虹色イリス   作:青紫

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ふわふわ時間

「すごいな~あこがれちゃうなぁ~」

「また何か言い出したよ」

 

 まだ本題に入っていないのに嫌な顔するのやめてください。

 

「アガットさんの剣、でっかくてカッコイイ!!」

「褒めても何も出ねぇぞ」

「私も大剣を使ってみたいです!」

 

 アガットさんと旅をしていて私は思った。

 でかい剣カッコイイ!何度見てもいいものはいい!

 大きな武器でドカンッ!と、強力な一撃を繰り出してみたいじゃない。

 それにさぁ。小さい女の子がでかい武器で戦うの素敵やん。

 みんなそういうの好きでしょ?私も好きです!!

 

「アガットさん、私に大剣の使い方を教えてください」

「イリスに大剣か…」

 

 私の全身を上から下まで観察するアガットさん。

 お、白昼堂々と視姦っスか?

 じっくり見てもいいのよ?

 うーん。これは『チビのお前には千年早い』とか思われちゃったかなぁ。

 

「やっぱり、ダメでしょうか?」

「ダメって事はねぇけどよ。俺の剣術はほぼ我流だからな、上手く教えられる自信がない」

「それでも構いません。ちょっとだけでも是非教えて下さい」

 

 てっきり『無理、無駄、諦めろん』ぐらいの辛辣な言葉を覚悟していたけど、私が大剣を使う事自体は止めないらしい。

 さすが赤毛のアガットさん。

 チビの私をバカにしないその紳士な振る舞い。イリス的にポイント高いですよ。

 強い人から教えてもらえるなら、我流だろうがなんだろうが大歓迎だ。

 要は学んだことを自分の中で上手く消化吸収し、実際に活かす事ができればいいのだから。

 

 旅路の合間に大剣の使い方を教わるようになった。

 町のよろず屋で『無駄に大きく重いだけのなまくら』を格安で何本か仕入れておく。

 どうせ練習中にぶっ壊すので、これで十分である。

 

 素振りに始まり、基本の構え方や重心の置き場所などを、見よう見まねで学んでいく。

 アガットさんの我流剣術はどれも実戦向きに調整されたものだ。

 対魔獣、対人、対人形兵器、相手に合わせて臨機応変に対処しつつ力で押し切っていく感じだ。

 

「怪力のお前なら大剣も一応は扱える。だが、使()()()()()()()()かは別問題だ」

「うう、剣に振り回されてしまいます。やはり体格の差は厳しい」

 

 今の私は素手と短刀をメインにした戦い方をしている。

 怪力に物を言わせ格闘を繰り出す武道家スタイル。

 短刀を投擲ないし急所への刺突と斬撃で敵を仕留める暗殺者スタイル。

 どちらも、小柄な体とスピードを活用しながら戦っている。

 大剣を使うとなると、せっかくのスピードが犠牲になってしまう事が考えられる。

 いや、簡単に諦めるのは良くない。

 パワーもスピードもどちらも両立すればいい。

 そうなるよう、私が強くなればいいだけだ。

 

 大きな武器が体に合っていない。

 そんな事はわかっとるわい!

 これはもう理屈ではない。

 ロマン武器で戦いたいという、私の欲と意地の問題だ。

 素敵に無敵なカッコ可愛い女子になるための努力は惜しまないぞ。

 

「俺の場合、最初は大剣を体に馴染ませる事から始めたな。飯の時も寝る時も肌身離さず持ち歩いて気付いたら、体の一部みたいになっていたっけか」

 

 おお!今の話はすごく為になるぞ。

 そうか、やっぱりそうだよね。

 武器を体の一部にしてしまえばいいんだ、例えばこんな風に。

 

「むん!」

 

 なまくらの大剣を力強く握りしめ、虹パワーを発動させた。

 虹パワーを武器に付与する能力、ルミナスエンチャント発動!

 

 大剣が虹の輝きを放つ、そのまま素振りをしてみた。

 この状態だと武器が私の思う通りに動いてくれる。

 まるで自分の神経が大剣の末端まで通ったような感覚だ。

 煩わしく感じていた大きさと重さも今はさして気にならない。

 こいつをどう振るえば上手く敵を斬れるのかがなんとなく理解できる。

 

「どうです?ちょっとイイ感じじゃないですか?」

「反則技じゃねーか。にしても、何回見ても不思議な力だ」

 

 アガットさんには虹パワーの事を説明済みだ。

 ルミナスエンチャントも何度か実際に見せているので、今更驚いたりはしない。

 

 こうやってたまには虹パワーを使うようにしないとね。

 ピンチの時に切り札を即時発動できるよう、慣らしておいて損はないだろう。

 

 しばらく、大剣を振るっていると限界が訪れる。

 『もう無理っス』と音を上げたのは私ではなく武器の方だ。

 刀身に亀裂が入り、それがみるみるうちに全体へと広がっていく。

 そうしてなまくらの大剣は儚く砕け散っていった。

 5分は持ったか?

 力の入れ具合を調整すれば、もうちょい時間が延びるかな?

 

「一本目、おさらばでございます」

「ま、安物の剣だから仕方ないわな」

「次はアガットさんの剣で試していいですか?」

「勘弁してくれ。こいつは俺の相棒だぞ、壊されてたまるか!」

「冗談ですよww」

 

 ご覧の通り、安物の量産品ではダメだ。

 業物と呼ばれるぐらいの武器でないと、すぐに壊れてしまう。

 武器の耐久力を気にしながら戦うのって地味にストレスなんだよなぁ。

 

 旅の目的に私の虹パワーにも耐えられる武器の探索も追加しよう。

 歴史ある家に代々伝わる宝剣とか、武器型の古代遺物とか、そういうのを入手できたらいいのだけど。

 あとはそうだな・・・

 私専用の武器をオーダーメイドで造ってもらう、とか?

 そんな技術者や職人が居ればの話だけどね。

 

 どこかにいないかな?

 暇を持て余したマッドサイエンティスト系の天才が・・・

 できれば、白衣の似合うイケメン博士でお願いします。

 主任みたいなキモメンはノーサンキューです。

 

 なまくら大剣が全てお亡くなりになったところで訓練終了。

 今後も定期的にアガットさんの指導を受ける事が決定した。

 

「いつか私もロリコンダイブを使ってみせます!」

「ドラゴンダイブだ!バカヤロウ!」

 

 もういいじゃないですか、認めましょうよ。

 わかってますよ。年下が好きなんでしょ?

 私を性的な目で見てもいいのよ?

 

「本気で大剣を使う気なら、どこかの道場に弟子入りするって手もあるぜ」

「うわぁ!急に真面目な話に戻さないでください」

 

 道場へ弟子入り?

 なるほど、戦い方を教えてくれるコミュニティがあるのか。

 

「大剣技といえば、エレボニア帝国の二大剣術が有名だ」

「二大剣術?」

「アルゼイド流とヴァンダール流ってのがあってだな。多くの門下生を抱えているらしい」

 

 ほほう、それは中々に興味深い。

 帝国に行く機会があったら道場の門を叩いてみましょうか。

 

「《剣匠》だの《雷神》だの、カシウスのおっさん並みにヤベェ奴がいるって噂だ」

「カシウスおじさまレベル!?なんなんですかそれ!帝国って怖い!」

「《羅刹》なんてのもいたな。アルゼイドとヴァンダールの両流派を極めた化物だってよ」

「うっわぁ!絶対に会いたくない」

 

 二大剣術極めるとか、どんだけ戦いたいんだよ。

 きっと血に飢えた頭バーサーカーなムキムキマッチョマンに違いない!

 会った瞬間『オレ、オマエ、コロス』とか言うに決まってる!

 《羅刹》か、帝国の要注意人物として頭の片隅に記憶しておこう。

 

 でかい武器を使いこなせる日はまだ先になりそうだ。

 まあ、気長にやりますかねえ。

 

 ●

 

 エンジントラブルで立ち往生した車両を魔獣の群れが取り囲んでいる。

 結構大きな車だ。中に8人ぐらいは余裕で乗れそう。

 

 降車した男性たちが何とか魔獣を追い払おうとしているみたいだが、多勢に無勢。

 みんな非戦闘員みたいだし仕方ない。

 

 アレが緊急クエスト目標だと判断。直ちに急行する。

 人命救助が最優先ってね!

 

「ちわーす!遊撃士(仮)のイリス見参でーす」

 

 魔獣と人の間に割って入り、安心させるよう努めて明るく声をかけた。

 もう大丈夫だ。何故なら…私が来たッ!!

 

「おお!間に合ってくれた……は?」

「私たち、助かるのね……え!なんか小さいの来たんだけど!?」

「(仮)ってなんだ!?こんな子供に何ができる!」

「おまけに変な色だぞ」

「終わった。みんなここで死ぬんだ…」

 

 せっかく助けに来たのに、なんて失礼な人たちなんでしょう!

 今のでやる気が下がったぞ。

 

 ふむ、王立学園の制服を着た若者もいるな。

 彼らが依頼にあった要救助者で間違いないようだ。

 魔獣の群れは私含む人間たち包囲して、既に勝った気でいる。

 殺気に愉悦の感情が混じっているのが伝わって来るんだよ。

 

 ダメだな。私との力量差が解らない時点で、こいつらは雑魚モンスターだと思う。

 馴染み深い犬っぽいのと、植物っぽいのと、虫っぽい魔獣の混成部隊、異種族間でどのように意思疎通しているのか不明だ。

 人間を襲うという利害の一致で群れてると推測するが…おっと今は仕事に集中しよう。

 

「皆さん生きてますね。責任者のゴンザレスさんはどちらに?」

「お、俺だ。それより魔獣が」

「これで全員ですか?ケガ人は?イケメンは何処に?」

「こ、これで全員だよ!ケガ人はいない!イケメンとか知るかぁー!とにかくなんとかしてくれぇ!!」

「かしこまりました。そのままで10秒ほどお待ちください、すぐに終わらせます」

「へ?じゅ、びょ???」

 

 1、背後に迫っていた魔獣二体の首を腰から引き抜いた大型ナイフで切り落す。

 2、車内に残った人を威嚇していた魔獣、奴の眉間にナイフを投擲して素早く絶命させる。

 3、ようやく危機を感じた他の魔獣たちが動き出すが、遅い…近くにいる奴から順番に狩り取っていく。

 

 4、5、6、7・・・・・・あ、もう終わっちゃった。

 

 魔獣の全滅を確認してナイフを鞘に戻す。

 投げたヤツも回収しないと・・・刃こぼれしてる、これもそろそろ買い替え時だな。

 問題無く一仕事を終えた私は『んーっ』と伸びをして戦闘後の体をほぐす。

 

 尻餅をついたまま唖然とこちらを見ているゴンザレスさんが目に入ったので、彼に手を貸して立ち上がらせた。

 

「終わりました」

「な、な、な…なんなんだ君は?」

「どこにでもいる、ただの遊撃士(仮)です(´▽`)」

 

 遊撃士協会の評判が良くなることを願って、とびきりの営業スマイルで返答する。

 危機的状況が去ったと理解した人たちから歓声が上がった。

 

 救助者たちからお礼と称賛の声に応えていると、アガットさんと軍の警備隊が到着した。

 車を修理可能な技術者もいるようで、物資の運搬も問題ないとの事だ。

 これにて一件落着だ。

 

 ●

 

 車を修理した後、依頼主への報告も兼ねて王立学園までの護衛を担当する事になった。

 同行する警備隊の車に乗せてもらえたので移動は楽チンだ。

 

「車とは便利ですね。いつか私もマイカーを手に入れたいです」

「お前、運転できるのか?」

「操縦方法は一通り理解しています。ただ…ペダルに足が届きません。悔しいです!」

「そいつは残念だったなwま、運転は大人になってからにしておけ」

 

 くそぉ!アガットさんだけじゃなくて警備隊の人にも笑われてしまったぞ。

 今はチビだけど、いつか私も手足の長い、スタイル抜群の女になってやるんだから!

 

 車だとあっという間に王立学園まで到着した。

 助けた人たちは何度も私に感謝を述べた後、それぞれの場所へ解散して行った。

 

「ここが王立学園ですか…」

 

 ジェニス王立学園。

 王国中から秀才や有力者の子息を集める、全寮制の王立学校。

 

 風格のある綺麗な校舎、掃除の行き届いた校内、素敵なデザインの学生服、教師と生徒の顔も何だか生き生きしている。

 青春を謳歌するには最高の環境ってヤツだね。

 うらやましいというより、贅沢で憎たらしいと思う気持ちが勝ってしまう。

 私がいた地下の学び舎とは随分違うんだな。

 

 まともな教育機関というものを目の当たりにして、少しボーっとしてしまう。

 そんな私を見たアガットさんが妙な気を利かせた。

 私が学園に羨望を抱いているとでも思ったのだろう。

 

「報告は俺がやっておく、学園を見学して来てたらどうだ?」

「いいんですか!いやでも、他にも事後処理とかあるのでは?」

「後始末は軍警にやらせておけばいい。いいから行って来い。今日は創立記念日とやらで賑わってるみたいだぞ」

「……じゃあ、ちょっと行ってきます」

「おう。気をつけてな」

 

 一時間後ぐらいに落ちあう場所を決めて、アガットさんとは別行動をする事になった。

 私がひとりで学園をうろついても大丈夫かな?

 お、なんだか人が多い。

 学生たちが屋台を出していたり、グラウンドや特設ステージで何かイベントもやっているようだ。

 お祭り、そうこれはお祭りだ!

 初めて見た。へぇーこれがあの祭りなのか?

 ワッショイ!と挨拶して、狂ったように踊り続けないと損になるんだっけか?

 みんな楽しそう。私も楽しむべきなのか?

 どうやって楽しめばいいんだろうか、ちょっとわからない。

 お祭りの攻略方法なんか勉強してこなかったから全然知らない。

 

 とりあえず、総合案内所に行って説明を受けてみる事にした。

 わからないなら教えてもらうしかない。

 

「こんにちは、可愛らしい客さん。ようこそジェニス王立学園へ」

「すみません。右も左もわからないんですが、私はどうすればいいのでしょうか?」

「えーっと、迷子かな?お父さんかお母さんは一緒じゃないの?」

「違います。私は迷子ではないです。まあ、人生の迷子ではありますけどw」

「見た目も中身も変わった子みたいね」

 

 ここの生徒である親切なお姉さんから説明を受けた。

 本日は学園の『創立記念日』であり、近隣住民を招いてのお祭りを開催しているらしい。

 元々は年に一度、一般公開となる『学園祭』で生徒たちの家族や、各界で活躍する卒業生や業界人も招待していたのだが、

 それが評判を呼んだため、今年度から一般公開日を半年に一度、年二回に増やしたとの事だ。

 あくまで本番は『学園祭』なので本日の『創立記念日』はやや小規模なモノに収まっているんだってさ。

 

「なるほど、本番前の予行演習(リハーサル)も兼ねているんですね」

「そういうこと。でも、本番に負けないぐらい気合が入っているから期待していいわよ」

「何から見て回ればいいのでしょうか?いろいろありすぎて迷ってしまいます」

「気になるところ全部行っちゃえばいいのよ。お友達や家族と一緒に、今日という日を楽しんでくれたら嬉しいな」

 

 残念!友達も家族もいないんだよなあ。

 でも、仲良くしてくれた人はいたし、家族同然に扱ってくれた人たちもいたんだ。

 今もアガットさんという頼れる兄貴分的保護者がいてくれる。

 なんだ、私ってば全然恵まれているじゃん。

 友達も家族もこれから作っていけばいい、残念な人生だと決めつけるのはまだ早い。

 

「私の保護者は年上のいい男です。彼氏候補でもあります」

「それはうらやましいわ!彼氏候補さん共々ゆっくりして行ってね」

「はい、頑張って楽しんでみます」

 

 お礼を言って案内所を後にする。

 とりあえず、いろいろ回ってみるか。

 

 ・・・・・・・・・・・

 

 屋台ではクオリティが低いのか高いのかよくわからないモノが売られている。

 お値段は相場より安いけど、特にめぼしい物はなかった。

 食べ歩きをするのはアガットさんと合流してからにしよう。

 

 特設ステージでは男子生徒による女装コンテストと、女子生徒による男装コンテストが開催されていた。

 良家のお坊ちゃんやお嬢様が通う学園にしては攻めた企画だと思う。

 なんでも、数年前に行われた演劇で超絶クオリティの男装女子と女装男子が登場したらしい。

 それを契機に王立学園の祭りでは女装と男装の企画は必ず行われるようになったという。

 そんな伝統引き継いで大丈夫か?

 

 学園内を一回りして大体の出店と催し物は確認できた。

 アガットさんと合流した後のデートプランはバッチリ構築済みだ。

 午後からの女装コンテストにアガットさんをエントリーしておいたので、出場してくれるよう上手く誘導しよう。

 

 ちょっと歩き疲れたので休憩する。

 人の多い場所を避け、校舎の片隅にあるベンチに腰掛けて一息つく。

 眼前に広がる花壇にはカラフルな草花が咲き誇り、蜜を求めた蝶々が忙しなく飛び交っていた。

 平和だ。

 

 子供限定で無料配布されていた『わたあめ』なる菓子をもらったので、少しつまんでみよう。

 甘い、雲みたいな形状をしているが、これは確かに飴だ。

 ザラメ糖を導力機で加熱して溶かし、回転で細い糸状にしてから割り箸に巻き取って作っていた。

 わたあめを製造する導力機を開発した奴が一番凄いと思う。

 

 平和だなぁ。

 平和過ぎて少々退屈だ。

 

 テロリストに占拠された学園を救うイベントは起きないか?

 クラス内の最低カーストに位置する俺が『実は最強でした!』てな感じで、テロリスト相手に無双していく物語。

 誰もが一度はするであろう妄想でニヤニヤしちゃう。

 庭園を脱出する際、実際に武装勢力の蹂躙を目撃した身としては、そんなの無理だって理解してるんだけどね。

 

 平和な学園、学び舎・・・私がいた『庭園』とは大違いだ。

 あそこの空気は常にどんよりしているか、ピリピリしているかで、気の休まる日の方が少なかった。

 まあ、常に命の危険がある場所だったのだからそれも仕方ない。

 何とか環境に適応した私であるが、今思えば毎日が必死で心身共にすり減っていたと思う。

 よく頑張ったな過去の私、お前は偉いぞぉ!と自分を褒めてあげたい。

 

 もし、私の親がまともだったら。

 もし、私が普通の子供だったら。

 もし、あの時・・・

 

 うん。これ以上はやめよう。

 仮定の話をいくらしてもどうにもならん。

 大事なのは今だ。

 今、平和を感じられるこの時間は、過去の自分が懸命に紡いで勝ち得た成果なのだから。

 自分への感謝を忘れず、じっくり穏やかなひと時を甘受してもいいじゃない。

 

 ちょっと休憩するにも言い訳が必要って相当重症だよね。

 この歳でもうワーカーホリックなのかよ。

 本気で心の病院に行くべきなのかもしれない。

 

 そもそも、私って今何歳だ?

 肉体だけ見ると10歳にも満たない子供だけど、気持ち的には十代半ばの乙女心。

 思春期真っ盛りの大変デリケートな時期なので、アガットさんはもっと私を労わるべきだと思う。

 腕に包帯を巻き、眼帯を着け『闇に飲まれよ』と言い出しても、生温かく見守ってほしい。

 

 ●

 

 思考の海を揺蕩いながら、何とはなしに空を見上げる。

 澄み切った青空を一羽の鳥が優雅に飛んでいた。

 アレは何?(トンビ)

 ピ~ヒョロロ~と鳴いちゃうのかい?

 

 いいなぁ。私もあんな風に空を飛んでみたい。

 遥か上空の鳥を目で追っていると不意に私と鳥の目が合ったように感じた。

 いや、気のせいだな。

 鳥類の視力がいくら良かろうとも、地上にいるちっぽけな人間と目を合わせる理由が無い。

 自意識過剰な考えはやめて再び思考と妄想の世界へ・・・ねえ、なんか鳥がドンドン高度を落としているんだけど?

 あれこっちに来てない?私目掛けて来てない?

 まっさかぁwwそんな事あるわけな・・・来たよ!?

 

 鳥は旋回しながら高度を落とし、学園の敷地内にある樹木の枝へと止まった。

 私との距離およそ3アージュ、鳥の全体像が肉眼で確認できる距離だ。

 

「トンビ……じゃない!?」

 

 その鳥は猛禽類ではあったが、トンビではなかった。

 脳裏にある動物図鑑のページを捲り、鳥類の挿絵を思い出す。

 尾の形状と胸の横縞模様から察するに、この鳥は・・・

 

(ハヤブサ)…あなたはハヤブサですね?」

 

 私の問いかけにハヤブサは『ピュイ』と声を出して鳴いた。

 返答は期待していなかったけど『正解だ』と言われたように感じる。

 このハヤブサ、人語を理解している?

 いやいや、さすがにそれはないってば。

 

 ハヤブサはジッと私を凝視している。

 私の髪色が珍しいから気になるのかな?

 それとも、同じ色をした目玉をつついてやろうと思ってるの?

 

 『ピュイ(綺麗な目玉しとるやんけ、潰したろ)』ツンツン

 『ぎゃぁぁぁぁ!目がぁ!目がぁぁぁぁッ!』バルスッ

 

 ハヤブサに目を潰されるシーンを想像したら怖くなって来た。

 目を潰すのはムスカ大佐だけにしてください!

 

 ハヤブサが翼を広げた。

 え!何?攻撃態勢に入ったの?

 これ逃げるべき?それとも迎撃して撃ち落とすべき?

 うわぁっ!?こっちに来る!

 アワアワしている間に、枝から飛び立ったハヤブサはひとっ飛びで私の眼前にやって来た。

 ベンチの背もたれに止まったハヤブサは最早手の届く位置にいる。

 私を攻撃する意思は感じられないので、ひとまず安心した。

 

 近くに来たハヤブサはまたしてもジッと私を見て来る。観察されているみたい。

 『お前なんなん?』と言いたげな顔をしているな。

 これは、こちらも観察せねば無作法というもの!

 よーし、至近距離からバードウォッチングしちゃうぞぉ!

 

 今更ながら思ったが、このハヤブサは非常に美しい姿をしていた。

 近くで見るとその美しさが一層際立って見える。

 猛禽類特有のキリッとした顔立ちにつぶらな瞳、スマートかつ機能美に溢れたフォルムに惚れ惚れする。

 なにより、このハヤブサの羽毛は純白の雪のように真っ白だったのだ。

 雪を見た事は無いけど、そう表現するのがピッタリだと思う。

 すごい!こんなカッコよくて美しい生き物が存在しているなんて、生命の神秘だなぁ~。

 

 ハヤブサが首を傾げる。つられて私も首を傾げてみる。

 時折ピュイピュイと綺麗な声で鳴くので、私も『そうですね』と相槌を打った。

 全然逃げない、警戒心がないのかこの鳥は?

 いいなあ。この鳥と仲良くなりたい。

 何か、気を引くような物は・・・そうだ、アレがあった。

 懐をゴソゴソあさって取り出したのは非常食として携帯していた干し肉(ジャーキー)だ。

 

「お近づきの印です。食べますか?」

「ピュイ!」

 

 小さく千切ったジャーキーをつまんで差し出すと、ハヤブサは嬉しそうにひと鳴きしてからジャーキーをひょいっと口に運んだ。

 あ、食べた!餌付け成功だ。

 野生動物には少々塩分がキツイかなと思ったけど、ハヤブサは気にした様子もなく、もっとくれと言うように体を前後に揺すった。

 もうこの欲しがりさんめ!ちょっとだけよ。

 何コレ楽しい!夢中になった私はそのまま餌付けを続けた。

 動物の飼育を趣味にしている人の気持ちが初めて理解できた気がする。

 

「もういいですか?」

「ピュイ♪」

 

 満足したハヤブサが嬉しそうに鳴いた。

 未だに私の下から飛び立つ気配はない。

 白いハヤブサは珍しく、個体数も通常のモノより少ないと聞く。

 珍しい体色をしているせいで、仲間からいじめられたりしていなければいいけど。

 お互い難儀なカラーになったもだと、ハヤブサに親近感が湧いた。

 

 手を伸ばせば届く距離にレアな動物がいる。

 あの羽毛はどんな感触なんだろう?触ってみたい。

 こんなチャンスはもう無いかもしれない。

 待て、いきなりは失礼だ。

 動物であろうとも、お伺いを立ててからにしよう。

 

「さ、触ってもよろしいでしょうか?」

「ピュイ」

 

 お許しがでた!

 ハヤブサは『かまわんよ』という風に軽く頷いてみせたのだ。

 お触りを許可してくれたのは、ジャーキーのお礼なのかもね。

 さっきから思っていたが、普通に会話が成立してる。

 きっとこの子、めちゃくちゃ賢いんだ。

 

 よ、よし触るぞ。触らせていただきます!

 緊張で震える手を伸ばし、ドキドキしながらハヤブサの体をそっと撫でた。

 

 ふおぉぉぉぉ!!(゚∀゚) 

 

 何コレぇぇ!?しゅごいぃぃぃ!!!!

 ふわっふわだ!!フワッフワッやぞ!!

 手から伝わる感触が極上の心地よさを脳に叩き込んで来る。

 ヤバい、これは癖になってしまいそうだ。

 

「もっと、もっといいっスか(*´Д`)ハァハァ」

「ピュ、ピュイ…」

 

 あ、ハヤブサさんが若干引いている。

 でも仕方ないんや。

 こんなふわふわ味わってしもうたら、もう後戻りはできへん。

 顔を埋めてハスハスしたいけど、それをやると目潰しされそうなので我慢。

 ハヤブサの全身各所を丹念にじっくりと、あくまでもソフトタッチを心がけてお触りを続行する。

 

 指先で頭を撫でたり、翼を優しく梳いてみたり、尻尾も忘れずにナデナデ。

 なんか鳥相手に全身マッサージしているみたいになって来た。

 お客さん凝ってますね~。ここ重点的に解しておきますね。

 (*´Д`)ハァハァ・・・ふわふわ・・・最高・・・(*´Д`)ハァハァ

 餌付け以上に夢中になって、私はハヤブサとの交流を楽しんだ。

 

 イリス、初めての動物ふれあい体験に激しく感動する。

 

 ●

 

 至福時間を堪能した。

 まったくシロハヤブサは最高だぜ!!

 

 ふわふわは人を幸せにする。

 ふわふわは世界を救う。

 そうだ、全世界がふわふわになってしまえば争いは無くなり真なる平和が訪れるのだ。

 頭がふわふわして来た私はこの世の真理に到達しようとしていた。

 今日味わったふわふわを糧にして、これからも生きて行こう。

 

「ありがとうございました。最高のふわふわでしたよ」

「ピュイ!」

「羽毛布団にしたら、さぞや気持ちがいいのでしょうね」

「ピュイ!?」

「冗談です。こんな綺麗な羽をむしったりはしませんよ」

 

 ハヤブサの首をコチョコチョくすぐる。

 気持ちよさそうに目を細める姿を見ると、こっちまで嬉しくなった。

 フフ、可愛い奴よのう~。

 

「ジーク!やっと見つけたわ」

 

 ふわふわ時間(タイム)の延長戦に入ろうとしたところで、凛とした女性の声がした。

 

 ジークとは何ぞや?

 GQuuuuuuXかな?

 恋愛脳の女子をパイロットに選ぶようなロボはここにはいません。

 

 振り返るとそこには・・・

 

 うひょ!!(゚∀゚)

 

 綺麗なお姉さん来たァァァ!!!

 

 青い髪をショートボブにした、とても美しい女性がこちらに向かって来ている。

 誰だ?

 まさか動物愛護団体の方?

 違うんです!私はハヤブサと戯れていただけで、羽毛布団は冗談だったんです!

 

 あ、ハヤブサが飛んだ。

 見知らぬ人物の登場にビックリして逃げたのかと思いきや、ハヤブサはお姉さんのいる方向へ飛んで行き、彼女が伸ばした腕にふわりと止まった。

 えぇ・・・(´Д`)

 ハヤブサさん、まさか美人局(つつもたせ)だったの?

 私、まんまとハメられた?

 『お触りしただろ?金を払え!』とか、理不尽な請求されるの?

 

「ジークなんだか嬉しそう…まあ!お友達ができたのね。え?ご飯ももらった…もう、ご迷惑でしょ」

 

 私が手持ちの現金を確認している最中、お姉さんはハヤブサと普通に会話していた。

 やっぱりグルだったのね!

 ふわふわ美人局とは恐ろしい詐欺を考え付いたものだ。

 アガットさーん、たすけてー!

 幸せふわふわタイムから一転、地獄のぼったくりタイムが始まろうとしているのぉ!

 

 ちょっと油断したらこれだよ。やはり世界は私に手厳しい!

 

「ジークがお世話になったみたいね。ありがとう」 

 

 どうやらジークというのはハヤブサの名前みたいだ。

 『ジーク・ジオン!』を連呼しているヤバい女じゃなくてよかった。

 あら?お姉さんの私を見る目がすごく優しいぞ。

 美人局ではなかったのかな?

 

 まさか飼い主がいるとは思わなかった、不用意に餌付けしたのマズかったか。

 

「えっと…ジャーキーを勝手にあげちゃいました。ごめんなさい!」

「いいのよ。ジークが催促したみたいで悪かったわね。あ!もしかしてあなたのおやつだった?弁償するわ、これで足りるかしら?」

 

 なんで札束を差し出すんですかねぇ!?

 一切れのジャーキーにどんだけ価値があると思っているんだよ!

 

「こんな大金受け取れません。すぐにしまって下さい」

「それじゃあ私の気が済まないわ。ご両親は一緒じゃないのかしら?是非お礼がしたいのだけれど」

「あー、今日は保護者と一緒に来ていますので…」

「……ぁ……そ、そう。ひとりじゃないのなら良かったわ」

 

 言葉を濁す私に美人さんは何かを察したらしい。

 父親は顔も知らず、ババアは目の前で撃ち殺されてスカッとしたとは言い出し辛い。

 説明して曇られても困るので『うへぇ』と、変な愛想笑いを浮かべておく。

 このまま気まずくなるのは精神衛生上よろしくない。

 何か話題転換をしなくては・・・

 

「そのハヤブサ…ジークはあなたの家族ですか?」

 

 お姉さんとジークの間には確かな絆のようなモノを感じる。

 飼い主だの、ペットだのという関係では収まらない、苦楽を共にして来た、かけがえのない存在。

 だから、この一人と一羽は家族なのだろうと、そう思った。

 

「そうよ。この子は大事な家族なの」

 

 正解だったみたい。

 よくわかってくれたとばかりに、お姉さんの顔がほころぶ、ジークも『当然だ』と言うようにピュイっと鳴いた。

 なんだか妬けちゃうな。私が入り込む隙はないようだ。

 

「申し遅れたわね。私は『クローゼ・リンツ』この王立学園の卒業生なの。で、この子がシロハヤブサのジークよ」

 

 クローゼさんというのか、名前まで美しいな。

 綺麗に整えられた髪、一目で上物と分かる仕立ての良い衣服、優雅な立ち振る舞い。

 にじみ出る気品からは彼女の育ちの良さが垣間見えた。

 きっと性格もいいんだろうな。

 ジークがあんなに懐いているんだもん、悪い人のはずがない。

 

「私はイリスです。若輩者ではありますが、一応、遊撃士として活動しています。今日は仕事のついでに立ち寄った次第でして…」

「遊撃士?……まあ!あなたがあの『虹色の小鬼(ゴブリン)』だったのね。すごい、本当に虹色だわ」

 

 ヤダー!クローゼさんが珍獣を見る目をしていらっしゃる。

 ゴブリンとか言い出した奴、レン姉さまに頼んで特定してやろうか?

 今日、救助した人たちが私とアガットさんの事を面白おかしく話してしまったらしいな。 

 仕事を褒められるのは嬉しいけど、ちょっと恥ずかしくもある。

 

「今日のお祭りが無事開催されたのも、あなたのおかげよ。本当にありがとう、学園を代表して感謝するわ」

「いえ、仕事ですので、お構いなく」

「ジークと友達になってくれたのもありがとう。この子、あなたのことを随分と気に入ったみたいだわ」

「なん…だと……」

 

 友達?……嘘、私に友達ができたんですか!?

 それが本当ならすごく嬉しい。

 人類の友達ができる前に鳥類の友達ができてしまった。

 くぅ~嬉しくて体がなんかムズムズするぞ。

 私は震える指をジークに伸ばし口を開く。

 

「ジーク、マイフレンド」

「ピュイ」

 

 虹パワーをちょっとだけ発動させて指先に七色の光を灯す。

 そこにジークは嘴をそっと当ててくれた。

 記念すべき友達第一号ゲットだぜ。

 この調子でガンガン友情の輪を広げていきたい。

 目指せ、友達100人出来るかな~。

 

「実は私もジークが最初の友達だったのよ。私たちお揃いね」

「そうなんですか。なんだか親近感が湧いちゃいますね~」

「イリスちゃん、私とも友達になってくれる?」

「是非是非、よろしくお願いします」

 

 クローゼさんもマイフレンド・・・

 早くも友達第二号をゲット!

 幸先が良いので、友達100人計画を達成できるかもしれない。

 本当に100人もいたら、それぞれにどう付き合えば正直わからない。

 

 素敵な友達ができたとアガットさんに自慢してやりたい。

 おや?そういえば、そろそろ合流時間になってしまうな。

 待ち合わせ場所へ・・・って、向こうから赤毛のいい男が歩いて来るではありませんか。

 さすが、気遣いのできる兄貴だ。

 こっちですよ~と手招きしてみると、すぐにやって来てくれた。

 

「ちょっと早かったか?」

「いえ、タイミングばっちりですよ。そういところに胸キュンします」

「誰かと一緒だったみたいだな。悪りぃなアンタ、イリスが妙な事をしでかして…………お?」 

「……なるほど、保護者はあなたでしたか」 

 

 アガットさんがクローゼさんを見て固まった。

 クローゼさんもなんだか懐かしい思い出に浸るような顔をしちゃってる。

 あの~見つめ合ってないで説明をお願いします。

 

「姫さん。どうしてここにいるんだ?」

「私はここの卒業生ですよ。今日は同窓会も兼ねてお呼ばれしちゃいました」

「お忍びでか?おてんばなのは相変わらずだなwまあ、なんだ、元気そうで安心したぜ」

「私もですよ。お変わりなくて何よりです」

 

 固有結界『二人の世界』が発動してないですか?

 イリス、まだここにいますよ?

 ジークが私の頭に止まって慰めてくれる。

 優しい子ですね。でも、頭に爪を立てられるとちょっと痛い。

 

 この二人の親密さ、そうか、そういうことなのか。

 イリス、わかっちゃいました。

 推理小説も嗜む私の洞察力を甘く見てはいけないのです。

 

「クローゼさん。あなたはただの美人ではありませんね」

「ありゃ、もうバレちまったのか?」

「もう!アガットさんが姫だなんて言うから…」 

 

 クローゼさんの正体それは・・・

 

ズバリ!アガットさんの現地妻ですね!!

違います!!

違うわボケェ!!

 

 違ったか・・・(´・ω・`)

 

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