虹色イリス   作:青紫

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姫と古代竜

 クローゼさんがアガットさんの現地妻だという、私の推理は見事にハズれた。

 そう、ですよね。

 アガットさんの好みは一回り以上年下の女性ですものね。

 私ぐらいの小さい女がどストライクですもんね!ヾ(*´∀`*)ノキャッキャ

 

「ティータちゃんだけでは飽き足らず、こんな小さい子にまで手を出すなんて…何を考えているんですか!!」

「変な思い違いしてんじゃねえ!ティータにもこいつにも手なんか出しとらんわ!」

「本当ですか?どうなの、イリスちゃん?」

 

 クローゼさんが私に問いかけて来た。

 むむ、アガットさんのピンチだ。

 ここは日頃からお世話になっている彼を擁護すべきだな。

 アガットさんの人柄と面倒見の良さをアピールすれば、クローゼさんの誤解も解けるはずだ。

 

「アガットさんは、とても優しくて誠実な人です」

「そうだぞ、もっと言ってやってくれ!」

「毎日一緒に激しい運動(訓練)をしてくれます。最初は体が小さい事もありキツかったり痛かったりしたけど、今では大分慣れて来て気持ち良く汗をかけるようになりました。アガットさんの大きな相棒(大剣)を使いこなせるよう頑張って、彼が満足できるような女性になりたいです!」

既に調教済みじゃないですか!アガットさんの鬼畜!!

「ち、違う!俺はイリスに大剣の使い方をだな…」

「アガットさんのアレが大剣だろうと短小だろうと興味ありません!」

誰が短小だコラッ!!

 

 あらまあ大変、二人が醜い言い争いを始めてしまった。

 巻き込まれないよう、ジークと共に少し離れて避難しておく。

 

「ジーク、人はなぜ争うのですかね?」

「ピュイ…」

 

 いがみ合う保護者たち、どうしてこうなったのだろう?

 それより今日の夕飯は何を食べよう。

 アガットさんは少々野菜不足気味なので、魔獣肉と山盛り野菜をじっくり煮込んだシチューでも作ろうかな?

 

「私が王位を継いだ暁にはロリコンは厳しく取り締まるつもりです。この意味、お分かりですよね?」

「分かるかぁ!」

「ティータちゃん一筋なら見逃そうと思っていたのに……私の気持ちを踏みにじった罪は重いですよ」

「この姫めんどくせぇ!イリス!お前のせいで俺は重罪人になりそうだぞ、何とかしろや!」

「え?シチューじゃなくて私を食べたいですって!?喜んでお相手しましょう!!」

「お前って、火に油を注ぐ天才だよな!!」

 

 天才だなんて、そんなに褒められると照れる////

 

「ふふ、うふふ…このロリコン手遅れだわ。ふふふふ、去勢したあと国外追放の刑が妥当ね…」

 

 え、こっわ!アガットさんヤバくない?

 どす黒いオーラを放つクローゼさんが、恐ろしい刑を執行しようとしている。

 

「もうヤダ、俺が一体何をしたって言うんだ…」

 

 疲れた顔で遠い目をするアガットさんも男前ですね~。

 

 正座させられたアガットさんがクローゼさんから厳しいお叱りを受けていた。

 その間、私はジークと追いかけっこをして遊んでいた。

 えー、ジャンプで届かない空中に逃げるのは卑怯じゃね?

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 必死の説得で何とかクローゼさんの誤解は解けた。

 アガットさんがすごくゲッソリしてる。

 今晩のメニューは精のつくものも用意した方がいいね。

 

「つまり私の勘違いだと、そう仰るんですね?」

「そうだって何回も言ってんだろ!誓って俺は潔白だ」

「全ては私の言葉足らずが招いた事、お詫びにこの身をアガットさんに捧げます////」ポッ

「だからそれやめろっ!」

「いだだだだ!痛いです!もっと優しくしてくださいよぉ」

 

 両拳で私の頭をグリグリしてくるアガットさん。

 あう~側頭部が痛い~。

 

「お二人が仲良しなのは理解しました。でも、ティータちゃんを泣かせる事はしないでくださいね」

「……そんなつもりはないんだがな…」

 

 先程から登場する名前、ティータという方がアガットさんの本命なのかな?

 現地妻として挨拶したら『この泥棒猫!』とか恨みがましい目で言われるのだろうか? 

 修羅場になったら嫌だなぁ。

 できれば本命さんとも仲良くしたいものだ。

 

 クローゼさんとアガットさんは共に冒険をした仲間であるのだと教えてくれた。

 エステルとヨシュアさんの二人を中心にいろんな人が集まって、様々な困難に立ち向かったらしい。

 最終的に『リベールの異変』と呼ばれる大きな事件の解決に一役買ったんだってさ。

 《導力停止現象》並びに、結社《身喰らう蛇》との武力衝突、中々に大変だったようだ。

 『リベールの異変』については、レン姉さまから少し聞いていたので、概要は理解しているつもりだ。

 

「謎の《導力停止現象》……詳細は公表されていませんが、結局何が原因だったのですか?」

「それは…秘密です」

()()はもうなくなった。あんな事件は二度と起こらねぇよ」

 

 アガットさんの言うアレが何を指すかは秘密らしい。

 ふむふむ、《導力停止現象》を引き起こしたモノは既に失われてしまったという事か・・・

 

 ま、気にしても仕方ない。

 それより、エステルたちとの冒険についてもっと聞きたい。

 私は冒険譚が大好きだ。

 それが知り合いたちのリアルな経験談だと言うのなら、なおさら聞いてみたくなる。

 

「話せない事もありますけど、それでもいいなら」

「今思えば、よく生きてたよな俺たちw」

 

 エステルたちとの出会い、頼れる仲間と強大な敵、渦巻く陰謀と予想外の結末・・・

 出会いと別れ、喜びと悲しみ、愛と勇気が散りばめられた冒険の数々。

 きっと忘れられない旅になった事でしょうね。

 

「くぅ~いいですねぇ。これぞ英雄伝説って感じがします(≧▽≦)」 

「大袈裟な奴だな」

「ふふ、イリスちゃん目がキラキラしてる」

 

 もしその時、今の私がいたら一緒に冒険できたのだろうか?

 巨大ロボを操っていたレン姉さまと戦ってみたかったな。

 

「イリスちゃんのお話も聞きたいわ」

「そういやお前、どういう経緯でブライト家に拾われたんだ?」

「地の底からワープして川にドボン!更に滝から落ちてドボン!で、カシウスおじさまに拾われました」

「マジで意味がわからん!」

「た、大変だったのね」

 

 『何を言っているんだ?』って顔をされたが、いろいろ苦労したのは伝わったっぽい。

 詳細を話すと二人が嫌な気分になってしまう事だろう。

 そう思った私は、虐待児だった事や庭園での出来事は話さずにおいた。

 まあ、いずれ明るみになるとしても自分から積極的に黒歴史を暴露しなくていいだろう。

 

 互いの話がひと段落した後、私はクローゼさんに問いかけた。

 

「お聞きしたい事があるのですが?」

「何かかしら?国家機密以外なら答えてあげる」

 

 もうずっとボロが出まくっているけど、一応聞いておかなければならない。

 

「クローゼさんはもしかして、やんごとなき身分の方だったりするのでしょうか?」

「……チガウワヨ」

 

 何そのカタコト!?

 あからさまに目を逸らしても遅いってば。

 クローゼさんの反応は、もう正解だと言っているようなものだ。

 視線を泳がせたクローゼさんはアガットさんに『どうしましょう』と目で訴えていた。

 

「いいんじゃね。こんなんでも一応、遊撃士だ。人の秘密をいたずらに吹聴したりはしないだろうさ」

「そう、ですね。エステルさんの身内も同然なら信頼できます」

 

 遊撃士(仮)の肩書と、ブライト家でお世話になっていた経歴、マジで役に立つ!

 私の身分だけでなく信頼度も保証してくれるとは、有難い事だ。

 

 クローゼさんは佇まいを直し、決意を固めた表情を見せる。

 釣られて、私の身もちょっと引き締まった。

 

「ごめんなさい『クローゼ・リンツ』というのは仮の名なの」

 

 ほう、偽名だったのか、もしかして本当の名前が恥ずかしいとか?

 もし『ところ天の助』だったら…笑いをこらえる自信がない。

 

「私の本名は『クローディア・フォン・アウスレーゼ』」

 

 良かった、プルプル真拳回避できておめでとう!

 笑うどころか、とっても素敵な名前だったよ。

 でも、アウスレーゼってどこかで聞いたような?

 

「国王『アリシア・フォン・アウスレーゼ』の孫に当たり、この国の王位継承者になります」

 

 ・・・・・・ひょ?( ゚Д゚)

 

 今、なんと仰いました?

 

『アリシア・フォン・アウスレーゼ』はリベール王国の女王様で、気品と威厳そして信念の強さを兼ね備えた女傑である。

 優れた外交能力で小国であるリベールの独立を保持し、民衆の生活を第一に考え国政を担う姿から、国民たちから絶大な支持を受け続けている。

 世界にその名を轟かすスーパーお婆ちゃんなのだ。

 クローゼさんはその偉大なる御方のお孫さん。

 

 王位継承者・・・だと・・・

 

 つまりアレやんけ!

 物語に度々登場して、時に主人公だったりヒロインだったり、さらわれて助けに行くのがクソ面倒だったりするアレやんけ!

 女の子が一度は夢見て憧れる存在、私など一生縁のないはずだった尊き御方・・・・

 

「く、く、クローゼさんは…お姫様(プリンセス)であらせられますか?」 

 

 震えながらクローゼさん、いや、クローディア姫に真偽を問う。

 

「そういう事になります。今日も実はお忍びなので内緒にしてくださいね♪」

「…ふひゅっ」

 

 あまりの驚きで私の喉奥から変な音が出た。

 口元に人差し指を当てながらウインクする姫様がお茶目可愛いんじゃい!

 アガットさん!なぜ平然としているのですか?

 お姫様だぞ、お姫様!!

 ジークも酷いじゃないの、ピュイピュイ言ってないで先に教えといてよ!

 

 相手は王族だ、一歩間違えば不敬罪で投獄からの~死刑!だって十分あり得る。

 ヤバいよヤバいよ!

 姫様のご家族であるジークに安物の干し肉なんぞ与えた挙句、羽毛布団にしたいとか言ってしまった!

 それに、ここまで随分と馴れ馴れしい態度で接していたのもアウトだ。

 お姫様相手に『友達二号ゲットだぜ』とか思っていた私ってホントばか!

 もうダメかもわからんね。

 

「い、イリスちゃん!?」

「何やってんだお前?」

 

 頭が高いと思ったので、今更平伏してますが何か?

 オプションで靴舐めコースも利用できますよ、如何なさいます?

 

「姫様とは知らず、数々ご無礼のどうかお許しを!命ばかりはお助けください!」

 

 私は地面に頭を擦りつけ、命乞いをするのであった。

 

「いきなり土下座するなんて…私ってそんなに悪い人に見えますか?」

「少なくとも、俺を追い詰めていた時は極悪だったぞ」

 

 ●

 

 次期女王様、クローディア姫はお優しい方であった。

 私の無礼な行いも『気にするな!』と言って許してくださったのだ。

 ジュラルの魔王様っぽい寛大な御心に感謝いたします。

 

「そんなにかしこまられると困ってしまうわ。普通に接して、ね?」

イエス・ユア・ハイネス

「全然普通じゃねぇなwww」

 

 私のような下賤な者が一国の姫相手に礼儀を欠かすなどあってはならない。

 アガットさんはなんでいつも通りなの?

 実はアガットさんも高貴なる家柄だったりするの?

 

「イリスちゃん、さっきからずっと下を向いて、どうしてこっちを見てくれないの?」

「姫様のご尊顔が眩し過ぎまして、直視できないのです」

 

 下を向く私の顔を覗き込もうとする姫を躱し、アガットさんの背後に隠れる。

 

「それに、私のような醜女(しこめ)の顔で姫が気分を害しては申し訳が立ちません」

「醜女?……誰が?」

「私です。ブスですみません、醜くてすみません、人権だけは剥奪しないでください」

 

 アガットさんを盾にして、怯えながら姫の顔を伺う。

 姫は心底わからないといった顔をしている。

 『あなた、なんでそんなにブスなの?』と、困惑しているのだろう。

 ごめん・・・やっぱつれぇわ!

 

「アガットさん?コレは一体?」

「ああ、そいつ心の病気でな。自分が不細工に見えるんだとよ」

「は?はあ?はあああぁぁぁぁぁッ!?!?

 

 ひぃ!姫が、姫らしからぬ声を上げておられるぞ。

 

「あり得ない、あり得ない、ありえなぃぃ!そんなの人類の損失。お願いイリスちゃん正気に戻って!」

「え?あ?おおぅ!?」

 

 素早く急接近した姫が私の肩を掴んでガックンッガックンッ揺さぶって来た。

 姫様ご乱心!あなたこそ、お気を確かに!

 アガットさんは見てないで助けろください。

 

「原因は幼少期のトラウマ?おそらくイリスちゃんは日常的に自分の容姿を貶められていた、それもごく身近な人間から頭に刷り込まれるよう毎日毎日…」ブツブツ

 

 おお!さすがの慧眼であらせられる。

 このイリス、姫の分析力に感服いたしました。

 

 『お前は醜い』『お前は汚い』『ブスでグズでどうしようもない』

 『皆お前を笑っている』『皆お前が嫌いなんだ』

 『お前を好きになってくれる奴なんかいるわけが無い』

 

 悔しいが、ババアの遺した呪いは未だに我が身を蝕んでいる。

 早く忘れたいのに・・・

 あいつからの罵倒を思い出しては今も胸がチクチク痛むんだよ。

 

「姫さん、イリスが困っている。その辺にしといてやれ」

「でも、こんなのっておかしい…イリスちゃん、とても綺麗なのに」

「イリスも、自分を卑下するのはやめとけ。お前の見た目は十分すぎるほど優れているって話しただろ?」

「うぅ…それは、アガットさんが優しいからで…」

 

 人は私を見て固まったり、目を逸らしたりする。

 虹色が鬱陶しいだけでなく醜い顔が見るに堪えないからだ。

 ブライト家の皆やアガットさんは優しいから、私を容姿で差別したりしないだけ・・・

 

「頑固者が…お前のその曇った眼、いつか綺麗に晴れるといいな」

 

 アガットさんが私の頭に手を置いて、髪をクシャクシャッとしながら撫でてくれる。

 とても優しい手つきでホッコリした。

 

「イリスちゃん、誰が何と言おうと、あなたはとっても可愛い女の子よ」

「姫様まで…」

「お世辞ではなく、これは私の本心よ。次期女王として宣誓してもいいわ」

 

 そ、そこまで言ってくれるのか。

 次期女王からのお墨付きをもらってしまった。

 もしかして、私・・・本当は可愛かったりするの?

 いやいやいや、そんなことって・・・

 しかし、信頼できる大人である二人がこんなにも言ってくれるなら・・・

 少しは自身を持ってもいいかもしれない。

 と、とりあえず、毎朝鏡を見て『私は可愛い』と10回ぐらい念じてみようかな?

 

「顔を見せてイリスちゃん。うん、やっぱり綺麗で可愛いわ」

「て、照れます////」

「最初にね、ジークと戯れているあなたを見た時『天使がいる!』って本気で思ったのよ。あの光景、王宮に飾ってある絵画なんかよりよっぽど美しかったわ」

「ひぃぃぃ!褒め殺しはやめてください!」

 

 私の顔は一気に真っ赤になった。

 リベールの名産である"にがトマト"よりも赤くなっていたと思う。

 姫様が大袈裟に私を褒めるのでむず痒くて仕方がない。 

 恥ずかしくて死にそうだ。でも、ちょっとだけ嬉しいとか思ってたりもして。

 

「やめてほしかったら、私には普通の友達として接すること、できる?」

「わ、わかりました。ひめ…じゃなくて、クローゼさん」

「うん。よろしい♪」

 

 クローゼさんにも頭を撫でられる。

 綺麗な顔が近くにあって、またしても私の顔が熱くなる。

 

 エステルが太陽だとしたら、クローゼさんは月のようだ。

 優しい光で闇夜を照らし、陰ながら皆を見守ってくれている。

 ただ、そこにいるだけで安心させてくれるような。

 穏やかで大きな力『あなたは大丈夫』だと背中を押してくれるような存在。

 そんなイメージを私はクローゼさんに抱いた。 

 

 なんて魅力的で優しいお姉さんなのだろうか。

 この人が国を引っ張ってくれるのなら、リベール王国は安泰だと素直に思った。

 

 《【空の至宝】……残滓を確認…》

 

 《生体反応97.8%一致、対象は管理権限者『アウスレーゼ家』の末裔だと判断》

 

 《【浮遊都市リベル=アーク】は既に崩壊【輝く環(オーリ・オール)】も消失した模様》

 

 《よって、対象の討滅は不要》

 

 《『アウスレーゼ家』を警戒対象から除外、以降は第二級市民と同列に扱うものとする》

 

「…ちゃん…イリスちゃん?」

 

 え?あれ?クローゼさん?

 

「どうしたの、急にボーっとして?疲れちゃったのかな?」

「い、いえ。何でもないです」

 

 今のは一体なんだ?

 頭の中にいきなり流れ込んで来た情報、すごく重要な事だった気がするけど。

 【空の至宝・輝く環】【浮遊都市リベルアーク】その管理者【アウスレーゼ】の一族・・・

 何が何だかサッパリだけど、討滅とか穏やかじゃないですね。

 おーい【虹の雫】今のはお前だったのか?

 

 私の疑問に答える声はなかった。

 

 ●

 

 クローゼさんとジーク、私とアガットさんの三人と一羽でお祭りを見て回る事になった。

 お姫様と一緒にお祭り巡りだなんて、なかなか貴重な体験だな。

 

「ヨシュアさんは顔だけでなく、お尻の形も素敵なんですよね」

「そう!そうなのよ!イリスちゃん、わかってるわね!」

 

 姫であるクローゼさんと何を話せばいいか悩んだ結果、ブライト家の面々達と過ごした日々を語る事にした。

 クローゼさんは顔をほころばせながら私の話を聞いてくれる。

 特にヨシュアさん絡みの話に対する食いつきがすごい。

 クローゼさんはヨシュアさんのファンなんだってさ。

 ほほう、これはラブの匂いがしますね!

 もしかしてエステルと修羅場を演じたりしたの?

 超見たかった!そして私も参戦したかったぁ!!

 

「クローゼさん的には、アガットさんの尻は何点ですか?」

「65点かしら?なんか硬そうw」

「人の尻に点数つけてんじゃねーよ!バカタレどもが」

 

 意外と厳しい採点だな。

 マッチョマンはダメなん?筋肉嫌いなん?

 個人的にはアガットさんの尻には80点をあげたい。

 

「程よい硬さで揉み応えがありますし、感度も良好なんですよ」チラッ

「へぇ…その話詳しく」チラッ

「おい、こっち見んな。そんな目で俺を見るなぁぁ!」

 

 アガットさんが尻を押さえて後退った。

 仮にも『重剣』の異名を持つ男が、この程度で怯えてどうするww

 因みに、ジークは私とクローゼさんの尻談議に呆れたのか、遥か上空を遊泳中だ。

 

「姫様、恐れながら具申したい事があります」 

「申してみよ」

「なんか始まった」

 

 クローゼさん、結構ノリがいい人である。

 

「ヨシュアさんの尻を国の重要文化財に指定したいと思うのですが、如何ですかな?」

「素晴らしい。さっそく次の首脳会談でメイン議題として取り上げよう」

「ありがたき幸せ!」

「次期女王が痴女とか…この国マジ終わってんな」

 

 固い握手を交わす痴女たちをアガットは冷めた目で見ていた。

 

 一方その頃、ブライト家では・・・

 

「ウッ…急に寒気が…」

「やだぁ、風邪でも引いたの?」

「違う、何と言うか、僕のあずかり知らぬ所でおぞましい計画が立案された気がして…」

「ヨシュア、あなた疲れてるのよ」

「そうだね。今日は早く寝る事にするよ。ふぅ…」

 

 ヨシュア・ブライト、直感でイリスとクローゼの野望を察知する。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 ジェニス王立学園の創立記念日、私にとって初めてのお祭りはとても楽しいものになった。

 みんなで屋台を冷やかして食べ歩きをしたり、いろんなイベントやアトラクションに参加したりで、時間を忘れてはしゃいでしまった。

 きっと、アガットさんとクローゼさんが、お祭り初体験の私が楽しめるように接待してくれたのだろう。

 感謝!圧倒的感謝!

 

 女装コンテストにアガットさんを無理やり出場させたら、会場中が多いに盛り上がった。

 クローゼさんと私でコーディネイトした古き良き"女番長"スタイルがウケたのだ。

 裏方の女子生徒たちも総動員でメイクアップに参加してくれたので助かった。

 ヤケクソで竹刀を振り回すアガットさん改め、女番長『アガ子』の活躍は王立学園の伝説となるだろう。

 ステージ上でドラゴンダイブ(不殺)を決めた時は拍手喝采だったもんな。

 

「優勝しちゃいましたねwww」

「最高でしたよアガ子さん!是非またやりましょうwww」

「二度とやるか!!あーもう、ホント今日はなんて日だ!」

「アガ子さんの記念写真、ティータちゃんに送っておきますねw」

「やめろやめろやめろ!マジでやめてください!!

 

 最新式の戦術オーブメント第五世代型の『ARCUS(アークス)』は動画によるリアルタイム通信が可能で、写真と動画の撮影も当たり前にできる優れモノだ。

 アガットさんはもちろん、クローゼさんも当然のようにARCUSを携帯していた。

 私が持っているオーブメントは第四世代型で、金色の懐中時計の形状をしている。

 今ではもう時代遅れの逸品であるが、アーツをあまり使用しない私にはこれで十分だし、どうせすぐに壊してしまうのでこれでいいのだ。

 ただ、便利な通信機能には少し憧れる。

 

 遊撃士協会に頼めば新型を融通してくれるらしいけど、私は断った。

 だって、どこでも通信できる事がうらやましい反面、面倒臭いと思ったから。

 知り合いから通話やメッセージが届いても、どう返事するかで迷うし、常にオーブメントを気にしながら暮らすのも煩わしい。

 なんだっけ、異世界ではスマホ?とかいうオーブメントがあって、便利すぎるスマホに依存する人が増えて社会問題にもなっているらしい。

 アルキスマホー、ハイカキーン、という様々な病気も併発するのだとか・・・恐ろしい。

 そういう訳で、私は旧型のオーブメントをずっと携帯している。

 機会があれば新しい物にしてもいいけど、今すぐどうこうしようと思わない。

 

 ・・・・・・・・・

 

 お祭りを目一杯楽しんだ私たちは学園の校門前に来ていた。

 クローゼさんとジークとはここでお別れになる。

 

「アガットさん、イリスちゃんのことお願いしますね」

「おう、任せな」

「くれぐれも、良からぬ行為に及ばないように!信じてますからね!」

「全然信じてない目で言うな!」

 

 最後まで何事か言い合いながらも、きっちり握手して笑っている大人たち。

 ああいう軽口を叩けるの、仲間の絆ってのを感じる。

 素直にいいなぁと思う。

 

「ジーク、また遊びましょうね」

「ピュイ」

「次は私も空を飛んでいるかもしれませんよ」

「ピュイー♪」

 

 冗談だったのだが、ジークは喜んでいるように感じた。

 最後にもう一度、フワフワの羽毛を触らせてもらう。

 う~ん、やはり最高だ。

 

「イリスちゃん。道中気を付けてね。怪しい人について行ったらダメよ。世の中いいロリコンばかりじゃないんだから」

「なぜ俺を見る?」

「はいです。心配してくださってありがとうございます。クローゼさんのご活躍、陰ながらお祈りします」

「うん、ありがとう。元気でね」

 

 クローゼさんに抱き着いてギュッとハグしてもらった。

 ふわぁ~これがプリンセスの高貴なる抱擁!

 温かく柔らかで大変いい匂いがする。

 このハグの思い出だけで私は生きて行ける。

 

「また会いましょう!お元気で~」

 

 互いに手を振って笑顔で別れる。

 クローゼさんの肩に止まったジークも翼を何度か羽ばたかせ、手を振っているようだ。

 

 クローゼさんはこの後、卒業生たちの集まる同窓会に参加するらしい。

 その背を見送っていると、彼女の護衛らしき女性が何処からともなく現れ、私たちに軽く一礼してから去って行った

 そりゃあ姫だもんな。護衛の一人ぐらいいて当然だ。

 なかなか腕の立ちそうな女性だった、軍人…それも近衛兵の上級士官ってところか。

 

「さて、俺たちも行くか」

「ですね。次の町までのんびりと参りましょう」

 

 女装コンテストの優勝賞品は近隣で採れた食材の詰め合わせだった。

 今夜の夕食はちょっと豪勢になりそうだ。

 

 ●

 

 数日後・・・

 

 遊撃士の仕事を終えた私たちは、最早定番となった野営をしていた。

 焚火の炎がパチパチと弾ける音、虫の羽音と鳥の鳴き声が耳に心地よい。

 夜の見張り番をアガットさんに任せ、私はテントの中で横になっていた。

 今日も頑張ったから、しっかり寝て明日の英気を養おう。

 

 《……来る》

 

 はい?

 

 《…来るよ》

 

 なに?

 眠いんで明日にしてもらっていい?

 

 《…もうすぐ、そこまで来てる》

 

 クルクルうるせぇなぁ!

 こちとら就寝前だぞ!少しは人の迷惑考えんかい!

 

 頭の中に響く声に起こされ、せっかくのウトウト気分が霧散してしまった。

 ああもう!何だってんだ。

 

 毛布に包まったままテントの外に出る。

 また眠気が来るまで、アガットさんと一緒に温かい物でも飲む事にしよう。

 

「……アガット、さん?」

 

 焚火のそばまで近づいたのだが、何やら様子がおかしい。

 珍しい、あのアガットさんが居眠りしているではありませんか。

 手から滑り落ちたであろうマグカップとその中身が地面に散乱している。

 急に寝落ちした?アガットさんが?見張り番を放棄して?

 そんなの絶対おかしい!

 急いでアガットさんの脈を確認…大丈夫ちゃんと生きている。

 揺すっても頬をペチペチしてもペロペロしても、まるで起きる気配がない。

 深い眠りに落ちてしまっているようだ。

 

 こりゃあ寝ぼけている場合じゃねぇ!

 自分の両頬を叩き、一気に覚醒した私は状況の把握に努める。

 やけに静かだ、不気味なぐらいの静寂が夜の森を包み込んでいる。

 鳥や虫が出す音すら聞こえない、あまりに不自然な状況。

 

 攻撃されてる?

 方法は不明だが何者かによって、周囲の一帯の生物が眠らされていると推測。

 敵がいるのか、そいつは何処のどいつだ?

 私を起こした声が『来る』言っていたのはこの事だったのか。

 わからないことだらけだが、とりあえず武器を装備しておこう。

 刃渡りの大きなナイフ二本となまくら大剣、投擲用のナイフと、回復薬とオーブメントも・・・

 

 『こっちだ…』

 

 え?今の声は何?

 

 『こっちだ。我の下に来い』

 

 誰だ?

 頭の中に声を送って来るのは誰だ?

 これは内側から響く【虹の雫】の声ではない。

 外部からのメッセージだ。

 

 『批判者にして断罪者よ。我の下に…』

 

 声は間違いなく私を呼んでいる。

 この声の主がアガットさんや周りの生物たちを眠らせた張本人だ。

 尊大な物言いの奴がいる方向はなんとなくわかる。

 正直、行きたくないけど、行かないと状況は好転しそうにない。

 

 野営地の罠を確認、魔獣除けのお香も焚いて、寝ているアガットさんには毛布をかけておく。

 これでアガットさんの安全は確保できた。

 では、行ってきますか!

 

 気合を入れて夜の森へと駆けだす。

 静かすぎる森の中は怖かったけど、少しだけワクワクもしていた。

 この先にいるのは、きっと私が見た事もない()()だという、不思議な期待と確信があった。

 

 ・・・・・・・・

 

 しばらく進むと森は終わりを告げ、岩肌と草木だけの盆地にたどり着いた。

 これRPGだとボス戦に入るパターンじゃね?

 セーブポイントはないんですか?

 周囲を見渡したけど誰もいない、月明かりに照らされているのは私だけだ。

 油断はしない。いつでも動けるように準備はしておく。

 

「来ましたよ。どこですか?」

 

 私の声が虚しく夜空に響いた。

 えっと・・・まさか、ここじゃなかったとか?

 

『おお、おお!感じる、感じるぞ!これはまさしく虹霊子…』

 

 また頭の中に声が!?

 場所はここで間違いじゃない。

 奴は今もどこかで私を見ている。

 

『数千年の時を越え、我らを滅するため蘇ったか』

 

 何を言ってるのか意味不明!

 

「いるなら姿を見せなさい。こんな子供を夜中に呼び出して、失礼でしょうが!」

 

 いいから出てこいや!

 用が無いならアガットさんの寝顔でハァハァする作業に戻らせてもらうぞ。

 

『こっちだ、断罪者よ…』

 

 どっちやねーん!

 下か?地中から不意打ちする気か?ゲッター2かよ?

 

『そうではない、上だ…』

 

 上?

 声に従い、上を見上げる。

 夜空には少し欠けた月が光っているだけ・・・ん?

 月に何かの影が?

 最初は小さかった影がどんどん大きく、近づいて来ている。

 動いている、大きな翼で夜空を羽ばたいている、だと!?

 鳥などではない、そもそも大きさが違う。

 10アージュ以上の巨体がこちらへやって来ている。

 

 ちっぽけな私ごと吹き飛ばすような羽ばたきが、粉塵を巻き上げる。

 うぇ!口に砂が入った。

 そいつは私の前にゆっくり、そしてズッシリと着地してみせた。

 

「……か、か、カッコいい…」ゴクリッ

 

 月光が照らし出す、そいつの全身像に思わず息を呑む。

 こいつといいクローゼさんといい、最近はリアルにとんでもないモノと遭遇してしまうな。

 

 緑色の鱗に覆われた体に大きな翼、鋭く尖った爪と牙、全身からは得も言われぬ威圧感が放たれている。

 こちらを見据える瞳には確かな知性が宿っていると感じられた。

 絵本や物語の題材として幅広く使われる、これぞ神秘の生命体。

 

 それは一匹の竜であった。

 

「竜!?りゅう!リュウだ!ドラゴンだぁーーー!!

 

 私のテンションは一瞬でアガット!じゃなくて上がった!

 

 だって竜だよ竜!

 こんなの興奮しない方がおかしいってば!

 うわぁーうわーうわー!本物だ、本物だよね!

 今まで私、竜と会話していたって事?すごくね?

 

『いかにも、我は古代竜【レグナート】』

 

『【空の至宝】とそれに関わる一族を、長らく見守って来た者だ』

 

『だが、その役目も今日で終わる…』

 

 そっかそっかぁ【レグナート】って言うんだ。

 名前もカッコイイね。

 あ~いいなぁ。触りたいなぁ。

 ジークみたいにお友達になってくれないかなぁ。

 

『覚悟は既に出来ている。さあ、断罪者よ。己が本懐と遂げるがいい!!』

 

 さ、触ってもいいんですかぁ!!

 マジか、このドラゴンめっちゃ人懐っこいじゃん。

 

「もっと近づいてくれますか?ここからだと手が届きません」

『ふむ。自ら首を差し出せと言う事か、よかろう』

 

 おおお!!

 レグナートが姿勢を低くし、私の前にズイッと顔を近づけてくれた。

 (*´Д`)ハァハァ・・・な、なんてカッコいんだ。

 もう辛抱堪らん!

 

「で、ではいきます!」

『ああ、もう思い残す事は無い…この地に住まう者たちに、どうか幸あれ…』

 

 わーいお触りタイムだぁ!(´▽`)

 

 レグナートの顔に飛びつき、その鼻や頭や角、いろんな部位を触りまくった。

 この竜はとても大人しいので、私が体の上ではしゃぎ回っても全然文句を言わない。

 翼の皮膜に触ったり、長い胴体を滑り台にして遊んだり、記念に一枚鱗をはがせないか試してみた。

 まさかこんなに楽しいイベントが待っているとは、人生何が起こるかわからんね!

 

『???……さっきから何をしている?』

「あなたの体を触りまくって興奮しています!!」

『何が目的だ?我の爪や牙が欲しいならば、殺した後にでも回収するがよい』

「は?なんで私があなたを殺すんです?」

『何故だと?己を裏切った【七の至宝】と、それに組する者の討滅こそが、断罪者…そなたがこの地に蘇った理由であろう?

 

 レグナートがいきなり妙な事を口走った。

 裏切った?誰が?【七の至宝】がどうして出て来るのか?

 はぁ~サッパリサッパリ!

 

え?( ゚Д゚)

え?(゚Д゚;)

 

 あまりに突拍子もない発言だったので『え?』としか反応出来ない。

 そんな私を見て、レグナートも『え?』となった。

 ポカンとした私たちの間に気まずい沈黙が流れる。

 何ですかね、この空気は?

 

 古代竜レグナートとの遭遇・・・

 果たしてこの竜は私の何を知っているのか?

 

 月明かりの中は一人と一匹は互いに驚いたまま見つめ合っていた。

 

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