アガットさんに背負われての旅路は快適だった。
道中で魔獣に襲われても、アガットさんを信頼して全部お任せ。
私を背負ったまま戦っても全然余裕なのだから本当に頼もしい。
一回上空に投げられたけど、周囲を取り囲む魔獣を薙ぎ払った後にしっかりキャッチしてくれた。
うはっ!たのしぃー!今のもう一回やって!
そんなこんなで私たちは目的地、工房都市ツァイスへとたどり着いたのである。
「着いたぞ」
「着きましたね」
工房都市と呼ばれる通り、ツァイスは町中がテクノロジーで溢れていた。
エスカレーター、エレベーター、レーンチェンジ方式の飛行船発着場などあらゆるものが導力化されているほか、街の地下にはオーブメント工場が広がっているらしい。
さすが、大陸トップレベルの技術力を誇る町だと感心する。
最先端技術の研究開発を担う《ツァイス中央工房》まで歩いたところで、私たちの歩みは止まる。
ここでアガットさんとはお別れになるのだ。
そう思うとまた切なさがこみ上げて来る。
立ち止まったままでいると、息を弾ませながらこちらへ駆けて来る少女の姿を発見した。
あら~可愛い子じゃないの。
「アガットさーん」
なぁにぃぃぃ!?
あの子の目的はアガットさんだとぉ!!
コレは一体、どういうことか説明してもらいましょうかねえ?
「はぁ…はぁ…アガットさん。えへへ」
「バカ、走らなくてもいいってのに」
なんだこの空気は?(T_T)
突然現れた美少女とアガットさんが、なんというか、とてもいい雰囲気なのだ。
お二人さん、ここに珍妙な色をしたイリスちゃんがいるよ?
ねえ?見えてる?虹色だよ?
私のことをここまでスルーした人は、あなたたちが初めてだよ。
「アガットさん、今日は何か用事?もしかして、私に会いに来てくれたとか、だったり///」
「お前の顔を見たかったってのもあるが、まあ本題は別だ」
イチャついてるカップルの前に引きずり出される。
なによ!忘れていた癖に。
私のことなんか放っておけばいいじゃないの!プンプン!
「こいつをここまで送って来たんだよ」
「……え?…わっ!え、な、何………きれ…ぃ…」
美少女は今になってやっと私の姿を認識したようだ。
はい!いつもの初見リアクション頂きましたぁ!
変な色でごめんなさいね!
でも初対面できらいってのは酷くね?
「あ、ごめんなさい!はじめまして私、ティータ・ラッセルって言います」
お名前はティータさんですね。覚えましたよ。
ふむふむ、長い金髪を持つ大変愛らしい少女だ。
工房都市流のファッションなのか、頭にゴーグル、腰には工具類を差したツールベルトを装着している。
随分と若いが、彼女も技術者なのだろうか?
「私はイリスです。よろしくお願いします」
「は、はい。イリスさ…えっと…イリスちゃんで、いいかな?」
「構いませんよ。お好きに呼んでください」
「うん。よろしくね、イリスちゃん」
良かった、いきなり嫌われた訳ではないらしい。
ティータさんとも友達になれるといいな。
アガットさんが私たちを見る目は、完全に保護者のそれだ。
パパなの?
公園デビューに成功した我が子を愛おしく思うパパの心境なの?
いや待て、アガットさんは生粋のロリコンなんだぞ。
彼は娘ではなく、妻を見る目をしているのだ。
はっはーん!全て丸っと理解したぜ。
「ティータさん。あなたがアガットさんの正妻ですね!」
「何言ってんだお前!?」
「正妻だなんて///そんな、本当のことを言ったら恥ずかしいよぉ////」
「本当のことって何だ!?」
ティータさんが頬を赤らめモジモジしている。
焦っているのはアガットさんだけだ。
ここまで来てジタバタするのは男らしくないぞ。
よし、私も自分の立場を明かそうじゃないか。
「私はアガットさんの現地妻です」
「へ?」
「おいぃぃぃぃ!」
アガットさんうるさいです。
今から女の戦い、修羅場ってヤツが巻き起こるぞ。
「正妻のティータさんからすれば、憎き愛人、いわゆるドロボウ猫って奴ですよ?」
「耳を塞げ!余計なことは聞くな!こいつの戯言に付き合ったらダメだぁ!」
「現地妻……愛人…どろぼう…‥ねこ」
よっし!
ティータさんの目がイイ感じにハイライトオフされたぞ。
「アガットさん?今の、本当なんですか?」
「全部嘘に決まってるだろ!そもそもだな、俺は誰も妻にした覚えはねぇ」
「とか言ってますけど、私にロリコンダイブ決めた人ですw」
「お前もうマジで黙れ!!」
ああ!浮気がバレそうになったからって、暴力はダメぇ。
うきゃー!アイアンクローで顔面が割れちゃいそう。
「アガットさん……アガットさん……アガットさんの……」
「お、落ち着けティータ。本当にこのバカとは何でもないんだ」
「アレ、なんかマズい雰囲気ですか?」
おやおや、ティータさんがどこからか導力砲を取り出しましたよ。
わぁ、砲口が大きい。あれは広範囲を一度に攻撃できる武器だ。
どうしてこっちに向けるんですかねぇ?
アガットさんと一緒に私も同時に始末ですかぁ?
ヤバ、逃げ、殺され・・・
「アガットさんのバカァァァーー!!」
「「うぎゃぁぁぁぁーーーー!!!!」」
本日の教訓、正妻を怒らせたらアカン。
●
アイアンクローされたまま、私は虹パワーを展開。
キラキラ粒子で自分とアガットさんを包み込み、咄嗟に防御することに成功した。
攻撃だけでなく防御にも使える虹霊子がマジ便利!
そのおかげで私は無傷、アガットさんはちょっとアフロヘアになりかけた。
「なんだぁ。冗談だったの。もう、イリスちゃんったらひどいなぁ」
「いきなり導力砲ぶっぱなすティータさんの方が、いろいろ酷いです」
「ホントそれな」
「二人とも、仲いいね。やっぱり浮気…」
「「違います!!」」
笑顔のティータさんが怖い。
私とアガットさんは最早彼女に頭が上がらない。
不用意な発言をすれば、今度は私がアフロになってしまう。
顔も色も変なのに、髪型まで奇抜になったら、完全におかしい奴だ。
今でも十分おかしいとか思った人は後で屋上に来なさい。
喫茶店でお茶をしながらトークタイム中。
アガットさん、両手に華ですね!
店内の皆さんから『ロリコン』『もげろ』という怨念を感じる。
「おお!あの高名な、ラッセル博士のお孫さんでしたか」
「あはは、おじいちゃんは有名だけど。私は全然まだまだで」
「焦ってもしょうがねぇだろ?まだガキなんだからよw」
「むぅ!そうやっていつも子供扱いして、アガットさんの悪い癖ですよ」
「ですよね!アガットさん、私のことをガキだのゴブリンだのと…」
「ゴブリン?」
三高弟のひとりアルバート・ラッセル。
その孫娘がこんなに可愛い人だとは予想外だ。
話しているだけで頭の回転が速いことが伝わって来る。
謙遜しているが、この人もレン姉さまと同じ天才の片鱗を感じるぞ。
「エステルお姉ちゃんの家で暮らしていたの?いいなぁ、楽しそうで」
「実際楽しかったですよ。みんな本当の家族みたいに接してくれて、この上ない幸せでした…」
「こいつ、カシウスのおっさんとヨシュアの尻を揉んだらしいぞw」
「えぇ!?」
「アガットさんの尻も揉みましたよww」
「えええぇぇ!?…わ、私も揉みたい、かも////」
「いいですよ。今の内に揉んでおきなさい」
「なぜお前が許可を出す?」
いいじゃないですか、減るもんじゃないし。
最悪減っても、ティータさんが責任取ってくれますよ、たぶん。
喫茶店で楽しく会話した後、アガットさんを見送ることになった。
もっとゆっくりしていけばいいのに・・・
遊撃士協会の本部に招集されたのなら、仕方ないよね。
応援してます。お仕事頑張ってください。
「アガットさん、せっかく会えたのにもう行っちゃうんだ」
「わりぃな。しばらくリベールを留守にするが、また戻って来るからよ」
「はい。待ってます、気を付けてくださいね。無茶したらダメですよ…」
正妻との時間を邪魔しない、空気の読めるイリスです。
ティータさんの頭をポンポンした後、アガットさんは私に向き直った。
「アガットさん!」
「おう」
「……長い間!!! くそお世話になりました!!!」
「とりあえず土下座やめろ」
ちょっと感極まって土下座をしてしまった。
さすがにやりすぎたか。反省反省。
「そういうわけで、俺はここまでだ」
「はい。お勤めご苦労様でした」
「お前なら何処へ行っても心配ねえだろうが、油断はするなよ」
「了解です。教わったことを活かして頑張ってみます」
「お前との日々、案外悪くなかったぜ」
「私もです」
アガットさんに飛びついて、その頬にキスをする。
ティータさんが『あー!ズルい!』とか叫んでいたけど、こういうのは早い者勝ちだ。
「私にチューされた男は健康長寿が約束されます」
「ははっ、幸運のお守りってか」
「アガットさんが、幸せになりますようにって、ずっと願ってます」
「俺より自分が幸せになることを考えろ。いいな?」
「はい。幸せになってみせます」
私に幸せをくれた人には、幸せになってほしいのだ。
みんなで幸せになりましょうね~。
「じゃあな、イリス」
私の頭をポンポン、ついでにクシャッとひと撫でして、去って行くアガットさん。
ティータさんと一緒にその背を見送る。
ありがとうアガットさん、どうかお元気で・・・
う…ちょっと泣きそうだ。
我慢我慢、エステルたちの時だって我慢できたから、今度だって大丈夫。
ウルッと来た私の手をティータさんが握ってくれた。
「大丈夫。アガットさんは約束をやぶったりしない。きっと元気に戻って来るよ」
「フフ、ティータさんの所にですね」
「う、うん。そうだったら嬉しい、かな////」
やだぁ、私まで恥ずかしい(n*´ω`*n)
初々しい反応を見せるティータさんに、こっちまで照れるぜ。
アガットさんの幸せロリコン!!
●
アガットさんを見送ったことだし、ツァイスまで来た目的を果たそう。
ちょうど関係者もいることだし、何とかなるさ。
「ティータさん。ラッセル博士にお会いしたいのですが、可能でしょうか?」
「おじいちゃんに?うーん、最近特に忙しそうだからなぁ、急な来客には対応できないかも」
「そうですか…」
やっぱりそうだよね。
相手はあの三高弟だぞ。
突然やって来たガキが、アポイントメントもなく会えるような人物ではなかった。
でも、せっかくここまで来たんだ。
何か旅に役立つ道具のひとつでも揃えて置きたい。
「工房の見学はできますか?」
「うん!それなら大丈夫。あ、良かったら私が案内してあげるよ」
「いいのですか?ティータさんも技術者なら、お忙しいのでは?」
「別にいいよ。ちょうど今、なんというかスランプ気味で、気分転換したかったの」
「では、お言葉に甘えます」
「わかった。行こう」
ティータさんに手を引かれ、ツァイス中央工房…通称ZCFを見学することになった。
都市の象徴でもある巨大研究施設・・・
なんだか庭園を思い出すが、あそこに比べたらここは随分とマシだ。
みんな忙しそうにしているが、死の臭いが常に漂ってはいない。
それだけで、ここはまともな『表』の施設なのだと思った。
大勢の人がいろんな研究をしている。
徹夜でもしたのか、目の下にクマを作った研究者とすれ違った。
ちょっとだけドクターを思い出してしまう。
きっと今の人も部屋が汚いんだろうな。
「飛行船に戦車、そしてアレは機甲兵のパーツですか?」
「うん。機甲兵への対策と、類似兵器の開発…今はどこの工房もこんな感じだよ」
リベール王国軍の主力は飛行船だったはず、機甲兵相手にどう戦うのかな?
制空権を維持して空から爆撃すれば容易だろうが、それは今だけの話だ。
もし、機甲兵が自在に空を飛び出したら、現航空兵器の有利性は一気に失われる。
それをどの国も理解しているのだ。
例の【騎神】や結社の機動兵器なんかは既に飛行能力を持っているとも聞く。
各国の技術者たちは今、機甲兵という脅威に対し、必死に立ち向かっているのだ。
「……あれは?」
大型兵器用の格納庫に見慣れない機械を見つけた。
3アージュ程度の人型フレームだ。
重量物運搬用の作業機械だろうか?
「【オーバルギア】だよ。一応、私が造ったんだけど…」
「うぇ!?すごいです!ひとりであんなの造れるんですか?」
「完全にひとりって訳じゃないけど、設計段階から携わってるから」
ほぇー。まだ若いのに大したもんだ。
大きな機甲兵にばかり注目しがちだけど、こいつだって普通に凄いと思う。
コスト面や整備性、取り回しの良さは、断然こっちの方が上だろ。
武器を取り付ければ、戦闘だって十分こなせるんじゃないか?
私と一緒でハードポイント多そうだしwww
「そんなに褒められると照れちゃうな」
「この子も『プッピガン!』できますか?」
「プ?え、何のこと?」
伝わらなかったか・・・
今ので伝わったら逆に怖いわ!
ティータさん、世の中にはね、不可思議な事が盛沢山なのですよ。
「ティータさんは他にも何か造っているんですか?」
「武器とかも造ってる……私のは失敗作ばりだけど」
「是非、拝見したいです!」
「う、そこまで言うなら…でも、期待しないでね」
ティータさんの開発室に案内された。
専用の開発室があるとか、さすがラッセル博士の孫。
「わぁ……ぁ…」
「散らかっててごめんね。何回掃除してもすぐにこうなっちゃって」
「秘密基地ですね」
「あはは、言われてみればそうかも」
ティータさんの開発室はまさに技術者の部屋といった感じがした。
ところ狭しと並ぶ機械と導力装置、むき出しの配管とケーブル。
先程見たオーバルギアの同型機が数体、それぞれ違う装備を付けた状態で並んでいる。
壁には何かの設計図や図面が多数張り出されており、よくわからない計算式も描かれている。
おお!最新式の導力端末だ。こっちにあるのは、もしや帝国で開発された導力バイク?
一部が解体してあるけど、改造でもするのだろうか?
少し部屋を見渡すだけでもワクワクしてくる。
これはまさに秘密基地だ。
ドクターの汚部屋とは違い、ある程度整理整頓されているのもポイント高い。
「この部屋、全然可愛くないでしょ。幻滅したかな?」
「そんなことないです。私、こういうのメッチャ好きですよ」
「レンちゃんには酷評されたんだけどねw」
レン姉さま、クールビューティなのに少女趣味だからなぁ。
キュートなフリフリ成分の少ないこの部屋は、お気に召さなかったのだろう。
ティータさんが壁のボタンを操作し、シャッターを開けた先には更なる部屋が広がっていた。
あれま!この開発室、二つの部屋が地続きになっていたのね。
「武器庫?」
「造った物を詰め込んでいったら、こんな感じになっちゃって」
次の部屋は武器だらけだった。
作業台や陳列棚のみならず、床や壁にも重火器類を始めとするいろんな武器が置かれている。
死の商人でも始める気か?
町の武器屋よりもこっちの方が品揃えで勝っている。
導力光線銃、大口径ガトリング砲、携帯型ミサイルポッド、遠距離狙撃ライフル、超震動剣・・・
「お恥ずかしいけど、これ全部失敗作なんだよね」
失敗作、これが?
私にはとてもそうは見えない。
ここにある武器にはどれも、ティータさんの情熱が宿っている。
使ってみたいな。
このガトリングガン…撃ったらダメだろうか?
「持ってみていいですか?」
「ごめんね。それは、すっごく重たいからイリスちゃんには無理…」
私は作業台に寝かされたガトリングのグリップをそっと握る。
確かに、これは重たいな!けれど、持てない程ではない。
それより、銃の本体が大きすぎるのと、私の手が小さいので苦労する。
両手でしっかりホールドすればなんとか、うん、多少不格好だけどちゃんと持てた。
ティータさんがポカンとしている・・・きっと銃が私に似合ってないんだな。
「……イリスちゃん……ち、力持ち、なんだね…」
「そうですか?普通ですよ」
「普通?アガットさんでも持ち上げるのがやっとだったのに…」
重火器に触れるのは本当に久しぶりだ。
庭園では重火器類の扱いも習ったけど、私はチビだったので小型の拳銃ぐらいしか使いこなせなかったんだよなあ。
でも、今なら大丈夫だ。
力はあの頃とは比べ物にならないし、何より今の私には便利な能力があるからね。
プッピガン!
はい、腕に固定して楽々持ち運びっと。
「えぇ!!ちょ、今の音は?」
「お腹が鳴っただけです」
「お、お腹!?お腹からあんな音がして大丈夫なの?いや、絶対におかしいよ!」
「じゃあ、おならってことでいいですよ。突然の放屁!大変失礼しましたぁ!」
「じゃあって何!?おならだったとしても異常すぎるってば」
うるさいですね。
細かいことに拘っていたらハゲますよ?
「それより、試し撃ちがしたいんですけど?」
「え?……できないこともないけど」
銃の試験場へと案内された。
広い工房内には何でもあるんだなぁ。
試験場には何名かの野次馬も集っている。
ラッセル博士の孫であるティータさんが何かをやるという事で、興味を持ったのだろう。
いつの間にか、救護班らしき人も待機していた。
そんなに危ないの?
強化ガラス越しに見守るティータさんと野次馬たち。
試験場の制止標的に向けてガトリングを構える私。
この構図、ドクターと虹の雫の実験をしていた時にそっくりだ。
防護服の着用を勧められたけど遠慮した。
万が一暴発しても、虹霊子の防御があるので死にはしないだろう。
「本当にやるの?」
「やります!」
「反動にはくれぐれも気を付けて、頭部だけは何があっても絶対に守るように、あと、えっとそれから…」
「では、撃ちまーす」
「待って!まだ注意事項が残って…」
目標をセンターに入れてスイッチ!
発射ぁ~!!
引き金を引いた直後、砲身が軽快に回転、轟音と共に毎秒100発以上の弾丸が発射された。
ヒャッホー!(≧▽≦)これ超楽しー!!
弾丸の嵐は標的のド真ん中どころか、その全てをハチの巣にして貫き試験場の強化防壁に焦げた弾痕を残した。
あっという間にフルオートで全弾撃ちつくした。
もう終わったのか、もっと撃ちたかったな。
野次馬たちの歓声が聞こえる。
ティータさんも興奮して何か言っているようだ。
私もガトリングを乱射した爽快感に浸っていた。
「気持ち良かったぁ……」
何コレ超欲しいんですけどぉ!
おいおいおいおい、ティータさん天才じゃね?
こんなものがあるなら、何で使わない?
これ量産したら一般人でも魔獣を簡単に倒せるだろ?
「部品から全て特注だから、量産化は無理だよ。それに、重すぎて使ってくれる人がいないの」
「そうですか…」
それは残念だ。
こんなに凄い威力なのに、誰も使い手がいないとは、このガトリングも可哀そうだ。
後で知ったのだが、このガトリングは本来、オーバルギアに接続して扱う物だったらしい。
それを人が扱えるように改修したものらしい・・・
そりゃあ重すぎて使えんわな。私は例外だけどw
失敗作の烙印を押されたティータさんの武器たち。
私なら普通に運用できるんじゃね?
だとしたら、もっといろいろ試してみたい。
「おかわりがしたいです」
「ふぇ?」
「ティータさんの造った武器、最高です!こういうの、もっとないんですか?」
私の催促にティータさんは目を見開き、そして満面の笑みを浮かべた。
「あるよ!試して欲しいヤツがいっぱいあるよ!待ってて、すぐ持って来るから!」
ティータさんが脱兎のごとく駆け出していく、開発室に次の失敗作を取りに行ったのだ。
何人かの研究者が慌ててその後を追いかける。
ティータさんひとりでは運搬が無理そうなので手伝ってくれるみたい、お願いしますね。
調子に乗った私は、次から次へとティータさんの失敗作を試していくのであった。
わーい!めっちゃ楽しいー(≧▽≦)
楽しすぎてトリガーハッピーになっちゃったよ。
●
あの後、私とティータさんは欲望の赴くままに武器の試験を行った。
重火器だけでなく刀剣や鈍器の類もいろいろ使ってみた。
ティータさんの武器はどれも、異常に重たかったり燃費が悪かったり、莫大なコストがかかったりと、製作者にも使い手にも手厳しい品だ。
その分、威力と頑丈さは桁違いに高い。
これこれ、こういうの造れる人を待っていたんだよ。
ティータさんなら私の要望を叶えてくれるかもしれない。
「ティータさん、ご相談があるんですけど」
「何?導力光波刀は30秒後ごとに冷却しないと、手のひらが火傷するから注意して」
どうりで、さっきから手が熱いと思った。
このビームサーベル、使う人の手を焼きながら刃を形成するのか。
柄頭に導力供給用のケーブルが繋がっているのも、ちょっと使い勝手がよろしくない。
話がそれた、そうではなくて・・・
「私の力に耐えられる武器を造ってくれませんか?」
「イリスちゃんの力?」
見てもらった方が早いだろう。
虹パワーを発動させて室内に虹色の粒子をまき散らしてみる。
「わっ!何このキラキラ……イリスちゃん光ってる!?」
「偉大な相手というのは輝いて見えるものでス」
驚かせてすみませんね。
ちょいとばかし、話を聞いてくださいな。
・・・・イリス説明中・・・・
「ふぇぇ!?イリスちゃん凄すぎだよぉ」
「へへ、それほどでもあります(´▽`)」
頭の回転が早いティータさんはさすがだった。
軽く説明しただけで、私の持つ力の特性と使用用途を理解してくれた。
体中に武装を取りつけ可能なハードポイントには、かなりの関心を示していたな。
私がイケメンにハァハァする時みたいに興奮していたけど、大丈夫だろうか?
「付与すると内部崩壊を招く力、それに耐えられる武器の製作・・・」
「無理にとは言いませんが、どうでしょうか?」
「まずは材質の選定から始めて、力の出力計算も必要、それからイリスちゃんの戦闘スタイルに…」ブツブツ
ティータさん?
考え事をすると周りが見えなくなるタイプか。
おーい、戻ってきてくださいよぉ。
「あ、ごめん。私なんかでよければ、イリスちゃんの武器造らせてもらうよ」
「やった!ありがとうございます」
私専用の武器開発の目途が立ってホッとする。
あーでも、お金はいくらかかるのだろうか?
アガットさんとの旅でそれなりに稼いだとはいえ、新型武器の開発に必要な資金がどれほどか見当がつかない。
とんでもない金額を請求されるのだろうか?
開発に取り掛かる前に、見積もりを出してもらいたいところだ。
「心配しないで、資金はこちらで用意するから」
「しかし、タダというわけには…」
「その代わりなんだけど。イリスちゃんに、お願いしたいことがあるんだ」
「ほう。交換条件というヤツですね」
お金に代わる対価を支払えということか・・・
工房での荷運び程度だったら私にもできるけど。
「イリスちゃんには、私の共同開発者になってほしいんだ」
共同開発者?
武器を造る際の、お手伝いをしろってことだよね。
さっきやったみたいに、ティータさんお手製武器のテストをすればいいの?
僕が作って! 俺が戦う! ビルドファイターズなの?
「そうそう、そんな感じ。ダメかな?」
「それぐらいなら全然OKです。共同開発者になりましょう」
「本当に?わぁー、イリスちゃん、ありがとう!」
「わっぷ」
小躍りしそうなほど喜んだティータさんに抱き着かれる。
そこまで喜ばれると悪い気はしない。
「フェヒュヒュ、ついに手に入れたよ。理想の実験体…イリスちゃんがいればきっと…ムヒュヒュヒュ~」
あの?もしもしティータさん?
笑い方が気持ち悪いですよ?
それに今、実験体って言いましたよね・・・
くそっ、早まったか!
「ティータさん。申し訳ないのですが、この話はなかった事に…」
「えっ!?な、なんでぇ!!」
なんでも何も、身の危険を感じたからだよ。
さっきのティータさん、庭園にいる研究者連中と同じ顔をしていたぞ。
あの変な笑い方も、なんだか主任っぽかったし・・・
こいつはくせぇ!ゲロ以下のマッド臭がするぜい!
「そういうことなので、私はそろそろお暇します。さようなら~」
「待ってぇ!!お願いだから、行かないでぇぇーー!!」
イケメンならまだしも、美少女にしがみつかれても嬉しくないっての。
それに検体扱いされるのはもう御免なのだよ。
「お給料出すから!寝泊りする場所も用意する!イリスちゃんの望む報酬を提供するから」
「アガットさんの正妻の座がほしいです」
「それはダメ!!!!」
「じゃあ、もう用はありません」
「うあぁああああーー!なんでーー!」
往生際の悪いティータさんが離れてくれない。
なるべく暴力は振るいたくないので、早く諦めてほしい。
「しつこい女はアガットさんに嫌われますよ?」
「うう…でも、ここでイリスちゃんを逃したら、私の悲願が」
そろそろ恐ろしく速い手刀の出番ですかね?
力を入れすぎて頸椎を破壊しないように注意せねば。
「私と契約して、実験体になってよ!」
「そのセリフで契約結ぶ奴はいません」
気付いてないの?
共同開発者という単語が消え、本音の実験体が表に出て来ているよ。
「武器造るからぁ…頑張っていっぱい造るからぁ…」
「はいはい。ご勝手にどうぞ」
「お願いします。どうか私にイリス様の武器を造らせてください」
「下手に出てもダメです」
「イリスちゃんに捨てられたら、技術者を引退してアガットさんのお嫁さんになるしか…」
「お幸せに」
「私と契約して、実験体になってよ!」
「ヤバいです。ループが始まりました」
ティータさんのセリフが『実験体になってよ』と無限ループするようになった。
私が頷くまで永遠に繰り返すつもりなのかな?
ああもう!仕方ないなぁ。
「痛かったり死にそうになったら、すぐ辞めますよ?」
「うん!安全第一でやるようにするよ」
「私の力を調べてもいいですが、悪用しないと誓ってください」
「誓う!女神様に誓うよ」
「アガットさんを私にください」
「ダメぇぇ!!」
チッ!引っ掛からなかったか、アガットさんへの愛は本物らしい。
では、改めまして、
「ティータさん。私の武器を造ってくれますか?」
「うん!イリスちゃんが満足する武器を造ってみせるよ」
ガッチリ握手を交わして契約成立。
いい武器が完成することを期待させてもらおう。