虹色イリス   作:青紫

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赤毛のいい男

 どうも私です。

 『あったけぇ…』ブライト家に見送られ、独り立ちをした虹色少女イリスです。

 

 不安もあるけど期待もいっぱい、一人旅の大冒険が始まるぞぉ!

 と、意気込んでいたのだけれど・・・

 

「まさか彼氏ができてしまうとは////」ポッ

「違げーよ!保護者だっつーの」

 

 隣を歩く男からツッコミが入る。

 もう照れちゃってか~わ~い~い~。

 こんな事を言っているけど、私の事をしっかりと守ってくれる頼もしい彼です。

 

 素敵な彼ピの名前は『アガット・クロスナー』

 真っ赤な赤毛をした筋肉質のいい男なの。

 穏やかなヨシュアさんとはまた違うタイプのイケメン。

 こういうオラついた男も守備範囲なので、私は一向にかまわんっっ!

 ぶっきらぼうだけど、時折見せる優しい一面に胸がキュンキュンするんじゃい!

 

「何度も言うが、カシウスのおっさんに頼まれたんだよ。これも仕事だ仕事」

「フフ、そういう事にしておきましょうか」

 

 照れたアガットさんが歩く速度を上げたので、遅れないようについていく。

 小走りになった私に気付いて、すぐ歩調を合わせてくれた。

 そういうとこやぞ!惚れてまうやろ!

 遠慮せず手を繋いでもいいのよ?

 

「では、私はアガットさんの現地妻ということでよろしいですね?」

「よろしくないわ!頭おかしいのか?」

「よく言われます////」

「おい、褒めてねーぞ」

 

 アガットさんは赤毛である。

 赤毛と言えば、私の好きな冒険小説『赤毛のアドル』シリーズの主人公、アドルである。

 アドルは行く先々で現地妻を作り、新たな冒険へ向かう際にポイ捨てする強者だ。

 一部の読者からは『ヤリすてアドル』や『赤毛の種馬』とか言われている。

 だから、アガットさんもそうなのかと思ったけど、違うのか?

 やはり本命は相棒のドギなのか?屈強な相棒の愛棒が好きなのか?

 アガットさんもそうなのか?そこのところを詳しく教えてくださいよ。

 大丈夫、私は男同士の恋愛にも寛容なので、むしろ大好物なので(*´Д`)ハァハァ

 

「腐ったバカは置いていくぞ」

「ああん。待ってくださいよぉ~」

 

 ・・・・・・・・

 

 あれは私が旅立って最初の町にたどり着いた日のことだ。

 町の散策を終えた後、遊撃士協会に(ブレイサーギルド)に立ち寄った際『お前がイリスか?』と声をかけられた。

 『イケメンからのナンパ来たぁー!』と思って期待したのに、話を聞いたら違ったのでちょっとガッカリした。

 

 過保護なブライト家一同が、遊撃士協会へのコネをフル活用して私のお目付け役を見繕っていたのだ。

 そのお目付け役として白羽の矢が立ったのが、このアガットさんという訳だ。

 期間限定でしばらくの間、私の護衛兼教育係してくれるという。

 なんでも、新人教育や子供のおもりを任せたら右に出る者はいないらしい。

 

「ついた異名が『子守(ベビーシッター)』のアガット…」ゴクリッ

「全然違うわ!『重剣』だバカヤロウ!」

 

 そうでした。『重剣』でしたねww

 アガットさんは『重剣』の異名の通り身の丈を超すほどの大剣を装備している。

 豪快な剣技が得意なパワーファイターだ。

 でっかい剣で敵をぶった切るのが爽快でカッコイイ!

 

 断る理由も無いので、しばらく旅に同行してもらう事になった。

 正直言うと、いきなりの一人旅はちょっと寂しかったので渡りに船だ。

 そんなこんなで、私とアガットさんの二人旅が始まったのだ。

 

 ●

 

 ヤベェよ。

 アガットさん、めっちゃ面倒見がいい。

 頼れる兄貴って感じがして素敵やん////

 さすが、あのカシウスおじさまが推薦するわけだ。

 

 魔獣との戦闘はもちろん、旅の心構えや野営の仕方等々、実践も交えて丁寧に教えてくれるのがすごく有難い。

 本で得た知識と、ブライト家で培った技能だけではまだまだ不十分だと知った。

 頭ではわかっていても、実際にやってみると上手く行かなかい事の方が多い。

 焚火の起こし方ひとつとっても最初は結構苦労したものだ。

 

 そんな私も今ではそこそこのキャンパーになれたと思う。

 食料の現地調達、寝床の設営、魔獣と不埒者用の罠も準備できるようになった。

 大自然の中、イケメンと二人でのんびりと過ごすのはいいぞぉ!

 穏やかで贅沢な時間の使い方、これぞ私の求めていたゆる~いキャンプ『ゆるキャン』である。

 

 今日もサバイバル訓練を兼ねた野営をすることになった。

 手際よくテントを設置した私は早速調理に取り掛かる。

 料理器具や食器類は携帯性に優れた頑丈な物を揃えているので、その気になればダンジョン飯だって可能だ。

 それでも足りなければ、自然の中にあるもので何とかする。

 大きな葉っぱをお皿にしたり、熱した石をフライパン代わりにしたりとか、やりようはいくらでもはあるのだ。

 

「ご飯できましたよ~」

「悪いな。いつも任せちまってよ」

「いえいえ、料理は私の趣味ですのでお気になさらず。さあ、食べましょう」

 

 大皿に盛りつけた料理をアガットさんに差し出す。

 パンに具材を挟み断面が見えるようにカットされたそれは否が応でも食欲をそそる。

 

「サンドイッチか?」

「『アガットさんが無残にブッ殺した新鮮な魔獣肉を焼いて薄切りにしたモノ』をサンドした自信作です!」

「その説明聞きたくなかったぁ…」

「ちゃんと味見もしてますし、大丈夫ですよ。さあ、ガブッといっちゃってくださいな♪」

 

 魔獣の肉は臭み強かったり異常に硬かったりする事があるので毛嫌いする人は多い。

 一般的には珍味と呼ばれる食材になる。

 だが、これをあえて食する人たちもいるので、モノによっては高級食材として取引されていたりするのだ。

 私も以前から興味があったので、道中で狩った魔獣の肉をいろいろ試食している最中だ。

 東方に存在したという伝説の美食家『ユウザン・カイバーラ』の残した著書に影響されたんだよね。

 私も彼を見習って至高の料理を編み出してみたいものだ。

 将来の進路、美食ハンターを目指すのもアリかもしれないなぁ。

 

 アガットさんが恐る恐る魔獣サンドにかぶりついた。

 無言のまましばらく咀嚼する。

 

「お味はどうですか?」

「……うまい」

「よかった!おかわりもあるので、いっぱい召し上がってくださいね」

「美味いんだよなぁ…ゲテモノなのに」

 

 文句を言いながらもアガットさんはしっかり完食してくれるようだ。

 私も自分の分を頂こう・・・うむ、なかなか美味しいじゃないか。

 硬い肉を限界まで薄切りにして、自作の特製ソースで臭みを消したは正解だった。

 今朝、市場で仕入れたシャキシャキ野菜を挟んだのもイイ感じだ。

 

 料理は食べてくれる人がいると、上達が早いように思う。

 『うまい』の一言が聞きたくて頑張ろうって気になる。

 

「私と結婚したら、毎日魔獣肉のフルコースが食べられますよ?」

「毎日はゲテモノは嫌すぎる!」

 

 もう!美味しいって言ってたくせに。

 ゲテモノではなくて珍味なのです。そこを間違えないでほしい。

 こうなったら、旅をしている間にアガットさんの胃袋を魔獣肉料理でガッチリ掴んでやる。

 

 世界中の珍味を味わい尽くせたら幸せだろうなぁ。

 そして私と同じ考えの美食家に会えたら、一緒に料理したり語り合ったりしたい。

 よし、またひとつ夢が増えたぞ。

 これからもやりたい事リストを更新していこう。

 

 ●

 

 旅には当然お金がかかる。

 路銀を稼がなくてはいけない。

 

 稼ぐ方法として、最初は狩りをして得た動植物や魔獣の素材を売っぱらう事をメインに考えていた。

 他にもロレントで経験した、宿屋や飲食店での短期バイトをしてもいい。

 

「それよりいい方法がある。遊撃士として依頼を受けるんだよ」

「アガットさんはともかく、私は遊撃士ではありませんので無理ですよ。こんな『得体の知れないガキ』に誰が仕事を任せるって言うんですか?虹色の髪と目ですよ?」

「妙なところで身の程を知ってるのな。お前、おっさんから何か預かってないか?」

「カシウスおじさまから?…えーっと、確か‥‥」

 

 鞄の中をゴソゴソと探る。

 おじさまにもらった物といえばアレかな?

 お守りだと思っていたので、鞄の奥に大事にしまってあったのを忘れていた。

 それは遊撃士のシンボルマーク『支える籠手』を模ったバッジだった。

 アガットさんに見せると『それだ』と頷いた。

 

「それはただのバッジじゃねぇ。S級遊撃士から『見どころアリ』と判定された奴だけに送られる、勲章みたいなもんだ」

「おじさまは既に遊撃士を引退した身では?」

「あのおっさんは例外なんだよ。功績がヤバすぎて軍に戻った今でも遊撃士協会に席が残っちまってるんだ。いわゆる殿堂入りってヤツだな」

 

 さすが!おじさまはやはり格が違った。

 軍のお偉いさんをしていながら、S級遊撃士として協会にも顔が利くなんて素敵すぎる。

 で?このバッチを持っていると何か特典があるのかしら?

 

「そいつを持っているだけで、遊撃士じゃなくてもC級クラスまでの依頼を受けられるんだよ」

「マジですか!?私みたいな虹色のガキでもですか?」

「ああ、お前みたいなヘンテコなガキでもだ」

 

 すげぇ。

 何が凄いって、そんな特例を実行させるS級遊撃士への信頼度がすげぇ。

 

 アガットさんの言葉を確かめるため、最寄りの遊撃士協会を訪ねる。

 ちょっと挙動不審になりながらも、バッジを受付のお姉さんに提示してみた。

 表情を変えたお姉さんが『少々お待ちください』と素早く奥へ引っ込んでしまう。

 数分後、上司というか協会の支部長らしき、おじさんを連れだって戻って来た。

 アガットさん共々、部屋の奥へと通されてお茶まで出された。

 なんだか急に待遇が良くなって若干困惑してしまう。

 バッジの効力だけでなく、名の知れた遊撃士であるアガットさんが一緒だった事も大きいのだろう。

 

 しばらく話をして、依頼を受ける際の注意事項なんかの説明を受けた。

 私が子供でも虹色でも、見下されたりは一切しなかった。

 それどころか、相手はずっと恐縮しっぱなしで気を遣わせたみたいだ。

 とりあえず、私は遊撃士見習いの『実力C級相当』として認知される事になった。

 仮登録だが事実上の最年少遊撃士が誕生したらしい。 

 いきなりC級って…本当にいいのか?

 これ皆で私にドッキリ仕掛けてないよね?

 

「本当に仕事が受けられました。ビックリです」

「これでお前も晴れて遊撃士の仲間入りだな」

「遊撃士(仮)ですけどね」

 

 まだ本気で遊撃士を目指すと決めた訳ではない。

 今はあくまでも、旅の路銀を稼ぐ手段として利用させてもらうだけだ。

 その事もちゃんと説明したのだけど、協会の偉い人は『それでも構わない』と言ってくれた。

 そんなのでいいのかな?

 私なんて何の実績もない子供ですけど?

 

「遊撃士ってのは万年人手不足なんだよ。それこそ猫の手も借りたいぐらいにな」

「なるほど、猫の手ぐらいにはなると判断されたのですね」

「おっさんのお墨付きってのは、それぐらいの価値があるんだよ。お前、明日にはリベール中の遊撃士から注目される事になるぜw」

「ひぇぇぇ!導力ネット社会怖いよ~(´Д`)」

 

 導力ネットの普及と共に情報の伝達は非常に素早く快適になった。

 アガットさん曰く『カシウス・ブライトの推薦で仮登録をしたルーキー』の情報はあっという間に拡散されるから覚悟しておけという事だ。

 私がまだ幼くて髪と目が変な色なのも注目される要因らしい。

 『ヤレヤレ、目立ちたくないんだけどなぁヤレヤレ』とかほざいている奴は、私と同じ色になってからヤレヤレしろと言いたい!

 

「色もだが…」

「なんですか?言いたい事があるならハッキリどうぞ」

「その…お前の、顔がだな」

すいませんねぇ!不細工で!ブスに人権はないんですか!そうですか!ああもうチクショウ!美人に生まれたかったよォォォ~(゚Д゚)ノ

 

 アガットさんに顔の悪さを指摘されて悲しい。

 どうにもならない気持ちを天に向かって咆えた。

 グズッ、へへ、なんだか視界が霞んで来やがったぜ。

 

「ブスだなんて言ってねぇだろ!……お前、まさか…気付いてない、のか?」

「何がですかぁ。これ以上私の心を抉るのやめてください。ゲロ吐きますよ?」

「なあ、鏡見た事あるか?」

「あるに決まってるでしょーが!毎日ブッサイクな顔を見ながらため息ついてますよ!お金貯めて、いつか整形してやる!」

「どうしてそうなる!?整形はやめろ、マジでやめとけ」

 

 くそぉ、私もエステルやレン姉さまみたいに上等な顔面だったら、今頃モテモテだったろうに・・・

 それもこれも、遺伝子提供者があのクソババアだったせいだ。

 親がブスなら子も当然の如くブスなんだよなぁ。あーマジで嫌になる。

 

「イリス、良く聞け。お前はブスじゃない。顔はかなりいいどころか、誰がどう見ても容姿端麗な部類だ。そのせいでお前は余計に注目を集めるんだよ」

「アガットさんは優しいですね。だけど、その優しさが今は痛いのです。本気で落ち込みますので、程々にしてください」

「これは認知の歪みか?悪い事は言わん、一度心の病院へ行け!」

「え?急に酷くないですか?」

 

 アガットさんに精神科を勧められたのでショック!

 ブライト家のみんなもアガットさんも、私の容姿を褒めてくれるけど、お世辞だってわかってるよ。

 それが逆に辛いわ~。

 ホント、気を遣わせてすみませんね。

 ブスはブスなりにたくましく生きるんで、顔面についてはそっとしておいてくれると嬉しいです。

 

 ●

 

 旅をしながら遊撃士の依頼をこなしていく日々が続いた。

 遊撃士バッジを託してくれた、おじさまの名に恥じぬよう、迅速かつ丁寧な仕事を心がけたつもりだ。

 定番の手配魔獣退治から、行方不明になったペットの捜索、ラブレターの代筆に浮気調査なんかも経験した。

 そうこうしているうちに、私はそこそこ顔が売れて来たらしい。

 違う町に行っても、遊撃士協会を訪ねればすぐに私だと気付かれるぐらいにはなってしまった。

 一緒に行動しているアガットさんがリベールでは有名な遊撃士なので、最初から結構目立っていたとも思える。

 

「聞きましたか?私たち、赤頭と虹頭の凸凹(でこぼこ)コンビですってよ。もうギルド公認のカップルですね////」ポッ

「お前『虹色の小鬼(ゴブリン)』って呼ばれたぞw」

「は?名誉棄損で訴えますよ?巣穴を作って男をさらって繁殖しますよ?

「迷惑かつ気色悪い生態だな」

 

 どこの誰か知らないが、私をゴブリン呼ばわりした事を後悔するがいい。

 いずれ勢力を拡大した私の一族がゼムリア大陸にゴブリンの楽園を築き上げるのです!

 調子に乗っているとゴブリンスレイヤーさんが来ちゃいそう、なので妄想だけに留めておいた。

 

 さてさて、今日もお仕事頑張りますか。

 

 ・・・・・・・・・

 

 現在、私は森の中を軽やかに疾走している。

 腹を空かせた魔獣たちと追いかけっこの真っ最中です。

 追って来ているのは四足歩行の狼型魔獣だ。

 この手の犬っころタイプの魔獣は大陸各地に幅広く生息している。

 一匹だと大した事はないが、群れに遭遇した場合は割と厄介だ。

 集団戦に持ち込まれると、倒すのに時間がかかって面倒臭い。

 

「ひい、ふう、みい……6匹か、まずまずですね」

 

 森に迷い込んだ哀れな子供を演じた甲斐があった。

 わざと見つかるように行動し、私自身が囮となって魔獣を釣る作戦はうまくいったようだ。

 血走った目で涎を垂らしながら追って来る魔獣たちには、私がご馳走に見えているのだろう。

 今の内に最後の狩りを楽しんでくれたらいいと思う。

 本当の得物はどっちなのか、気付いた時は全部終わってるからね☆

 

 森を抜けると開けた場所に出た。

 そのまま、予め決めておいた合流地点へと向かう。

 魔獣たちは…よし、まだ追って来てるな。

 奴らが追って来れる速度を維持しながら走りつづけよう。

 

 ゴールが見えて来たぞ。

 合流地点で待っていたアガットさんが軽く片手を上げる。

 ウホッ!遠目に見てもいい男!

 今、あなたの下へ馳せ参じまーす♪

 

 そぉれぃ!ラストスパートじゃい!

 速度を上げると魔獣たちも負けじと追いすがって来た。

 そして、ゴールへと到着する。

 アガットさんのたくましい胸に飛び込みたかったけど、一応今は仕事中なので自重しておく。

 

「全部で6匹釣れました、お願いします!」

「おう!」

 

 私とハイタッチをした後、短い返答をしたアガットさんは愛用の武器を構える。

 手にしているのはご立派な大剣だ。

 どこぞの元ソルジャー1st(笑)の装備にも引けを取らない、でっかい剣が頼もしいね。

 さあ兄貴、一思いにやっちゃってくだせぇ!

 

「そらよっ!」

 

 アガットさんが剣を横薙ぎに振るう。

 私に襲い掛かる事しか頭になかった魔獣たちはあっけなく両断され、物言わぬ肉片となった。

 食べられそうなお肉は後で回収しておこう。

 

 ん?お肉になった数は…5匹?ひとつ足りないぞ。

 あら、一回り大きな奴が難を逃れていらっしゃるわ。

 アガットさんの登場に危機を察知して、斬撃を回避したようだ。

 ちょっとだけ賢い分、アレが群れのリーダーで間違いないだろう。

 仲間を失い、アガットさんという絶対的強者を前にした魔獣は自暴自棄となり暴走する。

 当初の予定通り、私を捕食するためにこちらへ勢いよく向かって来た。

 

 アガットさーん。1匹取りこぼしてますよ~。

 コレ私がやっていいんですか?やっちゃいますよ?

 アガットさんが目線だけで『任せる』と言って来たので、生き残りは私が片付けよう。

 

 突然だが私は犬が苦手だ。

 小さな子犬は可愛いと思うし、あのモフモフの毛を撫でたり抱っこしてみたいとは思う。

 でも、苦手なのだ。理由はハッキリしている。

 犬に関するいい思い出が無いからだ。過去のトラウマってヤツよ。

 

 まだババアと暮らしていた頃、私は犬にメッチャ嫌われていた。

 近くを通れば必ず吠えられるし、何もしていないのに牙をむき出しにして威嚇された。

 飼い犬、野良犬問わず、私は犬から目の敵にされていたのだ。

 きっと、あの犬たちは私を見下していたのだろう『こいつになら勝てる』とでも思われていたっぽい。

 お酒を買った後の帰り道で野良犬に追いかけ回された時は最悪だった。

 本当に怖くて、焦って転んで酒瓶を割ってしまい、帰ったらババアに『買い物も満足にできないのかグズが!』と言って殴られた。

 あの駄犬には今もムカついている、ババアと同じ所に送ってやりたい。

 

 庭園で私を瀕死に追い込んだ改造魔獣。

 確かアレも狼型だったように思う。

 なんか体の各所が機械化されてゾイドみたいになっていたやつだ。

 あのコマンドウルフまじ許さねぇ!

 もし次に会ったら、じわじわなぶり殺しにしてやる。

 

 ロレントの町にもバカ犬がいた。

 私の髪が目障りだったのかギャンギャン吠えやがって、あの畜生が・・・

 挙句の果てに、敬愛するレン姉さまにまで吠えた時は本気で殺意が湧いた。

 虹パワーをのせたヤクザキックで頭蓋を砕こうとしたら、私が『め!』って怒られたんだぞ!

 優しいレン姉さまに感謝するんだな!相手見てケンカ売れや!

 

 長くなったが、とにかく私は犬が苦手なのだ。

 別に怖くはない、ただ吠えられると体が条件反射でビクッとなるのが嫌なんだ。

 狼型魔獣に追いかけられている時、ずっとドキドキしていたのはビビッていたからではない。

 早く殺処分したくて興奮していたからだ。そうに決まっている。 

 私は犬如きに怯えてなんかいない。

 

 某有名ホラーゲームでも、人のゾンビより犬のゾンビの方がめんどくせぇでしょ?

 つまりそういうことよ。

 人に危害を加えるような犬はすべからく滅べばいい。

 

 ほら、今もでかい犬っころが私に向かって突っ込んで来ている。

 こいつら、私の事が心底嫌いなんだ。

 私だってお前らなんか嫌いだ!

 おいコラ、いつまでも、やられっぱなしだと思うなよ?

 

 魔獣の突撃を横に体をずらす事で素早く躱す。

 無言のままゴミを見る目をした私は、無防備となった魔獣の腹部を思いっきり蹴り上げた。

 

 ボ!!!!

 

 肉を断ち骨を砕いた手ごたえあり。

 虹パワーを入れた蹴りにより、魔獣は遥か上空へ打ち上げられた。

 奴は血反吐を散らしながら墜落、汚ねぇ肉塊となり息絶えた。

 『最初はグー』をする必要はなかったね。

 

 狼型魔獣6匹の討伐完了。

 私もアガットさんもケガひとつない、余裕すぎて欠伸が出るわ。

 

「お前…犬が怖いのか?」

「違います!アイツらは私の敵ってだけです」

「よしよし怖かったな。もう泣いてもいいんだぞw」

「泣きません!あんまり揶揄うと、引き締まった尻を揉みしだきますよ?」

 

 うう、アガットさんに犬が苦手だとバレてしまった。

 腹が立ったので、隙を見て彼のお尻をねちっこっく触ってやろうと心に誓った。

 実は私、イケメンのお尻を触ると元気が出る体質なんですよ(迫真)

 もちろんマクバーン君やヨシュアさん、カシウスおじさまの尻は攻略済みです。

 パネ様は隙が無かったので断念した。そもそもあの人、性別が不明なんだよなぁ。

 

「す、すげぇ。さすが『重剣』のアガットだ…」

「なんだよあの蹴り…あの小さいのも相当ヤベェぞ」

「これが噂の凸凹コンビ」ゴクリッ

 

 おっと、忘れていた。

 他にも人がいたんだった。

 

 今日のお仕事は手配魔獣の討伐と並行して、新人遊撃士の引率もやっているのだ。

 準遊撃士の訓練課程を終えて日が浅い、新人たちの4人パーティーが一緒だ。

 リーダーの優男がF級で残りのモブっぽい3人がG級なんだそうだ。

 

 遊撃士のランクは基本A~G級までの七段階。

 S級は単純なランクアップでは到達できない例外だ。マジぱねぇっス!

 よくよく考えると、A級のアガットさんやエステルたちがかなり強いのだとわかる。

 仮ではあるが、一応C級の私も上位勢になっちゃうのかな?

 

「今のを見たな。次はお前らにやってもらう。気合入れて行けよ!」

「「「「はい!」」」」

 

 お手本は見せたので、次は新人君たちにお任せしよう。

 私はまだ森に潜伏しているであろう魔獣を釣りに行く。

 再び囮になって、魔獣をここまで連れて来るのが私の役目だ。

 なんか、私って釣りえさの疑似餌みたいだな。

 エステルが『イリスの髪で魚釣れそう』とか言っていたけど、魔獣は釣れる事が証明された。

 魔獣じゃなくてイケメンを釣りたいと切実に思う。

 

「んじゃ、イッテキマース」

「無理すんなよ。何かあったらすぐに呼べ」

「はーい」

 

 アガットさんに見送らて釣り再開。

 今度は4匹釣れた。

 新人君たちと数が合っているので丁度いい。

 また狼型だけど、さっき倒した奴らよりは幾らか弱そう。

 実戦経験を積むのにはピッタリの相手だ。

 

「ただいまです!後は任せますよ~」

「来たぞ。全員武器を構えろ!」

「「「「は、はいぃ!!」」」」

 

 合流地点で待っていた新人君たちが慌てて武器を構える。

 へっぴり腰だけど、大丈夫かな?

 私は彼らの間をすり抜けて魔獣たちの相手を押し付ける。

 魔獣をパスしたあとはアガットさんと共に後方待機。

 さて、お手並み拝見だ。ここから高みの見物をさせてもらおう。

 あの程度なら苦戦はしないと思うが、何かあればいつでもフォローできる準備はしておく。

 

「う、うわぁ。こっち来た」

「待って待って、怖い!怖いって!」

「ぐぁっ噛まれた!誰か、回復してくれ」

「アーッ!」

 

 えぇ…めっちゃ苦戦してるじゃん。

 新人君たち、動きがグダグダでまるでなっちゃいない。

 魔獣の方がまだ連携とれてるってヤバいだろ。

 

「あの…」

「ダメだ。まだ早い」

 

 アガットさんの袖をクイッと引っ張ってフォローに入るべきかを問う。

 却下されてしまったので、もう少し見守ろう。

 うーん、心配だな。

 

「がぁぁぁ、パワーが違い過ぎるぅ!」

「俺は!スペシャルで!2000回で!模擬戦なんだよォ!」

「やられちまう。やられちまうよ」

「アッー!」

 

 ヤバい。

 旗色が悪いというか、もう負け戦になって来ている。

 新人とはいえ、正遊撃士ってこの程度なのか?

 炭酸(コーラ)みたいな奴がいるのもわけわからん。

 

「あの~…」

「まだだ!後輩を信じて待つのも先輩の務めだ」

 

 アガットさんの尻をペシペシ叩いて『アイツらを助けていいか』と聞いた。

 しかし、彼はまだ新人君たちを見守る姿勢だ。

 そろそろ死人がでますよ?

 引率の監督不行き届きで責任問われたくないんだけどなぁ。

 まあ、アガットさんに従いますけどね。

 頑張れ新人負けるな新人、後味悪いから死なないでくれよ。

 

「もうダメだぁ。お終いだぁ…」

「母さん、僕のピアノ…」

「やっぱ、無理でしたぁー!!」

アッー!!

 

 あ、これはアカン。

 新人君たち、もう完全に心が折れてしまっている

 最初っからずっと悶絶している奴もいい加減ウザくなって来た。

 

「アガットさん!あの人たち死にますよ?見殺しにするんですか?」

「……はぁ~。ここまでか、情けねぇ」

「クソでかため息ついてる場合ではないです。私行きますよ、いいですよね?」

「イリス、お前って優秀だったんだな。アイツら見てるとしみじみ思うぜ」

「あーはいはい。とにかく、助けて来ますね!」

 

 魔物を蹴散らし、泣きべそをかいていた新人君たちを救出した。

 彼らには命の恩人だと凄く感謝されたけど、この程度で泣いたらダメだぞと叱っておいた。

 

 手配魔獣を駆逐して、新人たちに反省会をした後に解散と相成った。

 アガットさんがめっちゃキレて『使い物にならなかった』とギルドに報告、新人君たちは訓練課程のやり直しが決定したのだった。

 落ち込む彼らが哀れだったので私なりに慰めたら、天使だのロリ神様だの言われて崇拝されたので引いた。

 残念ながら彼らはイケメンではなかったので私の興味対象外なんだよね。

 まあ、やる気があるのは認めるので、今後に期待させてもらおう。頑張れ☆頑張れ☆

 

「世間では遊撃士の質が落ちたなんて言われるが、今日のアレを見たら反論できねぇな」

「まだ新人でしょ?長い目で見てあげたらどうですか?」

「最年少遊撃士のお前に言われてもなぁ」

「(仮)ですってば」

「本気で目指してみる気はないか?お前ならすぐにでもB級入りできるぞ」

「買い被り過ぎです。アガットさんが結婚してくれるなら考えますけど…」チラッ

「ああ、うん、それは……謹んでお断りさせていただきます」

「うわぁ、本気の拒絶へこみますわー(´Д`)」

 

 思わず敬語になるほど、真剣に断られてショック!

 ムムム、これはもしや…アガットさんには本命の彼女がいらっしゃる??

 

「酷いです!私の事は遊びだったんですね。あんなぁに~一緒だぁったのにぃ~」

「いや、お前との関係は仕事だよ。ただのビジネスだよ」

 

 男の人ってすぐそうやって仕事仕事ですよね!

 私と仕事どっちが大事なのよ!

 

「私にロリコンダイブしたくせに」ボソッ

「してねぇよ!ロリコンダイブってなんだ!?!?」

「おや?アガットさんともあろう方が、ご自身の必殺技(sクラフト)を把握されてないとは、ブライト家では誰もが知る一般常識ですよ?」

「誰だ!イリス(くそばか)に変な事を吹き込んだ奴は!エステルか?ヨシュアか?レンか?カシウスのおっさんか!?もうヤダあいつらマジ最悪だ」

 

 アガットさんと私の二人旅は続く。

 

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