私とえっちぃ事がしたいと、そういう事ですね!かしこまり!」
「違うよ!?なんでそうなるの?」
「えぇ…ぬか喜びです(´Д`)」
違ったかぁ。非常に残念無念である。
ズッコケそうになったヨシュアさんは咳払いをして、再び真剣な表情になった。
「単刀直入に聞くよ。キミは……【結社】の人間かい?」
「違います」
「その言葉、信じていいんだね?」
「証明する物がありませんが、信じてほしいです。私は、皆さんの敵ではありません」
ヨシュアさんの目を見てハッキリと断言する。
疑われも仕方がないけど、まさか【結社】の刺客だと思われていたとは・・・
「私の方からも質問いいですか?」
「どうぞ」
「ヨシュアさんと、それにレン姉さま…お二人こそ【結社】の人間ではありませんか?」
まさか、同じことを考えていたとはね。
「どうして、そう思うんだい?」
「うーん、強いてあげるなら雰囲気ですかね。悪い事したけど、超極悪でもないというか、話せばちゃんと友達になれるような…」
「……」
「執行者でしたっけ?知り合いが二人いるんですけど、その人たちになんか似てるなぁって思いました!」
ヨシュアさんは私の発言に少しだけ目を見開く。
お?この反応は、痛いところを突いたかな。
「イリス…キミは」
「もういいじゃない、ヨシュア」
「どわっ!?」
何の前触れもなく、樹の上からレン姉さまが降って来た。
猫のような動作で私とヨシュアさんの間にシュタッ!と着地してウインクをする。
あの~、まさかずっとついて来てましたか?
二人っきりじゃなかった!?騙された、私の純情弄ばれた!
うわーん!エステルにチックってやる~。
「イリスは嘘を言ってないわ。少し変わっているけど、この子は善良よ」
「わかっているよ。でも、白面がしたような罠の可能性も…」
「疑い出せばキリがないわよ。イリスは私たちを信じてくれた。信頼には信頼で応えないと、ね?」
私が猜疑心を持っていたように、ヨシュアさんもいろいろ考えていたのだ。
エステルが即行で信じてくれた分、ヨシュアさんは私をずっと警戒していた。
大事な人たちを守るため、最悪の事態を常に想定・・・慎重なヨシュアさんらしいと思う。
訳アリの私が全てを打ち明けなかったのが原因だ。
ヨシュアさんは何も悪くない。
私が同じ立場なら、彼と同じ行動をするはずだから。
「ヨシュアさん。ごめんなさい、心配をおかけしました」
「イリス…僕の方こそ、ごめん」
「全部話します。レン姉さまも聞いてくれますか?」
「ええ、ちゃんと聞かせて、あなたのことを」
レン姉さまの手を取って覚悟を決める。
よし、こうなったら全部話してしまおう。
・・・・・・・・・・・・
私は二人にこれまでの事を話した。
毒親の元に生まれてしまったこと、ババアが死んで売られたこと、
庭園で暮らして訓練や実験の日々を送ったこと、
改造魔獣に襲われて死にかけたこと、
気が付いたら古代遺物と融合して、こんな髪と目になっていたこと、
庭園が結社たちに襲撃され滅びたこと、
執行者たちに出会い戦い、逃がしてもらったこと、
全部包み隠さず話した。
「マクバーンと戦闘した!?よく無事だったね…」
「全然無事じゃありません。焼き殺されるところでした」
「それにカンパネルラ……なぜイリスを逃がした?コレも計画の一環なのか?」
ヨシュアさんが考え込んでしまった。
計画ってなんじゃらほい?
話をしている途中から黙りこくってしまったレン姉さまの方を向く。
気分を害してしまったのだろうか?まあ、聞いていて楽しい話ではなかったと思う。
「レン姉さま?」
「そう……あなたも、
「何がですか?わっぷ!?」
レン姉さまが私に抱き着いて来た。
その体が震えているみたいで、私は少し戸惑う。
「頑張ったわね、イリス……偉いわ、あなたは本当によく頑張った」
「ん?レン姉さまに褒められると嬉しいです」
「強い子ね。あなたに会えて、私も嬉しいわ」
レン姉さまは私を通して別の誰かを、過去の自分を見ているのかもしれない。
ああそういう事か、なんだか分かった気がする。
ヨシュアさんも、レン姉さまも、幼少期に過酷な体験をして来たのだ。
それをエステルとカシウスおじさまに救われた。
推測になるけど、だいたい合っていると思う。
そういう意味で私たちは同じ、同類だったのだ・・・
・・・・・・・
お返しとばかりに、二人も秘密を打ち明けてくれた。
予想通り、ヨシュアさんとレン姉さまは【結社】の元執行者でした。
紆余曲折あったがエステルの太陽光で浄化され、ブライト家で暮らすようになったらしい。
エステルすげぇな。カシウスおじさまの懐の深さもすげぇ!
マジ尊敬するっス!
「なるほど、血は繋がっていないと…」
「ええ、父さんの実子はエステルだけよ」
「近親相姦ではなかったんですね!すっごく安心しました」
「そ、そんなに気にしてたんだ…」
愛さえあれば血縁者同士でも私はいいと思うけど、世間体とか倫理的な観点から言えば不味いでしょ。
エステルとヨシュアさんには幸せになってほしいから、憂いが無くなってホッとしたよ。
それにしても・・・
「《漆黒の牙》に《殲滅天使》ですか……仇名がカッコ良すぎます!」
「なんだろう。褒められているのに、物凄く恥ずかしい////」
「あいたっ!いたたたた……胸の奥が絶妙に痛いわ」
「大丈夫ですか?レンね…殲滅天使様!」
「やめて!人前でそれ言わないでよ、頼むから」
元執行者たちが己の黒歴史に顔真っ赤で悶絶していた。
カッコイイと思うんだけどなあ。
盟主様って人に頼んだら、私にもイイ感じの仇名をつけてくれるのだろうか?
秘密を打ち明けてスッキリした。
レン姉さまたちも心なしか安堵しているようだ。
二人の過去に何があったとしても、私の恩人であることは変わらない。
私は今のあなたたちが大好きです。
そういうと、二人とも私を目一杯撫でてくれた。
「キミの事、エステルと父さんにも話していいかな?」
「もちろん嫌なら、ここだけの秘密にするわ」
「構いません。いずれは話すつもりでしたから」
後日、私のこれまでを共有したエステルとカシウスおじさまが、曇り顔になってしまう。
うっ・・・罪悪感がすごい。
ずっとヤキモキさせたみたいだし、もっと早く打ち明ければよかったな。
感極まったエステルの全力ハグで窒息しかけた・・・
私の残念な過去を知った後も皆はいつも通りに接してくれた。
いや、いつも通りではないな。
これまで以上に私への過保護っぷりが上がった気がする。
嬉しいけど、なんだか申し訳ない。
うわぁ~い。
みんなに可愛がられて、心がぴょんぴょんするんじゃぁ~。
●
生きてて良かった。
私は今、とても充実した毎日を送らせてもらっている。
今までの苦労が全て報われた気分だ。
ここでは辛い訓練や実験を強制される事はないし、廃棄処分に怯える事もない。
太陽の下を自由に歩き回り、好きな時に好きな場所で好きな事をしてもいいのだと言う。
本を読む以外の娯楽もたくさんあって、念願だった料理にもチャレンジした。
美味しいご飯をしっかり食べて、フカフカのベッドでグッスリ安眠出来る。
町の人たちはよそ者の私にも親切だ。家に帰れば温かい家族が出迎えてくれる。
優しくて素敵な父と二人の姉に兄・・・皆が私を家族だと言ってくれた。
話をしてくれて、教えてくれて、ちゃんと叱ってくれる。
大切にされている。守られている。
一緒にいろんな事をして、その都度感動を共有できる。
人のぬくもりが、こんなにも安心できて心地よいとは知らなかった・・・
嬉しい、嬉しい、嬉しい。嬉しいな。
私の人生で未だかつて、こんなに嬉しかった事はない。
本当に私は生きてて良かった。
この幸せを知らないまま、死ななくて良かった。
ポカポカする・・・
あたたかなブライト家は、私には勿体ない素晴らしい環境だ。
許されるならば、ずっと、ここにいたい。
・・・・・・・・・・・・
ある日の午後、一家勢揃いでまったりお茶を飲んでいた。
エステルが今日の仕事で何があったかを話し、ヨシュアさんがフォローやツッコミを入れる。
レン姉さまは微笑みながら相槌を打ち、カシウスおじさまが穏やかな表情で全員を見守っていた。
いつも通り、なんの変哲もない一家の団欒、幸せな時間。
そこに私も混ぜてもらえる事が、すごく嬉しい。
辛い事ばかりだと思った世界には、こんなにもあたたかい場所が、あたたかい人たちが存在している。
それが解っただけでも、外に出て来て良かったと思う。
だから、もう十分だ。
もう私は大丈夫、もうお腹いっぱいだよ。
これ以上は身に余る。
・・・・・・そろそろ、動くべきだろうか・・・
思考の海に浸っていると、皆がジッと私を見ていた。
なんだろう?またお腹が鳴ってしまったのだろうか?
「イリス、大丈夫?どこか痛い?」
エステルが心配そうに声をかけてくる。
意味がわからない。
私の体調は万全で今日も元気だ。
心配されるような事は何もない。
「だったら…どうして?」
どうしてといわれましても?
さっきから何なんです?皆で私を揶揄ってますか?
「イリス…あなた、泣いてるわ」
「へ?……ぁ……」
レン姉さまに指摘されてようやく気付いた。
私の目からはポロポロと大粒の涙が零れていたからだ。
悲しくなんてないのに、目から流れる水分は止まってくれない。
「あれ?あれ?…変、ですね……ちょっと目にゴミが入ったかも…」
止まらない、なんで?
泣く必要なんてどこにもないのに。
皆が心配するだろ、今すぐ止まれ、止まれよ、止まって、お願い。
きっとこの涙は私の感情だ。
堪え切れなかった感情の波が、涙という形であふれ出たのだと思う。
温かい家庭、大切な人たちとの繋がり、穏やかで優しい時間。
ここは、ブライト家は、私にとっての陽だまりに他ならない。
物心ついた頃から、ずっと欲しくて欲しくて堪らなかった、何度も夢に見た。
やっと見つけた・・・
陽だまりの場所だ。
「…ダメですね……」
だからこそ、ここにはいられない。
「私……ここにいたら…ダメなんです…」
ここにいたら、皆に甘えてしまうから。
皆が優しすぎて、弱いままの私でもいいんだと、勘違いしそうになる。
そうやって堕落して、ババアのようなダメ人間になるのはだけは許容できない。
誰かに与えられた幸せで満足しているようではダメなんだ。
私の幸せは、私の生き方は、私の居場所は、自分自身の手で見つけて掴み取らないと!
だから、私・・・行かなくちゃ!!
怖くて、辛くて、悲しくても、前に進もう。
例え、大好きな人たちとお別れする事になっても・・・止まるわけにはいかない。
その事に気付いてしまったから、フライングで泣いちゃった訳よ。
うわぁー!情緒不安定な自分が怖いよォ。
涙を拭って、私は家族になってくれた人たちを見つめる。
もう少しだけ、私のワガママを聞いてもらおう。
「お願いします。私が独り立ちするために、どうか力を貸してください!」
私は、ようやく見つけた陽だまりから離れる事を決意した。
・・・・・・猛烈に反対した、エステルが拗ねた(゚Д゚;)