虹色イリス   作:青紫

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石像の町

 過保護包囲網から逃れるため国外脱出を決行した。

 勢いでやってしまったが、後悔はしていない。

 

 リベール王国を出発してから随分遠くまで来た。

 初めて乗った飛行船に興奮し、大空の雄大さに感動していると、時間は瞬く間に過ぎていった。

 目的地へ到着した私は飛行船から降りて深呼吸をする。

 ここはもう外国だと思うと感慨深い。

 地面の感触や空気の匂いが、なんだか違う気がする。

 

「本当にここでいいの?」

「はい。快適な空の旅をありがとうございました」

 

 クロスベル自治州まで、あと少しという場所で降ろしてもらった。

 いきなりクロスベル入りする前に、周辺の気候風土や魔獣の力量を直に確認しておきたかったからだ。

 なにせ初めての外国だ、これまでの常識が通用しない可能性がある。

 万全を期すためにも慎重に行動するべきだ。

 

 大人たちの庇護下から抜け出したのは私の意思だ。

 今度こそ、頼れるのは自分自身だけ。

 ちゃんと独り立ちできたってことを、エステルたちに教えてやらないといけない。

 頑張れ私!

 

 このまま陸路を北上すれば、二、三日でクロスベルに到着する予定だ。

 地図で途中に休憩できる町があるのことも確認済みなので、余程の事が無い限り旅の安全は約束されている。

 ・・・フラグとか言わないでね!

 

「まったく、たくましい子だね。でも、気を付けなよ。最近何かと物騒だからさ」

「ご心配どうもです」

 

 ジョゼットさんの忠告痛み入る。

 魔獣だけでなく、悪事を働く人間、突発的な事件や事故にも注意しないといけない。

 油断も慢心もしないよう心がけよう。

 

「運んでほしい物があれば連絡ちょうだい。カプア特急便はいつでも駆けつけるからね♪」

 

 運送会社の連絡先が書かれた名刺をもらった。

 旅先でお土産を買ったら、エステルたちに何か送ったりできるのかな?

 

「ありがとうございました!どうかお達者で~」

 

 ジョゼットさんを含む『カプア特急便』の船員たちに感謝を伝え、飛び立っていく飛行船『山猫号』に大きく手を振って見送った。

 飛行船が見えなくなると、少しだけ心細くなる。

 周囲には誰一人いない。鳥の鳴き声や、木の葉ずれの音だけが聞こえる。

 今ここで卑猥なことを叫んだり、衣服を脱ぎ散らかして解放感に浸っても、誰も見ていない。

 それはそれでつまんないな!!

 

「バカなことを考えていないで、行きますか…」

 

 本当にひとりになった・・・ぼっちだ。

 ぼっち・ざ・いりす!

 ひとりでも元気に旅を続けます。

 

 ●

 

 ぼっちになって早々、すごい物を発見してしまった。

 何かの気配がした方へ向かうと、キラキラ光る奇妙な魔獣が数匹集まっていたのだ。

 なんかぽむっとして・・・まさか、あれが?

 

「シャイニングポム!?初めて見た」

 

 図鑑で見た姿のまんまだ。

 その体は丸く、ほのかに発光している。

 ふわふわでぽむっとした愛らしい外見を持つ魔獣。

 ゼムリア大陸中に生息していながら、臆病な性格故に人前に姿を現すことはほどんどない、レアモンスター。

 体内に大量のセピスを溜め込んでおり、運よく倒せれば財布が潤うことで有名だ。

 

「か、可愛い…私にはできません」

 

 ミラに換金できるセピスは確かに欲しい。

 これからの旅路に資金はいくらあっても困らない。

 だけど魔獣とはいえ、あの可愛らしい生き物を殺害するなど、私にはできない!

 ポムは人間に危害を加えることは滅多にないと聞く。

 初級アーツを放ったり体当たりをしてくるらしいのだが、それも身を守るための行動だろう。

 

 ほら、見てごらんなさい。

 今も彼らはピョンピョン跳ねて、仲間たちと仲良く団欒しているだけじゃないか。

 その可愛い姿が見られただけで、私は満足だ。

 彼らの邪魔をせぬよう、そっと立ち去ろう。

 

 立ち去ろうとしたところで、一匹のポムと目が合ってしまう。

 なんか赤っぽい奴がじっとこちらを見ている。

 他のポムたちも異変に気付き、一斉に私の方を向いた。

 おっと見つかってしまったか。

 邪魔したな。別に攻撃したりしないから、私のことは忘れてくれ。

 フッ…スピードイリスはクールに去るぜ。

 

 ポムたちに背を向けてクールに立ち去る。

 その私の後頭部に・・・火球が命中した!?

 

いっだぁ!?

 

 突然の衝撃と熱に襲われ、私はつんのめってしまう。

 転倒しそうになった体を無理やり持ち直して、何事かと背後を振り返る。

 

「あ゛?」

 

 自分の喉から低い声が出て、頭に血が上る。

 赤いポムがこちらを嘲笑うかのように飛び跳ねていた。

 他の色違いポムたちもゲラゲラ笑っているかのように飛び跳ねている。

 奴らの周囲に導力魔法を発動した後の魔力残滓が漂っている。

 つまり、こういうこ事だ・・・

 最初に目が合った赤いポムが、私に火属性アーツ『ファイアボルト』を放って来たのだ。

 

 あははははははっ!

 なるほどなるほど、そういうことしちゃのねw

 いやぁ、一人旅で心機一転した直後に洗礼を受けてしまったなあ。

 なんだったかなぁ。

 そう『畑あらし』とかいうクソボケ魔獣もね、お前らと同じことをしてくれたのよ。

 そいつらがどうなったか、知りたい?

 

 私はね、普段はとても心優しくか弱い乙女なの。

 だけど、だけどね。

 お前らみたいな害獣にコケにされたまま、黙っていられるほど・・・

 人間できていねぇんだよ!!ボケがぁ!!!!

 

「よっし!皆殺しにしちゃうぞぉ♪

 

 イリス、人生初のシャイニングポム狩りスタート!

 

 ポムの集団に向け重突撃機銃を掃射!

 だが、奴らは異常なスピードでこれを躱してしまう。

 事前情報通りのすばしっこさだ。

 そんなことは最初から分かっている!

 

 お前らスピードに自信があるんだよな?

 奇遇だな、実は私もなんだよ!

 命をかけた鬼ごっこ、楽しむ余裕があればいいなぁ?

 

 虹パワーを足裏に集中、一瞬で加速した私は一気に間合いを詰める。

 分散して逃げ出した一匹の追いつき、腰から抜いたコンバットナイフを一閃。

 

「まず一匹ぃ!!」

 

 アーマーシュナイダーはポムの体を容易く両断した。 

 後に残ったのは、ポムの残骸と七属性のセピスがたくさん。

 こいつは迷惑料としてもらっておくわ。

 

「二匹目!くたばれ!」

「お前が三匹目だぁ!!」

 

 一匹目を片付け終わると、あとは流れ作業だ。

 こいつらは確かに速いのだが、それだけだ。

 ポム以上のスピードで追い詰め、攻撃を当てれば簡単に仕留められる。

 所詮私の敵ではない。

 

「こいつで!ラストォォッ!!」

 

 最後の一匹、私にアーツを撃ったクソボケにトドメを刺す。

 重斬刀の全力で縦一文字にぶった斬ってやった。

 

 ふぅ・・・つまらぬモノを斬ってしまった。

 

「見た目で判断してはいけない・・・」

 

 やはり魔獣は魔獣だ。

 シャイニングポム・・・

 あんなの今となっては全然ッッ!可愛くないわ!

 奴らは温情をかけた人間を背後から襲う、邪悪なゴミクズ生命体だ。

 人類の敵『畑あらし』で学んだはずだったのに、気が緩んでいた自分が愚かだったのだ。

 ポムは発見次第、駆除してやると心に誓った。

 倒せばセピス稼ぎにもなるので、積極的に狙ってもいいだろう。

 

 地形と動植物をチェックしたり、景色を堪能しながら進む。

 歩いていると、何度か魔獣と遭遇した。

 さすがにポムではなかったが、初めて見る奴もいたので油断せずに戦おう。

 特に問題なく退治できた。

 ティータさん製の武器がすごく頼りになったな。

 肉が美味しそうな奴は、見た目と特徴をメモしておこう。

 

 ひとり旅の一日目は適当に野宿をすることにした。

 ツァイスで仕入れた便利グッズ、ワンタッチテントが今日も役に立つぞ。

 携帯食料である、お手製ジャーキーにドライフルーツとナッツでお腹を満たす。

 魔獣除けの罠と香も忘れずにセットして就寝。

 明日は、何か美味しい物が食べられたらいいな・・・

 

 ●

 

「新たな町に到着です」

 

 二日目の昼前には目指していた町に無事到着した。

 今日はベッドで眠れるのが嬉しい。

 

 宿にチェックインして荷物を置き身軽になったぞ。

 子供のひとり旅だと知ると、訳アリだと思ったのか、宿の店主は親切にしてくれた。

 軽くシャワーを浴びてサッパリした後、外出する。

 まずは、いつものように町の散策から始めよう。

 

 ・・・・・・・・

 

 市場に顔を出し、日持ちする食料品と道具類を仕入れる。

 武器屋でライフル用の弾丸も購入しておかないとな。

 

 やはりここでも私の髪と目は目立つのか、行き交う人々や店の人がギョッとする、いつものリアクション。

 初見の人はいつもこうだ。

 は~い、はいはい。気にしたら負けですよっと。

 

「リベールから来たって?今の王国ではそんなカツラが流行ってるのか?」

「ヅラじゃないです。地毛です」

「へぇー、王国民ってのは随分とハイカラだねぇ」

 

 いや、王国の人たち皆が虹色なわけないだろ。

 『私はレアだぜ』と、ちゃんと誤解を解いておいた。

 

 お店の人や通行人と会話して情報収集もしておく。

 普通に世間話で終わることがほとんどだが、中には有益な情報をくれる人もいるんだよね。

 私を見て固まっている人に声をかけるか、私に興味を持った相手が声をかけて来るかは、その時々次第だ。

 会話や交渉のスキルだって磨いて来た。

 初対面の人はちょっと怖いけど、勇気を出してトークするぞ。

 愛想よく一生懸命話すと、ほとんどの相手は『話しぐらいいいか』と思ってくれる。

 

「町の至る所に立派な彫刻がありますけど、アレは一体?」

 

 私は雑貨屋の店主に気になることを聞いてみた。

 この町、どこへ行っても何故か石像がやたら多いのだ。

 道端や家屋の門や屋根のみならず、家の中まで石像でいっぱいだ。

 今いる雑貨屋にも売り物なのか、インテリアなのか定かでない石像で溢れている。

 いろんなサイズがあり、大きい物は数アージュぐらいある。

 

「この町を最初に開拓したのは石工職人たちでな。近くの山で採れる石材を使った彫刻が今でも盛んなんだ」

 

 なるほど、良質な石材が採れる山の近くに職人が町を創ったのね。

 今もこの町は石材加工業に従事する者が多く、名立たる彫刻家たちも各地から足を運んでいるらしい。

 

 石像か・・・

 異世界のスケールフィギュアだったら欲しいけど、石像は別に必要ないな。

 

「そんなお嬢ちゃんには、これがおススメだ!」

「なんですかこれ?」

 

 雑貨屋の店主が私の前に小さな石像を置いた。

 私の手の平サイズのそれは、

 しかめっ面をした男が両拳を握り、ウンコ座りしている石像だった。

 

「これぞ、我が町で最もポピュラーな石像『ふんばる人』の像だ!」

超いらないですねw

 

 見た目も名前も『大きい方』をしている人がモデルの像だ。

 店主によると、どの家にも一体は存在する石像なんだとか。

 いらない、マジでいらない。

 

「町の住人たちは皆、この像を心の支えにして日々を暮らしているんだ」

こんなもんで心を支えないでください

「一体持っているだけで、商売繁盛・家内安全なんだぜ。嬢ちゃんもお守り代わりにどうだい?」

「えぇ…なんか便秘になりそう」

「今ならたった10ミラだよ?」

安っすッッ!?

 

 店主のセールストークに負けて思わず買ってしまった。

 これどうしよう?

 こんなの持って旅していたら頭の病気を疑われるわ!

 そうだ、これはエステルへのお土産にしよう。

 私の美的センスには全く響かないが、エステルなら気に入ってくれるかもしれない。

 せっかくかったので左肩のハードポイントに固定しておく。

 なんか、妖精タイプの仲間みたいだ。

 

「今からあなたの名は『フンバルスキー』です。短い間ですがよろしく」

 

 物言わぬ仲間を得た私は、町の散策続ける。

 フンバルスキ―を肩に付けていると町の人たちから『こいつ、わかってるな』という温かい視線を感じる。

 町のシンボルを持っていることで、親近感を持ってくれたらしい。

 一家に一体というのは本当みたいだな。

 武器屋ではこの像のおかげで、弾丸の料金を二割引きにしてもらえた。

 他の店でもおまけや、お菓子をもらえたりする。

 さっそく役に立ってるじゃん!即効でご利益が出たわ!

 10ミラの癖に、凄いぞフンバルスキー、偉いぞフンバルスキ―、マジで見直したわ!

 

 夕刻、お腹が空いたので場末の酒場を訪れた。

 今までの経験からすると、ちゃんとしたレストランより、こういう場所の方が美味くてコスパのいい飯を提供してくれる。

 さてさて、この店はどうかな?

 

 ドアを開けて入店する。

 店には先客がいて、ローブを着込みフードで顔を隠した怪しい集団と、酒を飲みながら騒いでいる世紀末モヒカンな集団がいた。

 変な奴しかいねぇ! 

 酒場あるあるなので、いちいち気にしていたらダメだ。

 

 よいしょっと・・・

 変な奴らをスルーしてカウンター席に座る。

 グラスを拭いていた店員らしき女が私に一瞥をくれた。

 この人、耳だけじゃなく眉と鼻や唇にもピアスしてる。

 そんなに穴だらけにして楽しい?

 人間最初から結構穴だらけだと思うけど、物足りなかったのだろうか?

 彼女は一瞬だけ虹色に驚いたようだが、私の体格を見て面倒臭そうな顔をした。

 

「ここは子供の来る所じゃないよ。さっさとパパとママの所へ帰んな」

「ご飯が食べたいです。メニューを見せて下さい」

「ハッ!そんな小洒落たもんはないよ。酒で良ければ出すがねw」

「お酒はNGなので、ミルクでももらいましょうか」

「いい加減にしな。ガキの遊びに付き合ってるほど暇じゃ・・・」

 

 ピアス女が言葉を続ける前に、私はドンッ!とカウンターに札束を置いた。

 ポム狩りで得たセピスを換金したら、思ったより儲かったのだ。

 この町はセピスの売却レートが割と高い。

 

「お金なら腐るほどありますけど?」

いらっしゃいませぇ!お客様は神様でございますぅ!!

 

 女の態度が一変した。

 フフフ、人間は札束で殴りつけてやれば従順になりますねぇww

 

「ただいま新鮮なミルクをお持ち致します!オラァ!お客様がミルクをご所望だ!チンタラしてないで持って来いや!」

 

 女が隣にいた従業員らしき、ガタイのいい男を怒鳴りつけた。

 怒鳴られた男は『かしこまり!』と大声で返答して店の奥へ走っていく。

 このピアス女さんが店主だったのかな?

 

「大変申し訳ございません。当店には、お客様の望むようなディナーは用意できかねます」

「あなたの得意料理でもいいですよ?」

「わ、私の料理でございますか!?」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ピアス女さんお手製のオムライスに舌鼓を打つ。

 うむ。なかなか美味しいじゃん。

 オムレツの中がイイ感じにトロトロだ。

 ご飯部分もチキンライスになっていて、王道のオムライスって感じ。

 スプーンが止まりませんわ!

 あっという間に完食!

 

 ケチャップでハートを描く、可愛いサービスも良かったな。

 顔面ピアスだらけの女が『おいしくなぁ~れっ!』とかwww

 見た目とキャラが違い過ぎて吹きそうになったよ。

 

「ふぃ~……おいしゅうございました」

「お粗末様でした!」

 

 ピアス女さん、楽にしてもらっていいですよ。

 ガキ扱いしても、ちゃんとお代は払いますからね。

 

「羽振りがいいみたいだな、綺麗なお嬢ちゃん」

「ちょっと!その子に絡むんじゃないよ」

「構いません。私に何かご用ですか?」

 

 食後におかわりのミルクを飲んでいると、ガラの悪いモヒカン男が話しかけて来た。

 先客だった世紀末集団のひとりか、何の用だろう?

 

「見たところひとりみたいだが、親はどうした」

「いません」

「そうか…苦労しているんだな」

「それなりに苦労はしてきましたが、今は結構充実してますよ」

 

 このモヒカンは、私から金をせびる魂胆で近づいた訳ではない。

 その逆で、いきなり札束を出した私を不用心に思い忠告しに来てくれたのだ。

 子供が大金を持っていると知られるのはよろしくない。

 窃盗や誘拐、最悪の場合は強盗殺人なんてことにもなりかねないからだ。

 うん。確かに良くない行動だったので反省しよう。

 

 髪型はともかく、モヒカンはいい人だった。

 さっき騒いでいたのも、仲間に彼女が出来た事をお祝いしていたらしい。

 

「リベールからひとりで来たのか!?その歳ですげぇな」

「ああ、おめぇより。この子の方が、よっぽど肝が据わってやがるぜw」

「うるせい!あ、ミルクおかわりするかい?抜け駆けして彼女持ちになった野郎が奢るぜ」

「あ、兄貴~もう勘弁してくだせぇ」

 

 気付いたらモヒカンたちに囲まれて一緒にヒャッハー!していた。

 彼らの職業は山賊や世紀末覇者の部下ではなく、まともな石大工だそうだ。

 モヒカンたちと会話しつつ、この近辺の情報を集める。

 地元民ならではの面白い話が聞けたらいいんだけど。

 

「ん?」

 

 視線を感じた方を見れば、もう一組の先客、フード付きローブの怪しさ満点集団がいた。

 今、私を見ていた?

 私が訝し気に思っていると、そのローブ集団はいそいそと店を後にした。

 

「チッ!またあいつらか、陰気臭いったらないぜ」

「あの人たちは、地元の方ではないのですか?」

「あいつらはよそ者だよ。数ヶ月ぐらい前から急に現れて町をうろつくようになった」

「なんでもこの世界はもうすぐ終わるんだってよw」

「で、女神信仰を捨てて自分たちと新たな神に祈りを捧げろとか、ほざきやがる」

「まったく、七耀教会の教えを何だと思っているのか」

 

 ああ、いわゆるカルト宗教ってやつか。

 私がいた【庭園】も【D∴G教団】とかいうクソカルトが母体だったみたいだし。

 わけのわからないモノに救いを求めるバカは、いつの時代も一定数いるってことだ。

 

「嬢ちゃん、あいつらには関わったらいけねぇ」

「わかってますよ」

「俺、良くない噂を聞いたんスよ。あいつら女、子供を攫うとか…」

「マジかよ。サッサと牢屋にぶち込めよな」

「あくまで噂だ。証拠がなけりゃ軍警も教会も動けないだろうが」

 

 明らかに怪しいが逮捕できるほどの証拠がないのか。

 女神を否定しているようだし、放っておいても教会の武闘派が動きそうだな。

 でも、人さらいねぇ・・・

 

「噂が本当だとして、人を攫ってなにを企んでいるのでしょう?」

「これもまた噂なんスけど……悪魔を喚ぶつもりだとか」

「悪魔ですか…」

 

 悪魔召喚だってさ。

 ふぁぁぁー!益々怪しいよぉ!

 え?じゃあ、攫った人を生贄とかにしているってこと?

 ヤバいじゃん。激ヤバじゃん。立派な邪教じゃん。

 やっぱり私が掃除をした方がいいかな?

 

 いやいや、私はただの旅人だ。

 こういうのは警察や教会の人たちに任せておけばいいんだって!

 下手に首を突っ込んで、大人の仕事を邪魔してはいけない。

 きっと、そのうち誰かが解決してくれるよ。

 

 他力本願な私は、カルトのことを忘れモヒカンたちとのパーティーを楽しんだ。

 

 ●

 

 翌日、準備を終えた私は早々に町を発つことにした。

 今日中に山を越えて、クロスベルに行ってしまおう。

 怪しいカルト集団からはなるべく距離をとりたい。

 左肩のフンバルスキーも私の意見に同意しているはずだ。

 そう思っていたのだが・・・

 

「遅かったみたいですね……はぁ」

 

 人の気配がする。

 町を出てからずっと尾行されているようだ。

 数は三人、あのローブ姿の奴らがコソコソついて来ている。

 ストーカーかよ、マジで勘弁してくれ。

 

 街道をわざと外れて、茂みの中に入る。

 草木の間に身を隠して息を潜めた。

 こういう時、私の小柄な体格は有利だ。

 色は目立つので髪はしっかり隠しておかないとね。

 私を見失ったローブ野郎たちの声が聞こえる。

 

「おい、どこへ行った?」

「まさか、気付かれたのか?」

「変な色だったが、ただのガキだろ。そこまで頭が回るかよ」

「だな。アホっぽい顔していたしw」

「お、お、俺は結構タイプだったりして///」

 

 全部聞こえてるぞ。

 アホっぽくて悪かったな!

 それと、アガットさん以外のロリコンに惚れられても困るよ。

 

「生贄は十分だろ。もういいんじゃないか?」

「昨日、捕まえたシスターか…結構な上玉だったよなぁ」

「もう一人連れて来いと教祖様が仰せだ。さっきのガキでノルマ達成するんだよ」

「どうせ生贄にするんだろ。勿体ねぇ」

「ああ、シスターは俺らが楽しんでからにしてほしいよな」

「俺はさっきの子でいい。あの小さな体を…うへへ」

 

 きめぇ!!!!

 そのおぞましい性欲、アガットさんに分けてあげて!

 あの人、私と一緒に寝ても、裸を見ても、何もして来ないのよ!

 ホント失礼しちゃうわ!

 

 それよりも、誰か捕まっているみたいだ。

 シスターということは、教会関係者か・・・

 このまま見捨てるというのは、あまりに忍びない。

 私は教会に世話になった身だ。

 優しい司祭様たちの助けが無ければ、とっくの昔にくたばっていたかもしれない。

 これが恩返しになるかは不明だけど、今度は私が誰かを助けてもいいじゃないか。

 首を突っ込まないと言っていたな?アレは嘘だ!!

 

 そうと決まればやるぞ!

 捕らわれのシスターを助けるのだ。

 まずはこいつらのアジトまで案内してもらおうかな。

 

 ローブ姿たちの前に、焦った風を装って姿を現す。

 

「きゃー!ここで何をしているんですか」

 

 ちょっと棒読みになってしまったが、奴らは気にしてはいないようだ。

 

「へへ、ちょっとお嬢ちゃんに用があってな」

「わ、私にですか……いや、来ないで」

「大人しくしろ。なぁに、俺たちがいい所に連れて行ってやるよ」

「誰か、誰かタスケテ―」

「誰も来ないよ。さあ、一緒に来てもらおうか」

「う……」

 

 怯える私の背後に回った男が、口と鼻に布を押し当てて来た。

 ツンとする不快な刺激臭を感じる。

 布には何かの薬品が染み込ませてあるようだ。

 残念だけど、私には薬品の耐性があるんだよね。

 庭園の実験で勝手に身についた数少ない長所だよ。

 『クッサッ!』と思うだけで、意識を失うようなことはない。

 ないので、寝たふりをしまーす。( ˘ω˘ )

 

 はい。

 哀れな生贄になってやったぞ。

 早くアジトまで運んでくれや。

 

「や、やった。こんな可愛い子が手に入るなんて…ハァハァ」

「おい、大事な生贄だぞ。妙な気を起こすな」

「見ろよ。このガキ、剣に銃までもってやがるぜ。しかも、かなりの上物だ」

 

 重斬刀や突撃機銃に目を付けた男が、私から武器を奪い取ろうとする。

 無駄なことを・・・

 

「なんだ、は、外れねぇ!?そもそも、どうやってくっついてんだ!」

「何やってんだ、誰か来る前に行くぞ」

「クソッ、売れば金になりそうなのに」

 

 ざまぁwww

 ハードポイントにプッピガン!された物は私意外には外せないのだよ。

 武器の強奪を諦めた男たちは私を乱暴に担ぎ上げると歩き出した。

 しばらく、かかりそうだな。

 少しだけ本当に眠らせてもらおう( ˘ω˘)スヤァ

 周りがどんなに騒がしくても、寝たいときに眠れるイリスです。

 

 ●

 

 ドサッと地面に投げ出された。

 その衝撃で私は目を覚ます。

 んぁ?ここは・・・あ、そうか、シスターを助けないと。

 

「残り少ない命だ。精々、クソったれな女神にでも祈っておけ」

 

 鉄格子の扉が閉まる。

 ローブの男は嘲笑いながら姿を消した。

 ほう、牢屋か・・・実は初めての牢屋だったりする。

 捕らわれの身になってしまった。

 イケメンが助けに来てくれたら最高なんだけど、そんなイベントは起こりそうにない。

 

「大丈夫?」

「はい。全然問題なしです……どなた?」

 

 隣の牢から若い女性の声がした。

 他にも人がいたらしい。

 もしかして、この人が先に捕まっていたシスターさん?

 

「そう。私が評判の美人シスター、異論は認めない」

「意外と元気そうですね」

 

 自称美人シスターは受け答えがしっかりしている。

 声だけの判断になるが疲労は軽いようだ。

 

「ケガしてない?」

「平気です。シスターさんこそ、お怪我はありませんか?」

「お腹、減った…」

 

 ぐぅ~とお腹の鳴る音が聞こえた。

 シスターさんは空腹なようだ。

 お腹が空くと辛いよね。何とかしてあげたい。

 

「心配しなくていい。すぐに助けが来るから」

 

 シスターさんは私を元気づけようとしている。

 自分だって不安で仕方ない癖に、いい人だな。

 

「本当に来るから、ちょっと遅れているだけだから、ケンカして私が独断専行したわけじゃないから!」

 

 なんか言い訳が始まったんだけど?

 このシスターさん余裕があるというか、妙に落ち着いてるな。

 まるで、カルト集団など意に介していないようだ。

 まあ、私もなんですけどね。

 

「顔を見てお話したいです」

「同感…でも、牢屋開かないし」

 

 牢屋の壁、その厚さを確認する。

 少し脆くなっている箇所を発見した。

 これならいけそうだ。

 

「今、そちらへ行きます。壁から離れていてください」

「どうやって?」

「こうやってです!」

 

 虹パワー発動!

 虹霊子の力を拳に宿らせる。

 壁に向かって・・・ちぇりぁぁぁぁ!!

 

 脆くなった壁は私の正拳を受けて砕け散る。

 ちょうど、私が通れるぐらいの穴が開いたぞ。

 よいしょ・・・お隣の牢屋へお邪魔します。

 

「何をしたの?アーツ?爆弾でも持ってた?」

「殴っただけです」

「わぁ、力持ちだね」

 

 涼し気な印象を与える端正な容貌したシスターがいた。

 パチパチパチと私に拍手を送っている。

 思った通り若いな。二十歳ぐらいか?

 

「小さい」 

「チビですみません」

「髪と目、どうしたの?」

「変な色ですみません」

「食べ物持ってない?」

「あります!」

「でかした」

 

 なんか、マイペースな人だな。

 私の色や力に驚いたけど、それより食べ物がほしいって・・・

 

 体に貼り付けていたポーチからジャーキーを取り出す。

 貴重品などはこうやって体に直接固定している。

 これで盗難や忘れ物も防ぐことができるのだ。

 しかし、あのローブ姿たち、完全に素人だな。

 私のボディチェックもせずに牢にぶち込むとかバカだろ?

 武器も外れないからそのまんまって、子供だから何もできないとでも思ってるのかね?

 その浅はかさを呪うがいいさ。

 

「はい、どうぞ」

「いいの?食べていいの?あなたが神か?」

「違います。ほら、食べて下さい」

「ありがとう、神様」

 

 ハグハグ!モグモグ!ごっくん!

 食べるの早っ!!

 もっと味わって食べてほしかったなぁ。

 

「美味しすぎる、どこで買ったの?」

「私のお手製です」

「マジで?やはり、あなたが神か?干し肉の神」

 

 干し肉の神ってなんだよ。

 シスターさんがまだ物欲しそうにしていたので、残っている分も全部差し上げた。

 そうするとまた、神だのなんだの言い始めた。

 アンタら七耀教会の神は、空の女神様だけだろうに・・・

 いいから黙って食えよ。

 

 ジャーキーを食べて落ち着いたのか、お腹をさすって満足気なシスターさん。

 彼女は私に目線を合わせるようにしゃがんだ。

 

「神のお名前は?」

「神ではないです。私はイリスといいます」

「イリス。イリス…恩人の名前覚えた」

 

 私の名前を心に刻み込んでいるようだ。

 あなたの名前も教えてほしいな?

 

「リース…美人と評判のシスター『リース・アルジェント』」

「腹ペコシスター、リースさんですね」

「腹ペコ違う、私は食べるのが好きなだけ。ご飯が無いと悲しい…」

 

 ジト目で抗議してくるが、どう見ても腹ペコキャラである。

 

 目的のシスター、リースさんも見つけた事だし、あとはここから逃げれば任務完了だ。

 奴らが戻って来る前にずらかろう。

 

「先に行ってて、私はまだやることがある」

「狙いは悪魔ですか?」

「なぜわかった?もしかして、イリスは遊撃士?」

「ちょっと前まで、そうでしたね」

 

 私が妙な力を持っていることはバレているので、ここまで来た経緯を話す。

 リースさんが捕まっていると聞いて、わざと奴らに捕まったことを説明した。

 

「勇敢…でも無謀。ひとりで危ない事するの良くない」

「リースさんもお一人のようですが?」

「わ、私はいいの!こう見えて、かーなーり強いから」

 

 リースさんの手に光が集まり、一本の剣を形作る。

 これは、女神に仕える者が行使する神秘の力ってヤツか?

 

「武器を持ってるのを隠していた。あいつらアホだから、簡単に騙せるw」

「リースさんは、戦えるシスターでしたか」

「驚かないね?」

「教会に()()()()()()()()()のは知っていましたから」

 

 庭園の座学で学んだなあ。

 こいつらには注意しろって散々言われたっけ・・・

 

「七耀教会の戦闘部隊【星杯騎士団(グラールリッター)】で、合ってますか?」

「おお、イリスは物知り。いい子いい子」 

 

 頭を優しく撫でられてしまう。

 あの、初対面のガキが教会の裏組織を知っているの怪しいでしょ?

 少しは私を警戒してください。

 

「必要ない、イリスはいい子。私の直感がそう告げている」

「そうですか」

 

 本当にマイペースな人だな。

 

「イリスの言う通り私は【星杯騎士団】所属の従騎士。ある任務のため、ここに潜入した」

「私はただのイリス、普通すぎてつまらない女です」

「嘘、イリスは変な力を持っている。それは何?もし、古代遺物だったら回収しないといけない」

 

 そうだった。

 【星杯騎士団】の主な仕事は古代遺物の回収と管理だ。

 私が【虹の雫】と融合したと知ったら、良くて監禁、悪ければ殺処分。

 もしかして、封印指定なんてこともあり得る。

 ((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

 

「リースさん。ジャーキー食べましたよね?その恩は忘れていませんよね?」

「う…イリス、実は悪い子だった?」

 

 なんとか交渉して穏便に収めてもらうしかない。

 ここでリースさんを懐柔せねば、私に未来はないのだ!

 

「リースさんのお仕事、私も手伝いますよ?それで見逃してくれませんかねぇ」

「え、そんな、そんなことしたら、ケビンに怒られる」

「実は私、料理が得意なんですよね。リースさんの好物、山ほど作れるんですけど…」

イリスみたいなパートナーを私は待っていた!是非とも協力して、一緒に悪魔の復活を阻止しよう!!

 

 この腹ペコ、チョロいわぁwww

 

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