野営もいいが、偶には屋根のある場所で眠りたい。
そんなわけで、今日から宿屋に寝泊りするんじゃい。
「手配魔獣の討伐依頼が立て込んでいる。しばらく、この町に滞在するぞ」
「了解です。うぇへへへ」
「なんだその顔?気持ち悪い奴だな」
こう見えて私もアガットさんも、依頼達成率上位の売れっ子遊撃士だ。
それなりに稼いでいるので、連泊するだけの資金は十分にある。
旅先でいい男といい宿に泊まる。
これぞ私の求めていた旅の醍醐味である。
まるで恋人同士のお泊りデート、いや、最早これは新婚旅行ではなかろうか?
部屋はもちろん一緒で、布団はひとつ枕は二つでお願いします!
「私たち、どういう関係に見えますかね////」ポッ
「親子、とかだろ?」
「んまぁ!ロリコンとは思えない発言ですね!どうして『夫婦』と素直に言えないのですか?」
「うるせぇ!早く寝ろ」
「ふぎゅ!?」
アガットさんの投げた枕が私の顔に直撃した。
もう!ホント照れ屋さん♪
枕投げでハッスルしたかったが、アガットさんにその気はないようだ。
灯りを消されてしまったので、大人しくベッドインしよう。
「おい、俺のベッドに入って来んな!自分用のがあるだろ?」
「察してください、人肌が恋しい年頃なんです」
「騙されねぇぞ、このセクハラ魔人が」
前回、頼み込んで同衾した際にお触りしすぎて、ベッドから蹴り出されたことがあった。
違うの、最初は純粋に人の温もりが欲しかっただけで、
その、アガットさんの逞しい筋肉にムラムラッと来ちゃいましてね。
へへへ、ふへへ。
私を痴女扱いするアガットさんは、ベッドに横になると布団を被り寝る体勢に入ってしまった。
取り残された私は仕方なく自分のベッドに寝転がる。
我慢だ、我慢しろ、アガットさんが寝静まるまでの辛抱だ。
時が来れば、音もなく忍び寄り、ぬるりと同衾してみせよう!
夜這いは淑女の嗜みでしてよ!
まあ、私と同じ部屋な時点でもう『YES』と判断してもいいよねヾ(*´∀`*)ノキャッキャ
まだかな?まだかな?
・・・まだ・・・か・・・な・・・
・・・ふぁ・・・・・・( ˘ω˘)スヤァ
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・( ゚д゚)ハッ!
あっぶない!
久々のベッドがフカフカすぎて快眠するところだった。
朝までグッスリするのは、アガットさんの胸筋を堪能してからだと決めているのに。
「へぁ、ここどこ?」
私はベッドで寝ていたはず、それなのに今は固い床の上だ。
アガットさんはいない。ここは宿屋の一室ではない。
真っ暗だ…上下左右、全てが真っ暗な空間で私は目覚めた。
あ、なんかコレ覚えてる。
ここには前にも来たことがある。
「や、イリス」
「は?」
背後から声がしたので振り向く。
そこにはいつの間にか、丸テーブルと二脚の椅子が用意されていた。
椅子の片方には見慣れた顔の少女が座っている。
「久しいね」
穏やかな笑みを浮かべる少女は、鏡でよく見る私の顔をしていた。
「もうひとりの私!」
私に宿る【虹の雫】がそこにいた。
●
私と瓜二つの形を持つ存在、以前はレインボーちゃんと呼んでいたっけ。
前に会ったときは、私の髪と目がまだ茶色だったけど、今回は私も虹のカラーリングだ。
それでも見分けはつく、彼女と私は服装が違うからだ。
私は寝間着用のルームウェアを着ているが、相手は白くて薄いローブのようなものを纏っているだけ。
なにそれ?スケスケじゃない?貧相な胸が見えてますけど?
自分で言ってて悲しくなるから隠せ!ええい!乳首を出すな!
「どうして?」
「話し合いがしたいって言ったのは、そっちだよ」
確かにミーティングするぞと言った気がする。
けど、本当にその席が設けられるとは・・・
「座ったら?」
「あ、はい」
立ちすくんでいると、着席をすすめられた。
言われるがまま、テーブルを挟んだもう一脚の椅子に座る。
自分と同じ顔の奴が目の前にいて私を見ている。
なんだが変な気分だ。
「何から話そっか?」
「全部、最初から話してください」
「え?ヤダwww(*´▽`*)」
「いい度胸だな!コノヤロウ(#^ω^)」ピキピキ
ヤダって・・・人をなめるのも大概にしろや。
そのチラチラ見え隠れしている乳首を引きちぎってやろうか?
「あの
「はん!どうだか」
本当は私がドン引きするような内容だから隠しているだけの癖に!
それよりお前今、レグナートをトカゲって言ったか?
私の友達に失礼だろうが!
「友達は選んだ方がいいよ?なんでトカゲを選んじゃうかな」
「トカゲじゃないです。レグナートは立派なドラゴンです!」
「立派ねぇ…あれぐらいの生体兵器、大崩壊前にはゴロゴロいたけど?」
そんなの知らんわ!
例え、似たような力を持つ竜が沢山いても、私の友達になってくれたのはレグナートだ。
レグナート個人を私は尊重したい。だって大事な友達だから!
「はいはい、好きにすれば?文句は言うけど反対はしないわよw」
「あなた……随分といい性格になりましたね?」
前に会った時はもっと儚げで『ぬぼーっ』とした感じだったのに。
今のこいつは何だがふてぶてしい、というかムカつく。
「イリスの成長は私の成長、人格もそれに合わせて更新していった結果よ」
「私はこんなに厚かましくないですけどね!」
「そうかしら?私に言わせれば、あなたもかなりのクソガキだけどww」
あははははははは、いや~こいつ本当にムカつくわぁ(゚Д゚)ノ
人の体に寄生して引きこもってるニートの癖してよぉ!
今すぐ『出ていけぇ!』と退去勧告してやろうか?
「そんなことしたら、イリス、死ぬよ?」
「なに…」
「私とあなた、二人のイリスは一心同体、私がこの肉体を離れた瞬間、イリスの物語は終わっちゃうよ」
「ぐぬぬぬぬ…」
薄々だがそんな気はしていた。
元々、瀕死の私を救ったのはこいつの力だ。
そして今や、虹パワーは私の命を動かす動力源になってしまっている。
それが無くなれば、私は死ぬ。
当然の帰結である。
「仲良くしようよ?どうせ離れられないんだからさぁww」
「くそぉ、せめてあなたがイケメンなら、多少性格が悪くても許せるのに…」
なんで同じ顔なんだよ!
ちょっと意地悪だけど、根は優しくて素敵な王子様キャラがよかったなあ!
「はい、時間もないから質問受付タイムいっくよ~!」
「ノリについていけません」
「今答えられる範囲で回答してあげる。何が聞きたい?何が知りたい?」
一応、質疑応答はしてくれるようだ。
聞きたことも言いたいことも山ほどあるが、やっぱり、まず最初に・・・
「あなたは何者ですか?」
「イリスよ」
そうじゃなくて!
「【虹の雫】に
あのレグナートが、死を覚悟するほどの相手だ。
そうとうヤバい何かだったのは確かだろう。
「ずっと前から私はイリスよ」
「真面目に答える気はないんですね」
「そう思う?ねえイリス、あなたはどうしてイリスになったの?」
どうしてって、あれはドクターが遺跡にあった古代文字を解読し・・・
おい・・・まさか・・・そんなことって・・・
「気付いた?気付いたよね?元々イリスだったのは誰か理解したね♪」
「あなたが、私の名前の元ネタ・・・最初のイリス…」
「最初かどうかは知らないけど、あなたが生まれる何千年も前から私はイリスと呼ばれていたわ」
あの古代文字の一節は【虹の雫】があった場所に刻まれていた。
イリスとは【虹の雫】に宿る意識の名前だったのだ。
それを私が、気に入って勝手に自分の名前として名乗り出した。
うえぇぇぇぇ~~~( ゚Д゚)!!!!
何コレ何コレなにこれぇーーー!!!!
恥ずかしい恥ずかしいはずかしいぃよぉォォォーーー!!!!
得意げにモノマネをしていたら、ご本人が背後に立っていたような、
最大級の羞恥!!
オリジナルだと思っていたら、自分こそがクローンだったみたいな、
驚愕の真実!!
『私はイリスです』だってよwwww
違うwwお前は二番目やwww
愚かなレプリカイリスですが、何か?
「ねえ二代目?」
「……なんですか初代」
「ややこしいから、あなたがイリスでいいよ。襲名おめでとう!」
「ありがとう……ござい、ます」
素直に喜べねぇーーー!!
でも今更改名するのも嫌だし、初代もこう言ってるし・・・
うん。いろいろ複雑だけど、これからも私はイリスでお願いします!
「初代じゃなくて、私のことは【相棒】と呼んでほしいな」
「別に構いませんが…」
それだと私の方が闇人格みたいじゃね?
最期は『我が名はアテム!』とか言って成仏しちゃう。
「その時は、私がデュエルでインド王を渡してあげる」
それを言うなら引導じゃい!
今の発言でわかった、相棒にも異世界の謎知識があるらしい。
体を共有しているから当然か。
「たぶん、私と融合した時の副作用だよ。異界とチャンネルが繋がっちゃったんだろうね」
「軽いですね。これは直せるのですか?」
「わかんない。そのままでいいじゃん。害はなくて面白いしw」
直せないし、直す気もないと・・・
まあ、いいですけどね。
「時々、急に出て来るメッセージは?アレの方が鬱陶しいです」
「あーアレね。ウザいよねー。ごめんね、アレは私じゃなくて反応炉のシステムが自動で流しているの、だから消すのは無理」
例のメッセージは相棒の声ではなく、反応炉のシステムとやらが状況に合わせて警告や報告を出しているらしい。
無視してもいいが、重要なことも偶に言うので一応、気にかけた方が良さそうとのことだ。
舌打ちをしていたのは、絶対相棒だったと思うんだけどなぁ。
●
私は初代イリス、大昔にいろいろあって【虹の雫】と呼ばれるモノになったの。
長い間、眠っていたんだけど、人間に見つかって回収され、何かの実験に使われたのは覚えている。
何度かそういうことがあって、すごく退屈していたとき、私の力に適応できるレアな人間が現れた。
それが二代目、あなたよ。
遊び感覚で実験に付き合ってあげていたら、ある日・・・
なんと二代目がボロ雑巾みたいになっているじゃない!
こりゃあ大変だってことで、助けようとしたんだけど、人命救助のやり方なんて知らない。
とりあえず、心臓動かそうと思って体内に入った時にね、思ったの。
ここ、私の寝床になるんじゃね?
二代目も助かるし、私は安眠できるし一石二鳥だ!
そうと決まれば即実行!そぉーれぃ!融合合体!!
成功確率3%、失敗したら二代目の体が跡形もなく消滅するけど・・・
まあ、大丈夫でしょう!私たち相性がいいし、たぶん平気へーきww
そして私たちはひとつになったの。
後のことは、二代目が知っての通りよ。
「以上!説明終わり」
あっけらかんと答える相棒に開いた口が塞がらない。
3%って・・・
私もう一生分の運を使い果たしていたんだなぁ
「肝心な部分を説明されていません。相棒の正体は?」
「言いたくない…」
「おい」
「だって可愛くないんだもん!私は今のこの体が好き!あんな無駄にでかくて危険な奴は、私じゃない!」
「ちょ、落ち着いてください」
「前の私は【七の至宝】から忌み嫌われた。私は、ただ、みんなを守りたかっただけなのに…」
「わかりました!正体についてはもう聞きません!泣かないで、泣かれると困ります!」オロオロ
これ以上の追及は相棒の地雷を踏み抜くことになりそうだ。
いつか話してくれることを願って、私はこの話を中断した。
でかくて危険で可愛くないか・・・逆に見たいな。
・・・・・・・・・・
「さあ、次の質問いってみよう!」
ケロッとしてやがる。
先程、泣きそうになっていた奴とは思えない。
こいつ、話をはぐらかすために嘘泣きしたのか?
くそ、いつか絶対に正体を暴いてやる。
「虹霊子ってなんですか?」
「いい質問だね!虹霊子とは私たち力そのもの、虹色に輝く超パワーだよ」
それはわかっている。
あの虹色の輝きが私の命を救い、身体能力と武器の強化までやっていることを、
私のようなチビガキが遊撃士として活動できるのも、全て虹霊子のおかげだ。
「大昔の人々は既存の七属性【地】【水】【火】【風】【時】【幻】【空】以外の力を求めたの」
「それが【虹】だったんだけど…結局、使いこなせる人はおらず、実用化もされなかった」
「【虹】の力を世界は認めない。でも、一部の人間はこっそりと研究を続けていた」
「そうして誕生したのが虹霊子!理論上は、どんな導力兵器にも勝る力を持つはずなの」
古代人すげぇな。
七属性だけでは飽き足らず『新しい属性追加しようぜ!』とか発想がヤバすぎる。
七つでバランスとってたのに、もう一個増やしたら、そりゃあ周りがうるさくなるだろうな。
そんな力が私に宿っているとは、そのせいで髪と目が虹色に染まったぞ。
「虹霊子の力は私でも未知数なところがあるの、どう使うかはイリス次第ね」
「そんな丸投げしたみたいに……」
「難しく考えないで、この力はあなたと、あなたの大切な人を幸せにするためにあるんだって思えばいい」
「幸せに…ですか…」
どんな力も使う人の意思により、善にも悪にもなる。
私はこの強大な力を・・・とりあえず、自分が生きるために使おう!
しかし、相棒ですら不確かな部分があるは・・・虹霊子とは一体・・・
「異世界風に言うなら、光子力やゲッター線かしら?」
「マジでぇ!?超ヤベェじゃないですかぁ!!!!」
ヤバいと言いつつ、ちょっと興奮した。
そのうち私はカイザーだのエンペラーだのに進化するかもしれない。
ワクワクすっぞ!!
「反応炉がどうとか言っていたのは?」
「虹霊子を生み出す『超エネルギー結晶体Ω』…人間たちが【虹の雫】と名付けたモノよ」
「……ん?もう一回言ってください。」
聞き捨てならぬ言葉であった。
「【虹霊子反応炉】とは【虹の雫】のこと、初代イリスはそこに宿っていた■■■■■■■■の人格データ。あの結晶体は内部に膨大な虚数空間を内包していて、そこに言葉では説明できないオーバーテクノロジーと女神の神秘が詰め込まれている。それもイリスと融合しちゃったから」
待って!本当に待って!
私、ついていけてないよ!完全において行かれてるよぉ!
「今はイリスが自身が【虹霊子反応炉】と言っていいわね☆」
つまり、こういこと?
【虹霊子反応炉】=【虹の雫】=【イリス】←今ここ
ふ、ふ、ふ、ふふふふ・・・ふ・・・
ふざけんなぁぁぁーーーー!!!!
正気を保つため、私は心の中で大絶叫した。
「マジかぁ、本当に人間やめていましたか……orz」
こんな有様では、
イケメンたちと恋愛したりエロい事するのは夢のまた夢か!
終わった、イリスのハートフルラブコメ人生、ここに潰える・・・
「生殖機能は残してあるから、エッチしたり出産も可能だよ?」
「なら何も問題ありませんね!!」クワッ
「急に元気になったよ。ませてやがんなぁ、このメスガキww」
女として終わってなかったなら、それでよい!
虹色でヤバい力を秘めた私を愛してくれるイケメン募集中!!
私、結構尽くす女ですよ?
メッチャお買い得です!!
今のうちに買っておくべきです!!
衝撃の事実が判明したが、イケメンとエロい事ができる希望の前にはどうでもよくなった。
「反応炉…私の中から取り出せないのですか?」
「だから、それやったら死ぬってば!そもそも結晶体は既にイリスの全身に融合して混ざりあっているから、取り出すとか不可能だよ」
「そんな事だろうと思いましたよ」
埋め込まれたんじゃなく、マジで私に混ざったんだな。
うう、自分のことなのに想像したら怖くなって来た。
未知の力とその他諸々を詰め込んだ『超ヤバいモノ』と人間が融合だって?
マジで意味がわからん?
ドクター、主任、これがあなたたちの望んだ結果ですか?
私は・・・
私はこれから・・・
一体どうすれば・・・・
「こういう時、アガットさんの尻が揉みたくなりますね!」
「シリアスが続かない子だなぁww」
悩んでも仕方ないでしょ!
まともな人間じゃなくても、私は私だ。
私という、人の形をした生命として、その天寿を全うするまで生きてやる!
イケメンと大恋愛もしてやる!
「というわけで、これからも私は愛のままにワガママに生きていくつもりですが?」
「うんうん。それでいいと思うよ」
「相棒、あなたの目的はいいのですか?レグナート曰く、自分を裏切った奴らに復讐する気なのでは?」
「今更そんなこと望んでないよ。あのトカゲが『断罪者』って言う度に『バカじゃねぇのw』と思ってたから」
なるほど、完全にレグナートの杞憂だった訳だ。
「何か現世でやりたい事はないのですか?偶になら体の主導権を渡しても…」
「イリスのやりたい事が、私のやりたい事だよ。私たちは同一人物、一心同体なんだからさ」
本当にそれでいいのですか?
前に何か言ってませんでしたか?
【鋼】【巨イナル一】そして【黒】に気をつけろと・・・
「あー、うん。それは一旦忘れちゃっていいよ。今の私は自分の、イリスの幸せが第一だから、世界がどうなろうっと知ったこっちゃないんだよねー」
「『大いなる力には、大いなる責任が伴う』って言葉知ってます?」
「スパイダー!いいよね~。あの糸は昔の私でも真似できないわ」
虹霊子という力を持ちながら、自分の幸せのためだけにそれを使っていいのだろうか?
いい気がして来た!
だって、私も相棒と一緒で『世界』がどうとか言われても『はあ、そうっスか』としか答えられないもん。
「イリスが気乗りしないことは、しなくていいんだよ。私たちは自由だ!」
「おお!私たちフリーダムですね!」
自由!自由!自由!自由!ヾ(*´∀`*)ノヾ(*´∀`*)ノ
相棒と二人で自由を叫びながら拳を突き上げた。ちょっと楽しかった。
「一応、これだけ忠告しておくね」
相棒がちょっと真面目な顔になった。
「【鋼】…【七体の騎神】が関わって来るかもしれない、もしそうなったら全力で超逃げて!」
ほう、敵前逃亡推奨ですか。
その【騎神】ってのは相当ヤバいらしいな。
「でも、隙あらば破壊して!もう完膚なきまでにぶっ壊せ!特に黒い奴は徹底的に!!」
どっちだよ!?
逃げればいいの?戦えばいいの?
「今のイリスじゃ手も足もでない。大きさが違い過ぎるから、踏みつぶされてお終いだね」
「逃げる一択じゃないですか、ヤダー!」
「成長してもっと虹霊子が馴染めば、あんな玩具ども敵じゃないのに、イリス!頑張って強くなろうね!」
何だかんだで【騎神】ってのと戦わせようとしてない?
はぁ・・・生き残るにはまだまだ修行が必要らしい。
私の望みは相棒の望み、このまま自由に旅を続けていいそうだ。
有事に備えるため強くなるのは当然のこと、【騎神】ってのには気を付ける。
虹霊子の使い方、もっと上手くならないとなあ。
「相棒は表に出て来る気はないと?」
「ないね。私はここからイリスを応援するよ」
「退屈ではありませんか?」
「全然。だって、イリスの見たこと感じたこと、全部私は共有しているもの。あなたを器にして良かったなぁ、前の私じゃこんな楽しい気持ちにならなかったよ」
相棒が満足しているなら、それでいいか。
もし、私という心が死んでしまうような事態があれば、その時は・・・
この相棒に後を託そうと思った。
●
相棒の正体はまだ秘密。
虹霊子とは私の想像以上にヤバい力である。
【虹霊子反応炉】は【虹の雫】の別名で、今は私が反応炉そのものだ。
相棒は表に出て来る気はない。
私は今後も自由に旅を続けていい。
世界より自分優先で行動すること。
でも、なんかヤバいのがいるから気をつけろ。
大体、こんなところか。
「お喋り楽しいね。イリスもそう思わない?」
「まあ悪くはないです。相手が同じ面というのは気になりますが」
「で、イリスはこれから何処を目指して旅するのかな?」
「それなんですが、クロスベルに行ってみようと思います」
レグナートからの情報によると、クロスベルには【幻の聖獣】がいるはずだ。
その聖獣がレグナートのように私を怖がっていたら、断罪も復讐もする気はないと話して安心させてやりたい。
もしかしたら、また友達が増えるかもしれない。
それに、クロスベルはとても魅力的な都市だ。
観光ガイドを読んだけど、あれほど面白味のある街もそうそうないだろう。
聖獣に会えなくても行ってみる価値がある。
「ふーん【幻の聖獣】ねえ……大丈夫なの?」
「何がですか?クロスベルへの生き方は予習してあります。それにどんな竜が出ても驚いたり…」
「【幻の聖獣】クソでかい犬っころだけど、平気なの?」
犬?また犬か?
しかも、クソでかい犬だとぉ!?
いや、竜も友達にした私だよ?
いまさらでかい犬ごときにビビるわけないって、はっはっはっははww
「や、やっぱりまだ、リベールをじっくり観光したいですね…」
「まだ犬怖いんだぁ。プークスクスwww」
「怖くないです!まだリベール全部回ってないから、クロスベルは後回しってだけ!」
誰が犬なんか!犬なんか怖かねえ!
……ぃぃ野ぁ郎、ぶっ殺してやぁるぅぅぅ!!
アカン、これ負けフラグや!
ベネットになったらもう絶対ダメだ。
クロスベル行きは、もうちょっと強くなってからにしよう。
●
「おっと、時間切れかな?」
相棒の体が薄っすらして来た、同じく私の体も粒子となって消えようとしている。
この空間からの退去が始まったのだ。
現実世界の私が目覚めようとしている。
「また話せますか?」
「気が向いたらね」
むう、別れ際でちょっとセンチになっていたのに。
相棒はこの時間が終わっても寂しくないようだ。
「何度も言うけど、私たちは一心同体、私はあなた、あなたは私、同じものを見て、同じ気持ちを抱き、同じものを好きになる」
「心配しなくても、イリスの経験や活躍は私にしっかりと伝わってるからね」
「じゃ、またね。アガットさんによろしく~…私は、ちょっと寝るわ……( ˘ω˘)スヤァ」
欠伸をしながら相棒は消えて行った。
きっと私の体と心に溶けていったのだろう。
あれが先代のイリス、私に力を与えた張本人にして、今は同一人物・・・
「なんか、お気楽な奴でしたね…」
安心したような、ガッカリしたような気分で私は現実世界に戻った。