虹色イリス   作:青紫

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大きな友達

古代竜レグナートと遭遇した。

だけど、何だが話がかみ合わない。 

この竜ってば、私が自分を殺すつもりだと思っていたらしい。

何がどうしてそうなる?

 

「私があなたを殺したいと思っていたとして、そんな危ない奴を呼び出した理由は?」

『無論、我を裁いてもらうためだ。断罪者よ…』

 

断罪者って何よ?

私にはイリスと言う名前があるんだぞ。

 

『イリスというのは、そなたの通称であろう?』

通称というか、本名として使ってますが何か?

遊撃士の仮登録もこれで大丈夫だったから、世間的にも私はイリスでいいのだ。

自分で付けたけど、結構気に入っているんだからほっといてよね!

 

『■■■■■■■■…』

「はぁ?今何と言いましたか?」

『そなたの真の名を告げた。認識できないのか?』

 

『ほにゃらら』としか聞こえなかった。

ドラゴン特有の言語かとおもったけど違うみたい。

 

『少し調べさせてもらう、我に触れるがいい』

「こうですか?」

レグナートが鼻先をググッと近づけて来たので、そっと触れる。

その瞬間、私の脳裏に警告音が鳴り響いた。

 

《未登録の第三者が虹霊子反応炉へアクセスしようとしています》

《悪意ある敵性体だった場合、システム全体に深刻なエラーが発生する恐れあり》

《秘匿事項第一条、第二項の規定により、此奴(こやつ)の即時排除を提案》

 

こやつって…レグナートのこと、完全に敵認定してるじゃん。

 

《機密情報と反応炉の奪取を防ぐため、炉心の自発的な暴走による自爆を推奨》

 

物騒なおススメやめろや!

10話で自爆した奴みたいに、潔く『任務了解!』とでも言うと思ったか?

 

《自爆後、ゼムリア大陸の三分の一は人類の生存不可領域となり、復興までの時間はおよそ1万と2千年…》

 

待て待て待て待て!!!!

なんか滅茶苦茶ヤバい事言い出したぞ!!

スケールが大きすぎて、私の手に負えないし責任も取れないよ!

さすがに嘘だと思うけど、私はまだ【虹の雫】や虹パワーの全貌を知らない。

この声が言うように、大陸を滅ぼす力が絶対に無いとは言い切れないのだ。

私はビビりながら全力で『やめてくれよぉ!』と強く念じた。

 

《未登録者を検索……該当あり》

《【七の至宝】補助管理機構によって製造された永続型生体兵器》

《【聖獣(ディバインビースト)】タイプα初期ロットモデル》

 

《個体名【レグナート】……排除しますか?》

 

だから、しないよ!?

とりあえず殺そうとするのやめなさい。

 

ああ!またなんか頭にいっぱい浮かんで来た。

膨大な数の文字列が脳内を瞬く間に埋め尽くしていく。

分厚い百科事典や法律書を無理やり脳に押し込まれた感じがする。

ハッキリ言ってもの凄く不快!

もうヤダ、頭パーンッ!ってなりそう・・・

 

『断罪者よ、我に敵意はない。頼む、我にアクセスを許可してくれ』

 

そんなこと言われても、どうすればいいのか?

 

『メッセージを一番下まで読み飛ばし『同意する』にチェックを入れるのだ』

 

えぇ…なんじゃそれ。

そもそも読み飛ばしていいの?

重要事項と書いてあるんだけど?

 

『いいのだ。数千年前も、そんなものをバカ正直に読む者はいなかった』

 

途中まで読んだ私はバカって事か?

チェックを入れるとか言われても、まあ適当に念じればいいはずだよね。

はいはい、同意しますよっと・・・

 

《本当にいいんですね?》

《どうなっても知りませんよ?》

《警告はしました。選んだのはあなた》

《今後何があっても自己責任でお願いします》

 

しつこいなぁ!

いいから早くしてよ。

疑り深い警告メッセージを何度かスキップして、最後に『承認』の項目をポチッとな。

さあ、これでどうなる?

 

私の全身がビクンッと震えた。

それと同時に髪と目が淡く発光していくのを感じる。

虹色の輝きを宿したキラキラの粒子も体から放出され始めた。

私の本気モード、虹パワーを発動させた時のような状態になったのだ。

 

おそらく今、レグナートが私の奥底にアクセスとやらをしたのだろう。

痛みや不快感は感じない、胸の辺りが少々くすぐったい気がする。

レグナートがお医者さんだとしたら、私は今聴診器を当てられている感じなのかな?

 

「どうです?何かわかりましたか?」

『やはりメモリーに異常が?…う~む…器との同調が不完全なのか?』

 

不安になるから患者の目の前で悩むな!

しばらく唸っていたレグナートは、不意に何かに気付いたようである。

 

『驚いた…まさか、意図的にそうしているとは』

『この小さき者に命運を託すと、全てを委ねると、そういう事なのだな』

『了承した。ならば、我もそなたの意思を尊重しよう』

 

レグナートさん?

勝手に人の中をまさぐって、勝手に納得するのやめてもらえます?

説明プリーズ!わかりやすく簡潔にお願いします!

 

『断罪者…いや、表に出ている人格は器の方だったか』 

 

器というのは私のことで、断罪者というのがもうひとりの私【虹の雫】って認識でOK?

 

『器の少女よ…』

「イリスでお願いします!『うつわ』とか言われても返事しませんよ?」

『…わかった。これより、そなたのことをイリスと呼称しよう』

「そうしてください。で、もうひとりの私との関係は?」

『……』

 

レグナートの言動から読み取れるのは後悔の感情。

彼はずっと昔【虹の雫】に対して何らかの罪を犯したのだ。

殺されても仕方がないと思えるほどの罪ってなんだ?

 

「ほら、黙ってないで話してください。話せば気持ちが楽になりますよ」

『……今日は、よい天気だな…』

「真夜中ですけど?」

 

夜空に輝く、あのお月様が見えんのか?

この竜、あからさまな話題転換して来たよ。

そんなに話しにくい内容なのか?

隠されると余計に気になるなあ。

私、こう見えて聞き上手だから、気のすむまで懺悔してもいいのよ?

 

『許せ。我らの犯した罪、おいそれと口に出来るような事ではないのだ』

 

辛そうに目を伏せるレグナート。

本当に何をやらかしたのやら?

 

「とりあえず『ごめんなさい』しておきますか?」

 

レグナートには感情があり、会話でコミュニケーションもできる。

ましてや、私なんかより遥かに長命であろう竜なら、それなりの礼節ぐらい理解しているだろう。

許されるかどうかは別として、まずはキチンと誠意ある謝罪をしてから、事を進めるべきだと思う。

 

竜だろうが、謝罪相手が虹色の古代遺物だろうが、そんなの関係ねぇ!

悪い事をしたと思ったのなら『ごめんなさい』と頭を下げる。

誰かに良くしてもらったら『ありがとう』と感謝する。

知的生命体として生きていく上で最低限のマナーだと思うぞ。

 

『そなたの言う通りだ』

『悠久の時を生きてなお、犯した罪の重さから、目を背けることしか考えていなかった』

『裁かれて楽になりたいとすら思っていた…我は本当に愚かだな…』

 

レグナートが自己嫌悪で落ち込んでしまった。

大きな体を持つはずの竜が、今はなんだかとても小さく見える。

 

そんなにヘコまなくても大丈夫ですよ。

 

ちゃんと反省できる、あなたは十分立派です。

私なんて、アガットさんにした悪戯で怒られている最中『俺はわるくねぇ!』とか思ってますから。

悪戯の内容は主にお尻を触ったり揉んだりが多いです。

これじゃあ悪戯というよりセクハラですねwww

 

私がどうでもいいことを考えている間に、レグナートは覚悟を決めたようだ。

大きな竜は一度翼を広げた後、ゆっくりと自らの(こうべ)を垂れた。

 

『■■■■■■■■よ。我はそなたに対し心から謝罪する』

『あの時、我らは最善の選択したつもりでいた。だが、結果は…今のこの世界を見ればわかるであろう?』

『我らは間違えた。間違いだとわかっていながら、止められなかった』

 

『絶対だと、永遠だと、信じて疑わなかった『至宝の力』を否定する者が生まれた』

『それが、許せなかった…違うな、そうではない、我らは、ただ…ただ、そなたのことが』

『どうしようもなく、恐ろしかった…

 

つらつらと独白を続けるレグナート。

その瞳は私を見ているようで見ていない。

この竜は最初から、私の中に()()()だけを見ていたのだ。

 

『■■■■■■■■よ。我の首が欲しければ喜んで差し出そう』

『だが、我が眷属と、この地に住まう者たちは見逃してくれぬか?』

 

『現世に生きる者たちは何も知らぬのだ、全ての罪は我が背負う』

『厚顔無恥なのは百も承知だ。だが、どうか、どうか慈悲を…』

 

その後も『もにゅもにゅほにゃほにゃ』と私には聞き取れない名前を呼びながら、何度も深く謝罪するレグナート。

話の内容がサッパリな私にも、彼の誠意は十分に伝わった。

チビの小娘に謝り続け慈悲を乞う古代竜の姿が哀れでならない。

なんだか私がレグナートをイジメているみたいで、ものすご~く居たたまれない。

 

おーい、聞いてるのか?

レグナート、めっちゃ後悔してめっちゃ謝っているぞ。

過去に何されたのか知らないけどさ。返事ぐらいしてやってもいいんじゃね?

というか、私ばっかり矢面に立たせて、自分は引きこもってるのズルくない?

オラッ!うんとかすんとか言ったらどうなんだい!

 

《すん》

 

体の奥底から短すぎる返答があった。

この野郎!バカヤロウ!

そうじゃねーだろ!

え?終わり?

今ので終わりなの?

『すん』って、たった二文字リアクション返すのが限界なの?

うわぁー、コミュ力くそ雑魚じゃん。

 

『イリスよ。■■■■■■■■は何か応えたくれたか?』

 

難しい顔をしていた私に何かを察したレグナート。

もうひとりの私がどんな反応をしたのか気になるのだろう。

 

「えーっと……『すん』だそうです」

 

どう判断していいかわからないので、そのまま伝えるしかなかった。

レグナートが『ふざけるな!』とか言って暴れ出したら、私は即行で逃げるぞ!

 

『フッ、ククク…想像を絶する寛容さだな…』

『かなわぬ!これはかなわぬわ!我如きが、かなうはずもない!』

 

『愉快だ。実に愉快!クァハハハハハハハww』

 

何をどう解釈したのか知らないけど、『すん』を大層お気に召したようだ。

たぶん、上位存在にしかわからない高度なギャクでも含まれていたのだろう。

笑いのツボに入ったレグナートはしばらく笑い続けていた。

 

 ●

 

『すまぬな。見苦しい姿を見せた』

「いえ、悲しそうだったり、楽しそうだったり、何かとお疲れ様でした」

 

ひとしきり笑ったレグナート。

今は落ち着きを取り戻し、私の正面に堂々とした姿で佇んでいる。

 

「情報の開示はしてくれないんですね?」

『我が語るべき事はない、いずれわかる日が必ず来る。その時、そなたは何を選び、何を思うのだろな…』

 

あらら、結局、教えてくれないのね。

余計な情報を与えすぎても混乱すると判断されたっぽいな。

そのお気遣いありがたく頂戴します。

 

私は日々を楽しく精一杯生きることに集中したいのよ。

だから、上位存在たちの訳アリ事情に振り回されるのは、正直勘弁してほしい。

私みたいな子供に何かを期待されても困るつーの!

『いずれわかる』と言ってるんだから、今無理に聞き出さなくてもいいよね。

その時とやらが来るまで、元気なイリスちゃんでいればいいのだ!

 

『然り。そなたはそれでいい、■■■■■■■■もそれを望んでいる』

 

もうひとりの私、あいつが何を考えているのか?

一度、しっかり話し合った方がいい気がして来た。

 

おーい、ミーティングしたいから時間空けといてくれる?

返事はないが、どうせ聞いているのだろう。

また『すん』とか言わないでよ。

 

『我の短慮から迷惑をかけたな、イリスよ』

「いえ、こちらこそ、うちの引きこもりが無礼な態度ですみません」

『問題ない。本来ならば、出会い頭に滅されて当然なのだから』

 

レグナートは最初より緊張が解けているようだ。

決死の覚悟で会い来た相手の返答が『すん』だもんな。

そりゃあ、緊張も緩むわ。

 

『イリスよ。これからどうするつもりだ?』

「旅を続けます。いろんな経験して、自分がどう生きるべきかを探そうと思います」

 

行ってみたい場所や、やってみたい事が、まだまだたくさんあるのだ。

今は旅をしながら、生きていくのに必要な力を身に着け、素敵な大人になるための準備期間。

しばらくは『さすらいの旅人イリス』として活動するつもりだ。

旅先で結婚したり、王様になったり、石像になったり、自分の子供が勇者だったりするかもしれない!

フフフ、夢が広がるなぁ。

 

「己の目で直に世界を見極める。それが器である己の使命だと言うのか、さすがだな…」

「そんな御大層なものじゃないです。私はのんびり諸国漫遊をするだけですよ?」

「皆まで言うな。そなたの決意と覚悟、我には十分すぎるほど伝わったぞ」

 

コレたぶん何も伝わってねぇな。

勘違いしているところ悪いけど、見極めだの使命だのといった事は、これっぽっちも考えてないんだよね。

レグナートは『わかってる、わかってるよ』としみじみ頷くだけで、話を聞きやしない。

この勘違いドラゴンめ!

面倒臭くなったので訂正するのを諦めた。

勝手に私を過大評価してればいいさ。

後でガッカリしても責任とらないからな!

 

『行先を決めていないのなら、クロスベルの地に赴くといい』

 

クロスベルかぁ、帝国と共和国の文化が入り混じる、魔都と呼ばれる場所だったはず。

いつか行ってみたいと思っていた。

ドクターが『あそこはいい』と常々語っていたっけ・・・

 

『彼の地には、我と同じ、至宝を見守る存在【幻の聖獣】がいるはずだ』

ほう、レグナートの同類がクロスベルにいるのか。

 

『そなたの復活を感じ取り、奴も気を揉んでいることだろう。もし会う機会があれば、話を聞いてやってほしい』

「お安い御用です。その聖獣に会ったら『私は無害で友好的』だとアピールしておきます」

『感謝する。フフ、奴が今のそなたを見たら、腰を抜かすかもしれぬな』

 

聖獣に会う旅路か…なんか素敵やん。

伝承では【七の至宝(セプト=テリオン)】それに対応する【七体の聖獣】がいるとされる。

七体全ての聖獣に会えたら、願い事が叶ったりしないだろうか?

レグナートが【空の聖獣】クロスベルにいる奴が【幻の聖獣】・・・

残りの五体は何処に?

 

『至宝の力が失われるつれ、聖獣たちも次々に歴史の表舞台から姿を消していった』

 

『彼奴等が今どこで何をしているのか、わからぬのだ』

『既に滅んでしまったか、人の世から離れ隠居したか、あるいは…』

 

寂しそうにレグナートは喉を鳴らした。

【幻の聖獣】の生存を確認したのも、つい最近の出来事であり、他の聖獣たちがどうなったのかは依然不明らしい。

違う至宝に仕えているとはいえ同類だろ?

定期連絡や情報交換などはしていなかったのか?

千年もあれば『あいつ元気かな?』『ちょっと連絡してみるか』ぐらい一度は考えるだろうに・・・

聖獣たちってもしかして仲が悪い?

 

『我らとて、最初からこうではなかったのだ』

『大崩壊以降、我らは自分たちの至宝と眷属を守ることで精一杯だった』

『すると連絡の頻度が減ったり、直に会う機会がなくなった。それが始まりだ』

『連絡が途絶えた状態が続くと、相手に連絡する心理的なハードルが高くなる』

『『今忙しいかも』『急だと迷惑だよね』『また明日にしよう』と、言い訳をするようになると手遅れだな』

『連絡を取らない期間がさらに長くなり、お互いの近況もわからなくなるため、最早どうすることも出来なくなる』

『故に我らは相互不干渉と成り果てたのだ!』キリッ

 

長々と何言ってんだ、このドラゴン?

 

ただの『疎遠スパイラル』じゃないですか!!

 

何が相互不干渉だ。

連絡をためらっていたら、自然とフェードアウトして関係が終わっただけだろ!

社会人となり仕事が忙しくなると、この『疎遠スパイラル』に陥る人が結構いると、以前読んだ本に書いてあった。

私も連絡を『照れくさい』とか『面倒』だと思う質なので他人事ではない。

今の内にお一人様を楽しむ心の余裕を身に着けておくべきかもね。

ぼっちでもいいじゃない、人間だもの。

 

「聖獣間の連絡網、復活させた方がいいんじゃないですか?」

『……考えておこう』

 

いや、今すぐやれよ。

考えているうちに『また今度』と言い出すのが目に見えている。

意外なポンコツぶりを見せるレグナート。

そういうところ、ちょっと人間臭いなあと思ってしまった。

 

 ●

 

『イリスよ。我に何か望むことはないか?』

「聖獣同士の連絡網を整えてください」

『う、うむ。そのうちにな…』

「約束ですよ?」

 

ちゃんとお仲間と連絡しあって仲良くすること、いいですね?

 

『善処する。それだけで良いのか?』

「じゃあ、友達になってくれませんか?只今、絶賛募集中なので」

『友だと…そなたを裏切った我が、どの面下げて…』

「それは、もうひとりの私に対してですよね?ただの子供である私、イリスには関係ない話です」

 

引きこもりは何も言って来ない。

よって、レグナートを友達にしても問題はないと思う事にする。

そう伝えると、竜は『ギュルルンッ』と声を上げて笑った。

 

『よかろう。イリス、そなたは今この時より我の盟友だ』

「はい。よろしくお願いします、レグナート」

 

顔を近づけてくれたレグナートの鼻先にそっと触れる。

これであなたもマイフレンドだ。

やったね!また友達が追加されたぞ。

しかも、人語を解するカッコイイ竜だ。

ムフフ、アガットさんに『ドラゴンと友達になった』と自慢してやろう。

 

見上げる程のサイズを持つ竜の姿にウットリする。

大きいなぁカッコイイなぁ、私なんて一飲みに出来ちゃうんだろうなぁ。

友達になってくれたのが嬉しくて、撫でたり頬ずりしちゃったり。

硬い表皮からは確かな温かさと、その身に秘めた力強さを感じた。

 

《【レグナート】より【空】の霊子エネルギーが供給されました》

《アップデート開始・・・・・・》

《反応炉の出力向上、各種ステータス微増、特殊機能復元・・・》

 

レグナートからポカポカした何かが私の中に流れて来た。

まるで風呂上りのような、全身がリラックスして整った感じがする。

 

「今のは?」

『ささやかだが、我から盟友への餞別だ。これからの旅に役立てるといい』

「ありがとうございます!」

 

レグナートが聖獣の力を分け与えてくれたらしい。

私の見た目に変化はないが、ちょっとだけ強くなった気がするぞ。

これは嬉しいプレゼントだ。

 

友達からプレゼントをもらってしまった。

私も何かお返しが出来ればいいのだけれど・・・

生憎と携帯食のジャーキーは持ち合わせがない。

あったとしても、巨体のレグナートには量が全然足りないだろう。

 

『気持ちだけで十分だ。我は食事をせずとも活動できるよう創られておる』

 

ご飯は必要ないのか…食事の手間が省けるけど、それはそれで味気ないな。

今の私に用意できて、レグナートが喜んでくれる贈り物は・・・

 

《レグナートに虹霊子のエネルギーを譲渡可能》

 

わっ!なんぞ?

急にメッセージが出て来るとビックリするわ!

えーっと、なになに・・・

虹霊子ってのは私の力の源、虹パワーの事だよね?

それを渡す事ができるらしい。

エネルギーのお返しにエネルギーというのはありなの?

レグナートが不快に思わなければ、渡してみてもいいかも。

 

《奴の体内に大量の虹霊子を送り込み、内部から崩壊させる作戦を実行》

 

実行するな!

お前レグナートに対して辛辣すぎない?

彼はもう私の友達なんだから、態度を改めるように。いいね?

 

《聖獣タイプαに最適なエネルギー量を計測…準備完了…チッ》

 

今、舌打ちしただろ?

不満なのが隠せてないぞメッセージさん!

 

まあいいや、準備できたなら送っちゃってよ。

つまらないものですが、こちらをお納めくださいなってね。

 

胸の奥から温かな熱が湧いている。

ポカポカしたそれは、私の命の輝き、虹霊子という名の力そのものだ。

レグナートに触れている手の平からそっと力を送ってみる。

よくわからないけど、こんな感じでいいのだろうか?

 

『何?我の体に虹霊子が……うぁ…ぬおおおおお!?!?』 

 

レグナートが急に声を上げて苦しみ出した!?

ん!?まちがったかな…

とか言ってる場合じゃない!

ちょっと、どうなってんの!話が違う!

まさか、このまま破裂したりしないよね?ねえ?

 

直後、レグナートの体から虹色の輝きがあふれ出した。

ヤバい、これパーンッ!てなるやつか?

 

『おお、体中に力が満ちてゆく。なんと素晴らしい…』

「光ってる!光ってますよレグナート!破裂しますか?『ひでぶ』って言いますか?」

『案ずるな、何も問題はない。虹霊子により、我の躯体が整備及び改良されているのだ…』

 

それって大丈夫なの?

変なモノ食べさせられてハイになってるだけでは?

 

私の心配をよそに、レグナートは喜んでいるみたい。

しばらくすると、虹の輝きは収まった。

お、終わったの?

体を起こしたレグナートは、大きく伸びをするように翼を広げる。

首や尻尾も、状態を確かめるように動かし満足そうに頷いた。

 

『ここまで爽快な気分は久方ぶりだ』

「予告なしにやって、すみませんでした!体は大丈夫そうですか?」

『1000年若返ったかのようだ。フフ、女神の下へ行く日は当分先になりそうだなw』

 

虹霊子は竜のアンチエイジングに成功したらしい。

確かに、何だかレグナートの体がツヤツヤしている気がする。

 

『感謝するぞ、イリス。まさか虹霊子を譲渡されるとは思いもしなかった…』

「いえ、先にもらったエネルギーのお返しです」

『返礼にしては大きすぎる。これでは我の立つ瀬がないぞ』

「気にしないでください、友達にちょっとギフトを送っただけですから」

『ううむ、そういものか?だが、この恩はいつか必ず…』

「だから固いですよ。友達なんだから、もっと気楽にしましょう」

『……承知した。我が盟友』

 

何となく気恥ずかしくなって笑い合った。

そこからは過去の因縁や難しい話は抜きにして、いろいろお喋りした。

さすが長生きしているだけある。

レグナートの知識は豊富で、私が知らない珍しい動植物のことや、過去に存在した雄大な景色について語ってくれた。

私に話せない禁則事項なんかも沢山あったみたいだけど、可能な限り興味深い情報を教えてくれる。

友達の気遣いが嬉しくて楽しかった。

私も短い人生の中で起こった出来事を一生懸命話したと思う。

竜の表情はわかり辛いけど、レグナートもそれなりに楽しんでくれたと思う。

 

月夜の中、大きな竜と小さな少女は、旧知の仲のように語り合った。

 

 ●

 

『では、我はもう行こう』

「はい。楽しい時間をありがとうございました」

『こちらこそだ。そなた会えたこと、友になれたこと嬉しく思うぞ』

 

まだ話足りなかったけど、お別れの時間になった。

レグナートの鼻先に全身でハグをするのが握手の代わりだ。

アガットさんたちが眠ってしまったのは、やはりレグナートの用意した結界の作用だった。

私との逢瀬を誰にも邪魔されたくなかったのね。

結界はもうすぐ時間切れなので、人目に付く前にレグナートは自分の縄張りに帰るらしい。

そこにはレグナート眷属である、竜たちがひっそりと暮らしているのだとか・・・

ドラゴンの住む領域か、いつか行ってみたい。

 

『イリス、そして■■■■■■■■よ』

『全てが真に『ひとつ』となった時…』

『我は全身全霊でそなたの力になることを誓おう!』

『さらばだ。人の願いから生まれし、虹翼よ!』

 

大きく羽ばたいて飛翔したレグナートは、そう言い残して去って行った。

私はその姿が見えなくなるまで夜空に手を振り続けた。

こうよく?

それは死に際に主任も言っていた言葉だ。

きっと、私の中にいる奴を指していると思うんだけど…

 

新たな友は新たな謎を残していった。

それを私が知る日は来るのだろうか?

 

・・・・・・・・・

 

野営地に戻ると血相を変えたアガットさんが待っていた。

目を覚ますと私が居なくなっていたので、今から探しに行こうとしていたらしい。

勝手に行動した事で怒られたけど、ちゃんと理由があったので許してほしい。

それよりも眠い・・・

レグナートから力を受け取り、私も自分の力を分けたので、少々疲れたみたいだ。

そこに夜更かしが重なったので、もう瞼が重いのなんの。

アガットさんの説教を聞きながら、私は寝落ちしていった。

翌日、私の体はちゃんとテントに寝かされて毛布も掛けてあった。

アガットさん…なまら好きです////

 

「昨夜、竜と友達になったイリスです」

「夢でも見たんだろ?」

 

バッサリ否定するのやめてよね。

 

「アガットさんが居眠りしている時の話ですよ」

「あれはお前が一服盛ったと思うんだが、違うのか?」

「そんなんことしませんよ」

 

アガットさんに睡姦だなんてそんな・・・

うへへ、ちょっとアリかも(´▽`*)

フンだ。信じてくれなくてもいいですよーだ。

 

「レグナートは盟友だと言ってくれましたもん」

「な、レグナートだと!?…お前、あいつに会ったのか」

 

レグナートの名前を出した途端に態度が変わるアガットさん。

なんかアガットさんを含む、エステルたち一行も世話になったことがあるんだってさ。

へぇー、世間は狭いんだなぁ。

 

「あの竜と友達に……本当にお前、何者なんだ?」

「さあ?それは私も気になりますね」

もうひとりの私、あなたは一体・・・

 

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